キートンの探偵学入門
Buster Keaton in Sherlock Jr.

監督 バスター・キートン
脚本 ジーン・ヘイブズ、ジョー・ミッチェル、クライド・ブラックマン
撮影 エルジン・レスリー、バイロン・フック
美術 フレッド・ガボリー

映写技師 バスター・キートン
ガール キャスリーン・マクガイア
父 ジョー・キートン

There is an old proverb which says:
Don’t try to do two things at once and expect to do justice to both.
T古いことわざにいわくーー
二兎を追うもの一兎も得ず
This is the story of a boy who tried it. While employed as a moving picture operator in a small town theater he was also studying to be a detective.
Tこれは、そのことわざに果敢にも挑戦した青年の物語ーー彼は小さな町の映画館で映写技師として働きながら、探偵になるべく勉強していた。
(映画館の客席でひとり本を読むキートン)寸暇を惜しんで探偵入門書を読み耽る青年、演じるはバスター・キートン。(自分の親指の指紋を調べる)

キートン「なるほど……」
劇場主「(掃き集められたゴミの山に)なんだこれは?おいおい、
“Say—Mr.Detective—before you clean up any mysteries—clean up this theater.”
T探偵さん、事件を片付ける前にこの劇場のゴミを片付けてほしいんだがね」
キートン「あ、すみません!(つけ髭を取る)すぐやります」

The girl in the case.
Kathryn McGuire
Tこれから起こる事件の渦中にいる少女
演じるはキャスリーン・マクガイア
(庭で犬と語らうキャスリーン)
The girl’s father had nothing to do so he got a hired man to help him.
Joe Keaton
Erwin Connelly
T彼女の父は、使用人を雇っていたので、特に何をすることもなく、ただただ娘を愛でていた。
父親ーージョー・キートン
使用人ーーアーウィン・コネリー
(劇場前に看板を出す)
(看板)
To-day
Hearts & Pearls
Or
The-lounge
Lizard’s
Lost love
In
Five-parts
T本日上映作品の看板も出して準備は完了。青年は隣の洋菓子店へ。ショーウィンドウに飾られたチョコレートーー

キートン「1ドルね……こっちは3ドル…ええと、今いくらあったかな(ポケットからクシャクシャになった紙幣を出す)2ドルか」

ダメ元で店員に掛け合う青年だがーー

店員「いいえ、3ドルです」
キートン「そうですか」

(店のカウンターに置いてあったチラシがホウキにくっつく)仕方なく掃除に戻ってーー(チラシはホウキからキートンの足へ、手へ)(出て来た男にチラシを踏ませる)
The local sheik.
Ward Crane
T田舎の遊び人
演じるはウォード・クレイン
こちらも金には常に不自由な身。しかし女性には常に愛想を振り撒く。

ウォード「(会釈)どうも」

一方青年は、集めたゴミの中から1ドル札を発見。

キートン「よしっ!(上着を着て)」

(女性がやってきてゴミの山を探し始める)

キートン「あのーー何かお探しですか?」
“I lost a dollar—did you find it?”
T若い女性「1ドル札を落としてしまってーーありませんでしたか?」
キートン「1ドル?ええと、そういえばーー」
若い女性「あったんですか?」
キートン「いや、それらしいものはーー
“Describe it.”
Tあの、そのお札の特徴をいってもらえますか?」
若い女性「長さがこれくらいでーー幅がこれくらいーー裏に鳥の絵が描いてあってーー」
キートン「なるほどーーこれですかねえ(渡す)」
若い女性「確かにこれですわ。どうもありがとう」
キートン「仕方ないなーーお店の人にもう一度いってみよう」

(年配の女性がやってきてゴミの山を探す)

キートン「あのーーどうかされましたか?」
“I lost a dollar.”
T年配の女性「1ドル札を落としてしまって」
キートン「え?それってーー長さがこれくらい、幅がこれくらい、裏に鳥のーーこれですか?」
年配の女性「そうよこれだわ!どうもありがとう」
キートン「(女性にハンカチを借りて)いいえ、どういたしまして」

