東京都は一般会計予算が約7兆円、特別会計、公益企業会計を合わせた合計の予算規模は約14兆円になります。大企業の本社が首都圏、中京圏、関西圏に集中し、三大都市圏の大企業の従業者数は約40%で、全国平均の約30%を大きく上回ります。(「地域の雇用と産業を支える中小企業の実態(日本政策金融公庫 総合研究所、2015年6月9日)) 東京都に限ると大企業従業者数の割合は約60%になります。

(※ 三大都市圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県)

 

日本の全企業数の99%以上は中小企業ですが、東京都では「大企業」優先になっているような気がします。メディア(東京本社の新聞社、民放各局)も政権、大企業に阿(おもね)ることがあるのではと思います。流行りの言葉では「忖度(そんたく)」でしょう。全国紙の中には、豊洲市場について、「移転推進派」の業者や研究者・学者だけに取材して記事にしている場合が見受けられます。

 

さて、豊洲市場に関して、豊洲市場について:「築地移転の闇をひらく」(4月6日) で紹介した2冊の本を読みました。昨年12月に出版された「築地移転の闇をひらく」(著者:中澤誠・水谷和子・宇都宮健児)と「徹底追及 築地市場の豊洲移転」です。

 

 

東京ガスからの土地取得の経緯や建築費の高騰の問題はさておき、これからのことにメディアは注力して欲しいと思います。建物や地下水管理システムは完成?していますが、使えるかどうかの検証はされていないように考えています。経営の持続性や買い回りの利便性など、移転推進派だけでなく、慎重派、反対派の業者や買い出し人などにも丁寧に取材して欲しいです。また、昨年11月に小池都知事が工程表を出しているので、粛々と経緯を見守るべきでしょう。環境アセスメント審議が終わるまでは最低限、待つべきだと考えています。都条例で定められているので、手続きは必須です。

 

私は関西在住ですが、大阪市中央卸売市場本場(大阪市福島区)は現在地再整備で、1989年(平成元年)に建設工事に着工し、2002年(平成14年)に完成しています。したがって、現在地再整備は「机上の空論」ではありません。神戸市中央卸売市場PFI事業で民間委託されています。東京都大田市場は敷地面積が約35 ha(35万平米)、建築面積が約13万平米(延べ床面積:約23万平米)で敷地の中央部をJRのトンネルが縦断しているので、地上は長方形の敷地を高速道路が横切っていません。

 

画像で紹介した2冊の本は、読んでいて違和感はありませんでした。むしろ、「調査報道」として優れている印象でした。一方で、偏っているという考えの方もいるでしょう。それであれば、新聞社などのメディアは自前の出版社があるので、本にすべきでしょう。また、移転推進派は、地下水管理システムの現在の状況をどう考えているのか、環境アセスメント審議が終わるまで待てないのかを答えるべきでしょう。4月11日、17〜18日の雨で、地下水位は最大で AP + 4 mとなっています。AP + 2 m付近に毛管現象を抑えるための砕石層がありますが、地下水はそれよりも 2 m 高い場所にあることになります。「地下水は飲まないから安全」と言っていても、集中豪雨であちこち冠水したり、マンホールから水が噴出すれば、流石に問題でしょう(そうならないという保証はありません)。地下水モニタリング調査では、ベンゼンが最大で環境基準の79倍、ヒ素が3.8倍という結果が確定しました。ベンゼンは東京ガスの操業由来の汚染物質です。

 

豊洲市場について:「水産庁・元課長の書いた本」(4月5日) で紹介した豊洲市場」これからの問題点 も良書だと思います。

 

移転延期によって、約700万円@日の維持費がかかり、業者への補償も発生しています。これまでに100億円支出したという報道もありますが、石原、猪瀬、舛添知事らによって、約6千億円の経費が投入されました。桁が一桁違います。確かに100億円は大きいですが、6千億円のことを頭に入れておかなければなりません。将来の需要予測が甘いまま、急かされたように「前のめり」で進められてきた事業をどうすれば、移転慎重派や移転反対派に理解してもらえるのかは、東京都だけでなく、メディアの役割でもあると考えています。

 

話題が飛びますが、横浜市の「傾斜」したマンション(2007年(平成19年)11月完成)は民間デベロッパーの負担で全棟建て替えが昨年12月に決定しました。豊洲市場に移転することがあれば、移転後の不具合の主たる責任は東京都が負うことになります。前回の専門家会議は2007年(平成19年)5月に第1回が開催されたので、5月で10年となります。奇しくも横浜市の「傾斜」したマンションと同時期です。豊洲市場は市場会計で賄われていますが、卸業者、仲卸業者は入居する権利と、設備を買っています(仲卸の営業権は実勢、2,000万円という話もあります)。百貨店のテナントに近いのでしょう。「6千億円もかけたからもったいない」のか「使い物にならない」のかは判断が難しいです。何が問題として残されているのか、それが追加的対策工事で解決するのか、冷静な判断が必要でしょう。私は現時点では、土壌汚染対策工事が不十分なまま、主要棟ほか建設工事が始まった(2014年(平成26年)3月)と考えています。また、建物が竣工して東京都に引き渡された(昨年5月)のに、地下水管理システムが昨年10月に完成というのは、順序があべこべです。