6万~5万年前に中東で我々現生人類は、先住のネアンデルタール人と若干の混血があったことが分かっており(写真=2つの人類の出遭いの想像図)、その痕跡は我々のゲノムに1.5~4%のネアンデルタール人由来の遺伝子断片として残っている。


ネアンデルタール人と現生人類の出遭い


2.8万人のヨーロッパ系成人からデータ
 ネアンデルタールから導入された遺伝子が、現生人類の寒冷なヨーロッパへの進出にある程度、強い選択圧をもらたしたことは、現生人類のX染色体や第9染色体の一部領域などでネアンデルタール由来の遺伝子が極端に減っていることから推定されている。しかし一方で、現生人類個体群に進化上の有利さをもたらしていたらしい。
 アメリカ、ヴァンデルビルト大のC.N.シモンティらの研究チームは、全米の9つのサイトから得た電子健康記録の2万8416人のヨーロッパ系成人の記録から、ネアンデルタール人由来と思われる遺伝子と表現型の関連を調べ、ネアンデルタール人由来遺伝子がうつ病と日光の曝露による皮膚がん前駆病変である日光角化症のリスクを高めること、さらに血液凝固を亢進させることと喫煙を含む特殊な特徴とも関連することも明らかにし、成果をアメリカの科学誌「サイエンス」の2016年2月12日号に報告した。


日光角化症や血液凝固亢進などの遺伝子という遺産
 日光角化症は、日照の少ない高緯度ヨーロッパで進化したネアンデルタール人には全く無縁だったろうが、アフリカ起源で、「白人化」した現生人類には後に思わぬ弊害をもたらした。
 現生人類がネアンデルタール人を駆逐したヨーロッパに留まる限りは、何の問題もなかったが、大航海時代以後、紫外線の強い熱帯の乾燥地に、つまり現生人類の故地に進出した時、日光角化症のリスクを高める遺伝子は、白人植民者に牙をむいた。皮膚がんの著増、という形で。
 では、どうしてネアンデルタール人はこの遺伝子を備えていたのか。ヨーロッパという高緯度地帯では、この遺伝子を進化させることは、紫外線を吸収して骨代謝に不可欠なビタミンD産生に有益だったから、徒然淘汰を通じて選択されたのだろう。


血液の凝固しやすさはネアンデルタール人には有益だったが……
 うつ病や喫煙がネアンデルタール人由来の遺伝子となぜ関連するかは、わからない。
 だが血液凝固のしやすさは、大型草食獣に接近戦を挑んで狩りをしていたネアンデルタール人には傷口のふさがりやすさなどの点で大いに有益だったのは間違いない。実際、彼らの骨には、骨折の跡が多く見られる。
 しかもネアンデルタール人は40歳くらいまでに死亡していたので、これによる副作用である脳梗塞や心筋梗塞とは無縁だった。
 この遺伝子が現生人類にもたらされ、その後の農耕牧畜の発明で寿命が延びると、現生人類にとって、血栓を作りやすくさせ、成人病というマイナス作用をもたらしたのだ。
 6~5万年前のネアンデルタール人の混血は、現代の僕たちに思わぬ「遺産」をもたらしたのである。


昨年の今日の日記:「土星の小衛星『エンケラドス』に生命誕生の環境条件を確認、だが生命誕生は別の問題」