中生代(約2億5200万~6600万年前)は、巨大な体を持った恐竜たちの時代だった。それに引き換え、我々の遥かなる祖先の同時代の哺乳類は、恐竜たちの陰で生きていた臆病な動物だった。そう思われがちだが、中国北東部から出土した非常に保存状態の良い化石は、恐竜を襲う哺乳類もいたことを示した。
 

3倍も大きい草食恐竜を小さな肉食哺乳類が襲う​

 カナダ自然博物館の古生物学者ジョーダン・マロン博士らは、7月18日付の学術誌『Scientific Reports』で、そのことを報告した。

​ それは約1億2500万年前に生きていた2体の動物が絡み合った化石(写真と想像図)で、どちらもほぼ完全な形の骨格が残されている。​

 

 

 大きい方の骨格は、プシッタコサウルス(Psittacosaurus lujiatunensis)というイヌほどの大きさの草食恐竜で(推定体重約9キロ)、それに覆い被さった小さな骨格は、アナグマほどの大きさ(推定体重約3キロ)のレペノマムス・ロブストゥス(Repenomamus robustus)という肉食哺乳類だ。

 それは、レペノマムス・ロブストゥスが、恐竜プシッタコサウルスの下顎をつかんで抑え付け、肋骨の辺りに噛みついている姿だった。
 

突発的な土石流が肉食哺乳類が噛みついた一瞬を記録​

 まるで古代ローマ時代のポンペイのように、その壮絶な絡み合いがこの上ない保存状態で発見された。火山灰の積もった所に豪雨で土石流が起こり、一瞬のうちに両者の絡み合いを「凍結」した。

 化石の見つかったのは、中国、遼寧省にある陸家屯層と呼ばれる白亜紀前期の地層だ。当時、一帯では大規模な火山活動が起きていたことから、この地域を「中国の恐竜のポンペイ」と呼ぶ科学者もいる。積もった火山灰と季節的な雨の影響で、突発的な土石流の起こるのは日常茶飯事だったらしい。
 

死肉漁りではない​

 ではこの化石は、プシッタコサウルスの死骸をレペノマムス・ロブストゥスが死肉漁りで噛みついていた可能性はないのか。マロン博士らは3つの点を挙げて、その死肉漁り説を退ける。

 1つ目は、プシッタコサウルスの骨に傷跡や噛み跡が付いていないことだ。例えば現代のアフリカのセレンゲティ平原で、哺乳類が死骸を漁るとすると、ほとんどの場合、骨に噛み跡がつま。だが今回の化石骨には、そのような噛み跡は見られない。つまり今まさに死闘をしている最中であることを示す。

 2つ目は、哺乳類レペノマムス・ロブストゥスが恐竜の上にいることだ。まるで上から抑えつけて、とどめを刺そうとしているように見える。死肉を食べる動物がこのような姿勢をとるとは考えにくい。

 次の3つ目が、哺乳類の後ろ脚が、膝を曲げた恐竜の後ろ脚の間にしっかりと挟まっていることだ。恐竜が哺乳類の上に倒れ込んだのだとしか考えられず、恐竜が生きていなければ、起こりえないことだ。
 

3倍の大きさの恐竜を狩れたのか​

 2体の絡み合った動物で、肉食哺乳類レペノマムスの歯と爪が草食恐竜プシッタコサウルスに食い込んでいる。捕食行動の真っ最中だったとしか考えられない。

 推定体重3キロ弱の肉食哺乳類が、3倍ほどの大きさの恐竜を攻撃する。珍しいことのように思えるが、あながちあり得ない話ではない。

 例えば、現生の肉食動物も、自分の体よりかなり大きな獲物を狩ることがある。例えば、イタチは自らの10倍の大きさの獲物を狩ることが知られている。また、同じイタチ科のクズリは、ヘラジカやカリブー(トナカイ)などの獲物を狩ることもある。

 ただ2体を飲み込んだ火山流が起きなければ、肉食哺乳類レペノマムス・ロブストゥスは無事に恐竜のとどめを刺せたのかは分からない。体勢を立て直したプシッタコサウルスがレペノマムス・ロブストゥスを振り払い、逆に踏みつぶしていたかもしれない。

​ ともあれ、極めて希少な化石であることは確かだ。

昨年の今日の日記:「結党100年の日本共産党は絶滅寸前の「生きた化石」(中):高齢化進み衰退の一途」