ハロルド・ロイドの巨人征服
WHY WORRY ?
監督 フレッド・ニューメイヤー
サム・テイラー
ハロルド・ヴァン・ペラム ハロルド・ロイド
看護師 ジョビナ・ラルストン
コロッソ ジョン・アーソン
ピップス ウォリス・ハウ
ジム・ブレイク ジェームズ・メイスン
ヘルクレオ レオ・ホワイト
【前説】本日は「ひとりのビッグショウinピカイチ」にご来場、また配信でのご視聴まことにありがとうございます。活動写真弁士の山城秀之でございます。これからご覧いただくのは、ハロルド・ロイド主演「ロイドの巨人征服」です。1923年の作品で、かつてこの「ひとりのビッグショウ」でも説明いたしました「ロイドの要心無用」の次に公開されました。この映画の目玉としてはやはりナントおっても巨人コロッソを演じたジョン・アーセンでしょう。当初製作のハル・ローチは、リングリング兄弟サーカス団のカーディフ・ジャイアントを起用するつもりでしたが、製作に入る前に亡くなってしまったため、ミネソタ出身のアーセンを見出したのでした。身長2m18cm。実はアーセンの母親も2m20cmあったといわれており、父親が誰かははっきりしていませんが、候補者のひとりボッケは2m44cmあったそうです。残念ながらこの作品以外特に評判の映画には出演しておりません。この映画は、当時の業界誌「ヴァラエティ」や「フィルム・ディリー」などでも絶賛されました。上映時間は56分です。それでは、最後までごゆっくりお楽しみください。
T Crestshire Country Club. Aristocratic, exclusive and expensive. Wealthy society idlers with absolutely nothing to do come here to do it.
Tここはクレストシャー・カントリー倶楽部。メンバーは貴族や上流社会の人々、成金たち。何もすることがない有閑階級の怠け者たちが集う社交場である。(カントリー倶楽部の庭)(有閑階級の人々が歩いている)
T “Hello, Doctor. Have you seen Harold Van Pelham this afternoon?”
T男「(新聞を読んでいる医者に)やあ先生こんにちは!(腰を下ろす)ハロルド・ヴァン・ペラムを見かけませんでしたか?」
医者「(新聞を見せながら)ああ、彼ならほら、これを読みたまえ」
男「どれどれ……?(新聞の一面にロイドの写真)
T “Young Millionaire Seeks Health in Quiet Seclusion of Tropics”
T若き億万長者、安静と保養を求めて南洋へ。(記事のアップ)
T Harold Van Pelham, the wealthy young clubman, is leaving the city this afternoon on account of the critical condition of his health.
He is seeking seclusion in Paradiso, a restful little republic in the tropics, a spot almost unknown to American tourists...
T若き富豪にしてクラブ会員であるペラム氏は、最近特に体調が思わしくないため、本日午後に都会を離れる。まだ人々の知らない、南洋の小さな共和国パーラディーソに保養を求めたのである……(新聞を返しながら)へえ……でも」
T “Why, that young idler is as well as I am. He’s a pest about his health. Some doctor has probably sent him away to get rid of him.”
T「そうは見えなかったろう?彼は私と同じくらい健康だよ。ただ自分が病気だと思い込んでるんだ。どこかのヤブ医者がそそのかしたんだろうね」
男「なるほど」
(暗転)
T Off for Paradiso. Mr. Van Pelham has taken so many pills he rattles when he walks.
Tパーラディーソに向けて。ペラム氏はあまりにも沢山の薬を飲んでいるせいか、まっすぐ歩くのもままならない。
(乗船風景)
Harvard
港に停泊している客船ハーヴァード号。(救急車が到着)(運転手が後部ドアを開ける)(看護師のジョビナが降りてくる)
救急車からストレッチャーに乗ったまま登場したのはハロルド・ヴァン・ペラム氏。演ずるはハロルド・ロイド。
ハロルド「(タバコをプカプカ)そろそろ薬の時間じゃないかな」
T His Nurse. A loyal friend of long standing. She is putting her heart and soul in her work — espectially her heart.
Tペラム氏専属の看護師。長い付き合いの誠実な友人でもある。その仕事に真心と愛情をこめていた。特に、愛情を。演ずるはジョビナ・ラルストン。
ジョビナ「(ピルケースから錠剤を取り出す。首を振って)……どうぞ(ロイドの口の放り込む)」
ハロルド「うむ(タバコをふかす)」
T Mr. Pipps, the faithful valet. Somebody has told Van Pelham that a lemon would cure seasickness.
T誠実な使用人ピップス。「レモンは船酔いによく効く」と聞いたペラム氏にいわれて、早速山盛りのレモンを手配。演ずるはウォリス・ハウ。(レモンの詰まった箱を抱えている)
(係員から書類を渡されたジョビナ)
看護師「乗船手続きに行ってまいりますわ」
ハロルド「ああ、頼む」
同じようにストレッチャーに乗った老人がやってきた。
ハロルド「やあこんにちわ。ご病気ですか? 僕もなんですよ」
老人「ああ、そうかい」
T “Yes, indeed. I have a great doctor. He says I have everything but the smallpox.”
Tハロルド「(相手のストレッチャーを引き寄せて)ええ、そうなんです。僕の先生はとても偉いお医者さまでしてね。僕が天然痘以外全部の病気にかかってるっていうんです。だから天然痘が心配で」
T “Well, don’t worry, I’ve got that.”
T老人「ああそうかい。じゃが、心配せんでも大丈夫じゃ。ワシがその天然痘じゃからな」
ハロルド「ええっ!」
病人とは思えない身のこなしでその場から逃げて行くペラム氏。(あとを追うピップスとジョビナ)(暗転)
T Plowing a peaceful sea - and headed for the distant Island of Paradiso where adventures undreamed of awaited him.
T遠い島パーラディーソでは冒険が彼らを待ち構えているとも知らず、穏やかな海を進むハーヴァード号。
Paradiso
(地図の上を船の記号が南半球へ)南米の沖合に浮かぶ小島パーラディーソ。
T Fourteen lazy days and moonlit nights brought them close to the dreamy shors of Paradiso.
