待てど暮らせど…
昨年は試験直前に予想問題が流れてきたと1個上の先輩から聞いた。
もしかしたら今年も?と淡い期待をした。

しかし、世の中そんなに甘くない。

トップクラスの同期と何度か電話で話したが冬休み直前になっても情報は全くない。
まあー、そもそもこんな落ちこぼれに情報など来るはずがないかー

大事なのは山かけ
試験制度が変わらなければ過去10年の出題傾向を調べるとある程度は予想できる。
CGSの受験回数は4回。
少なくとも過去5年間と同じ問題は出ない。
しかし、今回は試験制度が変わってから3回目。情報がやや不足している。
2回分の問題を見て山をかけるしかない!
あとは各職種学校の模試で模範解答を作る。
日頃からコツコツ真面目に勉強している奴や2回目以降の受験生には時間がある。
でも、不真面目なAOC出たての1回目は膨大な試験範囲を闇雲にやっている暇はない。
予想問題に焦点を絞るしかない。
山が当たることを信じて本番の解答用紙に本番用のボールペンでひたすら書き続ける。


『中学生 勉強編』小学校の時はソコソコ出来た。中学校の勉強はどうだったか?3つ上の兄貴は進学校に入学した。心の中では自分も同じ高校に行けると思っていた。母は勉強については全くノ…リンク死生観について…

 

予想問題一覧表を壁に貼る。
問題が終わる度にマスを塗りつぶす。
全て消えたら必ず合格する。
そう信じて頑張った。
たとえ、娘と孫を東京に行かせたくない義父母の邪魔を受けても…

初めから背水の陣
山が外れたらどうするの?
その時の対応が合否を分ける。
あー全然やったことないから分からない。
もーダメだーと思った奴はそこで脱落する。
俺はこう思った。
俺が出来ない問題は誰も出来ない。
他の課目を頑張るんだ!
妻にはCGSを受ける前に約束した。
こんな試験は1回しか受けない。
何度も貴重な休みを潰したくない。
今回だけは受ける。ダメなら諦める。
自らを追い込み、背水の陣で臨んだ。

問題は二次試験
資格がある隊員は全て受験させられる。
そもそもそんなことに意味はない。
時間と金の無駄。
やる気のない奴は受験する必要はない。
職種試験委員をすると白紙の答案用紙を目にする。採点しないので作業は楽だがコイツは何のために受験したのかと思った。
幹部学校で図戦の採点をした時も同じ。
こんな奴が良く職種の壁を越えたなー
多分、職種の試験が簡単な後方職種だ。
建前では中堅幹部集合訓練として全幹部を強制的に参加させる。勉強させることに意義があると性善説をとっているのか?
やる気のない奴は試験を受けるのが苦痛
数日間の不在が部隊に及ぼす影響は大
採点の手間等々を考えれば、希望者だけを受験させるべきだと俺は思う。

一次合格の朗報はスキー競技会で頭を抱えている時に第1科長が教えてくれた。

一次試験の倍率などあってないようなもの。
やる気のある奴はBUの一握り。
面倒なのは共通の土俵に上がれないのに職種だけ真面目にやる部内幹候。コイツらが職種の足切りに引っ掛かると勿体ない。

問題は倍率2倍の二次試験だ。

二次試験対策
色んな模擬試験を受ける。
師団、方面隊、富士学校特科部
受ける度に出来ないで落ち込む。
面接で聞かれるのは在るべき姿ばかり
大隊LOの任務、地位、役割、業務は?
本来はこんなことをやるのではないか等々、試験官は実際にやりもしないことを聞く。
そんなのは建前じゃないの?
災害派遣や演習が無ければLOは働かない。
建前の問答に何の意味があるの?
模擬試験など何の役にも立たない。
そう、思っていた。

【ある優秀な先輩の場合】
模試の指導に来た一個上の優秀なND先輩(ハーバード大修士、D〇H長)が言っていた。先輩もBnLOで受けたがLOの仕事は何もしていない。でも、その優秀な頭の中には理想的なLOの業務が入っていた。何を聞かれても答えることが出来た。俺にはそんな能力はない。

だーかーら、俺は大隊LOだけど連隊LOで臨時勤務して特命の連隊スキー競技会をやっただけなんだー!と大声で叫びたかった。
それを聞いてくれたのは伝説の中隊長として名高い、TB2佐(後の2DCG)とBOC課程主任のOZ2佐だけだった。それまでC以下だった面接の成績が初めてB+になる。
俺の考え方は間違っていないんだ!

