いま一度、「恋するフォーチュンクッキー」のことなど。 | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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(2013年、「恋チュン」完成前の指原莉乃、新曲が音頭になるらしいと嘆く。)

1. 誰もが知ってる曲、「恋チュン」
 
 次なるハードルは、「恋するフォーチュンクッキー」か…。
 第7回AKBシングル選抜総選挙の1位が決定した瞬間、そんなことを思いました。
 「さ!し!は!ら!り!の!」とコールする徳光さんの声。19万4千という圧倒的な票数はいろんな意味でシンドイなぁ、ファンだから嬉しいけど…と複雑な思いで画面を見つめながら、2年前の2013年に彼女がはじめて首位に輝いてから、センター曲の「恋するフォーチュンクッキー」がテレビで初披露された頃のことが脳裏によみがえります

 略して「恋チュン」。ファンのあいだでは当初「KFC」と呼ばれていたのが、シングルの帯に「”恋チュン”踊れば、嫌なことも忘れられる。」のコピーが書かれていたこともあって、こっちで定着しました。ただ、ファン以外には、たとえば「銀恋」の略称ほどの認知度はなく、フルタイトルか「フォーチュンクッキー」で通っているようです。

 そう、この曲のタイトルはファン以外にも知られているんですね。AKBのみならず、昨今のヒット曲で、不特定多数がタイトルを知っている、なんて事はめずらしい。
 今年、2015年の4月に日本レコード協会が発表したところによると、この曲は発売から2年近い時間をかけて、配信回数がミリオンに達したそうです。握手券も生写真もつかないダウンロードでそれだけ売れたのも驚きですし、こんな長いスパンで売れ続ける曲というのも、これまた最近ではめずらしい出来事です。
 さらに、JOYSOUNDの2014年度カラオケ年間ランキングでは、リリースから1年たっても、「Let it go ありのままに」に次ぐ第2位だったとか。
 これらの記録を見て、狂信的AKBファンが一人で何百回もダウンロードやカラオケを繰り返したからだろ、なんて邪推はさすがに説得力に欠けます。

 人口に膾炙するという意味で、AKBには久しくなかった真のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」。
 私はこの曲のことが本当に好きで、当ブログでも「HKT48『メロンジュース』、「2013年のベスト:AKB48『恋するフォーチュンクッキー』の記事で触れましたが、もっと具体的にどういうところが好きなのかをいつか書きたいと思いながら、時間だけがたってしまいました。今日は、私にとっての「恋チュン」が何なのかを改めて書いておきたいと思います。

2. リズミックで器楽的なたのしさ
 
 「恋チュン」の曲としての特徴は、わりあい簡単に挙げられます。
 BPMは120くらいで、「ヘビーローテーション」が180程度なので、AKBのシングル曲としては遅めです。
 ベース、ドラムス、ギターに、ブラスとストリングスがシンセで賄われており、いろいろな人が指摘するように、70年代のフィリー・ソウルの要素がリズムのパターンとストリングスのフレーズで顕著にあらわれています。
 この点も、ほかの「王道AKBソング」のトレードマークである、まるでヨドバシとドンキが同居するかのような、派手なギター・ソロとギラギラしたシンセ・ブラスをてんこ盛りにしたロック風味の仕上がりからはかけ離れています。
 ただし、ソウル系がこの曲だけかというとそんなことはなく、私のフェイバリットである「Baby!Baby!Baby!」や、今年に入ってからのSKE48の「今夜はJOIN US」、それに幾多の公演曲など、ほかにもあります。
(SKEの「今夜はJOIN US」。「恋チュン」好きの人にはぜひ聴いてほしい逸品です)

 曲が始まって、ベースとバスドラがユニゾンでタン、タン、タンと鳴ります。同時に右チャンネルから聞こえるギターが、「恋チュン」のAメロの背骨をなすフレーズ(コードはDとBmの繰り返し)を弾き、これがパーカッシヴなアクセントにもなってイントロをシンコペーションで揺らします。
 そこにバックトラック上の主役ともいえるストリングス・サウンドが、リズム・セクションとコール&レスポンスする形で加わり、ドラムスがドカスカと割って入って、おなじみのあの「恋チュン」のハッピーなリフが鳴り響く。

