なぜ、人並みなのだろう。


大学生になるために、僕は色々な知識を身につけた。

僕の身につけた知識の中のロボットは、何かしら人間ができないことをできる存在であり、

ロボットは人間に頼られる存在のはずだ。


でも、僕は全ての能力が『人並み』の存在であり、

ロボットの僕より頼れる人間は星の数ほどいるのだろう。

じゃあ、なぜ僕は生まれたのだろう。


ロボットは、人間ができないことを補うために作られた存在のはずだ。

でも、僕は人間並みのことしかできない。

人間なんていっぱい存在するし、そもそも僕を作ったのも人間だ。

僕が存在する意義はなんだろう。

僕の記憶が始まった時から、そんな疑問を持っていた。


僕は川田さんというおじいさんと一緒に住んでいる。

川田さんが何者かはよく分からない。

僕を作った人かもしれないし、違うかもしれない。

川田さんは口数が少なく、特に自分の話はほとんどしたことがない。

でも、川田さんの数少ない言葉で印象に残っている言葉がある。


「科学が求めるものの頂点は、人間なんだよ」

僕の本当の名前はA-753、名前というよりは型番と言ったほうが正しいかもしれない。


僕は2年前に作られ、それからすぐ社会に適合できるようにあらゆる学習を受けた。

しかし、ロボットと言っても、メモリが許す限り情報を完全に記憶できるわけではない。

学習したことでも、今ではよく思い出せない記憶がいっぱいある。


僕は普通の人間と同じように生活できる。

呼吸をする、食事をする、生理現象もある。

人間と同じ形でエネルギーを補給しているのだ。

喜怒哀楽の感情も表現できる。

会話ができるし、メールもできる、読書感想文だって書ける。

運動だってできる。

野球、サッカー、バスケ。

全て人並みにこなせるのだ。

人並みに。


しかし、人並みにしかできないのだ…

東大生レベルの頭脳なんか持ってないし、トップアスリート並の運動能力もない。

全ての能力が人間の平均レベルで構成されているのだ。


それは、僕が『最も人間らしい』ロボットを目指して作られた結果だった。

 「明日は入学式だな」


僕の名前は、鈴木大介。


中学卒業まで北海道の小さな島で暮らしていて、高校からは札幌の高校に通うはずだった。

しかし、突然両親が離婚。僕は、”一緒に暮らそう”と手を差し伸べてくる父も母も選ばなかった。

始まるはずだった札幌での高校生活も急にダルくなってしまい、入学式一週間前に入学を辞退した。

一応、札幌には引っ越した。もちろん一人暮らし、お金は両親から十分すぎるほど貰っていた。


そんなこんなで、中学卒業から3ヶ月が経った。

目的もなくふらついていた午後、ある大学の前で立ち止まる。

キャンパスの中の光景は、漠然とただ楽しそうだった。

ただそれだけ。


その瞬間から僕は大学生になるという目標を見つけた。

しかし、今さら高校生になりたいとは思わない。なので、大検の道を選んだ。

勉強が好きではなかったが、頭はよかった。大検は取得するまでの時間に耐えることとの戦いだった。

そんな長い時間を耐え切り、大検を無事取得。大学にも合格し、この春から憧れの大学生になる。

そして、いよいよ明日は念願の入学式。 …という設定らしい。


今の自己紹介は、僕が大学で生活するために作られた過去。

僕にはそんな過去はないし、他の過去もない。だってロボットだから…