Dog Heaven(1927)
「ちびっこギャング 犬だって天国へ行ける」
監督 アンソニー・マック
監修 ロバート・マゴーワン
撮影 アート・ロイド
編集 リチャード・カリアー
【前説】本日はご来場まことにありがとうございます。活動写真弁士の山城秀之でございます。これからご覧いただきますちびっ子ギャングシリーズの一編「Dog Heaven」の主役、犬のピートは、資料によれば1925年生後6ヶ月のときに「ロイドの人気者」でデビュー、その後漫画が原作の「バスター・ブラウン」シリーズなどに出演、ちびっ子ギャングシリーズでも何本かの短編に出演しております。ワンダードッグ、ピーティーなどの愛称で人気でしたが、残念ながら1930年に亡くなり、2代目のピートが後を継いで1946年まで活躍しました。右目を囲むような丸印が特徴で、これはハリウッドのメイクアップアーティストだったマックス・ファクターによるものだそうで、2代目のピートは左に丸がついています。本作はUCLAのFilm & Television Archiveが修復したもので、4月の行われたアメリカツアー最終日ビリーワイルダーシアターでの最終公演として世界で初めて活弁上映されました。その時の弁士は大森くみこ弁士、楽団は本日も生演奏していただきます皆さんでした。ツアー中は、自分の出番以外は客席で拝見していましたが、今作ではその映像の綺麗さと大森さんの素晴らしい説明に、舌を巻いたわけですが、まさかその数ヶ月後に自分が説明することになるとはそのときは夢にも思わなかったわけであります。ちびっ子ギャングの世界に入り込んで自由闊達に語っていた大森弁士の域にどこまで迫れるか、ワタクシの弁士としての真価を問われる今回の上映会でございます。
さて本日牛込箪笥地区ホールにご参集賜りました、人品骨柄卑しからぬ皆々様にご説明もうしあげまするは、聞くも涙、語るも涙の物語、かつてアメリカにおいてひとたび上映するや、全米のご婦人は紅涙を絞り、また貴顕紳士は人目も憚らず腹を抱えて呵呵大笑、老いも若きも手に汗握りスクリーンに向かって声援を送らぬ者のなかったという、名伯楽ハル・ローチの指揮のもと、かの小僧っ子軍団の一糸乱れぬ団体演技、その名も「ちびっこギャング」シリーズの白眉「Dog Heaven」であります。
A dog gives his first, last and only love to the little boy who owns him —
飼い主であるひとりの少年に、おのが最初で最後、そして唯一の愛を捧ぐ1匹の犬。
(箱を積み上げるピート)今まさに首を括らんとするこの犬ピートこそ、本編の主人公であります。(ロープの輪っかに向かう)(見ている野良猫二匹)
“— I’m glad he’s kickin’ off —He was only a pain in the neck to me —“
「早くひと思いにくたばってくれにゃいかにゃー。本当にウザい!」
「まったくだ」
(塀の上に飛び乗るニワトリたち)
「コケッ!いい気味だ
“— I hope he chokes — He’s pulled out four yards of my tail feathers —“
俺の大切な尾羽を4本も引っこ抜きやがって」
かくて無慈悲なる野次馬の見つめるなかーーピートはついにロープに器用に手、もとい前足をかけてーー(箱を蹴る)はかなき死出の旅路へーー
「(舌をベロンと出して)ぐ、ぐぐぐ、苦しいー」
そこへ偶々通りかかりしは、ピートの竹馬の友ジョン。
「こいつぁいけないっ!」
(ピートの元へ走って行き)
「おい、ピート!ピート!大丈夫か?
