茶番も、これほど露骨、あけすけにやられると、呆れ果てて言葉もない。

 7月28日に投開票された南米、ベネズエラ大統領選挙だ。ここは、独裁者マドゥロが11年間も居座って統治している。翼賛議会、最高裁などの司法、選挙管理委員会など、国家機関のほとんどを自己の支配下に置き、何でも思いのままに振る舞える。


事前の世論調査ではマドゥロのボロ負けだったが​

 28日の大統領選挙も、同じだった。事前の世論調査では、「現職」のマドゥロの倍以上の支持率を野党のゴンサレス氏が得ていた。

 だからまっとうな選挙なら、マドゥロがボロ負けするのは明らかだった。

​ ところがマドゥロの息のかかった選管は、得票率51%でマドゥロ3選を早々と発表した(写真=当選を自賛するマドゥロ)。​

 

 

 むろん大規模に野党候補の票が盗まれたのだ。EUの選挙監視団は、入国を拒否され、野党が各地に配した独自の選挙監視員も投票所から排除されたので、選管はどのようにでも票を操作できる。


米調査会社の出口調査でもダブルスコアの大差で野党候補優勢だった​

 正しい選挙結果は、国民の誰にも分からない。ただ野党のゴンサレス氏が圧勝したことは、アメリカの調査会社エジソン・リサーチの出口調査でも明らかだ。出口調査では、ゴンサレス氏65%、マドゥロ31%とダブルスコアでゴンサレス氏がリードしたことを示した。この票差は、事前の世論調査とほぼ一致している。

​ 有力野党指導者で選管から立候補を拒否されたマリア・コリナ・マチャド氏は、独自集計結果を公表し、これはゴンサレス氏の得票率が73.2%だったとしている(写真=抗議声明を出す野党陣営とゴンサレス氏)。​

 

 

​ 大統領選の翌日には、さっそくベネズエラ国内で首都カラカスを中心に大規模抗議デモが起き、すでに2人の死亡が報じられている(写真)。​

 


原油生産量は3分の1に、経済は数百%のハイパーインフレ​

 これほどマドゥロが不人気なのは、国内の数百%ものハイパーインフレを制御できず、国民の6割が極端な貧困状態にあるからだ。

 世界一の埋蔵量を誇る原油は、西側の経済制裁で輸出がスターリニスト中国やキューバなどの独裁国と一部周辺国に限られるので、かつては日量300万バレルもあったのが、2019年から100万バレルを割り続けている。21年には60万バレル余りに落ち込んでいる()。

 

 

 外貨収入が限られている上、経済制裁もあるので、原油掘削設備が老朽化し、生産を増やせないこともある。

 何しろ病院の薬も無いほど生活必需品が払底しているので、国連報告によると、人口の4分の1に当たる770万人もが国外に脱出している。隣国のコロンビア、ブラジル、ペルー、さらにはアメリカにもベネズエラからの難民が溢れている。


深まる国民の窮乏化に軍と警察の暴力支配を貫くか​

 それでもマドゥロは軍と警察による強権支配で、乗り切る構えだ。これには、スターリニスト中国やテロ国家ロシアが支援する(両国はさっそくマドゥロに祝電を送った)。民主主義国は、経済制裁を強めるしか手段がない。それは、ますます国民を窮乏化させる。

 一頃だったら、アメリカは軍事侵攻してマドゥロを打倒し、ベネズエラ国民を解放しただろうが、バイデン政権も、ましてや野党のトランプ氏軍事介入は全く視野に入れていない。

 もし事態が何か動くとすれば、かねてから侵略を口にする東の新興産油国ガイアナへの軍事行動だ。機能不全の安保理は当てにならないが、アメリカなど有志国はガイアナ救出に動く可能性が高く、それに呼応したベネズエラ国民の蜂起が期待できる。それしかベネズエラの民主化の望みが無いとすれば、それも苦渋の1つである(24年2月15日付日記:「『フセイン』と『プーチン』に習う独裁マドゥロのベネズエラがガイアナとの国境地帯で軍備を拡張」、及び23年12月12日付日記:「独裁者マドゥロのベネズエラが石油欲しさに隣国ガイアナ侵略を狙う、ロシア、ハマスに続く第3の侵略を阻止」を参照)。


昨年の今日の日記:「スターリニスト中国の外相・秦剛の突然の解任の異形」