気まぐれオレんちLP:『ピンク・レディー/ベスト・ヒット・アルバム』(1977) | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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 目を閉じてCDラックから一枚を引き出し、なるべく下調べや推敲をせずにそれについて何かを書く大喜利レヴュー、「気まぐれオレんちCD」のコーナーです。
 
 今回はCDではなくレコードの棚から選ぶ「オレんちLP」の回とします。
 前回の「オレんちLP」では、盤と盤の合間に隠れているシャイなレコードを引っ張りだしたのですが、今回は素直に選びます。
 
 いま、選びました。おおっ、ピンク・レディーの『ベスト・ヒット・アルバム』じゃないか。
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 ピンク・レディーか・・・。前の記事が紅白についてだったから、出来レースみたいでイヤだなぁ。
 というか、私はこのベスト盤に関してなら、寝てても猛烈に語りだしますよ。今さら聴かなくとも、この盤は全曲を脳内再生可能。余裕すぎる。
 この「気まぐれオレんち~」のコーナーは、レコードなどで持ってるけれど普段あまり馴染みのない音楽について考える、セルフ無茶ぶりを趣旨とするのですが、どうですかね。選びなおしたほうがいいのかな。
 こういう場合は、隣りに並んでる盤に振り替えるのも手だなと見てみたら、『NHK大河ドラマ 花の生涯から草燃えるまで』でした。年頭に大河ドラマの主題曲集(それも1979年までの)か・・・セリフやナレーション入りの2枚組はシンドイかなぁ。正月でダラけているので、楽させてください。
 ピンク・レディーにしましょう。なんか小学校時代の正月っぽくていいじゃないですか。
 
(収録時間の約43分が経過)
 
 聴きました。”ひとりカラオケ”状態でした。内容についての記憶に自信はあったものの、ここまでハッキリと歌えるとは。
 1977年の12月にリリースされた14曲入りのベスト・アルバムです。それまでに発表されたシングルの両面を12曲と、ファースト・アルバムに収録されていたミーとケイのソロ曲が1曲ずつ入っています。
 1977年の12月といえば「UFO」がリリースされたタイミングで、私は小学4年生でした。その後、母親に顔をしかめられながらピンク・レディーの写真集を買ってもらったり、『ミーとケイの作った本』というタレント本も持っていました。『近代映画』や『明星』から切り抜きを集めたりもしました。私はキャンディーズも大好きでしたが、あちらのファンの年齢層はもう少し上だったと思います。ピンク・レディーのお客さんは日本全国の小学生の子供たちだったんです。
 
 収録曲を書き出すと、次のようになります。
A面
1.UFO
2.レディーX
3.ウォンテッド (指名手配)
4.逃げろお嬢さん
5.渚のシンドバッド
6.パパイヤ軍団
7.ゆううつ日 *ミーのソロ曲
B面
1.カルメン'77
2.パイプの怪人
3.S・O・S
4.ピンクの林檎
5.ペッパー警部
6.乾杯お嬢さん
7.インスピレーション(霊感)*ケイのソロ曲
 
 各面とも、7曲めを除いて奇数番がシングルのA面で、リリースの新しい順から並べてあります。
 「ウォンテッド(指名手配)」、「インスピレーション(霊感)」と日本語の説明がサブ・タイトルについているのが時代を感じさせます。「ウォンテッド」=「指名手配」であることはピンク・レディーによって常識化されたと言っても過言ではありません。
   いっぽうで、今なら「インスピレーション」を「霊感」とは訳しませんよね。良からぬイメージがある。また、当時このタイトルを見たときはオカルト・ブームだったので、私には「霊感」という言葉は祟りを連想させました。
 
 このベスト盤の収録曲を聴くと、あらためてわかることがあります。セクシーな歌ばかりなんです。ピンク・レディーの名に恥じないお色気路線。♪わたしったち~食べごろよ~♪と歌う「パパイヤ軍団」なんかはその最たるものですし、♪男は狼なのよ~気をつけなさい♪と歌う「S.O.S」にしても、自分たちが男のエッチな目線の対象であることに自覚的です。
 山口百恵もデビュー時に”体験もの”を続けざまに歌っていましたが、ピンク・レディーはもっとカラッとしていて、例えるならば映画『桃尻娘』シリーズでの竹田かほり。『桃尻娘』でも、橋本治の原作小説の知的に屈折した反逆心はありません。あくまで映画のほう。
 若者の恋愛観が旧来的な身持ちの固さを残しつつも、だいぶ80年代の狂騒に近づいてきた、このライトでコミカルでさえある性意識。1977年から1979年ごろまでの世の中に流れていた空気の明るさと重ねることもできます。
 
 そうしたお色気路線の中にも、「カルメン'77」や「ウォンテッド」に、フィクション感はすでにピンク・レディーの特徴として見受けられますが、そのフィクション感が彼女たちの人気の上昇や周知されたセクシー度と絶妙に配合されたのが「UFO」でした。あれは宇宙人との恋愛をテーマにした荒唐無稽なラヴソングの形をとってはいるけれど、阿久悠の歌詞にはいたるところに思わせぶりなお色気が散りばめられています。
 ところが、この曲の振り付けが小学生の女の子たちを中心に、それまでのシングル曲を凌ぐ爆発的な人気を呼んだんですね。♪手を合わせて見つめるだけで愛し合える♪というのはロジェ・ヴァディム監督のエロティックなSFファンタジー映画『バーバレラ』に出てくる場面で、そこでの「手を合わせて愛し合う」は即物的な行為として描かれていました。でも、そんなことを知らない女子がみんなこの曲を踊っていたんです。
 
