〈はしがき〉
 和名類聚抄は辞書研究の対象となっている。狩谷棭斎が箋注を施し、文字の校勘、引書の正誤等くまなく調査している。研究者によって今日まで折に触れ再検証が行われている(注1)。中古に成った辞書がいかに成ったか、また、狩谷棭斎の足跡についても多く語られる。
 一方、和語の研究上からは、どのような言葉がどのような理解のもとで使われていたかという点で和名類聚抄の資料的価値は高く、個別具体的に一語一語についてが焦点となっている。言語とは使用である(ウィトゲンシュタイン)から、和名類聚抄に記載されている言葉をそのままに受け取って検討の助けとしたい。また、言語は体系である(ソシュール)から、なるべく多くの領域をカバーして見渡すことが望ましい(注2)。よく知られる掛詞で言えば、マツという言葉は wait と pinetree を両用している。「待つ」という語しか知らず「松」という語を知らなければ、歌の修辞はわからず、歌とは縁のない人生を送ることになる。
 源順は万葉集の訓を模索していたと伝えられる。「左右」とあるのを何と訓んだらいいのか悩んでいて、馬を操る人が左右の手を馬の体に当てて動かないように指示しているところを目にし、マデ(待て)と訓むのだと気づいたという(石山寺縁起)。言葉と文字との間の不思議な関係を深慮していた。自ら編んだ和名類聚抄にもその影を落とさないはずはなかろう。記載語の全体像を把握しようと努めることは、当時の言葉がどのようなものであったか、源順の目を通してではあるが理解することにつながり、多くの示唆が得られるに違いない(注3)





〈凡例〉
 和名類聚抄の底本は箋注本とした。活字については可能な限り箋注本に近い字体を探した(注4)。箋注本に付されている読点、返り点にも多く依っているが、私に改めたところもある。
 割注は〈 〉で囲み、棭斎が二十巻本から補っている部分の四角囲みは[ ]で囲んだ。
 文字の校訂箇所には「*原本○」と傍書した。ここでいう「原本」は箋注本のことである。
 訓読については書入本ほか諸書を参照した。和名の清濁は古い段階の訓みに従う傾向をとった。
 「○○に云はく、……といふ」形式の大系本日本書紀の訓読スタイルを採用したところが多い。音読み、訓読みの選択については有意の場合もあればそうでないこともある。割注部分がすぐ上の語を説明していると判断されるときには訓読文に挿入する形のままにし、和書による注釈となっているところではそれが上の語の注釈であることを反映させるべく訳出した。いずれ前述の説明を補強する形で綴っているところが多い。


(例1)

食指 左傳云、食指、楊氏漢語抄云、頭指、比斗佐之乃於與比、野王案、第二指也、


とあるのは、


食指 『左傳』云、「食指 楊氏漢語抄云「頭指比斗佐之乃於與比」、野王『案』、「第二指也」、


のことで、


食指 左伝に云はく、食指〈楊氏漢語抄に云ふ頭指、比斗佐之乃於与比ひとさしのおよび〉といふ。野王案ずるに、第二指なりとす。


と訳した。

 親字「食指」について説明する形で pointer finger について述べている(注5)。それは、楊氏漢語抄では「頭指」と示されていて、ヒトサシノオヨビと言うのだと書いてある。また、野王のかんがえるところでは、第二指なのだと定めている。源順は以上のことをここで記していると考え、訳出した。


(例2)

淺甕 日本紀私記云、淺甕、佐良介、本朝式云、瓼、和名上同、今案所󠄁出未詳、


とあるのは、


淺甕 『日本紀私記』云、「淺甕佐良介」、『本朝式』云、「瓼 和名上同、今案所󠄁出未」、


のことで、


浅甕 日本紀私記に云ふ浅甕〈佐良介さらけ〉。本朝式に云ふ瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉。


と訳した。

 親字「淺甕」について説明するのに漢書が見当たらなかったか和書を列挙している。和書のため訓のみで説明が完結する。すべては訓みの問題に行き着いており、書名は引用元を提示しているにすぎない。そこで、「○○に云はく、……といふ」形式を約して「○○に云ふ……」とした。しかも、後者の本朝式では「瓼」に訓が付せられていたのではなく口伝でサラケと訓むとされていたようで、出所は未詳と断るために「今案」と指定している。「今案」以降は「和名上同」に限っての補足で、「和名は上に同じなのは今案ふるに……」という構造であるが、そう訳すとその説明文だけで完結してしまい、「瓼」字のルビの義を示す階層にあった本来が忘れられかねないため簡素なつくりのままとした。


(注)

(注1)近年では、『箋注倭名類聚抄』研究会による注釈研究の一部が『水門─言葉と歴史─』に掲載されている。

(注2)源順の和名類聚抄には、文字や引書等に多くの誤りがあることが指摘されている。しかし、それを問うて糺すことは、この国の中古に現れてしまっている和名類聚抄という書物の存在にとってはあまり意味のない、あるいは、無関係な検討に当たるものである。それらをひっくるめてすべてを明らかにするために、箋注倭名類聚抄の全注全訳を施そうとした試みとして、不破『箋注倭名類聚抄の研究』が挙げられる。

(注3)AIではないのですべて理解し切ることはできない。訓読文にはAIの機械学習に苦手なルビを多用している。和名類聚抄において仮名はルビであった。ヤマトコトバや日本語の素性については、これらの点を熟々考えるだけでも導かれることは多いだろう。

(注4)狩谷棭斎・箋注倭名類聚抄は国立国会図書館デジタルコレクションに収蔵がある(http://id.ndl.go.jp/bib/000000547640)。和名類聚抄のデータベースは、国立国語研究所「二十巻本和名類聚抄〈古活字版〉」(日本語史研究用テキストデータ集https://www2.ninjal.ac.jp/textdb_dataset/kwrs/、2017年11月9日公開)、劉冠偉・武倩・申雄哲・韓一・藤本灯「本草和名と古活字版和名類聚抄の全文テキストデータ (附:和名索引)」『デジタル・ヒューマニティーズ』第4巻第1号、2025年(京都大学学術情報リポジトリhttp://hdl.handle.net/2433/292626、Unicode 3.1(拡張漢字B)まで対応という)。十巻本の校勘翻刻の例としては、林2002.がある。

 インターネットで閲覧可能な写本としては、尾州大須宝生院蔵倭名抄残篇(国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/2536071)、大須本摸刻零本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00256/index.html)、京本(国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2545186)、下総本(早稲田大学古典籍総合データベースhttps://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00399/index.html)がある。

 その他刊行本としては、馬渕和夫編著『古写本和名類聚抄集成 第二部 十巻本系古写本の影印対照』(勉誠出版、2008年)、館蔵史料編集会『国立歴史民俗博物館蔵 貴重典籍叢書 文学篇 第二十二巻〈辞書〉』(臨川書店、1999年)などがあり、現存主要諸本と複製状況は、山田2017.に解説されている。

(注5)和漢で異なる対象に当てられている漢字が同一項目のなかで説明されることもある。漢文本文は標目の注釈説明ではなく、漢字表記の本文であると考えられている(不破1997.25頁)。筆者が「標目」と呼ばず、「親字」(見出し語)とした理由もそこにある。事典ではなく字典に近い性質の辞典ということになる。次の例の場合、親字は本文に再現されない。


蔔子 本草云、蔔藤、上音福、一名烏𧄏、音伏、阿介比、崔禹食經云、附通󠄁子、


 親字の「蔔子」は前の「茄子」「郁子」等と合わせる形で語として抽出されている。和名抄は表記の規範となることも目指していたようである(不破『巻一ー三』900頁)。この「蔔子」は本草の「蔔藤」から採ったと考えられるのでこれを中心的な本文と見据え、同じものは崔禹食経では附通子と呼んでいると付け加えられていると見た。割注としていないのはそれが漢籍ゆえのことと考える。


蔔子 本草に云はく、蔔藤〈上の音は福〉、一名は烏𧄏〈音は伏、〉といふ。崔禹食経に云ふ附通子。


(文中に詳細記載以外の文献)

不破『箋注倭名類聚抄の研究』 不破浩子『箋注倭名類聚抄の研究』(巻一ー序、巻一ー一、巻一ー二、巻一ー三、巻一ー四、巻二ー一、巻二ー二、巻二ー三、巻三ー一、巻三ー二)(?、巻二ー一以降は奈良女子大学文学部国語国文学科遠藤研究室発行(1990年8月、1991年2月、同年8月、1992年2月)、巻三ー二は長崎大学教養部発行(1993年8月))

不破1997. 不破浩子「古辞書で調べる━『和名類聚抄』を中心として━」『日本語学』第16巻第12号、1997年11月。

林2002. 林忠鵬『和名類聚抄の文献学的研究』勉誠出版、平成14年。

山田2017. 山田健三「『和名類聚抄 高山寺本』解題」『新天理図書館善本叢書 第七巻 和名類聚抄 高山寺本』天理図書館出版部、2017年。

『水門─言葉と歴史─』第30・31・32号、2021年11月・2024年3月・2025年3月。






竊以、延長第四公主󠄁、柔德早樹、淑姿如花、呑湖陽於〓〔月偏に匋〕陂、籠山陰於氣岸、年纔七歲、初謁先帝、先帝以其姿貌言笑、毎事都雅、特鐘愛焉、即賜御府箏、手教授其譜、公主󠄁天然聰高、學不再問、一二年間、能究妙曲、十三絃上更奏新聲、自醍醐山陵、雲愁水咽、永辭魏闕之月、不秦箏之塵、時々慰幽閑者、書畫之戱而己、於是因點成蠅之妙、殆上屛風、以筆廻鸞之能、𡖋巧垂露、漸辨八軆之字、豫訪万物之名、其教曰、我聞思拾芥者、好探義實、期折桂者、競採󠄁文華、至于和名、弃而不屑、是故雖一百帙文舘詞林、三十卷白氏事類、而徒偹風月之興、難世俗之疑、適󠄁可其疑者、辨色立成、楊氏漢語抄、大醫博󠄁士深根輔仁、奉勅撰集和名本草、山州員外刺史田公望、日本紀私記等也、然猶養老所傳、楊說纔十部、延喜所撰、藥種只一端、田氏私記一部三卷、古語多載、和名希存、辨色立成十有八章、與楊家說、名異實同、編󠄁錄之間、頗有長短、其餘漢語抄不何人撰、世謂之甲書、或呼爲業書、甲則開口裒揚之名、業是服膺誦習之義、俗說兩端、未其一矣、又其所撰錄名、音義不見、浮󠄁僞相交、海峭爲䖣、河魚爲𫚄、祭樹爲榊、澡器爲楾等是也、汝集彼數家之善說、令我臨文無疑焉、㒒之先人、幸忝公主󠄁之外戚、故㒒得其草隷之神妙、㒒之老母、𡖋陪公主󠄁之下風、故㒒得其松容之教命、固辭不許、遂󠄂用修撰、或漢語抄之文、或流俗人之說、先舉本文、正說各附出於其注󠄁、若本文未詳、則直舉辨色立成、楊氏漢語抄、日本紀私記、或舉類聚國史、萬葉集、三代式等所用之假字、水獸有葦鹿之名、山鳥有稻𧴥之號、野草之中女郎花、海苔之屬於期菜等是也、至於期菜、所謂六書法、其五曰假借、本無其字、依聲託事者乎、內典、梵語、𡖋復如是、非據、故以取之、或復有其音于俗、雖和名、既是要用、石名之礠石、礬石、香名之沉香、淺香、法師具󠄁之香爐、錫杖、畫師具󠄁之燕脂、胡粉等是也、或復有俗人知其訛謬、不改易、鮏訛爲鮭、榲讀如杉、鍛冶之音、誤󠄁渉鍜治、蝙𧍗之名、僞用蝛蛦等是也、若此之類、注󠄁加今案、聊明故老之說、略述󠄁閭巷之談、摠而謂之、欲近󠄁於俗、便於事、臨忽忘掌、不異名、別號、義深旨廣、有于披覽焉、上舉天地、中次人物、下至草木、勒成十卷、々中分部、々中分門、廿四部百廿八門、名曰和名類聚抄、古人有言、街談巷說、猶有採󠄁、㒒雖誠淺學、而所注󠄁緝、皆出前󠄁經、舊史、倭漢之書、但刊謬補闕、非才分所__及、內慙公主󠄁之照覽、外愧賢智之盧胡耳、


ひそかにおもひみれば、延長の第四公主は柔徳早くち、淑姿花のごとし。湖陽を胸陂に呑み、山陰を気岸にむ。年かに七歳にして初めて先帝にまみゆ。先帝、其の姿貌言笑の、事ごとに都雅なるを以てことに鍾愛したまふ。即ち御府のしやうのことを賜ひ、手づから其の譜を教授したまふ。公主、天然に聡高にして、学ぶに再問せず。一、二年の間に能く妙曲を究め、十三絃の上に更に新声を奏す。醍醐山陵、雲愁水咽より、永く魏闕の月を辞し、秦箏の塵を払はず。時々よりよりに幽閑を慰むるは書画の戯のみ。是に於いて点に因りて蠅と成すの妙、ほとほと屏風にのぼり、筆を以て廻鸞の能も亦、垂露に巧みなり。やうやく八体の字をわきまへ、予め万物の名をひたまふ。其の教にはく、「我聞く、拾芥を思ふ者は好みて義の実を探り、折桂を期する者は競ひて文の華を採るといふ。和名に至りては棄てて不屑もののかずともせず。是の故に、一百帙の文館詞林、三十巻の白氏事類と雖も、ただに風月の興に備へて世俗の疑ひを決し難し。たまたま其の疑ひを決すべき者は、弁色立成、楊氏漢語抄、大医博士深根輔仁の勅を奉じて撰集せる和名本草、山州員外刺史田公望の日本紀私記等なり。然れども猶ほ養老の伝ふる所の楊説は纔かに十部、延喜に撰する所の薬種は只一端のみ。田氏私記一部三巻は古語多く載せ、和名希に存す。弁色立成十有八章は楊家説と名は異なれど実は同じ。編録の間に頗る長短有り。其の余の漢語抄は何人の撰なるか知らず。世に之れを甲書と謂ひ、或は呼びて業書とす。甲は則ち開口褒揚するの名、業は是れ服膺誦習するの義なり。俗説両端にして、未だ其の一を詳かにせず。又、其の撰録する所の名に音義見えず、浮偽相交はれり。海蛸に䖣と為し、河魚に𫚄と為し、祭樹を榊と為し、澡器を楾と為す等是れなり。汝、彼の数家の善説を集め、我をして文に臨みて疑ふ所無からしめよ」といふ。僕の先人、幸ひに公主の外戚たるをかたじけなくす、故に僕、其の草隷の神妙なるを見るを得たり。僕の老母も亦、公主の下風にはべり。故に僕、其の松容の教命を蒙ることを。固辞するも許されず、遂に用て修撰す。或は漢話抄の文、或は流俗人の説は、先づ本文を挙げ、正説をおのおの其の注に付出す。し本文、未だ詳かならざるときには直ちに弁色立成、楊氏漢語抄、日本紀私記を挙げ、或は類聚国史、万葉集、三代式等に用ゐる所の仮字を挙ぐ。水獣には葦鹿の名有り、山鳥には稲負いなおほせどりの号有り、野草の中の女郎花、海苔のたぐひの於期菜等是れなり。於期菜のごとき者に至りては、所謂いはゆる六書の法に其の五を仮借と曰ひ、もと、其の字無く声に依りて事をくる者か。内典の梵語も亦、またくのごとく拠る所無きには非ず。故に以て之れを取る。或は復、其の音を以て俗に用ゐる者有り。和名に非ずと雖も既に是れ用ゐるを要す。石の名の磁石、礬石、香の名の沈香、浅香、法師の具の香炉、錫杖、画師の具の燕脂、胡粉等是れなり。或は復、俗人其の訛謬を知りても改めふること能はざる者有り。鮏をあやまりて鮭と為し、榲を読みて杉のごとく、鍛冶の音を誤りて鍜治にわたり、蝙𧍗の名に偽りて蝛蛦を用ゐる等是れなり。此くのごときの類は、注に「今案」を加へ、聊か故老の説を明らかにし、ほぼ、閭巷の談を述ぶ。摠じて之れを謂へば、俗に近く、事に便にせんと欲して、忽忘に臨みてたなごころを指すがごとし。異名、別号、義深く旨広くして、披覧に煩ひ有ることを欲せず。かみに天地を挙げ、中に人物を次ぎ、下に草木に至る。勒して十巻と成す。巻の中を部に分ち、部の中を門に分ち、二十四部百二十八門、名けて和名類聚抄とまをす。古人いにしへのひと、言へること有り、街談巷説も猶ほ採るべき有りと。僕、誠に浅学と雖も、注緝する所、皆、前経、旧史の倭漢の書より出づ。但しあやまりをけづけたるを補ふは、才分の及ぶ所に非ず。内に公主の照覧を慙ぢ、外に賢智の盧胡を愧づるのみ。

卷第一

巻第一

 天地部第一 人倫部第二


 天地部第一 人倫部第二

天地部第一


天地部第一

 景宿類一 風雨類二 神靈類三〈有天神地神故取於此部、〉 水土類四 山石類五 田野類六


 景宿類一 風雨類二 神霊類三〈天神、地神有り、故に此の部に取る〉 水土類四 山石類五 田野類六



景宿類一〈宿音秀、夜宿之處、息逐󠄁反、〉


景宿類一〈宿の音は秀、夜宿の処、息逐反〉

日 造󠄁天地經云、佛令寳應聲菩薩造󠄁__日、


日 造天地経に云はく、仏、宝応声菩薩をして日を造らしむといふ。

陽烏 歷天記云、日中有三足烏、赤色、〈今案文選󠄁謂之陽烏、日本紀謂之頭八咫烏、田氏私記云、夜太加良須、〉


陽烏 歴天記に云はく、日の中に三足の烏有りて赤き色といふ〈今案ふるに文選に之れを陽烏と謂ひ、日本紀に之れを頭八咫烏やあたがらすと謂ふ、田氏私記に云ふ夜太加良須やたがらす〉。

月 造󠄁天地經云、佛令吉祥菩薩造󠄁__月、


月 造天地経に云はく、仏、吉祥菩薩をして月を造らしむといふ。

弦月 劉熈釋名云、弦、〈此間云、由美波利、有上弦下弦、〉月半󠄁之名也、言其形一旁曲一旁直、若弓弦也、


弦月 劉煕釈名に云はく、弦〈此間ここに云ふ由美波利ゆみはり、上弦、下弦有り〉は月半ばの名なりといふ。言ふは其の形、一旁は曲、一旁は直にして、弓弦を張るがごときなればなり。

望月 釋名云、望、〈此間云、望月、毛知豆歧、〉月大十六日、小十五日、日在東、月在西、遙相望也、


望月 釈名に云はく、望〈此間に云ふ望月、毛知豆岐もちづき〉は、月の大なるは十六日、小なるは十五日、日は東に在り月は西に在り、遥かにあひ望むなりといふ。

暈 郭知玄切韻云、暈、〈音運、此間云、日月賀佐、弁色立成云、月院、〉氣繞日月也、


暈 郭知玄切韻に云はく、暈〈音は運、此間に云ふつき賀佐かさ、弁色立成に云ふ月院〉は気の日月をめぐるなりといふ。

蝕 釋名云、日月虧曰蝕、〈音食、〉稍小浸虧、如虫食草木葉、故字從虫食也、


蝕 釈名に云はく、日月のくるを蝕〈音は食〉と曰ひ、稍小しく浸虧すること、虫の、草木の葉を食するがごとし、故に字は虫、食に従ふなりといふ。

星 說文云、星、〈桑經反、保之、〉萬物精上所󠄁生也、


星 説文に云はく、星〈桑経反、保之ほし〉は万物の精、かみに生ずる所なりといふ。

明星 兼名菀云、歲星、一名明星、〈此間云、阿加保之、〉


明星 兼名苑に云はく、歳星、一名は明星〈此間に云ふ阿加保之あかぼし〉といふ。

長庚 兼名苑云、大白星、一名長庚、〈此間云、由布都々、〉暮見於西方長庚耳、


長庚 兼名苑に云はく、大白星、一名は長庚といふ〈此間に云ふ由布都々ゆふづつ〉。暮に西方に見ゆるを長庚とすのみ。

牽牛 爾雅注󠄁云、牽牛、一名河皷、〈和名比古保之、一云以奴加比保之、〉


牽牛 爾雅注に云はく、牽牛、一名は河皷といふ〈和名は比古保之ひこぼし、一に云ふ以奴加比保之いぬかひぼし〉。

織女 兼名菀注󠄁云、織女、〈和名多奈波太豆女、〉牽牛疋也、


織女 兼名苑注に云はく、織女〈和名は多奈波太豆女たなばたつめ〉は牽牛のつれあひなりといふ。

流星 兼名菀注󠄁云、流星一名奔星、〈和名與波比保之、〉


流星 兼名苑注に云はく、流星、一名は奔星といふ〈和名は与波比保之よばひぼし〉。

彗星 兼名菀注󠄁云、彗星、〈彗音遂󠄂、一音歲、和名波々歧保之、〉言其形如箒篲也、


彗星 兼名苑注に云はく、彗星〈彗の音は遂、一音に歳、和名は波々岐保之ははきぼし〉といふ。言ふは其の形、箒篲のごときなればなり。

昴星 宿耀經云、昴、〈音與卯同、和名須波流、〉六星火神也、


昴星 宿耀経に云はく、昴〈音は卯と同じ、和名は須波流すばる〉は六星、火神なりといふ。

天河 兼名菀云、天河、一名天漢、〈今案又一名漢河、一名銀河、和名阿萬乃加波、〉


天河 兼名苑に云はく、天河、一名は天漢といふ〈今案ふるに、又、一名は漢河、一名は銀河、和名は阿万乃加波あまのがは〉。



風雨類二


風雨類二

風 春秋元命苞云、陰陽怒而爲風、


風 春秋元命苞に云はく、陰陽いかりて風と為るといふ。

飊 文選󠄁詩云、廻飊卷高樹、〈飊音焱、和名豆无之加世、〉兼名菀注󠄁云、飊者暴風從下而上也、


飈 文選詩に云はく、廻飈、高樹を巻くといふ〈飈の音は炎、和名は豆無之加世つむじかぜ〉。兼名苑注に云はく、飈なる者は暴風のしもよりのぼるなりといふ。

嵐 孫愐切韻云、嵐〈盧含反、和名阿良之、〉山下出風也、


嵐 孫愐切韻に云はく、嵐〈盧含反、和名は阿良之あらし〉は山下、風を出すなりといふ。

暴風 史記云、暴風雷雨、〈漢語抄云、暴風、波夜知、又能和歧乃加世、〉


暴風 史記に云はく、暴風雷雨すといふ〈漢語抄に云ふ暴風、波夜知はやち、又、能和岐乃加世のわきのかぜ〉。

大風 漢書云、大風吹兮雲飛揚、〈大風、此間云、於保加世、〉


大風 漢書に云はく、大風吹きたり、雲飛揚すといふ〈大風は此間に云ふ於保加世おほかぜ〉。

微風 崔豹古今注󠄁云、柳微風大搖、〈微風、此間云、古加世、〉


微風 崔豹古今注に云はく、柳、微風ふきて大いに揺るといふ〈微風は此間に云ふ古加世こかぜ〉。

雲 說文云、雲、〈王分反、和名久毛、〉山川出氣也、


雲 説文に云はく、雲〈王分反、和名は久毛くも〉は、山川、気を出だすなりといふ。

霞 唐韻云、霞、〈胡加反、和名加須美、〉赤氣雲也、


霞 唐韻に云はく、霞〈胡加反、和名は加須美かすみ〉は赤気の雲なりといふ。

霧 爾雅云、地氣上天曰霧、〈亡遇󠄁反、與務同、和名歧利、今案又水氣也、老子經云、在天為霧露、在地爲泉源、是也、〉兼名菀云、一名雺、〈音蒙、〉一名雰、〈音分、〉水氣着樹木雰也、


霧 爾雅に云はく、地気の、天に上るを霧〈亡遇反、務と同じ、和名は岐利きり、今案ふるに、又、水気なり。老子経に云はく、天に在りて霧露と為り、地に在りて泉源と為るといふは是れなり〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、一名は雺〈音は蒙〉、一名は雰〈音は分〉、水気の、樹木に着きて雰と為るなりといふ。

虹 毛詩注󠄁云、螮蝀、〈帝董二音、螮𡖋作蝃、和名爾之、〉虹也、兼名菀云、虹一名蜺、〈五稽反、與鯢同、又五結、五擊二反、今案雄曰虹、雌曰蜺也、〉


虹 毛詩注に云はく、螮蝀〈帝董の二音、螮は亦、蝃に作る、和名は爾之にじ〉は虹なりといふ。兼名苑に云はく、虹、一名は蜺〈五稽反、鯢と同じ、又、五結、五撃二反、今案ふるに、雄を虹と曰ひ、雌を蜺と曰ふなり〉といふ。

雨 說文云、雨、〈音禹、阿女、〉水從雲中而下也、


雨 説文に云はく、雨〈音は禹、阿女あめ〉は水の雲中より下るなりといふ。

霡霂 兼名菀云、細雨一名霡霂、〈小雨也、麥木二音、〈已上本注󠄁、〉和名古佐女、〉


霡霂 兼名苑に云はく、細雨、一名は霡霂といふ〈小雨なり、麦木の二音〈已上は本注〉、和名は古佐女こさめ〉。

霖 兼名菀注󠄁云、霖、〈音林、和名奈加阿女、今案一名連雨、一名苦雨、〉三日以上雨也、爾雅注󠄁云、霖一名霪、〈音淫、〉久雨也、


霖 兼名苑注に云はく、霖〈音は林、和名は奈加阿女ながあめ。今案ふるに、一名は連雨、一名は苦雨〉は三日以上の雨なりといふ。爾雅注に云はく、霖、一名は霪〈音は淫〉、ひさしき雨なりといふ。

霈 文字集略云、霈、〈音沛、〉大雨也、日本紀私記云、大雨、〈比佐女、〉雨氷、〈上同、今案俗云比布留、〉


霈 文字集略に云はく、霈〈音は沛〉は大雨なりといふ。日本紀私記に云ふ大雨〈比佐女ひさめ〉、雨氷〈上に同じ、今案ふるに俗に云ふ比布留ひふる〉。

暴雨 楊氏漢語抄云、白雨、〈和名无良佐女、弁色立成說同、〉暴雨一種也、


暴雨 楊氏漢語抄に云はく、白雨〈和名は無良佐女むらさめ、弁色立成の説同じ〉は暴雨の一種なりといふ。

霤〈潦等附、〉 說文云、霤、〈音與溜同、和名阿末之太利、〉屋簷前󠄁雨水流下也、唐韻云、潦、〈音老、和名尒波太豆美、〉雨水也、淮南子注󠄁云、沫雨、〈和名宇太加太、〉雨潦上沫起󠄁若盆也、


霤〈潦等付〉 説文に云はく、霤〈音は溜と同じ、和名は阿末之太利あましだり〉は屋ののきの前の雨水流れ下るなりといふ。唐韻に云はく、潦〈音は老、和名は爾波太豆美にはたづみ〉は雨水なりといふ。淮南子注に云はく、沫雨〈和名は宇太加太うたかた〉は雨ふりて潦上に沫起ること、盆を覆すがごときなりといふ。

𩅧雨 孫愐曰、𩅧〈音與終同、漢語抄云、之久禮、〉小雨也、


𩅧雨 孫愐曰はく、𩅧〈音は終と同じ、漢語抄に云ふ之久礼しぐれ〉は小雨なりといふ。

霜〈𩅀附〉 陸詞曰、霜〈音蒼、和名之毛、〉凝露也、說文云、𩅀、〈丁念反、和名波豆之毛、〉早霜也、


霜〈𩅀付〉 陸詞曰はく、霜〈音は蒼、和名は之毛しも〉は凝る露なりといふ。説文に云はく、𩅀〈丁念反、和名は波豆之毛はつしも〉は早霜なりといふ。

雪󠄁󠄁 陸詞曰、雪󠄁󠄁、〈音切、字亦作䨮、和名由歧、日本紀私記云、沫雪󠄁阿和由歧、其弱󠄁如水沫、故云沫雪󠄁也、〉冬雨也、五經通󠄁義云、陽則散爲雨水、寒則凝爲霜雪󠄁、皆從地而昇者也、


雪 陸詞曰はく、雪〈音は切、字は亦、䨮に作る、和名は由岐ゆき、日本紀私記に云はく、沫雪は阿和由岐あわゆき、其の弱きこと水の沫のごとし、故に沫雪と云ふなりといふ〉は冬の雨なりといふ。五経通義に云はく、陽なるときには散じて雨水と為り、寒なるときには凝りて霜雪と為る、皆、地よりして昇る者なりといふ。

雹 陸詞曰、雹、〈蒲角反、和名阿良禮、〉雨氷也、


雹 陸詞曰はく、雹〈蒲角反、和名は阿良礼あられ〉は雨氷なりといふ。

霰 爾雅注󠄁云、霰、〈七見反、字𡖋作𩆵、和名美曾禮、〉氷雪󠄁󠄁雜下也、


霰 爾雅注に云はく、霰〈七見反、字は亦、𩆵に作る、和名は美曽礼みぞれ〉は氷雪のまじり下るなりといふ。

[霙 孫愐云、霙、〈音於驚反、文選󠄁雪󠄁賦、師說曰三曾禮、〉雨雪󠄁相雜也、]


[霙 孫愐云はく、霙〈音は於驚反、文選雪賦の師説に曰ふ三曽礼みぞれ〉は雨雪相雑るなりといふ。]

露〈甘露附〉 三禮義宗云、白露八月節、寒露九月節、〈露音路、和名都由、〉白虎通󠄁云、甘露美露也、降則物無美盛矣、


露〈甘露付〉 三礼義宗に云はく、白露は八月の節、寒露は九月の節といふ〈露の音は路、和名は都由つゆ〉。白虎通に云はく、甘露は美しき露なり、降るときには物、美盛ならざること無きなりといふ。



神靈類三


神霊類三

天神 周󠄀易云、天神曰神、〈食隣反、和名賀美、日本紀私記云、安末豆夜之呂、〉


天神 周易に云はく、天神を神〈食隣反、和名は賀美かみ、日本紀私記に云ふ安末豆夜之呂あまつやしろ〉と曰ふといふ。

地神 周󠄀易云、地神曰祗、〈巨支反、日本紀私記云、久邇豆夜之路、〉


地神 周易に云はく、地神を祗〈巨支反、日本紀私記に云ふ久邇豆夜之路くにつやしろ〉と曰ふといふ。

人神 周󠄀易云、人神曰鬼、〈居偉反、和名於邇、或說云、於邇者隱音之訛也、鬼物隱而不形、故以稱也、〉唐韻云、吳人曰鬼、越人曰𩴆、〈音蟣、又音祈、〉四聲字菀云、鬼人死神魂也、


人神 周易に云はく、人神を鬼〈居偉反、和名は於邇おに、或説に云はく、於邇おになる者は隠の音の訛りなり、鬼物は隠れて形を顕すを欲せず、故に以て称するなりといふ〉と曰ふといふ。唐韻に云はく、呉人は鬼と曰ひ、越人は𩴆〈音は蟣、又、音は祈〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、鬼は人の死にたる神魂なりといふ。

靈 四聲字菀云、靈、〈郎丁反、日本紀私記云美太万、一云美加介、又用魂魄二字、〉通󠄁神也、


霊 四声字苑に云はく、霊〈郎丁反、日本紀私記に云ふ美太万みたま、一に云ふ美加介みかげ、又、魂魄の二字を用ゐる〉は通神なりといふ。

天一神 百忌經云、天一神、〈和名奈加々美、〉天女化󠄁身也、


天一神 百忌経に云はく、天一神〈和名は奈加々美なかがみ〉は天女の化身なりといふ。

太白神 新撰陰陽書云、太白神、〈和名比度比米久利、〉


太白神 新撰陰陽書に云はく、太白神〈和名は比度比米久利ひとひめぐり〉といふ。

雷公〈霹靂電附〉 兼名苑云、雷公、一名雷師、〈雷音力回反、和名奈流加美、一云以加豆知、〉釋名云、霹靂、〈辟歷二音、和名加美渡計、〉霹析也、靂歷也、所󠄁歷皆破析也、玉篇云、電、〈音甸、和名以奈比加利、一云以奈豆流比、又云以奈豆末、〉雷之光也、


雷公〈霹靂電付〉 兼名苑に云はく、雷公、一名は雷師といふ〈雷の音は力回反、和名は奈流加美なるかみ、一に云ふ以加豆知いかづち〉。釈名に云はく、霹靂〈辟歴の二音、和名は加美渡計かみとけ〉の霹はくるなり、靂はるなり、歴る所、皆破り析くるなりといふ。玉篇に云はく、電〈音は甸、和名は以奈比加利いなびかり、一に云ふ以奈豆流比いなつるび、又云ふ以奈豆末いなづま〉は雷の光なりといふ。

山神 內典云、山神、〈和名山乃賀美、〉日本紀私記云、山祇、〈師說夜万都美、〉


山神 内典に云ふ山神〈和名はやま乃賀美のかみ〉、日本紀私記に云ふ山祇〈師説に夜万都美やまつみ〉。

海神 文選󠄁海賦云、海童於是宴語、〈海童即海神也、〉日本紀私記云海神、〈和名和多豆美、〉


海神 文選海賦に云はく、海童はここに宴語すといふ〈海童は即ち海神なり〉。日本紀私記に云ふ海神〈和名は和多豆美わたつみ〉。

河伯神 兼名菀云、河伯、一名水伯、〈河神也〈已上本注󠄁、〉和名加波乃加美、〉


河伯神 兼名苑に云はく、河伯、一名は水伯といふ〈河神なり〈已上は本注〉、和名は加波乃加美かはのかみ〉。

[旱魃 孫愐切韻云、魃、〈步末反、和名比天利乃加美、〉旱神也、]


[旱魃 孫愐切韻に云はく、魃〈歩末反、和名は比天利乃加美ひでりのかみ〉は旱神なり。]

土公 董仲舒書云、土公、[〈駑空二反、〉]春三月在竃、夏三月在門、秋三月在井、冬三月在庭、


土公 董仲舒書に云はく、土公[〈駑空二反〉]は、春つきは竈にり、夏三月は門に在り、秋三月は井に在り、冬三月は庭に在りといふ。

產靈 日本紀私記云、產靈、〈无湏比乃賀美、〉


産霊 日本紀私記に云ふ産霊〈無須比乃賀美むすひのかみ〉。

道祖 風俗通󠄁云、共工氏之子好遠󠄁遊󠄁、故其死後、祀以爲祖神、〈漢語抄云、道祖、佐部乃加美、〉


道祖 風俗通に云はく、共工氏の子、遠遊を好む、故に其の死後、まつりて以て祖神〈漢語抄に云ふ道祖、佐部乃加美さへのかみ〉と為すといふ。

歧神 日本紀私記云、歧神、〈布奈止乃加美、〉


岐神 日本紀私記に云ふ岐神〈布奈止乃加美ふなとのかみ〉。

道神 唐韻云、禓、〈音揚、一音傷、漢語抄云、太无介乃賀美、〉道上祭、一曰道神也、


道神 唐韻に云はく、禓〈音は揚、一音に傷、漢語抄に云ふ太無介乃賀美たむけのかみ〉は道上の祭、一に曰ふ道神なりといふ。

保食神 日本紀私記云、保食神、〈宇介毛知乃加美、〉師說、保猶保持也、宇氣者食之義也、言是保持食物之神也、


保食神 日本紀私記に云はく、保食神〈宇介毛知乃加美うけもちのかみ〉は、師説に保はほ保持するがごときなり、宇気うけは食の義なりといふ。言ふは是れ食物を保持するの神なればなり。

