土曜日、夕方。


「捕獲器の中で産んでるって!」


かわねこTNR部のTさんからの電話。

私は、ちょうどその捕獲器を預けてある病院に向かうバスの中だった。


この日、1月から入っているSK地区に午前9時からTNRに入っていた。


にぶい陽射しのもと、まず捕獲器を5台かけ、その後、パトロール。以前からの情報をもとに、あちこち歩くのだが。




見かけたのは、以前捕獲したこの子と若いスレンダーなハチワレ。あとは、民家で外飼いされている?猫か…。

連絡をくださった方の情報では、少なくとも4頭は未避妊の猫がいるはず。しかし、どれだけ歩いても、影すら見えない。

昼近く、ようやく1頭捕獲。




その後。
この日、初めて本格的に一人でTNR参戦のOさんが、おずおずと
「おなかの大きい猫がいるって…」
と。視線の先を見ると、たしかにおなかが横に張り出した、かなり汚れた白黒猫がいる。
現場エリア内にある倉庫兼事務所の人達が、お世話をしている猫らしい。年齢が15〜16歳という。そんな年齢で、妊娠できるのか。
妊娠なら、多分今日、明日には生まれるだろうおなかの様子。会社の人に同意をとり、急遽、保護した。



かねてより、妊婦猫を保護したら、かわねこさんに預かってもらう話をしていたため、Tさんに連絡。更にTさんから、病院に確認してもらったところ、やはり年齢的に妊娠はありえないという。腹水がたまっているのではないか、と。

とりあえず病院に搬送して預かっていただき、通常診療が終わってから、診察していただくことになった。
そして、夕方再び病院に向かう車中で、冒頭の電話だったのだ。

病気でなかったことの安堵と、高齢で出産することのリスクを思い、バス停から走りに走る。

ママ猫は、すでに2頭産んでいた。
ノミ・ダニ駆除薬だけ塗布してもらい、かわねこさんのシェルターへ。
そして、産箱に移したときには4頭の小さな命があった。

だが。
そのうちの2頭は、動いていない。Tさんと二人で、まだ胎盤がついたままの子猫をそれぞれ1頭ずつ手にとり、羊膜を拭いたり、身体をこすったり、Tさんは口から息を吹き込んだりしていたが、命は戻ってこなかった。何度やっても、小さな頭が、ガックリとしてしまう。文字通り、手から命がこぼれていった。
1頭はハチワレ、もう1頭はマスク柄に近いハチワレ。命があれば、どんな幸せが待っていただろう。

小さい箱に2頭を入れ、Tさんが庭に咲いていた花を添える。せめて、生まれてきた証にと
「つつじ」と「さつき」
と、名前をつけた。


その横で、命がつながった子猫たちは、無心にオッパイに吸い付いていた。



翌日。

「子猫3匹になってるみたい」
と、TさんからLINE。私達が帰ったあと、もう1頭産んだらしい。


高齢なのに、5頭も出産。若い猫が、5頭産むだけでも大変なのに、高齢で、毎年、いや、ひょっとしたら毎シーズン出産していたかもしれないママ猫。身体はボロボロのはずだ。
場合によっては、子育て中に、ママ猫の身体の方がまいってしまうかもしれない。予断は許さない。

かわねこさんには、お世話をおかけしてしまうが、母子ともに、健やかにと願わずにいられない。

何度も通っている現場。
もう少し早く出会っていれば、ママ猫もこんな身体で出産することも、光を見ることなく逝く子猫も生まれなかった。
そう思うと、もっともっと、TNRに力をいれなければ、と思う。