暑い夏だった。
子供の頃、川で魚捕りをしていて、大きな鯉を捕まえた。黒
い背に金色の腹をした真鯉だった。
友達と一緒に捕まえた。
バケツに入れて持って帰ると、祖父が見て五百円で売ってくれという。
友人たちと相談して、迷ったあげく売らないことにした。
売るには惜しい大物だった。
その鯉が一日もたたないうちに死んでしまった。
腹を水面に浮かべて動かない。
そのとき初めて水道の水にはカルキが入れてあるので、魚を入れるなら一日くらい汲み置きしておかないとだめなのだと知った。
結局、魚もお金も失ったことになった。
盥水日向に置いて初夏の静寂というひとつの形