ロイドの要心無用
Harold Lloyd in SAFETY LAST(1923年)
監督 フレッド・ニューメイヤー、サム・テイラー
助監督 ロバート・A・ゴールデン
原作 ハル・ローチ、サム・テイラー、ティム・ウィーラン
撮影 ウォルター・ランディン
編集 T・J・クライザー
青年 ハロルド・ロイド
彼女 ミルドレッド・デイビス
友人 ビル・ストロザー
警官 ノア・ヤング
売り場支配人 ウェストコット・B・クラーク
続いてご覧いただきますのは、1923年(大正11年)公開の「ロイドの要心無用」です。ハロルド・ロイドは、1893年生まれで、子供の頃から舞台の世界に入り、1912年に映画デビューしました。試行錯誤のすえに作り上げた「TheBoy」というキャラクターは、ごく普通の青年でありながら、一途に目標に向かって突き進むというもので、本作でも地方出身の若者ハロルドが、都会で苦労しながら成功に向かって奮闘する様がユーモアたっぷりに描かれています。クライマックスにビルの外壁を命綱なしで登るシーンがありますが、そのなかでも特に壁の大時計からぶら下がるシーンはのちに、ジャッキー・チェンの「プロジェクトA」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ヒューゴの不思議な発明」など多くの作品からオマージュを捧げられています。ちなみに、本作の数年前にヒロインをつとめるミルドレッド・デイヴィスと結婚し、この時期の映画スターには珍しくミルドレッドがなくなるまで仲睦まじく暮らした、ということです。
The Boy - He has seen the sun rise for the last time in Great Bend - Before taking the long, long journey.
青年が故郷グレートベンドの日の出を見るのはこれが最後でした。彼はこれから長い長い旅に出るのであります。
(鉄格子を握るロイド)
青年の名は、ハロルド・ロイド。彼の心は今、不安で押しつぶされそうでありました。
ミルドレッド「ハロルド」
冷たい鉄格子に引き裂かれた若い二人。
男「時間です」
男「さあ」
ミルドレッド「(駆け寄って)ハロルド!」
ロイド「もう泣かないで」
そこはグレートベンド駅。
(見送りの人々)
人々「ハロルド!いってらっしゃい!気をつけて!」
ハロルドは故郷の期待を一身に背負って今まさに大都会に旅立つところでありました。
ロイド「ミルドレッド、心配しないで。
“Mother, Mildred has promised to come to the city, and marry me - Just as soon as I’ve made good.”
母さん、ミルドレッドは約束してくれたよ、僕が都会で成功したら、結婚してくれるって」
母「まあそうなのミルドレッド?」
ミルドレッド「ええ」
男「ロイドさん、もうすぐ発車しますよ」
(止まっている列車の最後尾)
別れがたい二人。見守る母。駅にはさまざまな人がやってまいります。
(赤ん坊を連れた女性)
“O Harold, It would just break my heart if you failed -“
ミルドレッド「ハロルド、わたしとても心配だわ」
ロイド「大丈夫だよミルドレッド!」
“I know I’ll get nothing but good news from you.”
ミルドレッド「ええそれはもちろん、あなたを信じているけれど」
ロイド「僕は必ず、ひとかどの男になって、君を迎えに行くよ!」
駅員「まもなく発車いたしまーす!」
ロイド「あ、いけない!」
(駅員の合図)
ロイド「じゃあ、ミルドレッド、母さん、行ってくるよ」
女「ちょっと!あたしの赤ちゃん!あなたのカバンはこれでしょ?」
ロイド「あ、すみません!失礼しました。じゃあ、行ってきます!(馬車に乗る)あ、間違えた!おーい、待ってくれー!」
かくして、青雲の志を持って大都会に向かうハロルドでありました。
(暗転)
After a few month.
それから数ヶ月が過ぎーー
“Limpy Bill”, the Boy’s pal - One pocketbook between them - usually empty -
青年は友人のビルと共同生活をしていました。二人とも、金はありませんでした。(暗転)
(ビル、靴下の穴をかがっている)
ビル「痛っ!」
ロイド「ただいま!」
ビル「お帰りハロルド。なんだかご機嫌だな?」
ロイド「ビル、これを見てくれよ」
ビル「ええ?ああ、ステキなペンダントじゃないか!……でも
“What good is a lavalier without a chain - She can’t sew it on.”
チェーンはどうしたんだ?せっかくのペンダントなのに、これをもらっても彼女、つけられないじゃないか?」
“I know it, Bill. I’ll get the chain, all right - the very first money I can scrap up.”
ロイド「うん、それはわかってるよ。今度買うから大丈夫さ。金ができたらすぐにね」
ビル「そうか。それならいいけど。さて、レコードでも聴くか」
ロイド「……(決まり悪そうに座る)」
ビル「あれ?蓄音機がない」
ロイド「……(そわそわしている)」
ビル「(気づく)まさか!(ロイドに近づきながら)ハロルド、君もしかして……?」
ロイド「ビル……(ポケットから紙を取り出す)」
Uncle Ike’s Pawn Shop
One phonograph record
アイク伯父さんの質屋
蓄音機一台
ロイド「ごめんよ、でも
“Oh, pal, she’s just got to believe that I’m successful, until I am.”
都会で成功してるって彼女に思わせておきたいんだ。本当に成功するまで、ね。本当にごめん」
ビル「水臭いなあ、俺たち友達じゃないか」
ロイド「ありがとうビル!
“If we’d had more records I could have got the chain, too.”
このレコードも質に入れていいんだったらチェーンも買えるんだけど」
ビル「おいおい、それは勘弁してくれよ!……あ、そうだ、大家からメモが来てたんだ」
Rent for two weeks, $14.00
Final Notice
部屋代2週間分14ドル
必ずお願いします。
ロイド「やばいね。君いくらか持ってる?」
ビル「いいや。からっけつだ」
ロイド「まいったなあ」
(大家やってくる)
大家「ロイドさん!ストロザーさん!」
ロイド・ビル「やばい!隠れろ!」
大家「入りますよ(入ってくる)あら、さっき足音がしたんだけど……おかしいわね(出て行く)」
ロイド「助かった……ビル、出てったよ」
ビル「ふう……どうする、ハロルド?」
ロイド「うん……彼女に手紙を書いてから考えよう。あ、インクがないや」
(インクを取りに立ったロイドの代わりにビルが座る)
ロイド「(ノックする)」
ビル「また来た!」
(壁にはりつくビル)
ハロルドとビル、ともに夢だけはたんまりと持ち合わせているのでありました。
(暗転)
There were certain days of the week when she could be sure of a letter from him. They were Monday, Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday, Saturday and Sunday.
恋人からの手紙が来るとミルドレッドが確信している日、それは、月曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、土曜日そして日曜日でした。
ミルドレッド「郵便屋さん、ありがとう」
郵便屋「はい、これも」
ミルドレッド「本当にありがとう!」
(芝生に座って箱を開ける)
ミルドレッド「まあ、ハロルド!(手紙を開ける)」
Dearest Mildred,
This little lavalier caught my eye and I thought you might like it. The pattern of the chain didn’t quite suit me, so I left it with the Tiffany expert to be altered.
最愛なるミルドレッド
素敵なペンダントを見つけたので、君が気に入ってくれるんじゃないかと思って送ります。でもチェーンの形が気に食わなかったので、ティファニーで頼みました。
ミルドレッド「ティファニーで?」
My position with the De Vore Department Store grows in responsibility every day. My progress has been simply magnificent. Be patient a little while longer. I hope to send for you just as soon as I can close four or five big business deals.
