もう何十年も前から、地球科学者たちは、地球のコア(核)との境界に近いマントルの底に、大陸サイズの高密度の物質の塊があることを知っていた。その正体は、地中の奥深くなので探査もできず、謎だった。
 

45億年前のジャイアント・インパクト​

 このほどアメリカ、カリフォルニア工科大学の地球物理学者たちは、シミュレーションを繰り返し、これが45億年前の原始地球に火星ほどの大きさの原始惑星「テイア」が衝突し、月を形成した後の残骸ではないか、という推論を、科学誌11月1日付『ネイチャー』に発表した。

​ 原始地球に巨大惑星が衝突した事件は、「ジャイアント・インパクト」と呼ばれる(想像図)。​
 

 

マントル下部に謎の高密度の塊​

 この時、地球はまだ出来かけだった。そこに接近してきた原始惑星「テイア」が衝突した。衝突は非常に激しく、砕けたテイアの破片が地球の軌道付近に散乱し、やがてこれらの破片が合体して月が出来た。これが、ジャイアント・インパクト説である。

 この説は、月の岩石成分の地球との類似性などから、月形成の最も確度の高い説として、現在、多くの天文学者に支持されている。

 前述のカリフォルニア工科大の研究者たちの研究結果によると、原始地球とテイアとの衝突の際、テイアの一部は出来かけの地球の表面に残り、どろどろに溶けた表面からやがて深く沈み込んでいったという。それが、謎の高密度の物質塊だろうというわけだ。
 

地震波で確認された2つの塊LLVP​

 ちなみに地球物理学者たちは、地球内部を探るために、人体のエックス線透視のように、地震波が内部を伝わる様子を測定してきた。地震波が周囲と密度の異なる物質の中を通過すると、速度や方向が変化する。科学者たちはこうした情報をつなぎ合わせることで、地球内部の地図を作成している。

​ 過去数十年にわたる研究により、マントルの下部に、周囲の物質とは密度と組成が異なる巨大な塊が2つあることが明らかになっている。1つの塊は南アフリカの下に、もう1つの塊は太平洋の下にある。科学者たちはマントルの他の部分よりも密度が高いこれらの塊を、LLVP(広域低速度領域)などと呼んでいる。数十億年前から存在していたと考えられている(=LLVPを存在を示す地球内部)。​
 

 

LLVPの直接確認は困難​

 今回のシミュレーション研究結果は、LLVPの存在をよく説明する。

 しかしもちろん異論もある。難点は、LLVPが地球深部、マントル下部に存在し、直接確かめられないことだ。

 しかし、LLVPの起源を示す有力な研究成果の1つであることは確かだである。


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