昭和十一(一九三六)年横浜シネマ商会作品
居酒屋の一夜
説明 山城秀之
原作 今順太
漫画 村田安司

解説 昭和十年五月、キネマ旬報創刊十五周年記念懸賞公募「トーキー漫画ストーリー」当選第一作を、横浜シネマ商会の村田安司が作画を担当して映画化したもの。公募タイトルにもあるように、本来はトーキー(作曲古賀政男、演奏テイチク・オーケストラ)であるが、現存しているのは無声である。
作画の村田安司は、明治二十九年生まれ。昭和二年「猿蟹合戦」でデビューし、山本早苗から教授された切り絵アニメーションの技術を駆使して数々の作品を制作した。この作品を最後に横浜シネマ商会から独立、自らの制作会社を持つことになる。

略筋 世は不景気まっただなか。職を求めて職業紹介所を訪れるも入り口で拒否された浮浪者(主人公)が今日も街をさまよい歩いている。ついには犬にまでバカにされる体たらく。この犬が、これでも読めとばかりに男に渡したのが、宝の山を積んだまま海に沈んだというモノナイ号を引き上げるための資金募集のチラシ。
しかも資金は一口十円。十円どころか、一銭も持ち合わせのない男、冗談じゃないと思いながら、それでもチラシをポケットへ突っ込んで歩き出す。
ふと居酒屋の前を通りかかると賑やかな声と縄のれんに誘われて、ついふらふらと店内へ。
居酒屋に入ると、大テーブルで飲んでいた先客たちの仲間入り。いかにも浮浪者然とした男の姿にもかまわず、どんどん酒を注いで行く。それを飲み干して放歌高唱する男。
しかし、突然ひっくり返ったと思ったら、店の床がズブズブ柔らかくなって男の体は下へ下へ。ようやくたどり着いたそこは、なんと海の底。
海底を歩いていると、モノナイ号の宝を狙う侍二人と出会う。男は、身の潔白を証明するためにどじょうすくいの踊りを披露する羽目になるが、何とか疑いも晴れ、みなで力を合わせてお宝見つけるべく探索を始める。
やがてとうとうモノナイ号を発見。しかし、そこには宝を守る恐ろしい敵が待ち構えていた。おっかなびっくり船に乗り込む三人。その前に現れた敵。その姿は、恐ろしい骸骨の騎士だった。いきなり襲いかかる骸骨の騎士に、防戦一方の三人。

果たして三人の運命やいかに⁉︎ はたまた、モノナイ号のお宝は本当にあるのか⁉︎

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不景気風に追われたルンペンがひとり、職を求めてトボトボ歩いております。ようやく辿りついた職業紹介所。喜び勇んでいざ中へ。しかし、お前には用はないとばかりに門前払い。野良犬にまで笑われる始末。


「チェ、なんだいどいつもこいつも」

持てる者はますます栄え、持たざる者は虚しく陋巷をさまようばかり。(野良犬がついてくる)(チラシが顔に)(野良犬がチラシを咥えて)

「ん、なんだこりゃ……なになに」

「数百年前の埋没船モノナイ号引き上げ資金募集
一口金十円
当たれば三千円
あなたのお手元に……
幸運の方は誰に」

「ちょ、十円あれば苦労しないよ。十銭の焼酎も飲めないのに」

通りかかった居酒屋からプーンとよいにおい。酒は飲みたし金はなし。悩む男を暖簾が無理やり引き込んだ。

「やあ兄弟、よく来たよく来た、さあ飲め飲め」

世界は一家、酒飲みはみな兄弟。かけつけ一杯、また一杯。たちまちとろりといい心持ち。みなに乗せられ流行歌などひとくさり。◼️安いアルコールと手拍子のリズムに、ふわっとそのまま床に倒れこむ。するとーーたちまち男の体はずぶずぶ床にのめり込み、下へ下へと落ちて行く。