デボアデパートでの僕の地位ですが、日々上がっています。それはもう、目覚ましいほどです。ですから、もう少しの辛抱です。あと四、五件大きな仕事をやり遂げたら、君を迎えに行きます。ハロルドより
ミルドレッド「ああ、ハロルド……!(暗転)」
The Boy was always early. He couldn’t have cared more for his job if it had been a position.
青年の朝は早い。しかし、もし青年の地位が高かったら、こんなに努力をしたでしょうか?
(デボアデパート通用口の前で手紙を書くロイド)
“Keep on being earlier every day, son, and you’ll be President or a night watchman.”
老人「若いの、早起きするこった。そうすりゃあ、末は大統領から警備員にはなれる」
ロイド「そうだね、がんばるよ」
老人「その箱、使うんだがね」
ロイド「ああ、ごめんよ……ええと、書きづらいな……ああ、ここがいい(リネンのクリーニング車の荷台に座る)」
男「今日もいい天気だね」
老人「はあ?」
男「今日もいい天気だね」
老人「はあ?」
男「今日も!いい天気だね!」
老人「ああ、明日も同じ時間に来ますよ」
車は、タオル専門のクリーニング店の営業車。
ロイド「あ、しまった!とめて!おい、とめてくれよ!おーい!おーい!誰かー!(暗転)」
The longest year the boy ever spent - in 30 minutes.
彼の人生で最も長く感じた30分でありました。
ロイド「ちょっと……頼むよ……(懐中時計を出す)あと10分……ちょっと」
やっと次のお得意先に着いたようです。
ロイド「やっと止まった!」
老人「よいしょ」
ロイド「助かった!ええ、でもここはどこだ?(老人に)ちょっと!
“Hey, you! It’s all your fault. If you don’t get me back in ten minutes I’ll lose my job.”
君のせいだぞ!10分以内にデパートまで戻してくれないと、クビになっちゃうじゃないか!」
老人「はあ?何ですか?」
ロイド「いやだから、あと10分で仕事が始まっちゃうんだよ!」
老人「ああ、時間かい?
“I don’t know, my watch has stopped.”
ご覧の通り、時計はとまってるんだよ」
ロイド「もういいよ!(おまわりに)デボアデパート方面の路面電車はどれですか?」
おまわりさん「あれだよ」
ロイド「ありがとう!乗れないよ!無理か。よし、あっちがガラガラだ。ふー焦ったなあ(運転手が乗り込む)。おいおい、そっちじゃないよ(飛び降りる)。これはあっち行き?じゃあここで……ダメ?じゃあ、ここも……だめ?そんなあ!ちょっと、つかまらせてよ!つかまらせてったら……つかまった!ええ、乗ってないの?ちょっと待ってー!」
走り出した路面電車になんとか乗り込んだ、いえ掴まったハロルドですが。
間に合うかどうか、気が気ではありません。
(隣を走る車)
ロイド「あ、ちょっと、急いでるんですけど、乗せてもらえませんか?」
男「ああ、いいよ」
ロイド「ホントに?ありがとう!じゃあ、乗りますよ。ええっと……ええっと……あ!」
車は路肩に一時停車。
男「おーい、大丈夫かい?」
おまわりさん「うむ、こんなところに駐車してはいかんな」
ロイド「とにかく急いでるんです。行きましょう!」
おまわりさん「君きみ、これ違反切符」
おまわりさん「消火栓のそばに駐車しちゃダメだから」
ロイド「あー……あの、これ(男に渡す)じゃあ」
男「ええ?おい、ちょっと!」
(エンジンをかけようとしている男)
ロイド「手伝いますよ!」
男「助かるよ」
ロイド「ほい、かかりましたよ!ちょっと乗せてもらいたいんですけど」
男「いいとも!」
ロイド「いや、あっちに行きたいんです!」
男「わしはこっちに行くんだよ」
ロイド「ちょっと!……あれ?」
(救急車が患者を運ぼうとしている)
男「よしてくれ!僕はそんな重病人じゃない。膝が痛いだけだ!」
ロイド「救急車……そうだ!(救急車の側へ)」
救急隊員「ホントに大丈夫ですね?やや!大変だ!大丈夫ですか?いかん、病院に運ぼう!」
ストレッチャーに乗せられ、そのまま救急車の中へ。
(救急車の中。救急隊員が、脈を取っている)
救急隊員「意識なし」
ロイド「(隙を見て窓から方向を確かめる。交差点を行き交う車)方向は合ってる」
救急隊員「依然意識なし」
(ロイド、また窓から様子を確かめる)
(混雑する道路、車、通行人)
ロイド「そろそろだな」
救急隊員「うーん、原因はなんだろう」
(疾走する救急車)
ロイド「よし、ここだ!」
“Stop the car at the corner, please.”
運転手さん、そこの角でとめてくれ!」
救急隊員「えっ!」
ロイド「(起き上がり)さてと(立ち上がる)」
(救急車、止まる)
ロイド「どうもありがとう!助かったよ!(時計を見て)いけない!」
救急隊員「何なんだまったく!」
デパートの通用口、ハロルドより先に駆け込んだ男。
男「おはようございます!」
“You’ll be lucky if you don’t get fired for this.”
係長「遅刻だな。クビにならないことを祈るんだね」
ロイド「……まずいな。どうしよう」
(運ばれてきたのはマネキン)
男「おはようございます。これはどちらへ?」
係長「そうだな、ちょっと待てよ」
ロイド「マネキン……そうだ(中に入って)ちょっと拝借、と」
係長「じゃあ、二階の売り場へ運んでくれ」
男「はい」
Mr. Stubbs - Head Floorwalker. Muscle - bound - from patting himself on the back.
売り場主任のスタッブス。融通の利かない、人によって態度を変える男。
スタッブス「おはようございます奥様。あちらへどうぞ」
女「ちょっと!帽子はどこ?」
スタッブス「コホン。あちらです」
男「よいしょっと。なんだかずいぶん重いな。主任さん、これはどこへ?」
係長「ああ、ちょっと待って」
(マネキンに化けたロイド)
無事定時に出勤。
係長「これも二階の売り場だな」
男「わかりました」
ロイド「ふあ……く、くしゃみが……ハックション!」
男「な、な、なんだ〜!?マネキンが動いたーっ!」
(男、逃げ出す)
ロイド「主任だ!」
(何かの書類にサインをするスタッブス)
なるべく主任に会わずにすませたいハロルド。
ロイド「よし……」
(小さくなって歩くロイド)
スタッブス「な、なんだ!?」
(近づいてくるロイドを避けるスタッブス。ついてゆく)
ロイド「よし、あと少し」
(エレベーター前、突如飛び跳ねたロイドに驚いたスタッブス)
ロイド「(立ち上がって)よし、なんとかバレてないぞ(売り場に行き)いらっしゃいませ」
女性店員「ちょっと、そんなところで何をしてるの?」
女性店員「早く降りて来なさいよ!」
男「いやだ、怖い!」
Saturday brings two great events - A half holiday, and the pay envelope.
