有権者約9億7000万人の世界最大の選挙、インド総選挙が終わった。あまりにも有権者が多いために、約1カ月半もかけ、地域別に7回に分けて行われた。


BJPは前回から63議席減、単独過半数割れ​

​ 結果は、意外なものに終わった。当初は、高度経済成長を続け、2027年までにドイツと日本を抜いてGDP世界第3位が視野に入る絶好調の経済を指導する現モディ首相の率いるインド人民党(BJP)の圧勝が予想されたが、蓋を開ければ、BJPの過半数(272議席)割れとなった。前回総選挙から63議席も減らす、240議席に落ち込んだのだ()。​

 

 

​ モディ首相は、連立相手の小政党を合わせて過半数を得て3期目を目指すが、この結果には失望しているかもしれない(写真=開票前に支持者の歓呼に応えるモディ首相)。​

 

 

 好調な経済からすれば、BJPが議席大幅減=敗北するとは誰も思わなかっただろう。僕も、この結果には驚いた。

 メディアでは、いろいろ「敗因」が分析されている。
 

教育の普及が背景に​

 ただその背景には、おそらく経済成長による飛躍的な教育普及率の伸びがあるだろう。

 インドでは6〜14歳までが義務教育で、公立や私立などさまざまな形態があるものの、2020年時点では就学率は約99.9%となった。昔は、路上生活者の多い都市、貧農の多かった農村では、かなりの子どもは学校に行かなかった。それが、大幅に改善された。

 当然のことながら、教育を受けた国民は、自分たちの現状を客観的に見られるようになる。

​ 好調な経済にもかかわらず、その恩恵が末端まで及ばず、若年の失業率は高止まりしている。ILOの調べでは、22年時点の若年失業率は約23%にもなっている()。教育を受けていなかった昔なら、底辺を這い回っても何も思わなかっただろうが、今は仕事の無いのは政治が悪い、となる。与党BJPは不利だ。​


自由と民主主義の後退​

 インドの民主化度、自由度も悪化している。イギリスのエコノミスト・インテリジェンス・ユニット研究所によって発表されている23年の民主主義指数では、インドは41位、欠陥民主主義国に分類され、年々ランクが下がっている。

 報道の自由も後退している。「国境なき記者団」が発表した24年の報道の自由度ランキングでインドは180カ国・地域中159位で、モディ政権が発足した14年の140位から悪化している。

 ヒンドゥー教至上主義のBJP政権のため、宗教的に寛容さを欠く。カナダで23年にシーク教指導者が暗殺されたが、国内でもシーク教の抑圧を強める一環とされる。イスラム教徒への抑圧も強める。

 野党の指導者を汚職容疑で逮捕もしている。

 欧米ではモディ首相を強権的指導者とみなす知識人も多い。

 こうした民主主義と自由の後退は、普及した教育のもとで増えた知識層から忌避される。
 

得票率なら微減だが​

 ただし、モディ政権与党のBJPの「敗北」は歪んだプリズムから観た側面もある。

 イギリスの植民地だった影響で、インドの選挙制度は完全小選挙区制だ。小選挙区制では、ちょっとした票のブレも獲得議席に大きく影響する。今回、BJPの得票率は36.6%で、大勝した前回の37.3%からたった0.7%の得票減に過ぎない。

 おそらく各小選挙区で、野党との選挙戦で僅差で競り負けたところが多かったのだろう。

 それでもBJPの単独過半数割れと野党との僅差の新議会では、モディ首相の権威は落ちる。「欠陥民主主義国」に分類されても、全く自由も民主主義もないスターリニスト中国よりははるかにマシだ。

 モディ首相は、この結果を糧に、インドを真の民主主義国へと発展させてほしい。

 

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