1922年「豪勇ロイド」
Grandma’s Boy

脚本・製作 ハル・ローチ
監督 フレッド・ニューメイヤー
おばあちゃん子 ハロルド・ロイド
恋人 ミルドレッド・デイヴィス
ハロルドの祖母 アンナ・タウンゼント
乱暴者 ディック・サザーランド

Tロイドくんは生まれてからおばあさんの手で育ったせいで、誠に気の弱い子供でした。(教会らしき建物もまわりで遊ぶ子供たち)(何か食べているロイド少年)

悪ガキ「(犬を連れてやってきて)おい、それくれよ」
ロイド「いいよ(渡す)」
悪ガキ「(バンズの中身を犬にやって放り投げる)ゲロまず!それ寄越せ」

(二人を見る別の少年)(箱ごと奪う悪ガキ)

別の子「(やってきて)おいハロルド、お前いいのか!やっちまえよ!(肩に棒を置く)」
悪ガキ「お、やるのか(構える)」
ロイド「僕は暴力は嫌いだよ」
別の子「なんだ意気地なし!おい、あっちで遊ぼうぜ(二人、去る)」
ロイド「……」

T大きくなってもすこぶるのはにかみ屋でかつ臆病者でした。(歩いているロイド)

ロイド「やっぱり自分で洗うと縮んじゃうな。ん?(振り返る)」
女の子たち「ハロルドよ!変な格好してる!」
ロイド「気のせいかーーあっ!」
女の子たち「こんにちはハロルド!」
ロイド「あ、こ、こんにちは!」
女の子たち「どうぞ」
ロイド「どうも……」

やっぱり緊張してしまうハロルドであります。(女の子たち笑う)(ロイド転ぶ)

ロイド「さ、さよなら!」

(逃げるように家へ走るロイド)

お婆ちゃん「ハロルドや」
ロイド「ああーーおばあちゃん、ただいま」

よその町からやってきた流れ者。住むところを転々としているその日暮らしの乱暴者。(揺り椅子に座る乱暴者)

お婆ちゃん「おやつがあるから、お茶にしようかねえ。おや、私のロッキングチェアに……ハロルド、Tあの汚らしい男を追い出しておくれ」
ロイド「え、えーっ!う、うん……(近づく)あの、ちょっとすみません……あの、それ、おばあちゃんのお気に入りの椅子なんですけど」
乱暴者「(ジロジロ見て)なんだお前?失せろ!」
ロイド「え……困ったなあ。そうだーー(犬に近づいて)ジョン、いいか、あいつだぞ。行け」

男は犬に吠えられても平気。それどころか。

乱暴者「がおーっ!」

(ジョン、逃げる)

ロイド「え、ジョン……(躓く)よーし、今度はこれで……(乱暴者がそばに立っている)掃除しようかなあ」
乱暴者「(胸ぐらを摑んで)おい、この野郎?(突き飛ばす)」
ロイド「(倒れたロイドを見て)まあハロルドになんてことを!(箒を手に)こいつめ!こいつめ!」
乱暴者「うわ、な、なんだこの婆さん!やめり!(逃げる)」
お婆ちゃん「今度来たら承知しないわよ」

Tある晩、お友達の家へ招かれました。

ミルドレッド「どうぞーーパパ、ハロルドが来てくれたわ」

(並んで座る二人)そこへ銃を持って駆け込んできたのは保安官でありました。

T保安官「四、五日前からこの街をうろつき廻るあのルンペンは、恐ろしい凶状持ちだーーT我々は全部自警団に加入して彼奴をつかまえねばならぬ」
人々「(手を上げて)私もやるぞ」
ロイド「あーー僕も」

(保安官、バッチをつける)男たちの胸で燦然と輝く自警団バッチ。

保安官「(ロイドに銃を渡して)頼むぞハロルドくん」
ミルドレッド「ーー大丈夫?」
ロイド「うんーーたぶん」
保安官「よし、では早速見回りに行こう」

早速出かけようとするとーー

ロイド「(転ぶ)あ、痛!(外に出る)あれ、みんなどこにいったんだ?おーい!おーい!弱ったなあ……(スキを踏む)痛っ!だ、誰?いない……(また踏む)痛っ!うわ!助けてーっ!(家畜小屋へ)」