稻魂 日本紀私記云、稻魂、〈宇介乃美太万、俗云宇加乃美太万、〉


稲魂 日本紀私記に云ふ稲魂〈宇介乃美太万うけのみたま、俗に云ふ宇加乃美太万うかのみたま〉。

幸魂 日本紀私記云、幸魂、〈佐枳美太万、俗云佐歧太万、〉


幸魂 日本紀私記に云ふ幸魂〈佐枳美太万さきみたま、俗に云ふ佐岐太万さきたま〉。

現人神 日本紀私記云、現人神、〈阿良比度加美、〉


現人神 日本紀私記に云ふ現人神〈阿良比度加美あらひとがみ〉。

[餓鬼 孫愐切韻云、餓、〈五箇反、訓與飢同、〉久飢也、內典云、餓鬼、〈和名加歧、〉其喉如針、不水、見水則變成火、孫愐切韻云、餓鬼鬼也、]


[餓鬼 孫愐切韻に云はく、餓〈五箇反、訓は飢と同じ〉は久しく飢うるなりといふ。内典に云はく、餓鬼〈和名は加岐がき〉は其の喉、針のごとし、水を飲むこと得ず、水を見れば則ち変じて火と成るといふ。孫愐切韻に云はく、餓鬼は鬼なりといふ。]

邪鬼 日本紀私記云、邪鬼、〈安之歧毛能、〉


邪鬼 日本紀私記に云ふ邪鬼〈安之岐毛能あしきもの〉。

窮鬼 遊󠄁仙窟云窮鬼、〈師說伊歧須太萬、〉


窮鬼 遊仙窟に云ふ窮鬼〈師説に伊岐須太万いきすだま〉。

魔鬼 內典云、邪魔外道、〈魔音磨、此間音麻、〉


魔鬼 内典に云ふ邪魔外道〈魔の音は磨、此間に音は麻〉。

瘧鬼 蔡邕獨斷云、昔顓頊有三子、亡去而爲疫鬼、其一者居江水、是爲瘧鬼、〈和名衣夜美乃加美、〉


瘧鬼 蔡邕独断に云はく、昔、顓頊に三子有り、亡去して疫鬼とる、其の一なる者は江水に居り、是れを瘧鬼〈和名は衣夜美乃加美えやみのかみ〉とすといふ。

樹神 內典云、樹神、〈和名古多万、〉文選󠄁蕪城賦云、木魅山鬼、〈魅見下文、今案木魅即樹神也、〉


樹神 内典に云はく、樹神〈和名は古多万こだま〉といふ。文選蕪城賦に云ふ木魅山鬼〈魅は下文に見ゆ、今案ふるに木魅は即ち樹神なり〉。

水神 左傳注󠄁云、魍魎、〈罔兩二音、日本紀私記云、水神、美豆波、〉水神也、


水神 左伝注に云はく、魍魎〈罔両の二音、日本紀私記に云ふ水神、美豆波みつは〉は水神なりといふ。

魑魅 山海經云、魑、〈刃󠄁知反、和名須多万、〉鬼類也、唐韻云、魑魅也、玉篇云、魅〈音未、〉老物精也、


魑魅 山海経に云はく、魑〈刃知反、和名は須多万すだま〉は鬼類なりといふ。唐韻に云はく、魑は魅なりといふ。玉篇に云はく、魅〈音は未〉は老いたる物の精なりといふ。

醜女 日本紀私記云、醜女、〈志古女、〉或説、黃泉之鬼也、今世人爲小兒、稱許々女者、此語之訛也、


醜女 日本紀私記に云はく、醜女〈志古女しこめ〉、或説に黄泉の鬼なりといふ。今、世の人、小児をおそれさするに許々女こごめと称するは此の語のあやまりなり。

天探女 日本紀私記云、天探女、〈阿万乃佐久女、俗云阿万佐久女、〉


天探女 日本紀私記に云ふ天探女〈阿万乃佐久女あまのさぐめ、俗に云ふ阿万佐久女あまさぐめ〉。



水土類四


水土類四

水波 釋名云、風吹水、波成文曰漣、〈音連、和名奈美、又用波浪濤漪等字、〉波體轉相連及也、


水波 釈名に云はく、風、水を吹き、波、文を成すを漣〈音は連、和名は奈美なみ、又、波、浪、濤、漪等の字を用ゐる〉と曰ひ、波の体、転じてあひつらなりくなりといふ。

泊湘 唐韻云、泊湘、〈白柏二音、文選󠄁師說佐々良奈美、〉淺水貌也、


泊湘 唐韻に云はく、泊湘〈白柏の二音、文選の師説に佐々良奈美ささらなみ〉は浅き水のかたちなりといふ。

氷 四聲字苑云、氷、〈筆陵反、和名比、一云古保利、〉水寒凍結也、凍、〈音東、又去聲、〉寒水結氷也、


氷 四声字苑に云はく、氷〈筆凌反、和名は、一に云ふ古保利こほり〉は水寒く凍結したるなり、凍〈音は東、又、去声〉は、寒く、水の氷を結ぶなりといふ。

潮 四聲字苑云、潮、〈直遙反、字亦作淖、和名宇之保、〉海水朝夕來去波涌也、[周󠄀處風土記云、海神上朝於天、鰌鯨迎󠄁送󠄁海神、出入於穴、令水進󠄁退󠄁爲__潮、又抱朴子云、天河與地河、海水相搏擊、五水相盪、激涌而成潮、]


潮 四声字苑に云はく、潮〈直遥反、字は亦、淖に作る、和名は宇之保うしほ〉は海水、朝夕に来去し波涌くなりといふ。[周処風土記に云はく、海神上りて天に朝す、鰌鯨、海神を迎送し、穴より出入りすれば、水をして進退させ潮とさしむといふ。又、抱朴子に云はく、天河と地河と、海水とあひ搏撃し、五水相き、激しく涌きて潮と成るといふ。]

江 唐韻云、江、〈古雙反、和名衣、〉江海也、


江 唐韻に云はく、江〈古双反、和名は〉は江海なりといふ。

海 四聲字苑云、海、〈音改、和名宇美、〉百川所󠄁歸也、日本紀私記云、溟渤、〈冥勃二音、於保歧宇美、〉滄溟、〈滄音蒼、阿乎宇奈波良、〉


海 四声字苑に云はく、海〈音は改、和名は宇美うみ〉は百川の帰する所なりといふ。日本紀私記に云ふ溟渤〈冥勃の二音、於保岐宇美おほきうみ〉、滄溟〈滄の音は蒼、阿乎宇奈波良あをうなはら〉。

湖 廣雅云、湖、〈音胡、和名美豆宇美、〉大池也、


湖 広雅に云はく、湖〈音は胡、和名は美豆宇美みづうみ〉は大なる池なりといふ。

池〈楲附〉 玉篇云、池、〈直離反、和名伊介、〉蓄水也、淮南子云、决塘𤼲楲、〈音威、和名以飛、〉許愼曰、楲所󠄁以通󠄁陂竇也、


池〈楲付〉 玉篇に云はく、池〈直離反、和名は伊介いけ〉は水を蓄ふるなりといふ。淮南子に云はく、つつみを决し楲〈音は威、和名は以飛いひ〉を発すといふ。許慎曰はく、楲は陂竇を通ずる所以なりといふ。

沼 唐韻云、沼、〈之少反、和名奴、〉池沼也、


沼 唐韻に云はく、沼〈之少反、和名は〉は池沼なりといふ。

陂堤 禮記注󠄁云、蓄水曰陂、〈音碑、和名都々美、下同、〉纂要云、築土遏水曰塘、〈音唐、〉亦謂之堤、〈音低、字亦作隄、〉


陂堤 礼記注に云はく、水を蓄ふるを陂〈音は碑、和名は都々美つつみ、下同じ〉と曰ふといふ。纂要に云はく、土をき水をむるを塘〈音は唐〉と曰ひ、亦、之れを堤〈音は低、字は亦、隄に作る〉と謂ふといふ。

堰埭 唐韻云、堰、〈音*原本堰、和名井勢歧、〉堰埭壅水也、埭、〈徒耐反、與代同、〉以土遏水也、


堰埭 唐韻に云はく、堰〈音は偃、和名は井勢岐ゐせき〉は堰埭、水をふさぐなり、埭〈徒耐反、代と同じ〉は土を以て水を遏むるなりといふ。

川 爾雅云、衆流注󠄁海曰川、〈昌緣反、和名加波、又用河字、〉


川 爾雅に云はく、衆流の海に注ぐを川〈昌縁反、和名は加波かは、又、河の字を用ゐる〉と曰ふといふ。

潭 唐韻云、潭、〈徒含反、和名布知、又用淵字、〉深水也、


潭 唐韻に云はく、潭〈徒含反、和名は布知ふち、又、淵の字を用ゐる〉は深き水なりといふ。

瀨 唐韻云、湍、〈他端反、一音専、和名世、〉急瀨也、說文云、瀨、〈音賴、〉水流於砂上也、


瀬 唐韻に云はく、湍〈他端反、一音に専、和名は〉は急なる瀬なりといふ。説文に云はく、瀬〈音は頼〉は水、砂上に流るるなりといふ。

瀧 唐韻云、南人名湍曰瀧、〈呂江反、和名多歧、〉兼名苑云、飛泉、一名飛湍、〈曝布也、〉遊󠄁名山志云、城門山、兩巖間有水、形如曝布


瀧 唐韻に云はく、南人、湍を名けて瀧〈呂江反、和名は多岐たぎ〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、飛泉、一名は飛湍といふ〈曝布なり〉。遊名山志に云はく、城門山は両巌の間に水有り、形は曝布のごとしといふ。

温泉〈流黃附〉 宜都山川記云、佷山縣有温泉、〈一云湯泉、和名由、〉百疾久病、入此水多愈矣、本草疏云、石流黃、〈和名由乃阿和、俗云由王、〉礬石液也、又有石流丹、蓋石流黃類也、


温泉〈流黄付〉 宜都山川記に云はく、佷山県に温泉〈一に云ふ湯泉、和名は〉有り、百疾久病、此の水に入れば多くえたりといふ。本草疏に云はく、石流黄〈和名は由乃阿和ゆのあわ、俗に云ふわう〉は礬石のしるなり、又、石流丹有り、蓋し石流黄の類ならんといふ。

[淀 文選󠄁江賦注󠄁云、澱、〈當練反、訓與止美、俗用淀字、云與止、所󠄁謂淀渡也、〉與淀古字通󠄁、如淵而淺處也、]


[淀 文選江賦注に云はく、澱〈当練反、訓は与止美よどみ、俗に淀の字を用ゐ与止よどと云ふ、所謂いはゆ淀渡よどのわたりなり〉は淀と古字通じ、淵のごとくして浅き処なりといふ。]

井〈桔槹附〉 四聲字苑云、井、〈子郢反、和名爲、〉鑿地取泉也、辨色立成云、桔槹、〈加奈都奈爲、吉高二音、〉䥫索井也、


井〈桔槹付〉 四声字苑に云はく、井〈子郢反、和名は〉は地をり泉を取るなりといふ。弁色立成に云ふ桔槹〈加奈都奈為かなづなゐ、吉高の二音〉、鉄索井なり。

妙美井 日本紀私記云、妙美井〈之三豆、〉


妙美井 日本紀私記に云ふ妙美井〈之三豆しみづ〉。

溝 釋名云、田間之水曰溝、〈古侯反、和名美曾、又用渠字、〉縱橫相交構也、


溝 釈名に云はく、田の間の水を溝〈古侯反、和名は美曽みぞ、又、渠の字を用ゐる〉と曰ふ、縦横に相まじり構ふるなりといふ。

壍 四聲字苑云、壍、〈七贍反、和名保利歧、〉遶城長水坑也、


壍 四声字苑に云はく、壍〈七贍反、和名は保利岐ほりき〉は城にめぐる長き水坑なりといふ。

谿谷〈澗附〉 爾雅注󠄁云、水出山入川曰谿、〈古奚反、字亦作溪、和名太爾、下同、〉水與谿相屬曰谷、〈音穀、一音欲、見唐韵、〉野王案、壑、〈呼各反、〉猶谿谷也、釋名云、澗、〈古晏反、〉言在兩山間也、


谿谷〈澗付〉 爾雅注に云はく、水、山を出で川に入るを谿〈古奚反、字は亦、溪に作る、和名は太邇たに、下同じ〉と曰ひ、水の谿と相くを谷〈音は穀、一音に欲、唐韻に見ゆ〉と曰ふといふ。野王案ずるに、壑〈呼各反〉は猶ほ谿谷のごときなりとす。釈名に云はく、澗〈古晏反〉、言ふは両山の間に在ればなりといふ。

涯岸 爾雅集註云、水邊曰涯、〈五佳反、和名歧之、下同、〉涯陗而高曰岸、


涯岸 爾雅集注に云はく、水辺を涯〈五佳反、和名は岐之きし、下同じ〉と曰ひ、涯のけはしくして高きを岸と曰ふといふ。

浦 四聲字苑云、浦、〈傍古反、和名宇良、〉大川旁曲渚、船隱風所󠄁也、


浦 四声字苑に云はく、浦〈傍古反、和名は宇良うら〉は大川のかたはらの曲渚にして、船の風をくる所なりといふ。

渚 韓詩注󠄁云、一溢一否曰渚、〈昌與反、和名奈歧佐、〉


渚 韓詩注に云はく、一たびは溢れ一たびはしからざるを渚〈昌与反、和名は奈岐佐なぎさ〉と曰ふといふ。

濵 唐韻云、濵、〈音賓、和名波万、〉水際也、


浜 唐韻に云はく、浜〈音は賓、和名は波万はま〉は水際なりといふ。

洲 爾雅云、水中可居者曰洲、〈音州、和名湏、〉李巡󠄁曰、四方皆有水也、


洲 爾雅に云はく、水中に居すべき者を洲〈音は州、和名は〉と曰ふといふ。李巡曰はく、四方、皆水有るなりといふ。

汀 唐韵云、汀、〈他丁反、和名美歧波、〉水際平󠄁沙也、


汀 唐韻に云はく、汀〈他丁反、和名は美岐波みぎは〉は水際の平沙なりといふ。

潟 文選󠄁海賦云、海濱廣潟、〈思積反、與昔同、師說加太、〉


潟 文選海賦に云はく、海浜広潟〈思積反、昔と同じ、師説に加太かた〉といふ。

湊 說文云、湊、〈音奏、和名美奈度、〉水上人所󠄁會也、


湊 説文に云はく、湊〈音は奏、和名は美奈度みなと〉は、水上に人の会する所なりといふ。

土塊 說文云、塊、〈音會、和名豆知久禮、〉土片也、


土塊 説文に云はく、塊〈音は会、和名は豆知久礼つちくれ〉は土片なりといふ。

埴 釋名云、土黃而細密曰埴、〈常職反、和名波爾、〉


埴 釈名に云はく、土の黄にして細密なるを埴〈常職反、和名は波爾はに〉と曰ふといふ。

堊 唐韻云、堊、〈音惡、和名之良豆知、〉白土也、


堊 唐韻に云はく、堊〈音は悪、和名は之良豆知しらつち〉は白き土なりといふ。

壚 釋名云、土色黑曰壚〈音盧、和名久路豆知、〉


壚 釈名に云はく、土の色の黒きを壚〈音は盧、和名は久路豆知くろつち〉と曰ふといふ。

涅 唐韵云、涅、〈奴結反、和名久理、〉水中黑土也、


涅 唐韻に云はく、涅〈奴結反、和名は久理くり〉は水中の黒き土なりといふ。

泥 孫愐曰、泥、〈奴低反、和名比知利古、一云古比知、〉土和水也、


泥 孫愐曰はく、泥〈奴低反、和名は比知利古ひぢりこ、一に云ふ古比知こひぢ〉は土、水に和するなりといふ。

塵埃 兼名菀云、塳〓〔土偏に思〕、〈逢思二音、〉塵埃也、孫愐曰、塵埃、〈陳哀二音、和名知利、〉揚土也、


塵埃 兼名苑に云はく、塳〓〔土偏に思〕〈逢思の二音〉は塵埃なりといふ。孫愐曰はく、塵埃〈陳哀の二音、和名は知利ちり〉は土を揚ぐるなりといふ。

糞堆 辨色立成云、糞堆、〈阿久太布、上付問反、下都回反、〉


糞堆 弁色立成に云ふ糞堆〈阿久太布あくたふ、上は付問反、下は都回反〉。



山石類五


山石類五

山嶽 蔣魴曰、嶽、〈五角反、字亦作岳、訓與丘同、未詳、漢語抄云、美多介、〉高山名也、


山嶽 蒋魴曰はく、嶽〈五角反、字は亦、岳に作る、訓は丘と同じこと未だつばひらかならず、漢語抄に云ふ美多介みたけ〉は高き山の名なりといふ。

丘 周󠄀禮注󠄁云、土高曰丘、〈音鳩、和名乎加、又用岡字、正作崗、〉


丘 周礼注に云はく、土高きを丘〈音は鳩、和名は乎加をか、又、岡の字を用ゐる、正しくは崗に作る〉と曰ふといふ。

峯 祝尙丘曰、峯、〈敷容反、和名美禰、又用岑嶺二字、岑音尋󠄁、嶺音領、〉山尖高處也、


峯 祝尚丘曰はく、峯〈敷容反、和名は美禰みね、又、岑嶺の二字を用ゐる、岑の音は尋、嶺の音は領〉は、山の尖り高き処なりといふ。

巓 孫愐曰、巓、〈都年反、和名伊太々歧、〉山頂也、


巓 孫愐曰はく、巓〈都年反、和名は伊太々岐いただき〉は山頂なりといふ。

峽 考聲切韻云、峽、〈咸夾反、俗云山乃加比、〉山間陜處也、


峡 考声切韻に云はく、峡〈咸夾反、俗に云ふやま乃加比のかひ〉は山間のせばき処なりといふ。

岫 陸詞曰、岫、〈似祐反、和名久歧、〉山穴似袖也、


岫 陸詞曰はく、岫〈似祐反、和名は久岐くき〉は山の穴の袖に似るなりといふ。

洞 說文曰、洞、〈徒貢反、和名保良、〉深𨗉之貌也、


洞 説文に曰はく、洞〈徒貢反、和名は保良ほら〉は深𨗉のかたちなりといふ。

坂嶝 唐韵云、坂、〈音反、和名佐加、〉地險也、嶝、〈都鄧反、〉小坂也、


坂嶝 唐韻に云はく、坂〈音は反、和名は佐加さか〉は地のけはしきなり、嶝〈都鄧反〉は小さき坂なりといふ。

麓 說文云、麓、〈音祿、和名布毛度、〉山足也、


麓 説文に云はく、麓〈音は禄、和名は布毛度ふもと〉は山の足なりといふ。

嶋嶼 說文云、嶋、〈都皓反、一音鳥、和名之万、〉海中山可依止也、唐韵云、嶼、〈徐呂反、上聲之重、與序同、和名上同、〉海中洲也、


嶋嶼 説文に云はく、嶋〈都皓反、一音に鳥、和名は之万しま〉は海中の山、依りて止るべきなりといふ。唐韻に云はく、嶼〈徐呂反、上声の重、序と同じ、和名は上に同じ〉は海中の洲なりといふ。

岬 唐韵云岬、〈古狎反、日本紀私記云、三佐木、〉山側也、


岬 唐韻に云はく、岬〈古狎反、日本紀私記に云ふ三佐木みさき〉は山のかたはらなりといふ。

杣 功程式云、甲賀杣、田上杣、〈杣讀曾万、所󠄁出未詳、但功程式者、修理𥫫師山田福吉等、弘仁十四年所󠄁撰上也、〉


杣 功程式くぢやうしきに云はく、甲賀杣、田上杣といふ〈杣の読みは曽万そま、出づる所未だ詳かならず、但し功程式は、修理𥫫師山田福吉等、弘仁十四年に撰したてまつる所なりとす〉。

巖 唐韵云、巖、〈五銜反、字亦作礹、和名伊波保、〉峯也、險也、


巌 唐韻に云はく、巌〈五銜反、字は亦、礹に作る、和名は伊波保いはほ〉は峯なり、険なりといふ。

磐 陸詞曰、磐、〈音盤、和名以波、〉大石也、日本紀私記云、千人所󠄁引磐石、〈知比歧乃以之、〉


磐 陸詞曰はく、磐〈音は盤、和名は以波いは〉は大石なりといふ。日本紀私記に云はく、千人引く所の磐石〈知比岐乃以之ちびきのいし〉といふ。

石〈鍾乳附〉 陸詞曰、石、〈常尺反、和名以之、〉凝土也、新抄本草云、石鍾乳、〈出備中國英賀郡、和名以之乃知、〉


石〈鍾乳付〉 陸詞曰はく、石〈常尺反、和名は以之いし〉は凝る土なりといふ。新抄本草に云はく、石鍾乳〈備中国英賀郡より出づ、和名は以之乃知いしのち〉といふ。

消󠄁石〈朴消󠄁附〉 丹口决云、消󠄁石一名芒消󠄁、藥决云、朴消󠄁一名消󠄁石朴、〈今案消󠄁石朴消󠄁是一物也、要方云朴消󠄁者芒消󠄁之大者也、消󠄁石者芒消󠄁之根盤者、練之成芒消󠄁、是也、〉


消石〈朴消付〉 丹口决に云はく、消石、一名は芒消といふ。薬决に云はく、朴消、一名は消石朴といふ〈今案ふるに消石、朴消は是れ一物なり、要方に云はく、朴消は芒消の大なる者なり、消石は芒消の根盤なる者、之れを練りて芒消と成すといふは是れなり〉。

礜石 唐韵云、礜、〈音譽、本草云、一名澤乳、〉礜石、藥名也、蠶食之肥、鼠食之死、〈今案又有特生礜石、見吳氏本草、〉


礜石 唐韻に云はく、礜〈音は誉、本草に云ふ一名は沢乳〉は礜石、薬の名なり、蚕は之れを食ひて肥え、鼠は之れを食ひて死ぬ〈今案ふるに、又、特生礜石有り、呉氏本草に見ゆ〉。

礬石 蘇敬曰、礬石、〈礬音繁、此間云、悶尺、〉有靑礬白礬黑礬絳礬黃礬五種矣、


礬石 蘇敬曰はく、礬石〈礬の音は繁、此間に云ふもんじやく〉に青礬、白礬、黒礬、絳礬、黄礬の五種有るなりといふ。

〓〔氵+⻣〕石 本草云、〓〔氵+⻣〕石、一名脆石、〈蘇敬曰、極軟滑、故以名之、〉


滑石 本草に云はく、滑石、一名は脆石といふ〈蘇敬曰はく、極めて軟滑なり、故に以て之れをなづくといふ〉。

陽起󠄁石 本草云、陽起󠄁石、一名羊起󠄁石、


陽起石 本草に云はく、陽起石、一名は羊起石といふ。

凝水石 本草云、凝水石、一名寒水石、此石末置水中、夏月能爲氷、或云、縱理爲寒水、橫理爲凝水


凝水石 本草に云はく、凝水石、一名は寒水石、此の石の末を水中に置けば、夏月に能く氷をすといふ。或は云はく、縦理を寒水と為し、横理を凝水と為すといふ。

慈石 本草云、慈石吸針、〈慈石、此間云、之虵久、慈正從石作礠、見唐韵、〉


慈石 本草に云はく、慈石は針を吸ふといふ〈慈石は此間に云ふじや、慈は正しくは石に従ひ礠に作る、唐韻に見ゆ〉。

玄石 本草云、玄石、一名玄水石、〈今案慈石、又有玄石之名、〉


玄石 本草に云はく、玄石、一名は玄水石といふ〈今案ふるに慈石、又、玄石の名有り〉。

理石 本草云、理石、一名立制石、〈今案礜石又有立制之名、〉


理石 本草に云はく、理石、一名は立制石といふ〈今案ふるに礜石、又、立制の名有り〉。

長石 本草云、長石、一名方石、


長石 本草に云はく、長石、一名は方石といふ。

桃花石 本草云、桃花石、〈此間音道卦尺、〉色如桃花、故以名之、


桃花石 本草に云はく、桃花石〈此間に音は道卦尺だうけしやく〉は、色、桃花のごとし、故に以て之れを名くといふ。

方解石 本草云、方解石、一名黃石、


方解石 本草に云はく、方解石、一名は黄石といふ。

[温石 方言要目云、温石、〈今案本文未詳、但俗用之、温音如運、〉成爲温器者也、]


[温石 方言要目に云はく、温石〈今案ふるに本文は未だ詳かならず、但し俗に之れを用ゐる、温の音は運のごとし〉は成して温器と為す者なりといふ。]

浮󠄁石 交州記云、浮󠄁石、體虛而輕、〈和名加留以之、〉


浮石 交州記に云はく、浮石は、体、虚にして軽しといふ〈和名は加留以之かるいし〉。

細石 說文云、礫、〈音歷、和名佐々禮以之、〉水中細石也、


細石 説文に云はく、礫〈音は歴、和名は佐々礼以之さざれいし〉は水中の細石なりといふ。

砂〈纎砂附〉 聲類云、砂、〈所󠄁加反、和名以佐古、一云湏奈古、〉水中細礫也、日本紀私記云、纎砂、〈万奈古、纎、細也、〉


砂〈纎砂付〉 声類に云はく、砂〈所加反、和名は以佐古いさご、一に云ふ須奈古すなご〉は水中の細礫なりといふ。日本紀私記に云ふ纎砂〈万奈古まなご、纎は細なり〉。



田野類六


田野類六

田 釋名云、土已耕󠄁者爲田、〈徒年反、和名太、漢語抄云、水田、古奈太、〉田、塡也、五糓塡滿其中也、


田 釈名に云はく、土、已に耕せる者を田〈徒年反、和名は、漢語抄に云ふ水田、古奈太こなた〉と為す、田は填なり、五穀は其の中に填満すればなりといふ。。

佃 唐韻云、佃、〈音與田同、和名豆久利太、〉作田也、


佃 唐韻に云はく、佃〈音は田と同じ、和名は豆久利太つくりた〉は作田なりといふ。

火田 唐韵云、疁、〈力求反、漢語抄云、火田、夜歧波太、今案野老傳云、橫截山作畠、謂之截幡、其田先燒後耕󠄁、謂之燒幡、既謂田疇何不耕󠄁作、漢語抄之說、唐韵之義、頗爲相違耳、〉田不耕󠄁而火種也、


火田 唐韻に云はく、疁〈力求反、漢語抄に云ふ火田、夜岐波太やきはた、今案ふるに、野老伝に云はく、横に山を截り畠を作るは之れを截幡と謂ひ、其の田、先に焼き後に耕すは之れを焼幡と謂ふといふ。既に田疇と謂ひて何ぞ耕作せざらん、漢語抄の説、唐韻の義、すこぶる相違しるのみ〉田は耕さずして火をうるなりといふ。

白田 續捜神記云、江南之白田種豆、〈白田、一曰陸田、和名波太介、或以白田二字一字者訛也、日本紀云、陸田種子、波多介豆毛乃、今案延喜內膳式、營瓜一段、種子四合五勺、位三百六十、糞人壅人、師云、位訓久良比、糞訓古江、壅訓豆知加布、〉


白田 続捜神記に云はく、江南の白田に豆を種うといふ〈白田は一に曰ふ陸田、和名は波太介はたけ、或に白田の二字を以て一字に作るはあやまりなり。日本紀に云ふ陸田種子、波多介豆毛乃はたけつもの。今案ふるに、延喜内膳式に、瓜をつくる一段につき種子四合五勺、位三百六十、糞人、壅人とあり、師云はく、位の訓は久良比くらゐ、糞の訓は古江こえ、壅の訓は豆知加布つちかふ〉。

[𤳉 玉篇云、𤳉、〈呼但反、〉耕󠄁麥地也、唐韻云、𤳉、耕󠄁田壠、〈日本紀師說八太介、〉]


[𤳉 玉篇に云はく、𤳉〈呼但反〉は麦を耕す地なりといふ。唐韻に云はく、𤳉は田を耕す壠といふ〈日本紀師說に八太介はたけ〉。]

粟田 日本紀私記云、粟田、〈阿波布、〉


粟田 日本紀私記に云ふ粟田〈阿波布あはふ〉。

豆田 日本紀私記云、豆田、〈末女布、〉


豆田 日本紀私記に云ふ豆田〈末女布まめふ〉。

町 蒼頡篇云、町、〈他丁反、和名末知、〉田區也、


町 蒼頡篇に云はく、町〈他丁反、和名は末知まち〉は田の区なりといふ。

畔󠄁 陸詞曰、畔󠄁、〈音半󠄁、和名久路、一云阿、〉田界也、唐韵云、塍、〈食陵反、字亦作塖、和名上同、〉稻田畦也、畦、〈音携、〉菜畔也、


畔 陸詞曰はく、畔〈音は半、和名は久路くろ、一に云ふ〉は田の界なりといふ。唐韻に云はく、塍〈食陵反、字は亦、塖に作る、和名は上に同じ〉は稲田の畦なり、畦〈音は携〉は菜の畔なりといふ。

畒 陸詞曰、畒、〈音牡、和名宇禰、〉田數也、唐令云、諸田、廣一步長二百卌步爲畒、畒百爲頃、〈去頴反、今案頃者、今之法六町六段二百四十步也、〉


畝 陸詞曰はく、畝〈音は牡、和名は宇禰うね〉は田の数なりといふ。唐令に云はく、諸田、広さ一歩、長さ二百四十歩を畝と為し、畝百を頃〈去頴反、今案ふるに、頃は今の法の六町六段二百四十歩なり〉と為すといふ。

畷 四聲字苑云、畷〈昌雪󠄁反、漢語抄云、奈波天、〉田間道也、


畷 四声字苑に云はく、畷〈昌雪反、漢語抄に云ふ奈波天なはて〉は田の間の道なりといふ。

培塿 風俗通󠄁云、培塿、〈上音部、下力㺃反、漢語抄云、豆无禮、〉田中小高者也、


培塿 風俗通に云はく、培塿〈上の音は部、下は力㺃反、漢語抄に云ふ豆無礼つむれ〉は田中の小高き者なりといふ。

畎 陸詞曰、畎、〈音犬、和名太三曾、〉田中渠也、


畎 陸詞曰はく、畎〈音は犬、和名は太三曽たみぞ〉は田中の渠なりといふ。

園圃 四聲字苑云、園圃、〈猨浦二音、和名曾乃、一云曾乃布、〉所󠄁以種蔬菜也、


園圃 四声字苑に云はく、園圃〈猨浦の二音、和名は曽乃その、一に云ふ曽乃布そのふ〉は蔬菜をうる所以なりといふ。

苑囿 周󠄀禮注󠄁云、囿今之苑、〈苑囿二音遠󠄁宥、囿又音育、和名上同、〉所󠄁以城養禽獸也、


苑囿 周礼注に云はく、囿は今の苑〈苑囿の二音は遠宥、囿は又、音は育、和名は上に同じ〉、禽獣を城養する所以なりといふ。

野〈曠野附〉 四聲字苑云、野、〈以者反、字亦作墅、和名能、〉郊牧外地也、日本紀私記云曠野、〈阿良乃良、〉


野〈曠野付〉 四声字苑に云はく、野〈以者反、字は亦、墅に作る、和名は〉は郊牧の外の地なりといふ。日本紀私記に云ふ曠野〈阿良乃良あらのら〉。

林 說文云、平󠄁地有藂木林、〈力尋󠄁反、和名波夜之、〉


林 説文に云はく、平地に藂木有るを林〈力尋反、和名は波夜之はやし〉と曰ふといふ。

藪 呂氏春秋云、澤無水曰藪、〈蘇后反、和名夜布、〉


薮 呂氏春秋に云はく、沢に水無きを薮〈蘇后反、和名は夜布やぶ〉と曰ふといふ。

澤 風土記云、水草交曰澤、〈音宅、和名佐波、〉


沢 風土記に云はく、水、草、まじはるを沢〈音は宅、和名は佐波さは〉と曰ふといふ。

原 毛詩注󠄁云、高平󠄁曰原、〈音源、和名波良、〉


原 毛詩注に云はく、高平なるを原〈音は源、和名は波良はら〉と曰ふといふ。

塞 野王案塞、〈先代反、和名曾古、〉險要之處、所󠄁以隔內外也、


塞 野王案ずるに、塞〈先代反、和名は曽古そこ〉は険要の処、内外をへだつる所以なりとす。

牧 尙書云、萊夷爲牧、〈音目、和名无万歧、〉孔安國曰、萊夷地名、可以放牧


牧 尚書に云はく、莱夷を牧〈音は目、和名は無万岐むまき〉と為すといふ。孔安国曰はく、莱夷は地の名、以て放ちふべしといふ。
人倫部第二

人倫部第二

 男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 婚姻類十一 夫妻類十二


 男女類七 父母類八 兄弟類九 子孫類十 婚姻類十一 夫妻類十二



男女類七


男女類七

人 白虎通󠄁云、人者男女之總名也、


人 白虎通に云はく、人は男女の総名なりといふ。

男子 說文云、男、〈音南、和名乎能古、〉丈夫也、白虎通󠄁云、男謂之士、〈音四、〉孝經注󠄁云、子者男子之通󠄁稱也、


男子 説文に云はく、男〈音は南、和名は乎能古をのこ〉は丈夫なりといふ。白虎通に云はく、男は之れを士〈音は四〉と謂ふといふ。孝経注に云はく、子は男子の通称なりといふ。

丈夫 公羊傳注󠄁云、丈夫、〈上直兩反、下音扶、萬葉集云、末湏良乎、日本紀私記男子、讀上同、〉大人之稱也、


丈夫 公羊伝注に云はく、丈夫〈上は直両反、下の音は扶、万葉集に云ふ末須良乎ますらを、日本紀私記の男子、読みは上に同じ〉は大人の称なりといふ。

壮士 日本紀私記云、壯士、〈太計歧比都、〉


壮士 日本紀私記に云はく、壮士〈太計岐比都たけきひと〉といふ。

婦󠄁人 日本紀私記云、手弱󠄁女人、〈太乎夜女、〉婦󠄁人、〈上同、〉


婦人 日本紀私記に云はく、手弱女人〈多乎夜女たをやめ〉、婦人〈上に同じ〉といふ。

娘 說文云、娘、〈女良反、和名无須女、〉少女之稱也、


娘 説文に云はく、娘〈女良反、和名は無須女むすめ〉は少女の称なりといふ。

少女 日本紀私記云、少女、〈乎度米、〉童女、〈上同、〉


少女 日本紀私記に云はく、少女〈乎度米をとめ〉、童女〈上に同じ〉といふ。

姬 文字集略云、姬、〈音基、和名比女、〉衆妾之稱也、


姫 文字集略に云はく、姫〈音は基、和名は比女ひめ〉は衆妾の称なりといふ。

半󠄁月 內典云、五種不男、其五曰半󠄁月、〈俗訛云波邇和利、或說云、一月卅日、其十五日爲男、十五日爲女之義也、〉


半月 内典に云はく、五種の不男あり、其の五を半月〈俗になまりて云ふ波邇和利はにわり、或説に云ふ、一月三十日、其の十五日は男り、十五日は女為るの義なり〉と曰ふといふ。

赤子 老子經云、赤子不物、〈赤子、和名知古、今案含乳之義也、〉


赤子 老子経に云はく、赤子は物をそこなはずといふ〈赤子、和名は知古ちご、今案ふるに乳を含むの義なり〉。

嬰兒 唐韻云、孩、〈戶來反、弁色立成云、嬰兒、美都利古、〉始生小兒也、[蒼頡篇云、女曰嬰、]〈於盈反、知古、〉[男曰兒、]〈汝移反、〉顔氏家訓云、嬰孩、〈師說、阿歧度布、〉


