ポーリンの危難(1914年)
第6話「The Broken Wing」
ある日飛行ショーに興味を持ったポーリン。ケルナーはそこで使われる飛行機に彼女も乗れるように手を回す。そして飛行中にその飛行機が壊れるように、ある仕掛けをする。ところが当日、会場に向かう途中で彼女の乗った車がエンストしてしまう。彼女が来ないと困るケルナーは慌てて車で迎えに行く。果たして彼女は間に合うのか、そして飛行ショーは無事成功するのか⁉︎
starring
Pearl White
supported by
Paul Panzer
Crane Wilbur
Francis Carlyle
In spite of Harry’s entreaties, the crafty Koerner succeeds in persuading Pauline to take part in an aviation meeting.
Tハリーは何度も言葉を尽くしてポーリンを説得しようと試みるが、何としても大金を手にせねばならないケルナーも必死である。そして今回も知恵を絞って彼女に危険な航空ショーへの参加を決意させるべく画策、(ひとしきり口論が終わったふたり)旺盛な好奇心と溢れんばかりの冒険心を持つポーリンの決意を翻させることは、いかなハリーの愛情を以てしても困難なことだった。
ケルナー「ポーリン様、これを(新聞を手渡す)」
ポーリン「まあ!」
(新聞記事)新聞の一面にはーー
Great aviation meeting
There is great activity just now in the aviation field in view of the next meeting.
The favourite is still Mr. Smitshon the famous aviator.
古今未曾有の空のエンターテインメント
来るべき飛行機全盛社会に向けて、今般この業界にて刮目すべき催し物が開催される。誰がどれだけ長い時間空を飛んでいられるか。鎬を削るなかあらわれたのが飛行家スミッション氏である。
ケルナー「いまだ女性の身で大空を飛んだ人はおりません。つまりポーリン様は世界で初めての女性飛行家というわけでございます」
ケルナー言葉を尽くして煽り立てる。
ポーリン「そうね……(立ち上がって)私やるわ!」
ハリー「どうしたんだい?(新聞を受け取って)」
ポーリン「聞いてちょうだい。私、飛行機に挑戦するわ!」
ハリー「いやしかし、それは……ねえ、ケルナー」
ケルナー「ポーリン様のご希望ですので」
ポーリン「ハリー、あなたはいつも反対ばかり。やんなっちゃう(腰を下ろす)」
一度決めたらテコでも動かないポーリンの性格は、ハリーには身に染みてわかっていた。
ケルナー「しめしめ……ではポーリン様、善は急げと申します。
Let us go to the aviation field and make arrangements for your flight.
T早速これからスミッション氏の飛行場へまいりましょう」
ポーリン「そうね、行きましょう!(引っ込む)」
心配でたまらないハリーはケルナーに抗議するも。
ケルナー「ハリー様、ご心配なく。わたしがついておりますゆえ」
ハリー「そんなことをいって、いつも危ない目に遭うのは彼女じゃないか!」
ポーリン「(出てくる)さあケルナー、行きましょう!ハリー、心配しないで、大丈夫だから」
ハリー「ポーリン……」
かくてーーやって来たのは郊外に建てられた飛行機の格納庫。今を去ること11年前、ウィルバーとオーヴィルのライト兄弟がノースカロライナで初飛行に成功して以来、アメリカとヨーロッパでは開発競争が激化していた。(飛行機の整備をしている)
Repair and strengthen this wire most carefully.
Tスミッション「いいか、このワイヤーが一番大事なところだ。くれぐれも慎重に。これが切れたりすると大変なことになるからな」
ケルナー「なるほど……ワイヤーか。よし!(中へ)スミッションさんですかな、マーヴィン氏の代理人のケルナーと申します。こちらの記事を拝見いたしました。大変な偉業ですな。ところで、
Would you be willing to take a passenger with you in your flight?
Tあなたの飛行機にもうひとり乗せるご予定はありますかな?」
スミッション「残念ながらそれは危険すぎますので、無理ですね」
ケルナー「スミッションさん、もし同乗ができるのならば、あなたのプロジェクトにいかほどでも資金協力は惜しみません。これこの通り、当座のお金はご用意しております」
スミッション「……しかし」
渋るスミッション。(車から降りるポーリン)
ポーリン「ねえケルナーさん、ダメなの?」
ケルナー「まあもう少しお待ちください。スミッションさん、ご紹介します。
This young lady, Miss Pauline, would like to partake of your future victory.