お楽しみの土曜日。仕事は半日でおしまい。そして、給料日。
(経理、店員に給与明細を配る)
経理「ロイドさん」
ロイド「ありがとう」
Name HAROLD LLOYD
6 Days $15.00
ハロルド・ロイド
就業6日間 賃金15ドル
スタッブス「ロイドくん、こちらのお客様も頼むよ」
ロイド「わかりました。少々お待ちください。こちらの布地でございますね」
女性客「まあ、何をするの?」
スタッブス「ロイドくん!何をやってるんだ!お客様大変失礼いたしました」
女性客「もっと社員をちゃんと教育してもらわないと困るわね」
スタッブス「ごもっともでございます。あとで厳しく申し付けておきますので」
女性客「もういいわ(去る)」
スタッブス「お客様!(ネクタイを締め直し)ふん!」
(背中が割れたまま売り場を歩くスタッブス)
ロイド「ありゃー」
女性客「これはいらないわ」
ロイド「え、お客様!」
Store closed at One O’Clock Saturday.
土曜日は午後1時で閉店。
閉店の合図のベルが鳴ります。
ロイド「やった、終わりだ!」
建設工事現場で働くビルも今日は半ドン。
ビル「よし、店仕舞いだ!さ、行こうぜ」
ハロルドもいそいそと片付けにかかります。
女性客「ちょっと、その布を見せてちょうだい」
ロイド「あ、これですか?……はい(切ろうとする)」
女性客「ちょっと待って!そっちのがいいわね」
ロイド「これでございますか?」
女性店員「お先に!」
ロイド「ああ、お疲れ様」
(従業員通用口を出て行く人々)
ビル「ハロルドのやつ、遅いなあ。あ、ちょっと!ハロルドは、もう帰りました?」
男「まだ中にいるよ」
ビル「まったく……何やってるんだよ」
(暗転)
ビル「おいおい、もう2時になっちゃうぜ」
(売り場のカウンターに山と積まれた布地)
ロイド「こちらはいかがでしょう?」
“I think I like the first pattern you showed me best.”
女性客「最初に見せてくれたのがいいわね」
ロイド「最初の、ですか?承知いたしました(布の山から引き抜く)よいしょ!こちらでございますね(切ろうとする)」
“No, no - Just a sample, please.”
女性客「ちょっと待って!見本だけちょうだい」
ロイド「見本ですか?(布の隅っこを切る)どうぞ」
女性客「ありがとう」
ロイド「まったく……(時計を見て)わわ、もうこんな時間!」
(バタバタと布地を片付けるロイド)
閉店間際の客の恐ろしさを痛感したハロルドであります。
こちらは待ちくたびれたビル。
ビル「ちょっ、タバコも切れてらあ(タバコ屋へ)タバコおくれ」
やっと元どおりに片付けたハロルド。しかし。
女性客「やっぱりこれじゃないわ」
ロイド「また来る!もうやだよ」
(カウンターの下に屈みこんで逃げるロイド)
(道を案内する警察官)
ロイド「あれ、ビルは?(キョロキョロ、おまわりに気づく)
“If it ain’t Jim Taylor of Great Bend! You old rascal! How you have got on in the world.”
ええ!?お前グレードベンドのジム・テイラーじゃないか!おいおいおい!一体そんな格好して何やってるんだよ!」
ジム「久しぶり」
ロイド「本当に久しぶりだなあ。え、おまわりやってるの?」
ジム「そうなんだ」
ロイド「へえ!あの悪ガキがねえ!いっちょまえに帽子なんか被って!」
ジム「ははは、またなハロルド」
ビル「ハロルド!」
ロイド「ああ、ビル!」
ビル「何やってたんだよ!」
ロイド「ごめんよ!変な客に捕まっちゃってさー」
ビル「待ちくたびれちゃったよまったく」
ロイド「ほんとにごめんよ」
(電話をかけるジム)
ロイド「そうだ……!
“Bill, you’d be surprised at the pull I’ve got with the cops. I can do anything, and get away with it.”
ビル、僕がおまわりに顔がきくって知ったら驚くだろ?ところがこれが、何をやっても平気なんだよ」
ビル「は?」
ロイド「あそこにおまわりがいるだろ?」
ビル「ああ、いるね」
“I’ll prove it to you. I’ll kneel down behind, and you shove him over backwards. Then watch me square it.”
ロイド「これから証明してみせる。僕があいつの膝の後ろにいるから、思い切り突き飛ばしてみろよ。そしたらどうなるのか、見せてやるよ」
ビル「馬鹿言うな、そんなことしたら捕まっちまう」
(警官、電話を代わる)
ロイド「いいからいいから、僕を信じてくれ!大丈夫だから!いいか、僕がここにこうしてるからな、君は前に回るんだ」
ビル「わかった……(警官の前に回る)こんちは」
おまわり「……なんだ、へんなやつだな」
ロイド「いいか、せーので突き飛ばすんだ!せーの!」
おまわり「わっ!」
(警官、後ろに倒れる)
ロイド「どうだジム!……じゃない!(隠れる)」
おまわり「よくもやったな!(起き上がって)待て!(追いかける)」
ロイド「まいったなー」
ビル「(ビルの角まで逃げてくる)どうしよう……そうだ(登り始める)」
おまわり「待てー!んん、どこへ行った?」
ビル「あっ!(足を踏み外す)」
おまわり「こんなところに!おい!こら!降りてこい!」
いつも高いところで働いているビルは、このくらいへいちゃら、すいすい壁を登って行くビル。
おまわり「おい、待て!おい!」
ロイド「いったいどこへ行ったんだろう……あ!」
おまわり「待てーっ!」
ロイド「あんなところに!」
男「おや!何をしてるんですか?」
ロイド「いや、あれ僕の友達なんです」
男「あんな高いところ、落ちたらひとたまりもないですよ」
ロイド「そうですよね、大丈夫かなあ、ビル」
友の身が心配でたまらないハロルド。
そんなこととはつゆ知らぬビルは、すいすい壁を登ります。
おまわり「ちょ、ちょっと、待て!待てったら」
野次馬も集まってきました。
そしてついに屋上まで登ったビル。
“You’ll do time for this! The first time I lay eyes on you again, I’ll pinch you.”
おまわり「おいお前!これは犯罪だぞ!今日は見逃してやるが、今度見つけたら捕まえてやるからな!」
ビル「じゃあおまわりさん、ごきげんよう!」
ロイド「ああ、よかった……(花束に気づいて去る)」
男「まったくあなたのお友達にはハラハラ……え?何なんだ、まったく」
ビルは屋上から無事に地上へ。ハロルドと合流。
ロイド「ビル!」
ビル「話が違うじゃないか!」
ロイド「ごめんよ!人違いだったんだ。でもすごいなビル!あんなにすいすい登るなんて」
“Shucks, you ain’t seen nothing. I could climb one sixteen stories high - blindforeded.”
ビル「こんなのすごくもなんともないよ。俺は目隠しされてたって16階のビルに登れるんだぜ」
ロイド「ほんとに?それはすごいなビル。じゃあ遅くなったけど、ランチに行こうか」
(はしごをかけてもらい、降りているおまわり)
ビル「やばい!ランチはまた今度!」
女「大丈夫ですかおまわりさん?」
おまわり「え、ええ……失礼、まだ巡回の途中なので」
ひとりランチとなったハロルド。目に入ったのは。
SAMPLE
BUISINESS MEN’S
LUNCH
50 cents
ビジネスマンのためのランチ
50セント
ロイド「……いいなあ……ん?これは?」
Platinum lavalier chains. 1/2 off, today only.