逃げ込んだ先は家畜小屋。小屋といっても豚に馬に鶏など、大所帯が一緒に住んでいるそこそこ大きな建物でありました。

ロイド「痛い!(銃が暴発、驚いた鶏が落ちてくる)うわ、なんだ、ニワトリが!(馬が干し草を食べている)怖いよーっ(干し草の中に隠れる)うわーっ、お尻かじられた!(豚が股の間を走り抜ける)いやだー、もういやだー!」

幽霊の正体みたりなんとやらーーで、ひとりで勝手に怖がって家に逃げ帰ってしまったハロルド。(自分の部屋に駆け込んでテーブルでドアをふさぐ)

ロイド「助けて神様!(ベッドに潜り込む)」

お婆ちゃん「ハロルドが帰ってきたようだけど……(鍵穴からのぞく)(ガタガタ震えているロイド)T可哀想な子。なんとかしてやらないといけないわ」

(暗転)T翌朝ーー

お婆ちゃん「(ノック)おはようハロルド」
ロイド「ああ、ちょっと待ってーー(テーブルをどかす)おはようお婆ちゃん」
お婆ちゃん「どうしたのハロルド?」
ロイド「……僕はやっぱりダメなやつだよ」
Tお婆ちゃん「お前のおじいさんも、若い頃はお前に負けない臆病だったけれど、不思議なお守りの力で南北戦争に大変なお手柄をしたのよ」
ロイド「お爺ちゃんが?」
Tお婆ちゃん「これがそのお守りだよ。これさえあればお前はどんな敵にも負けっこはないよ」
ロイド「(手の上にお守り)これで……本当に?」
お婆ちゃん「本当だよ」
ロイド「そうか……なんだか勇気がわいてきたよ。(おまもりをぐっと握る)よーし(立ち上がって帽子をかぶる)行って来るよお爺ちゃん!」

(祖父の写真)そっくりなお爺さん。

ロイド「(キス)ありがとうおばあちゃん!」
お婆ちゃん「いってらっしゃいーーお爺さん、ハロルドを守ってね」

お爺さんのお守りをポケットに、意気揚々と家を出るハロルド。

ロイド「揺り椅子を見て)よし、練習だだ。おい、ここから出て行きたまえ、行かないとこうだ!えい!どうだ!(袋を投げ捨てる)」

(車に乗り込む自警団)そのころ例の乱暴者が町外れの廃屋に潜んでいることがわかりました。

ロイド「(やってきて)保安官、いつまでこうしているつもりなんです!行きましょう!さあみんな!」
自警団「おう!」
ロイド「行くぞ!(駆け出す)」

しかし、乱暴者の手には銃がーー(窓から撃つ)ひるむ自警団ーーしかしただひとり突進するハロルド。

乱暴者「……ん?」
ロイド「お守りは……大丈夫!」
乱暴者「こいつめ!(撃つ)」
ロイド「(帽子を飛ばされる)あっ!負けないぞ!」

ジグザグ走行で狙いを外す作戦。

乱暴者「ええい、チョコマカとーー!」

(ロイド、小屋にたどり着いて死角に入る)

乱暴者「ちくしょー、弾切れか。(探す)しかたねえ、こいつで(ドアの前で棒を構える)」
ロイド「(そのドアを開けかけて)よし(入る)ええと……お守りは? ああ、ある(入りかける)」
保安官「おいハロルド、危ないから帰ってこい!」
ロイド「大丈夫です! あ、黒猫……不吉だ。前を横切られないように大回りして……あれ?(蹄鉄)こっちにもドアがあるぞ(開ける)」
乱暴者「早く入ってきやがれ」
ロイド「(近づいて、蹄鉄で)えいっ!(棒で殴る)」

かくして見事乱暴者を捕まえたハロルド。

ロイド「ふーっ(自警団バッチをハンカチで拭く)……おーい、みんな、捕まえたよ!」
保安官「本当か?よし、行くぞ!」

しかしーーなかなかタフな乱暴者。

乱暴者「ううう……ん、なんだこんなもん!(蹄鉄を引きちぎる)」
ロイド「あ!ーーえーと」
乱暴者「こいつめ!……やあっ」

(ロイド、避ける)

