​ テロ国家ロシアのプーチンは去る5月18日、19日、北京を訪問してスターリニスト中国の習近平と会談した。互いに他国を侵略をするならず者同士、和気藹々の雰囲気での握手だが(写真)、プーチンの心中は必ずしもスターリニスト中国への親近感ではないだろう。​

 


ソ連と中国が武力衝突した珍宝島(ダマンスキー島)事件​

 むしろ自国はウクライナ侵略にかかりきりで、アメリカのウクライナ支援の本格化でこのところの侵攻にブレーキがかかり気味なのに、警戒感を交えつつも、全面的に中国の支援を受けられないことに不満が溜まっているかもしれない。

 1949年にスターリニスト中国政権が中国大陸に成立して約10年間は、スターリニスト中国はロシアの前身国家ソ連の軍事・経済援助の一方的享受国だった。経済開発のための工場設備の一切は、ソ連からの援助だった。

​ その後、1969年の珍宝島(ソ連名はダマンスキー島)での中ソ両国軍の軍事衝突(写真)で双方にそれぞれ100人前後の死者を出すことがあった後、両国は対立を深めた。​

 

 


かつてのソ連=中国関係の力のバランスは完全に逆転​

 ただその間、両国の力関係は超大国ソ連に対してスターリニスト中国は圧倒的に弱く、このソ連への恐怖心が、1972年のニクソン訪中とその後の米中国交樹立につながった。この間、アメリカと中国は、史上かつてないほどの蜜月関係を築く一方、中ソ関係は冷戦状態のままだった。

 両国がやっと関係正常化を成し遂げたのは、1989年のソ連・ゴルバチョフ大統領の訪中でだった。一方、ゴルバチョフ訪中をきっかけに起こった6.4市民革命(いわゆる天安門事件)の後、米中関係は次第に冷めていく。

 1990年代に入ると、両国の力関係は、均衡からスターリニスト中国上位へと変わっていく。スターリニスト中国は鄧小平の改革開放路線で急速な経済発展を遂げる一方、ソ連の側は1991年のソ連崩壊、後継国家ロシアの経済大混乱で経済縮小していったからだ。


衰退国家の清が武力を背景に結ばされた2つの不平等条約で領土過剰​

 この経済的逆転は、軍事力の逆転につながった。ロシアが優位に立つのは戦略核だけで、通常兵器ではスターリニスト中国の足下にも及ばない。

 GDPに至っては、スターリニスト中国はロシアの10倍もある。

 こうした力の逆転と差の拡大は、習近平にとってロシアを属国にするチャンスでもある。台湾侵攻を画策していなければ、清国時代の失地を回復したいと思っているに違いない。

​​ 衰退国家だった清は、イギリス、フランスなど列強の侵略で半植民地化されたが、この間、満州以北では武力を背景にした帝政ロシアにより1858年愛琿条約、その2年後に北京条約を結ばされ(写真=ロシア・ブラゴベシチェンスクの歴史博物館で展示された、帝政ロシアの東シベリア総督=左=と清国役人による愛琿条約締結を描いた絵)、まずアムール川左岸の広大な領土をロシアに割譲、次いで沿海州もロシアに渡した(地図=褐色の清国領が愛琿条約で、その東の橙色の地域が北京条約で帝政ロシアに割譲された)。​​

 

 


中国革命後も19世紀に清国が帝政ロシアに割譲した領土はそのまま​

 ロシアの膨張政策は止まらず、満州にも食指が延び、ハルビンや大連などにロシア的な都市が建設され、東清鉄道も敷設し、日露戦争まで満州は半ば帝政ロシアの植民地だった。

 中国革命後に、満州(東北地区)は完全にスターリニスト中国に戻されたが、典型的な不平等条約だった愛琿条約と北京条約で帝政ロシアに割譲された失地はそのままだった。

 今、もしスターリニスト中国がその失地を回復したいと望めば、経済力を力に武力をちらつかせれば可能かもしれない。もちろん一挙に、すべてでなく、それこそ少しずつ、インクがにじみ広がるように、奪い返す。ただ、ロシアの敵である欧米諸国の大きな忌避感を呼び起こすだろう。しかしロシアがウクライナ侵略している中では、その反発は弱いものにならざるを得ないかもしれない。


ロシア領になったはずの大ウスリー島東部が中国の地図で中国領に​

​ 実際、珍宝島(ダマンスキー島)事件で武力衝突し、その後の2004年の中ロ国境協定でロシア領として合意したはずのハバロフスク近郊の大ウスリー島(中国名・黒瞎子島)東側が、2023年8月にスターリニスト中国が公表した公式地図ですべて中国領と表記された(地図)。ウクライナ侵略でスターリニスト中国との関係維持を重視するロシアは平静を装うが、極東のロシア住民は中国への警戒を強めている。​

 

 

 また極東ロシアの8つの都市に昔の中国名を併記するようになっている。ロシアは、これにも抗議せず静観している。ロシアの卑屈さと対スターリニスト中国への弱さが滲み出ているようだ。

 スターリニスト中国の少しずつのロシアへの浸潤が始まっているのだ。


昨年の今日の日記:「カホーフカ水力発電所ダム破壊でテロ国家ロシアのみが利益、小麦価格反騰、ウクライナ農業の破壊、反攻を妨害」