西王母に呼ばれてる、と言われて、ユイナの顔が引き締まった。

おそらくは、サナの黄龍継承のことに違いない。

黄龍亡き後、この崑崙山の主であり、女仙の長でもある西王母が、暫定的に身代わりを務めていた。

女官に連れられ、ユイナは西王母の待つ広間へと案内された。

そこにはすでに、次代の黄龍に指名されたサナ、黄龍の配下である四神(青龍・朱雀・玄武・白虎)が揃っていた。

広間の一段高いところに椅子があり、妖艶な美女が頬杖をついて座っている。

先代黄龍が清冽な黄金の百合なら、この女性は匂いたつ艶やかな牡丹、という風情である。

この女性こそが女仙の長であり、崑崙山の主、西王母(さいおうぼ)…

またの名を「瑶池金母」(ようちきんぼ)ともいう。

この西王母は若くて見目麗しく、また性格もはっきりしている為、何事にも控えめなユイナは、実は彼女が苦手だった。

「あんた、また泣いてたの?」

ユイナの目が赤くなっているのを目ざとく見つけ、西王母は眉を釣り上げた。

「い、いえ… 泣いてなど…」

「おいおい、あんまりイジメたらダメだよ。 彼女には、まだまだ天晶宮にいてもらわなきゃいけないんだから。」

ユイナが反論しかけると、それを遮った人物がいた。

西王母の隣に座るこれまた派手な外見の男性…

歴史上では自洞も持たず、また弟子をとらない一風変わった仙人として有名な、清源妙道真君である。

実はこの男性、どういう気まぐれか、白輝を弟子として預かってくれたのである。

どうやらそこには先代黄龍が深く関わっているらしいのだが…

詳しい事情は、ユイナも白輝も知らない。

だが、いくら今は人間として生まれ変わっているとはいえ、もとは大型モンスター、ベリオロスだった白輝を、他の男仙、女仙たちはなかなか受け入れてくれなかったのに、西王母も、清源妙道真君も、あっさりと受け入れてくれた。

そこはユイナも感謝してはいるのだが…

「私、やっぱりこの人苦手だ…」

二人に見られないように、ユイナはそっと下唇を噛んだ。

それに気付いたのか、白輝がそっと手を握りしめてきた。

そんなユイナと白輝の行動を見ているだろうに、西王母はそこには触れず、目を細めた。

「そろそろ、サナに黄龍を継承してもらわなきゃね。」

予想通りの西王母の言葉に、ユイナは居住まいを正した。