 「UFO」が最新シングルの時点で発売されたこのベスト盤には当然収録されていませんが、その次のシングルは『サウスポー』でした。女の子投手が王貞治と魔球"ハリケーン"で一騎打ちするストーリーは「UFO」をさらにファンタジックなフィクションに傾斜させたもので、健全ですらありました。そして、ここからピンク・レディーのシングル曲は「モンスター」「透明人間」と、まるで江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズのようにジュヴナイル化していきます。
 つまり、「UFO」がピンク・レディーの転換点だったのです。このアルバムは、ピンク・レディーをマネて踊りだした子供たちに向けた、枝からポトンと落ちそうなパパイヤ軍団時代のミーとケイの初期ベストでした。
 
 渚のシンドバッドみたいなチャラ男に惹かれ、ペッパー警部やパイプの怪人に恋路を遮られたりしながら、「S.O.S」や「逃げろお嬢さん」の忠告も聞かずにピンクの林檎をかじったがために、悪い男に「乾杯お嬢さん」と口説かれる。自らを「レディーX」と称した恋の戯れに興じてみるも、本性はのめり込みやすく情熱的な77年型カルメンであることを隠せず、鉄の手錠と重い鎖を手にして男の逮捕に向かう。そこに現れたのが地球人離れしたテクを持つ新たな男。それが初期のピンク・レディーが歌って踊って演じた女の子像で、このアルバムはそのお色気ムンムン期の総決算でした。
 
 ここで言及したいのが都倉俊一による作/編曲の手腕です。彼がピンク・レディーの楽曲で挑んだのは、パーカッシヴと言ってもいいリズムの強調、連打。
 都倉俊一は先に山本リンダの一連のシングルでも阿久悠と組み、そこで狂おしいダンス歌謡曲を放っています。リンダのパフォーマンスは狐憑きか奔馬のごとく常軌を逸した凄まじさでしたが、静岡から上京してきた見た目はごく普通の女の子二人に、16ビートを織り込んだファンキーでセクシーな「ペッパー警部」をデビュー曲として書いたのだから、冒険的というかブッ飛んでます。
 また、彼女たちのヒット・ソングのほとんど全てには、3連符などを効果的に用いて、全楽器が一丸となってリズムを叩きつけるインスト・パートが曲を盛り上げていました。
 例として挙げるなら、何と言っても「ウォンテッド」。「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を下敷きにしたとおぼしきリフから激しくドラマティックに展開していく要所要所で、巧みに配置されたリズムのアクセントが効いています。
 あるいは、イントロでいうと「ペッパー警部」でのベースとドラム、「カルメン'77」でのトランペットなども音階以上にリズムで聞かせる趣向。曲調をキャンディーズに寄せたと思われる「S.O.S」ではサビのパートで特にビートを強調しているし、「渚のシンドバッド」はロックンロールのリズミックなリフを♪ア、ア、アー、アー♪の歌やホーン・セクションのフレーズに置き換える秀逸さです。
 こうした試みを可能にしたのは、二人の歌が従来の歌謡曲の枠にとらわれないリズム感を備えていたからでもあります。
 とくにミーが高音部のアピールとともにそれを担っていて、これまた非常に強いリズムのアクセントを利かせて歌います。高音でメリハリのはっきりとした彼女の節回しはピンク・レディーの歌の華でした。
 ケイはハスキーな声質ゆえにシングル曲でミーの声の陰に隠れることが多かったのですが、ミーがリズムならケイはブルース。二人あわせてリズム&ブルースだったのです。
 いや、冗談などではなく、ケイのソロ曲である「インスピレーション(霊感)」はピンク・レディーに興味のない人にもお聞かせしたいブギウギ調の佳曲で、ふて腐れたように♪特別好きなタイプでもない人なのに、最初からなぜか心ひかれたの♪と歌うケイの声はジャジーなブルース・フィーリングを自然に醸し出しています。そんな”焼津の溜息”とでも呼びたいケイの声が、たとえば「渚のシンドバッド」で♪くちびる~盗む早業は~♪とミーのカウンターで絡んでくると、小学生の私はなぜか辛抱たまらん気分になったものでした。
 
 健康で明るいお色気と、ファンキーなアクセントの利いたリズムのつるべ打ち。そして、それぞれに光と影を受け持つミーとケイのハーモニー。このベスト盤にはピンク・レディーの初期の魅力が詰まっています。活動の後期までを含めた増補版としてCD化もされましたが、「UFO」までの時期で区切ってある元のLPの意義は失われていません。
 コンサートに行くことさえ夢の夢だった私は、このLPを擦り切れるほど聴いて、「パパイヤ軍団」のアケスケな歌詞に赤面し、「パイプの怪人」とはお父さんのことにちがいないと推理したり、ミーの歌とストリングスが美しく哀しい「ゆううつ日」やケイの歌とバックのピアノがブルージーな「インスピレーション」にヒット曲以外の宝を見つけました。
 
 前述したように私にとってはピンク・レディーもキャンディーズも子供時代のアイドルだったけれど、キャンディーズが有終の美を飾ったのに対して、ピンク・レディーの人気の衰退は子供ごころにも落胆させるものがありました。
 ピンク・レディーの終焉にはプライベートな事柄も関係していたようで、一概にこうだと断言はできません。でも、テレビで見た後楽園球場の解散コンサートに降っていた雨は確実に無常を感じさせました。
 けれど、一世を風靡したアイドルの絶頂期の輝きはこのアルバムに刻まれています。改めて聴いて感を深めるに、これは昭和50年代前半の歌謡曲を語るうえで欠かすことのできないベスト・アルバムであります。
 
(補記)ちなみに、私のいちばん好きなピンク・レディーのシングル曲は「ウォンテッド」で、「透明人間」のB面「スーパーモンキー孫悟空」と同率1位です。2位は「マンデー・モナリザ・クラブ」かなぁ。