T14日間の退屈な昼と月明かりの夜が過ぎてやっと、パーラディーソの夢のような岸が見えてきた。(船上でのダンスパーティ)毎日のように開かれる船上でのダンスパーティには目もくれず、甲板の隅で潮風にあたるペラム氏と、甲斐甲斐しくその世話をするジョビナとピップス。(心配そうに見つめるジョビナ)
ハロルド「(腕を出して)脈を測ってくれ」
看護師「はい」
ふと見ると、海に落ちる夕陽。甲板では愛を語らう恋人たち。看護師としての仕事がありながら、彼女はついロマンチックな気持ちになってしまうのであった。(ハロルドの手にキスをするジョビナ)
ハロルド「脈はどうだい?どうしたんだまったく!おいピップス! ピップス!」
ピップス「はいただいま……あっ!」
(転んで運んできたお盆を落とす)(思わずペラム氏に抱きつくジョビナ)(大きな音に驚いたジョビナ)
ハロルド「おい君!重いじゃないか……いや……そんなに……重くない……存外、軽いかも……(うっとり上を見る)」
温かい気持ちが溢れて、鼓動がやや速くなるペラム氏。
ハロルド「いけない、心臓が!ちょっとどいてくれ!(ジョビナを突き放す)ええと、薬くすり(薬を飲む)」
船員「(助け起こす)お嬢さん、大丈夫ですか?おケガは?」
(二人を見るハロルド)
ジョビナ「ありがとうございます。大丈夫ですわ」
親しげに言葉を交わす船員とジョビナ。ペラム氏は面白くない。(チラチラ見るハロルド)(心配そうな船員)
ハロルド「(手を叩く)ちょっと、君!」
ジョビナ「……はい?」
T “See if I’ve got a fever. I’m hot all over.”
Tハロルド「ちょっと熱がないか見てくれ。熱いんだ」
ジョビナ「はい。(船員に)どうもありがとう(ハロルドの額に手を置く)お熱は……ないようですけれど」
ひんやりとした彼女の手の柔らかな感触。太平洋に沈む夕陽を見ながら静かに目を閉じるペラム氏。(夕日をバックに二人のシルエット)(暗転)
T Paradiso - A drowsy city in a dreamy land. Rip Van Winkle’s twenty year sleep would be considered a nap down here.
Tパーラディーソ。夢見る国の夢見る町。リップ・ヴァン・ウィンクルの20年の眠りも、この町では昼寝のようなものかもしれない。
(パーラディーソの町。コヤギ、馬車、昼寝している老婆)
みな長い長い昼下がりをコックリコックリ船を漕ぎながら過ごしている。馬車に乗るおじさんも眠る。(目を覚まして馬車を降り、荷物を抱えて)おじいさんも眠る。(ヒゲに蜘蛛の巣がかかっている)おじさんも眠る。(顔に帽子をのせたおじさんも寝ている。ロバ、横になる)ロバも眠る。
馬車のおじさん「(出て来て)おいおい……」
(窓越しに愛を語らう恋人たち)(木陰で踊りを楽しむ人々)眠っていない人々はたいてい愛を語らっているか、踊っている。(2階のバルコニーに男、下に女性)こちらにも、愛を語らうふたり。愛を語らいながら、眠気には勝てない。(2階の窓から外を見る男)
T Jim Blake - An American renegade, who, to further his own financial interests, has lashed the riffraff of the Republic into an outlaw force — restless and eager to overthrow the government.
Tその男、ジム・ブレイク。アメリカ人のならず者。金儲けのためにこの国のゴロツキどもを集めて、常にパーラディーソ政府の転覆を狙う無法者集団を作っている。演ずるはジェームズ・メイスン。
(見下ろすブレイク)(手のひらにパーラディーソの風景)
ブレイク「あと少しでこの国は俺のものになる……ふふふふ」
(通りを行進する兵士たち)
T The Union Soldiers. In power so long the moths are using their gun barrels for summer homes.
Tパーラディーソ政府軍の兵士。何事もない日々が続いたため、その銃身の中は蛾の避暑地と化している。
ブレイク「(鼻で笑って)へなちょこどもめ」
(ドアの隙間から銃が出されて、発砲)気だるい午後の空気を切り裂く一発の銃声。通りはまるで蜂の巣を突いたような騒ぎ。(人々は逃げ惑う)ブレイクの合図で、手下どもが政府軍兵士に襲いかかる。たちまち始まる大乱闘。しかし、所詮へなちょこ政府軍ではブレイク軍の相手にはならないのであった。勢いに乗って露天商の店まで破壊して商品を略奪する手下ども。(満足そうに眺めるブレイク)
手下「(一軒の家に入ってきて)おい、今すぐここから出て行け!ここを我が軍の本部とする(家具や食器を破壊する)」
老人「そんな!」
T Blake’s first lieutenant is called Herculeo the Mighty. He named himself.
Tブレイクの部下ヘルクレオ中尉。怪力ヘルクレオ。自らをそう称していた。演ずるは、レオ・ホワイト。
ヘルクレオ「ブレイク様がお見えになったぞ(悠然と入ってくるブレイク)閣下、どうぞこちらへ」
ブレイク「うむ……」
老人「ここはワシの家ですじゃ」
ブレイク「この老いぼれをつまみ出せ!」
(老人、抱えられて家を追い出される)(水槽に落とす)
ついに街を我が物にすべく動き出したブレイク。しかし……(手紙を読む)
World’s Allied Bankers
世界銀行家連盟。
T New York June 18. Mr. James H. Blake, Paradiso, Dear Sir: ...and we can no longer tolerate your continued interference with our commercial interests in Paradiso. If you persist in this practice, we will send down an authorized representative to curb your activities. Very truly yours, Joe Arnold, Worlds Allied Bankers.
T ジェームズ・H・ブレイク殿
拝啓、もうこれ以上パーラディーソの経済に対する貴殿の干渉を許すわけにはまいりません。もし、これ以上この国に干渉するようなら、貴殿の活動を制限するために正式の代表を送り込むことになるでしょう。敬具。
世界銀行家連盟
ジョー・アーノルド
ブレイク「ふざけた手紙をよこしやがって
T “This letter came over a month ago, We’ll make it hot, red hot, for this fellow when he shows up.”
こいつは1ヶ月前にきたものだ。この代表ってやつが俺の島にきたら、たっぷり痛い目にあわせてやる」
(暗転)
T Friday the Thirteenth saw three unsuspecting passengers set ashore at Paradiso.
T13日の金曜日、そんなこととは知らない三人の乗客が島に到着した。(パーラディーソの船着場)(車椅子に乗っているロイド)(山のような荷物を抱えているピップス)
ピップス「前が……見えない!(ロープにけつまづく)あっ!……」
車椅子はジョビナの手を離れて……
T “Here’s to the downfall of the Republic.”
