どうやって強制しないで人の行動を誘導できるのか?

他者の行動を変えるというのは簡単なことではありません。

たとえば、電気の使用を控えてほしいという状況を考えます。

 

東日本大震災の直後に緊急の対策を取らざるをえない状況が実際にありました。

地震と津波と原発事故などにより電力の供給能力が大きく失われてしまい深刻な電力不足が生じました。
一時的であっても電力使用が供給能力を超えてしまうと大規模停電が発生し、交通事故や医療現場で人の命に係わる深刻な影響がでてしまうことが懸念されました。

 

このとき政府は計画停電や大規模事業者の使用制限など、電気の使用を抑制しました。

停電していれば電気は使えませんし、使用上限が決められていればその量を超えての使用はできませんから、この施策は電力使用使用抑制を強制する施策と言えます(その是非を議論しているのではありません)。

 

もちろん、このような強制をしないで済むのであれば、それにこしたことはありません。
 

課税や補助金などで金銭面で人々の行動を誘導する方法もあります。

たとえば、電気料金に課税をして電力の使用単価を10倍にすれば、多くの家庭で節電を意識するようになり、電気の使用は減るでしょう。
お金さえ払えば使えるわけですから、強制はされていませんが経済的には節約を余儀なくされる家計もあるでしょうから、強制に近いと言えるかもしれません。

一般にナッジと呼ばれている施策はこのようにお金で誘導するものでもありません

 

ナッジは強制やお金で人を動かそうとするのではなく、人間の心理や行動の癖を利用して緩やかに人の行動をある方向に誘導しようとする施策です。

 

ナッジでよく使われる癖の一つは「人は初期設定(デフォルト)を変えずに使う傾向がある」というものです。

たとえば、パソコンでこの記事を読んでいる人は画面の明るさ、コントラスト、文字の大きさなどを自由に変えることができますよね。でも、実際にそれらを自分好みに調整してパソコンを使っている人はほとんどいません。初期設定のまま使っています。長く使うことを考えれば、その人にあった設定に変えてもいいものですが、多くの人はそれをしないのです。
 もちろん、あまりにも画面が暗かったり、コントラストがハッキリしていなかったり、文字が小さすぎたりすれば設定を自分好みに調整して使うでしょう。その許容範囲が狭い人は設定を変えますが、許容範囲が広い人や設定の変え方がわからない人、変えるのが面倒だという人たちはそのまま使います。

 この癖は節電の問題に応用できます。様々な電化製品の初期設定を低電力モードにするのです。もちろん、多くの人たちが設定を変えたくなるような極端な低電力モードではダメです。「そう言われるとちょっと暗いのかな」という程度にパソコンの画面や部屋の照明を暗く設定しておけば、それだけで緩やかに電気の節約を促すことになります。

 「そんな施策に効果はあるのか?」と疑問に思われるかもしれませんが、実際に効果が上がっているという事例が多く報告されています。

 

 具体的には
・一定時間が経過すると照明が切れるように設定する。

・電化製品の初期設定を低電力モードにして出荷するようにお願いする。
などがあります。

 

ナッジで使われる人間の心理と行動の癖としては他に以下のようなものがあります。

他の人と同じ行動ととりたくなる(群集心理)
 例:サクラを使って集客をする 節電している人たちの電気の使用状況を伝える
松竹梅なら竹を選びたくなる(極端な選択を嫌う心理)

 例:本当に選ばせたいメニューが中間の選択肢になるように、それより高いメニューと安いメニューを作る。
価格などの数字に過度に影響される(ポイント1ポイントの差、ガソリンの値段1円の差に敏感に反応してしまう)

 例:1時間ごとに電気料金が携帯電話に通知されるようにする。クレジットカードの使用額についての情報を頻繁に通知する 逆に価格や使用料金がわからないと無駄遣いをしてしまいやすい。

選択肢が多すぎると選べなくなる(決定麻痺と呼ばれる現象)

 例:選択肢をあえて少なくする 売れすじの商品トップ3を蔦
勝負ごとになると夢中になる
 例:節電を競わせる、あるいは節電アイデアを募集して優秀なアイデアに賞を与えるなど

 

次のブログでは、コロナ禍でのナッジの事例を紹介したいと思います。