読売新聞 8月16日版
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「正しい芸」伝承 師匠と難曲披露

古典芸能の名人たちの至芸を味わう「芸の真髄」シリーズの第2回「長唄 伝える心 受け継ぐ心」が、20日午後6時から東京・三宅坂の国立劇場で上演される。今回は長唄の杵屋勝国が、師匠の勝三郎とともに出演、難度の高い大曲「安達ヶ原」などを披露する。

勝国は福岡県柳川市生まれの63歳。7歳で地元の長唄の師匠に入門、才能を見込まれ、勝三郎の手引きで16歳で上京。東京芸大を経て、長唄の演奏会や歌舞伎で活躍中。邦楽界では実力を高く評価されている。
「吉原雀」では、三味線方のトップにあたる立三味線、人間国宝の東音宮田哲男がうたう「五色の糸」、大曲「安達ヶ原」では勝三郎の脇三味線を務める。
吉原の遊郭の様子を華やかに表現する「吉原雀」は15歳ごろに勝三郎から習った曲。調子が曲の中で変わり、高度な技術が必要だ。「テクニックは難しい。その一方で、お客を楽しませないといけない。その両立が問われる」と勝国。「立三味線として、掛け声一つで唄をうたってもらい、他の三味線を引き連れる役割があり、洋楽で言う指揮者のようなもの」と話す。
「10代で自然に弾けるようになり、20代、30代のころはテクニックに走りがちだった。人生経験を積むことで冷静に弾けるようになり、深みが出たと思う」と語る。
会のメーンとなるのが謡曲を基にした「安達ヶ原」。僧が一夜の宿をとった先の老いた女が、実は人食いだった。免許皆伝の演奏者のみが許される曲だ。「難度で言えばウルトラC。テクニックばかりではなく、心理描写が必要で、45分かかることから覚えるのも大変」。勝国は20歳を過ぎて勝三郎からけいこを受けた。「体で覚えることで自分のものとした。師匠の手を見て、耳を傾けて自分で弾き、体に入ってくる。こうして覚えた曲は忘れない」
このほかに、長唄の名曲集として、6曲を短くダイジェスト版で演奏する。勝国は「三曲糸の調」「廓丹前」の2曲を弾く。囃子方として人間国宝の堅田喜三久が出演する。
「これまで師の勝三郎から伝えてもらった曲の数々を、今度は後輩に伝えたいとの思いがある。正しい芸を伝え、いい音楽家を育てたい。それが、今回の会を開く意義でもある」と勝国。「普段の長唄の会に比べ、初めて聴く観客も多いらしい。長唄の魅力を伝え、我々師弟のつながり、結びつきを感じ取っていただければ」
師の勝三郎は「勝国は若いころから私のそばにいたまな弟子の一人。良い緊張感を持って同じ舞台に立てることが本当にうれしく、楽しみ」と話している。