書評 『良寛 その仏道』(竹村牧男著・青土社)

 

                            岡本勝人

 

 

 本著は、良寛の仏道を検証する絶好の書物である。初期の出家から修行を契機とし、帰郷後の生活に視点を当てる。諸氏の業績と著者の広範な仏教的知識を照合させて、その仏道の総体はくまなく映し出されてくる。

岡山の円通寺で、国仙和尚のもとに曹洞禅を修行した。勤王の父・以南と師の国仙の死後、円通寺を出る。何度かの諸国行脚や高野山への旅を経て、故郷に帰ってきた。そこに、故郷での四十余年の良寛の還相がある。

 第一部は、良寛の仏道の足跡を四季折々の漢詩とともに十分に味わう。第二部は、良寛と道元の道心を『正法眼蔵』や『法華経』との関係として論じた。寒山詩の影響を受けた良寛。漢詩の解読は、禅語の典拠により禅の詩境を開示する。特に禅独特の立場からの『法華讃』の解釈には、詩と著語(じゃくご)による著者独自の学識的な内在性を見る。

 良寛と浄土教や空海との関係を論ずる第三部。南都や高野山では、天台と密教と浄土が唯識や如来蔵と混淆した。仏教史では、浄土教や曹洞宗や臨済宗が、晩年の市井の良寛に映し出されてくる。本書では、後期万葉の影響を受けた和歌にも、みずみずしい解釈が行われた。良寛の書の新たな発見もある。古法帖を独習した良寛の書。見返りの書影は、如浄の良寛の墨跡である。表紙も法華経の書跡が使用されている。

 良寛は、故郷の山河とともに、錫杖をもって托鉢し、こどもと遊び、弟子の貞信尼と手紙や歌を交換する。そこに、日常底を生きる常不軽菩薩の晩年の真姿が見える。その仏道は、禅を中心とする大乗仏教であるが、生活即放下の道が、存在論的に禅と浄土や密教を通底させる道筋となった。

 本書は、良寛の全体像を十全に実証してやまない。仏道と詩禅一味を直結させることこそが、良寛の真の像を物語ることであった。人生の哀しみを無自性空の世界に自省し、混迷する社会に光明を見出そうとする、仏教者秋月龍珉を師とする著者の真摯な声が聞こえてくる。

 

青土社

良寛 その仏道

竹村牧男著

(四六判・502頁・価4480円)

 

(週刊仏教タイムス2024年7月24日号)

 

 

 

 

 

 

 

 

                                  以上