有り金はついにたった1ドル紙幣一枚だけ。それでも彼にはどうしてもあのチョコレートを買わなければならないわけがあった。(歩き出すとまたもゴミの山を探る男)

キートン「あの、どうかされましたか?」
髭面の男「……」
キートン「あのーーこれ、どうぞ(去りかける)」
髭面の男「おい!ちょっと来い!ーーこれは何だ?」
キートン「この中にありましたので、お探しのものかと」
髭面の男「俺のじゃない……(財布を見つける)あった!(札を数えて)うん、助かった」
キートン「えーっ?まだある?(ゴミの山を探す)ないかーー仕方ない」

これ以上1ドル札を落とした人が現れる前にーー隣の店へ。

キートン「(店員に)あの、これ(商品を持って、1ドル紙幣を渡す)」

青年がチョコレートを持って向かったのはーー愛するキャスリーンの家。(家の前で立ち止まって箱を確認)(値段を1ドルから4ドルに書き換える)ささやかな男の見栄。

キートン「(スキップしながら玄関へ)こんにちわキャスリーン!」
キャスリーン「いらっしゃい♪」

キャスリーンと青年ーー会えばお互い嬉しいはずなのにーー会ったら会ったでぎこちないふたりのぎこちない距離。

キャスリーン「あの……どうぞ……」
キートン「うん……」

さて、美しいキャスリーンのことをウォードも狙っていた。図々しく挨拶もせずに入って行くさすがの遊び人。

ウォード「……ん?」
キートン「これ(チョコレートの箱を渡す)」
キャスリーン「まあ……私に?ありがとう」
キートン「まあーー安物だけど(箱を裏返して値段を見せる)」
キャスリーン「……?」
ウォード「なるほどね……おっ」

遊び人ウォード、女だけでなく人の物に手を出すのに躊躇はない。

キートン「それからーーこれ(キャスリーンの手を取って)」
キャスリーン「まあ……私に?いいの?素敵ーーあら?」
キートン「見えにくい?これで見るといいよ(虫眼鏡を渡す)」
キャスリーン「……ありがとう」

そのころ遊び人ウォードはーー盗んだ時計を持って質屋へ。(出てくるウォード)
(初々しいふたり)(洋菓子で3ドルのチョコレートを買うウォード)なかなか手に触れてくれない青年に業をにやしたキャスリーン。(どん、と手を置く)と、そこへーー

ウォード「やあキャスリーン、これ君に」
キートン「ーーあれは?」

さすがは百戦錬磨の女たらしウォード、モジモジしてなかなか前に進まないふたりをあっさり引き離した。(ウォード、カーテンを閉める)(カーテンを開けるキートン)

キートン「あの、キャスリーンーー」
ウォード「(バナナを渡して)これでも食べて待っててくれないか」
キートン「……ありがとう(席に戻って、バナナの皮を捨てる)ウォード、ちょっと!」
ウォード「ん、なんだ?」
キートン「話があるんだ、ちょっとこっちへ」
ウォード「悪いが後にしてくれ(戻る)」

(ウォードがキャスリーンの手にキスをする)

キートン「おい、ウォード、何を!(走り寄ろうとしてバナナの皮を踏む)……何でもない(座る)」
父親「キャスリーン、ちょっと来てくれ」
キャスリーン「どうしたの?」
父親「うむ、母さんも、ワシの時計を知らないか?」
使用人「どうしたんですか?」
“Some one has stolen my watch.”
T父親「うむーーワシの時計を誰かが盗んだようだ」
使用人「ええ?」
キートン「事件だ……!(探偵学入門を開く)」
ウォード「まずいな……(キートンの様子をうかがう)」

Rule 1. Search Everybody
探偵術その1全員を疑うべし。

ウォード「ますますまずいな(ポケットから質屋の勘定書きを出して)」

悪知恵の働く遊び人ウォード。(勘定書きをキートンのポケットへ)

“It looks like a job for the police.”
Tウォード「どうやらこれは警察の仕事のようですね」
父親「まったくそうだ!よしーー」
キートン「ちょっと待ってください。
“I’ll take charge of this case and start by searching everybody.”
Tこの事件は私に任せてください。まずはここにいる全員調べますーーでは、失礼して(父親のボディチェック)」
“Hey—I’m the fellow who lost the watch.”
T父「おい、ワシは時計を盗まれた本人だぞ」
キートン「そうでしたーーでは次の人」

