この作品は、ぴょこたんこと内田さんに原案を頼まれて書いたものです。これに肉付けされた作品が内田さんから

投降されることを願っております。

 

1.負けられない戦い

 

 恋人の瑠香に頼まれて昭文女子大の学園祭の女装コンテストに出ることになった俺は、たった3人のエントリーの中、瑠香のメイク技術も相まって、ぶっちぎりで優勝することが出来た。と、いうか、一人は体育大学の柔道部の学生、もう一人は、定年間近の大学職員のおっさんだった。不本意ながら負けらえない戦いがそこにはあった。その翌日、昭文女子大のHPにはこれまた不本意だが、俺の優勝時の画像がUPされた。この快挙は、俺の大学の学内でも話題になり、女装王子という二つ名が俺に付けられることになる。

 コンテストの優勝賞品は、山奥にある温泉宿泊券だった。瑠香が俺を強引に出したのは、もちろんこれが目当てだったし、俺もいやいやながら気合が入った理由はこれにあるのだ。

 週末に瑠香と二人でレンタカーを借りて、その温泉旅館に行く事にした。

 

2.御玉温泉

 

 市内から1時間30分、山深い川沿いの曲がりくねった道を登り続けると、その温泉地はある。高度経済成長期には、企業の団体客が数多く通い、バブル時代には近くのスキー場へ行く客が多く集まった場所である。だが、現在は、完全にさびれており、建物は立派なものの時代遅れで湯治客がメインのよくある温泉地である。俺と瑠香は、お互いに実家住まいなので、兎に角二人になりたかった。だからこんな鄙びた温泉地に行く事ですら嬉しく感じた。もちろんお互いの両親には「サークルの合宿で泊まってくるから。」というアリバイを作って出かけてきたので、二人とも普段着で、特に記念日や特別なデートと言う気張った雰囲気ではなくラフな姿であった。

 

3.いよいよ混浴か?

 

 旅館は、御玉温泉龍禅閣という和風旅館である。やはり、バブルの頃に改装されて豪華で大きい建物だが、本館以外は稼働しているか怪しい古い温泉宿である。「いらっしゃいませ!」旅館に着くと、数名の若い仲居達が、二人を出向か言えてくれた。みんな若くて綺麗な女性ばかりだ。支配人の好みなのだろうか?あんまり仲居ばかりに目が行くと瑠香の機嫌が悪くなるので、凝視せずに案内された部屋に向かった。流石は、招待客なので、最上の部屋に案内された。部屋からは専用の露天風呂と見事な庭園が見える二間続きの広い部屋だ。瑠香は凄くはしゃいでいる。「女装した甲斐があったか・・・。」と、思いつつ、早く目の前の露天風呂に入りたくなった。「瑠香も露天風呂に入ろうよ。」「嫌だよ。まあ入るとしたら暗くなってからね。それと一人で入るから。」どうも、男の願望としての、女の子が入ってくれると思えるシュチュエ―ションは浮世離れしているようだ。「まあいい・・・時間はまだある・・・」そういい聞かせて、一人で露天風呂に入ることにした。「じゃあ私、近く散歩しているから楽しんでね。」と瑠香は言った。

 

4.豪華な晩御飯

 

 御玉温泉は、美肌の湯と言われていて、ローションの様につるつるとした泉質である。とても気持ちいい。瑠香が1時間後に戻ってくると言っていたので、ギリギリまで入っても湯当たりせずのぼせもせず、とてもいいお湯であった。瑠香は、近くのバラ園を見てきたらしい、ぶっちゃけ俺は、花など愛でるのには興味がないので、助かったと言えば助かった。二人でお茶を飲んで、部屋にある菓子を食べた。そして、日は暮れて、お腹が空いてきた。「桂の間(俺たちの部屋)のお客様、お料理が出来ましたので、大広間までお越しください。」と、連絡がきた。俺と瑠香は大広間に到着すると、50畳はあると思われる場所の隅に二人の膳だけが置かれていた。「貸し切りかな?」と俺が言うと、瑠香が「だったら、お部屋で食事出した方がいいんじゃないの?」と答えた。我々が着座すると、仲居が料理をせっせと持ってくる。カニ・エビ・ウニ・アワビ・フカヒレ・牛肉・松茸の高級食材のオンパレードだった。すると、仲居達が衝立を持ってきて「すいません、ゆもゆもクラブのお客様が来ますので失礼します。」と言って来た。ゆもゆもクラブの夕食膳(お膳ではなく折り畳みテーブルの上に置かれていたもの)は、前菜に山菜三種盛り、茶そば、イワナの塩焼き、メインがカニクリームコロッケ、水菓子がミカンだった。「しょぼすぎる・・・。」衝立の脇から覗いてみたが、あまりにも待遇が違いすぎる。だが、現実にこの旅館に来る客の殆どがこのような料理を食べるのだろうと思った。「ごちそうさまでした。」二人で、席を立つと、ゆもゆもクラブの面々が入ってきた。「おー兄ちゃん、こんばんはいい感じかい?ねーちゃんといいなぁー」下種なおっさんたちである。もちろんばーさんもいるが、ばーさんも限りなくおっさんで、俺の方をじろじろ見てニタニタ笑っていた。「下種な連中だ・・・。」それにしてもアレな人達だなと俺も瑠香も苦笑いした。