嬰児 唐韻に云はく、孩〈戸来反、弁色立成に云ふ嬰児、美都利古みどりこ〉は始めて生るる小児なりといふ。[蒼頡篇に云はく、女を嬰]〈於盈反、知古ちご〉[と曰ひ]、[男を児]〈汝移反〉[と曰ふといふ]。顔氏家訓に云ふ嬰孩〈師説に阿岐度布あぎとふ〉。

童〈侲子附〉 禮記注󠄁云、童、〈徒紅反、和名和良波、〉未冠之稱也、文選󠄁東京賦注󠄁云、侲子、〈侲音之忍󠄁反、師說和良波閇、〉童男童女也、


童〈侲子付〉 礼記注に云はく、童〈徒紅反、和名は和良波わらは〉は未だ冠せざるの称なりといふ。文選東京賦注に云はく、侲子〈侲の音は之忍反、師説に和良波閉わらはべ〉は童男、童女なりといふ。

髫髮 後漢書注󠄁云、髫髮、〈上音迢、字亦作〓〔髟冠に𠮦〕、和名宇奈井、俗用垂髮二字、〉謂童子垂__髮也、


髫髪 後漢書注に云はく、髫髪〈上の音は迢、字は亦、〓〔髟冠に𠮦〕に作る、和名は宇奈井うなゐ、俗に垂髪の二字を用ゐる〉は童子の髪を垂るるを謂ふなりといふ。

總角 毛詩注󠄁云、總角、〈弁色立成云、阿介萬歧、〉結髮也、


総角 毛詩注に云はく、総角〈弁色立成に云ふ阿介万岐あげまき〉は結髪なりといふ。

鱞夫 釋名云、無妻曰鱞、〈古頑反、和名也毛乎、〉[言鱞々然不寐如魚目、恒不閉者也、]


鱞夫 釈名に云はく、妻無きを鱞〈古頑反、和名は也毛乎やもを〉と曰ふといふ。[言ふは鱞々然として寐ねざること魚の目のごとく、恒に閉ぢざる者なればなり。]

寡婦󠄁 釋名云、無夫曰寡、〈和名夜毛女、〉玉篋云、寡婦󠄁或曰孀妻、或曰𡠉婦󠄁、〈孀音霜、𡠉音狸、〉


寡婦 釈名に云はく、夫無きを寡〈和名は夜毛女やもめ〉と曰ふといふ。玉篋に云はく、寡婦は或は孀妻と曰ひ、或は𡠉婦と曰ふといふ〈孀の音は霜、𡠉の音は狸〉。

孤子 四聲字苑云、孤、〈古胡反、美奈之古、〉少無父母也、


孤子 四声字苑に云はく、孤〈古胡反、美奈之古みなしご〉はをさなくして父母無きなりといふ。

叟 唐韵云、叟、〈蘇后反、上聲、和名於歧奈、又用翁字、〉老人稱也、日本紀私記云、老公、〈和名上同、〉耆宿、〈布流於歧奈、〉[孫愐切韻云、翁、〈烏紅反、〉老人也、遊󠄁仙窟云古老、〈和名於岐奈比止、今案古老、又一云老舊、〉]


叟 唐韻に云はく、叟〈蘇后反、上声、和名は於岐奈おきな、又、翁の字を用ゐる〉は老人の称なりといふ。日本紀私記に云ふ老公〈和名は上に同じ〉、耆宿〈布流於岐奈ふるおきな〉。[孫愐切韻に云はく、翁〈烏紅反〉は老人なりといふ。遊仙窟に云ふ古老〈和名は於岐奈比止おきなびと、今案ふるに古老は又、一に云ふ老旧〉。]

嫗 說文云、嫗、〈於屢反、和名於無奈、〉老女稱也、


嫗 説文に云はく、嫗〈於屢反、和名は於無奈おむな〉は老女の称なりといふ。

𧴥 劉向列女傳云、古語謂老母𧴥、〈今案和名度之、俗用刀自二字者訛也、〉


負 劉向列女伝に云はく、古語に老母を謂ひて負〈今案ふるに和名は度之とじ、俗に刀自の二字を用ゐるはあやまりなり〉と為すといふ。

専 日本紀私記云、専領、〈多宇女乎佐女、今案俗呼老女専、故繼於𧴥耳、〉


専 日本紀私記に云はく、専領〈多宇女乎佐女たうめをさめ、今案ふるに、俗に老女を呼びて専と為す、故に負に継ぐのみ〉といふ。

孕婦󠄁 尙書云、孕婦󠄁、〈孕音用、和名波良女、〉


孕婦 尚書に云はく、孕婦といふ〈孕の音は用、和名は波良女はらめ〉。

產婦󠄁 食療經云、產婦󠄁不梨子、〈產婦󠄁、和名宇布女、〉


産婦 食療経に云はく、産婦は梨子なしのみを食ふべからずといふ〈産婦の和名は宇布女うぶめ〉。

乳母 文字集略云、嬭、〈乃禮反、字亦作妳、弁色立成云、嬭母、知於毛、〉乳人母也、唐式云、皇子乳母、皇孫乳母、〈和名女乃度、[日本紀師說、女乃於止、言、妻妹也、事見彼書、]〉


乳母 文字集略に云はく、嬭〈乃礼反、字は亦、妳に作る、弁色立成に云ふ嬭母、知於毛ちおも〉は人に乳する母なりといふ。唐式に云はく、皇子の乳母、皇孫の乳母といふ〈和名は女乃度めのと[、日本紀師説に女乃於止めのおと、言ふは妻の妹なればなり、事は彼書に見ゆ]〉。

君 文字集略云、君、〈音軍、和名歧美、〉在上之稱也、


君 文字集略に云はく、君〈音は軍、和名は岐美きみ〉はかみに在るの称なりといふ。

臣僕 文字集略云、臣、〈音辰、日本紀私記云、夜都加禮、〉在下之稱也、唐韻云、僕、〈蒲木反、和名上同、〉侍從人也、


臣僕 文字集略に云はく、臣〈音は辰、日本紀私記に云ふ夜都加礼やつかれ〉はしもに在るの称なりといふ。唐韻に云はく、僕〈蒲木反、和名は上に同じ〉は侍従の人なりといふ。

人民 日本紀私記云、人民、〈比止久佐、或說云、於保无太加良、〉


人民 日本紀私記に云はく、人民〈比止久佐ひとくさ、或説に云ふ於保無太加良おほむたから〉といふ。

師 徐廣雜記云、人有三尊、非父不生、非師不學、非君不仕、故曰三尊也、


師 徐広雑記に云はく、人に三尊有り、父に非ざれば生れず、師に非ざれば学ばず、君に非ざれば仕へず、故に三尊と曰ふなりといふ。

弟子 孝經序云、門徒三千人、又云、貫首弟子、


弟子 孝経序に云はく、門徒は三千人といふ。又云はく、貫首のていといふ。

賓客 玉篋云、大曰賓、小曰客、〈濱各二音、和名末良比止、〉左傳注󠄁云、客一座之所󠄁尊、野王案、羇旅寄他國、亦謂之客、〈旅客、和名太比々止、〉


賓客 玉篋に云はく、大を賓と曰ひ、小を客と曰ふといふ〈浜各の二音、和名は末良比止まらひと〉。左伝注に云はく、客は一座の尊ぶ所といふ。野王案ずるに、羇旅に他国に寄るも亦、之れを客と謂ふとす〈旅客、和名は太比々止たびびと〉。

朋友 論語注󠄁云、同門曰朋、〈步崩反、〉尙書注󠄁云、同志曰友、〈云久反、上聲之重、和名止毛太知、〉文塲秀句云、知音得意、〈朋友篇事對也、故附出、〉


朋友 論語注に云はく、門を同じくするを朋〈歩崩反〉と曰ふといふ。尚書注に云はく、志を同じくするを友〈云久反、上声の重、和名は止毛太知ともだち〉と曰ふといふ。文場秀句に云ふ知音、得意〈朋友篇の事対なり、故に付出す〉。

故人 史記云、寧逢惡賓、不故人


故人 史記に云はく、むしろ悪賓に逢ふも故人に逢はざらんといふ。

醫 說文云醫〈音伊、字亦作毉、和名久湏之、〉治病工也、


醫 説文に云はく、醫〈音は伊、字は亦、毉に作る、和名は久須之くすし〉は病を治むるたくみなりといふ。

[相工 史記云、長安中、有相工田文者、〈相工、俗云相人、相音去聲、〉丙丞相、韋丞相、魏丞相、微賤時會於客宇、田文曰、此君皆丞相也、其後三人竟爲丞相也、]


[相工 史記に云はく、長安中に相工、田文といふ者有り〈相工は俗に云ふ相人、相の音は去声〉。丙丞相、韋丞相、魏丞相、微賤の時、客宇に会ふ。田文曰はく、此の君は皆、丞相なりといふ。其の後、三人、つひには丞相と為るなりといふ。]

[工匠 糓梁傳云、古者有工人、有商人、四聲字苑云、工、〈功反、和名太久美、〉匠也、匠〈上反、〉巧人也、]


[工匠 穀梁伝に云はく、古者いにしへ、工人有り、商人有りといふ。四声字苑に云はく、工〈功反、和名は太久美たくみ〉は匠なり、匠〈上反〉は巧人なりといふ。]

[鍛冶 四聲字苑云、鍛、〈段反、〉打金䥫器也、冶〈夜反、俗云鍛治訛也、〉燒*原本鎖鑠也、]


[鍛冶 四声字苑に云はく、鍛〈段反〉は金鉄を打ち器と為すなり、冶〈夜反、俗に鍛治と云ふはあやまりなり〉は鉄を焼き銷鑠するなりといふ。]

[陶者 荘子云、陶者曰、我治埴、〈陶、桃反、訓須惠毛乃豆久流、黏埴爲器者、俗云呼爲造󠄁手、陶者是乎、〉]


[陶者 荘子に云はく、陶者曰はく、我は埴を治むといふといふ〈陶は桃反、訓は須恵毛乃豆久流すゑものつくる、黏埴を器と為す者、俗に呼びて造手と為すと云ふ、陶者は是れか〉。]

巫覡〈祝附〉 說文云、巫、〈音無、和名加无奈歧、〉祝女也、文字集略云、覡、〈下激反、[乎乃古加牟奈歧、]〉男祝也、祝、〈之育反、和名波布利、〉祭主󠄁讀詞也、


巫覡〈祝付〉 説文に云はく、巫〈音は無、和名は加無奈岐かむなき〉は祝女なりといふ。文字集略に云はく、覡〈下激反[、乎乃古加牟奈歧をのこかむなき]〉は男祝なり、祝〈之育反、和名は波布利はふり〉は祭主の詞を読むなりといふ。

獵師〈列卒附〉 內典云、譬如群鹿怖畏獵師、〈和名加利比止、〉文選󠄁云、列卒滿山、〈列卒讀師說加利古、〉


獵師〈列卒付〉 内典に云はく、譬へば群鹿の獵師〈和名は加利比止かりびと〉を怖畏するがごとしといふ。文選に云はく、列卒、山に満つといふ〈列卒の読みは師説に加利古かりこ〉。

[漁子 文選󠄁江賦云、蘆人漁子、〈和名伊乎止利、漁與魚同、〉採󠄁蘆捕魚者也、]


[漁子 文選江賦に云はく、蘆人漁子〈和名は伊乎止利いをとり、漁は魚と同じ〉は蘆を採り魚を捕る者なりといふ。]

[漁父 楚辞云、漁父鼓栧而去、〈漁父一名漁翁、無良歧美、〉皷栧叩船也、]


[漁父 楚辞に云はく、漁父、かいを鼓して去るといふ〈漁父、一名は漁翁、無良岐美むらぎみ〉。栧を皷すは船を叩くなり。]

泉郎 日本紀私記云漁人、〈阿万、〉辨色立成云泉郎、〈和名同上、楊氏漢語抄說又同、〉万葉集云海人、


泉郎 日本紀私記に云ふ漁人〈阿万あま〉、弁色立成に云ふ泉郎〈和名は上に同じ、楊氏漢語抄の説も又同じ〉、万葉集に云ふ海人。

[潜女 本朝式云、伊𫝑國等潜女、〈和名加豆歧米、〉]


[潜女 本朝式に云ふ伊勢国等の潜女〈和名は加豆岐米かづきめ〉。]

渡子 [文選󠄁江賦云、渉人於是檥榜、〈檥正也、和名佐乎、〉]日本紀私記云、渡子、〈和太利毛利、今案俗云和太之毛利、〉


渡子 [文選江賦に云はく、渉人、是に於いてさをただすといふ〈檥は正すなり、和名は佐乎さを〉。]日本紀私記に云ふ渡子〈和太利毛利わたりもり、今案ふるに俗に云ふ和太之毛利わたしもり〉。

水手 [文選󠄁江賦云、舟子〈和名布奈古、〉於是搦棹、〈搦捉也、女角反、止流、〉]日本紀私記云、水手、〈加古、今案加古者鹿子之義、見于本書注󠄁矣、〉


水手 [文選江賦に云はく、舟子〈和名は布奈古ふなこ〉、是に於いてさをるといふ〈搦は捉るなり、女角反、止流とる〉。]日本紀私記に云ふ水手〈加古かこ、今案ふるに加古は鹿子の義、本書の注に見ゆ〉。

挾杪 唐令云、挾杪、〈和名加知度利、〉文選󠄁吳都賦云、㰏工檝師、〈㰏檝二字見舟具󠄁、和名同上、〉


挟杪 唐令に云ふ挟杪〈和名は加知度利かぢとり〉、文選呉都賦に云ふ㰏工檝師〈㰏、檝の二字は舟具に見ゆ、和名は上に同じ〉。

市人 楊氏漢語抄云、市郭兒、〈和名伊知比止、[一名市人、]〉


市人 楊氏漢語抄に云ふ市郭児〈和名は伊知比止いちびと[、一名に市人]〉。

商賈 [糓梁傳云、商人、]文選󠄁西京賦云、商賈、〈賈音古、師說阿歧比斗、〉裨販百族、〈師說裨販比佐歧比止、百族毛々夜加良、[俗云販婦󠄁比佐岐女、裨販也、]〉


商賈 [穀梁伝に云ふ商人。]文選西京賦に云ふ商賈〈賈の音は古、師説に阿岐比斗あきびと〉、裨販百族〈師説に裨販は比佐岐比止ひさぎびと、百族は毛々夜加良ももやから、[俗に云ふ販婦は比佐岐女ひさぎめ、裨販なり]〉。

田舍人 楊氏漢語抄云、田舍兒〈偉那迦比斗、〉


田舎人 楊氏漢語抄に云ふ田舎児〈偉那迦比斗いなかびと〉。

邊鄙 文選󠄁云、蚩眩邊鄙、〈師說、邊鄙阿豆万豆、蚩眩阿佐无歧加々夜加須、〉世說注󠄁云、東野之鄙語也、〈今案俗用東人二字、其義近󠄁矣、〉


辺鄙 文選に云はく、辺鄙を蚩眩すといふ〈師説に辺鄙は阿豆万豆あづまづ、蚩眩は阿佐無岐あざむき加々夜加須かがやかす〉。世説注に云はく、東野の鄙語なりといふ〈今案ふるに俗に東人の二字を用ゐる、其の義近きかな〉。

蕩子 文選󠄁詩云、蕩子行不歸、〈漢語抄云、蕩子、太波禮乎、〉


蕩子 文選詩に云はく、蕩子行きて帰らずといふ〈漢語抄に云ふ蕩子、太波礼乎たはれを〉。

遊󠄁女〈夜𤼲附〉 楊氏漢語抄云、遊󠄁行女兒、〈宇加禮女、〈已上本注󠄁、〉一云阿曾比、今案又有夜𤼲之名、俗云也保知、本文未詳、但或說、白晝遊󠄁行謂之遊󠄁女、待夜而𤼲其淫奔、謂之夜𤼲也、〉


遊女〈夜発付〉 楊氏漢語抄に云ふ遊行女児〈宇加礼女うかれめ〈已上は本注〉、一に云ふ阿曽比あそび。今案ふるに、又、夜発の名有り、俗に也保知やほちと云ふ、本文は未だ詳かならず。但し或説に、白昼に遊行するは之れを遊女と謂ひ、夜を待ちて其の淫奔を発するは之れを夜発と謂ふなりとす〉。

閽人 文字集略云、閽、〈音昏、閽人、和名三加止毛利、〉守門者也、


閽人 文字集略に云はく、閽〈音は昏、閽人の和名は三加止毛利みかどもり〉は門を守る者なりといふ。

龓人 唐韵云、龓、〈盧紅反、楊氏漢語抄云、龓馬人、久知止利、〉乘馬又牽也、


龓人 唐韻に云はく、龓〈盧紅反、楊氏漢語抄に云ふ龓馬人、久知止利くちとり〉は馬に乗る、又、牽くなりといふ。

圉人 文字集略云、圉、〈音語、圉人无末加比、日本紀私記云、典馬、弁色立成云馬子、和名並上同、〉養馬者也、


圉人 文字集略に云はく、圉〈音は語、圉人は無末加比むまかひ、日本紀私記に云ふ典馬、弁色立成に云ふ馬子、和名は並びに上に同じ〉は馬をふ者なりといふ。

奴 唐韻云、奴、〈乃都反、和名豆布禰、〉人之下也、


奴 唐韻に云はく、奴〈乃都反、和名は豆布禰つぶね〉は人の下なりといふ。

婢 說文云、婢〈便俾反、上聲之重、和名也豆古、〉女之卑稱也、


婢 説文に云はく、婢〈便俾反、上声の重、和名は也豆古やつこ〉は女の卑称なりといふ。

客作兒 楊氏漢語抄云、客作兒、〈都久乃比々止、〉


客作児 楊氏漢語抄に云ふ客作児〈都久乃比々止つぐのひびと〉。

屠兒 楊氏漢語抄云、屠兒、〈屠音徒、[訓保布流、屠兒]和名惠止利、〉殺生、及屠牛馬肉販賣者也、


屠児 楊氏漢語抄に云はく、屠児〈屠の音は徒、[訓は保布流ほふる、屠児の]和名は恵止利ゑとり〉は生けるを殺し、及び牛馬の肉をほふりて販ぎ売る者なりといふ。

乞兒 列子云、齊有貧者、常乞於城市、乞兒曰、天下之辱莫過󠄁於乞、〈楊氏漢語抄云、乞索兒、保加比々斗、今案乞索兒即乞兒也、和名加多井、〉


乞児 列子に云はく、斉に貧者有り、常に城市に於いて乞ふ、乞児曰はく、天下の辱は乞に過ぎたるは莫しといふといふ〈楊氏漢語抄に云ふ乞索児、保加比々斗ほかひびと、今案ふるに乞索児は即ち乞児なり、和名は加多井かたゐ〉。

偸兒 [世說云、園中夜叫云偸兒、]楊氏漢語抄云、偸兒、〈沼湏比斗、上他侯反、〉[竊盗、〈和名美曾加奴湏比止、〉]辨色立成云、不良人、


偸児 [世説に云はく、園中に夜叫びて偸児有りと云ふといふ。]楊氏漢語抄に云ふ偸児〈沼須比斗ぬすびと、上は他侯反〉[、竊盗〈和名は美曽加奴須比止みそかぬすびと〉]、弁色立成に云ふ不良人。

群盗 漢書云、群盗滿山、[〈羣盗一云强盗、見唐律、〉]


群盗 漢書に云はく、群盗、山に満つといふ[〈群盗は一に云ふ強盗、唐律に見ゆ〉]。

海賊 後漢書云、海賊張伯路、寇畧緣海九郡


海賊 後漢書に云はく、海賊の張伯路、縁海九郡を寇略すといふ。

囚人 東宮切韻云、囚、〈似由反、和名度良部比斗、〉繫禁罪人也、又云、人固在獄也、


囚人 東宮切韻に云はく、囚〈似由反、和名は度良部比斗とらへびと〉は罪人を繋禁するなりといふ。又云はく、人とどめ獄に在るなりといふ。



父母類八


父母類八

高祖父 尒雅云、曾祖父之考爲高祖父、〈日本紀私記云、上祖、止保豆於夜、〉文字集略云、五世祖也、


高祖父 爾雅に云はく、曽祖父の考を高祖父〈日本紀私記に云ふ上祖、止保豆於夜とほつおや〉とすといふ。文字集略に云はく、五世の祖なりといふ。

高祖母 尒雅云、曽祖父之妣爲高祖母


高祖母 爾雅に云はく、曽祖父の妣を高祖母と為すといふ。

高祖姑 尒雅云、高祖父之姉妹爲高祖姑


高祖姑 爾雅に云はく、高祖父の姉妹を高祖姑と為すといふ。

曾祖父 尒雅云、祖父之父爲曾祖父、〈和名於保於保知、〉文字集略云、曾重也、四世祖也、


曽祖父 爾雅に云はく、祖父の父を曽祖父〈和名は於保於保知おほおほぢ〉と為すといふ。文字集略に云はく、曽は重ぬなり、四世の祖なりといふ。

曾祖母 尒雅云、祖父之母爲曾祖母、〈和名於保於波、〉


曽祖母 爾雅に云はく、祖父の母を曽祖母〈和名は於保於波おほおば〉と為すといふ。

曾祖姑 尒雅云、曾祖父之姉妹爲曾祖姑


曽祖姑 爾雅に云はく、曽祖父の姉妹を曽祖姑と為すといふ。

族父 尒雅云、父之從祖昆弟爲族父、〈和名於保於奉知乎知、〉


族父 爾雅に云はく、父の従祖昆弟を族父〈和名は於保於奉知乎知おほおほぢをぢ〉と為すといふ。

族昆弟 尒雅云、族父之子相謂族昆弟


族昆弟 爾雅に云はく、族父の子を族昆弟とあひ謂ふといふ。

祖父 尒雅云、父之考爲王父、〈九族圖云、祖父和名於保知、〉


祖父 爾雅に云はく、父の考を王父と為すといふ〈九族図に云はく、祖父の和名は於保知おほぢといふ〉。

祖母 尒雅云、父之妣爲王母、〈九族圖云、祖母和名於波、〉孫炎曰、人之尊祖若天王、故曰王父王母也、


祖母 爾雅に云はく、父の妣を王母と為すといふ〈九族図に云はく、祖母の和名は於波おばといふ〉。孫炎曰はく、人の祖を尊ぶこと天王のごとし、故に王父、王母と曰ふなりといふ。

祖姑 尒雅云、王父之姉妹爲王姑、〈九族圖云、祖姑和名於保乎波、〉


祖姑 爾雅に云はく、王父の姉妹を王姑と為すといふ〈九族図に云はく、祖姑の和名は於保乎波おほをばといふ〉。

從祖父 尒雅云、父之世父叔父爲從祖父、〈和名於保知乎遲、〉


従祖父 爾雅に云はく、父の世父の叔父を従祖父〈和名は於保知乎遅おほちをぢ〉と為すといふ。

從祖母 爾雅云、父之世母叔母爲從祖母、〈和名於保乎波、〉


従祖母 爾雅に云はく、父の世母の叔母を従祖母〈和名は於保乎波おほをば〉と為すといふ。

伯父 釋名云、父之兄曰世父、又曰伯父、〈弁色立成云、阿伯者父之兄也、睿乎遲、〉


伯父 釈名に云はく、父の兄を世父と曰ひ、又、伯父と曰ふといふ〈弁色立成に云はく、阿伯は父の兄なり、睿乎遅えをぢといふ〉。

仲父 釋名云、父之弟曰仲父、〈漢語抄云、奈賀都乎遲、〉


仲父 釈名に云はく、父の弟を仲父〈漢語抄に云ふ奈賀都乎遅なかつをぢ〉と曰ふといふ。

叔父 釋名云、仲父之弟曰叔父、叔父之弟曰季父、〈弁色立成云、阿叔者父之弟也、於止乎知、〉


叔父 釈名に云はく、仲父の弟を叔父と曰ひ、叔父の弟を季父と曰ふといふ〈弁色立成に云はく、阿叔は父の弟なり、於止乎知おとをぢといふ〉。

伯母 九族圖云、伯母〈和名乎波、今案父之姊也、〉


伯母 九族図に云ふ伯母〈和名は乎波をば、今案ふるに父の姉なり〉。

叔母 九族圖云、叔母、〈和名與伯母同、今案父之妹也、〉尒雅云、父之姉妹爲、〈弁色立成云阿姑、和名上同、今案伯叔母之惣名也、〉


叔母 九族図に云ふ叔母〈和名は伯母と同じ、今案ふるに父の妹なり〉。爾雅に云はく、父の姉妹を姑〈弁色立成に云ふ阿叔、和名は上に同じ、今案ふるに伯叔母の惣名なり〉と為すといふ。

父 [孝經云、身體髮膚、受于父母、]尒雅云、父爲考、〈和名知々、日本紀私記云、加曾、〉楊氏漢語抄云、阿耶、〈和名上同、〉


父 [孝経に云はく、身体髪膚は父母に受くといふ。]爾雅に云はく、父を考〈和名は知々ちち、日本紀私記に云ふ加曽かそ〉と為すといふ。楊氏漢語抄に云ふ阿耶〈和名は上に同じ〉。

母 尒雅云、母爲妣、〈卑履反、去聲之重、和名波々、日本紀私記云、母、以路波、〉舍人曰、生稱父母、死稱考妣、郭璞曰、公羊傳、惠公者隱公之考也、仲子者桓公之母也、明死生之異稱矣、楊氏漢語抄云阿孃、〈孃音如羊反、和名上同、〉


母 爾雅に云はく、母を妣〈卑履反、去声の重、和名は波々はは、日本紀私記に云ふ母、以路波いろは〉と為すといふ。舎人曰はく、生けるを父母と称し、死せるを考妣と称すといふ。郭璞曰はく、公羊伝に恵公は隠公の考なり、仲子は桓公の母なり、死生の異称に非ざること明らけしといふ。楊氏漢語抄に云ふ阿嬢〈嬢の音は如羊反、和名は上に同じ〉。

[繼父母 世說云、諸葛宏、爲繼母族黨所󠄁讒、又云、王祥事後母甚謹、〈後母即繼母也、謂母則可父、但和名、繼父、萬々知々、繼母、萬々波々、繼父母各謂其子古、我不生義也、〉]


[継父母 世説に云はく、諸葛宏、継母の族党の為にそしらるといふ。又云はく、王祥は後母につかふるに甚だつつしむといふ〈後母は即ち継母なり、母を謂ふときは父を知るべし、但し和名に継父は万々知々ままちち、継母は万々波々ままはは、継父母は各、其の子をと謂ふ、にはかに生ぜざる義なり〉。]

外祖父 尒雅云、母之父爲外王父、〈和名毋方乃於保知、〉九族圖云外祖父


外祖父 爾雅に云はく、母の父を外王父〈和名は毋方ははかた乃於保知のおほぢ〉と為すといふ。九族図に外祖父と云ふ。

外祖母 尒雅云、母之妣爲外王母、〈和名母方乃於波、〉九族圖云外祖母、


外祖母 爾雅に云はく、母の妣を外王母〈和名は母方ははかた乃於波のおば〉と為すといふ。九族図に云ふ外祖母。

舅 尒雅云、母之昆弟爲舅、〈其九反、上聲之重、和名母方乃乎知、〉楊氏漢語抄云、大舅、〈母之兄也、〉少舅、〈母之弟也、〉


舅 爾雅に云はく、母の昆弟を舅〈其九反、上声の重、和名は母方ははかた乃乎知のをぢ〉と為すといふ。楊氏漢語抄に云ふ大舅〈母の兄なり〉、少舅〈母の弟なり〉。

從母 尒雅云、母之姊妹曰從母、〈和名母方乃乎波、〉


従母 爾雅に云はく、母の姉妹を従母〈和名は母方ははかた乃乎波のをば〉と曰ふといふ。

[姨 唐韻云、姨、〈音夷、〉母之姊妹也、]


[姨 唐韻に云はく、姨〈音は夷〉は母の姉妹なりといふ。]

從舅 尒雅云、母之從父昆弟爲從舅、〈和名母方乃於保知乎遲、〉


従舅 爾雅に云はく、母の従父の昆弟を従舅〈和名は母方ははかた乃於保知乎遅のおほちをぢ〉と為すといふ。



兄弟類九


兄弟類九

兄 尒雅云、男子先生爲兄、〈許榮反、一云昆、和名古乃加美、日本紀私記云、伊呂禰、〉


兄 爾雅に云はく、男子の先に生るるを兄〈許栄反、一に云ふ昆、和名は古乃加美このかみ、日本紀私記に云ふ伊呂禰いろね〉と為すといふ。

弟 尒雅云、男子後生爲弟、〈特計反、和名於止宇度、〉


弟 爾雅に云はく、男子の後に生るるを弟〈特計反、和名は於止宇度おとうと〉と為すといふ。

姉 尒雅云、女子先生爲姉〈音止、一云女兄、和名阿禰、日本紀私記云兄同、〉


姉 爾雅に云はく、女子の先に生るるを姉〈音は止、一に云ふ女兄、和名は阿禰あね、日本紀私記に兄と同じと云ふ〉と為すといふ。

妹 尒雅云、女子後生爲妹、〈音昧、和名以毛宇止、日本紀私記云、以呂止、〉


妹 爾雅に云はく、女子の後に生るるを妹〈音は昧、和名は以毛宇止いもうと、日本紀私記に云ふ以呂止いろど〉と為すといふ。

母兄 文選󠄁注󠄁云、母兄、[〈俗云波良比度豆乃古乃加美、同胞之義也、〉]同母兄也、


母兄 文選注に云はく、母兄[〈俗に云ふ波良比度豆乃古乃加美はらひとつのこのかみ、同胞の義なり〉]は同母の兄なりといふ。

母弟 尙書注󠄁云、母弟、同母弟也、


母弟 尚書注に云はく、母弟は同母弟なりといふ。

甥 尒雅云、兄弟之子爲甥、〈音生、和名乎比、今案又用姪字、爾雅所󠄁謂昆弟之子爲姪、是也、〉


甥 爾雅に云はく、兄弟の子を甥〈音は生、和名は乎比をひ、今案ふるに、又、姪の字を用ゐる、爾雅に所謂る昆弟の子を姪とするは是れなり〉と為すといふ。

姪 釋名云、兄弟之女爲姪、〈徒結反、和名米飛、〉


姪 釈名に云はく、兄弟の女を姪〈徒結反、和名は米飛めひ〉と為すといふ。

外姪 釋名云、姉妹之子爲出、〈楊氏漢語抄云、外姪、〉出嫁於異姓而所󠄁生也、


外姪 釈名に云はく、姉妹の子を出〈楊氏漢語抄に云ふ外姪〉と為すといふ。出でて異姓に嫁ぎて生ずる所なり。

從父兄弟 尒雅云、兄之子弟之子、相謂爲從父昆弟姉妹、〈和名以斗古、但兄之子、男爲從父兄、女爲從父姊、弟之子、男爲從父弟、女爲從父妹也、〉


従父兄弟 爾雅に云はく、兄の子、弟の子、相謂ひて従父昆弟姉妹と為すといふ〈和名は以斗古いとこ、但し兄の子、男を従父兄と為し、女を従父姉と為し、弟の子、男を従父弟と為し、女を従父妹と為すなり〉。

再從兄弟 九族圖云、再從兄弟、〈和名以夜伊斗古、〉


再従兄弟 九族図に云ふ再従兄弟〈和名は以夜伊斗古いやいとこ〉。

三從兄弟 九族圖云、三從兄弟、〈和名万太伊止古、〉


三従兄弟 九族図に云ふ三従兄弟〈和名は万太伊止古またいとこ〉。

從母兄弟 尒雅云、從母之男子爲從母昆弟、女子爲從母姉妹、〈和名與內戚同、〉


従母兄弟 爾雅に云はく、従母の男子を従母昆弟と為し、女子を従母姉妹と為すといふ〈和名は内戚と同じ〉。



子孫類十


子孫類十

子 孫愐切韻云、子、〈即里反、〉息也、高祖本紀云、呂公曰、臣有息女、願爲箕箒妾


子 孫愐切韻に云はく、子〈即里反〉は息なりといふ。高祖本紀に云はく、呂公曰はく、臣に息女有り、願はくは箕箒の妾と為さんことをといふといふ。

孫 尒雅云、子之子爲孫、〈音尊、和名无麻古、[一云比古、]〉


孫 爾雅に云はく、子の子を孫〈音は尊、和名は無麻古むまご[、一に云ふ比古ひこ]〉と為すといふ。

曾孫 尒雅云、孫之子爲曾孫、〈曾、踈也、和名比々古、〉


曽孫 爾雅に云はく、孫の子を曽孫と為すといふ〈曽は疎なり、和名は比々古ひひこ〉。

玄孫 尒雅云、曾孫之子爲玄孫、〈玄、遠󠄁也、言益踈遠󠄁也、和名夜之波古、〉


玄孫 爾雅に云はく、曽孫の子を玄孫と為すといふ〈玄は遠なり、言ふはますます疎遠なればなり、和名は夜之波古やしはご〉。

來孫 尒雅云、玄孫之子爲來孫、〈言只有往來之親耳、今案五代孫也、〉


来孫 爾雅に云はく、玄孫の子を来孫と為すといふ〈言ふは只だ往来の親有るのみなればなり、今案ふるに五代の孫なり〉。

昆孫 尒雅云、來孫之子爲昆孫、〈昆、後也、今案六代孫也、〉


昆孫 爾雅に云はく、来孫の子を昆孫と為すといふ〈昆は後なり、今案ふるに六代の孫なり〉。

仍孫 尒雅云、昆孫之子爲仍孫、〈仍、重也、今案七代孫也〉漢書注󠄁云、耳孫、仍耳聲相近󠄁、盖一號也、


仍孫 爾雅に云はく、昆孫の子を仍孫と為すといふ〈仍は重なり、今案ふるに七代の孫なり〉。漢書注に云はく、耳孫、仍孫、声相近し、蓋し一つのなりといふ。

雲孫 尒雅云、仍孫之子爲雲孫、〈言輕遠󠄁如浮󠄁雲也、今案八代孫也、〉


雲孫 爾雅に云はく、仍孫の子を雲孫と為すといふ〈言ふは軽く遠きこと浮雲のごときなればなり。今案ふるに八代の孫なり〉。

外孫 尒雅云、女子之子爲外孫


外孫 爾雅に云はく、女子の子を外孫と為すといふ。

離孫 釋名云、出之子爲離孫、〈和名、男云无末古乎比、女云无末古米比、〉言離己遠󠄁也、


離孫 釈名に云はく、出の子を離孫〈和名は男を無末古乎比むまごをひと云ひ、女を無末古米比むまごめひと云ふ〉と為すといふ。言ふは己を離るること遠ければなり。

歸孫 釋名云、姪之子爲歸孫、〈和名與離孫同、〉婦󠄁人謂嫁爲歸、姪子列、故其所󠄁生曰歸也、


帰孫 釈名に云はく、姪の子を帰孫と為すといふ〈和名は離孫と同じ〉。婦人の嫁ぐを謂ひて帰と為し、姪の子も列たり。故に其の生む所を帰と曰ふなり。



婚姻類十一


婚姻類十一

婚姻 尒雅云、聟之父爲姻、〈音因、〉婦󠄁之父爲婚、〈音昏、〉婦󠄁之父母、聟之父母、相謂爲婚姻


婚姻 爾雅に云はく、聟の父を姻〈音は因〉と為し、婦の父を婚〈音は昏〉と為し、婦の父母、聟の父母は相謂ひて婚姻と為すといふ。

婚兄弟 尒雅云、婦󠄁之黨爲婚兄弟


婚兄弟 爾雅に云はく、婦のともがらを婚兄弟と為すといふ。

姻兄弟 尒雅云、聟之黨爲姻兄弟


姻兄弟 爾雅に云はく、聟の党を姻兄弟と為すといふ。

聟 尒雅云、子之夫爲聟、〈音細、字亦作𰭸、和名无古、〉


聟 爾雅に云はく、子の夫を聟〈音は細、字は亦、𰭸に作る、和名は無古むこ〉と為すといふ。

婭 釋名云、兩聟相謂爲婭、〈音亞、和名阿比无古、〉言一人取姊、一人取妹、相亞次也、又曰友聟、言相親友也、


婭 釈名に云はく、両聟、相謂ひて婭〈音は亞、和名は阿比無古あひむこ〉と為すといふ。言ふは一人は姉を取り、一人は妹を取り、相亜次すればなり。又、友聟と曰ふ。言ふは相親友なればなり。

