終活物語 余命士
〜もしもあなたの命が与えられるとしたら〜
この物語の世界は私たちが生きる現実とは
少し違います。
それは、自分の余命を一度だけ指定した人に与えることが出来るんです。
たった一度だけ。
でも、
その余命を与えること=与えた人の死を意味します。
この世界を通して自分の【命】を真ん中に置き、考えるキッカケになれば幸いです。
【目次】
1.生まれた瞬間に余命宣告⁉️
2.命を与える条件
3.余命を知る
4.余命は長ければいいのか
5.使命とは
6.余命士の使命
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1.生まれた瞬間に余命宣告⁉️
【余命士とは】
名前の通り、人間の余命を知ることができる人のこと。そして、この余命士により指定した人へ余命を与えることが可能となる。
余命は受ける人の意思は関係なく一方的に与えることも可能。
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ある日、女の赤ちゃんが誕生した。
この世界では、余命士に付き添ってもらうことで、産まれたその場で赤ちゃんの余命を知ることができる。
この余命士が端的に発した言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。
「この子の余命は15年です。」
余命士が宣言する余命は必ず当たります。
これは確率論ではなく、余命士にしか見えない神の数字とも言えるものであるためです。
母親は、一瞬呆然とし、その言葉を理解した途端に泣き崩れた。
「この子は15歳までしか生きられない・・・」
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2.余命を与える条件
父親にも間もなく同様の言葉が余命士から告げられた。
「余命15年・・」
数日後、無事に母娘が退院する日を迎えた。
同日、父親と母親はカウンセリングルームに呼ばれた。
カウンセリングルームには、出産時に娘の余命宣告をした余命士が座っていた。
父母の入室を確認したと同時に、余命士は話し始めた。
「回りくどい話はしません。これから話すことをしっかり聞いて下さい。」
「娘さんは15年という余命が与えられています。この余命は伸ばすことができます。」
母親が口を開いた。
「知っています。私たちの余命を与えることができるんですよね?」
「私の余命は残り60年近くあります。夫の余命も残り40年近くあります。」
余命士は更に口を開いた。
「その通りです。そうすれば娘さんの余命はどちらかの余命の年数分を伸ばすことが可能になります。ただし・・」
余命士は一瞬間を空けて、再び淡々と話を始めた。
「余命を与えることは、同時に与える人の死を意味します。お父さんお母さんどちらの余命を与えるにしても、どちらかを同時に失うことになります。これは絶対であり変えることができません。」
「娘さんの余命はまだ15年あります。今この場で決断する必要はありません。12年後にまた相談して下さい」
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3.余命を知る
娘が生まれて明日で12年が経過する。
娘の名前は華(はな)と名付けられ、
何不自由なく、両親から沢山の愛情を受けて
大きく育った。
しかし、華の両親は余命が残り3年になった事実を公表していなかった。
明日8月7日は娘の誕生日だ。
両親は娘が寝静まった夜中。
華が12歳の誕生日に余命を公表することについて話をしていた。
娘の華に聞かれてしまうことなど、つゆ知らず。
父親がこう話していた。
「華は大きくなった。余命について知る権利があるし、それが理解できる年齢になった。」
「ただ、やはり余命3年というのは短すぎる。本当に。だから、父親である私の余命を与えることにしよう。私の余命は30年ある。それでも短いと思うが。お前の余命は50年近くある。華と共に時間を過ごしてやってくれ。頼んだぞ。」
華は自分の余命が残り3年であることを知った。
「私の命は残り3年・・お父さんの余命は30年、お母さんの余命は50年か」
華は、思いのほか冷静でいることに戸惑いを覚えつつも、その日は寝ることにした。
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4.余命は長ければいいのか
父親と母親は、話し合いの数日後の華の誕生日に
残りの余命、自分たちの余命、そして父親の余命を与える意思を固めたことなど全てを伝えた。
華は、初めて聞いたように装いながら自分の考えを伝えることにした。
今まで何不自由なく愛情を沢山受けて暮らしてきた。両親に逆らったり意見したことすらなかった華が強い口調で告げた。
その、華の強い言葉に両親は絶句した。
「私は、お父さんの余命は受け取りません。私に与えられた残り3年間を普段通りに過ごしたい」
「特別なことは必要ない。日常を私に与えてほしい。これは私が最初で最期のわがままです。」
母親はこの言葉を娘から聞き、泣き崩れた。
「なんで!?なんでなの?お母さんもお父さんも華には長生きして欲しいんだよ。これからあなたには沢山の幸せが待ってる。あなたはなりたい夢があるって言ってたじゃん!結婚したいって言ってたじゃん!それが叶わないんだよ?」
母親は必死に娘に訴えた。
それでも華の意思は変わらないようだった。
「お母さん、私は気付いたんだ。長生きすればいいわけじゃないって。実は今日話してくれたことだけど、前にお父さんお母さんが2人で深夜に話してるの聞いちゃったんだ。ごめんね、黙っていて。それを聞いてから必死に探したんだ。【いのち】って何だろうって。」
「私は何不自由なく暮らしてきて、それがどれだけ幸せだったのかって知ることができた。余命3年って聞いたから感じることができた。【日常】ってありきたりなツマラナイ言葉が、今はとても幸せな事に感じる」
「お父さんの命を貰って長生きしたら確かにこれから色んなことができるようになると思う。正直、まだ死ぬ実感なんてないし、もっと長生きしたいって泣けてくることもある。でも、私はお父さんの命を貰ってまで実現したい事はないんだよ。私はお父さんが大好きだから。」
「お父さんお母さんが私を大切に想うように私もお父さんお母さんが自分の命が惜しくないくらい大好きで、愛してるんだよ。」
「これからの3年間という時間をどう使うのか。私の3年間に与えられた【使命】を全うできたら私の15年という人生はきっと幸せだったと終えることができるし、今はそれでいいと心から思うんだ。私に与えられた使命は・・お父さんお母さんと日常の幸せに感謝して生きることです。」
母親から涙が溢れて止まらない。
父親は娘の言葉に耳を傾けて動かない。
そして、娘の華がこう締めくくった。
「もちろん最初はお父さんお母さんを恨んだ。なんで⁉️って。なんでこんな身体で産んだの⁉️って。私は残り3年で死ななきゃいけないの⁉️って。私の夢はどうなるの⁉️って。失うものばかりが見えて怖くて悲しくて辛くて死にそうになった。」
「もがいた。頭の中で必死に生きてた。そんなときにね、ある食堂に行ったの。そこにはおばあちゃんがいてね、私は【生きるって何ですか?】って聞いたんだ。その答えが私をなんか楽にしてくれた。必死な私には、その答えに涙が止まらなくなって、初めて会ったおばあちゃんに抱きついて泣いた。そして、家に帰り自分の部屋に飾られた家族写真をみて、更に泣いた。
私は12年もの間、お父さんお母さん2人からこんなに大きくなるまで沢山の愛情を受けていたんだって。私が望むのは3年で親孝行したいって気づいた。私の使命はそうゆうこと。だから、ね?」
父親は何も言わなかった。
父親と母親はこの会話をした後、余命士に相談することに決めた。
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次のブログに続く・・