新米探偵キートンの捜査が始まった。(使用人、母親、ウォード、キャスリーンを調べる)

キートン「うむーー怪しいものは見つかりませんねーー次は」
“Why don’t you search him, too?”
Tウォード「彼も調べないといけないのでは?」
キートン「確かに。では、どうか調べてください」
父親「うむーーん、これは?」

それは懐中時計の質札ーー額面は4ドル。

父親「これは何だね?」
キートン「……それは……わかりません」
ウォード「(キャスリーンの持つチョコレートの箱を見て)あっ!これを見てください」
父親「4ドル……どういうことかね」
キートン「わかりません」
キャスリーン「……(顔を背ける)」
“I’m sorry, my boy, but we never want to see you in this house again.”
T父親「悪いがーーワシは君の顔をこの家で二度と見たくない。今すぐ出て行ってくれ」
キートン「いや、でも僕にはまったくーーわかりました。(ウォードから帽子を受け取り)失礼します。キャスリーン、信じてほしい、僕はやってない」
キャスリーン「……(指輪を外して)これ、返すわ」
キートン「キャスリーン……!」

信じたい気持ちと事実の間で、キャスリーンの気持ちは揺れ動いていた。一方、肩を落としてキャスリーンの家を出た青年であったが。(出て来るウォード)

キートン「ウォード……そうだ!(探偵術入門を開く)」

Rule 5. Shadow your man closely
探偵術その5怪しい人間はピッタリマークせよ。

キートン「よし!」

早速尾行開始。ぴったり後をついて行く新米探偵。(ウォード、タバコを吸って、捨てる)(受け取って、吸う)(道路を渡るふたり)(貨車のそばで急に立ち止まるウォード)(連結した貨車に挟まれるキートン)(階段で少し遅れるキートン)何とか気づかれずに尾行を続けていたがーーついに勘づかれた!

ウォード「ん?」
キートン「やあどうも!じゃあ(貨車に入ってゆく)」
ウォード「よし(貨車の扉を閉めてロックする)じゃあな」

給水を終えた貨車がゆっくり動き出す。なんとか天井の扉から脱出した青年。(給水口につかまる)しかしーー(水浸しになる)

駅の作業員「うわっぷ!な、なんだ!お前かーっ(キートンを追いかける)」

As a detective he was all wet, so he went back to see what he could do to his other job.
T結局尾行中にずぶ濡れになって大失敗、仕方なく青年は本来の仕事に戻ることにした。(映写室に入って来るキートン)(フィルムを映写機にセットする)一方、青年を信じたいキャスリーンは、質屋を訪れていた。

“Can you describe the man who pawned this watch?”
Tキャスリーン「あのーーこの時計を質入れしたのはどんな人でしたか?」
質屋主人「背が高くて髭を生やしてましたね」

(店の前を通るウォード)

質屋主人「ああ、あの人ですよ!」
キャスリーン「……ウォード!やっぱり!」

映画が始まるーー
Veronal Film Co. presents “Hearts and Pearls”
Tベロナールフィルム社製作「ハートと真珠」
今日は朝からいろいろありすぎた。クタクタになった青年は映写機に寄りかかってウトウトしはじめた。映画はーーあるお金持ちのお屋敷が舞台であった。

キートン「ん?」

幽体離脱かドッペルゲンガーかーーうたた寝をする青年の肉体から、起き上がったもうひとりの青年。

キートン「なんだ?」

スクリーンの中で諍いをする若い男女。しかし次の瞬間ーー(スクリーンの男女が振り向くと)

キートン「キャスリーン!ウォード!(寝ている肉体に)おい、起きろ!あれを見ろ!」

スクリーンの中の男女ーーキャスリーンとウォードはどうも剣呑な雰囲気。彼女は2階の自分の部屋へ。しかしウォードは抜け目なくその後を追って行く。一方真珠のネックレスをしまったお金持ちの父親はーーキャスリーンの父親に!

