1926年アメリカ・パテー社
ちびっこギャング モンキービジネス
Our Gang Monkey Business


説明 山城秀之
製作・脚本 ハル・ローチ
監督 ロバート・F・マクガワン
《ちびっこギャング》
ファリナ アレン・ホスキンス
ファリナの妹マンゴー ジェニー・ホスキンス
太っちょジョー ジョー・コブ
そばかすミッキー ミッキー・ダニエルズ
赤毛のジャッキー ジャッキー・コンドン
マリー マリー・コーンマン
ノッポのジョニー ジョニー・ダウンズ
チンパンジーのアッカ 本人
犬のパル 本人
解説 一九二二年にスタートしたハル・ローチによる短編映画シリーズ。下町の悪ガキ共ちびっこギャングOurGangによるイタズラと彼らによって巻き起こされる騒動を描くドタバタコメディ。パテー時代以降MGMでも製作され、トーキー時代になっても人気シリーズとして製作され続けた。出演した“ギャングたち”が、大人になってシリーズにゲスト出演する、ということもあった。また、テレビシリーズ、アニメーション作品も作られた。日本でも「ちびっこギャング」「ちびっこ大将」などのタイトルでテレビ放映された。
略筋 チンパンジーによるボクシングの試合という見世物のために、日々ニンゲンにしごかれるアッカ。しかしまったくうまく出来ない彼は、ついに親方から箱に閉じ込められてしまう。アッカは箱をこじ開けて逃亡に成功。猿が猿でいられる場所ーー自由を求めて外の世界へ飛び出すのであった。
 さて一方こちらは我らがちびっこギャングたち。一番のちびであるファリナは自分こそがちびっこギャングのトップだと思っていたが、現実はそううまくは行かなかった。まるで人形のようにやりたい放題もみくちゃにされるファリナ。ついに堪忍袋の緒が切れた彼は、ギャングをやめることにした。妹のマンゴーに別れを告げて家を飛び出す。
 ひとりと一匹はふとしたことで知り合って意気投合。すぐにちびっこギャングの仲間たちにも受け入れられた。そしてそばかすミッキーが金儲けのアイディアを思いつく。彼らが見世物小屋のテントを作っている間、おとなしく家の中でしているようにいわれたアッカであったが、再び自由を求めて飛び出した彼の行くところ、騒ぎはどんどん大きくなってーーついにはお巡りさんまで出動することにーー!

本日は無声映画鑑賞会にご来場まことにありがとうございます。活動写真弁士山城秀之でございます。ただいまよりご覧に供しますは「ちびっこギャング モンキービジネス」という短編コメディでございます。当会でも何度も上映されており、豆プロにもあるとおりトーキーやTV版も製作され日本でも放映された人気シリーズの一本でもありますので、前説では作品冒頭の中間字幕に出て参りますダーウィンとウィル・ロジャースという人物について少しお話しさせていただきます。チャールズ・ダーウィンは1859年「種の起源」で進化論を唱えたことで有名ですが、アメリカでの受容には160年を過ぎた現在でさえ創造論を4割の人が信じているという状況です。一方のウィル・ロジャースは1879年チェロキー族の血を引く両親の間に生まれ、長じてサーカスや巡回ボードビルショウなどで投げ縄の芸と軽妙なトークで人気を博しました。1923年ハル・ローチと契約し10数本の作品に、そしてトーキーになっても20本以上の映画に出演しました。また、コラムニストとしても活躍、講演旅行で世界を回りましたが、1935年に飛行機事故で亡くなりました。享年55でした。実際に本物のチンパンジーを登場させており、今見るとよく事故が起こらなかったものだ、と驚きますが(実際事故が起きていた可能性は否定できませんが)、「はじめに」の部分の皮肉が作品全体に小気味よく効いていると思います。それでは10分強の短い作品です。最後までごゆっくりお楽しみください。