 ここまでをひとことで言うなら、「器楽的」です。歌がまだ出てこないんだから当たり前じゃないか、と言われるかもしれませんが、そうじゃないんです。    
 「大声ダイヤモンド」「ポニーテールとシュシュ」などの「王道AKBソング」のイントロと聴き比べれば、楽器と楽器の音を明瞭に位置付けて隙間を作り、リズミックな絡みとうねりで歌に導く「恋チュン」のイントロが異例の聞かせ方を取っていることがわかるかと思います。
 また、ギターのトップ・ノートがストリングスやベースと合わさることで生まれる、実際には楽器単位で出していないフレーズが、「ゴースト的に」鳴ってるように聞こえます。このイントロに代表される器楽的なたのしさが曲全編にあふれて、「恋チュン」は良い意味でAKBらしくないんです。

 ギターということでは、左チャンネルでひたすら16ビートのカッティングを続ける、ときどき軽くワウを利かせたリズム・ギター。これが「恋チュン」の最優秀助演楽器です。
 この曲にはギター・ソロはありません。けれども、最初から最後まで、このギターがリズムのカッティングで最高のソロを奏でていると私は思っています。
 印象に残るのはストリングスとブラスですが、このストリングスは、ハッキリ言って、やりすぎです。本場のソウル・ミュージックの「引き」の美学からすると、グイグイ行ってます。フィリー・ソウルを愛好する人は、このあまりにはしゃぎすぎるストリングスに苦笑するでしょう。ブラスの音も、AKBとしては抑制されているほうだけれど、やっぱりまだバッタもの感があります。
 しかし、「恋チュン」の場合はこのバッタもの感がみごとに楽曲の味になっています。本場を忠実にコピーしない、「適度ないい加減さ」が心地良いんです。私は意図してこういう按配に調整したんだと思います。

 これが指原莉乃のザックバランな持ち味や人を油断させる「フラ」のある個性と、歌詞に描かれる平凡な女の子像にも合っています。
 この曲が書かれた2013年、彼女は現在のようにAKBグループ内で強大な影響力を発揮する直前で、HKTを羽ばたかせるという使命に向けて遮二無二努力を重ねている日々でした。
 「恋チュン」で歌われているような非モテ女子像は、彼女の恋愛スキャンダルによって無効になってはいたんですけど、笑顔でいればアッと驚く奇跡(2013年の1位獲得はまさにこれ)が起きるかもしれないよ、人生捨てたもんじゃないよ、というポジティヴかつこれまた適度にお気楽なメッセージを体現するには、まだ有効なキャラクターでした。そして、このリラックスしたポジティヴさが音楽的な余裕と結びついているのも、「恋チュン」を長く好きでいさせる魅力です。
 その余裕の中で、指原莉乃の持ち前の甘い歌声が輝き、声が細くなってしまう高音の箇所や、HKTでより特徴的になる「か」を「きぃゃ」と発音する歌いかた(「何度目かの」が「なんどめきぃゃの」になる)など、アイドルへの長年の憧れが自然にしみこんだ歌ごころを聞かせます。

 音楽的な余裕は曲のあちこちに窺えます。横に揺れるグルーヴが自然な遊び心でハンドクラッピングを呼び、バック・コーラスにもその揺れに任せてのラフなノリの良さがあります。
 もっともわかりやすい遊びのポイントは、2番が「明日は明日の風が吹くと思う」で終わったあと、DとBmの繰り返しには戻らず、EmとF#m、そこからGmaj7へと上昇感を醸し出していくインストのパートです。ここもリズミックで「器楽的」な楽しさに満ちていますね。
 私の推測では、この部分は秋元先生のアイデアで補足されたのでしょう。「あのさ、昔、ディスコ行ってフィリーで踊ったらさ、曲のクライマックスで急にパッと雰囲気が変わって、どんどん昇っていくみたいな、最高にあがるパートがあったんだよ。あれ、できないかな。あれがいいんだよ。あれ作ってよ。パッと変わって昇っていくヤツ!」「パッと変わって昇ってくヤツ、ですか…」これはあくまで私の想像。でも、そう考えたくもなるでしょう?

