​​ 日本、インドネシアなどの国際研究チームは2016年に、インドネシア、フローレス島ソア盆地のマタ・メンゲで、より古いホモ・フローレンシス化石を求めて発掘調査していたが(写真)、このほど70万年前の地層から新たに小型ヒト族の上腕骨下半部と歯2点を岩塊の中から見つけ、24年8月7日付『ネイチャー・コミュニケーションズ』で発表した。

 


上腕骨片から推定身長は約100センチ​

 すでに発表されている下顎骨片と歯を含め、これで少なくとも4個体分のヒト族化石が回収されたことになる。

​​ 見つかったヒト族上腕骨化石は、同島リアンブア洞窟で2003年に発見された約6万年前のホモ・フロレシエンス(「ホビット」)と形態的にもサイズも良く似ており、古型のホモ・フロレシエンシスと分かった。ただ上腕骨から推定すると、この個体の身長は約100センチと、矮小とされる約6万年前の「ホビット」よりもさらに6センチほど小さい(写真下の写真の下は見つかった上腕骨と6万年前のホビットとの対応)。​​

 

 


ジャワ原人が島嶼化で小型化し、その低身長を維持し続けた​

 またジャワ島で見つかっているホモ・エレクトスとは大きさはかなり異なるが、形態的に似ており、石器の存在から100万年前頃にこの孤島へ渡った大柄(現代人と同程度)なホモ・エレクトス(ジャワ原人)の身体サイズが、フローレス島で30万年以内に劇的に矮小化し、その後約70万年にわたって小柄な体格を維持していたことも分かった(地図)。

 

 

 こうしたことから研究チームは、ホモ・フロレシエンシスが、ジャワ原人より小柄で原始的なアウストラロピテクスやホモ・ハビリスから進化したとする一部の説は支持できないとしている。

​ なお研究チームは、論文公表に先立つ7月31日に東京駅前「インターメディアテク」2階で記者会見を行った(写真=左から上腕骨模型を示す海部陽介・東大教授、水嶋崇一郎・聖マリアンナ医大教授、澤田純明・新潟医療福祉大学教授)。​

 


島で暮らすには小型化がメリット​

 ちなみに太古のフローレス島には、体長3メートルになるコモドオオトカゲやワニが生息していた。この島でジャワ原人がホモ・フロレシエンシスへと矮小化したことは、フローレス島の原人にとってこれらの大型爬虫類がさしたる脅威ではなかったことを推定させる。

​ 孤島での早期の小型化とその後の体サイズの維持は、小さな身体が原人にとってメリットがあったことを示す。小型化の進化的メリットのあったことは、この島のゾウの仲間のステゴドンも小さくなっていることから分かる(写真=背景のゾウがフローレス島のステゴドン。は見つかった上腕骨を背景画のホビットの該当個所に当てる調査者の海部陽介・東大教授)。​

 

 

 いわゆる島嶼化で、食資源の乏しい島という環境では、捕食者のいない(あるいは少ない)ことにより、食料を少なくて済む小型化は進化的にメリットがあることが分かっており、地中海の島々では体高1メートルにまで矮小化した旧ゾウ(パレオロクソドン)が知られている。

 おそらくフローレス島に来たジャワ原人は、さほど年を重ねずに矮小化したと思われる。


どうやって海を渡り、また世代をつなげたのか​

 もう1つ個人的に興味深いのは、ホモ・フロレシエンシスの渡海法である。ちなみにフローレス島は氷河期の海面低下でも決してジャワやアジア大陸と陸続きになったことはなかった。フローレス島へは海を渡って来ざるを得なかったが、100万年前のヒト族に航海手段があったことは立証されておらず、ホモ・フロレシエンシスの創始者であるジャワ原人が筏や丸木舟で渡ったことは考えにくい。

 しかし1度もアジア大陸と陸続きになったことのないルソン島でも小型人類のホモ・ルゾネンシス化石が見つかっており、またスラウェシ島でも古い石器や洞窟壁画が知られている(スラウェシ島の洞窟壁画の年代については別の日に記す)。

 おそらく太古のスンダランドの海浜部には海に適応したヒト族がいて、彼らの何人か(女性を含む)が洪水などの事故で、フローレス島やルソン島、スラウェシ島に流され、そこで繁殖を重ね、世代をつなげていったとしか考えられない。


遺伝子の流入を受けずになぜ世代をつなげたのか?​

 事故だとすれば、創始者の個体群数(ポピュレーション)は最少だったはずで、彼らが外から遺伝子の流入を受けないまま、数十万間も世代をつなげたことは驚異的と言うしかない。例えば生まれた子が、どちらかの性に偏っただけで、それでその集団は絶えるのだ。しかも何世代も近親婚が繰り返されたはずで、有害な遺伝子の蓄積で、個体群の健康に悪い影響が出ただろう。

 それでもフローレス島のホモ・フロレシエンシスは、100万年近く世代を繋げた。

 そのホモ・フロレシエンシスも、フローレス島にホモ・サピエンスが出現した5万年前頃に姿を消した。同じ運命を、ルソン島のホモ・フロレシエンシスもたどることになる。

 なお70万年前の上腕骨の模型は、東京駅前KITTE2階のインターメディアテクで開催中の特別展「海の人類史」で展示公開されている。
 

昨年の今日の日記:「中国で発見の14.6万年前の新種人骨『ホモ・ロンギ』は本当なのか;デニーソヴァ人の可能性高い」