T Foreword—
Darwin says—Man sprang from monkey—
Will Rogers says—Some of them didn’t spring far enough—
はじめにーー
かのダーウィンいわくーーヒトはサルから進化した。
ウィル・ロジャース付け加えていわくーーまあ、頭のネジがいくつか足りないヤツもいたみたいだけれどね。
(大笑いしているチンパンジー)ここは町外れのサーカス小屋。メインの曲芸の前座として、サルのコメディショーの企画が持ち上がり、早速その稽古が始まろうとしていた。(場末の劇場のバックステージ。ヒトの頭の高さにロープが張ってある)(座るなりすぐに右足でビンをつかんで飲むアッカ)

団員「いいか、思い切って行け!」

(殴り合う二匹)練習試合。飼われているとはいえそこはけだもの、殴り合ううちに野生の本能があふれだした二人、いや二匹はーー(本気になる)

団長「おい、やめろやめろ!何をやってるんだ、これはショーだぞ。ダメだダメだ」

(二匹を分ける団長)

T “—You’re no good. Akka—I’m gonna fire y’—“
団長「(グローブを外しながら)アッカ、お前は全然ダメだ、クビだクビ!」

(団長、アッカを箱に閉じ込める)
The missing link
Is he human?
サルとヒトのあいだをつなぐ存在、アッカたちをそういう触れ込みで売り出すつもりだったのだがーー

団長「(もう一匹のサルに)お前もクビだ!まったく!(去る)」

しかし、アッカは只者ではなかった。(閉じ込められている相棒に)

T “—Goodbye—I’m goin’ out to the great open spaces where monkeys are monkeys—“
アッカ「あばよ!おいらはこれから、サルがサルでいられる世界へ行くつもりだ」

旅支度ーー特に身だしなみには充分な時間をかけてーー外の世界でまつ素敵な出会いに胸ふくらむアッカ。(カバンをさげて、窓から出て行く)
T Farina had planned to whip the whole gang—But he got hold of the wrong set of plans—
T ファリナは、ちびっこギャングのリーダー、つまりトップになりたかった。しかし、現実はーー(寄ってたかってめちゃくちゃにされるファリナ)トップではなく、みそっかすだった。(逃げるファリナ)

ファリナ「覚えてろよ!(逃げる)」

T Farina’s home life—Mother was a woman of great aim—She hadn’t missed father once in five years—
T ファリナの家ーー母は狙いを過たない人だったーーこの5年というもの、父親を殴り損ねたことはなかったのである。(棒で父親を殴る母)

ファリナ「……」

(妹マンゴーがやってくる)

T “—Goo’bye, Mango—Nobody loved me—Ah’m goin’ out West an’ fall off a mount’in—“
Tアッカ「あばよ、マンゴー。この町じゃ、俺はのけものだ。西部へ行って、山から飛び降りるつもりだ(去る)」

(建物のかげから窺うアッカ)(道端に腰を下ろすファリナ)サルのアッカとヒトのファリナーー寄るべなき二つの魂が、ここで出会ったのである。(隣に座ってきたアッカに気付き後ずさるファリナ)(追い詰められ笑うファリナ)どんな言葉より、笑顔は雄弁に物語るーー場合もある。(立ち上がるファリナを足で座らせるアッカ)(父親が通りかかる)

父親「こんなところにいたのかファリナ!来い、何が西部に行くだ!(尻を叩く)お仕置きだ。こいつめ!」

(父親に襲いかかるアッカ)魂の友の危機ーー猛然と立ち向かうアッカ。

ファリナ「いいぞ!やっちまえ!」

チンパンジーの握力は人間の4倍以上、顎の力は20倍を越えるという。(ファリナ、興奮しすぎて転ぶ)

父親「助けてくれーっ!(逃げて行く)」
T “—Come on, Monk—We gotta lot o’ loose fightin’ to do—“
Tアッカ「(アッカと握手)お前すげえな。俺と友達になろうぜ」

