今日の撮影は外で、

しかも、冬もの…。


暑い、暑過ぎるよ。

モデルって大変…。

汗出まくりなのに、

写真では、

なかなか涼しそうな感じに上がってる。

いや~辛い。
「そしたらね、すぐに会いたいって言うのよ」

「で?」

「じゃあ、事務所に伺いますって言ったよ」
「いつ?」

「明日」

「あ、明日?」

「予定あった?」

「いや、別にないけど…」

「明日、待ち合わせしよ。5時に原宿の千疋屋で。
いや~ドキドキする~。でもさ、こういう経験もいいじゃない?」

というママの独断で、

その翌日に2人で面接に行くことになった。

原宿駅から、表参道を青山方面に歩く。

ママは、その間しゃべりっぱなしだった。

「私もスカウトされたりしてね」とか
「誰か有名人に会えるかなぁ?」
とかどれもこれも、どうでもいいような話だったけど、

楽しそうなママを見るのは嬉しかった。

しかも、
その日は、昨日まで湿気で不快だったのに、
爽やかな風が心地よくて、並木の緑もきれいで、私はなんだかウキウキしていた。

表参道から裏手の路地に入ると、

静かな住宅街になる。
ちょっと古びたビルの前でママが「ここかぁ。」と呟いた。

初めて足を踏み入れたモデル事務所。

受付は、電話がポツンと置いてあるだけ。

内線を調べて、ママが担当者に受付にいることを伝えた。

すると、すぐにパパくらいの歳の男の人が思いっきりの笑顔でやってきた。

「今日はありがとうございます。わざわざすみません。さあこちらにどうぞ!」

と言って応接室に通された。

もっと、おしゃれなイメージがあったのに、
壁に貼られた所属モデルのポスターや、

スタッフの予定ボードが乱雑に感じられて、
不安に思った。

その男性は、そんな私の心情を察して

「ちっともおしゃれな事務所じゃなくて、驚きますよね。」

と、私に声をかけた。
すると、

ママが「そうですねぇ」と言うので、

思わず、ひじでママの脇腹をつついてしまった。
ある日、学校から帰って家でテレビを見ていると、

ママが仕事から帰って来るなり、


玄関先からこう叫んだ。

「ママ、この前スカウトされた事務所の〈O〉に電話しちゃった~。」

私は、驚いて

三和土で、サンダルのストラップを外すのに手間取っているママに駆け寄った。

「なんで?っていうかなんだって?」

興味がなかったと思っていたのに、

なんだか、気になってしまった。