俺史上最悪の事故
ゴールが見えた時に大事故が起きる。
中隊長に上番して初の大隊実射訓練
確か4月20日だったと記憶している。
翌朝の実射に備え酒を切り上げて寝た。
夜中、バタバタと俺のところに誰か来た。
隣の中隊の同い年の砲側哨だ。
「どうしたんだよ種川、こんな夜中に…」
「大変です。〇中の牽引車が燃えてます」
「何言ってんだよ、お前はー」
「だから、燃えているんですよー」
一瞬で酒が抜けた(というのは嘘)。
酒を飲んでいない隊員をドライバーに指定して小型と大型で現場に直行する。
特大型の後部が炎上している。
直ぐに車や火砲の消火器を吹き掛ける。
屁の突っ張りにもならない。
あとはひたすらスコップで土をかける。
小一時間でなんとか鎮火。
酔っ払っていたので殆んど記憶にない。
これらは部下に聞いた話をまとめたもの。
というか今も頭に残るストーリー

やっぱり詰め甘し!
上司に報告するのを忘れる。
俺の上にはノーマークで耳が聞こえない大隊長、その上には超エリート連隊長がいる。
不祥事は俺だけの問題ではない。
駐屯地をあげて処置すべき大問題になる。
慌てて大隊長に昨夜のことを報告する。
実射を済ませて岩手に戻る。
戦闘服のまま連隊長官舎に直行!
全幕僚が集まってMTGをしていた。
俺が命ぜられたのは事故を起こした隊員の保護と事故処理だった。

事故処理は中隊長自ら
中隊はこれまで大きな事故がない。
だから、付幹部は事故処理の経験がない。
そもそもSLCのおっちゃんには無理
もちろん俺自身も未経験
仕方なく中隊長自ら事情聴取を行う。
区切りがついたのは一週間後だった。
その間は二次試験準備など何も出来ない。
大隊長に師団の模試を受けろと言われたが連隊長に直訴して行くのを辞める。
最後の試験準備は自作したQ&Aを使っての妻との問答だけだった。素人に自衛隊のことを伝えるのが難しいことを実感できた。

いざ二次試験へ
試験出発前の連隊長申告
あのことは他言無用と釘を刺される。
なんとあの事案を連隊以下で握りつぶした。
多分俺のためではなく保身のためだが…
事故を起こした本人は訓戒、俺は口頭注意
今なら即陸幕報告になる重大案件を
連隊長は易々と隠しとおしたのだ。
俺は動揺していたので身分証を忘れる。
盛岡駅で気付いても遅かった。
でも、当時は駐屯地入門時に制服幹部は身分証の提示が不要だった。毎日、冷やひやしながらグラヒルと市ヶ谷駐屯地を往復した。

最大の難関は面接
1番不安なのは面接
主任試験官は中隊長のことを質問する。
隊付で配置されて長年勤務したので中隊のことは隅からすみまで頭に入っている。
主任試験官の質問など朝飯前だった。

「まだ上番して間もないのによく中隊のことを把握しているねー」
「隊付の中隊ですから…(当然のことです)

次の試験官は特科なのか突っ込んだ質問をする。それも引続き中隊長のことを聞く。
昔は職種き章がない。
何をどの程度話せばよいか悩む。
1番ヒヤッとしたのは固有修正の質問
3門の固有修正を聞かれる。
そんなことを覚えている中隊長はいるの?
覚えていないと答えるか適当に答えるか?
後者を選択。余りにも淡々と答えたので意地悪をしたかったのか詰問される。

「1砲は基準砲より伸びるの?縮むの?」
(えっ、そこまで聞くかなー)
「はい、縮みます」
(右肩上がりなので迷わず答える)
「そうだね。はい、終わり」

次の試験官は連隊スキー競技会を聞く。
これは1人でやったので何を聞かれても即答出来る。しかし、最後に考えてもいない想定外の質問が主任試験官の口から出た。
これはQ&Aにも無い。
万事休すか!

「君は競技会の成果はあったと思うかね」
「はい、ありました」
「でも、来年にならなきゃ分からないんじゃないの?何を見たら分かるの?」
「それは・・・・」

初めて答えに詰まる。
何を言えば良いのか?
何のために競技会を企画したのか?
その時、中隊の隊員達の顔が浮かんだ。

「それは顔を見れば分かります」
「なぜ、そう思うんだね」
「はい、若い隊員がスキーを買って練習に行くようになりました。官品は難しいのに私物は簡単に曲がります。スキー焼けをして楽しそうに笑う隊員達の顔を見ると私が企画した競技会はそのキッカケを作れたと実感しました」
「そうか、はい終わり」

良かったのか悪かったのか分からない。
でも、これが事実だから仕方ない。