Tヘルクレオ「共和国の崩壊を祝して!」
(ドアが開いてロイドが入ってくる)
ハロルド「(カップを受け取って)ありがとう。ちょうど薬の時間だったんだ」
ヘルクレオ「な、なんだお前は?」
ブレイク「……(立ち上がり、ロイドのそばへ)」
ハロルド「ああ、タバコまで。ありがとう(ブレイクの手からタバコを取って)」
手下「……なんてことを!(ロイドを追いかけて)おい!お前!」
ハロルド「随分埃っぽいところだな……(帽子の飾りを箒がわりにして)(投げ捨てる)」
手下「お、おい!」
老人「まったく、なんてことだ(家の中へ戻ってくる)」
ハロルド「(老人の様子を見て)あれ、びしょ濡れじゃないか。傘を借りるよ(蝙蝠傘をさして外へ)あれれ、降ってないじゃないか(傘を閉じる)」
ヘルクレオ「おい!」
T “Changeable weather you have here.”
Tハロルド「(傘を渡して)これ、ありがとう。ここの天気は変わりやすいね。じゃあ、失礼」
ヘルクレオ「なんなんだ!」
ブレイク「あいつ……世界銀行家連盟から来た代表に違いない。馬鹿にしやがって。おい!」
T “Show no mercy. Spare nobody.”
T手下「(命令を伝える)いいか、手加減するんじゃないぞ。誰も逃すんじゃない」
(心配そうなピップスとジョビナ)
ピップス「旦那さまは一体どこへ?」
(ロイド登場)
T “You run along to the hotel. I want to stroll around a bit. Everything is so calm and peaceful.”
Tハロルド「やあ。君たちは先にホテルに行っててくれ。僕はもう少しブラブラすることにするよ。ここは全くのどかで平和な島だなあ」
ピップス「旦那さま!まったく(階段から現れた兵士に捕まる)あっ!」
ジョビナ「(隠れる)大変だわ!」
ピップス「助けて!」
手下「待てーっ!」
一見のどかな町の昼下がり。(静かな通り)しかし……
ハロルド「ああ、本当にのどかでいい町だなあ」
(後ろから殴られて下のハンモックに落ちる男)
ハロルド「おや、気持ちよさそうに眠ってるなあ」
男「(棍棒で殴られる)うーん!(柵に倒れてお辞儀の形)」
ハロルド「こんにちは!(深くお辞儀、歩いて行く)おや?(日除けの植物に近寄る)」
男「こいつめ!(殴る)」
(ぶっ飛ばされて壁に倒れる男)
ハロルド「ふむ……普段はこんなことしないけど。(帽子に小銭を入れる)」
街のあちこちで、ブレイクの反乱軍が住人たちに牙を剥きはじめていた。(男に襲い掛かる兵士たち)
女「大丈夫?」
ハロルド「ブラボー!なんて情熱的なダンスなんだ」
(屋上で乱闘)(壁の花に顔を寄せるロイド)
男「えいっ!」
ハロルド「(頭上に鉢が落ちてくる)いてっ! どうしよう、頭が痛い。なにかが割れたみたいに頭が痛い」
(上から男も落ちてくる)
T “I say, my good man. I’ve been seriously injured! Can you direct me to the hotel?”
Tハロルド「ああ君、ひどいケガをしたみたいなんだ。ホテルへの道を教えてくれ!ちょっと!おーい!」
(逃げて行く男)
T “Hey! Can anybody tell be where the hotel is?”
Tハロルド「痛いなあ……おーい! 誰かホテルがどこにあるか知らないかい?」
手下「(屋上から下の人間に指示)おいっ!お前はこっちのやつをやっちまえ」
ハロルド「こっちかい? ありがとう(歩き出す)」
手下「おい!お前はあっちだ!(反対側を指す)」
ハロルド「え、あっちなのかい?(歩き出す)」
手下「よし、お前はこっちだ(反対側を指す)」
ハロルド「やっぱりこっち?(歩き出す)」
手下「よし、俺と一緒に来い!飛び降りて、走る)」
ハロルド「一体どっちなんだよ?(政府軍に捕まる兵士たち)ちょっと待ってよ!……(手下、中に合図して二手に)行っちゃった。(追いかける。手下はあちこちで合図をする)あ、ねえちょっと。一体どうなってるんだ。あ」
(馬に乗って去る手下)
ハロルド「ちょっと!(追いかけるが、諦めて)あ、そうだ(壁から除いている男に)君、(男ビックリして逃げ出す)え、なんなんだこの町は(別の男に)ちょっと、ねえ?」
男「うわーっ!」
ハロルド「待ってよ!おーい、ホテルの場所を知りたいんだよ!困ったなあ……あれ?」
そこへ出てきたのはブレイク。ペラム氏、逃げられないようにそーっと近づいて……(後ろからブレイクに抱きつく)
ブレイク「な、なんだ?」
T “No you don’t! You’ve got to tell me where the hotel is.”
Tハロルド「よーし、もう逃がさないぞ。ねえ君、ホテルの場所を教えてくれないか!」
T “Certainly, Sir. I shall do more than direct you. I shall be honored to give you a military escort.”
Tブレイク「なんだ、そんなことですか(ニヤリ。一礼して)……かしこまりました。喜んで我が軍がホテルへお連れいたしましょう」
飛んで火に入る夏の虫。
T “Poner el perro en carcel, y tenerle allR! (Put the dog in jail, and keep him there!)”
Tブレイク「(スペイン語で)こいつを監獄へ連れてって、ぶち込んでおけ!」
ハロルド「(ブレイクに手を握る)どうもありがとう」
(行進の中に入るロイド)
T “You must drop over to the hotel and have lunch with me.”
Tハロルド「あとでホテルに寄ってくれたまえ。一緒にランチをしよう!(兵士たちにも話しかける)」
ブレイク「ふん。バカな奴だ」
(角を曲がる行進)
ハロルド「それにしても日差しが強いな。これじゃ具合が悪くなってしまう。ちょっと拝借(隣の兵士のソンブレロを借りて、剣で日傘代わりにする)……あ、そうだ!」
突然何かを思い出したペラム氏。(走り出す)
手下「あ、おい、待て!(追いかける)」
ハロルド「(司令本部に入ってすぐ出て来る)あったあった。危うく忘れるところだったよ」
(再び行進)
ハロルド「それにしても立派な装備だねえ(銃の引き金を引く)」
手下「敵襲だーっ!(蜘蛛の子を散らすように)」
ハロルド「何だよみんな、ホテルに案内してくれるんじゃないのかい? 頼むよ。(恐る恐る顔を出す兵士たち)さ、急いで急いで!そこの君も!」
(柱にしがみついている隊長、降りてくる)向かう先の牢獄では……
看守長「ヘルクレオ中尉!」
ヘルクレオ「どうだ?」
T “Our men have finally captured Colosso, that wild hermit from the moutains who almost wrecked our army.”