乱暴者「逃げるなこいつめ!」
自警団「ーーあっ!」

(ロイド、ドアを開ける)飛び出していった乱暴者と自警団が鉢合わせ。(逃げる自警団)(小屋から出てくるロイド)そのすきにーー通りかかった車を強奪する乱暴者。

ロイド「ああ、逃げちゃうよ!」
自警団「しまった、追えーっ!」
ロイド「あ、ちょっと!」

(車に乗り込む自警団)

ロイド「(後ろにつかまって)ちょっと、僕も乗せてよ!」

その頃乱暴者は車から飛び降りて、草むらへ。

ロイド「ちょっと待って!あ、あーっ!(カーブで振り落とされる)まったく……あとちょっとだったのに」
乱暴者「はははは、バカなやつらだ」
ロイド「いた!ーーよし(お守りを乱暴者に突きつける)手を上げろ!」
乱暴者「うっーー(手を上げて、立ち上がる)」
ロイド「さ、歩け!」
おじさん「やあハロルドじゃないか」
ロイド「こんにちはおじさん!」
おじさん「しばらくみないうちに立派になったなあ」
ロイド「いやいやそんなことはないよ……あれ、どこに行った?」
乱暴者「……ちくしょう」
ロイド「ええとーーああ、いたいた、よーしちゃんと歩けよ。あ、おい、バックバック、ストップ。さ、運ぶんだ。よしよし、これは楽ちん。うわっ!」
乱暴者「今だ!」
ロイド「待てーっ!あっーー(車に乗って)お借りします!」
男「あ、ちょっと」

乱暴者とハロルドの追っかけっこ。しかしさすがは車、あっという間にすぐ後ろまで追いついたハロルド。

ロイド「(ロープを手に)よし……(足でハンドル操作、ロープを自分の腰に巻き付けて)えいっ!(路肩のポストにロープがかかる)あ、しまった!ちょ、ちょっと待ってーっ!」

自動運転のように追いかけ続ける車。

ロイド「待って待って待ってーっ!(車に飛び乗る)」

ハロルドの足もなかなかのものです。そしてーー野を越えーー川を渡りーー

乱暴者「ぜえぜえ……も、もうダメだ……」

ついに男を確保。(足を持って運ぶ)

ロイド「(乳母車の女性に)やあこんにちは!やっと捕まえましたよ」
女性「まあ怖い!(赤ん坊を抱えて逃げる)」
ロイド「ーーあれ?」

こちらは男を見失った自警団。街の人々が保安官に詰め寄ります。

人々「保安官いったいどうするんです?」
人々「心配で眠れませんわ」

そこへ颯爽と登場したハロルド。(乳母車に乱暴者を乗せている)

保安官「ーーあれは?」
乱暴者「んん……(目を覚ます)なんだお前ら!」
人々「……!」
乱暴者「がおーっ!」
人々「わあ、逃げろ!(アヒルも逃げる)」
ロイド「こら、うるさいぞ!(ビンで殴る)これでもくわえてろ。よいしょ」

(人々が恐る恐る覗き込み、取り囲む)(アヒルも覗く)

ロイド「さっさと歩け!」
非安閑「よくやったぞハロルド!」

T(掲示)凶漢を捕らえたる者に1000ドル贈与す

(現われるお婆さん)人々から祝福され、もみくちゃになるハロルド。

お婆ちゃん「やったわねハロルド!」
ロイド「ありがとう、ありがとう!」
お婆ちゃん「(ハグ)ハロルド、よくがんばったね。お前は私の誇りだよ」
Tロイド「お守りのおかげで大手柄をしたよ」
Tお婆ちゃん「お守りじゃない、お前のほんとの力が出たんだよ」
ロイド「ーーえ?」
Tお婆ちゃん「お爺さんの手柄話なんか嘘の皮さ、お守りの正体はこれだよ」

それはお婆さんの日傘の柄だったのであります。

ロイド「ええっ?じゃあ僕は……」

かくして、気が弱くて自分に自信のなかった青年ハロルドは、優してたくましい町の人気者になったのであります。映画一巻の終わり。