3. 「恋チュン」が初披露された日
 
 そんなふうに、AKB48としては異例ずくめの作りだった新曲「恋するフォーチュンクッキー」は、2013年の6月29日にTBS『音楽の日』で初披露されました。
 それに先だって、指原1位の曲は音頭になる、という情報があり、音頭であればAKBといえども音楽的に大胆な冒険をしなければならないだろう、と少なからずワクワクしていたのです。その曲が指原センターの音頭であるなら、なおさら聴きたい。

 ところが、「音頭は冗談だった」との報が入り、ガッカリしました(結果的に、国内外でじつに多くの人が踊る「音頭」となりましたが)。舌打ちしながら漫然と見ていた番組で、AKBが登場しました。流し見がほぼ確定しかけたとき、あのイントロが始まったんです。
 え?なにこれ、「ハッスル」か?ドラムがドカスカ割って入って、あのリフ。お、リズムが横揺れだ、テンポも遅い、ムリクリな転調もない、ギターもシンセもうるさくない、なんだこれ、AKBっぽくない。そこに「カモンカモンカモンベイビー、占ってよ」。やられた~!
 画面では篠田麻里子が「地味な花は」の歌詞で自分の高い鼻を指さし、大島優子と一緒に途中でコマネチのフリを入れて遊んでいます。指原莉乃は緊張で顔をこわばらせながら、居並ぶ神メンをしたがえてセンターで歌い踊っています。
 出番が終了して、ネット上は賛否両論。「指原がAKBを壊した」とか、そういう手合いはまぁいいとして、新曲に乗れなかったファンの「クソ曲」の声と、AKBの曲を良いと感じて驚いている非ファンの声で真っ二つに分かれていました。
 それが、「恋するフォーチュンクッキー」がはじめて披露された日でした。

4. 「恋チュン」を超えられるのか?

 現在、AKB48の人気は現在下り坂にあると見られています。CDは売れるけれど、熱狂的ファン以外に誰もその売れた曲のタイトルすら知らない。グループ全体の規模が拡大するいっぽうで、一部のごくわずかなメンバーを除いて、一般的な知名度が得られていない。若い世代のメンバーにメディア出演の機会がなかなか与えられない。人気メンバーがドラマに出演しても満足のいく結果を出せない。このままいくと、グループは閉鎖的なサークル内で固定ファンのみを相手に活動を続けるほかない。
 私は、それでも悪くないと思います。そこに需要があってお金の動く流れがあるかぎり、そうやって年数を重ねていけばいつかは周りも認めるようにはなるでしょう。

 でも、本当にそれでいいのかAKB?という思いも捨てきれません。
 2005年に少ない観客数から始まって、世間から笑われ疎まれ叩かれて、10年かかって、「ヘビーローテーション」と「恋するフォーチュンクッキー」の2曲だけをみんなが歌ってくれました、でいいのか?

 8月に出る予定の新曲は井上ヨシマサ作曲と聞きました。「大声ダイヤモンド」「RIVER」「涙サプライズ!」「Everyday、カチューシャ」など、AKBファンのあいだで神曲とされるナンバーをたくさん書いた人です。
 私は正直言って不安です。なぜなら、井上ヨシマサ先生は天才ですが、いま「王道AKBソング」の神曲が増えたところで、それが「ヘビーローテーション」や「恋するフォーチュンクッキー」のような真のヒットになると楽観視できないからです。私は秋元先生のファンではありませんので、「次はヨシマサで行こう」との判断には疑問をおぼえてしまいます。
 しかし、「恋するフォーチュンクッキー」が出る前も、私はまったく期待していなかったのです。むしろ、音頭をバカにすんなよ、だからダメなんだよAKBって、と思っていました。

 今回の記事では、新しい「指原1位曲」のリリースに向けて、「恋チュン」に私が感じる魅力を整理してみました。これを書かせるのは、あの曲の真のヒットをAKBにとって一回こっきりのミラクルで終わらせてほしくない!という思いであります。「恋チュン」のハードルを超えるのが容易ではないこと、そして、一つずつが異なる楽曲に対して「超えるのか」という興味が不毛であることも、承知しているつもりです。

 かと言って、なにも「恋チュン」の類似品を作ってほしいとお願いしているのではありません。「心のプラカード」(佳作でしたが)の二の舞だけは絶対に避けてほしい。
 聴きたいのは、これがAKB?とファンをざわつかせ、非ファンを驚かせ、どちらをも呟かずにはおれなくさせる一曲。私は、「恋チュン」のときと同様に期待しないよう自分に言い聞かせながら、楽しみに待ちます。
 願わくば、ファンを、音楽的に、おもいっきり裏切ってもらえますように。

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(生放送で生歌ヴァージョン。アレンジも変えて、リリー・フランキーも参加。)