私 爾雅云、女子謂姉妹之夫私、〈今案公私之私字也、和名與聟同、〉孫炎曰、謂無正親也、


私 爾雅に云はく、女子は姉妹の夫を謂ひて私と為すといふ〈今案ふるに公私の私の字なり、和名は聟と同じ〉。孫炎曰はく、謂ふは正親に無ければなりといふ。

婦󠄁 尒雅云、子之妻爲婦󠄁、〈和名與女、又夫婦󠄁之婦󠄁也、〉


婦 爾雅に云はく、子の妻を婦〈和名は与女よめ、又、夫婦の婦なり〉と為すといふ。

娣婦󠄁 尒雅云、長婦󠄁謂幼婦󠄁娣婦󠄁、〈娣音弟、和名於斗與女、〉


娣婦 爾雅に云はく、長婦は幼婦を謂ひて娣婦〈娣の音は弟、和名は於斗与女おとよめ〉と為すといふ。

姒婦󠄁 尒雅云、稚婦󠄁謂長婦󠄁姒婦󠄁、〈姒音似、和名於保與女、〉


姒婦 爾雅に云はく、稚婦は長婦を謂ひて姒婦〈姒の音は似、和名は於保与女おほよめ〉と為すといふ。

嫂婦󠄁 尒雅云、女子謂兄之妻嫂、〈音早、字亦作㛐、〉謂弟之妻婦󠄁、〈和名並與父母之呼子妻同、〉


嫂婦 爾雅に云はく、女子は兄の妻を謂ひて嫂〈音は早、字は亦、㛐に作る〉と為し、弟の妻を謂ひて婦と為すといふ〈和名は並びに父母の子妻を呼ぶと同じ〉。

妯娌 尒雅注󠄁云、關西、兄弟之妻、相呼爲妯娌、〈逐󠄁理二音、和名阿比與女、〉


妯娌 爾雅注に云はく、関西に兄弟の妻を相呼びて妯娌〈逐理の二音、和名は阿比与女あひよめ〉と為すといふ。



夫妻類十二


夫妻類十二

夫 白虎通󠄁云、夫猶扶也、以道扶接也、[〈乎布度、一云乎度古、〉]


夫 白虎通に云はく、夫は猶ほ扶のごときなり、道を以て扶接するなりといふ[〈乎布度をふと、一に云ふ乎度古をとこ〉]。

[後夫 顔氏家訓云、後夫多寵前󠄁夫之子、〈後夫、和名宇波乎、一云伊万乃乎宇止、〉]


[後夫 顔氏家訓に云はく、後夫、多くは前夫の子を寵すといふ〈後夫、和名は宇波乎うはを、一に云ふ伊万乃乎宇止いまのをうと〉]。

[前󠄁夫 顔氏云、前󠄁夫、〈和名之太乎、一云毛止乃乎止古、〉]


[前夫 顔氏に云ふ前夫〈和名は之太乎したを、一に云ふ毛止乃乎止古もとのをとこ〉。]

舅 尒雅云、夫之父曰舅、〈弁色立成云、阿翁之宇斗、〉在則曰君舅、沒則曰先舅


舅 爾雅に云はく、夫の父を舅〈弁色立成に云ふ阿翁、之宇止しうと〉と曰ひ、在するときには君舅と曰ひ、没するときには先舅と曰ふといふ。

姑 尒雅云、夫之母曰姑、〈古胡反、和名之宇斗女〉在則曰君姑、沒則曰先姑


姑 爾雅に云はく、夫の母を姑〈古胡反、和名は之宇斗女しうとめ〉と曰ひ、在するときには君姑と曰ひ、没するときには先姑と曰ふといふ。

兄公 尒雅云、夫之兄曰兄公、〈和名古之宇斗、〉


兄公 爾雅に云はく、夫の兄を兄公〈和名は古之宇斗こじうと〉と曰ふといふ。

叔 尒雅云、夫之弟曰叔、〈和名與兄公同、〉


叔 爾雅に云はく、夫の弟を叔〈和名は兄公と同じ〉と曰ふといふ。

女公 尒雅云、夫之姉曰女公、〈和名古之宇止女、〉


女公 爾雅に云はく、夫の姉を女公〈和名は古之宇止女こじうとめ〉と曰ふといふ。

妹 尒雅云、夫之女弟曰妹、〈和名與女公同、又姊妹之妹見上文、〉


妹 爾雅に云はく、夫の女弟を妹〈和名は女公と同じ。又、姉妹の妹は上文に見ゆ〉と曰ふといふ。

妻 白虎通󠄁云、妻、[〈音西、和名米、又用夫婦󠄁之婦󠄁、一音去、妻訓米阿波湏、〉]齊也、與夫齊躰也、


妻 白虎通に云はく、妻[〈音は西、和名は、又、夫婦の婦を用ゐる、一音に去、妻の訓は米阿波須めあはす〉]は斉なり、夫と体をひとしくするなりといふ。

妾 文字集略云、妾、〈音接、和名乎无奈女、今案又有枉嫡之名、本文未詳、但或說言非正嫡、故以枉爲稱也、〉小妻也、


妾 文字集略に云はく、妾〈音は接、和名は乎無奈女をむなめ、今案ふるに、又、枉嫡の名有り、本文は未だ詳かならず。但し或説に、言ふは正嫡に非ざる故に枉を以て称と為せばなり〉は小妻なりといふ。

前󠄁後妻 顔氏家訓云、後妻多惡前󠄁妻之子、〈和名前󠄁妻古奈美、後妻宇波奈利、前󠄁妻之子後妻所󠄁稱、前󠄁夫之子後夫所󠄁稱、並麻々古也、世稱後子、本文未詳也、〉


前後妻 顔氏家訓に云はく、後妻は多く前妻の子をにくむといふ〈和名は前妻を古奈美こなみ、後妻を宇波奈利うはなり、前妻の子を後妻の称する所、前夫の子を後夫の称する所、並びに麻々古ままこなり、世に後子と称す、本文は未だ詳かならず〉。

外舅 尒雅云、妻之父曰外舅、〈弁色立成云婦󠄁翁、〉


外舅 爾雅に云はく、妻の父を外舅と曰ふといふ〈弁色立成に云ふ婦翁〉。

外姑 尒雅云、妻之母曰外姑、〈辨色立成云婦󠄁母、今俗人所󠄁稱外舅姑與舅姑同、〉孫炎曰、夫之敬妻之父母、如妻之尊敬舅姑、故同其名外字也、


外姑 爾雅に云はく、妻の母を外姑と曰ふといふ〈弁色立成に云ふ婦母、今、俗人の称する所の外舅姑は舅姑と同じ〉。孫炎曰はく、夫の、妻の父母を敬ふは、妻の、舅姑を尊敬するがごとし、故に其の名を同じくして外の字を加ふるなりといふ。

婦󠄁兄弟 辨色立成云、婦󠄁兄、〈婦󠄁之兄也、〉婦󠄁弟、〈婦󠄁之弟也、和名並與兄公同、〉


婦兄弟 弁色立成に云ふ婦兄〈婦の兄なり〉、婦弟〈婦の弟なり、和名は並びに兄公と同じ〉。

姨 尒雅云、妻之姉妹曰姨、〈音夷、和名與女公同、一云以毛之宇斗女、〉


姨 爾雅に云はく、妻の姉妹を姨〈音は夷、和名は女公と同じ、一に云ふ以毛之宇斗女いもしうとめ〉と曰ふといふ。

甥 尒雅云、妻之昆弟曰甥、〈音生、和名古之宇斗、〉


甥 爾雅に云はく、妻の昆弟を甥〈音は生、和名は古之宇斗こじうと〉と曰ふといふ。
卷第二

巻第二

 形體部第三 疾病部第四 術藝部第五


 形体部第三 疾病部第四 術芸部第五

形體部第三


形体部第三

 頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髮類十六 身體類十七 臓腑類十八 手足類十九 莖垂類二十


 頭面類十三 耳目類十四 鼻口類十五 毛髪類十六 身体類十七 臓腑類十八 手足類十九 茎垂類二十



頭面類十三


頭面類十三

首頭 釋名云、首、〈加宇倍、〉始也、頭、〈度侯反、訓上同、一云賀之良、〉獨也、言處體而獨貴也、


首頭 釈名に曰はく、首〈加宇倍かうべ〉は始めなり、頭〈度侯反、訓は上に同じ、一に云ふ賀之良かしら〉は独なり、言ふは体にりて独りたふとければなり。

顱〈髑髏附〉 文字集略云、顱〈落胡反、字亦作髗、加之良乃加波良、〉𦛁蓋也、玉篇云、髑髏、〈獨婁二音、俗云比度加之良、〉頭骨也、


顱〈髑髏付〉 文字集略に云はく、顱〈落胡反、字は亦、髗に作る、加之良乃加波良かしらのかはら〉はなづきおほひなりといふ。玉篇に云はく、髑髏〈独婁の二音、俗に云ふ比度加之良ひとがしら〉は頭の骨なりといふ。

𦛁 說文云、𦛁、〈奴道反、字亦作𦠊、和名奈都歧、〉頭中髓也、


脳 説文に云はく、脳〈奴道反、字は亦、𦠊に作る、和名は奈都岐なづき〉は頭中の髄なりといふ。

顖會 針灸經云、顖會、一名天窓、〈顖音信、字亦作囱、和名阿太万、〉楊氏漢語抄云、䫜、〈訓上同、音於交反、〉


顖会 針灸経に云はく、顖会、一名は天窓といふ〈顖の音は信、字は亦、囱に作る、和名は阿太万あたま〉。楊氏漢語抄に云ふ䫜〈訓は上に同じ、音は於交反〉。

頂𩕳 陸詞曰、顚、〈音天、訓以太々歧、〉頂也、頂𩕳、〈丁寧之上聲、〉頭上也、


頂𩕳 陸詞曰はく、顚〈音は天、訓は以太々岐いただき〉は頂なり、頂𩕳〈丁寧の上声〉は頭上なりといふ。

䫦 文字集略云、䫦、〈古盍反、加波知、〉䫦車也、


䫦 文字集略に云はく、䫦〈古盍反、加波知かばち〉は䫦車なりといふ。

蟀谷〈髮際附〉 針灸經云、耳以上入髮際一寸半󠄁、有二穴、應嚼而動、謂之蟀谷、〈和名古米賀美、髮際、加美歧波、〉


蟀谷〈髪際付〉 針灸経に云はく、耳以上の髪際に入ること一寸半に二穴有り、嚼むに応じて動く、之れを蟀谷〈和名は古米賀美こめかみ、髪際は加美岐波かみぎは〉と謂ふといふ。

雲脂 墨子五行記云、頭垢謂之雲脂、〈和名加之良乃阿加、一云以路古、〉


雲脂 墨子五行記に云はく、頭垢は之れを雲脂〈和名は加之良乃阿加かしらのあか、一に云ふ以路古いろこ〉と謂ふといふ。

顔面 四聲字苑云、顔、〈五姦反、訓與面同、〉眉目間也、遊󠄁仙窟云、面子、〈師說云加保波世、一云保々都歧、〉


顔面 四声字苑に云はく、顔〈五姦反、訓は面と同じ〉は眉目の間なりといふ。遊仙窟に云ふ面子〈師説に云ふ加保波世かほばせ、一に云ふ保々都岐ほほづき〉。

額 楊雄方言云、額、〈五陌反、比太比、〉東齊謂之顙、〈蘇朗反、〉幽州謂之顎、〈五各反、〉


額 楊雄方言に云はく、額〈五陌反、比太比ひたひ〉は東斉に之れを顙〈蘇朗反〉と謂ひ、幽州に之れを顎〈五各反〉と謂ふといふ。

頰〈頰骨附〉 野王案、頰、〈音挾、都良、一云保々、〉面旁目下也、師古漢書注󠄁云、頰肉曰胲、〈音改、〉玉篇云、顴、〈音權、今案字或通󠄁用、都良保禰、〉頰骨也、或曰輔車


頬〈頬骨付〉 野王案ずるに、頬〈音は挟、都良つら、一に云ふ保々ほほ〉は面のかたはらの目の下なりとす。師古漢書注に云はく、頬骨を胲〈音は改〉と曰ふといふ。玉篇に云はく、顴〈音は権、今案ふるに字は或に通用す、都良保禰つらぼね〉は頬骨なりといふ。或は輔車と曰ふ。

靨 淮南子注󠄁云、靨、〈音葉、惠久保、〉面小下也、


靨 淮南子注に云はく、靨〈音は葉、恵久保ゑくぼ〉は面のすこしく下なりといふ。

頷〈頷骨附〉 方言云、頥、〈音怡、〉謂之頷、〈胡感反、上聲之重、字亦作顄、於度加比、〉野王案、顄車、〈歧保禰、〉頷骨也、


頷〈頷骨付〉 方言に云はく、頤〈音は怡〉は之れを頷〈胡感反、上声の重、字は亦、顄に作る、於度加比おとがひ〉と謂ふといふ。野王案ずるに、顄車〈岐保禰きぼね〉は頷骨なりとす。

頸 陸詞切韵云、領、〈音冷、〉頸也、頸、〈居井反、久比、〉頭莖也、


頸 陸詞切韻に云はく、領〈音は冷〉は頸なり、頸〈居井反、久比くび〉は頭茎なりといふ。

胡 釋名云、咽下垂曰胡、〈之太久比、〉


胡 釈名に云はく、咽の下垂するを胡〈之太久比したくび〉と曰ふといふ。

項 陸詞切韵云、項、〈胡講反、上聲之重、宇奈之、〉頸後也、公羊傳注󠄁云、齊人項謂之脰、〈田候反、〉


項 陸詞切韻に云はく、項〈胡講反、上声の重、宇奈之うなじ〉は頸の後ろなりといふ。公羊伝注に云はく、斉人、項は之れを脰〈田候反〉と謂ふといふ。



耳目類十四


耳目類十四

耳 孫愐切韻云、耳、〈美々、〉聽聲者也、


耳 孫愐切韻に云はく、耳〈美々みみ〉は声を聴く者なりといふ。

耳埵 辨色立成云、耳埵、〈美々太比、下丁果反、〉


耳埵 弁色立成に云はく、耳埵〈美々太比みみたび、下は丁果反〉といふ。

完骨 針灸經云、完骨、〈美々世々乃保禰、〉耳後大骨也、


完骨 針灸経に云はく、完骨〈美々世々乃保禰みみせせのほね〉は耳の後ろの大骨なりといふ。

目 釋名云、目、默也、默而內識也、


目 釈名に云はく、目は黙なり、黙して内にるなりといふ。

眼〈眼皮附〉 廣雅云、眼、〈五簡反、万奈古、〉目子也、唐韻云、瞳、〈音童、訓上同、〉目童也、遊󠄁仙窟云、眼皮、〈師說萬比歧、一說萬奈古井、〉


眼〈眼皮付〉 広雅に云はく、眼〈五簡反、万奈古まなこ〉は目子なりといふ。唐韻に云はく、瞳〈音は童、訓は上に同じ〉は目童なりといふ。遊仙窟に云ふ眼皮〈師説に万比岐まびき、一説に万奈古井まなこゐ〉。

矊 文字集畧云、矊、〈音綿、久路萬奈古、〉瞳子黒也、


矊 文字集略に云はく、矊〈音は綿、久路万奈古くろまなこ〉は瞳子の黒きなりといふ。

眸 廣雅云、眸、〈莫侯反、比度美、一訓與眼同、〉目珠子也、


眸 広雅に云はく、眸〈莫侯反、比度美ひとみ、一訓は眼と同じ〉は目の珠子なりといふ。

瞼 唐韻云、瞼、〈巨險反、又居儼反、末奈布太、〉目瞼也、


瞼 唐韻に云はく、瞼〈巨険反、又、居儼反、末奈布太まなぶた〉は目の瞼なりといふ。

眶 唐韻云、眶、〈音匡、萬奈加布良、〉目眶也、


眶 唐韻に云はく、眶〈音は匡、万奈加布良まなかぶら〉は目眶なりといふ。

眦 廣雅云、眦、〈在詣反、又才賜反、萬奈之利、〉目裂也、遊󠄁仙窟云、眼尾、〈師說、訓同上、〉


眦 広雅に云はく、眦〈在詣反、又、才賜反、万奈之利まなじり〉は目の裂なりといふ。遊仙窟に云ふ眼尾〈師説に訓は上に同じ〉。

眵 唐韻云、眵、〈音支、米久曾、〉目汁凝也、


眵 唐韻に云はく、眵〈音は支、米久曽めくそ〉は目の汁のれるなりといふ。

涕淚〈承泣附〉 說文云、涕淚、〈體類二音、奈美太、〉目汁也、黄帝內經云、目下謂之承泣、〈音急、奈美太々利、〉


涕涙〈承泣付〉 説文に云はく、涕涙〈体類の二音、奈美太なみだ〉は目の汁なりといふ。黄帝内経に云はく、目の下は之れを承泣〈音は急、奈美太々利なみだたり〉と謂ふといふ。



鼻口類十五


鼻口類十五

鼻〈嚏附〉 陸詞切韻云、鼻、〈音美、波奈、〉面中岳也、漢書注󠄁云、高祖爲人隆凖、〈音准、〉應劭曰、隆高也、李斐曰、準鼻也、玉篇云、嚏、〈丁計反、波奈比流、〉噴鼻也、


鼻〈嚏付〉 陸詞切韻に云はく、鼻〈音は美、波奈はな〉は面中の岳なりといふ。漢書注に云はく、高祖は人とり隆準〈音は准〉といふは、応劭曰はく、隆は高なりといひ、李斐曰はく、凖は鼻なりといふ。玉篇に云はく、嚏〈丁計反、波奈比流はなひる〉は噴鼻なりといふ。

齃 說文云、齃、〈烏曷反、字亦作頞、波奈久歧、〉鼻莖也、


齃 説文に云はく、齃〈烏曷反、字は亦、頞に作る。波奈久岐はなぐき〉は鼻茎なりといふ。

鼻柱 黃帝內經云、水溝在鼻柱下、〈鼻柱、波奈波之良、〉


鼻柱 黄帝内経に云はく、水溝は鼻柱の下に在りといふ〈鼻柱は波奈波之良はなばしら〉。

䘐 說文云、䘐、〈女菊反、波奈知、〉鼻出血也、


衂 説文に云はく、衂〈女菊反、波奈知はなぢ〉は鼻より血出づるなりといふ。

洟〈挮附〉 字書云、洟、〈音夷、湏々波奈、〉鼻液也、文字集畧云、挮、〈他禮反、又他細反、俗云波奈加无、〉以手去鼻洟也、


洟〈挮付〉 字書に云はく、洟〈音は夷、須々波奈すすはな〉は鼻のしるなりといふ。文字集略に云はく、挮〈他礼反、又、他細反、俗に云ふ波奈加無はなかむ〉は手を以て鼻洟を去るなりといふ。

口 野王案、口、〈苦后反、〉所󠄁以言食也、


口 野王案ずるに、口〈苦后反〉はものいくらふ所以なりとす。

舌 四聲字苑云、舌、〈音切、之多、〉


舌 四声字苑に云はく、舌〈音は切、之多した〉といふ。

人中 黃帝內經云、水溝、即人中也、


人中 黄帝内経に云はく、水溝は即ち人中なりといふ。

脣吻 說文云、脣吻、〈上音旬、久知比留、下音粉、久知佐歧良、〉


脣吻 説文に云はく、脣吻〈上の音は旬、久知比留くちびる、下の音は粉、久知佐岐良くちさきら〉といふ。

縱理 史記云、縱理、〈縱音如松反、〉入口、餓死法也、


縦理 史記に云はく、縦理〈縦の音は如松反〉、口に入るは餓死するの法なりといふ。

齒〈齔附〉 說文云、齒、〈音始、波、〉口中齗骨者也、齔、〈初覲反、去聲、訓波加久〉毀齒也、


歯〈齔付〉 説文に云はく、歯〈音は始、〉は口中の齗骨なる者なり、齔〈初覲反、去声、訓は波加久はかく〉は歯をくなりといふ。

板齒 辨色立成云、板齒、〈奴可波、楊氏說同、〉


板歯 弁色立成に云はく、板歯〈奴可波ぬかば、楊氏の説同じ〉といふ。

牙 廣雅云、機、謂之牙、〈魚加反、歧波、〉野王案、牙在齒後、㝡近󠄁輔車者也、


牙 広雅に云はく、機は之れを牙〈魚加反、岐波きば〉と謂ふといふ。野王案ずるに、牙は歯の後ろに在り、最も輔車に近き者なりとす。

齨 說文云、齨、〈音舅、上聲之重、宇湏波、〉老人齒如臼也、


齨 説文に云はく、齨〈音は舅、上声の重、宇須波うすば〉は、老人の歯の臼のごときなりといふ。

齗 玉篇云、齗、〈音銀、波之々、〉齒之肉也、


齗 玉篇に云はく、齗〈音は銀、波之々はじし〉は歯の肉なりといふ。

腭 唐韻云、腭、〈音萼、字亦作㗁、阿歧、〉口中上腭也、


腭 唐韻に云はく、腭〈音は萼、字は亦、㗁に作る、阿岐あぎ〉は口中の上腭なりといふ。

咽喉 說文云、咽、〈於前󠄁反、哽咽之處、音悅、〉謂之嗌、〈音益、〉爾雅注󠄁云、喉、〈音侯、〉謂之嚨、〈音籠、能无度、〉


咽喉 説文に云はく、咽〈於前反、哽咽の処の音は悦〉は之れを嗌〈音は益〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、喉〈音は侯〉は之れを嚨〈音は籠、能无度のむど〉と謂ふといふ。

吭 史記云、絕亢而死、〈亢音胡郎反、又去聲、唐韵從口作吭、訓上同、俗云能无度布江、〉


吭 史記に云はく、亢を絶ちて死すといふ〈亢の音は胡郎反、又、去声、唐韻に口に従ひ吭に作る、訓は上に同じ、俗に云ふ能無度布江のむどぶえ〉。

唾 考聲切韵云、唾、〈湯臥反、都波歧、〉口中津也、


唾 考声切韻に云はく、唾〈湯臥反、都波岐つはき〉は口中の津なりといふ。



毛髮類十六


毛髪類十六

毫毛 陸詞曰、毛、〈音旄、〉膚毫也、毫、〈胡高反、〉長毛也、


毫毛 陸詞曰はく、毛〈音は旄〉は膚のなり、毫〈胡高反〉は長き毛なりといふ。

𩯭髮〈髮根附〉 說文云、𩯭、〈卑𠫤反、〉頰髮也、野王案、髮、〈音發、加美、〉首上長毛也、蘇敬本草注󠄁云、髲、〈仁𧩑音義云音被、楊玄操作髮、走孔反、又私閏反、和名加美乃禰、今案楊說是也、髲者頭髲、見容飾󠄁具󠄁、〉


鬢髪〈髪根付〉 説文に云はく、鬢〈卑吝反〉は頬の髪なりといふ。野王案ずるに、髪〈音は発、加美かみ〉は首上の長き毛なりとす。蘇敬本草注に云はく、髲〈仁諝音義に音は被と云ひ、楊玄操は髪に作り、走孔反、又、私閏反、和名は加美乃禰かみのね、今案ふるに楊説は是れなり、髲は頭髲、容飾具に見ゆ〉といふ。

䭮 唐韵云、䭮〈音拂、沼加々美、〉額前󠄁髮也、


䭮 唐韻に云はく、䭮〈音は払、沼加々美ぬかがみ〉は額の前の髪なりといふ。

髻〈鬟附〉 唐韵云、髻〈音計、毛斗々利、〉鬟也、四聲字苑云、鬟、〈音還󠄁、和名美都良、一訓上同、〉屈髮也、


髻〈鬟付〉 唐韻に云はく、髻〈音は計、毛斗々利もとどり〉は鬟なりといふ。四声字苑に云はく、鬟〈音は還、和名は美都良みづら、一訓は上に同じ〉は髪を屈するなりといふ。

鬌 文字集畧云、鬌、〈丁果反、須々之路、〉小兒剪髮所󠄁餘也、


鬌 文字集略に云はく、鬌〈丁果反、須々之路すずしろ〉は小児の剪り髪の余る所なりといふ。

髭鬚 說文云、髭、〈子移反、加美豆比介、〉口上鬚也、鬚髯、〈上音須、下如廉反、之毛都比介、〉頤下毛也、


髭鬚 説文に云はく、髭〈子移反、加美豆比介かみつひげ〉は口の上の鬚なり、鬚髯〈上の音は須、下は如廉反、之毛都比介しもつひげ〉はおとがひの下の毛なりといふ。

眉 說文云、眉、〈音麋、万由、〉目上毛也、


眉 説文に云はく、眉〈音は麋、万由まゆ〉は目の上の毛なりといふ。

睫 四聲字苑云、睫、〈音接、字亦作䀹、麻都介、〉目瞼毛也、


睫 四声字苑に云はく、睫〈音は接、字は亦、䀹に作る、麻都介まつげ〉は目瞼の毛なりといふ。



身體類十七


身体類十七

身 唐韻云、身、〈式神反、〉躬、〈音弓、又作躳、〉軀、〈音區、訓與身同、〉


身 唐韻に云はく、身〈式神反〉、躬〈音は弓、又、躳に作る〉、躯〈音は区、訓は身と同じ〉といふ。

肢躰 野王案、肢、〈章移反、字亦作𨈛、衣太、〉四躰也、體、〈他禮反、字亦作躰、〉猶形也、有形之摠稱也、


肢躰 野王案ずるに、肢〈章移反、字は亦、𨈛に作る、衣太えだ〉は四躰なり、體〈他礼反、字は亦、躰に作る〉は猶ほ形のごときなり、形有るの摠称なりとす。

𩩲𩨗 廣雅云、𩩲𩨗、〈二音曷亐、針灸經云、缺盆骨肩骨也、加太乃保禰〉、


𩩲𩨗 広雅に云はく、𩩲𩨗〈二音で曷亐、針灸経に云ふ欠盆骨は肩骨なり、加太乃保禰かたのほね〉といふ。

肩 陸詞曰、肩、〈音堅、加太、〉髆也、髆、〈音博󠄁、字亦作膊、〉肩也、


肩 陸詞曰はく、肩〈音は堅、加太かた〉は髆なり、髆〈音は博、字は亦、膊に作る〉は肩なりといふ。

胛 四聲字苑云、胛、〈音甲、加以加禰、〉肩之下也、


胛 四声字苑に云はく、胛〈音は甲、加以加禰かいがね〉は肩の下なりといふ。

腋 唐韻云、腋、〈音液、和歧、〉肘腋也、四聲字苑云、脇、〈虛業反、字亦作胠、又與脅同、〉腋下也、


腋 唐韻に云はく、腋〈音は液、和岐わき〉は肘腋なりといふ。四声字苑に云はく、脇〈虚業反、字は亦、胠に作る、又、脅と同じ〉は腋の下なりといふ。

背 玉篇云、脊〈音跡、世奈加、〉背也、


背 玉篇に云はく、脊〈音は跡、世奈加せなか〉は背なりといふ。

胷臆 唐韻云、胷、〈許容反、〉膺、〈於陵反、〉臆、〈於力反、无禰、〉也、


胸臆 唐韻に云はく、胸〈許容反〉、膺〈於陵反〉は臆〈於力反、無禰むね〉なりといふ。

乳 考聲切韻云、乳、〈而主󠄁反、上聲之重、智、〉母所󠄁以飮__子之汁也、


乳 考声切韻に云はく、乳〈而主反、上声の重、〉は母の子に飲ます所以の汁なりといふ。

腹 野王案、腹、〈音複、波良、〉所以容裹五藏者也、


腹 野王案ずるに、腹〈音は複、波良はら〉は五蔵をつつむ所以の者なりとす。

膍臍 四聲字苑云、膍臍、〈鼙齊二音、保曾、俗云倍曾〉腹孔也、


膍臍 四声字苑に云はく、膍臍〈鼙斉の二音、保曽ほそ、俗に云ふ倍曽へそ〉は腹の孔なりといふ。

水腹 釋名云、自臍以下謂之水腹、或曰小腹、〈古能加美、〉


水腹 釈名に云はく、臍より以下しもつかたは之れを水腹と謂ひ、或は小腹〈古能加美このかみ〉と曰ふといふ。

脅肋 四聲字苑云、脅〈虛業反、加太波良保禰、〉身傍、脅肋間也、文字集畧云、肋、〈音勒、太須介乃保禰、〉幹骨也、


脇肋 四声字苑に云はく、脇〈虚業反、加太波良保禰かたはらぼね〉は身のかたはら、脇肋の間なりといふ。文字集略に云はく、肋〈音は勒、太須介乃保禰たすけのほね〉は幹骨なりといふ。

[髂 唐韻云、髂、〈枯賀反、和名古之保禰、〉腰骨也、髖、〈寛反、〉兩髂間也、]


[髂 唐韻に云はく、髂〈枯賀反、和名は古之保禰こしぼね〉は腰骨なり、髖〈寛の反〉は両髂の間なりといふ。]

𦝫〈𦝫支附〉 說文云、𦝫、〈於霄反、字或作腰、古之、〉身中也、遊󠄁仙窟云細々腰支、〈師說、古之波勢、〉


𦝫〈𦝫支付〉 説文に云はく、𦝫〈於霄反、字は或に腰に作る、古之こし〉は身の中なりといふ。遊仙窟に、細々たる腰支〈師説に古之波勢こしばせ〉と云ふ。

膁 唐韻云、膁、〈苦簟反、上聲、於比之波利、〉腰左右虛肉處也、


膁 唐韻に云はく、膁〈苦簟反、上声、於比之波利おびしばり〉は腰の左右の虚肉の処なりといふ。

胯 唐韻云、胯、〈音袴、万太、〉兩股間也、


胯 唐韻に云はく、胯〈音は袴、万太また〉は両股の間なりといふ。

腿 宿曜經云、左右腿股、〈腿音退󠄁、宇智阿波勢、〉


腿 宿曜経に云はく、左右の腿股といふ〈腿の音は退、宇智阿波勢うちあはせ〉。

臀〈𡰪片附〉 唐韻云、尻〈苦刀反、之利、〉臀也、臀、〈徒渾反、俗云井佐良比、〉坐處也、𡱰、〈音竺、字亦作𡰪、辨色立成云、𡰪片、之利太无良、今案鳥獸之尻也、〉尾下孔也、


臀〈𡰪片付〉 唐韻に云はく、尻〈苦刀反、之利しり〉は臀なり、臀〈徒渾反、俗に云ふ井佐良比ゐざらひ〉は坐する処なり、𡱰〈音は竺、字は亦、𡰪に作る、弁色立成に云ふ𡰪片、之利太無良しりたむら、今案ふるに鳥獣の尻なり〉は尾の下の孔なりといふ。

骨 野王案、骨、〈音忽、保禰、〉肉之核也、針灸經注󠄁云、缺盆骨肩骨也、鳩尾骨臆前󠄁骨也、


骨 野王案ずるに、骨〈音は忽、保禰ほね〉は肉の核なりとす。針灸経注に云はく、欠盆骨は肩の骨なり、鳩尾骨は臆の前の骨なりといふ。

髓 野王案、髓、〈先累反、須禰、〉骨中脂也、


髄 野王案ずるに、髄〈先累反、須禰すね〉は骨の中の脂なりとす。

筋力 陸詞曰、筋、〈音斤、須知、〉骨、筋字從竹肉力也、周󠄀禮注󠄁云、力、〈呂職反、〉筋骸之强者也、


筋力 陸詞曰はく、筋〈音は斤、須知すぢ〉骨といふ。筋の字は竹、肉、力に従ふなり。周礼注に云はく、力〈呂職反〉は筋骸の強き者なりといふ。

肉〈腠理附〉 玉篇云、肉、〈如陸反、字亦作完、之々、〉肌膚之肉也、淮南子云、解必中腠、〈音奏、之々和歧、〉


肉〈腠理付〉 玉篇に云はく、肉〈如陸反、字は亦、完に作る、之々しし〉は肌膚の肉なりといふ。淮南子に云はく、解けば必ず腠〈音は奏、之々和岐ししわき〉にあたるといふ。

[膜 孫愐云、膜、〈音與莫同、和名太奈之々、〉肉內薄皮也、]


[膜 孫愐云はく、膜〈音は莫と同じ、和名は太奈之々たなしし〉は肉の内の薄き皮なりといふ。]

