アメリカについての本を読んでいるはずなのに、なぜか平行して読んだこちらが先に読み終わりました。というか、アメリカ本(2冊中の1冊ですが)は、「お先真っ暗」感が漂い手、精神衛生上よくない感じで、読むスピードが上がりません。で、先に読み終わった本がこちらです。

村上茂久, 2022, 『決算書ナゾトキトレーニング』, PHP研究所.


お値段が900円と1000円以下なのがよいですね。昔の新書らしい値段です。ちなみに同じPHPの前に読んだ本も990円とギリ1000円を切っていました。出版社の方針でしょうか。あと、PHPって赤い(煉瓦色というべきか)表紙という印象が個人的には強く、あのシンプルさは好きだったので、白系のこの表紙はちょっと残念です。

さて本題です。いくつかの問題点というか注意点がありそうです。まず1点目として、この手の本を読む場合の1冊目としては不適切です。前提として財務3表の読み方ぐらいは知っていない読めません。入門書と思っていきなり読むと、何が何だかわからなくなります。これまでいろいろ読んで、短信とかもそれなりに見てきたので何とかなりましたが、それがなかったら何ともならなかった。財務3表の読み方ということでは、手持ちの本で言うと、写真にあるような本を何となくわかる程度の理解でよいので読んでおく必要があるでしょうか。左の新書は自分で買った本(書評書いたっけ?)、右は兄の遺品で一応手元に残したけど読んでいません。


2点目として、構成というか順番に難があるように思えます。わかりやすくするために会話形式にしたということで、確かに読みやすくなったのかもしれませんが、全体像が把握しにくくなっているような気がします。具体的にいうと、第5章がIR情報情報の説明というか、決算書の見方の種類を書いている章になります。これを第1章に持ってきて、それぞれの見方を整理した上で、第2章以降で個別の具体的事例を書いていった方が、全体を俯瞰しながら、今どの部分を呼んでいるかがわかりやすかったのではないかと思います。ただ、ストーリー仕立ての会話形式だから、問題がいくつか出てきてそれについて展開してから、全体を整理するという書き方になってしまったのでしょう。

3点目として6事例が出てくるのですが、そのうちの第1~4章のメルカリ、ソフトバンク、Slack、アマゾンがいわゆる決算書の読み方を説明するメインの事例のようです。が、この4事例はいずれもトンガリ過ぎています。典型的なので理解するにはよいのかもしれませんが、実際に他の企業を調べるときに極端すぎて参考にしづらいです。もちろん、読むだけでも「知っていて損はない」内容ですが、やっぱり実際にデータをいじって使えるようにならないと価値は半減するかと思います。そこまで考えると、例題というか「ソフトバンクの類似企業としては○○社がありますので調べてみましょう」とか「グロース市場の上場直後の企業の場合にこの分析が有効」とか、そういう書き方で実際の分析に誘導するような書き方もあったかもしれません。あと、Slackとアマゾンいたってはアメリカ企業で、企業情報も全部英語なんですよね。


ついでなので残りふたつの事例についていうと、、第6章のエーザイはなんだかオマケですね。非財務情報の分析で1冊かいてもよいのかもしれませんが、それを書くだけの情報が日本にはまだないのかもしれません。第7章の電通は「のれん」という四季報にも出てくる謎用語の説明です。これはこれで参考になったけど、ここの部分も会話形式の組み立て故に、読み進めていって後から「のれん」の話なんだと気づくことになります。会話仕立ての場合、読み進めやすいのは事実だけど、ストーリーに引っ張られて論理を追いにくくなるというか、「序論→結論→展開」というスタイルでの展開が出来ないんですよね。本書は「決算書をどう読むか」という方法に関する内容なので、冒頭に「これを学びます」という結論というか、課題と到達目標を明記した方がわかりやすいような気がします。

新書だから簡単に読めると思っていると、痛い目に遭うかもしれません。