8日から有明の東京ビッグサイトで開かれている国内最大級の環境展示会「エコプロ2016~環境とエネルギーの未来展」で、注目を集めているテーマゾーン「ナノセルロース展」という一画がある。

 

強さは鉄の5倍、重さは鉄の5分の1
 「セルロースナノファイバー(CNF)」と呼ばれる新素材について、研究開発から事業化まで、さらに製造技術から用途開発までの最新情報を紹介していて、CNFの現在と未来の可能性を、35社・機関がブースで展示している。
 CNFとはなじみがないが、国内ではすでに10社以上が製品・サンプルを出荷する一方、さらに多数の企業・機関が用途開発に取り組んでいる。
 最大の注目点は、植物由来の素材であること(したがって脱炭素で、資源制約も全くない)、強さが鉄の5倍もあるのに重さは鉄の5分の1程度しかないという軽量・強靱さだ。
 鉄に変わる夢の素材ともてはやされ、既に航空機の機体では広く、自動車でも一部、採用されている炭素繊維よりも、さらに優れた特性を持つ。

 

植物由来なので完全な脱炭素素材
 CNFとは、木材(草でも可能)のパルプを、化学的に解きほぐしたり、打ち固めたりして出来るナノメートル単位の極超細の繊維だ(写真=CNFの電子顕微鏡写真)。

 


 それを束ねて素材にするから、軽く、かつ丈夫なのだ。冒頭で述べたように強さは鉄の5倍もあるのに、重さは鉄の5分の1しかない。将来、CNFで強化した樹脂が、鋼鉄やステンレスに代わり、自動車や家電製品のボディーに使われる可能性が高い。
 強くて軽い素材では、日本生まれで今や全世界の3分の2のシェアを誇る炭素繊維が有名だ。ただ炭素繊維は、アクリル繊維かピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料にしている。化石燃料を元素材として使うので、カーボンフリーではない。
 それに比べてCNFは、植物由来だから二酸化炭素の収支はゼロだ。石油系素材を、全く使わない。つなぎとして使う樹脂も植物性で作れば、完全に天然素材となる。
 植物がある限り、原料が枯渇することはない。地球環境にも負担をかけない。

 

いまだ研究開発途上なので、価格は炭素繊維の2~3倍
 可塑性も高いから透明のシート状にすれば(写真)、折り曲げられるディスプレイの部材にも使える。

 


 技術も、日本生まれである。
 大学を初め、斜陽産業の1つである製紙・パルプメーカーが、懸命に開発にしのぎを削っている。もし飛行機の機体やさらには自動車ボディーに採用されたら、日本は炭素繊維に続くハイテク素材の世界的供給国になる。
 何と夢のある素材ではないか。
 ただ、まだ一般に広く知られていないように実用化の一歩手前にある。基本的技術は確立しているが、まだ高価なのだ。例えば炭素繊維の値段は鋼鉄より5倍前後もするが、その炭素繊維よりもさらに2~3倍も高い。

 

シート状に加工すれば折り曲げ可能、ガラス代替に
 一部の製紙メーカーは、粘性を高める材料としてゲルや粉末状にしてサンプル出荷している。高価な化粧品に、一部使われている(写真=ゲル状溶液)。

 

 


 しかし炭素繊維との大きな価格差がある以上、自動車に採用されるようになるのは、まだ遠い先ということになる。
 むしろガラス並みの透明度の薄板、シートに加工すれば、折り曲げ可能だから、軽くて丈夫な透明素材としてガラス代替のマーケットが開ける。
 経産省の推定では、自動車部品への採用を想定し、2030年頃には1兆円の関連市場が生まれる、とする。

 

日本の伝統産業の1つ、製紙業がハイテク企業に変身?
 炭素繊維は、オールドテクノロジーである日本の繊維会社3社が世界の市場のかなりを抑えた。繊維産業の1世紀半の歴史の積み重ねが、ニューテクノロジーを発展させたと言える。
 CNFも、製紙会社の技術が生きる。日本の製紙会社も1世紀半、木の繊維と格闘してきた。世界で実用化に最も近いところにいる、と言える。
 世の中、ITやAT(人工知能)ばかりではない。古くからある産業にも、ニューテクノロジーの種は育っているのである。

 

昨年の今日の日記:「バルト3国紀行65=最終回:朝のヴィル門から人通りのない旧市街を観る」