プラチナチェーン
本日のみ半額
ロイド「半額……」
ハロルドの脳裏に、このチェーンをつけたミルドレッドの姿が。
ロイド「半額か……うーん」
店員「おい、あの男、引っ張り込め!」
ロイド「でもなあ」
店員「お客さま、何かお探しですか?どうぞどうぞ」
店長「いらっしゃいませ!」
店員「こちらが当店おすすめの……」
店長「おい、ここはもういいから、あっち行ってなさい。いかがでしょう?本日特にお安くなっておりますが(ニギニギ)」
ロイド「うーん、そうだなあ(ニギニギ)ああ、うつっちゃった」
店長「今だけ、半額でございますよ」
ロイド「そうなんですねえ……(ポップを手に取る)15ドル50セントか」
Lavallier Chains 15 50
ペンダント用チェーン15ドル50セント
(給与明細を取り出すロイド)
Harold Lloyd
6 days $15.00
Deductions
Net
No.205
今週分の給料が15ドル
ロイド「よし……(袋から金を出す)5ドル紙幣が3枚。それから(ポケットから硬貨を出す)10セント硬貨が、5枚。50セント……」
50セントのランチが、一品ずつ消えて行く……。
(10セント出す毎に、頭の中のランチメニューが消える)
ついにこの世から消滅しました。
店長「確かに、それでは、どうぞ」
ロイド「ありがとう」
店を出たハロルドの目に、カフェは霞んでみえました。
ロイド「平気平気、腹が減ってるなんて気のせいだ」
(暗転)
Direct from “Tiffanys” - via Silverstein and Son.
ミルドレッドのもとに、シルバースタイン商会経由でティファニーより直送されたペンダント用のチェーンが届きました。
ミルドレッド「これを見てください!ハロルドから……!」
ロイドの母「あの子、本当に成功したんだねえ……でも……ねえ、ミルドレッド
“Don’t you think it’s dangerous for a young man to be alone in the city with so much money?”
大金持ちの若者が、都会で一人暮らししてるなんて、危険なことじゃないかしら?そう思わない?」
ミルドレッド「……どういうことかしら?」
“If I were you, I wouldn’t wait. I’d go to him right away.”
ロイドの母「私があなただったら、ハロルドが迎えに来るのなんか待たずに、こちらから行くわね」
ミルドレッド「私から……
“I’ll do it. I’ll surprise him!”
そうね!彼、きっとびっくりするわね!」
(暗転)
Mother Instinct was right. The Boy is in great danger.
母の勘は正しかったのであります。青年は非常に危険な状況にありました。
ロイド「ちょ、ちょっと、乱暴はやめてください!」
それはデパート名物、バーゲンセールであります。
ロイド「落ち着いてください!慌てないで、お品物は充分ございますから!」
弱肉強食、血も涙もないバーゲンの世界。
老女「これをいただけるかしら?」
ロイド「承知いたしました」
女「ちょっとあなた!」
ロイド「はいはい(布を頭からかぶせる)これお願い!」
女「ちょっとあたしの話を聞きなさいよ!」
女「あたしよ!」
ロイド「(上着を脱ぐ)」
女「ちょっと!あら!何よ!」
そんなバーゲンの戦場に、新たな猛者が!
大女「何なのこれは!どきなさい、どきなさいよ!(カウンターに)ちょっとあんた!」
小女「私が話してたのよ!」
大女「何よ、うるさいわね!(小突く)」
小女「(倒れる)痛い!」
“8 - 9 - 10 Out!”
ロイド「場外!エイト、ナイン、テン!勝者!」
女たち「これちょうだい」
女「私のよ」
大女「私が先よ」
ロイド「まいったなあ。(布を切る)仲良くしてくださいね」
バーゲンは女の戦場。男は後方支援です。
“Is this a yard and a half?”
太女「これが1ヤード半なの?」
ロイド「ええっと(太女と細女の胸に当てて)そうですね」
太女「まあ!」
女店員「ハロルド!包装できたわよ!」
ロイド「ああ、ありがとう!」
(ロイド、反物を受け取るが)
ロイド「ええっと、こちらをお待ちの方は……っと」
女「ねえ、ちょっと、これがほしいんだけど」
ロイド「(毛皮のショールを落とす)ああ、お客さま、落とされましたよ(逃げた猫を渡す)」
女「ありがとう……これじゃないわ!」
ロイド「ええっと……わかんないなー。どうしよう……あ!」
二人の間に立ちはだかるバーゲンの戦士たち。
ロイド「そうだ!みなさーん!
“Who dropped that fifty dollar bill?”
50ドル紙幣を落とした方はいらっしゃいませんか?」
(女たちいっせいに屈み込む)
ロイド「大変お待たせしました」
老女「ありがとう」
(別の売り場のカウンターに、スタッブスがやってくる)
スタッブス「君、ネクタイが曲がってるじゃないか、まったくなっとらん!」
(ロイドの様子が目に入る)
スタッブス「なんだ彼の格好は!」
女「ちょっとあんた、私はこれがほしいのよ!この(傘で突く)」
ロイド「痛い!少々お待ちください」
女「まあ、無視するのね!(突く)」
ロイド「痛い!」
女「この!(叩く)」
ロイド「おやめくださいお客さま!(定規を構える)これ、包んで!」
スタッブス「おい、ロイドくん」
ロイド「しつこいなあ(定規で突く)あ、主任、失礼」
スタッブス「なんだ、こんな格好して!おい!」
店員「はい」
スタッブス「ここ代わってくれ。ロイドくん、
“Go and adjust your apparel, young man. I shall report you to the General Manager.”
すぐ行って、身なりを整えてくるんだ。この件は総支配人に報告しておくからな」
(スタッブス、去る)
ロイド「(店員と握手)よろしく、どうかご安全に」
店員「あ、ああ……(客たちに引っ張られる)ああ、や、やめて!」
早速総支配人にチクる、いえ報告するスタッブス。
“Very well, Mr. Stubbs. I’ll send for the young man.”
総支配人「よくわかった。では彼を呼んでくれ」
スタッブス「承知いたしましたでは早速(支配人室を出る)あっ!」
(ズタボロにされる店員)
スタッブス「な、なんてことだ!」
(ロイドカウンターにやってくる)
女性店員「ちょっとロイド」
ロイド「え?」
女性店員「さっきのスーツ、避難させといたわよ」
ロイド「ありがとう!今度ランチおごるよ!」
女性店員「いつも金欠でピイピイいってるくせに(髪をクシャクシャにする)」
(店内を歩くスタッブス)
ロイド「主任だ!身だしなみ身だしなみ!」
客「……?」
ロイド「こちらもよくお読みください」
客「そうか……君は何をしとるんだ?」
ロイド「いえ何も。失礼いたします(別のカウンターへ)いらっしゃいませ」
The most wonderful city The Girl has ever seen, except Great Bend.
そこは、彼女が見たなかで一番素晴らしい街でした。我が街グレートベンドを除いて。そう、ミルドレッドはついにやってきたのであります。
“Wrap this, please. The lady is in a hurry.”
ロイド「これお包みして!お客さまがお急ぎなんだ」
ミルドレッド「ハロルド、どこかしら」
ロイド「……え?あれ?あれは?まさか?」
(カウンターを乗り越えるロイド)
ロイド「ミルドレッド!」
ミルドレッド「ハロルド!」
熱い抱擁とキス……
店員「ほえー」
ロイド「どうしたのミルドレッド!いつ来たの?」
ミルドレッド「さっき駅に着いたばかりよ。
“We’re SO proud of you, Harold, and your w-o-n-d-e-r-f-u-l position.”