脂膏 唐韵云、膏、〈音高、〉肪、〈音方、〉脂、〈之夷反、阿布良、〉


脂膏 唐韻に云はく、膏〈音は高〉、肪〈音は方〉は脂〈之夷反、阿布良あぶら〉といふ。

血脉 野王案、血、〈音决、知、〉肉中赤汁也、脉、〈音麥、知乃美知、〉肉中血理也、


血脈 野王案ずるに血〈音は決、〉は肉の中の赤き汁なり、脈〈音は麦、知乃美知ちのみち〉は肉の中の血の理なりとす。

孔竅 唐韻云、竅、〈苦吊反、去聲、孔竅並阿奈、〉穴也、


孔竅 唐韻に云はく、竅〈苦吊反、去声、孔、竅は並びに阿奈あな〉は穴なりといふ。

皮〈皴附〉 釋名云、皮、〈音疲、加波、〉被躰也、唐韵云、皴、〈七倫也、之和、〉皮細起󠄁也、


皮〈皴付〉 釈名に云はく、皮〈音は疲、加波かは〉は体をおほふなりといふ。唐韻に云はく、皴〈七倫反、之和しわ〉は皮のこまかく起つなりといふ。

肌膚 陸詞切韻云、膚、〈音夫、字亦作肤、波太倍、〉體肌也、肌、〈音飢、賀波倍、〉膚肉也、


肌膚 陸詞切韻に云はく、膚〈音は夫、字は亦、肤に作る、波太倍はだへ〉は体の肌なり、肌〈音は飢、賀波倍かはべ〉は膚の肉なりといふ。

汗 蔣魴切韵云、汗、〈音寒、一音翰、阿勢、〉人身上𤍠汁也、


汗 蒋魴切韻に云はく、汗〈音は寒、一音に翰、阿勢あせ〉は人の身の上の熱き汁なりといふ。



臟腑類十八


臓腑類十八

五藏 中黃子云、五藏、〈去聲、〉肝心脾肺腎也、


五蔵 中黄子に云はく、五蔵〈去声〉は肝、心、脾、肺、腎なりといふ。

肝 白虎通󠄁云、肝、〈音干、歧毛、〉木之精也、色靑、


肝 白虎通に云はく、肝〈音は干、岐毛きも〉は木の精なり、色青しといふ。

心 白虎通󠄁云、心、〈息林反、〉火之精也、色赤、


心 白虎通に云はく、心〈息林反〉は火の精なり、色赤しといふ。

脾 白虎通󠄁云、脾、〈俾移反、與古之、〉土之精也、色黃、


脾 白虎通に云はく、脾〈俾移反、与古之よこし〉は土の精なり、色黄なりといふ。

肺 白虎通󠄁云、肺、〈音廢、布久布久之、〉金之精也、色白、


肺 白虎通に云はく、肺〈音は廃、布久布久之ふくぶくし〉は金の精なり、色白しといふ。

腎 白虎通󠄁云、腎、〈時忍󠄁反、上聲之重、无良度、〉水之精也、色黑、


腎 白虎通に云はく、腎〈時忍反、上声の重、無良度むらと〉は水の精なり、色黒しといふ。

六府 中黃子云、六府、大腸小腸膽胃三膲膀胱也、


六府 中黄子に云はく、六府は大腸、小腸、胆、胃、三膲、膀胱なりといふ。

大腸 中黃子云、大腸、〈音長、波良和太、〉爲傳送󠄁之府


大腸 中黄子に云はく、大腸〈音は長、波良和太はらわた〉は伝送の府と為すといふ。

小腸 中黃子云、小腸、〈楊氏漢語抄云、保曾和太、〉爲受盛之府


小腸 中黄子に云はく、小腸〈楊氏漢語抄に云ふ保曽和太ほそわた〉は受盛の府と為すといふ。

膽 中黃子云、膽、〈都敢反、以、〉爲中精之府


胆 中黄子に云はく、胆〈都敢反、〉は中精の府と為すといふ。

胃 中黃子云、胃、〈音渭、久曾布久路、〉爲五糓之府


胃 中黄子に云はく、胃〈音は渭、久曽布久呂くそぶくろ〉は五穀の府と為すといふ。

三膲 中黃子云、三膲、〈音焦、楊氏漢語抄云、美能和太、〉孤立爲中瀆之府、野王案、上中下謂之三膲也、


三膲 中黄子に云はく、三膲〈音は焦、楊氏漢語抄に云ふ美能和太みのわた〉は孤立して中涜の府と為すといふ。野王案ずるに、上中下、之れを三膲と謂ふなりとす。

膀胱 廣雅云、膀胱、〈旁光二音、楊氏漢語抄云、由波利布久路、〉脬也、唐韻云、脬、〈音胞、〉腹中水府也、


膀胱 広雅に云はく、膀胱〈旁光の二光、楊氏漢語抄に云ふ由波利布久路ゆばりぶくろ〉は脬なりといふ。唐韻に云はく、脬〈音は胞〉は腹中の水府なりといふ。

魂神 淮南子云、天氣為魂、〈多末之比、〉許愼曰、魄、陰神也、魂、陽神也、


魂神 淮南子に云はく、天気を魂〈多末之比たましひ〉と為すといふ。許愼曰はく、魄は陰神なり、魂は陽神なりといふ。



手足類十九


手足類十九

手子 遊󠄁仙窟云、手子、〈師說、太奈須惠、〉


手子 遊仙窟に云はく、手子〈師説に太奈須恵たなすゑ〉といふ。

掌 四聲字苑云、掌、〈音賞、太那古々路、日本紀私記云、手掌、太奈曾古、〉手心也、


掌 四声字苑に云はく、掌〈音は賞、太那古々路たなごころ、日本紀私記に云ふ手掌、太奈曽古たなぞこ〉は手心なりといふ。

拳 唐韻云、拳、〈音權、古布之、〉屈手也、


拳 唐韻に云はく、拳〈音は権、古布之こぶし〉は手を屈するなりといふ。

指 唐韵云、指、〈音旨、由比、俗云於與比、〉手指也、扐、〈音勒、於與比乃萬太、〉指間也、


指 唐韻に云はく、指〈音は旨、由比ゆび、俗に云ふ於与比および〉は手の指なり、扐〈音は勒、於与比乃万太およびのまた〉は指の間なりといふ。

腡 四聲字苑云、腡、〈落戈反、天乃阿夜、〉手指文也、


腡 四声字苑に云はく、腡〈落戈反、天乃阿夜てのあや〉は手の指の文なりといふ。

拇 國語注󠄁云、拇、〈音母、於保於與比、〉大指也、


拇 国語注に云はく、拇〈音は母、於保於与比おほおよび〉は大指なりといふ。

食指 左傳云、食指、〈楊氏漢語抄云、頭指、比斗佐之乃於與比、〉野王案、第二指也、


食指 左伝に云はく、食指〈楊氏漢語抄に云ふ頭指、比斗佐之乃於与比ひとさしのおよび〉といふ。野王案ずるに、第二指なりとす。

中指 儀禮云、中指、〈奈賀乃於與比、〉野王案、第三指也、


中指 儀礼に云はく、中指〈奈賀乃於与比なかのおよび〉といふ。野王案ずるに、第三指なりとす。

無名指 孟子云、無名指、〈奈々之乃於與比、〉野王案、第四指也、


無名指 孟子に云はく、無名指〈奈々之乃於与比ななしのおよび〉といふ。野王案ずるに、第四指なりとす。

季指 儀禮云、季指、〈古於與比、〉野王案、小指、第五指也、


季指 儀礼に云はく、季指〈古於与比こおよび〉といふ。野王案ずるに、小指、第五指なりとす。

腕 陸詞切韻云、腕、〈烏段反、太々无歧、俗云宇天、〉手腕也、


腕 陸詞切韻に云はく、腕〈烏段反、太々無岐ただむき、俗に云ふ宇天うで〉は手腕なりといふ。

臂 廣雅云、臂、〈音祕、〉謂之肱、〈古弘反、〉四聲字苑云、肘、〈陟柳反、或作䏔、比知、〉臂節也、


臂 広雅に云はく、臂〈音は秘〉は之れを肱〈古弘反〉と謂ふといふ。四声字苑に云はく、肘〈陟柳反、或は䏔に作る、比知ひぢ〉は臂の節なりといふ。

股 唐韻云、髀、〈傍禮反、上聲之重、與陛同、辨色立成云、圍髀、毛々、〉股也、𦙶、〈公戶反、上聲、〉古文股字也、


股 唐韻に云はく、髀〈傍礼反、上声の重、陛と同じ、弁色立成に云ふ囲髀、毛々もも〉は股なり、𦙶〈公戸反、上声〉は古文に股の字なりといふ。

膝 野王案、膝、〈音悉、比佐、〉脛頭也、


膝 野王案ずるに、膝〈音は悉、比佐ひざ〉は脛頭なりとす。

膝䯊 宿曜經云、膝珂、〈師說比佐乃加波良、今案珂宜䯊、音苦何反、見唐韵、〉野王案、𩪯、〈蒲忍󠄁反、上聲之重、字亦作臏、阿波太古、俗云阿波太、今案、𩪯與膝䯊名異實同、〉膝骨也、


膝䯊 宿曜経に云はく、膝珂〈師説に比佐乃加波良ひざのかはら、今案ふるに珂は宜しく䯊に作るべし、音は苦何反、唐韻に見ゆ〉といふ。野王案ずるに、髕〈蒲忍反、上声の重、字は亦、臏に作る。阿波太古あはたこ、俗に云ふ阿波太あはた、今案ふるに髕は膝䯊と名異なるも実は同じ〉は膝の骨なりとす。

膕 太素經注󠄁云、膕、〈戈麥反、與保路、〉曲脚中也、


膕 太素経注に云はく、膕〈戈麦反、与保路よほろ〉は曲脚の中なりといふ。

腓 陸詞曰、腓、〈音肥、訓古无良、見周易、〉脚腓也、


腓 陸詞に云はく、腓〈音は肥、訓は古無良こむら、周易に見ゆ〉は脚腓なりといふ。

胻 說文云、胻、〈胡郎反、波歧、〉脛也、釋名云、脛、〈胡定反、〉莖也、似物莖也、


胻 説文に云はく、胻〈胡郎反、波岐はぎ〉は脛なりといふ。釈名に云はく、脛〈胡定反〉は茎なり、物の茎に似るなりといふ。

脚足 釋名云、脚、〈居灼反、〉言坐時却在後也、足、〈即玉反、字從口止、〉言踵續也、趾、〈音止、訓並阿之、〉言行一進󠄁一止也、


脚足 釈名に云はく、脚〈居灼反〉と言ふは坐する時、却して後ろに在ればなり、足〈即玉反、字は口止に従ふ〉と言ふはくびすの続すればなり、趾〈音は止、訓は並びに阿之あし〉と言ふは行くに一進一止すればなりといふ。

踝 唐韻云、踝、〈胡瓦反、上聲之重、豆不奈歧、俗云豆不々之、〉足骨也、


踝 唐韻に云はく、踝〈胡瓦反、上声の重、豆不奈岐つぶなき、俗に云ふ豆不々之つぶふし〉は足の骨なりといふ。

踵 唐韻云、跟、〈音根、久比須、俗云歧比須、〉足踵也、踵、〈之隴反、〉足後也、


踵 唐韻に云はく、跟〈音は根、久比須くびす、俗に云ふ岐比須きびす〉は足の踵なり、踵〈之隴反〉は足の後ろなりといふ。

跗 儀禮注󠄁云、趺、〈方倶反、字亦作跗、阿奈比良、〉足上也、


跗 儀礼注に云はく、趺〈方倶反、字は亦、跗に作る、阿奈比良あなびら〉は足の上なりといふ。

蹠 說文云、跖、〈音尺、字亦作蹠、阿奈宇良、〉足下也、


蹠 説文に云はく、跖〈音は尺、字は亦、蹠に作る、阿奈宇良あなうら〉は足の下なりといふ。

爪甲 四聲字苑云、爪、〈音早、豆米、〉手足指上甲也、


爪甲 四声字苑に云はく、爪〈音は早、豆米つめ〉は手足の指の上の甲なりといふ。



莖垂類二十


茎垂類二十

陰 釋名云、陰、〈今案玉莖玉門等通󠄁偁也、〉䕃也、言其所󠄁在䕃翳也、


陰 釈名に云はく、陰〈今案ふるに玉茎、玉門等の通称なり〉は蔭なりといふ。言ふは其の在る所、蔭翳なればなり。

玉莖 房󠄁內經云、玉莖、〈男陰名也、〉楊氏漢語抄云、𡱼、〈破前󠄁、一云麻良、今案玉篇等、𡱼臀骨也、音課、可玉莖義不見、〉日本靈異記云、紀伊國伊都郡、有一凶人、不三寳、死時蟻着其𨳯、〈今案是閉字也、俗人或以此字男陰、以開字女陰、其說未詳、〉


玉茎 房内経に云はく、玉茎〈男陰の名なり〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、𡱼〈破前はぜ、一に云ふ麻良まら、今案ふるに玉篇等に𡱼は臀骨なり、音は課、玉茎と為すべき義見えず〉といふ。日本霊異記に云はく、紀伊国伊都郡にひとりの凶人有り、三宝を信ぜず、死ぬ時、蟻、其の𨳯〈今案ふるに是れは閉の字なり、俗人、或に此の字を以て男陰と為し、開の字を以て女陰と為す、其の説、未だ詳かならず〉に着くといふ。

陰囊 針灸經云、陰囊、〈俗云布久利、其義見疾病部陰頽下、〉太素經云、天有十日、人手有十指、辰有十二、足有十指、莖垂之二、以應之、〈今案莖者玉莖、垂者陰囊也、〉女子有陰而不二節、故得__子也、


陰囊 針灸経に云はく、陰囊〈俗に云ふ布久利ふぐり、其の義は疾病部の陰頽の下に見ゆ〉といふ。太素経に云はく、天に十日有り、人の手に十指有り、しんに十二有り、足に十指と莖、垂の二有り、以て之れに応ず〈今案ふるに、茎は玉茎、垂は陰囊なり〉、女子に陰有りて二節足らず、故に子をはらむをるなりといふ。

陰核 食療經云、食蓼及生魚、或令陰核疼、〈陰核、俗云篇乃古、〉刑德放云、丈夫淫亂割其𫝑、〈勢即陰核也、〉


陰核 食療経に云はく、蓼と生魚を食へば、或は陰核をひひらかしむといふ〈陰核は俗に云ふ篇乃古へのこ〉。刑徳放に云はく、丈夫、淫乱なれば其の勢〈勢は則ち陰核なり〉をくといふ。

玉門 房󠄁內經云、玉門、〈女陰名也、〉楊氏漢語抄云、𡱖、〈通󠄁鼻、今案俗人或曰朱門、並未詳、〉


玉門 房内経に云はく、玉門〈女陰の名なり〉といふ。楊氏漢語抄に云はく、𡱖〈通鼻つび、今案ふるに俗人、或に朱門と曰ふ。並びに未だ詳かならず〉といふ。

吉舌 楊氏漢語抄云、吉舌、〈比奈佐歧、〉


吉舌 楊氏漢語抄に云はく、吉舌〈比奈佐岐ひなさき〉といふ。

月水 針灸經云、月水不通󠄁、則灸氣穴、〈月水、俗云佐波利、〉


月水 針灸経に云はく、月水通ぜざるときには気穴を灸せよといふ〈月水は俗に云ふ佐波利さはり〉。

精液 房󠄁內經云、交接之時、精液流𣻌、[〈俗云淫、〉]


精液 房内経に云はく、交接するの時、精液流𣻌すといふ[〈俗に云ふ淫〉]。

尿 說文云、尿、〈奴吊反、由波利、〉小便也、


尿 説文に云はく、尿〈奴吊反、由波利ゆばり〉は小便なりといふ。

屁 四聲字苑云、屁䊧𥥘、〈匹鼻反、三字通󠄁、楊氏漢語抄云、放屁、倍比流〉下部出氣也、


屁 四声字苑に云はく、屁、䊧、𥥘〈匹鼻反、三字通ず、楊氏漢語抄に云ふ放屁、倍比流へひる〉は下部、気を出づるなりといふ。

屎 野王案、糞、〈府間反、久曾、又糞土、見塵土類、〉屎也、說文云、屎、〈音矢、字亦作𡱁、今案俗人呼牛馬犬等糞如弓矢之矢、是𡱁之訛也、〉大便也、


屎 野王案ずるに、糞〈府間反、久曽くそ、又、糞土は塵土類に見ゆ〉は屎なりとす。説文に云はく、屎〈音は矢、字は亦、𡱁に作る、今案ふるに俗人、牛馬犬等の糞を弓矢の矢のごとく呼ぶは、是れ𡱁の訛れるなり〉は大便なりといふ。



疾病部第四


疾病部第四

 病類廿一 瘡類廿二


 病類二十一 瘡類二十二



病類廿一


病類二十一

[灸 岐伯黃帝、善灸人疾患、]


[灸 岐伯、黄帝は善く人の疾患に灸す。]

頭風 魏志云、大祖苦頭風、[〈加之良以太木也万比、俗云豆封、〉]


頭風 魏志に云はく、大祖は頭風に苦しむといふ[〈加之良以太木也万比かしらいたきやまひ、俗に云ふふう〉]。

聾 四聲字苑云、聾、〈音籠、美々之比、〉耳不聲也、


聾 四声字苑に云はく、聾〈音は籠、美々之比みみしひ〉は、耳、声を聞かざるなりといふ。

聤耳 病源論云、聤耳、〈上音亭、美々太利、〉風𤍠耳生膿汁也、


聤耳 病源論に云はく、聤耳〈上の音は亭、美々太利みみだり〉は風熱にて耳に膿汁を生ずるなりといふ。

盲 唐韻云、盲、〈音亡、米之比、〉目无眸子也、


盲 唐韻に云はく、盲〈音は亡、米之比めしひ〉は目に眸子無きなりといふ。

淸盲 七卷食經云、凡麋幷梅李之、任身使子淸盲、〈俗云阿歧之比、〉


清盲 七巻食経に云はく、凡そ麋に梅李を并せて之れを食ひ、任身すれば子をして清盲〈俗に云ふ阿岐之比あきしひ〉ならしむといふ。

近󠄁目 食療經云、婦󠄁人任身、勿驢馬肉、令子近󠄁目、〈俗云智賀米、〉


近目 食療経に云はく、婦人、任身すれば驢馬の肉を食ふこと勿れ、子をして近目〈俗に云ふ智賀米ちかめ〉ならしむといふ。

眇 周󠄀易云、眇能視、蹇能行、〈師說眇讀須加女、蹇見下文、〉


眇 周易に云はく、眇、能く視、あしなへ、能く行くといふ〈師説に眇の読みは須加女すがめ、蹇は下文に見ゆ〉。

䁾  文選󠄁風賦云、得目爲䁾、〈亡結反、師說多々良女、〉


䁾  文選風賦に云はく、目に得れば䁾〈亡結反、師説に多々良女ただらめ〉を為すといふ。

目翳 病源論云、目膚翳、〈於麗反、俗云比、〉眼精上有物如蠅翅是也、


目翳 病源論に云はく、目膚翳〈於麗反、俗に云ふ〉は、眼精の上に物有ること蠅の翅のごときは是れなりといふ。

雀盲 病源論云、人至暮不物、世謂之雀盲、〈俗云度利女、〉謂如鳥雀暝則無__所󠄁󠄁見也、


雀盲 病源論に云はく、人、くれに至りて物を見ず、世に之れを雀盲〈俗に云ふ度利女とりめ〉と謂ふといふ。謂ふは鳥雀のくらきときには見る所無きがごときなればなり。

眩 釋名云、眩〈音懸、女久流米久夜万比、〉懸也、目所󠄁󠄁󠄁󠄁視動亂如物、搖々然不定也、


眩 釈名に云はく、眩〈音は懸、女久流米久夜万比めくるめくやまひ〉は懸くるなり、目の視る所、動乱し物を懸くるがごとく、揺揺然として定まらざるなりといふ。

塞鼻 釋名云、鼻塞曰齆、〈一共反、波奈比世、〉洟久不通󠄁󠄁󠄁󠄁󠄁、遂󠄂至窒塞也、


塞鼻 釈名に云はく、鼻塞がるを齆〈一共反、波奈比世はなびせ〉と曰ふ。はなじる久しく通ぜず、遂に窒塞するに至るなりといふ。

瘖瘂 說文云、瘖瘂、〈音鵶二音、於布之、〉不言也、


瘖瘂 説文に云はく、瘖瘂〈音鵶の二音、於布之おふし〉は言ふこと能はざるなりといふ。

吃 聲類云、吃、〈居乞反、古度々毛利、〉重言也、說文云、言語難也、


吃 声類に云はく、吃〈居乞反、古度々毛利ことどもり〉は重言なりといふ。説文に云はく、言語かたきなりといふ。

兎缺 續晉陽秋云、魏詠之生而兎缺、〈俗云宇久知、弁色立成云缺脣〉


兎欠 続晋陽秋に云はく、魏詠之は生れながらにして兎欠といふ〈俗に云ふ宇久知うぐち、弁色立成に云ふ欠脣〉。

喎僻 說文云、咼、〈口蛙反、或作喎、久知由賀无、〉口戾也、病源論云、喎僻則言語不正、


喎僻 説文に云はく、咼〈口蛙反、或は喎に作る、久知由賀無くちゆがむ〉は、口のもとるなりといふ。病源論に云はく、喎僻するときには言語正しからずといふ。

失聲〈嘶咽附〉 食療經云、食𤍠膩物、勿冷酢漿、失聲嘶咽、〈師說、失聲比古惠、嘶咽古路々久、〉


失声〈嘶咽付〉 食療経に云はく、熱膩の物を食ひて冷たき酢漿を飲むこと勿れ、失声嘶咽すといふ〈師説に失声は比古恵ひごゑ、嘶咽は古路々久ころろく〉。

哽咽 唐韻云、哽噎、〈綆悅二音、噎亦作咽、无須、〉食塞也、


哽咽 唐韻に云はく、哽噎〈綆悦の二音、噎は亦、咽に作る、无須むす〉は食ふたがるなりといふ。

噦噎 唐韵云、噦噎、〈上乙劣反、楊氏漢語抄云、噦噎、佐久利、上於越反、〉逆󠄁氣也、


噦噎 唐韻に云はく、噦噎〈上は乙劣反、楊氏漢語抄に云ふ噦噎、佐久利さくり、上は於越反〉は逆気なりといふ。

喘息 唐韵云、歂、〈昌兗反、字亦作喘、阿倍歧、〉口氣引貌也、


喘息 唐韻に云はく、歂〈昌兗反、字は亦、喘に作る、阿倍岐あへぎ〉は口気引くかたちなりといふ。

欬𠲿 病源論云、欬欶、〈亥束二音、字亦作咳𠲿、之波不歧、〉肺寒則成之、


欬𠲿 病源論に云はく、欬欶〈亥束の二音、字は亦、咳𠲿に作る、之波不岐しはぶき〉は、肺、寒するときには之れを成すといふ。

歐吐 病源論云、胃氣逆󠄁則歐吐、〈上於后反、字亦作嘔、倍止都久、又太万比、〉


欧吐 病源論に云はく、胃気、逆するときには欧吐すといふ〈上は於后反、字は亦、嘔に作る、倍止都久へどつく、又、太万比たまひ〉。

唾血 極要方云、唾血、〈知波久、唾已出上文、〉一緣內傷、一緣積𤍠、有此病矣、


唾血 極要方に云はく、唾血〈知波久ちはく、唾は已に上文に出づ〉、あるは内傷にり、一は積熱に縁りて此の病有りなむといふ。

津頤 病源論云、津頤、〈與太利、〉小兒多涎唾、流出於頤下也、


津頤 病源論に云はく、津頤〈与太利よだり〉は、小児の、涎唾多く、頤の下に流れ出づるなりといふ。

哯吐 病源論云、哯吐、〈上音見、豆太美、〉小兒由哺乳冷𤍠不__調所󠄁致也、


哯吐 病源論に云はく、哯吐〈上の音は見、豆太美つだみ〉は、小児の、哺乳に冷熱調ととのはざるにりて致す所なりといふ。

喉痺 病源論云、喉痺、〈侯婢二音、俗訛云古比、〉喉裏腫塞痺痛、水漿不入、是也、


喉痺 病源論に云はく、喉痺〈侯婢の二音、俗に訛りて云ふ古比こひ〉、喉のうち、腫れ塞がりしびれ痛み、水漿すらるを得ず、是れなりといふ。
齞脣 說文云、齞、〈牛善反、文選󠄁云齞脣、師說阿以久知、〉口張齒見也、

齞脣 説文に云はく、齞〈牛善反、文選に云ふ齞脣、師説に阿以久知あいくち〉は口張りて歯のあらはるるなりといふ。

重舌 病源論云、舌本血脉脹然、變生舌之狀、謂之重舌也、[〈俗云古之太、〉]


重舌 病源論に云はく、舌の本、血脈脹然として変じて舌のごときかたちを生ず、之れを重舌と謂ふなりといふ[〈俗に云ふ古之太こじた〉]。

𦧴𦧝 張揖曰、𦧴𦧝、〈灘天二音、之多都歧、〉舌不正也、


𦧴𦧝 張揖曰はく、𦧴𦧝〈灘天の二音、之多都岐したつき〉は、舌の正しからざるなりといふ。

齵齒 蒼頡篇云、齵、〈五溝反、又音隅、齵齒、於曾波〉齒重生也、


齵歯 蒼頡篇に云はく、齵〈五溝反、又の音は隅、齵歯は於曽波おそは〉は歯の重なり生ずるなりといふ。

歷齒 文選󠄁好色賦云、歷齒、〈師說波和加禮、〉


歴歯 文選好色賦に云はく、歴歯〈師説に波和加礼はわかれ〉といふ。

齲齒 釋名云、齲、〈倶禹反、齲齒、无之加女波、〉朽也、蟲齧之、齒缺朽也、


齲歯 釈名に云はく、齲〈倶禹反、齲歯は無之加女波むしかめは〉は朽つるなり、虫、之れをみて、歯欠け朽つるなりといふ。

齘齒 錄驗方云、齘齒、〈上胡戒反、波賀美、〉睡眠而齒相切有聲也、令人取其席下土口中使知則止矣、


齘歯 録験方に云はく、齘歯〈上は胡戒反、波賀美はがみ〉は睡眠して歯相切して声有るなり、人をして其の席の下の土を取り、口中にれしめ、知らしむることければ止みぬといふ。

[㦣 孫愐云、㦣〈子例反、〉寐言也、〈今案、和名禰古止、〉]


[㦣 孫愐云はく、㦣〈子例反〉は寐言なり〈今案ふるに和名は禰古止ねごと〉。]

齭 說文云、齭、〈音所󠄁、此間云、波井留、〉齒傷酢也、


齭 説文に云はく、齭〈音は所、此間ここに云ふ波井留はゐる〉は、歯の酢にやぶるるなりといふ。

䫴齘 孫愐云、䫴齘、切齒怒也、〈上音渠飮反、〉


䫴齘 孫愐に云はく、䫴齘は歯をくひしばりていかるなりといふ。〈上の音は渠飲反〉

胡臭 病源論云、胡臭、〈和歧久曾、〉人腋下臭如葱豉之氣也、亦謂之狐臭、如狐狸之氣也、


胡臭 病源論に云はく、胡臭〈和岐久曽わきくそ〉は、人の腋の下くさきこと葱豉の気のごときなりといふ。亦、之れを狐臰と謂ふは、狐狸の気のごとくなればなり。

脚氣 毉家書有脚氣論、〈脚氣、一云脚病、俗云阿之乃介、〉


脚気 医家書に脚気論有り〈脚気は一に云ふ脚病、俗に云ふ阿之乃介あしのけ〉。

痿痺 蒼頡篇云、痿痺、〈萎婢二音、比留无夜末比、〉不行也、


痿痺 蒼頡篇に云はく、痿痺〈萎婢の二音、比留無夜末比ひるむやまひ〉は行くこと能はざるなりといふ。

轉筋 脚氣論云、轉筋、〈古无良加倍利、一云加良湏奈米理、〉由脚弱󠄁所󠄁生也、


転筋 脚気論に云はく、転筋〈古無良加倍利こむらがへり、一に云ふ加良須奈米理からすなめり〉は脚弱きに由りて生ずる所なりといふ。

尰 毛詩注󠄁云、腫足曰尰、〈唐韵時穴反、足病也、弁色立成云、於賣阿志、此間云、古比、〉又卑濕之地、其人多尰、


尰 毛詩注に云はく、足腫るるを尰〈唐韻に時穴反、足の病なり、弁色立成に云ふ於売阿志おめあし、此間に云ふ古比こひ〉と曰ひ、又、卑湿の地、其の人に尰多しといふ。

蹇 說文云、蹇、〈音犬、訓阿之奈閇、此間云、那閇久、〉行不正也、


蹇 説文に云はく、蹇〈音は犬、訓は阿之奈閉あしなへ、此間に云ふ那閉久なへぐ〉は行くこと正しからざるなりといふ。

騈拇 荘子云、騈拇枝指、〈騈音薄堅反、騈拇、此間云、无豆於與非、〉


駢拇 荘子に云はく、駢拇、枝指といふ〈駢の音は薄堅反、駢拇は此間に云ふ無豆於与非むつおよび〉。

癥瘕 蒼頡篇云、癥瘕、〈徴嫁二音、今案醫家書有魚瘕蛇瘕等、師傳云加女波良、此類也〉腹中病也、


癥瘕 蒼頡篇に云はく、癥瘕〈徴嫁の二音、今案ふるに医家の書に魚瘕、蛇瘕等有り、師伝に云ふ加女波良かめばらは此の類なり〉は腹中の病なりといふ。

痞 錄驗方云、痞〈符鄙反、上聲之重、衣賀波良、〉小兒腹病也、唐韻云、腹內結病也、


痞 録験方に云はく、痞〈符鄙反、上声の重、衣賀波良えがはら〉は小児の腹の病なりといふ。唐韻に云はく、腹内の結病なりといふ。

疝 釋名云、疝、〈音山、阿太波良、一云之良太美、〉腹急痛也、


疝 釈名に云はく、疝〈音は山、阿太波良あたばら、一に云ふ之良太美しらたみ〉は、腹の急に痛むなりといふ。

蚘虫 唐韵云、蚘、〈音與廻同、〉人腹中長虫也、病源論云、蚘虫、〈今案一名寸白、俗云加以、又云阿久太、〉飮白酒生栗等所󠄁成也、


蚘虫 唐韻に云はく、蚘〈音は廻と同じ〉は人の腹中の長虫なりといふ。病源論に云はく、蚘虫〈今案ふるに一名にばく、俗に云ふ加以かい、又云ふ阿久太あくた〉は白酒を飲み、生栗を食ふ等して成す所なりといふ。

痮 字書云、痮、〈音悵、亦作脹、波良不久流、〉腹滿也、


痮 字書に云はく、痮〈音は悵、亦、脹に作る、波良不久流はらふくる〉は腹満つるなりといふ。

痔 說文云、痔、〈治里反、上聲之重、智乃夜万比、〉後病也、四聲字苑云、痔、〈今案俗云、之利乃夜万比、〉虫食下部病也、


痔 説文に云はく、痔〈治里反、上声の重、智乃夜万比ぢのやまひ〉はしりへの病なりといふ。四声字苑に云はく、痔〈今案ふるに、俗に云ふ之利乃夜万比しりのやまひ〉は虫、下部を食ふ病なりといふ。

脫疘 病源論云、脫疘、〈疘音古、字亦作肛、之利以豆流夜万比、〉肛門脫出也、久痢則大腸虛冷所󠄁爲也、


脱疘 病源論に云はく、脱疘〈疘の音は古、字は亦、肛に作る、之利以豆流夜万比しりいづるやまひ〉は、肛門脱け出づるなりといふ。久しく痢するときには大腸虚冷して為す所なりといふ。

痢 釋名云、痢、〈音利、久曾比理乃夜万比、〉言出漏之利也、


痢 釈名に云はく、痢〈音は利、久曽比理乃夜万比くそひりのやまひ〉、言ふは出漏するやまひなればなりといふ。

㿃 釋名云、痢赤白曰㿃、〈音帶、赤痢知久曾、白痢奈女、〉言滯而難出也、葛氏方云、重下、〈俗云之利於毛、〉今所󠄁謂赤白痢也、言令下部疼重、故以名之、


㿃 釈名に云はく、痢の赤白なるを㿃〈音は帯、赤痢は知久曽ちくそ、白痢は奈女なめ〉と曰ふといふ。言ふは滞りて出で難きなればなり。葛氏方に云はく、重下〈俗に云ふ之利於毛しりおも〉は今の所謂る赤白痢なりといふ。言ふは下部をして疼重ならしむればなり。故に以て之れを名く。

淋病 聲類云、淋、〈音林、字亦作痳、之波由波利、〉小便數也、


淋病 声類に云はく、淋〈音は林、字は亦、痳に作る、之波由波利しばゆばり〉は、小便しばしばなりといふ。

臨瀝 病源論云、臨瀝、〈音歷、之太天由波利、〉小便滴瀝也、


臨瀝 病源論に云はく、臨瀝〈音は歴、之太天由波利したでゆばり〉は、小便滴瀝しただるなりといふ。

長血 小品方云、婦󠄁人長血、〈奈賀知、又有白血、〉


長血 小品方に云はく、婦人に長血〈奈賀知ながち、又、しら有り〉といふ。

產後腹 新撰要方云、婦󠄁人產後腹痛、〈俗云之利波良、〉取大豆二七枚之、


産後腹 新撰要方に云はく、婦人の産後の腹痛〈俗に云ふ之利波良しりばら〉に大豆二七枚を取りて之れを呑むといふ。

陰頽 針灸經云、治陰頽方、〈頽音杜回反、一名下重、俗云曾比、〉令莖頭下、向陰囊縫、當頭所󠄁着處、灸其縫上七、即有驗矣、


陰頽 針灸経に云はく、陰頽を治する方〈頽の音は杜回反、一名は下重、俗に云ふ曽比そび〉は茎頭を下げ、陰囊縫に向はしめ、頭の着くる処に当り、其の縫の上に灸すること七たびすれば、即ちしるし有りなむといふ。

疫 說文云、疫、〈音役、衣夜美、一云度歧乃介、〉民皆病也、


疫 説文に云はく、疫〈音は役、衣夜美えやみ、一に云ふ度岐乃介ときのけ〉は、民、皆病むなりといふ。

癘 說文云、癘、〈音例、阿之歧夜万比、〉惡疾也、


癘 説文に云はく、癘〈音は例、阿之岐夜万比あしきやまひ〉は悪しき疾なりといふ。

癲狂 唐令云、癲狂酗酒、皆不侍衞之官、〈癲音天、狂訓太布流、俗云毛乃久流比、〉本朝令義解云、癲發時仆地吐涎沫、無所󠄁覺也、狂或自欲走、或自高偁聖賢者也、


癲狂 唐令に云はく、癲狂、酗酒は皆、侍衛の官に居ること得じといふ〈癲の音は天、狂の訓は太布流たふる、俗に云ふ毛乃久流比ものぐるひ〉。本朝令義解に云はく、癲あらはるる時、地にたふれ涎沫を吐き、覚ゆる所無きなり。狂は、或は自ら走らんと欲し、或は自ら高くし聖賢と称する者なりといふ。

失意 日本紀私記云、失意、〈古々路万都比、〉


失意 日本紀私記に云はく、失意〈古々路万都比こころまどひ〉といふ。

酗酒 唐韻云、酗、〈香句反、一云酒狂、俗云佐加々理、〉醉怒也、


酗酒 唐韻に云はく、酗〈香句反、一に云ふ酒狂、俗に云ふ佐加々理さかかり〉は酔ひ怒るなりといふ。

痟𤸎 病源論云、消󠄁渴、〈今案四聲字苑作痟𤸎、音與消󠄁渴同、俗云加知乃夜万比、〉渴而不小便也、


痟𤸎 病源論に云はく、消渇〈今案ふるに四声字苑に痟𤸎に作り、音は消渇と同じ、俗に云ふ加知乃夜万比かちのやまひ〉は渇して小便せざるなりといふ。

黃疸 病源論云、黃疸、〈音旦、一云黃病、歧波无夜万比、〉身體面目爪甲及小便盡黃之病也、


黄疸 病源論に云はく、黄疸〈音は旦、一に云ふ黄病、岐波無夜万比きばむやまひ〉は身体、面目、爪甲、及び小便、ことごとく黄ばむの病なりといふ。

霍亂 漢書云、南越多霍亂之病、〈霍亂、俗云之利與理久智與理古久夜万比、〉


霍乱 漢書に云はく、南越に霍乱の病多しといふ〈霍乱は俗に云ふ之利与理久智与理古久夜万比しりよりくちよりこくやまひ〉。

瘧病 說文云、瘧、〈音虐、俗云衣夜美、一云和良波夜美、〉𤍠寒並作、二日一發之病也、


瘧病 説文に云はく、瘧〈音は虐、俗に云ふ衣夜美えやみ、一に云ふ和良波夜美わらはやみ〉は熱寒、並びにおこり、二日に一たびおこるの病なりといふ。

苦船 辨色立成云、苦船、〈布奈夜毛非、〉


苦船 弁色立成に云はく、苦船〈布奈夜毛非ふなやもひ〉といふ。

瘼臥 日本紀私記云、瘼臥、〈乎江不世理、瘼音莫、〉


瘼臥 日本紀私記に云はく、瘼臥〈乎江不世理をえふせり、瘼の音は莫〉といふ。

擇食 辨色立成云、擇食、〈豆波利、楊氏說同、〉


択食 弁色立成に云はく、択食〈豆波利つはり、楊氏の説同じ〉といふ。



瘡類廿二


瘡類二十二

瘡 唐韻云、瘡、〈音倉、加佐、〉痍也、痍、〈音夷、歧須、〉瘡也、瘢、〈音般、加佐度古路、〉瘡痕也、四聲字苑云、痕、〈戶恩反、訓上同、一訓歧波、〉故瘡處也、廣雅云、痂、〈音家、加佐布太、〉瘡上甲也、


瘡 唐韻に云はく、瘡〈音は倉、加佐かさ〉は痍なり、痍〈音は夷、岐須きず〉は瘡なり、瘢〈音は般、加佐度古路かさどころ〉は瘡痕なりといふ。四声字苑に云はく、痕〈戸恩反、訓は上に同じ、一訓に岐波きは〉は故き瘡の処なりといふ。広雅に云はく、痂〈音は家、加佐布太かさぶた〉は瘡の上の甲なりといふ。