T看守長「中尉殿、ついにコロッソを捕まえました。山奥に隠れ住んでいた奴のおかげでもう少しで全滅に追い込まれるところでした」
ヘルクレオ「うむ、でかしたぞ」
運ばれてきたのは、さんざんブレイク軍を苦しめた巨人コロッソ。10人がかりで牢獄に押し込まれる。コロッソ、演ずるはジョン・アーサン。
T “If he hadn’t been half crazy with a terrible toothache, we never would have captured him.”
T看守長「もし、ひどい歯痛で気が狂いそうになっていなければ、絶対に奴を捕まえられなかったでしょう」
ヘルクレオ「なるほど。(牢獄の小窓から顔を出すコロッソ)しっかり見張っているように」
看守長「承知いたしました!」
(塀の上から覗く兵士たち)(行進するロイド)
T “Another prisoner.”
T手下「もう一人来たぞ!」
手下「これでブレイク様の天下だ!」
ハロルド「どうも!(帽子を脱いで挨拶)お出迎えに感謝します。どうもどうも。(看守長の前まで来る)ここにサインすればいいんですね。(握手)ハロルド・ヴァン・ペラム、と」
その書類には、
T Prisioneros Deber Fusilados Alasalida Dl Sol(prisoners to be shot at sunrise)
T日の出とともに処刑する囚人。と書かれている。ペラム氏、スペイン語はまったくわからない。(サインをしたペンを看守の帽子にさす)
看守長「よし、連れて行け!」
ハロルド「(乱暴に引っ張られて、牢獄に突き飛ばされる)え、なんだなんだ、乱暴だな。(部屋の中を見回す)ちょっと、僕を誰だと思ってるんだ!(扉に向かって)ああ、カバンの中身が全部出ちゃったじゃないかまったく……(拾って仕舞う)」
その部屋には、コロッソも入っていた。
コロッソ「(ロイドを見る)」
ハロルド「もう大丈夫かな……(コロッソに気づく)あ、失礼……ちょっといいですか……ここにもあった……ここにも」
コロッソ「あの……」
ハロルド「痛い!足を踏んでるよ!(蹴る)僕はね、体が悪いんだ、ビックリして心臓がとまったらどうしてくれるんだよ(椅子に座る)」
コロッソ「ごめんなさい。痛い痛い!(腰を下ろす。椅子、破壊)」
ハロルド「まったく、なんてことだ。ねえ君、ここは本当にホテルかい?まるで牢獄じゃないか。いや(キョロキョロ見回して)ここは確かに牢獄だね。何かひどい手違いがあったみたいだ。
T “Come, we’ll escape.”
よし、逃げよう!……この鉄格子を、んーっ!んーっ!(後ろからコロッソも掴む)(鉄格子、抜ける)あ、意外と脆いんだな。僕は先にここから出るからね。(椅子がぐらぐらする)あ、君、ここに座って押えててくれないか」
コロッソ「はい(椅子、破壊)」
ハロルド「ああっ! ダメじゃないか!よいしょ!ヨイショ!ダメか。仕方ないなあ。じゃあ足を持って押し出してくれたまえ」
(コロッソの怪力で押し出される)脱出成功。
ハロルド「はあ……はっ!心臓!(薬を取り出して、飲む)」
コロッソ「うんしょ……よいしょ」
ハロルド「……君も早く出ておいでよ(帽子を脱ぐ)」
町のあちこちで乱暴狼藉を働くブレイク軍の兵士たちに、ついに見つかってしまったジョビナ。
兵士たち「へへへ!」
ブレイク「(通りかかる)ん?」
ジョビナ「やめてください、離してください」
兵士たち「こっちへ来い!」
ブレイク「おい! お前たち」
兵士たち「あ、大将!」
ブレイク「あっちへ行け!」
ジョビナ「(駆け寄って)危ないところを、ありがとうございます」
しかし、ブレイクはただ黙ってジョビナを見つめるだけである。
ジョビナ「あの……本当に……どうも、ありがとうございました……失礼します(去る)(家の中に逃げ込む)」
(それを追ってドアの前に立つブレイク)
手下「ブレイク様大変です!コロッソと例の男が脱走しました」
ブレイク「よし、わかった(ふたり、去る)」
(様子を伺っていたジョビナ、家の住人に気がついて)
T “I’m in great trouble! Won’t you give me some clothes — anything for a disguise.”
Tジョビナ「あの、とても困ってるんです。何か着るものを貸してもらえませんか? 変装したいんです」
住人「それなら、こっちへおいで(奥へ連れて行く)」
さてこちらはペラム氏とコロッソ。
コロッソ「あだだだだだだだ」
ハロルド「ああ……(壁に空いた大きな穴)確かにあんなことしたら……大丈夫かい?」
コロッソ「(顎を押さえて)ここ……ここ」
ハロルド「ああ、歯が痛いんだね!
T “Well, isn’t that nice. So you’re sick, too.”
そりゃ可哀想に。君も病気なんだね。僕もさ、心臓やら肩やら、もう体じゅうあちこちが悪いんだ。ちょっと待ってね……ええと、虫歯虫歯、と」
取り出したのは分厚い医学書。
T Toothache: As a last resort the aching tooth should be pulled.