ハロルド、本当に嬉しいわ!だって、あなた重役になったんでしょ?」
ロイド「え、じゅ、重役……?あ、それはねミルドレッド」
ミルドレッド「本当にすごいわ」
ロイド「いや、あの、それは……そうだね。いや、たいしたことじゃないよこれくらい!ははは」
(雑談している店員たち)
男店員「ははは!こいつはいいや!(ロイドのところへ行く)おいハロルド!これ見てみなよ!」
ロイド「なるほど……(メモにサインする)」
男店員「え?これは?」
ロイド「もういいよ。わかったからあっちへ」
男店員「ん?へんな奴だな」
女性店員「ハロルド!」
ロイド「なんだ?」
女性店員「さっきの、できたわよ(投げる)」
ロイド「ありがと……ん、まったく、お客様のものを投げるなんて!」
ミルドレッドの手前、威厳ある重役感を出さなければならないハロルドであります。
ロイド「まったく!君たちなってないぞ!
“Must I personally supervise every sale that is made in this department?”
僕が君たちのお客さまへの対応を一から十まで見てあげないといけないのか?」
ミルドレッド「まあ、ハロルド」
ロイド「しっかりしてくれよ本当に、頼むよ(ミルドレッドのもとへ)ごめんよミルドレッド」
女性店員「なんなのまったく!」
ミルドレッド「本当に素晴らしいわ!」
(別の売り場カウンター)
女性客「(やってきて)あれを見せてちょうだい」
店員「少々お待ちください」
女性客「なんなの?(テーブルを叩く)ちょっと!」
客に呼ばれるとつい反応してしまうハロルド。
しかしそばにミルドレッドがいます。
スタッブス「何だ、誰もいないのか?」
ロイド「主任!(ミルドレッドをカフェのカウンターに座らせ)ちょっと待ってて(慌ててカウンターへ)お待たせいたしました、こちらでございますね」
ミルドレッド「あら、ハロルド……」
通常営業全開のハロルドを呆然と見つめるミルドレッド。
ロイド「こちらでございますが(気づく)……いいかい
“Now observe me closely. I will illustrate the correct form of salesmanship.”
よく見ていたまえ。販売のやり方のお手本を見せるからね」
男店員「ええっと……はあ」
ミルドレッド「まあ、ハロルド……」
ハロルド全力の接客講義は続きます。
店員「ロイドさん、これを」
ロイド「何だ?」
De Vore Department Store
COMPLANT CARD
Dated 6-30-22
Employee Lloyd
No. 176
Subject Report to General Manager’s office at once.
それは、総支配人からの呼び出し状でした。
ロイド「まいったな……(視線に気づき)なるほどね!
“Oh yes. Our European buyer wants my advice. This is most important.”
ヨーロッパのバイヤーが、僕のアドバイスを求めてるんだって。これは非常に重要な案件だ。じゃあ君、ここは任せたよ。ミルドレッド、カフェで待っててくれないか?」
一難去ってまた一難。
ロイド「(ノックする)」
総支配人「入りたまえ」
ロイド「失礼します。あの……あの……えーと(メモを噛みちぎる)」
総支配人「何だね早くいいたまえ!」
ロイド「はい、これを」
総支配人「穴が空いてるじゃないか!」
ロイド「ええ!」
総支配人「君がくわえてるのはなんだ!?貸したまえ……(メモを読んで)
“The idea of working in your shirt sleeves! Think of the shock to your customers - women of culture and refinement.”
ロイドくん、ワイシャツ姿での接客は、わがデパートの上品で教養あるご婦人方を驚かせるものではないかね?」
ロイド「……はい」
Another complaint of this nature, and we will have to get along without your services. That will be all.”
総支配人「またこのような問題が起こった場合、君にはやめてもらわなければならない。私の話はそれだけだ」
ロイド「わかりました」
総支配人「それは私の帽子だ」
ロイド「すみません、僕のとよく似てて」
総支配人「気をつけたまえ」
しおしおと総支配人室を出るハロルド。
売り場を見ていたミルドレッドの目に飛び込んできたのは。
ミルドレッド「まあ!総支配人!?ハロルドが!?(ロイドに駆け寄る)ハロルド!重役って聞いてたけれど、総支配人だったのね!」
ロイド「え?いや、あの、それは……ははは、そうなんだよ」
ミルドレッド「ねえハロルド、
“I’m just dying to see your office. Please let me look.”
私あなたのオフィスが見たいわ。見せてちょうだい」
ロイド「ああちょっと!散らかってるし、たいした部屋じゃないよ。それより、君に見せたいところがあるんだ(連れて行く)」
ミルドレッド「まあステキなお洋服!」
ロイド「そうだね……どうしよう」
スタッブス「こちらでございます……なんだ君は!早く売り場に戻りたまえ!」
ロイド「はい(と見せかけて)ミルドレッド、行こうか」
“But Harold, I did want to see your office.”
ミルドレッド「ねえハロルド、私やっぱりあなたのオフィスが見たいわ」
ロイド「いや、でも」
ミルドレッド「ねえ、お願い」
(部屋を出て行く総支配人)
ロイド「そうだなあ……
“Well then. Just a peek, but you must promise not to stay.”
じゃあ、ちょっとだけ、長居をしないって約束してくれるかい?」
ミルドレッド「ええ、もちろん」
(総支配人室に入る二人)
ミルドレッド「まあ、なんてステキなオフィスなの!ここでいつも仕事をしてるのね!」
ロイド「あの、ミルドレッド、座ってもいいけど、あまりあれこれ触るのは、その」
ミルドレッド「すごいわ!すごいわよ、ハロルド!夢みたい!夢みたいよ!(キスする)」
ロイド「それほどでもないよ」
こういうときの指の動きは全世界共通。
それは呼び出しボタン。
店員「お呼びでしょうか?あれ……ちょっと!」
ロイド「ああ、あ、これか!ごめんごめん」
ミルドレッド「今このボタンでこの人を呼んだのね!」
ロイド「ああ、まあ、そうなんだ。ははは(後ろで紙幣を見せる)ん、君きみ(紙幣をゴミ箱に落とす)」
店員「ん?」
ロイド「(ウインク)ね!(店員納得)
“BOY! Empty this basket. Don’t let me have to remind you again.”
君、ゴミ箱はいつも空っぽに!忘れたら困るよ!」
店員「承知いたしました。では」
ロイド「ああ、ゴミが落ちたよ!」
お札回収。
“Oh Harold, let me ring one. And see who it will bring in.”
ミルドレッド「ねえハロルド、私が押してもいい?誰が来るか知りたいわ」
ロイド「いやそれは!あのねミルドレッド、これは仕事で使うものだから」
ミルドレッド「お願い!一回だけ!一回だけやってみたいの」
ロイド「いやでも……」
押してしまいました。
ミルドレッド「さ、ハロルド、座って座って!」
ロイド「まいったな……(座る)」
店員「(ゴミ箱を探す)ない……ない……ない」
ロイド「来た!(顔を隠す)」
入ってきたのはよりによってスタッブス。
スタッブス「御用でしょうか?」
“Stubbs!!”
ロイド「スタッブスくん」
スタッブス「はい」
“I don’t wish to be annoyed by any more of your petty complaints about personal appearance.”
ロイド「わが店員たちの身なりについて、私はもうこれ以上悩まされたくないのだ」
スタッブス「かしこまりました」
“You know, you’re no collar ad yourself.”