丁瘡 千金方云、治丁瘡方云、丁、〈或本丁作疔、未詳、〉


瘡 千金方に云はく、丁瘡を治する方に丁〈或本に丁は疔に作る、未だ詳かならず〉と云ふといふ。

丹毒瘡 掌中要方云、丹、〈或本作𰣤、未詳、〉惡毒之氣、其色無常、


丹毒瘡 掌中要方に云はく、丹〈或本に𰣤に作る、未だ詳かならず〉は悪毒の気、其の色に常無しといふ。

疽 說文云、疽、〈七余反、俗云去聲、一名發背、〉久癰也、


疽 説文に云はく、疽〈七余反、俗に云ふ去声、一名に発背〉は久しき癰なりといふ。

癰 釋名云、癰、〈於容反、俗云去聲、〉氣壅結而不潰也、


癰 釈名に云はく、癰〈於容反、俗に云ふ去声〉は気、壅結してつぶれざるなりといふ。

瘭疽 集驗方云、瘭疽、〈瘭音標、俗云倍宇曾、〉血氣否澁而所󠄁生也、


瘭疽 集験方に云はく、瘭疽〈瘭の音は標、俗に云ふ倍宇曽へうそ〉は血気、否渋して生ずる所なりといふ。

乳癰 四聲字苑云、𤴱、〈當故反、與妬同、俗云知布、〉婦󠄁人乳腫也、釋名云、乳癰曰妬、〈今案妬宜𤴱、見上文、〉妬貯也、積不通󠄁也、言氣貯積不通󠄁也、


乳癰 四声字苑に云はく、𤴱〈当故反、妬と同じ、俗に云ふ知布ちぶ〉は、婦人、乳腫るるなりといふ。釈名に云はく、乳癰を妬〈今案ふるに妬は宜しく𤴱に作るべし、上文に見ゆ〉と曰ひ、妬は貯なり、積して通ぜざるなりといふ。言ふは気、貯積して通ぜざればなり。

痤 唐韻云、痤、〈昨禾反、邇歧美、〉小癤也、


痤 唐韻に云はく、痤〈昨禾反、邇岐美にきみ〉は小癤なりといふ。

癤 病源論云、癰癤、〈音節、字亦作𤻛、賀太禰、〉血結聚所󠄁生也、


癤 病源論に云はく、癰癤〈音は節、字は亦、𤻛に作る、賀太禰かたね〉は、血、結聚して生ずる所なりといふ。

浸淫瘡 病源論云、浸淫瘡、〈俗云心美佐宇、〉風𤍠發於肌膚也、


浸淫瘡 病源論に云はく、浸淫瘡〈俗に云ふしん美佐宇みさう〉は風熱、肌膚におこるなりといふ。

皰瘡 唐韻云、皰、〈防敎反、〉面瘡也、類聚國史云、仁壽二年皰瘡流行、人民疫死、〈皰瘡、此間云、毛加佐、〉


皰瘡 唐韻に云はく、皰〈防教反〉は面瘡なりといふ。類聚国史に云はく、仁寿二年に皰瘡流行し人民疫死すといふ〈皰瘡は此間に云ふ毛加佐もがさ〉。

癭瘻 說文云、癭瘻、〈郢漏二音、俗云路、〉頸腫也、


癭瘻 説文に云はく、癭瘻〈郢漏の二音、俗に云ふ〉は頸腫るるなりといふ。

瘤 病源論云、瘤、〈音留、之比禰、〉皮肉急腫起󠄁、初如梅李、漸長大不癢不痛又不堅强者也、


瘤 病源論に云はく、瘤〈音は留、之比禰しひね〉は皮肉、急に腫起す、初めは梅李のごとし、やうやく長大なり、かゆからず、痛からず、又、堅強ならざる者なりといふ。

瘜肉 說文云、瘜、〈音息、又作𦞜、瘜肉、阿末之々、又古久美、〉寄肉也、


瘜肉 説文に云はく、瘜〈音は息、又、𦞜に作る、瘜肉は阿末之々あまじし、又、古久美こくみ〉は寄肉なりといふ。

附贅 莊子云、附贅、懸疣、〈贅音制、俗云布須倍、〉


附贅 荘子に云はく、贅懸疣ぜいけんゆう〈贅の音は制、俗に云ふ布須倍ふすべ〉といふ。

懸疣 釋名云、疣、〈音尤、又音宥、懸疣、佐賀利布須倍、〉丘也、出皮上聚高如地之有__丘也、


懸疣 釈名に云はく、疣〈音は尤、又の音は宥、懸疣は佐賀利布須倍さがりふすべ〉は丘なり、皮の上に出でて聚り高まり、地の丘有るがごときなりといふ。

肬目 病源論云、肬目、〈今案肬即疣字也、以比保、又以乎女、〉手足邊忽生如豆、麁强於肉者也、


肬目 病源論に云はく、肬目〈今案ふるに肬は即ち疣の字なり、以比保いひぼ、又、以乎女いをめ〉は、手足の辺にたちまちに生じて豆のごとし、あらくして肉より強き者なりといふ。

耵聹 孫愐曰、耵聹〈丁寧二音、美々久曾、〉耳垢也、


耵聹 孫愐曰はく、耵聹〈丁寧の二音、美々久曽みみくそ〉は耳垢なりといふ。

疥癩 內典云、疥癩〈介賴二音、波太介、〉


疥癩 内典に云はく、疥癩〈介頼の二音、波太介はだけ〉といふ。

癬 說文云、癬〈音淺、俗云錢加佐、〉乾瘍也、


癬 説文に云はく、癬〈音は浅、俗に云ふぜに加佐がさ〉は乾瘍なりといふ。

瘍〈禿附〉 說文云、瘍、〈音楊、賀之良加佐、〉頭瘡也、周󠄀禮注󠄁云、禿、〈土木反、加不路、〉頭瘡也、野王案、無髮也、


瘍〈禿付〉 説文に云はく、瘍〈音は楊、賀之良加佐かしらがさ〉は頭瘡なりといふ。周礼注に云はく、禿〈土木反、加不路かぶろ〉は頭瘡なりといふ。野王案ずるに髪無きなりとす。

鬼舐頭 病源論云、鬼舐頭、〈師說云、爲天狗下食所󠄁__舐是、〉人頭或如錢大、或如指大、髮不生也、


鬼舐頭 病源論に云はく、鬼舐頭〈師説に云はく、天狗じきして舐むる所と為すは是れ〉は人の頭、或は銭の大きさのごとく、或は指の大きさのごとくに髪えざるなりといふ。

皯 玉篇云、皯、〈古但反、久路久佐、〉面黑氣也、


皯 玉篇に云はく、皯〈古但反、久路久佐くろくさ〉は面の黒気なりといふ。

䵴 唐韻云、䵴、〈音孕、於毛波々久曾、〉面黑子也、


䵴 唐韻に云はく、䵴〈音は孕、於毛波々久曽おもははくそ〉は面の黒子なりといふ。

漆瘡 病源論云、漆瘡、〈宇流之加不禮、〉人見漆中其毒而腫是也、


漆瘡 病源論に云はく、漆瘡〈宇流之加不礼うるしかぶれ〉は、人、漆を見て其の毒にあたりて腫る、是れなりといふ。

𤍠沸瘡 四聲字苑云、疿、〈音佛、〉𤍠時細瘡也、新錄方云、治夏月𤍠沸瘡、〈阿世毛、今案沸宜疿乎、〉


熱沸瘡 四声字苑に云はく、疿〈音は仏〉は熱き時の細瘡なりといふ。新録方に云はく、夏月に熱沸瘡〈阿世毛あせも、今案ふるに沸は宜しく疿に作るべきか〉を治すといふ。

飼面 病源論云、飼面、〈加須毛、〉面皮上有滓也、


飼面 病源論に云はく、飼面〈加須毛かすも〉は面皮の上に滓有るなりといふ。

皶鼻 野王案、皶、〈音砂、邇歧美波奈、〉鼻上皰也、


皶鼻 野王案ずるに、皶〈音は砂、邇岐美波奈にきみはな〉は鼻の上の皰なりとす。

胗 唐韻云、胗、〈音軫、久智比々、〉脣瘡也、


胗 唐韻に云はく、胗〈音は軫、久智比々くちひび〉は脣の瘡なりといふ。

白癜 病源論云、白癜、〈一云白電、之良波太、〉人面及身頸皮肉色變白亦不痛癢者也、


白癜 病源論に云はく、白癜〈一に云ふ白電、之良波太しらはだ〉は、人、面及び身、頸の皮肉、色白く変じ、亦、痛癢せざる者なりといふ。

歷易 病源論云、歷易、〈奈末豆波太、〉人頸及胸前󠄁掖下、自然斑點相連不痛不癢者也、


歴易 病源論に云はく、歴易〈奈末豆波太なまづはだ〉は、人、頸及び胸の前、掖の下、自然と斑点相連なり、痛からず、癢からざる者なりといふ。

疵 晋書云、趙孟面有二疵、〈疾移反、師說阿佐、〉


疵 晋書に云はく、趙孟の面に二疵有りといふ〈疾移反、師説に阿佐あざ〉。

黑子 漢書注󠄁云、黑子、〈波々久曾、〉今中國呼黶子、〈黶音烏蕇反、〉吳楚俗謂之誌、〈音志、〉誌者記也、


黒子 漢書注に云はく、黒子〈波々久曽ははくそ〉は今、中国に黶子〈黶の音は烏蕇反〉と呼び、呉楚の俗に之れを誌〈音は志〉と謂ふ、誌は記すなりといふ。

代指 集驗方云、代指、〈豆万波良米、〉無毒、由筋骨中𤍠盛所󠄁生也、


代指 集験方に云はく、代指〈豆万波良米つまばらめ〉は毒無し、筋骨中、熱盛んなるに由り生ずる所なりといふ。

瘃 漢書音義云、瘃、〈陟玉反、比美、弁色立成云、之毛久知、〉手足中寒作瘡也、


瘃 漢書音義に云はく、瘃〈陟玉反、比美ひみ、弁色立成に云ふ之毛久知しもくち〉は手足、寒に中りて瘡とすなりといふ。

皹 漢書注󠄁云、皹、〈音軍、阿加々利、〉手足坼裂也、


皹 漢書注に云はく、皹〈音は軍、阿加々利あかがり〉は手足、坼裂するなりといふ。

肉剌 病源論云、肉剌、〈乃以須美、〉脚指間生肉如剌、由靴小、相揩而所󠄁生也、


肉刺 病源論に云はく、肉刺〈乃以須美のいずみ〉は脚指の間に肉を生じとげのごとし、靴の小なるを着けるに由り、相りて生ずる所なりといふ。

癮胗 四聲字苑云、癮胗、〈隱軫二音、知々保无、一云知々波久留、〉皮外小起󠄁也、


癮胗 四声字苑に云はく、癮胗〈隠軫の二音、知々保無ちちほむ、一に云ふ知々波久留ちちはくる〉は皮の外に小さく起るなりといふ。

風癮胗 病源論云、風癮胗、〈加佐保路之、〉人皮膚虛爲風寒所󠄁__折則起󠄁也、


風癮胗 病源論に云はく、風癮胗〈加佐保路之かざほろし〉は、人、皮膚虚して風寒の折る所とれば則ち起るなりといふ。

㿺 聲類云、㿺、〈北角反、又薄駿反、布久流、〉肉憤起󠄁也、


㿺 声類に云はく、㿺〈北角反、又、薄駿反、布久流ふくる〉は肉のいきつなりといふ。

腫 山海經云、㾈、〈音符、一音府、今案俗人所󠄁謂乳㾈齒㾈、宜此字、〉腫也、野王案、瘇〈之勇反、字亦作腫、波留、〉身體㿺起󠄁虛滿也、


腫 山海経に云はく、㾈〈音は符、一音に府、今案ふるに俗人の所謂る乳㾈、歯㾈は宜しく此の字を用ゐるべし〉は腫なりといふ。野王案ずるに、𤺄〈之勇反、字は亦、腫に作る、波留はる〉は、身体、㿺起し虚満するなりとす。

膿 四聲字苑云、膿、〈音農、訓宇无、又云宇美之留、〉瘡汁也、說文云、膿腫血也、


膿 四声字苑に云はく、膿〈音は農、訓は宇無うむ、又云ふ宇美之留うみじる〉は瘡の汁なりといふ。説文に云はく、膿は腫の血なりといふ。

疻 漢書音義云、疻、〈音脂、訓宇流无、〉以杖擊人、其膚皮起󠄁靑黑也、


疻 漢書音義に云はく、疻〈音は脂、訓は宇流無うるむ〉といふ。杖を以て人を撃てば、其の膚皮に起りて青黒きなり。

疼 說文云、疼、〈徒冬反、訓比々良久、〉動痛也、


疼 説文に云はく、疼〈徒冬反、訓は比々良久ひひらく〉は動痛なりといふ。

痛 釋名云、痛、〈音洞、訓伊太之、〉通󠄁也、通󠄁在膚脉中也、


痛 釈名に云はく、痛〈音は洞、訓は伊太之いたし〉は通るなり、通りて膚脈中に在るなりといふ。

癢 釋名云、癢、〈餘兩反、與養同、加由之、〉揚也、其氣在皮中、欲發揚、使人搔發而揚出也、


癢 釈名に云はく、癢〈余両反、養と同じ、加由之かゆし〉は揚るなり、其の気、皮の中に在り、発揚せむと欲し、人をして搔発して揚出せしむるなりといふ。

痂 廣雅云、痂、〈音加、訓加佐不太、〉瘡上甲也、


痂 広雅に云はく、痂〈音は加、訓は加佐不太かさぶた〉は瘡上の甲なりといふ。

痕 四聲字苑云、痕、〈戶恩反、加佐度古呂、一訓與痍同、一訓歧波、浪痕、涙痕等是也、〉


痕 四声字苑に云はく、痕〈戸恩反、加佐度古呂かさどころ、一訓は痍と同じ、一訓は岐波きは、浪痕、涙痕等は是れなり〉といふ。



術藝部第五〈文字集略術藝部云、術法也、藝能也、〉


術芸部第五〈文字集略術芸部に云はく、術は法なり、芸は能なりといふ〉

 射藝類廿三 射藝具󠄁廿四 雜藝類廿五 雜藝具󠄁廿六


 射芸類二十三 射芸具二十四 雑芸類二十五 雑芸具二十六



射藝類廿三〈射音謝、一音石、又作䠶、訓由美以留、又云弓弩發於身於遠󠄁、故字從身矢也、〉


射芸類二十三〈射の音は謝、一音に石、又、䠶に作る、訓は由美以留ゆみいる、又云はく、弓弩は身より発し遠につ。故に字は身、矢に従ふなりといふ〉

騎射 漢書云、甘延壽、以良家子騎射、楊氏漢語抄云、馬射、〈宇末由美、今案馬射即騎射也、〉


騎射 漢書に云はく、甘延寿、良家のを以て騎射を善くすといふ。楊氏漢語抄に云ふ馬射〈宇末由美うまゆみ、今案ふるに馬射は即ち騎射なり〉。

步射 李太尉步射法云、夫步射、以目先領其特心之、〈步射、和名加知由美、今案特心者的異名乎、〉


歩射 李太尉歩射法に云はく、夫れ歩射は目を以てづ其の特心を領し、之れを射るといふ〈歩射の和名は加知由美かちゆみ、今案ふるに特心なる者は的の異名か〉。

細射 唐鹵簿令云、細射弓箭、〈今案此間云、末々歧由美、是也、〉


細射 唐鹵簿令に云はく、細射弓箭といふ〈今案ふるに此間に云ふ末々岐由美ままきゆみは是れなり〉。

遠󠄁射 淮南子云、越人學遠󠄁射、參天而發、楊氏漢語抄云、射遠󠄁、〈止保奈計、今案遠󠄁射即射遠󠄁也、〉


遠射 淮南子に云はく、越人、遠射を学び、天にいたりて発すといふ。楊氏漢語抄に云ふ射遠〈土保奈計とほなげ、今案ふるに遠射は即ち射遠なり〉。

六射 諸葛亮六射教云、射或山林樹木皆以爲的、〈今案本朝式云、五月五日左右近󠄁衞府射六的、是也〉


六射 諸葛亮六射教に云はく、射るに或は山林の樹木、皆以て的と為すといふ〈今案ふるに本朝式に云ふ、五月五日に左右近衛府、六的を射るは是れなり〉。

馳射 後漢書云、馳射、〈今案俗云、於无毛乃以流、〉


馳射 後漢書に云はく、馳射〈今案ふるに俗に云ふ於無毛乃以流おむものいる〉といふ。

弋射 唐韻云、弋、〈與軄反、以豆留、〉弋射也、四聲字苑云、矰、〈蘇曾反、〉弋射矢也、繳、〈之藥反、〉矰繳所󠄁以加飛鳥也、


弋射 唐韻に云はく、弋〈与職反、以豆留いづる〉は弋射なりといふ。四声字苑に云はく、矰〈蘇曽反〉は弋射の矢なり、繳〈之薬反〉は矰繳、飛ぶ鳥にする所以なりといふ。

照射〈蹤血附〉 續搜神記云、聶友、少時家貧、常照射、見一白鹿、射中之、明晨尋󠄁蹤血、〈今案此間云照射、止毛之、蹤血、波加利、〉


照射〈蹤血付〉 続搜神記に云はく、聶友、をさなき時、家貧しく常に照射す、一の白鹿を見、射て之れにて、明晨に蹤血を尋ぬといふ〈今案ふるに此間に照射を土毛之ともし、蹤血を波加利はかりと云ふ〉。

戱射 郭璞方言注󠄁云、平󠄁題者今之戱射箭也、〈今案戱射、此間云、佐以多天、是乎、平󠄁題見征戰具󠄁、〉


戯射 郭璞方言注に云はく、平題は今の戯射の箭なりといふ〈今案ふるに戯射、此間に云ふ佐以多天さいだては是れか、平題は征戦具に見ゆ〉。



射藝具󠄁廿四


射芸具二十四

射韝 說文云、韝、〈古侯反、多末歧、一云小手、又見鷹具󠄁、〉射臂沓也、


射韝 説文に云はく、韝〈古侯反、多末岐たまき、一に云ふ小手、又、鷹具に見ゆ〉は射る臂の沓なりといふ。

弽 毛詩注󠄁云、弽、〈音攝、和名由美加介、〉抉也、能射馭則佩之、周󠄀禮注󠄁云、抉、〈音決、〉挾矢時、所󠄁以持__弦之飾󠄁也、


弽 毛詩注に云はく、弽〈音は摂、和名は由美加介ゆみかけ〉は抉なり、能く射馭せんときには之れをぶといふ。周礼注に云はく、抉〈音は決〉は矢を挟む時、弦を持する所以の飾りなりといふ。

𤿧 蔣魴切韵云、𤿧、〈音旱、和名止毛、楊氏漢語抄日本紀等用鞆字、俗亦用之、本文未詳、〉在臂避󠄁弦具󠄁也、毛詩注󠄁云、拾、〈今案即裙拾之拾也、見玉篇、〉禮弓矢圖云、襚、〈音遂󠄂、〉臂𤿧以朱韋之、


𤿧 蒋魴切韻に云はく、𤿧〈音は旱、和名は止毛とも、楊氏漢語抄、日本紀等に鞆の字を用ゐ、俗に亦、之れを用ゐる、本文は未だ詳かならず〉は臂に在りて弦を避くる具なりといふ。毛詩注に云ふ拾〈今案ふるに即ち裙拾の拾なり、玉篇に見ゆ〉。礼弓矢図に云はく、襚〈音は遂〉は臂𤿧、朱韋を以て之れをつくるといふ。

馬垺 四聲字苑云、垺、〈力輟反、與劣同、此間云、良智、〉戱馬道也、


馬垺 四声字苑に云はく、垺〈力輟反、劣と同じ、此間に云ふ良智らち〉は戯馬の道なりといふ。

射垛 唐韻云、垛、〈他果反、字亦作𨹃、楊氏漢語抄云、射垛、以久波止古路、此間云、阿无豆知、今案又用堋字、音朋、〉射垛也、四聲字苑云、垜、〈音上同、又都波反、〉、埾也、


射垛 唐韻に云はく、垛〈他果反、字は亦、𨹃に作る、楊氏漢語抄に云ふ射垛、以久波止古路いくはどころ、此間に云ふ阿無豆知あむつち、今案ふるに、又、堋の字を用ゐる、音は朋〉は射垛なりといふ。四声字苑に云はく、垜〈音は上に同じ、又、都波反〉は埾なりといふ。

的 說文云、臬、〈魚列反、和名万斗、俗用的字、音都歷反、〉射的也、纂要云、古者謂射的侯、〈或作堠、音與侯同、〉以皮爲的爲鵠〈今案鴻鵠之鵠射之處、古沃反、見唐韻、〉


的 説文に云はく、臬〈魚列反、和名は万斗まと、俗に的の字を用ゐる、音は都歴反〉は射る的なりといふ。纂要に云はく、いにしへは射的を謂ひて侯〈或は堠に作る、音は侯と同じ〉と為し、皮を以て的と為し鵠と為すといふ〈今案ふるに鴻鵠の鵠、射の処は古沃反、唐韻に見ゆ〉。

皮〈山形附〉 周󠄀禮云、郷射之禮五物、其三曰皮、本朝式云、山形、〈夜萬賀太、〉侯、後四許丈、張紺布矢者也、


皮〈山形付〉 周礼に云はく、郷射の礼に五物、其の三を皮と曰ふといふ。本朝式に云はく、山形〈夜万賀太やまがた〉は侯の後ろ四許丈に紺布を張り矢を禦ぐ者なりといふ。

射乏〈司旍附〉 文選󠄁東京賦注󠄁云、乏、〈今案即乏少之乏也、但射乏、和名夜布世歧、〉以革爲之、護執旍者之禦矢也、司旍、〈此間云、末止萬宇之、〉執旍司、射中當之、


射乏〈司旍付〉 文選東京賦注に云はく、乏〈今案ふるに即ち乏少の乏なり、但し射乏の和名は夜布世岐やふせぎ〉は革を以て之れを為り、旍を護り執る者の矢を禦ぐなり、司旍〈此間に云ふ末止万宇之まとまうし〉は旍を執る司、射中つれば当に之れを挙ぐべしといふ。

射翳 文選󠄁射雉賦注󠄁云、翳、〈於計反、隱也、障也、師說末布之、〉所󠄁以隱射者也、


射翳 文選射雉賦注に云はく、翳〈於計反、隠すなり、障るなり、師説に末布之まぶし〉は射者を隠す所以なりといふ。



雜藝類廿五


雑芸類二十五

投壺 投壺經云、投壺、〈內典云、豆保宇智、一云都保奈計、〉古禮也、壺長一尺二寸二分、籌長一尺二寸、〈籌卽投壷矢名也、見同經、〉


投壺 投壺経に云はく、投壺〈内典に云ふ豆保宇智つぼうち、一に云ふ都保奈計つぼなげ〉は古礼なり、壺の長さ一尺二寸二分、ちうは長さ一尺二寸といふ〈籌は即ち投壺の矢の名なり、同経に見ゆ〉。

藏鈎 三秦記云、昭帝母鈎弋夫人、手拳而國色、先帝寵之、世人爲藏鈎、亦法是也、


蔵鈎 三秦記に云はく、昭帝の母、鈎弋こうよく夫人、手かがまりて国色あり、先帝之れを寵す、世人、蔵鈎と為すは亦、是れをのつとるなり。

打毬 唐韵云、毬、〈音求、打毬、內典或謂之拍毱、云末利宇知、〉毛丸打者也、劉向別錄云、打毬昔黃帝所󠄁造󠄁、本因兵𫝑而爲之、


打毬 唐韻に云はく、毬〈音は求、打毬、内典に或は之れを拍毱と謂ひ、末利宇知まりうちと云ふ〉は毛丸、打つ者なりといふ。劉向別録に云はく、打毬は昔、黄帝の造る所、本、兵勢に因りて之れを為るといふ。

蹴鞠 傅玄彈棊賦序云、漢成帝好蹴鞠、〈此間云、末利古由、蹴音千陸反、字亦作蹵、公羊傳注󠄁云、以足逆󠄁蹈也、〉


蹴鞠 傅玄弾棊賦序に云はく、漢の成帝、蹴鞠を好むといふ〈此間に云ふ末利古由まりこゆ、蹴の音は千陸反、字は亦、蹵に作る。公羊伝注に云はく、足を以て逆に蹈むなりといふ〉。

競渡 金谷園記云、今之競渡、〈布奈久良倍、〉楚國之風也、


競渡 金谷園記に云はく、今の競渡〈布奈久良倍ふなくらべ〉は楚国の風なりといふ。

競馬 本朝式云、五月五日、競馬、〈久良閇无麻、〉立標、〈標讀師米、〉


競馬 本朝式に云はく、五月五日、競馬〈久良閉無麻くらべむま〉に標〈標は師米しめと読む〉を立つといふ。

鞦韆 古今藝術圖云、鞦韆、〈秋遷二音、由佐波利、〉以綵繩空中、以爲戱也、


鞦韆 古今芸術図に云はく、鞦韆〈秋遷の二音、由佐波利ゆさはり〉は綵縄を以て空中に懸け、以て戯を為すなりといふ。

圍碁 博󠄁󠄁物志云、堯造󠄁圍碁、〈音期、字亦作棊、此間云、五、〉一云、舜之所󠄁造󠄁也、晋中興書云、圍碁、堯舜以教愚子也、


囲碁 博物志に云はく、堯、囲碁〈音は期、字は亦、棊に作る、此間に云ふ〉を造るといふ。一に云はく、舜の造る所なりといふ。晋中興書に云はく、囲碁は堯、舜の、以て愚子を教ふるなりといふ。

彈棊 世說云、彈棊、〈此間云、如字、〉始魏宮、文帝於此技亦好矣、


弾棊 世説に云はく、弾棊〈此間に云ふは字のごとし〉は魏宮より始まり、文帝、此の技に於いても亦好しといふ。

樗蒲 兼名苑云、樗蒲一名九采󠄁、〈內典云、樗蒲、賀利宇智、〉


樗蒲 兼名苑に云はく、樗蒲は一名に九采といふ〈内典に云ふ樗蒲、賀利宇智かりうち〉。

八道行成 內典云、拍毱、擲石、投壺、牽道、八道行成、一切戱笑、悉不觀作、〈八道行成讀夜佐須賀利、〉


八道行成 内典に云はく、拍毱まりうち擲石いしなげ投壺つぼうち牽道みちくらべ、八道行成、一切の戯笑、ことごとく観作ならずといふ〈八道行成の読みは夜佐須賀利やさすがり〉。

雙六 兼名苑云、雙六一名六采󠄁、〈今案簙弈是也、簙音博󠄁、俗云須久呂久、〉


双六 兼名苑に云はく、双六、一名は六采といふ〈今案ふるに簙弈は是れなり、簙の音は博、俗に云ふ須久呂久すぐろく〉。

意錢 後漢書注󠄁云、意錢、〈此間云、世邇宇知、〉今之攤錢也、桂苑珠藂抄云、以手有所󠄁搓謂之攤、〈唐韵云、挪、音諾何反、搓挪也、字亦作攤、此間云駄、搓音七何反、手搓碎也、訓毛无、〉


意銭 後漢書注に云はく、意銭〈此間に云ふ世邇宇知ぜにうち〉は今の攤銭なりといふ。桂苑珠藂抄に云はく、手を以てむ所有り、之れを攤〈唐韻に云ふ挪、音は諾何反、搓は挪なり、字は亦、攤に作る、此間にと云ふ、搓の音は七何反、手にて搓み砕くなり、訓は毛無もむ〉と謂ふといふ。

弄槍 楊氏漢語抄云、弄槍、〈保古斗利、〈已上本注󠄁、〉槍音倉、見征戰具󠄁、〉


弄槍 楊氏漢語抄に云はく、弄槍〈保古斗利ほことり〈已上は本注〉、槍の音は倉、征戦具に見ゆ〉といふ。

弄丸 梁武帝千字文注󠄁云、宜遼者楚人也、能弄丸、〈此間云、多末斗利、〉八在空中、一在手中、今人之弄鈴是也、〈楊氏漢語抄云、弄鈴、須々止利、〉


弄丸 梁武帝千字文注に云はく、宜遼は楚人なり、能く弄丸〈此間に云ふ多末斗利たまとり〉す、八は空中に在り、一は手中に在り、今の人の弄鈴は是れなりといふ〈楊氏漢語抄に云ふ弄鈴、須々止利すずとり〉。

相撲 漢武故事云、角觝、〈丁禮反、訓與突同、〉今之相撲也、王隱晋書云、相撲、〈撲音蒲角反、和名須末比、本朝相撲記、有占手、垂髮、總角、㝡手[、助手]等之名、別亦有立合、相撲長、〉下伎也、


相撲 漢武故事に云はく、角觝〈丁礼反、訓は突と同じ〉は今の相撲なりといふ。王隠晋書に云はく、相撲〈撲の音は蒲角反、和名は須末比すまひ。本朝相撲記にうら垂髪うなゐ総角あげまき最手ほて[、すけ]等の名有り、別に亦、立合たちあはせ、相撲長有り〉は下伎なりといふ。

相搋 唐韵云、搋、〈勅皆反、在皆韵、內典云相搋、古布之宇知、〉以拳加物也、


相搋 唐韻に云はく、搋〈敕皆反、皆韻に在り、内典に云ふ相搋、古布之宇知こぶしうち〉は拳を以て物に加ふるなりといふ。

相扠 唐韵云、扠、〈丑佳反、在佳韵、內典云相扠、多加閇之、〉以拳加人也、楊氏漢語抄云、拗腕、〈訓上同、拗音於絞反、〉


相扠 唐韻に云はく、扠〈丑佳反、佳韻に在り、内典に云ふ相扠、多加閉之たがへし〉は拳を以て人に加ふるなりといふ。楊氏漢語抄に云ふ拗腕〈訓は上に同じ、拗の音は於絞反〉。

牽道 內典云、拍毱、擲石、投壺、牽道、〈內典云、牽道、美知久良閇、〉


牽道 内典に云はく、拍毱、擲石、投壺、牽道〈内典に云ふ牽道は美知久良閉みちくらべ〉といふ。

擲倒 楊氏漢語抄云、擲倒、〈賀倍利宇都、〉


擲倒 楊氏漢語抄に云はく、擲倒〈賀倍利宇都かへりうつ〉といふ。

鬪鶏 玉燭寳典云、寒食之節、城市尤多爲鬪鷄之戱、〈鬪鷄、此間云、止利阿波世、〉


闘鶏 玉燭宝典に云はく、寒食の節、城市、尤も多く闘鶏の戯を為すといふ〈闘鶏は此間に云ふ止利阿波世とりあはせ〉。

鬪草 荊楚歲時記云、五月五日、有鬪百草之戱、〈鬪草、此間云、久佐阿波世、今案鬪宜斣、何者唐韵鬪斣並都豆反、鬪競也、斣斠也、〉


闘草 荊楚歳時記に云はく、五月五日、闘百草の戯有りといふ〈闘草は此間に云ふ久佐阿波世くさあはせ、今案ふるに闘は宜しく斣に作るべし、何となれば唐韻に闘、斣は並びに都豆反、闘は競ふなり、斣ははかるなり〉。

拍浮󠄁 文選󠄁注󠄁云、拍浮󠄁、〈拍打也、普伯反、今案俗云於布須是也〉


拍浮 文選注に云はく、拍浮〈拍は打つなり、普伯反、今案ふるに俗に云ふ於布須おふすは是れなり〉といふ。



雜藝具󠄁廿六


雑芸具二十六

碁子 藝經云、白黑碁子各一百七十枚、


碁子 芸経に云はく、白黒の碁子、おのおの一百七十枚といふ。

碁局 唐韻云、枰、〈皮命反、一音平󠄁、〉按簙局也、陸詞曰、局、〈渠玉反、棊局、俗云五半󠄁、〉棊板枰也、


碁局 唐韻に云はく、枰〈皮命反、一音に平〉簿をひらく局なりといふ。陸詞曰はく、局〈渠玉反、棊局、俗に云ふばん〉は棊の板枰なりといふ。

樗蒲采󠄁 陸詞曰、𣘖、〈音軒、和名加利、〉𣘖子、樗蒲采󠄁名也、


樗蒲采 陸詞曰はく、𣘖〈音は軒、和名は加利かり〉は𣘖子、樗蒲の采の名なりといふ。

雙六采󠄁 楊氏漢語抄云、頭子、〈雙六乃佐以、今案見雜題雙六詩、〉


双六采 楊氏漢語抄に云はく、頭子〈双六すぐろく乃佐以のさい、今案ふるに雑題双六詩に見ゆ〉といふ。

鞠 考聲切韻云、鞠、〈音菊、字亦作毱、万利、〉以韋囊糠而蹴之、[孫愐云、今通󠄁謂之毬子、]


鞠 考声切韻に云はく、鞠〈音は菊、字は亦、毱に作る、万利まり〉は韋囊を以て糠をれて之れをうといふ。[孫愐云はく、今、通じて之れを毬子と謂ふといふ。]

毬杖 辨色立成云、骨撾、〈打也、竹花反、〉打毬曲杖也、[〈今案曲杖夜利万介、〉]


毬杖 弁色立成に云はく、骨撾〈打つなり、竹花反〉は打毬の曲杖なりといふ。[〈今案ふるに曲杖は夜利万介やりまげ〉]

紙老鴟 辨色立成云、紙老鴟、〈此間云、師勞之、〉以紙爲鴟形、乘風能飛、一云紙鳶、


紙老鴟 弁色立成に云はく、紙老鴟〈此間に云ふらう〉は紙を以て鴟形を為り、風に乗りて能く飛ぶといふ。一に云ふ紙鳶。

酒胡子 諸葛相如酒胡子賦云、因木成形、𧰼人立質、在掌握而可玩、遇󠄁盃盤而則出、


酒胡子 諸葛相如酒胡子賦に云はく、木に因りて形を成し、人をかたどりて質に立て、掌握に在りては玩ぶべし、盃盤に遇ひては則ち出づといふ。

傀儡子 唐韵云、傀儡、〈賄礧二音、和名久々豆、〉樂人所󠄁弄也、顔氏家訓云、俗名傀儡子、爲郭禿


傀儡子 唐韻に云はく、傀儡〈賄礧の二音、和名は久々豆くぐつ〉は楽人の弄する所なりといふ。顔氏家訓に云はく、俗に傀儡子を名づけて郭禿と為すといふ。

獨樂 辨色立成云、獨樂、〈[都无求里、此間云、]古末都玖利、〉有孔者也、


独楽 弁色立成に云はく、独楽〈[都无求里つむくり、此間に云ふ]古末都玖利こまつくり〉は孔有る者なりといふ。

輪鼓 本朝相撲記云、輪鼓二人、〈謂雜藝之中弄輪鼓者二人也、今案此物所󠄁出未詳、但其形如細腰鼓而輪轉於絲上、故以名之、〉


輪鼓 本朝相撲記に云はく、輪鼓二人といふ〈謂ふは雑芸の中に輪鼓を弄する者二人あればなり。今案ふるに此の物の出づる所、未だ詳かならず。但し其の形、細腰鼓のごとくして糸上に輪転す、故に以て之れを名く〉。