「うわ、なんだ何だ」

落ちたところはーーなぜか海の底。

「ここはどこだ?……まあ、いいか」

(タコが襲いかかるが、軽く投げ飛ばす)
さきほどまでの酒の勢いそのままに、男はまたも歌い出す。とーーそこへ現れたのは。

T「おのれ、何者だ」

T「日本人でござる」
T「偽りを申せ! 怪しのやつ、その場は立たせぬぞ」
T「はやまりめさるな、に、日本人に相違ござらぬ」
「ええい、いうな! そこへなおれ、斬ってくれる!(刀を抜く)」
「お助けーっ!……こ、腰が、腰が」
「やっ!」

危うく切っ先を躱すと、行く手に立ちはだかるもうひとりの侍。まさに前門の虎、後門の狼。たちまち始まる海中大立ち回り!

「(柱にぶつかってフラフラ)うむむ、小癪な!」
「(魚を数枚に下ろすと、紙吹雪)どうじゃ!」
「えい!」
「わわわ!(逃げる)」
「待て待て待て」
「お助けお助け」

(岩陰に入ると、タコを背負って登場)

「待て待て待て待て!」
「お助けお助け!」

 (再び岩陰に入ると、今度は侍の刀に貼りついている)

「ええい、待て待て!」

(岩陰に隠れる)

「うう?どこへ行った?」
「こりゃいかん」
「ん、どこへ行った?」

(岩陰から顔を出す)

「覚悟っ!(刀が岩に食い込む)

万事休す!しかしーー必死に逃げる動きがーーなぜか安来節の踊りになり……。

「むむむっ!これは!」
T「わはははは!Tいかさま、その方の「どじょうすくい」は手に入ったものじゃ。いや、T疑い晴れた」
「うむ、まことーーTわが党の士に相違ない」
「カンラ、カンラ」
「わははは」
「あははは」

と、そのときーー

T「はて、怪しの物音」
T「まったく聞き覚えがない音曲じゃーーTあれは確かに異国の音楽」
T「さてはこのあたりにモノナイ号が……。かの船には宝の山が眠っているという」
T「しからばその異国船に忍び入り、宝の山を……」
T「しーっ! 声が高い。(チラシを出して)これをご覧あれ……我ら三人、力を合わせてこのお宝を」
「ふむふむ」
T「者共ぬかるな!」

かくして我らが主人公を先頭に、かすかに聞こえて来る音楽を頼りにモノナイ号を探し求めるーー。

「やや、ついに見つけた! では、まず拙者が」

(抜き足差し足、板を渡って船の中へ)
モノナイ号の船室で、ついに宝箱発見!しかしそこには、宝を守る骸骨の騎士が!(銅鑼を鳴らす)

「これはいかん! おーい(侍を呼ぶ)おのおのがた(侍、甲板に上がって来る)宝はこの中じゃ、ワシに続け!(船室に入る)」

と見せかけてーー侍たちと骸骨の騎士が闘っているすきに宝を独り占めしようという算段。

「しめしめ」

変幻自在の骸骨の騎士に手もなく捻られ吹っ飛ばされる侍たち。

「ええい、負けてたまるか!」

(船室で骸骨の騎士と対峙する侍)

「ええいっ!」

上半身と下半身で別々に敵を相手にする骸骨の騎士。

「やあとぉ!やあとぉ!」

「しめた!挟み撃ちじゃ!どうだ!」
「よし、今のうちに……」

しかし、敵は骸骨の騎士だけではなかった。(絵の中の人物が棒切れを掴む)

「がはははは(首が飛ぶ)」

相手は一枚も二枚もうえーーいかにしても敵わず、侍ふたり這々の体で逃げて行く。

「(宝箱を開けて)おお、お宝だ!(抱えて運ぶ)」

まんまとお宝ゲットと思いきや、待ち受けるは骸骨の騎士、ついにトドメをさされるというその時(グルグル回される)ーー目が覚めた。

T「もしもしお客さん、店を閉めますから、勘定をいただきます」
「え、勘定だって? なんだそんなもの、ほら、釣りはいらないよ(チラシを渡す)」

はかなくも愉快な「邯鄲の枕」また「一炊の夢」、映画「居酒屋の一夜」これにて一巻の終わりであります。