ロイド「ところで君だけ普通のワイシャツを着ていないのはなぜかね?」
スタッブス「はい、それはでございますね」
“That will be all.”
ロイド「それだけだ。下がってよろしい」
スタッブス「はい、失礼いたします」
(スタッブス、去る)
ミルドレッド「すごいわハロルド!さすが総支配人だわ!」
ロイド「いや、まあ、これくらい当たり前さ!ミルドレッド」
全部押し。
そして全員来ました。
さりげなく列に加わるハロルド。
男「総支配人は?」
スタッブス「ついさきほどまでいらっしゃったのだが」
女「どうしたのかしら?」
ロイド「さあ?」
(出て行くみんな)
“Fire drill. I try them out every day.”
ロイド「驚かせちゃったね。消火訓練なんだ。みんなを試しているんだ」
ミルドレッド「まあハロルド!」
そこへ、この部屋の本当の主人が帰ってまいりました。
ロイド「ミルドレッド、いいかい?
“Open your mouth and shut your eyes.”
口を開けて、目を閉じていて!」
ミルドレッドを椅子に座らせてーー
総支配人「ではそれで頼む(部屋の中を見て)あっ!どうしたんだ?」
ロイド「しーっ!
“She’s fainted, get some water quick.”
気を失ってしまわれたんです。水をお願いします!」
総支配人「そ、そうか!ええと、水」
ロイド「早く!」
総支配人「わかった!水、水だな、水水(出て行く)」
ロイド「助かった……(ミルドレッドにキス)もう目を開けていいよ。もういいかい?売り場を紹介するよ!」
ミルドレッド「ちょっと待って、お化粧直したいわ」
ロイド「あ、うーん、あの、ミルドレッド……」
総支配人「……水……水を」
ロイド「ありがとうございます!では!(ドアを閉める)ミルドレッド、お水だよ(渡す)じゃあ行こうか」
総支配人「大丈夫だろうか……(出てくるロイドたち)あ、あの?」
ロイド「ありがとう」
総支配人「……どういうことだ」
重役「総支配人……例のお話ですが」
総支配人「うむ」
ミルドレッド「ねえハロルド、
“And just think - you’ve made money enough already for our little home.”
私思うんだけど。あなたには結婚資金がもうじゅうぶんあるんじゃないかしら」
ロイド「……それは、ちょっと無理かな……」
ミルドレッド「え?」
ロイド「いやいや、こんなところでそんな話もなんだから、ね、行こうか」
ミルドレッド「あら、大変!
“I must have left my purse in your office. Won’t you please get it for me?”
あなたのオフィスにバッグを忘れちゃったみたい。取ってきてくださる?」
ロイド「ええ?……ああ……じゃあ、ここで待ってて」
(総支配人と重役)
ロイド「どうしよう……」
(ドアの前で行ったり来たり)
ロイド「うーん……よし!……いや……うーん……」
その拍子にドアが少しだけ開いて、中の会話が聞こえてきました。
“I’d give a thousand dollars - to anyone - for a new idea, one that would attract an enormous crowd to our store.”
総支配人「わがデパートに客を集めるアイディアを出した者に、1000ドル払おうじゃないか!どうだね?」
ロイド「1000ドル……!」
“Something is wrong with our exploitation! We simply are not getting the publicity that our position in the commercial world calls for.”
総支配人「今の広告のなにかが間違っているんだ!業界での地位にふさわしい知名度が、我々には欠けている」
重役「おっしゃるとおりです」
ロイド「うちのデパートに人を集める……?」
ハロルドの脳裏に浮かんだのは。
ロイド「これは……いける……かも。よし!(総支配人のところへ行き)失礼します。
“Will you give me a thousand dollars, sir - if, if - I can draw hundreds of people to our store?”
もし、もし、僕がうちのデパートに何百人もの人を集めることができたら、1000ドルいただけるんですか?」
1000ドル手に入れば、愛するミルドレッドとの幸せな結婚生活は保証されるでしょう。人間が高いビルをスルスル登って行くというアイディアを、必死に訴えるハロルド。
重役「総支配人、
“Let’s give the boy a chance. Think of the publicity in the newspapers. The De Vore Department Store will be all over the front pages.”
ここは彼にチャンスを与えましょう。新聞には宣伝効果があります。デボアデパートが、一面に掲載されるんですよ!」
総支配人「本当に、そんなことができるんだね?わかった!」
ロイド「ありがとうございます!では早速手配します!」
かくして、ハロルドの、そしてデボアデパートの起死回生、一世一代、乾坤一擲の大イベント、ビルによるビル登り計画は始まったのであります。
まずハロルドは、ビルに連絡を取りました。
ビル「もしもし?」
ロイド「ああ、ビル、
“Will you climb the Bolton Building - twelve floors - for five hundred dollars?”
500ドル出すから、12階建てのボルトン・ビルに、こないだみたいに登ることができるかい?」
ビル「ご、500ドルゥ?
“Say, for five hundred dollars I’d climb to Heaven, and hang by my heels from the pearly gates.”
500ドル貰えるんだったら、天国だって登ってやるさ、それから真珠の門からぶら下がってやるよ!」
ロイド「本当かい?ありがとう!詳しい話は今日帰ってから話すよ!じゃあ!(電話を切る)よーし、いいぞ」
いつになく張り切りモードのハロルド。
女「(ロイドを呼び止める)ああ、ちょっと。
“Mrs. Van Buren, have this young man send your car home. I’ll be so glad to have you ride over to the club with me.”
ヴァンブーレン夫人、彼がお車をお宅までお届けしますわ。クラブにご一緒できて光栄ですわ。頼んだわよ」
ロイド「承知いたしました(ミルドレッドの元へ)これ、忘れ物」
“Darling, dreams do come true. We’ll married tomorrow.”
ミルドレッド、喜んでくれ、夢がかなうよ!明日、結婚しよう!」
ミルドレッド「本当!?」
ロイド「本当だとも!
“I’ll send you to the hotel in the car. Meet me here tomorrow at 3.”
ホテルまで車で送るよ。明日午後3時に会おう!さ、こちらへ」
ヴァン・ブーレン夫人の車。
ロイド「運転手さん、
“Take this young lady to her hotel - and Mrs. Van Buren says you’re through for the day.”
このご婦人をホテルまで送ってください。ヴァン・ブーレン夫人は、今日はもういいからそのままお宅に帰るようにって」
運転手「わかりました」
ロイド「ミルドレッド、
“Good bye, darling. Tomorrow will be our lucky day.”
じゃあ、また明日。明日は、僕たちにとってラッキーな日になるよ!」
ハロルドの行く手は前途洋々、しかし油断は禁物、ハシゴの下を通るべからず。
(暗転)
“The Lucky Day. The press agent had been told to flood the town - he submerged it.”
ラッキーな日。報道関係者は、詳細を明かされぬまま集められたのでありました。
ACME DRUG Co.
こちらは朝からだいぶきこしめしている紳士。
紳士「おう、新聞くれ」
(店から出てきた夫人)
夫人「私にも頂戴」
紳士「おやおや、奥さん何を買ったんですかな?」
NERVE TONIC
紳士「神経強壮剤?ははは、とてもそんな細い神経をお持ちとは思えませんがねえ!」
夫人「まあ失礼ね!」
紳士「さて、どれどれ……(新聞を広げる)」
“Mystery Man in Death Defying Thrill : To Climb Wall of Towering Sky - scraper - The De Vore Department Store of Sensational Stunt.”
