海面より低い土地が、世界にはいくつかある。僕はその3カ所を、訪れたことがある。いずれも極端に乾燥し、海面より低いから、ここから流れ出ていく川はない。だから、3カ所とも湖は、海水よりはるかに高濃度の塩を含む塩湖である。
 

死海で浮遊体験​

 1つは誰もが知る、イスラエルの有名な死海だ。水面の標高は、海抜マイナス422メートルで、死海のある浜辺は、世界で最も低い土地である。先日、NHK-BSで、イスラエルのネイチャー番組で死海が紹介され、懐かしい思いで観た。

​ 死海は、その名のとおり超濃厚の塩分のために魚がいない(写真)。濃い塩分のために水の比重が大きく、人が入っても沈めない。僕も、ここで浮遊体験をした。​

 

 

​ もう2つは、あまり知られていない所で、アメリカ中西部の国立公園になっているデスバレー。カラカラに乾燥していて、この国立公園で動物を見なかったし、砂漠にまばらに生える丈の低い植物くらいしか生物の気配はない。だから「死の谷」なのだろう(写真)。​

 

 

 残りの1つが、エチオピアのアファール地方のダナキル砂漠のあるダロール地溝帯だ。
 

今は「死の谷」デスバレーだが、人類が居住していた時も​

​ この3つとも、乾燥した海面下にある土地だから、塩湖がある。死海は、塩湖そのものだから説明は不要だが、デスバレーの塩砂漠と塩湖は、広い。塩湖は、その名も「Badwater pool」と言う(写真)。僕が訪れた時期は2月の乾期だったらしく、塩湖はBadwater盆地の奥に退いていたが、その代わり見渡す限りの塩砂漠が広がっていた。​

 

 

​ この「死の谷」デスバレーにも、古代人は住んでいた。デスバレー国立公園内の小さなデスバレー博物館(ここも海抜はマイナス54メートルだった)に、出土遺物が展示されていた(写真)。最も古くは1万年前に遡るらしい。​

 

 

 彼らが生活のための真水をどこで得ていたのかは分からないが、どこかに泉があったのだろう。
 

ダロール地溝帯の熱水プール​

 ちなみにオーストラリア内陸部には広大な砂漠が広がるが、そこにも約4万年前からヒトが住んでいた。ある考古学者が、そうした万年前単位の遺跡をプロットすると、半分は枯れることのない泉から徒歩1日圏内にあったという。

​​ エチオピアのダロール地溝帯も、「死の谷」だ。ここでは、ダロール火山の創り出した極彩色のプールが美しかった(下の写真の上)。いずれも地表下にあるマグマから供給された熱水が溜まったプールである。このダロール火山の近くに浅いアサレ塩湖があった(下の写真の下)。​​

 

 


 

塩湖の形成される海面下で乾燥した土地​

 ここには、岩塩を切り出すためのアファール族の粗末な「ムラ」があった。近くに井戸があるらしかった。

 海面下で乾燥地という条件は、塩湖の形成に最高だ。周囲から雨で流れ込んだ水は、流れてくる途中で大地の塩分を溶かして湖沼を創るが、海面下だから外部に流れ出ていかない。そこに乾燥した気候なので、湖沼は蒸発され、塩分が溜まり、長い年月で塩湖になるのだ。

 塩湖の形成されるほどの厳しい自然環境にも、古代からヒトが住む。

 しかし僕たちがこんな所に1人置き去りにされれば、渇きで数日で死ぬだろう。文明人には、古代人に育まれた生きる知恵は失われてしまっているからだ。
 

昨年の今日の日記:「700万年前のサヘラントロプス、大腿骨の特徴から直立二足歩行を裏付け、尺骨の特徴から木登り適応も残す」