モスクワ市政府職員が大量「蒸発」しているという報を昨日の日記で述べたが、ロシアの飛び地のカリーニングラート州では守備部隊「ロシア第11軍団」の1.2万人が消滅したという。
 

かつてのプロイセン王国(現ドイツ)の一部​

​ カリーニングラート州は、ポーランドとリトアニアに囲まれ、ロシア本土から切り離された飛び地だ(地図)。かつてソ連時代は、リトアニアとベラルーシ(当時は白ロシアと言った)もソ連の構成国だったので、飛び地でも何でもなかったが、ソ連崩壊で現在のようになった(今年3月18日付日記:「NATO諸国に包まれたロシアの飛び地『カリーニングラード州』の行方」を参照)。​

 

 

​​ カリーニングラートは、第二次世界大戦後にソ連が占領・併合するまでドイツ領であり、かつてはプロイセン王国(ドイツ統一前の一領邦)の都だった(下の写真の上=プロイセンの面影が残るカリーニングラート市)。戦後、冷戦が深刻化するとともに、ここはNATOを睨むソ連の軍港となった(下の写真の下)。

 

 


NATO睨んで第11軍団を編成​

​ 6年前、ロシア中央政府は、カリーニングラート防衛のため、新たな軍団「第11軍団」を編成した(写真=演習中の第11軍団)。むろんNATOを睨んだものだ。周りのポーランドもリトアニアもNATO加盟国である。​

 

 

 第11軍団は、実際には新たに結成されたものではない。複数の既存部隊を、ロシア海軍のバルチック艦隊に対応する1つの司令部の下に再編成したものだ。同軍団は自動車化師団、独立自動車化連隊、大砲、ロケット、防空中隊および支援部隊を統括し、カリーニングラーシに1万2000人以上のロシア軍が駐留し、T-72戦車100台、数百の戦闘車両BTR、ムスタS自走榴弾砲、ロケットランチャーのBM-27と BM-30を有していた。
 

カリーニングラートから引き抜いた軍団はウクライナ戦線で大敗​

 ウクライナ侵略戦争がロシアにとって不利になり始めた時、ロシア政府は第11軍団地上部隊の80%をカリーニングラートから引き揚げウクライナに送り込んだ。ところが、その大部分をキーウ占拠を目指した絶望的な戦いでたちまち失ってしまった。

 首都へと続く道に沿って配置された、貧弱な統率と補給不足のロシアの大隊、旅団および師団は、ウクライナの大砲、無人機、 精度の高い対戦車ミサイルを装備した歩兵部隊らの攻撃の前に、全く無力だったのだ。第11軍団は、壊滅した。

 わずか1カ月間の熾烈な戦いの後、ロシア軍はキーウから撤退に追い込まれた。推定数はまちまちだが5月に前線が安定するまでの間に、5万人が死亡または負傷した。
 

中にはかつての1割にまで減った大隊も​

 次に第11軍団が悲劇に見舞われたのは、東部ハルキウ戦線だった。

 しかしこちらもロシア侵略軍は脆弱だった。新たな兵力を切望したロシア軍は、第11軍団を船と飛行機で南ロシアのベルゴロドへ、次にウクライナのハルキウ近くへと移動させた。

 3カ月に及ぶ過酷な戦いは、第11軍団の力をそぎ落とした。第11軍団の書類の一部を入手したロイター通信によると、8月30日付書類では第11軍団の戦力は完全編成の71%であった。しかし、いくつかの大隊は本来の戦力のわずか1割まで減少していたという。


ウクライナ防衛軍の反転攻勢で無力化​

 だが第11軍団にとって、状況はさらに悪化していった。8月末と9月初旬、ウクライナ軍はハルキウ東部とヘルソン北部の2カ所で反転攻勢を仕かけた。

 激烈な2週間の戦闘後、ウクライナ防衛軍はハルキウ州の2600平方キロを解放すると、何万というロシア兵が当地で逃亡、投降あるいは死亡した。第11軍団は現地のほとんどのロシア部隊よりも被害が大きかった。ワシントンの戦略国際問題研究所は9月末に、同軍団が「激しく損耗した」と評した。ほぼ無力化されたことになる。

 ウクライナ軍のある幕僚は、反転攻勢によって第11軍団は車両200台および兵士の「半数」を失ったと結論づけた。
 

ポーランドとリトアニアはカリーニングラートを占領せよ​

 現在、第11軍団を引き抜かれたカリーニングラート州は全くの無防備状態となっている。一時、NATOに脅威をもたらした同州の部隊は壊滅したからだ。

 この影響はヨーロッパ全体に広がるだろう。第11軍団は本来はカリーニングラートを防衛し、NATOの東部前線に脅威を与えるはずだったのに、今はどちらも遂行不可能となっているからだ。

 逆に言えば、NATO最弱のリトアニア軍(兵力は約2万人)ですら、カリーニングラートに進駐すれば、同州のロシア軍は無抵抗で白旗を掲げざるを得ないことになる。

 無慈悲な侵略を行ったロシアに懲罰を加えるために、リトアニアとボーランドは軍を進めて、カリーニングラートをプーチンの軛から解放すべきではないか。実際、ポーランド軍の一部には、カリーニングラートはポーランドの一部だと見る意見もある。

 むしろカリーニングラートのロシア住民も喜ぶだろう。
 

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