挿頭花 楊氏漢語抄云、頭花、〈賀佐之、俗用挿頭花、〉


挿頭花 楊氏漢語抄に云はく、頭花〈賀佐之かざし、俗に挿頭花を用ゐる〉といふ。
卷第三

巻第三

 居處部第六 舟車部第七 珍寳部第八 布帛部第九


 居処部第六 舟車部第七 珍宝部第八 布帛部第九

居處部第六


居処部第六

 屋宅類廿七 屋宅具󠄁廿八 墻壁具󠄁廿九 墻壁具󠄁三十 門戶類卅一 門戶具󠄁卅二 道路類卅三 道路具󠄁卅四〈關橋驛等見于此内、〉


 屋宅類二十七 屋宅具二十八 墻壁具二十九 墻壁具三十 門戸類三十一 門戸具三十二 道路類三十三 道路具三十四〈関、橋、駅等、此の内に見ゆ〉



屋宅類廿七


屋宅類二十七

屋舍 陸詞切韻云、屋、〈烏谷反、夜〉舍也、周󠄀禮注󠄁云、舍、〈音謝、和名同上〉休沐處也、


屋舎 陸詞切韻に云はく、屋〈烏谷反、〉は舎なりといふ。周礼注に云はく、舎〈音は謝、和名は上に同じ〉は休沐する処なりといふ。

四阿 唐令云、宮殿皆四阿、〈弁色立成云、四阿安都末夜、〉


四阿 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿〈弁色立成に云ふ四阿、安都末夜あづまや〉にせよといふ。

兩下 唐令云、庶人門舍、不過󠄁一門兩下、〈弁色立成云、兩下麻夜、〉


両下 唐令に云はく、庶人の門舎は一門両下〈弁色立成に云ふ両下、麻夜まや〉に過ぐること得じといふ。

殿 唐韵云、殿、〈音電、度能、〉宮殿也、


殿 唐韻に云はく、殿〈音は電、度能との〉は宮殿なりといふ。

寢殿 四聲字苑云、寢、〈七稔反、禰夜、[方言要目云與止乃、]〉寢室也、一曰寢殿


寝殿 四声字苑に云はく、寝〈七稔反、禰夜ねや[、方言要目に云ふ与止乃よどの]〉は寝室なりといふ。一に寝殿と曰ふ。

堂 釋名云、堂、〈徒郎反、〉猶堂々、高顯貌也、


堂 釈名に云はく、堂〈徒郎反〉は猶ほ堂々のごとく、高くあらはるるかたちなりといふ。

櫓 唐韻云、櫓、〈音魯、內典云、却敵樓櫓、夜久良、舟具󠄁作艣、〉城上守禦樓也、


櫓 唐韻に云はく、櫓〈音は魯、内典に云ふ却敵の楼櫓、夜久良やぐら、舟具に艣に作る〉は城上にて守りふせぐ楼なりといふ。

樓閣 四聲字苑云、今謂臺上構屋樓、〈音婁、辨色立成云、太賀度能、〉野王案、閣、〈音各、今案俗謂朱雀門重閣、是〉重門複道也、


楼閣 四声字苑に云はく、今、台上の構屋を謂ひて楼〈音は婁、弁色立成に云ふ太賀度能たかどの〉と為すといふ。野王案ずるに閣〈音は各、今案ふるに、俗に朱雀門を謂ひて重閣と為すは是れ〉は重門複道なりとす。

觀 釋名云、觀、〈音貫、嵯峨有栖霞觀、〉於上觀望也、


観 釈名に云はく、観〈音は貫、嵯峨に栖霞観有り〉は上に於いて観望するなりといふ。

臺 尒雅注󠄁云、臺、〈徒來反、宇天奈、〉積土爲之所󠄁以觀望也、尙書注󠄁云、土高曰臺、有樹曰榭、〈和名宇天奈、〉


台 爾雅注に云はく、台〈徒来反、宇天奈うてな〉は土を積みて之れをつくり観望する所以なりといふ。尚書注に云はく、土高きを台と曰ひ、樹有るを榭〈和名は宇天奈うてな〉と曰ふといふ。

廊 唐韵云、廊、〈音郎、漢語抄云、保曾度能、〉殿下外屋也、


廊 唐韻に云はく、廊〈音は郎、漢語抄に云ふ保曽度能ほそどの〉は殿の下の外屋なりといふ。

行宮 日本紀私記云、行宮、〈賀利美夜、今案俗云頓宮、〉


行宮 日本紀私記に云はく、行宮〈賀利美夜かりみや、今案ふるに俗に云ふ頓宮〉といふ。

假床 類聚國史云、假床、〈此間云、佐受枳、今案假構屋內床之名也、〉


仮床 類聚国史に云はく、仮床〈此間ここに云ふ佐受枳さずき、今案ふるに仮に構ふる屋内の床の名なり〉といふ。

房 釋名云、房、〈音防、俗云音望、〉旁也、在室之兩方也、


房 釈名に云はく、房〈音は防、俗に云ふ、音は望〉は旁なり、室の両方に在るなりといふ。

坊〈村附〉 聲類云、坊、〈音方、又音房、末智、〉別屋也、又村坊、四聲字苑云、村、〈音尊、无良、〉野外聚居也、


坊〈村付〉 声類に云はく、坊〈音は方、又、音は房、末智まち〉は別屋なり、又、村坊といふ。四声字苑に云はく、村〈音は尊、無良むら〉は野外に聚居するなりといふ。

助鋪 辨色立成云、助鋪、〈和名古夜、一云比多歧夜、〉如衞士屋也、


助鋪 弁色立成に云はく、助鋪〈和名は古夜こや、一に云ふ比多岐夜ひたきや〉は衛士の屋のごときなりといふ。

室〈无戶室附〉 白虎通󠄁云、黃帝作室、〈音七、无路、〉以避󠄁寒暑、日本紀私記云、無戶室、〈宇都无路、〉


室〈無戸室付〉 白虎通に云はく、黄帝、室〈音は七、無路むろ〉を作り、以て寒暑を避くといふ。日本紀私記に云ふ無戸室〈宇都無路うつむろ〉。

舘 唐韻云、舘、〈音官、字亦作館、太知、日本紀私記云、无路都美、〉客舍也、


舘 唐韻に云はく、舘〈音は官、字は亦、館に作る、太知たち、日本紀私記に云ふ無路都美むろつみ〉は客舎なりといふ。

𠅘 釋名云、𠅘、〈音停、辨色立成云、客𠅘、阿波良夜、亭子、遊󠄁息處小屋也、〉人所󠄁停集也、


亭 釈名に云はく、亭〈音は停、弁色立成に云はく、客亭は阿波良夜あばらや、亭子の遊息する処の小屋なりといふ〉は人の停集する所なりといふ。

廳 四聲字苑云、廳、〈音汀、俗音長、日本紀私記云、万都利古度々乃、〉延賓屋、又衙廳也、


庁 四声字苑に云はく、庁〈音は汀、俗音は長、日本紀私記に云ふ万都利古度々乃まつりごとどの〉は賓をまねく屋、又、衙庁なりといふ。

院 蔣魴切韵云、院、〈于變反、俗音筠、〉別宅也、


院 蒋魴切韻に云はく、院〈于変反、俗音は筠〉は別宅なりといふ。

家〈第宅附〉 四聲字苑云、家、〈音嘉、與宅同、〉人所󠄁居處、漢書音義云、宅、有甲乙次第、故曰第宅也、


家〈第宅付〉 四声字苑に云はく、家〈音は嘉、宅と同じ〉は人の居する所の処といふ。漢書音義に云はく、宅に甲乙の次第有り、故に第宅と曰ふなりといふ。

宇 唐韻云、宇、〈音羽、訓夜賀須、〉宁也、宁、〈直呂反、上聲之重、〉門屛之間也、


宇 唐韻に云はく、宇〈音は羽、訓は夜賀須やかず〉は宁なり、宁〈直呂反、上声の重〉は門屏の間なりといふ。

營 唐韻云、營、〈余傾反、日本紀私記云、以保利、〉軍營也、


営 唐韻に云はく、営〈余傾反、日本紀私記に云ふ以保利いほり〉は軍営なりといふ。

倉廪 兼名苑云、囷、〈唐韻云、去倫反、又渠隕反、上聲之重、倉圓曰囷、〉一名廪、〈唐韻云、力稔反、倉有屋曰廪、[万呂久良、一云與奈久良、一云伊奈久良、]〉倉也、釋名云、倉、〈七岡反、久良、[一云甲倉古不久良、校倉阿世久良、俗用之、今案本文並未詳、]〉藏也、藏穀物也、[漢語抄云、倉㮹、〈久良乃和、今按孫愐切韻、𠊷緻㨖㮹四字、並陟利反、從人者會也、從糸者密也、從手者刺也、從木者布散也、可倉具󠄁之義、所󠄁出未詳也、〉]


倉廪 兼名苑に云はく、囷〈唐韻に云はく、去倫反、又、渠隕反、上声の重、倉の円きを囷と曰ふといふ〉、一名は廪〈唐韻に云はく、力稔反、倉に屋有るを廪と曰ふといふ[、万呂久良まろくら、一に云ふ与奈久良よなぐら、一に云ふ伊奈久良いなぐら]〉、倉なりといふ。釈名に云はく、倉〈七岡反、久良くら[、一に云ふ甲倉は古不久良こぶくら、校倉は阿世久良あぜくら、俗に之れを用ゐる、今案ふるに本文は並びに未だ詳かならず]〉は蔵なり、穀物を蔵むるなりといふ。[漢語抄に云ふ倉㮹〈久良乃和くらのわ、今按ふるに、孫愐切韻に𠊷、緻、㨖、㮹の四字、並びに陟利反、人に従ふ者は会なり、糸に従ふ者は密なり、手に従ふ者は刺なり、木に従ふ者は布散するなり、倉具と為すべきの義、出づる所未だ詳かならざるなり〉。]

窖 四聲字苑云、窖、〈音敎、漢語抄云、都知久良、〉倉窖土中藏糓也、


窖 四声字苑に云はく、窖〈音は教、漢語抄に云ふ都知久良つちくら〉は倉窖、土中に穀を蔵むるなりといふ。

庫〈棚閣附〉 唐令云、諸軍器在庫、〈音袴、漢語抄云、豆八毛能久良、〉皆造󠄁棚閣、〈朋各二音、太奈、〉安置別異、


庫〈棚閣付〉 唐令に云はく、もろもろの軍器を庫〈音は袴、漢語抄に云ふ豆八毛能久良つはものぐら〉に在らすに、皆、棚閣〈朋各の二音、太奈たな〉を造りて安置し別異せよといふ。

厨 說文云、厨、〈直誅反、厨家、久利夜、〉庖屋也、庖〈薄交反、〉食厨也、


厨 説文に云はく、厨〈直誅反、厨家、久利夜くりや〉は庖屋なり、庖〈薄交反〉は食厨なりといふ。

厩 四聲字苑云、厩、〈音救、上聲之重、无万夜、〉牛馬舍也、


厩 四声字苑に云はく、厩〈音は救、上声の重、無万夜むまや〉は牛馬の舎なりといふ。

廥 四聲字苑云、廥、〈音膾、漢語抄云、久散夜、〉蒭藁藏也、


廥 四声字苑に云はく、廥〈音は膾、漢語抄に云ふ久散夜くさや〉は蒭藁の蔵なりといふ。

肆 唐令云、諸市每肆、〈伊知久良、〉立標題、說文云、市、〈時止反、上聲之重、以知、〉賣買所󠄁也、


肆 唐令に云はく、諸市は肆〈伊知久良いちくらごとに標題を立てよといふ。説文に云はく、市〈時止反、上声の重、以知いち〉は売買する所なりといふ。

邸家 辨色立成云、邸家、〈邸音丁禮反、今案俗云津屋、此類也〉停賣物賃處也、


邸家 弁色立成に云はく、邸家〈邸の音は丁礼反、今案ふるに俗に云ふ津屋つやは此の類なり〉は売物を停め賃を取る処なりといふ。

店家 四聲字苑云、店、〈都念反、今案俗云町、此類也、〉坐賣舍也、


店家 四声字苑に云はく、店〈都念反、今案ふるに俗に云ふ町は此の類なり〉は坐して売る舎なりといふ。

窟 說文云、窟、〈音骨、以波夜、〉土屋也、野王案堀地爲窟也、


窟 説文に云はく、窟〈音は骨、以波夜いはや〉は土の屋なりといふ。野王案ずるに、地を堀りて窟と為すなりとす。

窨 辨色立成云、窨、〈於禁反、和名宇流之无路、〉地室也、一云漆屋、


窨 弁色立成に云はく、窨〈於禁反、和名は宇流之無路うるしむろ〉は地室なりといふ。一に云ふ漆屋。

窯 唐韵云、窯、〈音遙、楊氏漢語抄云、賀波良夜、〉燒瓦竃也、


窯 唐韻に云はく、窯〈音は遥、楊氏漢語抄に云ふ賀波良夜かはらや〉は瓦を焼く竃なりといふ。

庵室 唐韵云、庵、〈烏含反、庵室、俗云阿无之知、〉小草舍也、


庵室 唐韻に云はく、庵〈烏含反、庵室、俗に云ふ阿無之知あむじち〉は小さき草舎なりといふ。

廬 毛詩注󠄁云、農人作廬、〈力魚反、伊奉、〉以便田事


廬 毛詩注に云はく、農人は廬〈力魚反、伊奉いほ〉を作り、以て田事に便にすといふ。

庇 唐韵云、庇、〈必至反、比佐之、〉廕、〈於禁反、〉庇廕也、辨色立成云、庇、接簷、〈和名同上、〉


庇 唐韻に云はく、庇〈必至反、比佐之ひさし〉、廕〈於禁反〉は庇廕なりといふ。弁色立成に云はく、庇は接簷〈和名は上に同じ〉といふ。

廁 唐韻云、圂、〈胡困反、字亦作溷、〉廁也、釋名云、廁、〈音四、賀波夜、〉或謂之圊、〈音清、〉言至穢處宜常修治使潔淸也、


廁 唐韻に云はく、圂〈胡困反、字は亦、溷に作る〉は廁なりといふ。釈名に云はく、廁〈音は四、賀波夜かはや〉は或に之れを圊〈音は清〉と謂ふといふ。言ふは至りて穢き処、宜しく常に修治して潔清ならしむべければなり。



屋宅具󠄁廿八


屋宅具二十八

甍 釋名云、屋脊曰甍、〈音萌、伊良加、〉在上覆蒙屋也、兼名苑云、甍一名棟、〈多貢反、訓異故別置之、〉


甍 釈名に云はく、屋の脊を甍〈音は萌、伊良加いらか〉と曰ひ、上に在り屋を覆蒙するなりといふ。兼名苑に云はく、甍、一名は棟〈多貢反、訓異なる故に別ちて之れを置く〉といふ。

棟 尒雅云、棟謂之桴、〈音敷、一音浮󠄁、无禰、〉唐韻云、檼、〈隱之去聲、〉棟也、


棟 爾雅に云はく、棟は之れを桴〈音は敷、一音に浮、無禰むね〉と謂ふといふ。唐韻に云はく、檼〈隠の去声〉は棟なりといふ。

瓦 蔣魴切韻云、瓦、〈五寡反、加波良、〉燒泥爲之、盖屋宇上、蓬萊子造󠄁也、


瓦 蒋魴切韻に云はく、瓦〈五寡反、加波良かはら〉は泥を焼き之れをつくり、屋宇の上をおほふ、蓬莱子が造るなりといふ。

䟽瓦 辨色立成云、䟽瓦、〈都々美加波良、〉


疏瓦 弁色立成に云ふ疏瓦〈都々美加波良つつみがはら〉。

花瓦 辨色立成云、花瓦、〈鐙瓦也、阿布美加波良、〉


花瓦 弁色立成に云ふ花瓦〈鐙瓦なり、阿布美加波良あぶみがはら〉。

牝瓦 唐韻云、瓪、〈音板、女加波良、〉屋牝瓦也、


牝瓦 唐韻に云はく、瓪〈音は板、女加波良めがはら〉は屋の牝瓦なりといふ。

牡瓦 唐韻云、𤭧、〈音皆、乎加波良、〉屋牡瓦也、


牡瓦 唐韻に云はく、𤭧〈音は皆、乎加波良をがはら〉は屋の牡瓦なりといふ。

棧 楊氏漢語抄云、棧、〈瓦乃衣都利、初限反、〉日本紀私記云、蘆雚、〈和名同上、今案唐韻雚胡官反、葦也、然則以蘆葦棧、非也、〉


桟 楊氏漢語抄に云ふ桟〈かはら乃衣都利のえつり、初限反〉。日本紀私記に云ふ蘆雚〈和名は上に同じ、今案ふるに唐韻に雚は胡官反、葦なり、然らば則ち蘆葦を以て桟とるは非なり〉。

鴟尾 唐令云、宮殿皆四阿、施鴟尾〈辨色立成云、久都賀太、〉


鴟尾 唐令に云はく、宮殿は皆、四阿にして鴟尾〈弁色立成に云ふ久都賀太くつがた〉を施せといふ。

檐 唐韵云、檐、〈余廉反、字亦作簷、能歧、〉屋檐也、


檐 唐韻に云はく、檐〈余廉反、字は亦、簷に作る、能岐のき〉は屋檐なりといふ。

飛檐 文選󠄁注󠄁云、飛檐、〈此間音比衣无、〉棟頭似鳥翅舒將飛之狀也、


飛檐 文選注に云はく、飛檐〈此間に音は比衣無ひえむ〉は棟の頭、鳥のつばさべ将に飛ばんとするのかたちに似るなりといふ。

棉梠 文選󠄁云、鏤檻文㮰、〈音琵、一音篦、師說文㮰、賀佐禮留乃歧須介、〉楊氏漢語抄云棉梠、〈綿呂二音、和名同上、〉一云雀梠、


棉梠 文選に云はく、鏤檻文㮰〈音は琵、一音に篦、師説に文㮰は賀佐礼留乃岐須介かざれるのきすけ〉といふ。楊氏漢語抄に云ふ棉梠〈綿呂の二音、和名は上に同じ〉、一に云ふ雀梠。

懸魚 顔之推詩云、懸魚掩金扇󠄁、〈辨色立成云、屋脊桁端懸板名也、凡桁端有之、〉


懸魚 顔之推詩に云はく、懸魚、金扇を掩ふといふ〈弁色立成に云はく、屋の脊の桁の端に懸る板の名なり、凡そ桁端に之れ有りといふ〉。

榑風 辨色立成云、榑風板、〈比宜、上音布惡反、楊氏漢語抄同、〉


榑風 弁色立成に云ふ榑風板〈比宜ひぎ、上の音は布悪反、楊氏漢語抄に同じ〉。

桁 考聲切韻云、桁、〈音行、又去聲、計太、〉屋檁也、檁、〈林朕反、〉屋桁也、


桁 考声切韻に云はく、桁〈音は行、又、去声、計太けた〉は屋の檁なり、檁〈林朕反〉は屋の桁なりといふ。

梁 唐韻云、梁〈音良、宇都波利、〉棟梁也、尒雅注󠄁云、杗廇、〈亡霤二音、〉大梁也、


梁 唐韻に云はく、梁〈音は良、宇都波利うつはり〉は棟梁なりといふ。爾雅注に云はく、杗廇〈亡霤の二音〉は大梁なりといふ。

長押 功程式云、長押、〈奈計之、〉


長押 功程式に云ふ長押〈奈計之なげし〉。

榱 釋名云、榱、〈音衰、太流歧、楊氏云波閇歧、〉在檼旁下垂也、兼名苑云、一名橑、〈音老、〉一名椽、〈音傳、〉[榱也、]間朲、〈唐韵云音人、漢語抄云、間朲、太留木、〉


榱 釈名に云はく、榱〈音は衰、太流岐たるき、楊氏の云ふ波閉岐はへき〉はむなぎの旁に在り、下垂するなりといふ。兼名苑に云はく、一名は橑〈音は老〉、一名は椽〈音は伝〉[、榱なり]、間朲〈唐韻に音は人と云ふ、漢語抄に云ふ間朲、太留木たるき〉といふ。

璫 文選󠄁云、裁金璧、以飾󠄁璫、〈音當、師說古之利、又耳璫見服玩具󠄁、〉劉良曰、言以金璧飾󠄁椽端也、


璫 文選に云はく、金璧に裁ち、以て璫〈音は当、師説に古之利こじり、又、耳璫は服玩具に見ゆ〉を飾るといふ。劉良曰はく、言ふは金璧を以て椽端を飾ればなりといふ。

桷 尒雅注󠄁云、桷、〈音角、須美歧、〉屋四阿大榱也、


桷 爾雅注に云はく、桷〈音は角、須美岐すみき〉は屋の四阿の大榱なりといふ。

天井 風俗通󠄁云、殿舍作天井、[〈俗云殿掌、〉]菱藻水中之物、以壓火灾也、


天井 風俗通に云はく、殿舎に天井[〈俗に云ふ殿掌〉]を作るに、菱藻の水中の物にて以て火災をおさふるなりといふ。

𥴩子 通󠄁俗文云、𥴩子、〈𥴩音隔、字亦作䈷、〉竹障名也、


𥴩子 通俗文に云はく、𥴩子〈𥴩の音は隔、字は亦、䈷に作る〉は竹障の名なりといふ。

蔀 周󠄀禮注󠄁云、蔀、〈音部、字亦作篰、之度美、〉覆曖障光也、


蔀 周礼注に云はく、蔀〈音は部、字は亦、篰に作る、之度美しとみ〉は覆曖して光を障するなりといふ。

柱〈束柱附〉 說文云、柱、〈音注󠄁、波之良、功程式云束柱、豆賀波師良、〉楹也、唐韻云、楹、〈音盈、〉柱也、


柱〈束柱付〉 説文に云はく、柱〈音は注、波之良はしら、功程式に云ふ束柱、豆賀波師良つかばしら〉は楹なりといふ。唐韻に云はく、楹〈音は盈〉は柱なりといふ。

欄額 辨色立成云、欄額、〈波之良沼歧、〉柱貫也、


欄額 弁色立成に云はく、欄額〈波之良沼岐はしらぬき〉は柱貫なりといふ。

枓 唐韵云、枓、〈音斗、度賀多、〉柱上方木也、


枓 唐韻に云はく、枓〈音は斗、度賀多とがた〉は柱上の方なる木なりといふ。

枅 唐韵云、枅、〈音鷄、漢語抄云比知歧、功程式云肱木、〉承衡木也、


枅 唐韻に云はく、枅〈音は鶏、漢語抄に云ふ比知岐ひぢき、功程式に云ふ肱木〉は承衡木なりといふ。

栭 尒雅注󠄁云、梁上謂之栭、〈音而、文選󠄁師說多々利加太、〉欂櫨也、說文云、欂櫨、〈薄盧二音、〉柱上枅也、


栭 爾雅注に云はく、梁の上は之れを栭〈音は而、文選師説に多々利加太たたりがた〉と謂ひ、欂櫨なりといふ。説文に云はく、欂櫨〈薄盧の二音〉は柱上の枅なりといふ。

梲 爾雅云、梁上柱謂之梲、〈音拙、宇太知、楊氏云、蜀柱、〉孫炎曰、梁上柱侏儒也、


梲 爾雅に云はく、梁上の柱は之れを梲〈音は拙、宇太知うだち、楊氏の云ふ蜀柱〉と謂ふといふ。孫炎曰はく、梁上の柱は侏儒なりといふ。

鴨柄 功程式云、鴨柄、〈賀毛江、今案本文未詳、〉


鴨柄 功程式に云ふ鴨柄〈賀毛江かもえ、今案ふるに本文は未だ詳かならず〉。

杈首 楊氏漢語抄云、杈首〈佐須、杈初牙反、〉


杈首 楊氏漢語抄に云はく、杈首〈佐須さす、杈は初牙反〉といふ。

軒檻 漢書注󠄁云、軒、〈虛言反、〉檻上板也、檻、〈音監、文選󠄁檻讀師説於波之万、〉殿上欄也、唐韻云、欄、〈音蘭、漢語抄云、欄檻、〉階際木、勾欄亦、


軒檻 漢書注に云はく、軒〈虚言反〉檻は上板なり、檻〈音は監、文選に檻の読みは師説に於波之万おばしま〉は殿上の欄なりといふ。唐韻に云はく、欄〈音は蘭、漢語抄に云ふ欄檻〉は階際の木、勾欄も亦といふ。

簀〈板敷附〉 蔣魴切韻云、簀、〈音責、功程式板敷云々、簀子云々、須乃古、〉床上藉竹名也、


簀〈板敷付〉 蒋魴切韻に云はく、簀〈音は責、功程式に板敷云々、簀子云々、須乃古すのこ〉は床上に竹をく名なりといふ。

柱礎 唐韻云、磌、〈徒年反、都美以之、一云以之須惠、〉柱礎也、礎、〈音楚、〉柱下石也、


柱礎 唐韻に云はく、磌〈徒年反、都美以之つみいし、一に云ふ以之須恵いしずゑ〉は柱礎なり、礎〈音は楚〉は柱下の石なりといふ。

壇 考聲切韵云、壇、〈達󠄁丹反、俗云本音之濁、〉封土四方而高也、


壇 考声切韻に云はく、壇〈達丹反、俗に云ふ本の音の濁〉は、土を四方に封じて高きなりといふ。

堦 考聲切韵云、堦〈皆音、俗爲階字、波之、一訓之奈、〉登堂級也、兼名苑云、砌一名階、〈砌音細、訓美歧利、〉


堦 考声切韻に云はく、堦〈皆の音、俗に階の字と為す、波之はし、一訓に之奈しな〉は堂に登る級なりといふ。兼名苑に云はく、砌、一名は階といふ〈砌の音は細、訓は美岐利みぎり〉。

庭 考聲切韵云、庭、〈定丁反、邇波、〉屋前󠄁也、


庭 考声切韻に云はく、庭〈定丁反、邇波には〉は屋の前なりといふ。



墻壁類廿九


墻壁類二十九

垣墻 爾雅云、墻、〈音常、〉謂之墉、〈音庸、〉李巡󠄁曰、謂垣、〈音園、賀歧、〉


垣墻 爾雅に云はく、墻〈音は常〉は之れを墉〈音は庸〉と謂ふといふ。李巡曰はく、垣〈音は園、賀岐かき〉を謂ふといふ。

築墻 淮南子云、舜作築墻、〈都以加歧、一云豆以比知、〉


築墻 淮南子に云はく、舜、築墻〈都以加岐ついがき、一に云ふ豆以比知ついひぢ〉を作るといふ。

女墻 兼名苑云、女墻一名堞、〈音牒、〉城上小垣也、釋名云、城上垣曰埤堄、〈裨詣二音、字亦作陴𨺙、〉或曰女墻、言其卑小、比之城、若女子之於丈夫也、


女墻 兼名苑に云はく、女墻、一名は堞〈音は牒〉、城上の小垣なりといふ。釈名に云はく、城上の垣を埤堄〈裨詣の二音、字は亦、陴𨺙に作る〉と曰ひ、或は女墻と曰ふといふ。言ふは其の卑小なること、之れを城に比するに、女子の丈夫に於けるがごときなればなり。

屛 唐韵云、罘罳、〈浮󠄁思二音、〉屛也、爾雅注󠄁云、屛、〈音餠、〉小墻、當門中也、


屏 唐韻に云はく、罘罳〈浮思の二音〉は屏なりといふ。爾雅注に云はく、屏〈音は餅〉は小墻の門中に当るなりといふ。

𣑭 說文云、𣑭、〈音索、〉編󠄁竪木也、


柵 説文に云はく、柵〈音は索〉は竪木を編むなりといふ。

籬〈栫字附〉 釋名云、籬、〈音離、字亦作㰚、末加歧、一云末世、〉以柴作之、言踈離々也、說文云栫、〈七見反、加久布、〉以柴壅之、


籬〈栫字付〉 釈名に云はく、籬〈音は離、字は亦、㰚に作る、末加岐まがき、一に云ふ末世ませ〉は柴を以て之れを作るといふ。言ふは疎にして離々たればなり。説文に云はく、栫〈七見反、加久布かくふ〉は柴を以て之れを壅すといふ。

壁〈隙附〉 野王案、壁、〈音辟、加閇、〉室之屛蔽也、四聲字苑云、隙、〈綺㦸反、比末、〉壁際孔也、


壁〈隙付〉 野王案ずるに、壁〈音は辟、加閉かべ〉は室の屏蔽なりとす。四声字苑に云はく、隙〈綺戟反、比末ひま〉は壁際の孔なりといふ。



墻壁具󠄁三十


墻壁具三十

助枝 楊氏漢語抄云、助枝、〈之太知、功程式云、志達󠄁、〉


助枝 楊氏漢語抄に云ふ助枝〈之太知したぢ、功程式に云ふ志達〉。

牏 野王案、牏、〈音偷、又音頭、豆以比知伊太、〉築垣短板也、


牏 野王案ずるに、牏〈音は偸、又、音は頭、豆以比知伊太ついひぢいた〉は垣を築く短き板なりとす。

壁帶 漢書音義云、壁帶、〈今案末和多之、功程式云間度、〉謂壁中之橫帶也、


壁帯 漢書音義に云はく、壁帯〈今案ふるに末和多之まわたし、功程式に云ふ間度〉は壁中の横帯を謂ふなりといふ。

櫺子 四聲字苑云、櫺、〈郎丁反、字亦作欞、禮邇之、〉窓櫺子也、考聲切韻云、欄檻及窓間子也、


櫺子 四声字苑に云はく、櫺〈郎丁反、字は亦、欞に作る、礼邇之れにし〉は窓櫺子なりといふ。考声切韻に云はく、欄檻及び窓間子なりといふ。

牖 說文云、牖、〈與久反、字從片戶甫也、末度、〉穿壁以木爲交窓也、


牖 説文に云はく、牖〈与久反、字は片、戸、甫に従ふなり、末度まど〉は壁を穿ち、木を以て交窓とすなりといふ。

石灰 兼名苑云、石灰一名堊灰、〈以之波比、〉燒靑白石熟、冷竟澆之、碎成灰也、


石灰 兼名苑に云はく、石灰、一名は堊灰〈以之波比いしばひ〉といふ。青白石を焼きて成熟し、冷れば竟に之れをひたし、砕きて灰と成すなり。

白土 兼名苑云、白土、一名堊、〈已見天地部水土類、〉


白土 兼名苑に云はく、白土、一名は堊〈已に天地部水土類に見ゆ〉といふ。



門戶類卅一


門戸類三十一

門〈門舍附〉 四聲字苑云、門、〈加度、〉所󠄁以通󠄁出入也、唐令云、門舍、〈加度夜、〉三品以上五架三門、五品以上三門兩下、六品以下及庶人不過󠄁一門兩下


門〈門舎付〉 四声字苑に云はく、門〈加度かど〉は出入を通ずる所以なりといふ。唐令に云はく、門舎〈加度夜かどや〉は、三品以上は五架三門、五品以上は三門両下、六品以下及び庶人は一門両下を過ぐること得じといふ。

閭閻 說文云、閭閻、〈廬鹽二音、文選󠄁師說、佐度乃加東、〉里中門也、


閭閻 説文に云はく、閭閻〈廬塩の二音、文選師説に佐度乃加東さとのかど〉は里中の門なりといふ。

坊門 唐令云、兩京城及州縣郭下、坊別置正一人、掌坊門管鑰、督察姧非也、


坊門 唐令に云はく、両京城及び州県の郭下、坊ごとに正一人を置けといふ。坊門の管鑰をつかさどり、姧非を督察するなり。

鷄栖 考聲切韻云、𣔺、〈毛報反、〉今之門鷄栖也、辨色立成云、鷄栖〈鳥居也、楊氏說同、〉


鶏栖 考声切韻に云はく、𣔺〈毛報反〉は今の門の鶏栖なりといふ。弁色立成に云ふ鶏栖〈鳥居なり、楊氏の説同じ〉。

戶 野王案、在城郭門、在屋堂戶、[〈和名度、戸邑之處倍、〉]


戸 野王案ずるに、城郭に在るを門と曰ひ、屋堂に在るを戸と曰ふとす[〈和名は、戸邑の処は〉]。

窓 說文云、在屋曰窓、〈楚江反、字亦作牎、末度、〉在墻曰牖、〈已見墻壁具󠄁、〉兼名苑云、一名櫳、〈音籠、〉


窓 説文に云はく、屋に在るを窓〈楚江反、字は亦、牎に作る、末度まど〉と曰ひ、墻に在るを牖〈已に墻壁具に見ゆ〉と曰ふといふ。兼名苑に云はく、一名は櫳〈音は籠〉といふ。

水門 後漢書云、水門故處皆在河中、〈日本紀私記云、水門、美度、〉


水門 後漢書に云はく、水門の故処は皆、河中に在りといふ〈日本紀私記に云ふ水門、美度みと〉。



門戶具󠄁卅二


門戸具三十二

扉 說文云、扇󠄁〈式戰反、度比良、〉扉也、扉、〈音非、〉門扉也、


扉 説文に云はく、扇〈式戦反、度比良とびら〉は扉なり、扉〈音は非〉は門扉なりといふ。

樞 爾雅云、樞、〈音朱、〉謂之椳、〈音隈、度保曾、俗云度万良、〉孫炎曰、門戶之樞也、


枢 爾雅に云はく、枢〈音は朱〉は之れを椳〈音は隈、度保曽とぼそ、俗に云ふ度万良とまら〉と謂ふといふ。孫炎曰はく、門戸のくるるなりといふ。

楣 爾雅注󠄁云、楣、〈音眉、万久佐、〉門戶上橫梁也、


楣 爾雅注に云はく、楣〈音は眉、万久佐まぐさ〉は門戸の上の横梁なりといふ。

𣔺 四聲字苑云、𣔺、〈莫到反、又莫代反、漢語抄云、度加美、功程式云鼠走、〉門樞橫梁也、


𣔺 四声字苑に云はく、𣔺〈莫到反、又、莫代反、漢語抄に云ふ度加美とがみ、功程式に云ふねずばしり〉は門枢の横梁なりといふ。

靑瑣 四聲字苑云、靑瑣、〈蘇果反、字亦作璅、〉刻木爲羅文、靑而施之於戶上也、


青瑣 四声字苑に云はく、青瑣〈蘇果反、字は亦、璅に作る〉は、木を刻み羅文を為し、青くぬりて之れを戸上に施すなりといふ。

扃 野王案、扃、〈音經、度佐之、〉戶扇󠄁䥫鈕所󠄁於內以關門也、


扃 野王案ずるに、扃〈音は経、度佐之とざし〉は戸扇の、鉄鈕の内に用ゐて以て門を関する所なりとす。

鎹 功程式云、擧鎹、〈阿介賀湏加比、今案鎹字、本文未詳、〉


鎹 功程式に云ふ挙鎹〈阿介賀須加比あげかすがひ、今案ふるに鎹の字、本文未だ詳かならず〉。

鐶鈕 辨色立成云、鐶鈕、〈斗乃比歧天、楊氏說同、〉門鈎也、


鐶鈕 弁色立成に云はく、鐶鈕〈斗乃比岐天とのひきて、楊氏の説同じ〉は門の鈎なりといふ。

戶鍱 唐韵云、鍱、〈式涉反、與葉同、楊氏云、戶乃帖木、〉銅鍱也、


戸鍱 唐韻に云はく、鍱〈式渉反、葉と同じ、楊氏の云ふ戸乃とのでふ〉は銅の鍱なりといふ。

關木 說文云、關、〈古還󠄁反、字亦作関、俗云貫乃木〉以橫木門曰關、所󠄁以閉也、


關木 説文に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る、俗に云ふくわん乃木のき〉は、横木を以て門を持するを關と曰ひ、閉ざす所以なりといふ。

鑰 四聲字苑云、鑰、〈音藥、字亦作𨷲、今案俗人印鑰之處用鎰字、非也、鎰音溢、見唐韵、〉關具󠄁也、楊氏漢語抄云、鑰匙、〈門乃加歧〉


鑰 四声字苑に云はく、鑰〈音は薬、字は亦、𨷲に作る、今案ふるに俗人、印鑰の処に鎰の字を用ゐるは非なり。鎰の音は溢、唐韻に見ゆ〉は關する具なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ鑰匙〈もん乃加岐のかぎ〉。

