昭和十五年大日本文化映画製作所
「ともだち」

監督 清水宏
出演
横山準
李聖春
南里コンパル

京城郊外のとある学校。内地から転校してきた横山少年にはまだ友達がおりません。(見ている横山少年)(一人で遊んでいる少年がいる)

横山少年「ねえ君!」

(李少年、逃げる)

子供達「あ、もうすぐ授業が始まるよ!」

(校舎)

少年「これは、我が明治二十九年八月のことであった。同じ頃我が国では愛媛県の二宮忠八という人が、鳥や虫の飛ぶのを詳しく調べて、飛行機の模型を作りました」

授業中もさっきの子が気になってしかたのない横山少年。
(教科書で顔を隠す李少年)

先生「こら」
横山少年「ーーあっ!」
少年「これを飛ばせてみることができなかったのは実に残念なことでした」
先生「はい、よろしい」
T先生「横山くん、君はよく脇見をするね。何を見ているんです?」
T横山少年「僕、内地から来たばかりだから、朝鮮服が珍しいんです」
李少年「……」
T先生「何が珍しくても、授業中に脇見をしてはいけないね」
横山少年「はい、すみません」
李少年「……」

放課後ーー(立ち止まる横山)(あの少年も立ち止まり、逃げる)やはり横山少年はあの朝鮮服の子のことが気になって仕方ありません。ついに、なんとも珍妙な追いかけっこがはじまりました。(追いかける横山)(逃げる朝鮮服の少年)(塀を乗り越えて逃げる)(横山も懸命に追いかける)(隠れてやり過ごし、撒こうとする)

横山少年「どうして逃げるんだい?」
T李少年「君が追っかけて来るからさ。どうして追っかけてくるんだい?」
T横山少年「僕も君が逃げるから追っかけたのさ」
李少年「(荷物を脇に)……ふーん」
T横山少年「僕、喧嘩は強いけど、弱い者いじめなんかしやしないよ」
T李少年「僕だって強いよ。ほらーーいいかい?(力瘤を作ってみせる)どうだい?」
T横山少年「うん、強そうだね。僕だって、ほらーー」
李少年「ああ、こりゃあ強そうだ(もう一度力瘤を作る)」
横山少年「よしーーTじゃ、腕相撲しよう」
李少年「いいよ。負けないぞ!」

二人は腕相撲を始めました。これが実力伯仲、なかなかの名勝負です。

横山少年「うーん」
李少年「うーん」
T横山少年「なかなか勝負つかないや。僕も強いけど、君もなかなか強いね」
李少年「まあねーー僕、もう帰らなきゃ」
横山少年「ねえ君ーーT一緒に帰ろう」
李少年「よし、じゃあ今度はかけっこだ!」

二人はやがて、仲良く肩を並べて歩き出しました。

李少年「あーーちょっと」

(脚絆の紐がほどけて、李少年は巻き直す)

T横山少年「ねえ、君一人だけどうしていつも朝鮮服着てるの?」
李少年「それは……(俯く)」
T横山少年「ねえどうしてなの?」
李少年「(立ち上がって歩き出す)それはーーT家が貧乏だから、洋服が買えないんだよ」
T横山少年「(追いかけて)ああ、だからみんなが遊んでくれないんだね」
李少年「違うよーーTみんなが遊んでくれないんじゃないよ。僕がみんなと遊ばないんだよ」
横山少年「君がみんなと遊ばない?ーーTどうしてさ」
T李少年「朝鮮服着ているから…」
T横山少年「朝鮮服着てたっていいじゃないか」
T李少年「……僕、いやなんだよ」
T横山少年「どうしてさ。かまやしないじゃないか」
李少年「……(座り込む)」
T横山「これから僕と遊ぼうよ」
T李少年「うんーー(立ち上がる)だけど困ったなあ」
T横山少年「そんなに困るなら、その服僕に着せてみたまえ。僕なら平気だよ。(自分の服を指して)さ、君、僕のと取り替えよう」
李少年「ええ?」
横山少年「さ、早く早く!」

驚く李少年を促す横山少年ーー二人は着ているものを交換することになりました。

T横山少年「どうだ、似合うかい?」
T李少年「よく似合うよ。僕のはどう?」
T横山少年「君もなかなかよく似合うよ」
T李少年「だけど、僕がこれを着たら、君困るだろう?」
横山少年「別に困らないよ。さ、行こう」
李少年「うん」

二人の様子を他の子供達が不思議そうにみています。
(李少年、横山少年の後ろに隠れる)

T横山少年「遠慮することあるもんか。明日からみんなと遊ぼうね」

二人の少年の友情は今日始まったばかりでありました。清水宏監督「教育映画ともだち」全巻の終わりであります。