毎日新聞より転載


日本の株取引の中心である東京・日本橋兜町とその周辺で、再開発計画が進んでいる。東京五輪が開催される2020年までに小規模ビルを集約し、複数の大型オフィスビルを整備する。「軍艦ビル」の愛称を持ち、80年以上の歴史がある野村ホールディングス(HD)の「日本橋本社ビル」も一部を建て替え、周辺と一体開発する。兜町は中小証券の廃業などで「地盤沈下」が目立つが、「再開発を機に、投資の街を再生させたい」との期待が高まっている。

 ◇20年東京五輪に向け

 兜町のシンボル、東京証券取引所が入居するビルを保有する平和不動産は、東証から東京メトロ茅場町駅までの地区の再開発を目指し、区域内の小規模ビル10棟超を既に取得。検討している案では、これらを建て直して20年までに複数のオフィスビルを整備。国内外の投資会社やベンチャー企業、法律事務所などを誘致し、「投資の街」として再活性化したい考えだ。

 一方、東証にほど近い、野村の日本橋本社ビル周辺でも再開発計画が進行中。地権者である野村HD傘下企業などが近く再開発準備組合を設立し、具体的な計画を練る。1930年に建てられた同ビルは、れんが造りの外観と細長い形から「軍艦ビル」の愛称で親しまれてきた。野村HDの本社機能の大半は千代田区大手町のビルに移っているが、傘下の野村証券本店営業部などが入居している。

 検討中の案によると、軍艦ビルは建物正面部分を残して内部をレストランなどに改装し残りを解体。大手銀行支店などがある周辺も含めた約2万5000平方メートルを一体開発し、オフィスビル、飲食店、美術館などを整備する。

 兜町では世界的な経済・金融危機に発展した08年秋のリーマン・ショック以降、中小証券の廃業が続いた。また、大手証券で唯一兜町に本社機能を置いていたSMBC日興証券も12年8月に都内の別ビルに移転。茅場町駅の乗降者数は12年度までの10年間で約4%減少した。

 みずほ証券の並木幹郎シニア不動産アナリストは「活気が失われた兜町だが、交通の便は比較的良い。再開発でベンチャーや大手企業の営業拠点などが集まれば再生の可能性はある」と話す。【山口知】

 ◇兜町◇

 日本を代表する株取引の街で、東京都中央区にある。東京証券取引所を中心に証券会社などが集まる。海外でも「ウォール街(ニューヨーク証券取引所周辺)」など証券・金融の中心地は通称で呼ばれるケースが多い。

兜町では以前、投資家からの売買注文をさばく「場立ち」と呼ばれる証券マンが活躍していたが、取引のデジタル化が進み、東証では1999年を最後に場立ちによる取引は行われていない。ネット証券の普及などで対面営業を強みとする証券マンも減少。本社機能を置く証券会社も減少し、兜町にかつてのにぎわいはない。日本初の近代銀行で、みずほフィナンシャルグループの前身の銀行の一つの「第一国立銀行」が開業した場所でもある。