死をも恐れぬ謎の男あらわる!
命綱なしで摩天楼に登る!
デボアデパートが離れ業の舞台!
WATCH THE MYSTERY MAN
Climb the BOLTON BUILDING
2 P.M. TODAY
本日2時!
紳士「こいつぁいいや!ああ、おまわりさん!おまわりさん!
“Look, This guy ain’t got any face. They must have run outta ink.”
これ見てみなよ!こいつ、顔がないだろ?きっとインクがきれたんだ。な、傑作だろ?」
おまわり「ええ?(謎の男の写真)ん?なんだか見覚えがあるぞこいつ……(宙を見て)そうだ、こいつは確か……」
そう、その謎の男とは、ビルでありました。
おまわり「よし、今度こそ捕まえてやる!」
紳士「お、おまわりさんも見に行くかい?よし、行こう行こう!(通りすがりの人を捕まえて)あんたも行こう!」
男「な、なんですか?」
(暗転)
Bolton Building, as the big hour approaches.”
ボルトンビル。運命の時が近づいておりました。
(暗転)
すでにビルの周りには黒山の人だかりができております。
“Where does this bird start from?”
おまわり「どこから登るんだ?」
重役「この柱からですよ」
おまわり「よし!」
(腕組みをするおまわり。酔っ払い紳士も真似をする)
そこへやってきたハロルドとビル。
ロイド・ビル「あっ!(隠れる)まさかあのおまわりが来てるなんて」
ビル「おい、どうする?このままじゃ登る前に捕まっちまうぜ」
“You lay low. Maybe I can ditch him.”
ロイド「ちょっと隠れててくれ、なんとかするから」
重役「ロイドくん、君のおかげで宣伝効果抜群だよ!」
ロイド「がんばります!」
さてハロルドは復讐に燃えるおまわりをなんとかスタート地点から移動させようと、あれこれ話しかけてみますが……テコでも動かない様子。
ビル「ハロルド、どうするんだ!」
ロイド「うーん……(小屋)あっ!おまわりさん、あそこにあやしい男が!あの小屋の中に!あそこです!(小屋の前まで来て)この中に入って行きました(おまわりが入ると)これで鍵をかけて、と。ふう……あれ……この不穏な気配……まさか」
おまわり「あやしいやつ!」
ロイド「あち!」
男「あちち!」
ロイド「ビル!どうしよう、ダメだ!」
こちらはさきほどのほろ酔い紳士。すでに謎の男のことはすっかり忘れております。ショウウィンドウにマネキンを昔の恋人と勘違い。
紳士「ああ、おまわりさん、
“Meet my lady frien’ - from the Follies.”
俺の彼女を紹介するよ。レビューダンサーなんだ」
おまわり「何をいっとるんだ?」
ロイド「よし」
おまわり「なんだ、またお前か?」
ロイド「ああ(おまわりを壁におちつける)すみません!」
その背中には、くっきりと、
KICK ME
紳士「蹴ってくれ!だって?くくく、えい!(蹴る)ははははは」
おまわり「こっちへ来い!」
ロイド「やったーっ!あはははは。ビル、これでもう大丈夫だよ」
(ロイドの背中にもKick Meの文字。新聞売りの少年が、蹴る)
あまり大丈夫ではありませんでした。
しかも……!
(おまわりと鉢合わせする二人)
(二人、後ろ向き歩いて隠れる)
ロイド「まいったなあ」
ビル「どうするんだよ、ハロルド!」
重役「ああ、ロイドくん、そろそろ時間だが……?」
ロイド「ああ、まもなく!まもなくですので!……でもどうしたら……」
ビル「ハロルド、
“There’s only one way out. You climb to the second floor, and duck through the window. Then I’ll put on your coat and hat, and go the rest of the way. They’ll never know the difference.”
こうなったら方法は一つだけだ。君が2階まで登ってくれ。そこで君の服と帽子を借りて、残りは俺が登る。下から見てるんじゃ、みんなにはわからないはずだ」
ロイド「……僕が?2階まで?そんなこと、できるかな?」
“Go on, you can do it. Only o-n-e floor.”
ビル「大丈夫だ!君にもできる!たった1階だけだ!」
ロイド「そうか……2階で君と交代するんだよね?」
ビル「そうだ!」
ロイド「わかったよ、やってみる」
今か今かと首を長くして待っている人々の前に、ついに謎の男が登場。
“I’M The Mystery Man. I wanted to surprise you.”
ロイド「お待たせしましたみなさん!わたしこそ謎の男なのであります。みなさんを驚かせることがわたしの喜びなのであります!」
重役「君が!」
おまわり「あいつが?」
かくしてボルトンビルを命綱無しで屋上まで登る、町中が注目する一大イベントが開幕したのであります。(腕立て伏せ)
人々の期待の眼差しを一身に受けて、恐る恐る登り始めたハロルド。おっかなビックリ……。
(ファサードを広げてしまう)
ロイド「大丈夫ですか?」
仕切り直してスタート。
そのときおまわりの目に飛び込んできたのはーー
おまわり「いたーっ!おい!」
ビル「わっ!」
そうとは知らないハロルド、懸命にビルを登ります。
(下から見上げる群衆)
一方ビル。本来ならば彼がビルを登っているところですがいろいろあってビルはビルを登らずに階段で2階へ。
ビル「(窓から顔を出す)ハロルド!」
ロイド「ああ、ビル!僕もうダメだ」
ビル「大丈夫、もう少しじゃないか!がんばれ!」
男「おまわりさん、あの男が」
ビル「まずい!」
(ビル、逃げる)
ロイド「はあ、早く代わっておくれよ」
おまわり「おい、あいつを捕まえたら、次はお前だぞ!」
ビル「おい、ハロルド!
“You’ll have to go one more floor - till I dutch the cop.”
もう1階分登ってくれ!その間におまわりをまくから!頼む!」
ロイド「もう……1階分?」
見上げると果てしなく上に続いているような錯覚を覚えるハロルドであります。
群衆「(群衆)いいぞーっ!早く登れーっ!(群衆)がんばれーっ!」
ロイド「ははは、どうも。本当にもう1階だけしか登れないよ」
一方、ビルとおまわりの鬼ごっこは続きます。
こちらはハロルド。
(窓辺で豆菓子を食べる少年。袋から豆菓子が溢れる)
窓辺で豆を食べてはいけません。
(鳩が集まってくる)
鳩が来るからです。
(一羽のハトにしつこくまとわりつかれる)
ロイド「(帽子の上に鳩を乗せて)ああ、どうも!」
見物人は大喜び。
ロイド「はは、ちょっとキミ、もうそろそろいいかな?ダメ?頼むよ!(頭をガクガク振って)」
ハロルドが動けば動くほど、鳩は興奮するのか……ますます集まってきましが。(鳩まみれのまま3階に向かう。紙袋をふくらませて、割る)
重役「やるじゃないか!」
3階の窓では、出迎えの人々がいっせいに拍手。
ロイド「ああ、どうも、皆さん、ありがとう(ビルは……?)」
ビル「あの、ちょっと、すみません!」
男「だめだよ!」
ロイド「あははは、どうもどうも(ビルに気づく)あ!(ビルが身振り手振り)え?上へ?もう……一階上へ?行けってこと?ええ!?(ビル、大きく頷く)マジかよ!あ、はは、じゃあ、そろそろ行きますね」
SPORTING GOODS
4階はスポーツ用品店。
ロイド「よいしょ」
ハロルドが掴んだのはテニスのネット。網にかかった魚のように、がんじがらめになってしまいました。
“Why don’t you take that net off? It’s in your way?”