Tハロルド「(読む)最終手段は、歯を抜くこと、か。なるほど……とりあえず、これを飲んでみて」
コロッソ「痛い痛い痛い」
ハロルド「やはり心臓の薬はダメか……そうだ!ちょっと借りますよ。(寝ている男の靴を脱がせ、靴紐を取る)ちょっと立って(靴紐を歯に巻いて)よし、えいっ!(紐が切れる)ダメか……」
体も大きいが歯も大きいコロッソ。これを抜くのは容易ではない。続いて挑戦したのは馬。
ハロルド「(ロープの端の針金を輪っか状にする)さ、口を開けて」
タイミングよく馬の持ち主がやってきた。
ハロルド「よーし、今度こそ」
しかし……ロープは馬に結ばれていなかった。
ハロルド「……あれ?(ロープを手にして)なんだよ!うーん、じゃあ……(コロッソの体を支点にして引っ張る)うーん、うーん(降りて行く)ダメか」
コロッソ「痛い痛い」
ハロルド「ちょっと待ってね。(ロープを自分の体に巻き付けて)行くよ!(走り出す)」
(コロッソも一緒に走り出す)
ハロルド「ちょっと!ついてきたらダメじゃないか。ここにじっとしててね。行くよ!……あっ!(走り出すが、ロープがピンと張られて倒れる)ダメか(そばの木に気がつく)よし、次はこれを使ってみよう。(木の枝にロープを掛ける)そこに立ってて(屋上に上がる)じゃあ、行くよ(屋上から飛び降りる)(宙ぶらりん)」
なかなか頑固な虫歯である。
ハロルド「もう少しで行けそうだ。ちょっと、引っ張ってくれるかい?(屋上へ戻る)
T “Just a minute, I need more ballast.”
ちょっと待って!もっと重りがいるんだ。(離れた陶器に手を伸ばす)あれ……あれ……届かない。えい!(ロープを引っ張る)」
コロッソ「あーっ!抜けた!(タオルで顔の汗を拭う)」
ハロルド「(陶器を抱えて)待っててね、行くよ。行くよ。(ロープの端に抜けた虫歯)えいっ!痛い!いけない、心臓が!心臓が!」
コロッソ「抜けた!抜けた!あれ!あれ!(指差す)」
ハロルド「そんなことはどうでもいいんだよ! 薬飲まなきゃ。薬薬……」
コロッソ「命の恩人、ありがと(ロイドの足を自分の頭に載せる)」
一方のジョビナ。住人の洋服を借りて男の格好をしたものの……(家を出ようとして玄関で酒を飲んでいる兵士が入ってくる)
兵士たち「おい、これじゃ足らん、もっと酒を持って来い!」
そしてボロボロになったピップス。(そっと顔を出す)
ピップス「あ、旦那さま! 大変です!」
T “Pipps, I’m astonished. Haven’t I always told you to keep yourself neat and tidy.”
Tハロルド「ピップス、驚かせるんじゃない!いつも身だしなみには気をつけるように、といってるだろう?」
T “They’re havin’ a revolution, Sir! A most terrible revolution, Sir!”
Tピップス「彼らはクーデターを企てています!それも今までにない規模で!」
T “Well, tell them they’ll have to stop it immediately. I came down here for a rest.”
Tハロルド「わかった。じゃあ、彼らに今すぐやめるようにいってくれ。僕はちょっと休憩するから。(コロッソに)じゃあ行こう」
ピップス「え?(上から兵士が襲い掛かる)うわー!」
ブレイク軍はついに大砲を持ち出した。
ハロルド「あんなもの使って!(コロッソ)待ってて」
(腰を下ろすコロッソ)
ハロルド「(兵士たちに)ちょっと君たち、
T “You boys will have to stop this fighting. It’s bad for my heart.”
こんな争いなんかやめてくれよ。僕の心臓に悪いじゃないか。おい」
手下「(構わず発砲)」
ハロルド「ちょっと、聞いているのか、おい!」
手下「(構わず発砲)」
ハロルド「(白煙の中、発泡を続ける兵士に)君、やめたまえ!」
手下「なんだお前、邪魔だ!(突き飛ばす)」
ハロルド「失礼なやつだ。(コロッソのところへ)君、ちょっと来てくれるかい?(一緒に大砲のところまで)」
手下「わあ、コロッソだ!」
ハロルド「これ片づけちゃって!」
(コロッソ、大砲を軽々と抱えて壁の向こうへ放り投げる)
ハロルド「これも」
(コロッソ、もう一台も放り投げる)
ハロルド「君たちはもう帰ってなさい!さ、行こうか。ん?」
ヘルクレオ率いる一個小隊。
ハロルド「また出た。よーし、ボーリングでもやろう。(大砲の弾を抱えて、コロッソに渡す)これを、こんな感じに投げるんだよ」
コロッソ「わかった」
(扉にスコア表を書くロイド)ストライク。
コロッソ「やった!」
ハロルド「へえすごいね!初めて?(スコアをつける)」
体勢を立て直すヘルクレオたち。
ハロルド「いい調子だ。はい、二投目」
コロッソ「えい!(投げる)やった!」
ハロルド「ダメダメ、一本残ったよ。スペアを狙おう(弾を渡す)」
コロッソ「はい(投げる)」
(ヘルクレオ、倒れる)みごとにスペア。
ハロルド「よし、じゃあ三投目」
ヘルクレオ「い、いかん、退却!」
兵士たちが逃げたあとに現れたのはピップス。
ハロルド「ピップス!仕方ないやつだなあ。あ、あんなところでまだやってる。(人々に襲い掛かる兵士たち)行こう」
(震える老婆)
コロッソの怪力に散々苦労させられる兵士たち。(屋上で出口を押さえている兵士たち)その悪夢が、再びよみがえるのであった。(天井を突き破って現れるコロッソ)
コロッソ「ペラムさん!」
ハロルド「ちょっと待ってて。薬飲むから(薬を取り出して)(すごい勢いで水が出る)靴がびしょ濡れだ!待てよ(医学書をめくる)
T Wet Feet: This dangerous condition if allowed to comtinue is a forerunner of pneumonia and other serious ailments of the pneumatic pulmonary group.
