岡山理科大学獣医学部(仮称)のHPは「絵のない額縁」状態です。設置認可が「保留」なので更新はできないのでしょうか?今治市議会は9月6日から始まるので何か動きが出てくるのでしょう。下記は、今年の1月20日に開かれた「国家戦略特区」諮問会議での配布資料からの抜粋です。

 

右上にある赤字の部分を抜粋すると

  • 独自の充実したアドバンスト教育カリキュラム
  • トランスレーショナル研究を推進
  • 国際的な危機管理対応のできる獣医師の育成

とあります。「アドバンスト」は「先進的な」という意味、「トランスレーショナル研究」は(動物実験からヒトへの応用の)「橋渡し」研究の意味です。何やら「できるできる詐欺」の文言が並んでいます。1月10日に提出された応募書類は下記にあります。書類の最初のページに『獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するための獣医学部の新設…』とあります。

資料6 応募者提出資料

 

 

岡山理科大学獣医学部(仮称)の教員予定者の誰かが担当するのでしょう。「ヒト・モノ・カネ」が必要です。さて、数日前からネットでは「設計図」流出が話題になっているようです。某タブロイド紙には、『加計学園獣医学部 建築図面を入手』の見出しの記事がありました。私の知る限りでは、四国にはBSL3施設はないようなので、作る意味はあります。ただし、すでに北海道大学、麻布大学、大阪府立大学、鳥取大学にはあります。東京大学も医科学研究所にあります。既存の獣医学部/獣医学科ができない内容とは何か私には理解できていません。

 

岡山理科大学獣医学部(仮称)のHPは「絵のない額縁」状態ですが、「ヒト・モノ・カネ」(2)(8月18日) に『北大、東大、京都産業大学のHPは、それぞれ充実しています…』と書きました。ググれば、すぐに分かる情報です。下記は北大、東大、鳥取大のHPのトップページです。

 

TOPページ|北海道大学 大学院獣医学研究院・獣医学部

獣医学専攻 | 東京大学大学院農学生命科学研究科・東京大学農学部

鳥取大学農学部付属 鳥由来人獣共通感染症疫学研究センター

 

北海道大学獣医学部は1877年、Harvard 大学を卒業したジョン・クラーレンス・カッターが1978年に札幌農学校教授に迎えられました。東京大学農学部は1874年に創設された内務省農事修学所に遡ります。沿革では、名前は分かりませんが、『教師を海外より招聘する計画…』とあります。鳥取大学は新制大学ですが、1920年に設置された鳥取高等農学校からの改組です。「ヒト・モノ・カネ」では、言わずもがなですが「人ありき」です。

 

私立大学では、日本獣医生命科学大学は1881年、日本最初の私立獣医学校として開校、麻布大学は1890年に東京獣医講習所として東京都麻布区に創設されました。

 

麻布大学では、高い天井のある、広い実習室に数頭の牛と教員、学生がいて、それぞれの牛を鉄製のケージ(籠)に入れて移動する吊り下げクレーンのある画像がウェブにあります。文科系のように教室と図書館で勉強するのであれば、「カネ」はかかりませんが、実習には「カネ」がかかります。北海道にある酪農学園大学は1,500 ha の敷地です。今治市の「いこいの丘」(今治市加計学園に無償譲渡)は約17 ha なので、その百倍です。「カネ」がいくらあっても足りない気がします。

 

四国に獣医学部を作ることの意義は否定しませんが、公務員獣医師が不足しているのであれば、既存の大学の定員増を認めればいいでしょう。総事業費:約200億円の半分を愛媛県と今治市が負担するのであれば、公務員獣医師の処遇改善にお金を出した方が即効性があります。1966年に北里大学が青森県に獣医学部を作ってから50年以上、新設が認められませんでした。1970年前後であれば高度成長期だったので、どこか私立大学が手をあげてもよかったのでは?ペットブームで獣医師が民間に流れたこともありますが、全体として獣医師の数は足りているようです。人口が増えている米国での獣医学部の新設は理解できますが、日本は逆に18歳人口が今後20〜30年で120万人→100万人に減少するので、大学は淘汰される方向です。私は、鳥インフルエンザ研究センターの実績のある京都産業大学の方が相応しかったと考えています。