父親「よし、行くか!」
キートン「一体どういうことなんだ?」

客席に座る青年の前で、キャスリーンに迫るウォード。

キートン「おいやめろ!よせ!」

思わず叫びながらスクリーンに向かうとーー(スクリーンの中に)

ウォード「なんだお前は、すっこんでろ!」

(キートン、スクリーンから追い出される)(眠っている肉体)

キャスリーン「いやよ!やめて!」
キートン「いやがってる、助けなきゃ」

再びスクリーンに飛び込むもーー場面が変わって(玄関、父親が出て来る)(ノックするが反応なし、仕方なくいったん離れると場面が変わる)

キートン「あれ?なんだ?」

(腰を下ろすと、車が行き交う道路)

キートン「危ない!一体どうなってるんだ?」

(場面変わって、崖の上)

キートン「ここはどこだ?」

(場面は変わって、ジャングル。ライオンたちに囲まれている)(また変わって、砂漠)(と思ったら列車が通過)ジャングルから砂漠へーー目まぐるしく場面が変わる展開に、青年はまったくついて行けずーーそれにしても、かくもアバンギャルドな映画が、かつて存在したであろうか?(腰を下ろすと場面は海岸。大波をかぶるキートン)(海に飛び込むとそこは雪山)

キートン「どうすればいいんだ(木に寄りかかろうとすると、場面変わる)

映画の中で世界を一周して戻ってきた青年であった。(スクリーンの中、暗転)

キャスリーン「大声を出すわよ」
ウォード「わかったよ。まったく頑固なお嬢さんだ。(ドアを開けて)どうぞ」

(キャスリーン、出て行く)一方その頃ーー

父親「ないーーない!みんな来てくれ!」
キャスリーン「どうしたの?」
“Some one has stolen the pearls.”
T父親「誰かが真珠のネックレスを盗んだんだ!」

(父親、去る)真珠のネックレスを盗んだのはーー(ウォード、執事に渡す)このふたりであった。

父親「もしもし、事件だ!警察などあてにならん!犯人を見つけてくれたまえシャーロックJr.!」
“We are lost! He is sending for the world’s greatest detective—Sherlock Jr.!”
T「まずい!世界一の名探偵シャーロックJr.を呼ぶつもりだぞ!」
執事「なあに、探偵なんぞ気にすることはないさ。見せたいものがある」
ウォード「おい、大丈夫なのか?」
執事「まあこれを見ろ(ビリヤードの球13が三つ)」
ウォード「それがどうした?」
執事「試しにこれをひとつ投げてみる(庭に投げる)」

(爆発する)

ウォード「そうか、これでーー」
執事「そうさ、探偵にビリヤードをさせれば、木っ端微塵だ」
ウォード「素晴らしい(投げる)」
執事「おいおい、やめろ!爆発したらどうするんだ?今の見たろ?で、万が一これが失敗した場合はーー(椅子の座席部分を外して見せる)この椅子に腰を下ろすとーー(壁にかかっている斧が落ちて来る)これでおしまいーーどうだ?」
ウォード「なるほどーー考えたな」

(玄関の呼び鈴を鳴らす手)

執事「来たぞ!」

依頼を受けて屋敷に現れたのはーー
The crime-crushing criminologist—
Sherlock Jr.
T犯罪を決して許さぬ犯罪学者
シャーロックJr.

執事「お待ちいたしておりました」

警察も一目置く、名探偵シャーロックJr.の名は、世界中に轟いていた。(帽子、ステッキ、コートを預けて)挨拶もそこそこに、シャーロックJr.の捜査が始まった。(人々に再接近するシャーロックJr.)

キートン「なるほど……(金庫の方へ歩いて行く)」
父親「シャーロックさん、この中にーー」
“Don’t bother to explain—this is a simple case for me.”
TシャーロックJr.「いや、説明は結構ーー私にとっては簡単な事件ですので」

(例の椅子に近づくシャーロックJr.)

