世界の地質学者の集まる国際学会「国際地質科学連合(IUGS)」の作業部会は11日、人類活動が地球環境に大きな影響を与えた時代「人新世」を20世紀半ばからの新たな地質時代とし、その指標地としてカナダ東部のクロフォード湖の堆積物を選んだと発表した。
 

1万1700年前のヤンガー・ドリアスの終わりをもって始まった完新世​

 今後、上部組織での審議を経て、2024年にも最終決定する。

​ これによって、1950年頃からの新しい地質時代「人新世」が始まることになった。現在、我々の生きる地質時代完新世は、1万1700年前の氷河期最後の寒の戻り「ヤンガー・ドリアス」(写真=ヤンガー・ドリアスの命名の由来となったドリアス=チョウノスケソウ)の終了をもって始まったが、それがついに終わり、人新世の時代に衣替えする。​

 

 

​ 地質時代は、生物相が大きく、一挙に変貌したことをもって、定められる。完新世の前の更新世には、マンモス(写真)、マストドン、ケサイ、オオナマケモノ、ナウマンゾウ、ヘラジカ、スミロドン(犬歯ネコ)などの大型獣が地上を闊歩していたが、氷河期の終焉をもって一斉に姿を消した。それと共に、石器を発展させ、やがて農耕牧畜を始めるホモ・サピエンスが地球の主役となった。

 


 

人類活動の活発化の痕跡を残したクロフォード湖堆積物​

 ところがそのホモ・サピエンスが、いよいよ地球の支配を強め、気候も変え、様々な人工物質を排出するようになり、地質にも変化を及ぼすようになった。完新世に代わって「人新世」を規定するのは、その象徴でもある。

 イスラエルのワイツマン科学研究所は2020年、人工物の総量が全生物の量に匹敵するまでになったと報告している。今なら、全生物量を上回っているだろう。

 ただ地質時代を新たに定めるには、それを代表する指標層(模式層)を定めなければならない。日本の別府湾を含めて、世界で12の候補地が提出され、作業部会が選定を進めていた。

​ 完新世の終わりを1950年頃とし、それ以降の人新世の始まりを最も良く示す地層として選ばれたのが、クロフォード湖(写真)の湖底の堆積層だ。化石燃料を高温で燃やした時だけに発生する「球状炭化粒子」が1950年代に入って急増していることがボウリング調査で抽出した堆積層ではっきりと示された。​

 


 

日本の別府湾は落選​

​ カナダのクロフォード湖は、五大湖の近くに位置し、面積は約2.4ヘクタールと湖としては小さいが、最も深い場所で水深24メートルに達する。大型の魚類などがおらず、地層が攪乱されることもなく、安定している。湖底から採取したボウリング・コアもはっきりしていた(写真=コアを採取する研究チーム)。

 

 候補地の1つとなった大分県別府湾は落選した。愛媛大学などの研究グループが、別府湾海底から採取したコアに、1950年頃から核実験によるごく微量のプルトニウムや、プラスチックゴミが砕かれて生成されたマイクロプラスチックなどを見つけ、人新世の指標地としてIUGSに提案していたが、別府湾の地層に過去の地震などで堆積物が攪乱された層があることが指摘され、落選となった模様だ。
 

最後の地質時代とならないことを願う​

 もし1950年頃をもって人新世の始まりと確定すれば、間もなく4分の3四半世紀となる。人新世がいつまで続くか分からないが、最後の地質時代とならないことを願うばかりだ。人類が滅んでしまっては、新たなその地質時代を命名する者がいなくなってしまう。


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