kawanobu日記/中国ナンバー3、首相の温家宝は「中国一の名優」:余傑、チベット、趙紫陽、08憲章 画像1

kawanobu日記/中国ナンバー3、首相の温家宝は「中国一の名優」:余傑、チベット、趙紫陽、08憲章 画像2


 8日、中国の甘粛省甘南チベット族自治州舟曲県で起きた大規模な土石流災害は死者が4桁にも登る大規模な「自然」災害となった。この災害が発生すると、直後に首相の温家宝が現地に入り、「陣頭指揮」の活躍ぶりが中国メディアで派手に流されている。
 8日の発生当日も、瓦礫の下に閉じ込められた14歳の少年に「頑張れ、今、助けるぞ!」と励ましつつ、救出に叱咤激励する姿が中国中央テレビなどに派手に映し出された。

劉暁波氏の「08憲章」に署名
 この温家宝のパフォーマンスを冷めた目で見ている中国知識人がいる。今月中旬に温家宝の評伝を香港で出版した余傑氏(36歳)である。
 余傑氏が書き上げたのは、『中国影帝温家宝(中国一の名優 温家宝)』という本だ写真上)。残念ながら現物を見てはいないが、この出版は著者の余氏のインタビュー記事を掲載した朝日新聞7日付記事で知った。
 余氏は、今年2月に国家政権転覆扇動罪で懲役11年の刑を科せられ、現在服役中の劉暁波氏らと08年に中国民主化を求める「08憲章」に署名した作家・人権活動家である(劉暁波氏については、今年2月13日付日記「08年憲章の中国民主化運動活動家、劉暁波氏に厳刑:最高人民法院、黄松有、そしてアスパラダンス・ショー」、及び09年6月29日付日記「中国で『08年憲章』起草者の作家、劉暁波氏逮捕:天安門事件、王丹、ウーアルカイシ、柴玲」を参照)。

慈愛あふれる演技の裏に冷酷な地金
 余氏は、この著書で、被災地や出稼ぎ農民(農民工)の子どもの通う学校などを視察するなど、「慈愛ある指導者」を演じている温家宝の姿は虚飾そのもの、と痛烈に批判しているという。温家宝がメディアの前で見せる時には涙ぐむなどの派手な所作は、「演技」に過ぎず、政治体制改革や人権擁護、腐敗撲滅対策、教育問題など、共産党政治局常務委員の他メンバー8人と全く変わるところはない、と指摘する。
 確かに、余氏の指摘するとおりで、これまで政治局の序列3位の温家宝が、中国民主化のために何かなしたかと言えば、1点もない。常務委に連なって8年、胡錦濤と役割分担し、ただ柔和な演技をしてきただけだ。
 民主化を指導しながら、鄧小平の怒りをかい、失脚した中国共産党総書記、趙紫陽氏の著作『趙紫陽 極秘回想録 天安門事件「大弾圧」の舞台裏!』に、印象深い写真が載っている。6.4市民革命(いわゆる「天安門事件」)の最中、天安門前広場に終結する民主化を求める学生指導者を見舞った趙紫陽氏の秘書として、温家宝は現場に同行しながらも、失脚を免れて生き残るのだが、その時の趙紫陽氏の傍らで映っている温家宝の無表情である(写真下=画面中央で正面を向いている人物が温家宝)。
 ボスの趙紫陽氏が失脚したのに、その後に温家宝が順当に出世し、党内ナンバー3に上り詰めたからには、この時、鄧小平と党内保守派に趙紫陽氏の行動を逐一、報告していたのであろう。

余傑氏の運命は
 余氏が『中国影帝温家宝』を書いて、無傷でいられるわけはない。出版の動きを察知した公安当局に4時間にわたって一時拘束され、出版すれば逮捕する、と脅かされた。今も、常に尾行がつく。
 また、北京五輪や建国60周年などの前後には、自宅前に公安車両2台が張り付いていた。
 余氏は、温家宝が本当に心優しい人物であるかは、「出版後の私を見れば分かる」と、朝日の記者に語っている。この「挑発」に、温家宝と共産党がどう対処するか。放置すれば、次の党指導部批判の本が出るだろう。しかし、今や世界が余氏の身の安全を注視している。公安が威嚇したように、逮捕すれば、第2の胡佳氏、第2の劉暁波氏として世界から非難される。
 温家宝の出方が、注目されるゆえんだ。
 ところで冒頭の14歳の少年は、瓦礫の下から救い出された4時間後に死亡した。中国メディアがその死をひっそりと報じたのは、発生3日後の11日になってからだった。温家宝の救出活動はやはり演出であった。

昨年の今日の日記:「殺人などの凶悪犯罪で時効=逃げ得を許さない:『宙の会』、DNA鑑定、人権侵害」