執事「(椅子の埃を払って)どうぞ」
キートン「うむーー(座ろうとするが、ウォードに気づいて)ウォードさん、少しうかがいたいことがあります」

(ポケットから毒薬を出す執事)探偵暗殺計画は何重にも張り巡らされていた。(グラスに毒薬を入れる執事)

執事「どうぞ」
キートン「ありがとう(毒入りグラスを手に取る)ああ、どうぞ(ウォードにグラスを)」

執事は大慌て。(目で合図をするが、通じない)

“Pardon, sir. I think there is something in your drink.”
T執事「(ウォードのグラスを奪って)大変失礼いたしました、飲み物に何か入っておりますようでーーお下げいたします」
キートン「なるほど」
ウォード「(キューを渡して)いかがですか?」
キートン「いいですね、やりましょう(椅子に座りかけるが、自分の番が来て)」

執事はヤキモキーー(キューで押されて自分が椅子に座りそうになる)
しかし、探偵が目を離したすきに13番の球のすり替え成功。

執事「(ウォードに)13番だぞ」

(その様子を鏡で見ているキートン)

ウォード「どうぞ」
キートン「なるほど……では(構える)」
ウォード・執事「危ない!」

名探偵はビリヤードの腕前もプロ級ーー見事に13番の球だけかすりもしない。

執事「おかしいな」
ウォード「おい、爆発しないぞ」
執事「13番だけに当たらない。悪運が強いやつだ」

(やはり13番だけに当たらない)

ウォード「やつはなにをやってるんだ?」
執事「狙ってるようだがーー下手なんだかうまいんだか」

的球は次々とポケットに吸い込まれて行くがーー13番はピクリとも動かない。

執事「ダメだ!ーーでももう最後だ!きっとこれでーー」

しかしーー(手玉はジャンプしてポケットへ一直線)

執事「なんてことだ!やっぱりやつはどうしようもないヘタクソだ」
キートン「なるほどーー(手玉をセットして)ウォードさん」
執事「やつが呼んでる」
キートン「ーーどうぞ」

(ウォード、ポケットに入らず)

キートン「惜しい……では」

(キートンが打つと、手玉は大きく跳ねて)(ウォード逃げる)名探偵、落ち着いて13番を狙ってーー見事ポケットへ!

キートン「私の勝ちですね。では失礼」
ウォード「……どうなってるんだ?」
執事「(ポケットに入った13番を手にして)どういうことだろう?(耳元で振る)これはーー本物だ!だとするとーー(さきほど隠した箱をチェック)ない!」
ウォード「おいおい、まんまとしてやられたって(椅子に足を載せる)ーーうわっ(斧が落ちて来る)」

執事の用意した作戦はことごとく失敗したーー(毒入りの飲み物を口にする執事)

執事「しかたがないーー次の作戦を練ろう(飲む)……しまった!(飲んだものを吹き出す)」

(玄関を出るキートン)名探偵は爆薬入りの13番をすり替え戻していたのであった。

キートン「おっと危ない!」

By the next day the master mind had completely solved the mystery—with the exception of locating the pearls and finding the thief.
T翌日までに、偉大なる知性の持ち主は完璧に事件を解決したーー真珠を見つけることと、泥棒を捕まえることをのぞいて。
(身支度を整えるキートン)
His assistant—Gillette
A Gem who was Ever-Ready in a bad scrape.
T彼の助手ーージレット
ひどい窮地におちているときも準備万端おこたりない優秀な男。

ジレット「(ステッキを渡す)どうぞ」
キートン「うむ。行って来るよ」
ジレット「行ってらっしゃいませ」

(金庫のようなドアを開ける)すでに犯人の目星はついていた。あとは証拠を押さえるだけ。(車を運転しているウォード)狙いをつけているのはーー(ビルに入って行くウォード)(後をつけるキートン)

ウォード「ん?ーーやつか?よし(帽子を脱いで屋上に上がるハシゴの下に)」
キートン「(続いて上がって来て)どこに行った?ん、上か?」
ウォード「引っかかったな(天井への入り口に鍵をかける)」
キートン「(気づいた)しまった!」

(ウォード、車に戻る)

キートン「ちくしょう!よし、これでーー(車に飛び乗る)」

しかしーーウォードの車に乗っているのは、名探偵だけではなかったのである。(車が止まり、車を降りて建物に入るウォード)