“— What’s the matter, Pete — family troubles? —“
「いったいぜんたい、どうしたんだ、ピート?何があったっていうんだ?」
“— I’m going to end it all — Joe has broken my heart —“
「ジョン、俺ぁもうおしまいだ。ジョーに捨てられちまった」
“— Tell me all about it, Pete —“
「どういうことだ、ピート?ワケを話してみろ」
「聞いてくれるか、ジョン?」
“— I belonged to Joe when he was only a little pink baby —“
「ジョーがまだ赤ん坊だった頃から、俺ぁあの子につきっきりだった。(ハイハイをする赤ん坊のジョー。まとわりつくピート)俺ぁ何くれとなくあの子の面倒をみていた。(ズボンの引っ張る)あの子はそりゃあ手はかかるが本当に可愛かったんだ」
(暗転)
「ーーそれで?」
“— Then Joe grew to fathood — He loved me, an’ bought me presents —“
「やがてジョーは大きくなった。あの子は俺のことが大好きで、プレゼントを買ってくれた」
(店の前に走って来るピートとジョー)
「ほら、これをごらん!(犬用の首輪)
“— Only fifteen cents more, Pete — An’ the collar is yours —“
「ピート、あと15セント、あと15セントでこれはお前のモノになるんだよ。(ショウウィンドを叩く)おぢさんおぢさん、これを見せてくれない?」
「ーーはいよ」
「あの子は、新品の首輪を俺につけてくれた」
“— Don’t it look swell? —“
「うん、いいじゃんか!似合うよ!」
「俺は嬉しくて向かいの店の鏡に写してみた。がーー」
「それで、似合ってたのか?」
「……ジョン、それは聞かないでくれ」
「おぢさん、まけてくれない?」
“— Nothin’ doin’ — Go and dig up some more money —”
「いいや。ダメだね。1ドルだ。鐚一文だってまからないよーーさ、首輪は返してもらうよ」
「大丈夫だよピート、きっと買ってあげるからね」
(ホースから水を出す)
「ノドが渇いただろーーあれ、出が悪いな」
「ジョーはいい子だけど、加減を知らないんだ。俺は全身ずぶ濡れ、まったく酷い目にあったよ」
「あははは!(手を叩く)」
「目には目を。水には水を、だ」
「うわーやめて!やめてくれよ!」
(暗転)
「ふたりの仲がいいことはよくわかったよ」
“— Then I had an affair with a lady dog from the Follies — I kept it a secret from Joe an’ the gang —“
「その後、俺はフォーリーズんとこで飼われてる女と出会って恋に落ちた。ジョーやちびっこギャングの連中には絶対に内緒だった」
(暗転)(仲睦まじいツーショット)
「おーい、ピート!」
「ん?……気のせいか(水を飲んでいるちびっこギャング)ちびっこギャングたちはまったり休んでいた」
「じゃあ次俺な」
「行くぞ」
「うわー」
「なんだよ」
「行こうぜ」
「やっと飲めるよ。
“— Me wanna goggle —“
(水飲み場に近づいて)水中眼鏡持ってる?」
「そんなものあるわけないでしょ(抱えて)ほら」
「行くわよ」
「うわっぷ!」
「もう一回!」
「うわっぷ!もうやだ!」
「(芝生を転がる二匹)俺たちは幸せだった」
“— Pete, come here! —“
「(ジョーやってきて)ピート、どこにいるんだ?」
「……ジョーが呼んでる」
「空耳じゃない?」
「やっぱり呼んでる。行かなきゃ」
「ピート、どこに行ってたんだ?
“— You’re hidin’’ somethin’ from me — You look pale! —“
「お前、僕に何か隠してるんじゃないか?顔色が悪いぞ」
“— Aw, tie a can on that mongrel —He’s no good!—“
「おい、そんな犬、お仕置きしちゃえよ。てんでバカ犬じゃないか」
「なに?ピートがバカ犬だと?よくもいったな!」
「お、やんのか?」
(喧嘩を始めるふたり)
「それでもジョーは、俺の飼い主ーーいや友達だ」
(囃し立てるふたりを追いかけるピート)
「二度とあんなこというなよ!」
(ジョーに飛びつくピート)
「おいおいピート、やめろよ、やめろってば」
(水を飲もうとするジョー)(ポンプの袋に穴)(足がびしょ濡れになる)
「俺のジョーは、いつも最高だ!たとえどんなときだって」
(暗転)
“— One day we were diggin’ fish worms — Ank the girl came into Joe’s life —“
「ある日のことだ。俺たちは釣りに使うミミズを集めていた。そのとき、ジョーの前に突然あらわれたんだーーあの女が」
(地面を掘っているジョーとピート)
「(土が顔にかかる)ちょっと、ピート、やめてくれよぉ」
(乳母車に猫を乗せたクララベルが通りかかる)
Clarabelle was a vampire—
「魔性の女、クララベルーー」
「こんにちは、ジョー」
「ーーえ?ああ」
「(投げキス)(微笑む)」
「これがあの女の常套手段だ。純情を絵に描いたようなジョーは、手もなくイチコロだ(ジョー、ミミズを集める)」
「ねえジョー、ちょっと来て?」
「(デレデレ)ええ、なんだい」
「ねえ、何してたの?」
「これ集めてたんだ(手のひらのミミズを見せる)」
“— Throw those nasty worms away! — They’re not refined!”
「いや!そんな気持ち悪いもの、どっかやってよ!下品だわ!」
「あーーうん(ミミズを捨てる)」
「俺は最初からあの女が嫌いだった」
(じゃれつくクララベル)
「おい、ジョー」
「でも釣りに行く約束がーー」
「いいじゃない?ねえ、お散歩しましょうよぉ」
「ちょっと、やめてくれよぉ、やめてくれったら(イチャイチャする)」
「俺は、ジョーに早く釣りに行こうと釣り竿を運んで見せた。やめろジョー、この女は危ない。おまけにこの女が飼っているのはーー」
(乳母車の猫が威嚇する)
「まあどうしたの?
