映画「ボーはおそれている」


監督がユダヤ人であり

ユダヤ人的寓話

という観点。


人生の悲劇と喜劇に満ち満ちた

壮大な旅を

演出するストーリー



アリ・アスター監督はユダヤ系の家系に生まれたユダヤ人であり、彼のこれまでの作品もユダヤ性と結びつけて語られてきた。本作についても、監督自身が。


「これは壮大で巨大な作品」「これはユダヤ人の『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなものなんだ。」と言っている。


ロードムービーとしてのストーリーはユダヤ教の旧約聖書の一つの寓話「ヨブ記」がある。自分には何一つ瑕疵、悪事はないのに、では何故ヨブは富んで豊かなのか、とサタンは神に讒訴する。

神はサタンに徹底してヨブを試練することを許す。



そのヨブ記からのヒントを与えられた作品なのか、

シュレミールという主人公も興味無い。ユダヤ人は生まれた時から旧約聖書の教え、物語の中で生きて来た生活がある。



佐川和茂氏によると、ユダヤ人たちのユーモアの中には、延々と受難が続く不幸な人間を扱ったものがあるという。そのひとつがシュレミールという人物を描いたものであり、彼は不幸から逃れようと色々と試みるが延々と失敗する。



それは、「神に選ばれた」民だとされながらも、現実には迫害され、社会的地位の低さゆえに多くの失敗と挫折を強いられてきた民族が、理想と現実のギャップを埋め、現実の境遇に耐えるために必要とされてきたユーモアなのだと佐川和茂氏は言う。



佐川 和茂   (1948-)

佐川 和茂(さがわ かずしげ、1948(昭和23)724 - )は、日本のアメリカ文学者、青山学院大学教授。青山学院大学経営学部専任講師、助教授、教授。 [著書] 『大学入試 英熟語』1‐3 中道館、1983 『ホロコーストの影を生きてユダヤ系文学の表象と継承』三交社、2009 青山学院大学総合研究所叢書 『ユダヤ人の社会と文化 シュテトルより郊外へ』



Sight and Sound』のベン・ウォルターズは、本作が『ヨブ記』を思い出させると書いている。それの影響を受けている寓話が次の寓話でもある。



幸運の金袋と引き換えに自分の影を失った男の運命を描くメルヘン風の小説であり、ロマン主義文学を代表する作品の1つ。


寓話「シュレミール」


主人公ペーター・シュレミールは金策のためにとある富豪の屋敷を訪れ、そこで灰色の服を着た奇妙な男を目にする。彼は上着のポケットから望遠鏡や絨毯、果ては馬を三頭も取り出して見せ、シュレミールは驚くが、回りの人間はなぜか気にも留めていない。そのうち男がシュレミールのもとにやってきて、あなたの影が気に入ったので是非いただきたいと言う。シュレミールは躊躇するが、望みのままに金貨を引き出せる幸運の金袋を引き換えに提示され、取引を承知してしまう。


金には困らなくなったシュレミールだったが、しかし影がないために道行に出会った人と言う人から非難を受け、その日のうちからもう取引を後悔し始める。彼は召使を雇って灰色の男を何とか探そうとするがうまくいかず、1年後の再会の約束を信じて温泉街に引きこもる。


そこで町娘のミーナに一目惚れし、影がないことをうまく隠し通しながら逢瀬を続けるが、結婚の申し込みをしようというときになって自分に影がないことがばれてしまう。ちょうどその時に約束の1年が過ぎて灰色の男が現れるが、彼はシュレミールに影を返す代わりに、シュレミールの死後に魂を引き渡すことを要求する。シュレミールは逡巡したのちに拒み、ミーナはシュレミールを裏切った召使の1人と結婚してしまう。


今や悪魔だったことがわかった灰色の男を振り切り、シュレミールは幸運の金袋も財産も捨てて独り放浪する。ちょうど靴を履きつぶしてしまったことから、なけなしの金で古靴を購入したところ、偶然にもこれは一歩で七里を歩くことができる魔法の靴であった。シュレミールはこの靴を利用して世界中を飛び回り、(原作者のシャミッソーと同じく)「自然研究家として新たな人生を歩むことを決意する。



影をなくした男 「シュレミール」を書いたフランスの作家シャミッソーの物語




芥川龍之介の「杜子春」も思い出す。


あらすじのラストあたり

無言を貫いていた杜子春だったが、苦しみながらも杜子春を思う母親の心を知り、耐え切れずに「お母さん」と一声叫んでしまった。

叫ぶと同時に杜子春は現実に戻される。洛陽の門の下、春の日暮れ、すべては仙人が見せていた幻だった。これからは人間らしい暮らしをすると言う杜子春に、仙人は泰山の麓にある一軒の家と畑を与えて去っていった。




映画「ベンジャミン・バトンの数奇な人生」



このブログを書きながら小さな人生の旅をした感があります。落ち着いて本を読み映画を再び鑑賞してみたいです。



最後までお付き合いありがとうございました。



おやすみなさい



心安らかに癒しのビアノ曲をどうぞ!