部下「お帰んなさいボス」
ウォード「おう」
キートン「ここがアジトかーーん?えいっ!ーー(銃を突きつけて)誰だ君は?」
髭の男「待ってください。ワタクシです(帽子と髭を取る)」
キートン「なんだ、ジレットか」
ジレット「ワタクシもお手伝いいたします。これをお使いください(丸くて薄いものを出す)」
キートン「(中を確認して)うん、これはいいね。ありがとう」
ウォード「これが昨日せしめた真珠のネックレスだ」
部下「こいつはすごい」
部下「やりましたね」
キートン「よし、裏へ回ってくれ」

(キートン、窓に取り付ける)

ウォード「おい、やつだ!どうやってここをかぎつけやがった!(部下に)調べろ!」
部下「ボス、拳銃持ってますぜ」
部下「いい時計持ってやがる(自分のポケットに)」
キートン「なるほどーーいやいや、君の時計もなかなか……」
部下「お前いつのまに俺の時計をーー」
キートン「お互い自分の時計がいいんじゃないかな」
部下「わかったよ……なんてやつだ」
ウォード「おい、そっちを見てみろ」
キートン「ーーああっ!」

人間型の極小鉄格子に囚われている男。

キートン「彼は一体ーー?」
“That’s a detective. When he’s dead I’ll put you in there.”
Tウォード「あいつも探偵だ。やつがくたばったら今度はお前があそこに入るんだ」
キートン「何だって?」
“And now I’ll tell you where our little sweetie is this minute!”
Tウォード「ついでにあのかわい子ちゃんが今どこにいるか、教えてやろう」

本性をあらわにした執事によって令嬢は攫われていた。

“And she’s waiting there for me.”
Tウォード「そこでーー俺様を待っているというわけさ」
キートン「……」
ウォード「俺は狙った獲物は逃さない。女も真珠もね(ネックレスを出す)」
キートン「今だ!(ネックレスを奪って窓から飛び出る)」

歌舞伎もかくやという衣装の早替え!

ウォード「やつはどこだ!?探せ!」
部下「あいつは日本のニンジャか……(歩き出す)(前を歩く老婆に気づく)ん?お前はーー」
キートン「まずい!」
部下「待てーっ!」
キートン「えいっ(ドレスを被せる)」
部下「ちくしょう!どこへ行った?」
キートン「しまった、行き止まりだ!」

血眼になって探偵を探す男たちの声ーー

ジレット「さあ、こちらへ!(ネクタイが飾ってある)」
部下「あそこだ!」
キートン「あっ!よし!(ジレットの抱えるカバンの中へ飛び込む)」
ジレット「あらあらあらーー一体どうしたのかしらねえ?」
ウォード「ーーどうなってるんだ」
部下「ここに何か仕掛けがあるのかもーー」
ウォード「ん、回るぞ!」

これぞまさしくどんでん返し!(裏から現れるキートン)

キートン「やれやれ……(角で部下と鉢合わせ)逃げろ!」
部下「待てーっ!」

(車が行き交う道路を走るキートン)そこへオートバイに乗る警官が。

警官「あー、スピード出し過ぎですね。ちょっと止まってください」
キートン「え……あの……はい」
警官「身分証明書お持ちですか?」
キートン「いや、私は探偵です」
部下「(止まって)まずいな」
ジレット「(髭を取って)ワタクシです。お乗りください」
キートン「ジレットか!ありがとう、よし、行ってくれ!」

(走り去る部下)

キートン「彼女が危ない!」
部下「やつがオートバイで逃げてますぜ」
ウォード「よし、追いかけるぞ!」
キートン「ジレット、君は実に優秀な助手だよ」
ジレット「ありがとうございます」

しかしジレットは落車。

キートン「つまりこれは、あのウォードと執事がグルになって起こした盗難事件というわけだよジレット」

(交差点を運転手なしで走り抜けるキートン)

“Be careful or one of us will get hurt.”
Tキートン「気をつけて運転しておくれよ、事故はシャレにならないーーおいおい、ちょ、ちょっとジレット!」

