美濃戸山荘から行者小屋を通って文三郎尾根で赤岳まて上がり、下りに地蔵尾根を使うと行程全部で約7時間。
日帰りで、奥多摩や奥秩父より、少し手応えのある山としてちょうど良いのが赤岳だ。

だが、それは夏道のこと、雪山はハードルが高い。
自分の登山力の大部分を使わないと安全には帰れない気がしている。

だからこそ達成感は高い。


今日は予報を見ると赤岳はあまりに天気が良い。
マイナス20度、風速20mが珍しくもないのに、マイナス2度、10mとまるで小春日和だ。
事情があって今シーズン雪山には行けなかった。

今回は今シーズン初雪山になるので、安全に帰る為にはこんな日はピッタリ。
しかも知人のガイドから美濃戸山荘まで車が入れると情報を得ていたので、いつもの冬より1時間短縮できる。
だが、慎重に。1年ぶりの雪山なのだ。
チェーンアイゼンをつけ、歩き始めた。

しばらくすると毎年お決まりのスケートリンク。
登山道が細長いスケートリンクのようで、ナメてるとあっという間に転び、よく痛い目に会う。
慎重に進み、行者小屋に着く頃には身体が暖まり、汗ばんできた。

ここからはこれから登る山が一望でき、静かな時間が過ぎる。



体力を温存しながら、コースタイム通りで来たが、少々空腹感を感じたので、パンを一つ頬張り、12本アイゼン、ヘルメットをつける。

いよいよここからだ。
文三郎尾根に取り付くと急斜面が続く。
私は足首が固いので逆ハの字が辛い。
ほぼカニ歩きのように、急斜面を身体を切り替えながら上がるが、時折平衡感覚がなくなり、ヒヤリとする。
自分のカラダがどのくらい傾いているのか分からなくなるのだ。

そして、そこが凍ってアイゼンの歯が入らなかったり、ヤセ尾根だったりすると一気に緊張する。
春先は好天と引き換えに雪が溶けて凍ってを繰り返すので、雪面がカリカリになっていくのがイヤらしい。
そんな時はゆっくりと動作を一つずつ行うしかない。
幸い刻まれたステップはしっかりしている。
何より真っ青な空がやる気を支えてくれる。
息が切れ、休み休み足を上げるが、竜頭峰まで来るともうすぐ赤岳頂上だ。
待っていたのは、山頂からの岩肌とブルーとホワイトの世界だ。



すでに数人が写真を撮りあってくつろいでおり、私も恥ずかしながらお願いする。
だが、くつろげない。10分程で下り始める。
山頂に着いて思ったが、今日の目標は山頂に着くことでなく、安全に帰ることなのだ。
落ちたら止まるところもない、あの急斜面を降りるかと思うと気が抜けないのだ。
帰り道、文三郎を降りるか、地蔵を降りるかで葛藤があった。
事前調査のネット情報では、地蔵は危ないという書き込みが多かった。この日すれ違った方も文三郎をピストンとしたと言う。
だが、私は地蔵尾根を選んだ。毎年下りに使っている安心感と、斜面の向きから凍った箇所が少なさそうだと判断した。

予想は当たっていたが、切れ落ちた尾根が意外に長い。

ひたすらゆっくりステップを踏み、無事行者小屋に帰った。

アイゼン、ヘルメット、ハードシェルを脱ぎ、残りのパンを頬張り、ゆっくりくつろぐ。

もう安心だ。

下半身が疲労で張っている。

ここからはのんびり歩いた。

木漏れ日が心地よい。

と、思っていると下りのスケートリンクで最後に転んだ。弾みで木に頭をぶつける。やれやれ。


自分が1番輝いている時っていつだろう。

目標や目的を達成した時なのだろうか。

今までそう思っていたが、最近考えを改めた。

目標を達成しようとあがいている時が1番輝いているのだと気づいた。

今日はそんな1日だった。