 

私には、今治市の地域振興という課題と獣医学部新設が結び付きません。3本の本四架橋で、西から順に①広島県〜愛媛県、②岡山県〜香川県、③兵庫県〜徳島県で本州と繋がっています。すでに、四国4県という考えではなく、中国地域、近畿地域との連携で考える時代です。2010年に宮崎県で発生した口蹄疫では、家畜の移動など初動対応の遅れが感染拡大に繋がりました。獣医学部の誘致の本当の結果が出るのは、学生が獣医師国家試験の受験資格が得られる6年後です。教育を即効性だけで評価するのはよくありませんが、費用対効果は常に頭の中になければいけないでしょう。

 

今治市の一般会計予算:約800億円のうち、約200億円は地方交付税です。25%に当たります。私の住んでいる市では、地方交付税の占める割合は約7%です。東京都のような不交付団体ではありませんが、国の税金が使われています。小池都知事のいうようなワイズ・スペンディングは何か考える必要がありそうです。

 

(6AM、追記)

上の資料には、「入学定員:160名」とあります。教員は募集中、校舎は建設中で、どちらにも課題がありそうです。せめて、主だった教員予定者、校舎の内容が分かればと思います。獣医学を教える教員が「余っている」とは思えません。また、BSL3施設が正常に立ち上げられるのかとも思います。私は、マウス/ラットを飼育している実験動物飼育施設のある事業所にいました。施工業者が全くの経験のない業者だったので、適切な温度/湿度の管理ができずに大変苦労しました。BSL3施設ではないですが、外部からの汚染を避けるために、エアーロック、陽圧の飼育室が24時間365日、稼働状態でした。電気点検で停電の場合は、室内を予め「目貼り」する必要がありました。

 

施設の建設には「カネ」がかかりますが、何よりも実績のある設計/施工業者を選ぶ必要があります。例え、2倍になったとしても「カネ」をかけるべきです。動物実験を行う実施機関は、厚生労働省、農林水産省、文部科学省のいずれかが所管しています。学内の審査(動物実験委員会)以外に、情報公開が求められています。動物とはいえ、「生命」なので、制約が多いです。

 

入学定員は160→140名となりましたが、まだまだ多いように思います。40名程度では経営が難しいのかもしれませんが、凡そ、獣医学部でお金が儲かるとは思えません。残念ながら、「四国で獣医学部」というのは、「カネ」目当てかと考えています。米国・カリフォルニア州にある Stanford 大学は、州知事で鉄道王だった Stanford が私財を投じて創設し、ある時期までは、カリフォルニア州出身の学生の学費は無料でした。総理と理事長が「お友達」であろうがなかろうが、「全私財を投じても四国に獣医学部を作る」のであれば、一般の人の理解が得られたでしょう。誤解かもしれませんが、理事長は「教育者」というよりは、大学を「ビジネス」のツールと考えているように思えます。

 

「規制緩和=善」論者の人には通じないのかも知れませんが、40年以上、理工学に携わってきた一人として考えています。東大法卒の大蔵官僚出身の前大臣が「需要は神が決める」発言をしていましたが、余りにも現場を知らない政治家だなあと思っています。

 

(0PM、追記)

愛媛県の一般会計:約6,360億円のうち、地方交付税は約1,670億円(26%)、松山市の一般会計:約1,800億円のうち、地方交付税は約185億円(10%)です。国の税金の割合は今治市がはるかに多いです。親(国)の仕送りが1/4です。四国4県の中で最も人口の多い松山市と5番目の今治市とでは、かなり財政的なゆとりに違いがあるようです。市長、市役所はもっと考える必要があります。