酔っ払い紳士「なんで網をとらないんだ?邪魔じゃないのか?おーい、はやくとっちまえよ!」
ロイド「そんなことはわかってるよ!」
(上からのショット)再び登り始めるハロルド。
本当は自分がビルを登るはずなのに、ビルはビルも登らず、階段でひとまず4階まで上がってきました。
ビル「ハロルド、
“You’ve gotta keep on going ‘til I ditch the cop!”
俺がおまわりをまくまで、登り続けてくれ!」
ロイド「ええっ?話が違うよ!」
(しつこいおまわり)
ビル「そういうことだから、頼む!」
ロイド「そんな……(下を見る)」
3階の見物人「がんばって!」
(群衆)
4階から5階へ。
(足を踏み外す)
ロイド「やっぱりもうダメだ!1000ドルなんかいらない」
しかし、4階にも見物人がいました。
見物人「がんばって!」
ハロルドにはもう、上に上がる道しか残されていないのであります。孤独な戦いは続く……5階で見ていたのは……
老女「あなた!」
ロイド「は、はい?」
“Young man, don’t you know you might fall and get hurt?”
あなたはご存じないかもしれないけれどね、そんなところから落ちたら大怪我をするわよ?」
ロイド「ご親切にどうも。僕もホントはこんなことしたくない……おっと!」
老女「ああ、もう!見ていられないわ」
ロイド「ですよね」
5階から6階へ。
(群衆)
ちょうど内装工事中。
ロイド「もうダメだ、本当にダメだ。もうここらへんでギブアップ……あっ!」
職人「おいあんた!なにやってるんだ!」
ビル「(窓を開けて)ハロルド!」
ロイド「え?」
“Come on, just this one floor, and you’ll be through.”
ビル「もう少しだけ!あと1階で終わりだぞ!」
“You BE THERE, or I will be THROUGH.”
ロイド「ビル、お願いだからそこにいてくれ!僕ぁもうダメだ!」
しかしおまわりは、まだ追いかけてきます。
(上からのショット)
スタートから1時間、約束の時間に、ミルドレッドがやってきました。
ミルドレッド「あれは……?ハロルド?どうしてハロルドが?」
(上からのショット)
7階。この階には、大きな時計盤がありました。
同じ頃、ビルも7階まで逃げてきておりました。
ビル「ハロルドのやつ、もう上がってるかな?(窓を開ける)」
ロイド「わーっ!(時計盤の針に掴まる)」
群衆「あ、危ない!」
(時計盤の面が外れかかる)
ロイド「うわ、助けて!」
ビル「おい、ハロルド!大丈夫か?」
ロイド「大丈夫じゃないよ!」
ビル「ちょっと待ってろ!」
ロイド「早くしてー!」
ビル「(ロープを垂らして)これに掴まれ!」
ロイド「ありがとう!」
ビル「しまった!」
(テーブルの脚にくくりつけられていないロープの端)
ロイド「もう少し……えいっ!」
ビル「危ない!」
まさに間一髪。
ビル「今引っ張り上げてやるからな!(引っ張る)」
おまわり「とうとう捕まえたぞ!」
ビル「ちょっとおまわりさん、今はそれどころじゃないんだ!手伝って!」
追う者追われる者が、ともに力を合わせてロープを引きます。
“Great! You got the righy idea, kid. That’s the best one you’ve pulled yet.”
男「すごいよ!サイコーのアイディアだ!今日イチ面白い!」
ロイド「ははは、どうも(8階の出っ張りに頭をぶつける)いて!」
ビル「ちくしょう!あいつこんなに重かったか?」
ロイド「あ、あ、あ、あーっ!」
(なんとかぶら下がるロイド)
おまわり「んん、こいつめ!」
(靴の先が壁の隙間に挟まったりしながら)
何とか8階まで上がってきました。
ロイド「もういやだ」
おまわり「どこだ?ーーいた!」
ビル「ハロルド!(ロイド見る)
“Make this next floor faster. I’m having a little difficulty in ditching the cop.”
もっと早く登ってくれよ。しつこいおまわりでさあ!」
ロイド「いや、僕はもう嫌だ!」
(窓を開けて部屋に入ろうとするロイド)
しかし、そこに待っていたのは。
ロイド「うわっ!犬だ!」
“Get out of here! Don’t you know the dog might fall?”
男「早くあっちへ行け!ウチのワンちゃんが落ちちゃうじゃないか!」
ロイド「あっちってどこだよ!あっ(時計盤に落ちる)!」
(犬の紐を机の脚に結びつける飼い主)
ロイド「誰がなんていおうと、もう僕はやめる!やめる……ん、何か(脚に引っかかって)!」
噛み付く気満々の犬。ハロルド、この階での中断を断念。
ミルドレッド「ああ、あの、彼は一体何をしているんです?」
重役「屋上まで命綱なしで登っているんですよ」
ミルドレッド「ええ!?」
ハロルドはまたひとつ、上の階へ上がるところ。
そこへ小さなお客様がやってまいりました。
ネズミ「失礼します」
ロイド「よし!もうやめる、やめるぞ(窓を開けようとして)あ!あ!あ!何かがいる!ズボンの中に!」
群衆「いいぞいいぞ!」
(張り出しから落ちかかるロイド)
男「なんだか騒がしいな(ズボンからネズミが落ちる)あっ!(鬘が取れる)」
次の階には写真スタジオが入っていました。
カメラマン「いいねいいね、フラッシュを焚こう」
ロイド「ひゃあ!殺される!」
もう、上がるしかありません。
重役「おいおい、大丈夫か?」
いよいよ屋上まであと少し。
(張り出しに果敢に挑戦するロイド)
さすがにビル登りに慣れてきたようです。
ミルドレッド「彼は?彼は今どこですか?(ロイド、ようやく屋上の張り出しに上がる)ハロルド!ハロルド!大丈夫なの?」
ロイド「この声は……ミルドレッド?」
ミルドレッド「ああ、ハロルド!もうこんな危ないことはやめてちょうだい!」
ロイド「いや、大丈夫だよ、もう屋上まで着いたから」
ミルドレッド「ハロルド!降りてちょうだい!」
ロイド「いやだからもう屋上だから、君こそ上がっておいでよ!(立ち上がり)いて!……フラフラする……フラフラ……」
(頭を強打してふらつくロイド)
ロイド「あっ!」
ある意味バンジージャンプ。
(しなるポール)
ミルドレッド「ハロルド!」
ロイド「ああ、ミルドレッド……(キス)ミルドレッド?ああ、やったんだ!僕はやったよ、ミルドレッド!(下を見る)」
(群衆が小さく見える)
ロイド「わあっ!」
ミルドレッド「もう大丈夫よ、ハロルド!」
ロイド「うん……あれ?」
遠く、ビルの屋上を逃げ回るビルと、追いかけるおまわりの姿。
“I’ll be right back. Soon as I ditch this cop.”
ビル「おまわりをまいたら、すぐ戻るからなーっ!」
ロイド「何っていったんだろ?ま、いいか」
地上では、酔っ払いがーー
酔っ払い「えーと、ここをこうして……いや……わからん!」
そして屋上では、愛するふたりが約束通り、これから結婚式を挙げに行くところ。1923年公開、ハロルド・ロイド主演「要心無用」、映画一巻の終わりであります。
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