Tええと……足を濡らした場合……そのままにしておくと、肺炎や肺に関する深刻な疾病を引き起こす恐れがある……だって!いけないいけない! 早いとこ乾かさなきゃ(椅子に座って靴を脱ぐ)」
政府軍とブレイク軍の戦闘は、いまだ町のあちこちで続いている。
ハロルド「まったく!懲りないやつらだなあ。行こう!」
(乱闘の中に突っ込んで行くコロッソ)政府軍ブレイク軍、誰彼構わずなぎ倒して行く巨人コロッソ。一方のペラム氏は……さすがに裸足では歩きづらいことこの上ない。
ハロルド「いたたったたた!(倒れている兵士に気づいて)ちょうどいいや(靴を脱がす)よし!(走り出すも、脱げる)あれれ(別の兵士のもとへ)」
建物の角で争っている兵士たち。
コロッソ「こら、やめろ!(銃を折って投げ飛ばす)」
(飛んできた兵士も違う)なかなかいいサイズの靴がない。一方コロッソは次々と襲い掛かる兵士をなぎ倒す。まさに進撃の巨人。そしてついにジャストサイズの靴が見つかったペラム氏。
ハロルド「(歩き出すが)あ痛っ!なんだよこれは(裏底が半分ない)(別の兵士の靴へ)」
巨人コロッソは一騎当千、獅子奮迅の働き。
(三人がかりで殴ってもへいちゃら)
兵士たち「(疲れた)なんなんだ、こいつ!(飛び乗る)」
疲れを知らないコロッソ、何人来ようが当たるを幸い、千切っては投げ千切っては投げる。(新たにやってきた兵士たち)
コロッソ「また来たな!」
(兵士を投げつける)倒した敵を武器にする、これぞサステナブルな戦い。
ハロルド「(靴の山のそばに座って)ろくな靴がないなあ……」
コロッソの孤軍奮闘は続く。(囲まれるコロッソ)(兵士を振り回して投げ飛ばす)ついには木を引っこ抜いて振り回す巨人。(ブンブン振り回して薙ぎ倒す)たまらず蜘蛛の子を散らすように逃げて行く兵士たち。
コロッソ「あー、いい運動をした(腰を下ろして)」
そこへやって来たペラム氏。(竹馬のようなものを使っている)
コロッソ「あ、ペラムさん!(立ち上がる)」
ハロルド「やあコロッソ、すんだかい?(バランスを崩して尻餅をつく)あっ!」
(立ち上がって何度か挑戦するが失敗)
ハロルド「ダメか……いたた……靴がないと不便だねまったく」
コロッソ「俺の、使いますか、ペラムさん?」
(ピップス、鶏小屋の中に隠れる)
攻勢をかけるブレイク軍、イカダに大砲を乗せて川を下って行く。
コロッソに大砲を背負わせたペラム氏(コロッソの大きな靴を履いている)。
ハロルド「あ!また来た!(ブレイク軍の隊列)本当に懲りないなあ。よし、コロッソ、前屈!」
コロッソ「はい」
見事隊列の真ん中に落ちた大砲。混乱する兵士たち。
ハロルド「よし、いいぞいいぞ。行こう!(歩き出す)あ、待って!あそこ!(川を下るイカダ)やっつけちゃえ!」
コロッソ「はい(前屈)」
ハロルド「痛いっ!」
コロッソ「すみませんペラムさん」
ハロルド「いいんだいいんだ(後ろに回って)(イカダ)もっと左!よし!」
見事命中。
ハロルド「いいぞコロッソ!じゃあ行こうか。あれ?(橋の上に集まる兵士たち)まだいる!仕方ないなあ……えいっ!」
百発百中。
ハロルド「まだいるかなあ。行こうか」
コロッソ「(大きな石を踏んで)痛い!(大砲が火を吹く)」
大砲の弾はピップスが隠れたニワトリ小屋に命中。
ハロルド「あれはピップスじゃないか……コロッソ
T “Always look before you shoot. One can’t be too careful with firearms.”
撃つときには前をよく見てくれよ。それから大砲にはできるだけ注意しないと」
ともあれ、ふたりの活躍により町には静けさが戻った。
T “Well, that’s done. Now we’ve just time to dress for dinner.”
Tハロルド「(懐中時計を見て)よし、終わったな。じゃあ、そろそろディナーの時間だから着替えようか……(歩き出す)靴下もすっかり乾いたみたいだ」
しかし、こちらではまだ兵士が居座っていた。
兵士「おい、もっとだ!じゃんじゃん酒を持ってこい」
T Hotel de Paradiso
T パーラディーソホテルに到着したペラム氏。
T “Pardon me, have you seen my nurse? She’ll be anxious about my conition.”
Tハロルド「あ、ここだ。すまないが、僕の看護師を見かけなかったかい?僕の病気のことをとても心配してくれているんだ……こんな感じの……(身振りで)わかる?」
(コロッソ、椅子に腰を下ろすが、壊れる)
ハロルド「わからないか。ちょっと待ってね。(壁に絵を描く)こんな子なんだけど……?」
(コロッソ、不思議そうにみている)
ハロルド「わからない?コロッソ!君も探してくれないか
T “My nurse ... girl ... young lady ... hat ...dress ... shoes ... dark hair.”
僕の看護師……女性……若い女性……帽子かぶってて……靴を履いてて……髪の色は黒……わかった?
T “Find her...get her...bring her to me...understand?”
彼女を見つけて……捕まえて……僕のところに連れてきてくれ……いいね? 頼むよ」
コロッソ「わかった(歩き出す)」
ハロルド「僕も探さなきゃ」
(酔っ払っている兵士)
コロッソ「ペラムさん、これは?(女性を抱えている)」
ハロルド「違うよ」
コロッソ「探す」
ハロルド「いったいどこにいっちゃったんだろう(歩く)疲れたなあ(腰を下ろす)」
コロッソ「これは?(ふたり抱えている)」
ハロルド「違うよ」
女性たち「助けて」
コロッソ「あっち行け!(追い払う)」
ハロルド「全然違う」
コロッソ「俺、探す(走り去る)」
ハロルド「まったく(玄関のドアに寄りかかる。倒れる)……あっ! いけない、心臓が!薬薬!(テーブルに鞄を置いて)」
ジョビナ「ペラムさん!」
ハロルド「君!こんなところにいたのか!」
ジョビナ「あの、ペラムさん、私」
ハロルド「何をやってるんだい?
T “I’m amazed at you! Playing around this way in boy’s clothes when you should be looking after my health.”
びっくりするじゃないか!そんな男の子みたいな格好で遊んでるなんて、僕の看病をしなくちゃならないのに!」
ジョビナ「聞いてください」
ハロルド「時間になったら心臓の薬を飲まなきゃならないことは君だって知ってるだろ?」
T “Pills ... pills ... pills ...! I’m sick and tired of your silly pills ...”
Tジョビナ「(ロイドの手をはたいて)薬……薬……薬……!あなたの薬にはもううんざりだわ!あなたのクスリのせいで私病気になりそう!本当に、一体何を考えているの?私の気持ちも知らないで!まったくあなたったら!」
ハロルド「(うっとりとその顔を見ている)」
ジョビナ「ちょっと、聞いてるの?」
T “My, you have beautiful eyes.”
