「急がなければ! “彼女”が戻ってきてしまう!」

彼女…?

彼女って誰だ…?

ああ、ようやく足止めができた…

けど、多分、これが限界だな…

せめて、瀕死にくらいはしておきたかったのに…


自分のそばで誰かが泣いている。

泣かないで…

僕が自分で決めたことだから…

後悔なんてしてない…

だけど、“あなた”を泣かせてしまうなんて…



「ボクハ、アナタヲマモリタカッタノニ…」



雪光はハッと目が覚めて飛び起きた。

目から涙が溢れている。

切なくて、切なすぎて胸が痛い。


「思い出した…」


あの日、自分はバギィたちが騒いでいるのを偶然、聞いた。

「人間の女がひとりでイビルジョーと戦ってる!」

へえ、と思った。

同時に「ずいぶん、命知らずなヤツだな」とも思った。

なんとなく興味がわいて、高台からこっそり見物してようと思って、戦ってるという場所へ向かった。

そして…

戦っているハンターを見て、息が止まりそうになった。

「何で“あの人”が…!?」

それからのことはよく覚えていない。

ただ、“あの人”をイビルジョーの前から逃がすことしか考えていなかった。

ふと気がついたら自分の体は倒れ、“あの人”がそばで泣いていた。

泣かせるつもりじゃなかったのに…

でも、今の自分はもう、“あの人”に何も伝えることができない…

「助けてくれてありがとう」も…

「倒せなくて、泣かせてしまってごめんなさい」も…


そこまで思い出した時、雪光は我慢できなくなって家を飛び出した。

ユイナと会える自信も確信も、何ひとつなかったけど…

それでも、何度も夢に出てきた、そして、実際にユイナと出会った渓流へ…


ユイナに伝えなきゃ…!

俺は、あなたに助けられて、凄く嬉しかったよ…!

短い間でも、あなたと一緒にいられて、凄く幸せだったよ…!

一番危険だった時、あなたを逃がすことができて、凄く嬉しかったよ…!

俺は、あなたに出会えたことが、凄く、凄く、嬉しかったよ…!


それらを伝えたくて、雪光は必死に走った。