「蝉の幼虫は、小鳥が活動を止める暗くなりはじめた頃に土の中から這い出してきて、夜に羽化を始める。

羽がのび、乾き、飛べるようになるのが夜明けどき、つまり小鳥が活動を始める時間帯だ。」

そういえば、幼い頃、家の裏庭にアブラゼミの羽化を見ようとして、遅くまで起きていた。

途中で眠くなって、母親に羽化が始まったら起こして欲しいと言い残し、眠りについた。

母親が起こしに来てくれたが、それよりももう眠いのが先で、ぶつぶつ言いながら羽化を見に裏庭に下りていくと、母親の照らしてくれる懐中電灯の光の先に、青白い羽がまだ伸びきっていずに、縮んだ状態で闇夜に浮かび上がっているのが、なんとも不思議で幻想的だった。

それが丁度日にちの変わる真夜中頃だったと思う。




油蝉じいじいと鳴く朝霞 いのちひとつのものがたりする