Tこちらの、マーヴィン氏の養女であられるポーリン様が、あなたの輝かしい偉業達成の一助となりたいと申し出られているのです」
スミッション「やあ、どうもありがとうございます。(握手)本当に心強いお申し出です」
ケルナー「そしてポーリン様は、あなたの偉業に自ら参加されたいと望んでおられます」
スミッション「しかし、これは大変危険な挑戦なのですよ」
ポーリン「ええ、存じ上げております。でも、危険だからと躊躇していたら、人類の進歩はありませんわ」
スミッション「うむ……確かにおっしゃる通りです。わかりました!」
ケルナー「ありがとうございます!ではこれはお約束の……」
Thank you, I am sufficiently paid by the pleasure of having such a charming passenger.
Tスミッション「いえ、結構です。このように勇敢かつ魅力的なお客様をお迎えできる喜びにまさる援助はありません」
(ポーリン、スミッション、去る)ケルナーの計画は、その第一段階をクリアした。(車まで送るスミッション)そしてスミッション氏は、すっかりポーリンに魅せられていたのである。
ケルナー「では、よろしくお願いいたします」
ポーリン「当日を楽しみにしていますわ」
スミッション「ええ、私も楽しみですよ。お嬢さん、お気をつけて!」
一方、やはり心配でたまらないハリーは、スミッション氏の飛行機格納庫まで行くことにした。(車が止まる)(作業中のスミッション)
ハリー「失礼、スミッションさんですか?」
スミッション「そうですが……あなたは?」
ハリー「今あなたのところに若い女性が飛行機に乗せてくれといってきたはずです。僕は彼女の婚約者です。どうかお願いです。彼女を乗せて空を飛ぼうなんて、そんな危ないことはやめてください。キャンセル料としてこれを……」
No, sir, I have only one word. I cannot retract; this young lady will be my passenger.
Tスミッション「いいえ、いりません。 申し訳ないけれど、彼女は私の飛行機のお客様ですから」
ハリー「そんな……(去る)」
Where Koerner meets Hicks his old accomplice.
Tさて、大会前日の深夜ーー
ケルナー「よし、頼むぞ、しっかり支えててくれよ」
(バイクを壁に沿ってとめ、シートの乗って塀を越えるケルナー)ケルナーは、計画の第二段階に取り掛かっていた。まずは悪党仲間のヒックスの力を借りて飛行機の格納庫に忍び込むと……
ケルナー「ここだな……おっと、脅かすない」
スミッション号の尾翼のワイヤーに細工を施し、明日の飛行中に墜落させ、ポーリンを亡き者に……というのが、ケルナーの恐ろしい計画であった。
(ワイヤーを切ろうとするケルナー)
男「(起き上がって)んん、何だ……(時計を見て)まだこんな時間か」
ケルナー「危ないところだった」
かくて計画の第二段階も完了、あとは明日を待つばかり……(森の中をバイクで疾走するケルナー)
While Koerner is perfecting the details of the crime, Harry seeks to dissuade Pauline from carrying out her plan.
Tケルナーの計画が終盤に近づくなか、ハリーもギリギリまでポーリンを思いとどまらせようと奮闘する。
(車に仕掛けをしているハリー)
ポーリン「ハリー、どうしたの?」
ハリー「ポーリン、ダメだ。
This car cannot be used just now, it will take me about an hour to repair it.
Tこの車は動かないよ。修理するにはたぶん1時間くらいかかりそうだ」
ポーリン「そんな……!」
ケルナー「とても間に合いませんよ」
ハリー「残念だが……」
Well, Harry, it is a simple enough matter, take me to the aviation field in this small car, my guardian will join us by train.
ポーリン「わかったわ、じゃあハリー、こうしましょう。こっちの二人乗りの車で送ってちょうだい。ケルナーさんには電車で行ってもらいましょう」
ケルナー「ええ?……それは」
ポーリン「大丈夫、これなら間に合うわ」
ケルナー「いやしかし、ポーリン様」
ポーリン「時間がないわ、急ぎましょう!さあ」
ハリー「ちょっとポーリン!まったく……」
計画変更を余儀なくされたハリーだったが……
ハリー「仕方ない……こっちにも仕掛けをするか……そうだ、タイヤをパンクさせてしまえば……いや……ここにはスペアタイヤがある……わかった!(タンクのキャップを外す。液体が出てくる)出発前にこうしておけば、途中でガス欠になるぞ」
En route for the aviation field.
Tようやく飛行場へ向かう準備が整った。
Hurry, up, Harry, we can just get there in time?
Tポーリン「急いでちょうだい、ハリー、間に合うわよね?(一度乗るが)いけない、忘れ物しちゃったわ、ちょっと待ってて」
ハリー「よし、今のうちに……(タンクのキャップを外す)」
ポーリン「ねえ、私のコートを持って来てくれる?あれを着て颯爽と空に飛び立つのよ!ありがとう!(車に飛び乗る)お待たせ!さあ行きましょう!」
しかし、ハリーの計画通り、二人の乗った車はいくらも走らないうちに止まってしまった。
ハリー「あれ?」
ポーリン「どうしちゃったの?」
ハリー「どうしたんだろう?」
ポーリン「困ったわ」
Pauline lateness makes Koerner uneasy.
