ライシの急死で急遽行われたイラン大統領選挙は、5日の決選投票で改革派のペゼシュキアン元保健相が全体の53.66%を得票し、保守強硬派の元最高安全保障委員会事務局長のジャリリをくだして当選した(写真)。圧勝だった。
改革派有力候補は立候補を阻止された
イラン大統領選挙は、最高指導者ハメネイの支配する護憲評議会の審査を通った者しか立候補できない(写真=大統領選後に声明を出すハメネイ)。イスラム原理主義独裁体制を揺るがす者は、立候補できない仕組みだ。死んだ前大統領のライシが当選した2021年の選挙でも、改革派は誰1人立候補が認められず、保守強硬派だけの選挙で、ライシが1回で当選を決めた。
今回も、改革派の有力候補は、護憲評議会ですべて立候補を阻止された。
ただイスラム原理主義者だらけの護憲評議会も、少し考えたようだ。21年の大統領選でも23年の議会選でも、イスラム原理主義の保守強硬派ばかりの選挙となり、民衆は抗議のために大量ボイコットに走り、投票率は40%ちょっとに留まった。
イスラム原理主義体制の正当性を誇示するために、国民の過半数が棄権する事態は避けたい――ハメネイと護憲評議会は、そう考え、立候補したとしても得票を集められそうもない泡沫を、正当性を装うために認めた。
体制の思惑外れ、まさかのペゼシュキアン氏1位
ペゼシュキアン氏は、まさにその候補だった。立候補した6人の候補者のうち(うち保守強硬派2人は後に辞退)、ぜいぜい4番手が5番手と見られていた。
それが、第1回選挙で、まさかの1位になった(写真=1回目の選挙で投票する女性有権者)。
ハメネイと護憲評議会にすれば、とんでもない思惑外れだった。急遽、3位の保守強硬派の現議会議長ガリバフと共闘し、逆転を図った。実際、ペゼシュキアン氏の得票率は42.5%で過半数に至らず、2人の保守強硬派のジャリリとガリバフを合わせると、52.4%になり、逆転は可能と踏んだ。
ペゼシュキアン氏1位で決選投票の投票率は10ポイントアップ
ところがハメネイらイスラム原理主義体制派は、投票率のことに思いが至らなかった。1回目の投票率は、これまでの諸選挙よりさらに低い39.9%だった。民衆の大半は、今回もどうせ保守強硬派が勝つ、と体制の正当性を装う選挙をボイコットした。
しかし、ここで多くの民衆が動いた。投票率は、10ポイント近くも高い49.8%となった。増えた投票の大半は、ペゼシュキアン氏に回ったのだろう(写真=選挙戦で有権者に手を振るペゼシュキアン氏)。
イラン民衆のハメネイらイスラム原理主義者たちへの不満は、そうやってペゼシュキアン氏を当選に押し上げた。
高インフレと自由の無い社会
ただ、イランの内政と外交・軍事は、最高指導者のハメネイに握られている。大統領は、ただの行政府の長に過ぎず、ハメネイの意向に反して、大胆な政策に動けない。
2005年まで続いたハタミ政権以来の改革派大統領に就くペゼシュキアン氏は、選挙戦では、欧米との関係を改善し、核合意に復帰し、経済制裁解除を勝ち取り、経済を浮上させることを訴えていた。欧米による経済制裁で、イラン国民は年率40%という慢性的なインフレに喘いでいる。ヘジャブ着用の強制で、自由の雰囲気も窒息している。
ペゼシュキアン氏の当選は、そうした閉塞した環境の打開を願う民衆の切なる願いによるものだが、前述のようにペゼシュキアン氏のできることは限界がある。
またハメネイに直結する革命防衛隊が支援する中東テロ組織、すなわちガザのハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派といったテロリスト組織に対して資金と武器の援助を止められるのか、さらにウクライナ侵略を続けるテロ国家ロシアへのミサイル・武器などの支援を停止できるのかを欧米各国は注視することになるだろう。
ハメネイの軛を逃れられない制約
当選後に、ペゼシュキアン氏への祝辞で、ハメネイはさっそく死んだライシの路線の踏襲を求め、勝手なことは許さないと釘を刺した。
保守強硬派のハメネイが最高指導者に居座る限り、イランの春は遠いのかもしれない。第2回投票でも、有権者の過半数は選挙に参加せず、棄権した。イラン国民にはそうした冷めた目が過半であることを忘れてはならないだろう。
次回は、7日投開票された東京都知事選について論評したい。
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