kawanobu日記/電子出版に拙著が刊行されるけれど、出版元も慎重姿勢;ジャンル=読書 画像1

 4月末の某日、某出版社からA4版の封筒が届く。開けると、今回弊社は電子出版を立ち上げる、ついてはあなたの著書をコンテンツの1つとして加えたいので許可をお願いしたい、という文面であった。

紙とPCでは読むものの質が異なる
 今のところ立ち上げる予定の電子出版は、PCから見るだけだが、いずれ速やかにスマートフォンで読めるようにするという。
 紙の本と比べて、電子出版は品切れがない。世の中、スマートフォンやタブレット端末など、情報の紙離れの動きがかまびすしい。
 しかしリブパブリは、いつも首をかしげるのだ。まともな、すなわち硬派的、学術的なものが、モバイル端末などで読めるのか、と。モバイルだけではない。通常は動かないPCを通じても読まないだろう、と思うのだ。
 紙メディアをこよなく愛し、月1回の新聞休刊日の朝など、手持ちぶさたで仕方のないリブパブリにとって、紙とPCとでは受け渡す情報の質が違うだろう、と考えている。
 紙は、新聞であろうが書籍であろうが、これはそうだ、いや違うなどと、考察しつつじっくりと読める。PCで読むものは、長いのは苦手だ。PCでは長文のブログでさえ読むのに抵抗がある。だからリブパブリが毎日書いているような日記を、じっくりと味読されている方はそう多くはないのではないか、と疑っている。
 自分だって同じことだ。

絶版のないなどはメリットだが
 だとすれば、学術的な書籍など、PCで読もうとは決して思わない。争って電子出版に進出している出版社がPC配信のコンテンツで期待するのは、だからライトノベルや短い雑誌記事、あるいはマンガ、そして書店では買うのに抵抗のあるアダルト向けなどではないだろうか。
 リブパブリに許可承諾書を送ってきた某社も、早ければ夏にはコンテンツを配信したい意向のようだ。某社は、地味だが良書を長年制作してきた書肆であり、ブルータスよ、お前もか、と思ったのだが、ただ後述するようにこれで売れない紙の本をカバーできると考えてもいないようだ。
 承諾を願う文書には、いろいろと電子出版の長所が書き並べられていた。1冊でも売れるから絶版はない――とは、著者向けである。今、売れる本は新書だけ、という出版界では、1カ月で書店の棚から出版社側に戻されるので、売れない本は倉庫料が嵩むだけ損なので、さっさと絶版処分にしてしまう。電子出版では、倉庫料は発生しないので、確かに絶版にされることはない。

コストのかからない電子出版でも紙の本より大幅に安くはならない
 出版社にすれば、用紙・製本代も流通経費(一般商品の卸しに当たる取次に払うマージン、そして書店のマージン)もいらないので、将来、電子出版に移行できれば、経費を大幅にカットできる。コンテンツだけの配信なら、極端な場合、編集者の給料と出版社の間接経費、そして著者への印税だけで足りる。大まかに見ても、原価は半分近く減らせるはずだ。
 ただし、今回、送られてきた文書を見て、電子出版物の購入価格は、紙の本と比べて1割ちょっとしか安くなっていない。
 これを暴利と見るか、出版社側の慎重姿勢と見るかで、受けとめ方は違うだろう。出版界の実情に通じていない人たちは暴利と見るだろうが、リブパブリは後者だと考える。
 送られてきた文書に、はしなくも書かれていたが、著者側に支払われる印税は年間数百円ということもありえる。印税率は、紙の本の10%よりずっとよい15%でも、支払えるのはその程度かもしれない、つまり売れないのでは、と出版社も弱気なのだ。

電子出版進出は保険のためか
 電子出版への受けとめ方は、この出版社の電子出版担当者もリブパブリも大差ないのだろう。ただ、将来、どう化けるかまだ分からないところがあるので、保険のために進出しておこうということなのに違いない。
 ある方が、リブパブリの古い日記にコメントを寄せ、新潮社も電子出版に進出するが価格がぼったくりだという人がいたが、どうなのか、と疑問を寄せてきた。
 上述したように、それですぐに紙の本に代替されないので、初期投資が嵩むから紙の本よりも1割ちょいしか安くはならないのは仕方がない、と考える。だからぼったくりだとは思わない。
 ただ繰り返すが、リブパブリは決して電子書籍などを買わないだろう。読む本は、だいたいメモをとり、マーカーで印をつけ、時には書き込みをいれたり付箋を貼ったりするのが、リブパブリ流の読書作法なので、紙でなければならないからだ。紙の本の半値であっても買わない。
 電子出版とは、スマートフォンやタブレット端末の流行に幻惑された白日夢だと思う。そもそも紙の本とスマートフォンなどで情報を読む層とは重ならないだろうからだ。

昨年の今日の日記:「国立科学博物館地球館の地下2階に展示された超小型人類「ホビット」:ホモ・フロレシエンシス、フローレス島」