Tハロルド「君はなんて綺麗な目をしているんだ」
ジョビナ「今は……そんな話はしていないわ」
そこへ現れたブレイク。
T “Isn’t she wonderful?”
Tハロルド「やあ、彼女は素敵だろう?」
T “She?”
Tブレイク「彼女?……(ニヤリ)そうか。(手下に目をやって)おい、あっち行ってろ」
手下「ア、アイアイサー(敬礼して去る)」
ブレイク「おい、ババア、お前もだ(鞭で叩く)」
ジョビナ「なんてことを!(駆け寄る)やめなさい、この乱暴者!」
ブレイク「ははは、面白い女だ(手をつかむ)」
ハロルド「(気付いて)あっ!」
ジョビナ「離して!」
ブレイク「はははは」
ハロルド「(上着を脱いで、飛びかかる)やめろ、こいつめ!」
無我夢中でブレイクに飛びかかるペラム氏。(ブレイクの方に乗って殴る)(驚くジョビナ)(ブレイクの頭で皿を割る)
ハロルド「どうだ!」
ジョビナ「……すごいわ!」
ハロルド「(天井の梁に捕まって蹴る)えい!(壺に頭を突っ込むブレイク)」
ブレイク「前が……前が」
ハロルド「(ビール瓶で殴る)どうだ!(絨毯を引く)(ブレイクの足を持って引き摺り回す)」
体の弱いお金持ち、ハロルド・ヴァン・ペラム氏まるでプロの格闘家のような鮮やかな戦いっぷり。(勢いがついて尻餅)(布を投げる)(ゆり椅子に腰を下ろすブレイク)(揺れを利用して5発くらい殴る)(上着をおろして両手を使えなくして、尻を蹴り上げる)
ジョビナ「そうよ!やっつけちゃって!」
(テーブルを間に対峙するふたり)なかなかタフなブレイク。
ハロルド「(後ろ蹴り)えい!(壁に激突するブレイク)」
ジョビナ「やった!やったわ!」
ハロルド「さあ立て!もうおしまいか!あ、(胸に手を当て)心臓……心臓が……苦しい……(玄関に出て腰を下ろす)気がする」
ジョビナ「(追いかけてきて)助けてくれてありがとう。素敵だったわ」
T “Just look, he’s half killed me.”
Tハロルド「そんなことより見てよ、僕は死にそうだよ!」
ジョビナ「……」
ペラム氏の変化に、ジョビナは気付いた。(フラフラしているブレイク)それは、彼女にとって、嬉しいことだった。
ジョビナ「……(近づく)」
ハロルド「え?……まさか、嘘だろ?」
(コロッソがたくさんの女性を連れて歩いている)
コロッソ「ペラムさん!ペラムさん!」
ハロルド「えっと、あれは……」
コロッソ「あのペラムさん、この中にいますか?」
ハロルド「あ……あの、コロッソ
T “Never mind ... I found her myself ... Dismiss the ladies.”
……もういいよ……もう見つけなくてもいいんだ、自分で見つけたから……その女性たちを離してやりなさい」
コロッソ「見つかった?(じわじわと離れて行く女性たち)帰っていいよ!(逃げて行く女性たち)……早くいってよ(タオルで汗を拭く)」
T “I can’t tell you how grateful I am, Mr. Van Pelham.”
Tジョビナ「さっきのこと、本当に感謝していますわ、ペラムさん」
T “I can’t understand. Isn’t it strange how I wanted to fight the moment he touched you?”
Tハロルド「うん……でも……わからないんだ。あいつが君の手を乱暴につかんだのを見て、すごく頭にくるなんて不思議だ……まったく不思議だ……君はそう思わないかい?」
ジョビナ「そうかしら」
T “You know, now that I think of it, I really enjoyed protecting you.”
Tハロルド「ねえ、考えてみると、僕は君を守ることを本当に楽しんでいたんだ」
ジョビナ「そうね。きっとそう(頬を寄せる)」
ハロルド「そうなんだ、本当に楽しかった……(ジョビナの腕時計を見て)あ、いけない、薬飲まなきゃ」
(部屋の中に戻って薬を飲む)心臓の薬なんてなくなればいいのに。ジョビナはそう思った。
ブレイク「(手下をひとり連れて指差す)あの女だ(中に入ろうとするジョビナ)行け!」
手下「へい」
ジョビナ「ペラムさん!(抱えられて行く)」
ハロルド「どうしたんだ?あ、待て!(手下が立ちはだかる)どけ!(殴られる)やったな!(殴り返す)えい!」
ブレイク「大人しくするんだ!」
ハロルド「おい、開けるんだ!」
(ブレイク、ジョビナを連れて隣の家へ)
ハロルド「ダメだ……よし、バルコニーから入ろう(上がる)」
ジョビナ「(隣のバルコニー)やめて!助けて!」
ハロルド「しまった、いつのまに!(下をコロッソが通る)コロッソ、あっちへ運んでくれ!」
コロッソ「わかった」
(ベランダごと持ち上げようとするコロッソ)
ブレイク「おとなしくしろって!」
ジョビナ「離して!」
ハロルド「え、ベランダごと?(運ばれて行く)」
コロッソ「はい」
ブレイク「……まさか!」
ハロルド「こいつめ!(殴る)」
(下に落ちるブレイク)
ハロルド「怪我はなかったかい?」
ジョビナ「ええ、ペラムさん……(思いつく)
T “It’s time for your pill, Mr. Van Pelham.”