 

5.アレな人、再び

 

 部屋に戻る途中、ゆもゆもクラブの会場から、カラオケの音が聞こえてきた。俺と瑠香は思わず「トトホホ・・・」という顔になった。「なんか、この温泉、中年向きなのかな?」と瑠香は俺に言った。「でも、ゆもゆもクラブの部屋と、俺達が泊まる部屋は離れているから、朝食までは会わないだろうね。」と俺は返した。何よりもお風呂が部屋にあるのが嬉しい、あんな粗野な連中と、同じ風呂に入る事も無いし、瑠香は、オバさん連中と入浴したら明らかに浮くだろうと思った。なるべくアレな連中とはおさらばだし、これから最大のイベントとして、俺と瑠香が二人でじゃれあう時間が迫りつつある。瑠香を横目に見ながらウキウキなハートを紛らわせるためにスマホを眺めていた。すると瑠香が「アレはじまっちゃったの・・・」とつぶやいた。よく考えてみれば、温泉好きな彼女が、旅館に着く早々、バラ園に行ったり、目の前の露天風呂にもあまり興味を示せさず、恥ずかしいなら大浴場に行くだろうし、二人で入ろうという提案を妙にはぶらかしたのにも納得がいく。「ああ・・・(ダメな日なんだなぁー)。」と、思った瞬間、売店にある大吟醸玉の松島が無性に飲みたくなった。「じゃあ瑠香はお風呂入るだろ、俺、少しばかり、ロビーで、酒飲んでるからゆっくり入ってくれ。」と伝えた。瑠香は「浴槽入ると(万が一の場合)悪いからシャワーで流す感じだから、30~40分でいいよ。」と答えた。瑠香と寝ることが出来ないのなら、2時間位飲んでいたいし、なんならゆもゆもくらぶの連中とカラオケでもしようかと思っていた(もちろん演歌は歌わないサチモスを歌いたい気分だ・・・。)。

 

6.仲居さん何か付いてますよ。

 

 売店で大吟醸玉の松島と柿の種を買い、大広間から聞こえるカラオケの演歌をBGMにしてちびちびやっていると、仲居さん達の困った声が聞こえてきた。「女将さんまだ入院しているんでしょ。」「そうそう困ったね。」「今は仲居頭の涼子さんが、代理だけど、やはり女将さんの存在は大きいわ。」「支配人はどう考えているのかしら?」「さぁー支配人はこちらの人間ではないから、私たちの事わかってないわ。」などと、女将不在の苦労を話している。また、ゆもゆもクラブの宴会が終われば寮に帰れるとも聞こえてきた。そんな話を俺が立ち聞きしてしまい、和子という仲居が驚いた顔で「すいません。」と謝罪してきた。和子達の話だと、いつもはこの時間にロビーにいるお客さんはまずいないので、お詫びとして、大吟醸玉の松島特選酒玉王のお試しセットの試供品をプレゼントしてくれた。なので、もう少し飲み続けることにした。そのうち、なんだか眠くなってきた。何時間寝たのだろう。気が付くと、帰り支度をしていた仲居さん達が「お客さん、ここで寝ていたら風邪ひきますよ。」と話しかけてくれた。目を開けると、仲居頭の涼子さんが俺を起こしてくれた。歳は30代後半だろうか?大人の色気があるスタイルの良い女性で、仲居達をまとめていた女将代行の人だった。旅館に来た時に綺麗な人だなと思ったが、なんかおかしい、顔に何かにょろりとしたものが付いている。それはお酒をくれた和子やほかの仲居達もそうだった。ゴマ塩みたいな、青白い何かが・・・。