喉元にアルコバレノの切っ先をピタリと当てられた龍王は、静かに両手を挙げて、降参の意思表示をした。

あれだけ激しく動いたのに、龍王も瑞希も、息を乱すどころか、汗すらかいていない。

痛いくらい静まり返った道場に、龍王の満足げな笑い声が響いた。

「よくやった! 瑞希、さすがは我の娘だ!」

「っ…!?」

驚く瑞希の肩に、龍王はそっと片手を置いた。

「そなたが普段、どれだけ厳しい戦いをしているかは、今の太刀筋でわかった。 これなら、きっといずれ来る時にも、陛下のお役に立てるに違いない。」

四皇や冥帝のことは、おそらくはまだ一部の仙人たちしか知らないのだろう。

あえて名前を伏せた龍王の気遣いに感謝しつつも、瑞希は父に尋ねたいことがあったことを思い出した。

「父上、お聞きしたいことがございます。」

「何だ?」

「こ、ここではちょっと…」

表情を硬くした瑞希に、龍王はふと苦笑を漏らすと、手招きした。

「我もそなたに話しておかねばならぬことがある。」

「………?」

「緑庵、瑞希と私室に戻る。 何かあれば即、知らせよ!」

「御意!」

軽く頭を下げた緑庵に背を向け、龍王と瑞希は歩き出した。

龍王の私室に入り、すすめられた椅子に座る。

「して? 聞きたいこととは何だ?」

龍王に尋ねられ、瑞希はどう切り出そうか迷った。

「あの…」

「冥帝のことか?」

「っ…!?」

ズバリと切り出してきた父に、瑞希は顔色を無くす。

そんな瑞希を見て、龍王は眉を寄せた。

「そなた、もしや『海竜種を従える龍王一族なら、冥帝も支配可能なのではないか?』などと思ってはおらぬだろうな?」

図星だったのか、瑞希の肩が大きく揺れた。

あまりにわかりやすい反応に、龍王はこめかみを軽く押さえた。

「できないんですか?」

恐る恐る聞いてきた瑞希を、龍王は軽く睨んだ。

「通常個体のラギアクルス希少種であれば、おそらくは支配も可能であろうよ。」

「ならっ…!」

パッと笑顔になった瑞希に、龍王は厳しい眼差しを向けた。

「言ったであろう? 『通常個体なら』と…」

「それでは?」

「強個体である冥帝を支配することは、不可能だ。」

龍王の言葉を聞いた瑞希の顔が、笑顔のまま固まった。