かくして一匹と一人の、種を超えた熱い友情が生まれたのである。(手を繋いで歩いて行く)(そばかすミッキー、看板の裏にファリナと自分の喧嘩の様子を描いている)

ファリナ「ジミーのやつーーバカにしやがって……よし!(近づいて)おいそばかす野郎、ふざけるなよ!」
ミッキー「なんだ、またやられに来たのか?よーし」
ファリナ「えい!(腹を殴って去る)」
ミッキー「いてててて」
ファリナ「(アッカに)頼んだぜ!」
ミッキー「あったまに来た!許さねえぞ!」

(ミッキー看板の後ろに行くが、すぐに弾き飛ばされる)
大人ですら歯が立たないアッカにかなうわけもなくーー(倒れたジミーに殴りかかるアッカ)

ファリナ「いいぞいいぞ!」
ジョニー「おい、ありゃなんだ?」
ミッキー「た、たすけてくれーっ!(仲間のもとへ)」
ファリナ「おいおい、さっきはずいぶん好き放題やってくれたな(帽子を投げ捨て、上着を脱ぐ)」

相棒とともに暴れ回る気まんまんのアッカ。(腕まくりをする)

ファリナ「おい、なんか文句あるか?お前は?お前は?
T “—Ah’m gonna be Boss from now on—Me an’ mah pal—“
Tいいかーーこれからは俺がボスだーー俺とこのサルがな。わかったか!」

当のアッカは颯爽と自転車にまたがるとーー

ギャングたち「すげえっ!」

(逆回転)今度は逆回り!

T “—I didn’t know he could do tricks—“
Tジョー「あんなの見たことねえよ、すげえな」

(今度はロープにぶら下がって遊ぶアッカ)

ファリナ「まあな、俺のダチはすげえだろ」

(アッカ、逆立ちをする)

ジョニー「本当にすげえや!」

芸達者なアッカに、ちびっこギャングの面々はびっくり。(アッカを囲むギャングたち)(別の子供たちがやってくる)

子供「なあ、そのサルはなんだい?よく見せてくーー」
T “—Give us a penny—An’ you can stay an’ see the monkey—“
Tジョニー「ちょっと待った、金払えよなーーそしたらこいつのすげえショーを見せてやってもいいぜ」
マリー「そうよ、払ってちょうだい」
子供「わかったよ(金を渡す)」
ジョニー「毎度ありーーへへへ」
T “—I gotta proposishion—Let’s build a tent an’ give a show—“
Tジミー「いいこと思いついたぞ!サーカス小屋をつくろうぜ!そんで、こいつのショーをやるんだ!きっと儲かるぜ!」
T “—Take the monk in the house—Tell him to ack like a gen’leman—“
Tジョニー「よし、しばらくこいつを家んなかに入れておこうーーファリナ、おとなしくしてるんだぞっていいきかせるんだ」

(ファリナ、アッカの手を引いて家の中へ)

T “—Yo’ fightin’ days am over, Monk—Be a gent’leman—“
Tファリナ「いいかい、がむしゃらに戦ってきた日々はもう終わったんだーーこれからはいっぱしの紳士にならなきゃあ」

何をいわれてもアッカはどこ吹く風。今現在はロッキングチェアに夢中。続いて喉が渇いたのでオタマで水を飲もうとするもーーそれは穴あきオタマ。(オタマをしげしげと見て、投げ捨てる)次に手に取ったのはベンハー・プロダクツの胡椒の缶。(ちょっと嗅いで、すぐに捨てる)生まれてはじめての刺激!(激しく耳が動く)お次はアンモニアの瓶。しかしどれもこれも、アッカには刺激が強すぎるものばかりであった。(瓶を捨てる)
(ちびっこギャングたちは手分けしてサーカス小屋のセッティング中)退屈を持て余すアッカは、自分だけの回り舞台で大はしゃぎ。とバランスを崩してーー(テーブルから転がり落ちる)ふと見るとちょうどパン生地が発酵中。見るからにあやしい。(箒の柄で叩く)アッカは階下へ吹き飛ばされてーー