自動車の間をすり抜けーー水飛沫をあげーーどこまでも真っ直ぐーー一方、ウォード一味も後を追う。

キートン「ジレット、少しスピード出し過ぎじゃないかな

(工事現場で次々泥を被る)
Thomas Murphy’s
Stag Party
こちらはトーマス・マーフィーのバチェラーパーティー。

男「ようし、綱引きで勝負だ!」

(林の間を走るキートン)

男たち「行くぞーーヒーブホー!ーーああっ!」

男たちを根こそぎ引き倒し、パーティ会場をメチャクチャにし、川を渡りーー探偵は走る。建設中の橋を渡りながら、探偵は走る。(橋が崩れて見事に着地)こちらでは倒木の撤去作業中ーー(ダイナマイトを仕込んでいる)

作業員「おーい!止まれ!来ちゃいかん!」

(直前に爆破、無事通過)続いて、とても珍しい形の車と正面衝突ーーしなかったりーー

“I never thought you’d make it.”
Tキートン「ジレット、君がここまでできるとは思わなかったよ」

しかしまたもや迫る危機ーー向こうから爆走する機関車が!(間一髪で機関車も車もすれ違う)

キートン「ねえジレット、いったん止まって落ち着かないかーーあれ?いない?ジレット!?」

その頃、攫われたキャスリーンは……。

執事「お嬢さんーー邪魔者もいないし、ふたりで楽しもうじゃありませんか」
キャスリーン「いやよ!」
キートン「止めてくれ!ジレット!いや、いないのか、誰か止めて!」

(隠れ家に突っ込み、執事を蹴り出す)

キートン「お嬢さん、さあ逃げましょう!」

しかし、ウォード一味も到着ーー間一髪、ふたりは悪漢どもの車に乗って逃げ出した。

ウォード「追えーっ!(別の車に乗って)」

ウォード一味は銃をぶっ放しながら追いかけて来る。
(キートン、ポケットから例の13番を取り出す)

キートン「よしーーお嬢さん、ちょっと運転を頼みますーーえい!(13番を投げる)」
ウォード一味「うわあっ!」

(ウォード一味の車も転倒)
Four Wheel Brakes

キャスリーン「やったわ!やっつけたわ!ーーあっ!」

目の前に迫る湖!慌ててブレーキを深く踏み込んだ次の瞬間ーー完全四輪ブレーキのため、車輪のみピタリと止まりーー車体はそのまま湖へ。

キートン「ん?ーーちょっとUターンしてーーあれは?(といいながら車から降りる)あっ!」
キャスリーン「大丈夫?」
キートン「大丈夫、こうすれば(車の幌を広げてヨットの帆のようにして)」

風を受けて湖面を走る即席ヨット。

キートン「そうだ。これ、やつらが盗んだネックレスです」
キャスリーン「まあ、ありがとうございます」
キートン「なかなかいい眺めですね」

しかしーーやはり車は車であった。(沈んで行く)

キートン「む、いかん!お嬢さん!お嬢さん、大丈夫ですか!しっかり私につかまってください!お嬢さん!」

(映写室でうなされるキートン)(椅子から落ちる)

キートン「あっ!ーーあれ?」

映画はまだ続いていた。そして、そこにいるのはキャスリーンとウォードではなかった。

キートン「そうか……夢を見ていたのか」
キャスリーン「あの、すみません、キートンさんは?」
劇場主「やつなら映写室にいますよ」
キャスリーン「あの……」
キートン「キャスリーン!」
“Father sent me to tell you that we’ve made a terrible mistake—“
Tキャスリーン「……私たちとんでもない間違いをしてしまったわーー父があなたに謝りたいって」
キートン「謝るだなんて……わかってもらえたらいいんだよ」

青年は、嬉しかったーーが、これからどうすればいいかがわからない。だが、やるべきことは探偵の入門書ではなく、全部映画が教えてくれた。(キャスリーンと向き合う)(手の甲にキス)(指輪をキャスリーンの指に)

キートン「次は?」

(情熱的なキス)

キートン「え……よし……(軽くキス)それから?」

スクリーンが暗くなると、一挙に数年の時が流れて……
恋の道は探偵への道よりも長く険しくーーしかしそれはとても幸せなことだと青年は心から思った。「キートンの探偵学入門」映画一巻の終わり。