“— Send that mean ol’ dog away! — He scares Gertrude! —“
「その薄汚い犬をどっかへやっちゃってちょうだいーーウチのガートルードを脅かすなんて!」
「あーーう、うん。ピート、釣りは中止だ。帰ってろ!」
「俺はーー信じられなかった」
「おい、早く行けったら!ーー行ったよクララベル」
「ありがとうジョー、優しいのね。
“ — Come over an’ see me — Wear your Sunday school clothes —“
今度、日曜学校のときのお洋服で遊びに来てちょうだい」
「ああ、うん、喜んで」
「(川で釣りをしている)おい、ジョーのやついつまでミミズ取ってんだ?」
「……クララベル」
「おーい、ジョー!」
「ーーえ?」
「早く来いよー!」
“— I can’t fish today — My chest is flutterin’ —“
「今日はやめとくよ。何だか動悸が激しくてさ」
「……ジョーは変わっちまった」
「何だよ動悸が激しいって」
「よーし、出来たっ!」
(糸の先に鼠捕り用の罠)(魚が掛かる!)
「おっ!かかった!(釣り上げて)やった!」
「あーあ、せっかく集めたのに。もったいない(ジョーの帽子にミミズを入れる)」
「嗚呼、クララベル……(帽子をかぶる)ん?んん?うわー、な、なんだ!スクワーム!スクワームだ!」
(暗転)
「なるほどーーそれからどうなったんだ?」
“— It went from bad to worse —Joe spent my collar money on Clarabelle —“
「悪くなる一方さ。ジョーは俺の首輪を買う金をクララベルにーー」
(暗転)(おめかしをしたジョーが店にやってくる)
「こんにちは」
「今日はおめかしさんね。デート?」
「ええ、まあーーこれ、ください」
「プレゼント?」
「え、ええ」
「なんてことだ!(ピートと羽根の生えた首輪)ジョーはほとんど躊躇うことはなかった!俺はとめた。必死にとめた。だがジョーは……」
「まったく何てやつだ!邪魔しやがって」
(トボトボついて行くピート)
「ジョー!いらっしゃい!」
「やあクララベル!」
「俺は、まだ諦めていなかった。ジョーに目を覚ましてもらいたかった(ジョーの靴を舐める)」
「しつこいぞ、あっちへ行ってろ!」
「これ、お花ーー」
「まあ綺麗!ありがとう」
「キャンディバーもあるよ(ひとつ頰張る)うん、うまいーーどうぞ」
「ありがとう」
“— My father says always kiss ‘em quick —“
「父ちゃんが、キスするときは素早くちゃっちゃとやれっていうんだけど」
「いいわよーー(唇を窄める)」
「んーっ」
「ジョー、行け行けーっ!」」
「え?」
「おいらみたいにさ!やっちゃいなよー」
「気を取り直してーー」
「いいぞいいぞ!」
「あっーーあいつら!」
“— Oh smother me, Clementina! —“
「おお我が愛しのクレメンタイン!(抱き合ってキス)おいジョー、早くやれよ!」
「あいつら……」
「ほらほら(何度もキスをする)はははは!」
「向こうへ行きましょう」
「まったくあいつらったら!」
「じゃあ今度こそ……(帽子で隠しながら)うわ、クララベル!ちょっと激しい!」
「ちょ、ちょっと待って、クララベル!」
(ちびっこギャングたち、見ている)
「嗚呼クララベル、君はなんてーー」
「緊張していたジョーの体がファーストキスの衝撃ですっかり弛んじまった!」
「や、まずい!」
「どうしたの?」
「いや、なんでもな……(後ろを向く)(上着が裂ける)い、いけない!」
「可哀想にーージョーの一張羅はどんどん裂けて行ったーーそしてついに!」
「どうしたのジョー?」
「な、なんでもないんだよクララベルーーちょ、ちょっと急用を思い出したので、僕はこの辺で失敬するよ。また今度」
(後退りをしつつーー泥の水たまりに尻餅をつく)
「……(頭を抱えて)嗚呼、ジョー」
(暗転)
“— Finally I drifted into bad company — They all drank till they straggered —“
「とうとう、俺は悪い仲間とつるむようになった。みんなつぶれるまで飲み続けるんだ」
(手間にビール瓶林立)(酔っ払ってわめいている犬たち)(おぼつかない足取りの犬)
「俺は虚無の目をして、いかにも作り物めいた手つきでビール瓶を口に運び続けた」
(船を漕いでいる犬)
“— Oh see the li’l pink lizards —“
「おやぁ、ちっこいピンクのトカゲがいるぞぅ」
“— Schweet Adeline —“
「おおアデリーン、愛しいシト!」
「まるで酒樽に浸かったような脳味噌で、俺は思い出した。おお愛しいシトーー愛しいーー人。それは」
(ふらつく足取りで小屋の隅に行くピート)
「ピート、そんなとこにいたのか?