T一足先に飛行場に着いたケルナー、ヤキモキしながらポーリンを待っていた。
スミッション「さあ、そろそろ最終準備にかかろう」
ケルナー「スミッションさん、実はまだポーリン様が」
We have still ten minutes. Your departure will be chronometered at 2.13.
Tスミッション「大丈夫。まだ10分あります。 出発は2時13分ですから」
ケルナー「わかりました」
Koerner’s resolution.
そしてついにケルナーは決意した。あの娘っ子め、何かしらのアクシデントで途中で立ち往生しているのかもしれない。こうなればこちらから迎えに行くしかない。
ケルナー「急げヒックス!」
ヤキモキしているのはポーリンも同じ。
ポーリン「もうっ!なんでこんなことばっかり!(地面を蹴る)あっ!
Harry! Harry! We are alright! Here’s Mr. Koerner!
Tハリー!ハリー!もう大丈夫よ!ケルナーさんが来てくれたわ!」
ハリー「……え?」
ケルナー「ポーリン様、一体どうされたのです?」
ハリー「いやそれが、急に動かなくなってしまって……」
ケルナー「仕方ありません、スミッションさんの飛行機が飛び立つまであと10分を切ってしまいましたよ。ではポーリン様、
My car is your last resource. Get in with me. It is now 2:05. At 2:10 you will be in the machine. At 2:13 you will take flight.
Tわたしの車に乗ってください。現在2時5分です。5分もあれば飛行場に着いて、あなたは飛行機に乗り込んでいるでしょう。そして2時13分、ついに大空に飛び立つのです!」
ポーリン「ケルナーさん、ありがとう。ハリー、私先に行くわね」
ハリー「ポーリン……」
ケルナー「さあ、ポーリン様」
ポーリンの乗った車は、砂煙をあげて走り去った。ハリーの計画は、かくて潰えたかに見えたが……(走る車)
役員「さあ、もう飛び立つ時間ですよ」
スミッション「いや、しかし、まだ……」
It is time. Get in, or you will be disqualified.
T役員「いいえスミッションさん、もう時間です。すぐに乗り込まなければあなたは失格になりますよ」
スミッション「……わかったよ」
ついにスミッション号は飛び立った。観衆の大歓声が湧き上がる。
ケルナー「ちょっとどいてくれ!」
ヒックス「おいケルナー、
Too late! Your man has just flown.
T何やってんだ!やつぁもう飛んじまったぜ」
ケルナー「何だって?……ちくしょう!ポーリン様、遅かった、
It’s your cousin again who is the cause of your being late.
みんな、あなたの従兄弟のせいですよ」
ポーリン「ああ、なんてこと……」
意気消沈して、むなしく空を見上げるポーリン。ハリーの計画は、結局大成功したのであった。(操縦席から下を走る列車の眺め)そうとは知らないハリーが飛行場に到着した。
ハリー「あの、すみません、
Can you tell me if a young lady has gone up with the aviator.
T若い女性が乗ったスミッション号はもう飛び立ちましたか?」
観客「スミッション号ならほら、飛んでるよ」
ハリー「ええ?あれですか?(双眼鏡を借りて覗く)何だかずいぶん低いところを飛んでますねえ……」
快調に飛んでいるかに見えたスミッション号……しかし次の俊寛(飛行機、ふいに地面に激突する)観客たちの歓声が悲鳴に変わった。航空業界の勇者スミッション氏の墜落事故に、人々は大変なショックを受けていた。
ポーリン「……まあ!(目の前をハリーが通る)ハリー!」
What? You…You…Pauline…Here?
Tハリー「ええっ?君は……君は……ポーリン……なぜここに?」
ポーリン「間に合わなかったの……」
ハリー「よかった……本当によかった……」
さすがのポーリンも、目の前で起きた惨劇とでもいうべき事故に言葉を失っていた。ハリーは、そんな彼女を優しくさとすのである。
ハリー「ポーリン、君が新しい冒険を求める気持ちはよくわかる。けれどね、僕は君が今みたいな事故に遭うのを見たくはないんだよ」
ポーリン「……ハリー、ごめんなさい」
ケルナー「ちくしょう……今度こそ完璧だったのに」
ヒックス「おい、またドジを踏みやがったな」
ケルナー「いや……俺は諦めねえぞ、次だ。次こそ絶対に……!」
かくれ危難らしい危難に遭わないまま「ポーリンの危難」第6話「折れた翼」の完結であります。
台本作成に関して常に心の支えとなった書籍
「飛行機物語」鈴木真二(中公新書)