ファリナ「あれーー?」」

(出て行くアッカ)ついにアッカは外へ。

ファリナ「いない!」

(芝生に水を撒いている男)(ホースを折るアッカ)

男「んんーーなんだ?」

(アッカ、ホースを緩める)

男「うわっぷ!ーーん、なんだ、わっ!(後ろを見て)お前か!こいつめ(アッカに放水)あっち行け!」

(アッカ、消火栓のネジを捻る)世界初のウォータースライダー。(放水の勢いで滑る男)

T “—He’s run away! But he left some o’ the house!—“
Tファリナ「大変だ、あいつ、逃げちまった!」
ジミー「おいおい、サーカス小屋は出来上がってるんだぜ、探せ!」

(駆けて行くギャングたち)アッカが逃げて来たのは食料品店の前。(台車に積んだ果物をばら撒く)続いて洋品店へ。(マネキンに抱きつく)つかの間のラブアフェア。(隣のマネキンと格闘)

洋品店主人「な、なんだ!サルが!」

珍しい髪型の店主。(店内逃げ込む主人とアッカ)

洋品店主人「(すぐに出てくる)助けてくれーっ!」

衣装チェンジーー二丁拳銃を提げたガンマンスタイル。(ぶっ放す)(洋品店主人のカツラが吹き飛ぶ)

洋品店主人「(頭を抱えて)バレたーっ!(去る)」

ガンマンぶりも板についてきてーー(ぶっ放す)(タバコに火をつける)(カップルのお尻に当たる)(路地からあらわれたちびっこギャングたち)

ギャング「銃声がしたぞ!」

(アッカぶっ放す)(ギャングたちの頭上へ)

ギャング「うわっ!やばい、逃げろ!」
男「あれを見てくれ!サルが!」

サルにもわかるピンチの予感。(警官やって来る)素早くローラースケートを履いて逃走スタート。

警官「おい、待て!(拳銃をぶっ放す)」

(逃げるアッカ)(追いかける警官)(納屋に逃げ込むアッカ)

警官「よおし、もう袋の鼠、いやサルだ(中へ入る)」

(激しく揺れる納屋)しかしーー先ほどもいったとおり、チンパンジーの力は大したもの。(ボロボロになった警官)(警官の帽子をかぶって顔を出すアッカ)(棒で警官の頭を叩く)

ギャング「あっ!あそこだ!」
ジミー「おい、探したぜーーあっ!」

(キョロキョロしている警官)

ジミー「おまわりだ!隠れろ!(納屋に入るギャングたち)」
警官「おい、悪ガキども!」
T”Who owns that animal?”
T警官「誰のサルだ?」
ギャング「知らないよ」

そうこうしているうちに、T型フォードのパトカーまでやってきた。
ついに連行されるちびっこギャングたち。仲間の危急にアッカは再び動くーー(運転席に乗り込み、警官を蹴落とす)(パトカー走り出す)

警官「おい!ちょっと待てーっ!」

(迫り来る路面電車)もちろんサルが免許を持っているはずもなくーー(後部座席は大騒ぎ)(蛇行するパトカー)すでにハンドルすら持ってはいないアッカ。そしてーー(交差点で建物にぶつかってとまるパトカー。

ギャング「(降りてきて)おい、逃げろ!」
男「お前ら何してやがる!」

追手が迫る。逃げろや逃げろ。(別のパトカーに警官たち)(泥足のまま逃げるギャングたち)かくて、逃避行の末に固い絆で結ばれたヒトとサル、彼らのモンキービジネスはこれからも続くのである。(アッカも後を追う)「ちびっこギャング モンキービジネス」映画一巻のおわり。