“— You’re a drunkard — an’ a rascal —“
お前はどうしようもない酔っ払いだな」
「……」
「何とかいったらどうなんだ!お前なんかもう絶交だ!」
「……絶交……?」
(暗転)
“— Next morning my tongue tasted like a hot rubber boot —“
「朝目覚めると、口の中がゴム長靴みたいな味だった。俺は公園のベンチで寝ていた」
「おい、こんなところで寝るんじゃない、おい、起きろ!」
「……」
「おい、聞いてるのか!こいつめ!(ベンチの側の気にリードを結ぶ)
“— The dod catcher will take care o’ you! —“
「野犬狩りに連れてってもらうがいい!」
「そのときーー」
(池を渡る橋にやってくるクララベル)
「あの女がーークララベルが池に落とされた!!」
「いけない!」
“— Help! —“
「助けてーっ!」
「俺は走り出していた。が、リードは庭木にしっかり結びつけられていた」
「助けてーっ!」
(池に向かおうとするピート)
「誰かーっ!」
「ついに俺は庭木ごと池に向かって走った!俺は走った。恋人たちの仲を割きーーおぢさんの股をくぐりーー(溺れているクララベル)寝転んでいる男を踏み越えーー(大きな木にひっかかる)池に向かって走った。クララベルを助けるために」
「助けてーっ!」
「そしてーー(リードが切れる。池に飛び込む)ついに」
(クララベルを岸まで運ぶピート)
「あ、ピート……クララベル!大丈夫かい?」
「まあクララベル!」
「あ……ジョー!ありがとう!(抱きつく)
“— Joe is a hero, Mama —He saved me —“
あなたは私のヒーローだわ。ママ、彼が助けてくれたのよ」
「まあ本当にどうもありがとう。これはお礼よ」
「バカバカしい」
“— There’s the nasty dog that shoved me in the water! —“
「まあ!あそこに私を突き落とした嫌な犬がいるわ!」
「なんだって?」
「やっぱりあの女は魔性の女だった」
「おいピート!
“— Pete oughtta be shot! —“
お前ってやつは!もう勘弁ならないぞ」
「おい、待て!こら!」
「ちょっと待ってくれ!
“— Pete is the hero! —He jumped in and saved her! — I saw him do it! —“
ピートこそヒーローだ。彼は池に飛び込んでこの子を助けたんだから。私は全部見ていたんだよ」
「あら、そう?まあいいわ。さ、クララベル、帰るわよ」
「ーー俺、ピートに酷いこといっちゃった」
(暗転)
「そんなわけで、俺は絶望したわけさ」
“— I don’t blame you — I’ll help with the rope - “
「誰もお前を責められるもんか。わかった。俺がロープを持っといてやる」
「どうしたジョー?」
“— I been lookin’ for Pete all mornin’ —“
「朝からピートを探してるんだ」
“— Ah saw him tryin’ to commit sideways — We better hurry —“
「路地裏をトボトボ歩いて行くところを見たぜ。急いだ方がいいかもな」
喧pいざとなると一致団結するちびっこギャングたち。
“— Goodbye, Pete — I hope there’s no women in dog heaven —“
「じゃあなーー犬の天国に、あの女みたいなやつがいないことを願うぜ」
かくしてーージョンの手をかりて天国への階段を一歩一歩登って行くピート。あとは足元の箱を蹴るだけーーその時!
「あーーピート!ピート!(ロープを外す)嗚呼、ピート!ここまで追い詰めてしまったんだね。
“— I’m so sorry, ol’ pal —“
本当にごめんよ、ピート。我が友よ!(新しい首輪を取り出して)
“— Won’t you please forgive me? — Here’s your new collar —“
どうか許しておくれ!ほら、新しい首輪だよ」
これを聞いたピートの答えはーー
(ジョーの顔をぺろぺろ舐める)
「はははは、わかった!わかったよピート!ありがとう!もうこのロープはいらないね」
「あなた!」
「ーーん?」
“— You may need that rope yet — Take a look in the dog house —“
「ロープはまだ必要かもよ。家の中をのぞいてみてちょうだい!」
「なんだって?(犬小屋に入って行くが、すぐ出て来て)な、なんてことだ!」
(次から次に出て来る子犬たち)狭いながらも楽しい我が家。ひいふうみいよぉいつむうな。いっぺんに7匹の子犬の父親となったピート。(頭を抱えるピート)彼が天国に行くのは、すこしいやかなり先の話になりそうであります。映画一巻の終わり。
