高校のクラブ活動の延長で、今でも年に一度、ハンドボールの対抗試合がある。もう何十年も続いた伝統だけど、自分たちのようにそこそこ歳を取ったOBやOGは試合よりもその後の飲み会を楽しみに参加するような緩い伝統だ。
今年も初夏に催され、夜の二次会はいつもの古い居酒屋で現役高校生から30代の先輩までが入り乱れて大騒ぎをした。高校生時分から参加していたのにいつの間にやら最上位くらいになってしまった自分からすると、年々新しい代が参加してくるので最早誰が誰かわからない。そんな心地よいアウェー感を今年も一番隅っこのお気に入りのポジションで味わっていた。
しかしもう30歳を超えてくると高校くらいの趣味だなんだという若い会話に着いていくのは流石に疲れる。話を聞き流しながら周りを見ていると、うちの高校は今でもそれなりの進学校なので、体育会系の部活とはいえ明らかに運動をしていないような青白い子も混じっていた。特に自分の左の壁際にどうも発育の悪い双子のような女の子がもたれかかっていて、二人ともこういう場が苦手なのか、うつむいて肩くらいの髪の毛で表情もわからない有様だ。
さすがに微動だにしないのでちょっと構ってやろうかと話しかける。
「なんかえらい疲れてるなー、大丈夫?」
少し頭を動かしたけれど返事がない。試合で疲れて寝てるのかもしれない。
さっきから自分の右に陣取って話しかけてくれていた子にも苦笑交じりで答えた。
「フラれたわー、まぁ疲れてるみたいやからそっとしといたろか」
きょとんとしながらも右の子はまた自分の趣味の話を始めた。
それからしばらくして、なんとなくまた左を見た。例の暗い双子がいる。まぁ失礼な話だけれど見ると痩せてるのか、二人ともまるでハンガーにかけた制服に頭が乗っかっているような体型だ。やっぱりうつむいていて目元までは見えない。口元はやっぱりやたらと青白い。
「どうしたんですかぁー?」
と右の子につつかれて会話に戻ったけれど、何か引っかかる。
一度自分の左の壁際をよく見る。
壁にかかった制服のような体型、どころではなかった。その制服は壁から数cmも起伏が無いように見える。今思うとどう考えても壁から突き出しているが、その時の自分はお酒も入っていて、なんだか不思議・・・としか思わなかった。そしてそのままその双子に話しかけようとした。
「なぁ、君ら・・・」
その瞬間、いつの間にか自分の左に座っていたもっと青白い、学生服の男の子がこっちを覗き込んで、ダメだよ、って感じで 「しーっ」 と口に指を当てた。あぁ、あの子たちには声をかけちゃいけないんだ、と感じた自分は、なんとなく納得して右の女の子との会話に戻った。
そして会が終わって店を出るときになって気が付いた。
そういえば自分は一番左に座っていた。自分の左には、壁から飛び出していた双子も、それに声をかけようとしたときに止めてくれた男の子も、元々座って居なかったんだ。
今でもその男の子の顔ははっきりと覚えている。
この夏にあった、不思議な話。