お薬の時間です、ヴァン・ペラムさん」
ハロルド「うん、そうか、ありがとう。(飲む)でもこうしちゃいられない、逃げよう」
(倒れたブレイクを運んで捨てるコロッソ)
しかし表に出るとブレイク軍の残党たちが。
兵士「いたぞ!」
ハロルド「しつこいなあ」
ジョビナ「いけません、逃げましょう」
(馬車に乗るふたり)
兵士「待てーっ!」
コロッソ「こら、あっち行けーっ!ペラムさん!」
(繋がれている馬を見つけた)コロッソも馬で後を追いかける。
コロッソ「ペラムさん」
ハロルド「ああ、コロッソ。紹介しよう、ジョビナさんだ。じゃあ、行こう(扉の中へ)あれ?」
親分がやっつけられたとも知らないヘルクレオ中尉、相変わらず弱い者に横暴な振る舞いを続けている。
ハロルド「まだあんなことを……!こいつめ!(飛びかかる)(馬乗りになって殴る)」
手下「おい!(ロイド逃げる)大丈夫ですか中尉殿?待てーっ!」
ハロルド「(駕籠の中に隠れる)」
ペラム氏の標的は、あくまでもヘルクレオ中尉である。(兵士たちが通り過ぎたところで襲い掛かる)
ハロルド「この!この!」
手下「待てーっ!中尉殿しっかり!」
(木のそばを通り過ぎる兵士たち)(樹上から現れるロイド)あくまでも狙いはヘルクレオ。
手下「中尉!大丈夫ですか?待てーっ!」
(建物から出てくる老婆)
手下「どけババア!」
ハロルド「(老婆に化けていた)この!この!」
手下「いたぞ!中尉!待てーっ!」
(ロイド、塀の向こうに隠れるが、豚の背に乗って登場)
ハロルド「……あれ?」
手下「いたぞーっ!(殴る)(塀まで飛んで行くロイド)」
ハロルド「かかってこい!」
コロッソ「(塀の向こうから体を出す)よーし、えい!えい!えい!」
ハロルド「えい、負けないぞ!どうだ!……あれ?」
ジョビナ「ペラムさん、強いんですね」
T “Don’t be afraid. I just had to teach these boys a lesson.”
Tハロルド「怖がらなくてもいいよ。ちょっとこいつらに教えてやってたんだ」
ジョビナ「さ、お薬の時間ですわ」
ハロルド「薬なんていいよ。それよりね……(そっと顔を出すヘラクレオ)あ、いた!待てーっ!(追いかける)」
ジョビナは一計を案じた。
T “Your friend ... very sick ... give him pill every two minutes ... Make him take it.”
Tジョビナ「(コロッソの親指に腕時計をつけて)コロッソさん、お願いがあるの……あなたの友達はね……すごく病気なの……だから、2分ごとに薬をあげて……これを彼に飲ませて」
コロッソ「わかった」
ついにヘルクレオをやっつけたペラム氏。(途中まで脇に抱えて来るが、落とす)
ハロルド「こらしめてやったよ」
ジョビナ「あ!見てください、ペラムさん!あんなにたくさん!」
(続々とやってくるブレイク軍)
ハロルド「これはいけない。ひとまずはこの中へ。(塀の内側へ。ハシゴに気づく)よし!ここにいいものがある」
ペラム氏の脳細胞が、非常な速さで活動しはじめた。手分けをして準備をする三人。(太鼓と大きな石を運ぶコロッソ)
兵士「あれはなんだ?」
ハロルド「(壁の向こうで)よーし、敵が迫っておるぞ!」
兵士「政府軍がまだ残っていたか」
(今度は梯子を使う)
兵士「おい、まだあんなにいるのか!」
兵士「どうする?」
コロッソ「(腕時計を確認)時間。時間。薬。薬」
ハロルド「そんなものいらないよ」
コロッソ「ダメ。薬。飲む」
兵士「ええい、構わん!かかれーっ!(腹這いになって銃を放つ)」
ハロルド「来た!よし、次の作戦だ!」
(大きな筒が壁の上から出される)(コロッソがタバコの煙wっふかす)(ジョビナが太鼓を構える)(ロイドが大きな石を構える)大砲が炸裂!
兵士「な、なんだ?」
裏側はこんな感じ。
兵士「下がるなーっ!(命中)うーん」
兵士「退却、退却ーっ!」
(壁のこちら側の風景)一糸乱れぬオペレーション。
兵士「逃げろーっ!」
(炸裂する大砲)(投げるロイド)(タバコを蒸すコロッソ)(太鼓を叩くジョビナ)ほうほうの体で逃げて行くブレイク軍。
ハロルド「ストップ、ちょっと様子を見よう。(コロッソの背中に乗って)やった! 逃げて行くぞ。よし、行こう」
コロッソ「待つ。薬。時間」
ハロルド「いいよそんなもの」
コロッソ「ダメ。(足を踏んで)飲む」
ハロルド「薬なんて飲まなくたっていいんだよ!まったくもう……」
(塀の向こうに出るロイド)
T “What’s the matter with me, anyway?”
Tハロルド「あれ?……でも、なんで飲まなくてもいいなんて思うんだろう?僕は……いったいどうしちゃったんだ?」」
ジョビナ「気がついた?あなたは健康なんですよ、ペラムさん」
ハロルド「君……
T “Why didn’t you tell me I love you?”
どうして好きだっていってくれなかったんだい?」
ようやく彼女の気持ちに気がついたペラム氏であった。(抱き寄せてキスをする)(やっつけた兵士の片付けをするコロッソ)
コロッソ「(腕時計を見る)時間。薬。飲む(キスしているロイドを引き離す)」
ハロルド「やめろコロッソ!やめてくれ!
T “I never want to see another pill as long as I live!”
いいかい、僕は死ぬまで彼女以外から薬はもらいたくないんだ!」
そのとき、港を出る客船の汽笛が。
ハロルド「いけない! 急ごう」
(走り出す三人)(暗転)
T A year passed ... It’s an old established habit.
T一年が過ぎた……古くから決まりきっている習慣だが……
T Was it Shakespeare or Will Rogers who once said “A man knoweth not the full joy of respomsibility until it leapethn upon him.”
T「人は実際にその立場に立たなければ、責任を持つことの喜びがわからない」といったのは、シェークスピアだったか、それともウィル・ロジャースだったろうか?
(産院の一室)(赤ちゃんとジョビナ)(電話をかけている看護師)(微笑むジョビナ)
ピップス「(書類を持ってくる)こちらにサインをお願いします」
ハロルド「わかった……(電話を取る)はいもしもし?」
T “It’s a boy!”
T看護師「おめでとうございます。男の子ですよ!」
ハロルド「ええ!本当ですか?やった!やったぞー!」
歓喜の叫びをあげながら外に飛び出したペラム氏。
向かった先は……
コロッソ「あれ……ペラムさん?」
ハロルド「おーい、コロッソ!生まれたよーっ!」」
交通整理の巡査になったコロッソであった。
(コロッソ、左右の車を停止させる)
ハロルド「男の子だ!一緒に行こう!」
コロッソ「やったーっ!(帽子を投げる)」
(ふたり駆け出す)(大渋滞する交差点)
自ら責任を引き受けることの喜びを知ったペラム氏の、本当の輝ける人生が、ようやく幕を開けたのである。ハロルド・ロイド主演「巨人征服」全巻これにて終わり。