鈎匙 楊氏漢語抄云、鈎匙、〈戶乃加歧、一云加良加歧、鈎音古侯反、〉


鈎匙 楊氏漢語抄に云ふ鈎匙〈戸乃加岐とのかぎ、一に云ふ加良加岐からかぎ、鈎の音は古侯反〉。

鏁子 唐韵云、鎖、〈蘇果反、俗作鏁子、〉䥫鎖也、楊氏漢語抄云、鏁子、〈藏乃賀歧、辨色立成云藏鑰、〉


鏁子 唐韻に云はく、鎖〈蘇果反、俗に鏁子に作る〉は鉄の鎖なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ鏁子〈くら乃賀岐のかぎ、弁色立成に云ふ蔵鑰〉。

棖 爾雅注󠄁云、棖、〈音唐、保古多知、辨色立成云、戶類、〉門兩旁木也、


棖 爾雅注に云はく、棖〈音は唐、保古多知ほこだち。弁色立成に云ふ戸の類〉は門の両旁の木なりといふ。

橛 唐韵云、橛、〈音厥、俗云巾子形、〉所󠄁以止󠄁__扇󠄁也、爾雅云、橛謂之闑、〈音蘖、〉孫炎曰、門中央杙也、


橛 唐韻に云はく、橛〈音は厥、俗に云ふ巾子こじがた〉は扇を止むる所以なりといふ。爾雅に云はく、橛は之れを闑〈音は蘖〉と謂ふといふ。孫炎曰はく、門の中央の杙なりといふ。

閾 爾雅注󠄁云、閾、〈音域、〉門限也、兼名苑云、閾一名閫、〈苦本反、之歧美、俗云度之歧美、〉


閾 爾雅注に云はく、閾〈音は域〉は門限なりといふ。兼名苑に云はく、閾、一名は閫〈苦本反、之岐美しきみ、俗に云ふ度之岐美とじきみ〉といふ。



道路類卅三


道路類三十三

馳道 漢書注󠄁云、馳道、天子所󠄁行之道也、


馳道 漢書注に云はく、馳道は天子の行く所の道なりといふ。

馬道 辨色立成云、馬道、〈俗音米多宇、〉向堂之道也、


馬道 弁色立成に云はく、馬道〈俗音は米多宇めだう〉は堂に向ふの道なりといふ。

徼道 唐韵云、徼道、〈音呌、古美知、〉小道也、


徼道 唐韻に云はく、徼道〈音は呌、古美知こみち〉は小道なりといふ。

間道 日本紀私記云、間道、〈賀久禮美知、〉


間道 日本紀私記に云はく、間道〈賀久礼美知かくれみち〉といふ。

徑路 唐韵云、徑、〈音敬、與逕同、多々知、逕近󠄁也、字或通󠄁見下〉步道也、四聲字苑云、徑、〈古定反〉容牛馬道、一云步道也、


径路 唐韻に云はく、径〈音は敬、逕と同じ、多々知ただち、逕は近きなり、字は或に通ずること下に見ゆ〉は歩道なりといふ。四声字苑に云はく、径〈古定反〉は牛馬をるる道といふ。一に云ふ歩道なり。

大路 唐韵云、道路、〈音露、毛詩有遵大路篇、大路和名於保美知、〉南北曰阡、〈音千、日本紀私記云、多知之乃美知、〉東西曰陌、〈音百、日本紀私記云、與古之乃美知、〉四聲字苑云、路阡陌摠名也、


大路 唐韻に云はく、道路〈音は露、毛詩に遵大路篇有り、大路の和名は於保美知おほみち〉は南北を阡〈音は千、日本紀私記に云ふ多知之乃美知たちしのみち〉と曰ひ、東西を陌〈音は百、日本紀私記に云ふ与古之乃美知よこしのみち〉と曰ふといふ。四声字苑に云はく、路は阡陌の摠名なりといふ。

巷 唐韵云、巷、〈胡絳反、知末太、〉里中道也、


巷 唐韻に云はく、巷〈胡絳反、知末太ちまた〉は里中の道なりといふ。

十字 吳均行路難云、縱橫十字成阡陌、〈今案十字者東西南北相分之道、其中央似十字也、俗用辻字、本文未詳、〉


十字 呉均行路難に云はく、縦横十字に阡陌を成すといふ〈今案ふるに十字なる者は東西南北相分つの道、其の中央は十の字に似るなり、俗に辻の字を用ゐる、本文は未だ詳かならず〉。

地道 日本紀私記云、地道、〈志太都美遲、〉


地道 日本紀私記に云はく、地道〈志太都美遅したつみち〉といふ。

碊道 文字集略云、碊道、〈士輦反、上聲之重、漢語抄云、夜末乃加介知、〉山路閣道也、


碊道 文字集略に云はく、碊道〈士輦反、上声の重、漢語抄に云ふ夜末乃加介知やまのかけぢ〉は山路の閣道なりといふ。

津 四聲字苑云、津、〈將隣反、豆、〉渡水處也、唐令云、諸度關津、及乘船筏上下經津者、皆當過󠄁所󠄁


津 四声字苑に云はく、津〈将隣反、〉は水を渡る処なりといふ。唐令に云はく、もろもろの關津をわたる、及び船筏に乗り、上下して津を経る者は、皆、まさ過所くわしよ有るべしといふ。

濟 爾雅注󠄁云、濟、〈子禮反、和太利、〉渡處也、


済 爾雅注に云はく、済〈子礼反、和太利わたり〉は渡る処なりといふ。

泊 唐韵云、泊、〈傍各反、度末利、〉止也、坤元錄云、雍州有百頃泊、岐州有荷池泊、〈今案播磨国大輪田泊此類也、〉


泊 唐韻に云はく、泊〈傍各反、度末利とまり〉は止るなりといふ。坤元録に云はく、雍州に百頃泊有り、岐州に荷池泊有りといふ〈今案ふるに播磨国の大輪田泊は此の類なり〉。



道路具󠄁卅四


道路具三十四

關 蔡邕月令章句云、關、〈古還󠄁反、字亦作関、日本紀私記云、關門、世歧度、〉在境所󠄁以察出禦󠄁__入也、


關 蔡邕月令章句に云はく、關〈古還反、字は亦、関に作る、日本紀私記に云ふ關門、世岐度せきど〉は境に在りて出づるを察し入るを禦ぐ所以なりといふ。

橋〈䓗臺附〉 說文云、橋、〈音喬、波之、〉水上横木、所󠄁以渡也、爾雅注󠄁云、梁、〈音良、〉即水橋也、楊氏漢語抄云、䓗臺、〈比良歧波之良、〉橋兩端所󠄁竪之柱、其頭似䓗花、故云、


橋〈葱台付〉 説文に云はく、橋〈音は喬、波之はし〉は水上に木を横にし、渡る所以なりといふ。爾雅注に云はく、梁〈音は良〉は即ち水橋なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、葱台〈比良岐波之良ひらきばしら〉は橋の両端につる所の柱、其の頭は葱花に似る、故に云ふといふ。

石橋 爾雅注󠄁云、矼、〈音江、以之波之、〉石橋也、


石橋 爾雅注に云はく、矼〈音は江、以之波之いしばし〉は石橋なりといふ。

浮󠄁橋 魏略五行志云、洛水浮󠄁橋、〈宇歧波之、〉


浮橋 魏略五行志に云はく、洛水浮橋〈宇岐波之うきばし〉といふ。

土橋 唐韵云、圮、〈音怡、豆知波之、〉土橋也、


土橋 唐韻に云はく、圮〈音は怡、豆知波之つちばし〉は土橋なりといふ。

獨梁 淮南子云、獨梁、〈比度豆波之、今案又一名獨木橋、見翰苑等、〉從橫一木之梁也、


独梁 淮南子に云はく、独梁〈比度豆波之ひとつばし、今案ふるに又、一名は独木橋、翰苑等に見ゆ〉は従横一木の梁なりといふ。

梯 郭知玄曰、梯、〈音低、加介波之、〉木堦所󠄁以登󠄁__高也、唐韻云、棧、〈音笇一音賤、訓同上、〉板木構險爲道也、


梯 郭知玄曰はく、梯〈音は低、加介波之かけはし〉は木の堦の高きに登る所以なりといふ。唐韻に云はく、桟〈音は笇、一音に賤、訓は上に同じ〉は、板木を険しきに構へて道と為すなりといふ。

遉邏 唐韵云遉邏、〈上丑鄭反、〉漢語抄云遉邏、〈知毛利、〉


遉邏 唐韻に云ふ遉邏〈上は丑鄭反〉、漢語抄に云ふ遉邏〈知毛利ちもり〉。

雁齒 白氏文集云、鴨頭新綠水、雁齒小紅橋、


雁歯 白氏文集に云はく、鴨頭、新縁の水、雁歯、小紅橋といふ。

驛 唐令云、諸道須驛者、每卅里一驛、〈音繹、无末夜、〉若地𫝑險阻及無水草處隨緣置之、


駅 唐令に云はく、諸道にすべからく駅を置くべきは、三十里毎に一駅〈音は繹、無末夜むまや〉置け、若し地勢の険阻なる、また、水草無き処は、縁に随ひて之れを置けといふ。
舟車部第七

舟車部第七

 舟類卅五 舟具󠄁卅六 車類卅七 車具󠄁卅八


 舟類三十五 舟具三十六 車類三十七 車具三十八



舟類卅五


舟類三十五

舟船〈艘附〉 方言云、關東謂之舟、〈音周、〉關西謂之船、〈音旋、布禰、〉說文云、艘、〈蘇遭󠄁反、〉船數也、


舟船〈艘付〉 方言に云はく、関東に之れを舟〈音は周〉と謂ひ、関西に之れを船〈音は旋、布禰ふね〉と謂ふといふ。説文に云はく、艘〈蘇遭反〉は船の数なりといふ。

舶 唐韵云、舶、〈傍陌反、楊氏漢語抄云、豆具󠄁能布禰、〉海中大船也、


舶 唐韻に云はく、舶〈傍陌反、楊氏漢語抄に云ふ豆具能布禰つくのぶね〉は海中の大船なりといふ。

艇〈游艇附〉 唐韵云、艇、〈徒鼎反、上聲之重、楊氏漢語抄云、艇、乎夫禰、游艇、波師不禰、〉小船也、釋名云、二人所󠄁乘也、


艇〈游艇付〉 唐韻に云はく、艇〈徒鼎反、上声の重、楊氏漢語抄に艇は乎夫禰をぶね、游艇は波師不禰はしぶねと云ふ〉は小船なりといふ。釈名に云はく、二人の乗る所なりといふ。

舴艋 唐韵云、舴艋、〈嘖猛二音、舴艋、豆利夫禰、〉小さき漁舟也、


舴艋 唐韻に云はく、舴艋〈嘖猛の二音、舴艋は豆利夫禰つりぶね〉は小さき漁舟なりといふ。

舼 釋名云、艇小而深者曰舼、〈渠容反、字亦作〓〔舟+卭〕、今案太加世、俗用高瀨舟、〉


舼 釈名に云はく、艇の小さくして深き者を舼〈渠容反、字は亦、𦨰に作る、今案ふるに太加世たかせ、俗に高瀬舟を用ゐる〉と曰ふといふ。

艜 釋名云、艇薄而長者曰艜、〈當盖反、與帶同、今案比良太、俗用平󠄁田舟、〉


艜 釈名に云はく、艇の薄くして長き者を艜〈当盖反、帯と同じ、今案ふるに比良太ひらた、俗に平田舟を用ゐる〉と曰ふといふ。

舸 四聲字苑云、舸、〈古我反、楊氏云、波夜布禰、〉高尾舟、一云、戰士可乘輕舟也、


舸 四声字苑に云はく、舸〈古我反、楊氏の云ふ波夜布禰はやぶね〉は高尾舟といふ。一に云はく、戦士の乗るべき軽舟なりといふ。

艨艟 四聲字苑云、艨艟、〈蒙衝二音、又並去聲、漢語抄云、以久佐不禰、〉戰船也、


艨艟 四声字苑に云はく、艨艟〈蒙衝の二音、又、並びに去声、漢語抄に云ふ以久佐不禰いくさぶね〉は戦船なりといふ。

水脉船 楊氏漢語抄云、水脉船、〈美乎比歧能布禰、〉


水脈船 楊氏漢語抄に云はく、水脈船〈美乎比岐能布禰みをびきのふね〉といふ。

桴筏 論語注󠄁云、桴、編󠄁竹木、大曰筏〈音伐、字亦作𦪑、〉小曰桴、〈音浮󠄁、玉篇字亦作艀、在舟部、以賀多、〉


桴筏 論語注に云はく、桴は竹木を編み、大なるを筏〈音は伐、字は亦、𦪑に作る〉と曰ひ、小なるを桴〈音は浮、玉篇に字は亦、艀に作る、舟部に在り、以賀多いかだ〉と曰ふといふ。

査 唐韵云、楂、〈鋤加反、字亦作査槎、宇歧々、〉水中浮󠄁木也、


査 唐韻に云はく、楂〈鋤加反、字は亦、査、槎に作る、宇岐々うきき〉は水中の浮木なりといふ。

舟事類 說文云、艐、〈子紅反、俗云爲流、〉船着沙不行也、唐韻云、艤、〈魚綺反、訓不奈與曾比、〉整舟向岸也、𦨖、〈初敎反、訓加比路久、〉船不安也、


舟事類 説文に云はく、艐〈子紅反、俗に云ふ為流ゐる〉は船の沙に着き行かざるなりといふ。唐韻に云はく、艤〈魚綺反、訓は不奈与曽比ふなよそひ〉は舟を整へ岸に向ふなり、𦨖〈初教反、訓は加比路久かひろぐ〉は、船の安からざるなりといふ。



舟具󠄁卅六


舟具三十六

舳 兼名苑注󠄁云、船前󠄁頭謂之舳、〈音逐、楊氏漢語抄云、舟頭制水處、和名閇、〉


舳 兼名苑注に云はく、船の前頭は之れを舳〈音は逐、楊氏漢語抄に云ふ舟頭の水を制する処、和名は〉と謂ふといふ。

艫 兼名苑注󠄁云、船後頭謂之艫、〈音盧、楊氏曰、舟後刾櫂處、和語云度毛、〉


艫 兼名苑注に云はく、船の後頭は之れを艫〈音は盧、楊氏の曰ふ舟の後の櫂を刺す処、和語に云ふ度毛とも〉と謂ふといふ。

帆 四聲字苑云、帆、〈音凡、一音泛、保、〉風衣也、一云、船上掛檣上風進󠄁船幔也、釋名云、帆或以席爲之、故曰帆席也、


帆 四声字苑に云はく、帆〈音は凡、一音に泛、〉は風衣なりといふ。一に云はく、船上の、檣の上に掛け、風を取り船を進むる幔なりといふ。釈名に云はく、帆は或はむしろを以て之れと為す、故に帆席と曰ふなりといふ。

帆竿 楊氏漢語抄云、帆竿、〈保偈多、下古寒反、〉


帆竿 楊氏漢語抄に云はく、帆竿〈保偈多ほげた、下は古寒反〉といふ。

帆柱 文選󠄁注󠄁云、槳、〈即兩反、保波之良、〉帆柱也、又云、帆檣、〈諸檣反、〉以長木之、所󠄁以挂󠄁__帆也、


帆柱 文選注に云はく、槳〈即両反、保波之良ほばしら〉は帆柱なりといふ。又云はく、帆檣〈諸墻反〉は長き木を以て之れと為し、帆を挂くる所以なりといふ。

帆綱 文選󠄁注󠄁云、長梢、〈所󠄁交反、師說保豆奈、〉今之帆綱也、


帆綱 文選注に云はく、長梢〈所交反、師説に保豆奈ほづな〉は今の帆綱なりといふ。

舟笭 釋名云、舟中床所󠄁以薦󠄁__物曰笭、〈力丁反、布奈度古、〉言但有簀如笭床也、


舟笭 釈名に云はく、舟中の床に物をく所以を笭〈力丁反、布奈度古ふなどこ〉と曰ふといふ。言ふはただ、簀有りて笭床のごときなればなり。

苫 爾雅注󠄁云、苫、〈士廉反、止万、〉編󠄁菅茅以覆屋也、


苫 爾雅注に云はく、苫〈士廉反、止万とま〉は菅茅を編み、以て屋を覆ふなりといふ。

篷庳 唐韻云、篷庳、〈蓬婢二音、布奈夜賀太、〉船上屋也、釋名云、舟上屋謂之廬、〈力居反、〉言𧰼廬舍也、


篷庳 唐韻に云はく、篷庳〈蓬婢の二音、布奈夜賀太ふなやかた〉は船上の屋なりといふ。釈名に云はく、舟上の屋は之れを廬〈力居反〉と謂ふといふ。言ふは廬舎をかたどればなり。

枻 野王案、枻、〈音曳、字亦作栧、不奈太那、〉大船旁板也、


枻 野王案ずるに、枻〈音は曳、字は亦、栧に作る、不奈太那ふなだな〉は大船の旁の板なりとす。

棹 釋名云、在旁撥水曰櫂、〈直敎反、字亦作棹、楊氏漢語抄云、加伊、〉櫂於水中、且進󠄁櫂也、


棹 釈名に云はく、旁に在りて水を撥くを櫂〈直教反、字は亦、棹に作る、楊氏漢語抄に云ふ加伊かい〉と曰ふといふ。水中を櫂ぎ、まさに櫂を進めんとするなり。

檝 釋名云、檝、〈音接、一音集、賀遲、〉使舟捷疾也、兼名苑云、檝一名橈、〈奴効反、一音饒、〉


檝 釈名に云はく、檝〈音は接、一音に集、賀遅かぢ〉は舟をして捷疾ならしむるなりといふ。兼名苑に云はく、檝、一名は橈〈奴効反、一音に饒〉といふ。

㰏 唐韻云、㰏、〈音高、字亦作篙、佐乎、〉棹竿也、方言云、刺船竹也、


㰏 唐韻に云はく、㰏〈音は高、字は亦、篙に作る、佐乎さを〉は棹竿なりといふ。方言に云はく、船を刺す竹なりといふ。

艣 唐韻云、艣、〈郎古反、與魯同、〉所󠄁以進󠄁󠄁__船也、


艣 唐韻に云はく、艣〈郎古反、魯と同じ〉は船を進むる所以なりといふ。

舵 唐韻云、舵、〈徒可反、上聲之重、字亦作䑨、〉正船木也、漢語抄云、柁、〈舩尾也、或作柂、和語云太以之、今案舟人呼挾杪䑨師、是、〉


舵 唐韻に云はく、舵〈徒可反、上声の重、字は亦、䑨に作る〉は船を正す木なりといふ。漢語抄に云はく、柁〈船尾なり、或は柂に作る、和語に云ふ太以之たいし、今案ふるに、舟人の挟杪を呼びて舵師と為すは是れ〉といふ。

纜 考聲切韻云、纜、〈藍淡反、又音濫、度毛豆奈、〉維舟索也、


纜 考声切韻に云はく、纜〈藍淡反、又の音は濫、度毛豆奈ともづな〉は舟をつなぐ索なりといふ。

牽𥾣 唐韻云、牽𥾣、〈音支、訓豆奈天、〉挽船繩也、


牽𥾣 唐韻に云はく、牽𥾣〈音は支、訓は豆奈天つなて〉は船を挽く縄なりといふ。

牫牱 唐韻云、牫牱、〈臧柯二音、楊氏漢語抄云、加之、〉所󠄁以繫󠄁__舟也、


牫牱 唐韻に云はく、牫牱〈臧柯の二音、楊氏漢語抄に云ふ加之かし〉は舟を繋ぐ所以なりといふ。

碇 四聲字苑云、海中以石駐舟曰碇、〈丁定反、字亦作矴、伊加利、〉


碇 四声字苑に云はく、海中に石を以て舟をむるを碇〈丁定反、字は亦、矴に作る、伊加利いかり〉と曰ふといふ。

𦀌 周󠄀易注󠄁云、衣𦀌、〈女余反、又奴下反、字亦作袽、和名夫禰乃能米、〉所󠄁以塞舟漏也、


𦀌 周易注に云はく、衣𦀌〈女余反、又、奴下反、字は亦、袽に作る、和名は夫禰乃能米ふねののめ〉は舟の漏れを塞ぐ所以なりといふ。

戽〈浛附〉 蔣魴切韻云、戽、〈音故、和名由止利、〉洩舟中水之斗也、唐韵云、浛、〈故紺反、楊氏漢語抄云、布奈由、一云容水、〉水和物也、


戽〈浛付〉 蒋魴切韻に云はく、戽〈音は故、和名は由止利ゆとり〉は舟中の水をさらふの斗なりといふ。唐韻に云はく、浛〈故紺反、楊氏漢語抄に云ふ布奈由ふなゆ、一に云ふ容水〉は水、物に和するなりといふ。

𠢧 楊氏漢語抄云、𠢧、〈書證反、布奈邇〉


𠢧 楊氏漢語抄に云はく、𠢧〈書証反、布奈邇ふなに〉といふ。



車類卅七


車類三十七

車駕 古史考云、黃帝作車、〈尺遮󠄁反、一音居、久留万、〉四聲字苑云、駕、〈音賀、〉牛馬入轅軛中也、


車駕 古史考に云はく、黄帝、車〈尺遮反、一音に居、久留万くるま〉を作るといふ。四声字苑に云はく、駕〈音は賀〉は、牛馬、轅軛の中に入るなりといふ。

轝 四聲字苑云、轝、〈音餘、字或作輿、古之、〉車無輪也、


轝 四声字苑に云はく、轝〈音は余、字は或に輿に作る、古之こし〉は車に輪無きなりといふ。

腰輿 唐令云、行障六具󠄁、分左右車、其次腰輿、〈太古之〉、


腰輿 唐令に云はく、行障六具、左右に分れて車を夾め、其の次に腰輿〈太古之たごし〉といふ。

籃轝 晋書云、陶元亮所󠄁乘、乃是籃轝、〈音藍、言竹車也、〉


籃轝 晋書に云はく、陶元亮の乗る所、乃ち是れ籃轝といふ〈音は藍、言ふは竹車なればなり〉。

輦 周󠄀禮注󠄁云、后居宮中、縱容所󠄁乘、謂之輦、〈力展反、天久留万、〉爲輇輪人挽所󠄁行也、


輦 周礼注に云はく、后、宮中に居し、縦容として乗る所、之れを輦〈力展反、天久留万てぐるま〉と謂ふ、輇輪を為し、人挽きて行く所なりといふ。

靑蓋車 續漢書輿服志云、皇太子皇子、皆朱輪靑盖、故曰靑盖車


青蓋車 続漢書輿服志に云はく、皇太子、皇子は皆、朱輪、青蓋にす、故に青蓋車と曰ふといふ。

長簷車 顔氏家訓云、乘長簷車、〈今案俗云庇刺車、是乎〉


長簷車 顔氏家訓に云はく、長簷車に乗るといふ〈今案ふるに、俗に云ふさしの車は是れか〉。

四馬車 論語注󠄁云、小車四馬車也、


四馬車 論語注に云はく、小車は四馬の車なりといふ。

副車 漢書注󠄁云、副車、〈曾閇久流万、俗云比度太万比、〉後乘也、


副車 漢書注に云はく、副車〈曽閉久流万そへぐるま、俗に云ふ比度太万比ひとだまひ〉は後乗りなりといふ。

飛車 兼名苑注󠄁云、奇肱國人、〈今案國人無右臂、故名之、〉能作飛車、從風飛行、故曰飛車


飛車 兼名苑注に云はく、奇肱国人〈今案ふるに国人に右臂無し、故に之れを名く〉は能く飛車を作り、風に従ひて飛行す、故に飛車と曰ふといふ。

指南車 鬼谷子注󠄁云、周󠄀成王時、肅愼氏獻白雉還󠄁、恐惑、周󠄀公作指南車以送󠄁之、


指南車 鬼谷子注に云はく、周の成王の時、粛慎氏、白雉を献じて還る。惑ふことを恐り、周公、指南車を作りて以て之れを送るといふ。



車具󠄁卅八


車具三十八

車蓋〈轑附〉 大戴禮云、車蓋、〈俗車屋形、夜賀太、〉廿八轑以𧰼列星也、野王案、轑、〈音老、〉車盖上椽也、


車蓋〈轑付〉 大戴礼に云はく、車蓋〈俗の車屋形、夜賀太やかた〉二十八轑、以て列星を象るなりといふ。野王案ずるに、轑〈音は老〉は車蓋の上の椽なりとす。

輫 唐韵云、輫、〈音俳、〉車箱也、楊氏漢語抄云、車箱、〈車乃度古、一云車輿、〉


輫 唐韻に云はく、輫〈音は俳〉は車箱なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ車箱〈くるま乃度古のとこ、一に云ふ車輿〉。

軾〈𨋏附〉 說文云、軾、〈音式、車乃止之歧美、〉車前󠄁也、四聲字苑云、𨋏、〈之忍󠄁反、〉車後橫木也、


軾〈軫付〉 説文に云はく、軾〈音は式、くるま乃止之岐美のとじきみ〉は車の前なりといふ。四声字苑に云はく、軫〈之忍反〉は車の後の横木なりといふ。

轅 唐韻云、輈、〈張流反、〉車轅也、轅、〈音園、奈加江、俗在前󠄁謂之轅、在後謂之鴟尾、或云小轅、〉車轅也、


轅 唐韻に云はく、輈〈張流反〉は車の轅なり、轅〈音は園、奈加江ながえ、俗に前に在るは之れを轅と謂ひ、後に在るは之れを鴟尾と謂ふ、或は云ふ小轅〉は車の轅なりといふ。

軛 釋名云、軛、〈音厄、久比歧、〉所󠄁以扼牛領也、


軛 釈名に云はく、軛〈音は厄、久比岐くびき〉は牛のくびおさふる所以なりといふ。

軸 說文云、軸、〈直六反、與古賀美、〉持輪者也、


軸 説文に云はく、軸〈直六反、与古賀美よこがみ〉は輪を持する者なりといふ。

𩌏 唐韻云、𩌏、〈音博󠄁、〉車下索也、釋名云、𩌏、〈今案度古之波利、〉在車下輿相連縛者也、


𩌏 唐韻に云はく、𩌏〈音は博〉は車の下索なりといふ。釈名に云はく、𩌏〈今案ふるに度古之波利とこしばり〉は車の下に在りて輿と相連ねて縛る者なりといふ。

輪〈網附〉 野王案、輪、〈音倫、和、〉車脚、所󠄁以轉進󠄁也、四聲字苑云、網、〈文兩反、楊氏漢語抄云、於保和、一云輪牙、〉車輪郭曲木也、


輪〈輞付〉 野王案ずるに、輪〈音は倫、〉は、車脚の転進する所以なりとす。四声字苑に云はく、輞〈文両反、楊氏漢語抄に云ふ於保和おほわ、一に云ふ輪牙〉は車輪の郭の曲木なりといふ。

轂 說文云、轂、〈古祿反、楊氏漢語抄云、車乃古之歧、俗云筒、〉輻所󠄁湊也、


轂 説文に云はく、轂〈古禄反、楊氏漢語抄に云ふくるま乃古之岐のこしき、俗に云ふどう〉は輻のあつまる所なりといふ。

輻 老子經云、古車有卅輻、〈音福、夜、〉以𧰼月數也、


輻 老子経に云はく、いにしへ車に三十の輻〈音は福、〉有り、以て月の数を象るなりといふ。

轄 野王案、轄、〈音割、久佐比、〉軸端䥫也、


轄 野王案ずるに、轄〈音は割、久佐比くさび〉は軸の端の鉄なりとす。

釭 說文云、釭、〈古紅反、又古雙反、車乃加利毛、〉轂口䥫也、


釭 説文に云はく、釭〈古紅反、又、古双反、くるま乃加利毛のかりも〉は轂の口の鉄なりといふ。

輠 唐韵云、輠、〈胡果反、上聲之重、又音果、漢語抄云、車乃阿不良豆乃、〉車脂角也、


輠 唐韻に云はく、輠〈胡果反、上声の重、又、音は果、漢語抄に云ふくるま乃阿不良豆乃のあぶらづの〉は車の脂角なりといふ。

乘泥 楊氏漢語抄云、乘泥、〈車乃豆知波良非、〉


乗泥 楊氏漢語抄に云はく、乗泥〈くるま乃豆知波良非のつちはらひ〉といふ。

罿 唐韵云、罿、〈音童、一音衝、車乃阿美、〉車上網也、


罿 唐韻に云はく、罿〈音は童、一音に衝、くるま乃阿美のあみ〉は車上の網なりといふ。

車簾 唐韵云、㡙㡘、〈篦廉二音、俗云車簾、〉車帷也、


車簾 唐韻に云はく、㡙㡘〈篦廉の二音、俗に云ふ車簾〉は車帷なりといふ。

鞇 釋名云、車中所󠄁坐者曰文鞇、〈音與茵同、車乃之度禰、〉用虎皮文綵、因輿而相連著也、


鞇 釈名に云はく、車中の坐する所の者を文鞇〈音は茵と同じ、くるま乃之度禰のしとね〉と曰ひ、虎皮を用ゐ文綵有り、輿に因りて相連ね著するなりといふ。

榻 唐韵云、榻、〈吐盍反、之知、〉牀也、


榻 唐韻に云はく、榻〈吐盍反、之知しぢ〉は牀なりといふ。

鞦 四聲字苑云、鞦、〈音秋、字亦作鞧、之利加歧、〉車鞦、所󠄁以制牛後也、


鞦 四声字苑に云はく、鞦〈音は秋、字は亦、鞧に作る、之利加岐しりがき〉は車鞦、牛後を制する所以なりといふ。

鞅 毛詩注󠄁云、靷、〈音引、〉所󠄁以引󠄁__車也、四聲字苑云、鞅、〈於兩反、漢語抄云、无奈加歧、〉軛下絆頸繩也、


鞅 毛詩注に云はく、靷〈音は引〉は車を引く所以なりといふ。四声字苑に云はく、鞅〈於両反、漢語抄に云ふ無奈加岐むながき〉は軛の下に頸をほだす縄なりといふ。

㡔䘰 唐韻云、㡔䘰、〈摸延二音、俗云久飛於保比、〉牛領上衣也、


㡔䘰 唐韻に云はく、㡔䘰〈摸延の二音、俗に云ふ久飛於保比くびおほひ〉は牛の領の上の衣なりといふ。

牛縻 蒼頡篇云、縻、〈音與糜同、波奈豆良、〉牛韁也、字書云、桊、〈音眷、楊氏漢語抄云、桊、牛乃波奈歧、〉牛鼻環也、


牛縻 蒼頡篇に云はく、縻〈音は糜と同じ、波奈豆良はなづら〉は牛のくつわづらなりといふ。字書に云はく、桊〈音は眷、楊氏漢語抄に云ふ桊、うし乃波奈岐のはなぎ〉は牛の鼻環なりといふ。



珍寳部第八


珍宝部第八

 金銀類卅九 玉石類四十


 金銀類三十九 玉石類四十



金銀類卅九


金銀類三十九

金 爾雅云、黃金曰璗、〈徒黨反、〉其美者曰鏐、〈力幽反、〉即紫磨金也、說文云、銑、〈蘇典反、古加禰、〉金之最有光澤也、


金 爾雅に云はく、黄金を璗〈徒党反〉と曰ひ、其の美しき者を鏐〈力幽反〉と曰ひ、即ち紫磨金なりといふ。説文に云はく、銑〈蘇典反、古加禰こがね〉は金の最も光沢有るなりといふ。

金屑 陶隱居曰、金屑、一名生金、〈古加禰乃須利久豆、〉


金屑 陶隠居曰はく、金屑、一名は生金といふ〈古加禰乃須利久豆こがねのすりくず〉。

銀 尒雅云、白金曰銀、〈宜珍反、〉其美者曰鐐、〈力凋力弔二反、之路加禰、〉


銀 爾雅に云はく、白金を銀〈宜珍反〉と曰ひ、其の美しき者を鐐〈力凋、力弔の二反、之路加禰しろかね〉といふ。

銀屑 陶隱居曰、銀屑、一名銀蘇、〈銀乃須利久豆、〉


銀屑 陶隠居曰はく、銀屑、一名は銀蘇といふ〈しろかね乃須利久豆のすりくず〉。

銅 說文云、銅、〈音同、阿加々禰、〉赤金也、


銅 説文に云はく、銅〈音は同、阿加々禰あかがね〉は赤金なりといふ。

半󠄁熟 唐韵云、鎚、〈直類反、〉好銅半󠄁熟也、


半熟 唐韻に云はく、鎚〈直類反〉はき銅の半ば熟するなりといふ。

鐵〈鑌附〉 說文云、鐵〈他結反、久路加禰、此間一訓禰利、〉黑金也、唐韵云、鑌、〈音賓、〉鐵、爲刀甚利、


鉄〈鑌付〉 説文に云はく、鉄〈他結反、久路加禰くろがね此間ここの一訓に禰利ねり〉は黒金なりといふ。唐韻に云はく、鑌〈音は賓〉鉄は、刀をつくるに甚だしといふ。

鐵落 本草云、鐵落、一名鐵液、〈鐵乃波太、一訓加奈久曾、〉蘇敬曰、是鍛家燒鐵赤沸、砧上鍛之、皮甲落也、


鉄落 本草に云はく、鉄落、一名は鉄液といふ〈くろがね乃波太のはだ、一訓に加奈久曽かなくそ〉。蘇敬曰はく、是れ鍛家、鉄を焼き、赤く沸かし、砧の上にて之れをてば、皮甲落つるなりといふ。

鐵精 陶隱居曰、鐵精、一名鐵漿、〈加禰乃佐比、〉鍛竈中如塵也、


鉄精 陶隠居曰はく、鉄精、一名は鉄漿〈加禰乃佐比かねのさび〉、鍛竃の中の塵のごときなりといふ。

鉛 說文云、鉛、〈音延、奈万利、〉靑金也、


鉛 説文に云はく、鉛〈音は延、奈万利なまり〉は青金なりといふ。

錫 唐韵云、錫、〈先擊反、〉鉛錫、爾雅云、錫謂之鈏、〈常𠫤反、〉兼名苑云、一名白鑞、〈盧盍反、之路奈万利、〉


錫 唐韻に云はく、錫〈先撃反〉は鉛錫といふ。爾雅に云はく、錫は之れを鈏〈常吝反〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、一名は白鑞〈盧盍反、之路奈万利しろなまり〉といふ。

水銀 蔣魴切韵云、汞、〈胡孔反、上聲之重、美豆加禰、〉水銀別名也、唐韵云、澒、〈今案汞澒或通󠄁、〉水銀滓也、


水銀 蒋魴切韻に云はく、汞〈胡孔反、上声の重、美豆加禰みづかね〉は水銀の別名なりといふ。唐韻に云はく、澒〈今案ふるに汞、澒、或に通ず〉は水銀の滓なりといふ。

汞粉 陶隱居曰、汞粉、〈美豆加禰乃賀須、〉燒時飛著釜上之名也、俗名之水銀灰


汞粉 陶隠居曰はく、汞粉〈美豆加禰乃賀須みづかねのかす〉は、焼く時に釜の上に飛び著くの名なり、俗に之れを水銀灰と名くといふ。

鎭粉 小品方云、鎭粉、〈美豆賀禰乃介布利、〉燒朱砂水銀、其上黑煙󠄁名也、


鎮粉 小品方に云はく、鎮粉〈美豆賀禰乃介布利みづかねのけぶり〉は、朱砂を焼きて水銀と為す、其の上の黒煙の名なりといふ。

錢 唐韻云、鎈、〈初牙反、與差同、〉錢異名也、漢書志云、鏹、〈居兩反、訓世邇豆良、〉錢貫也、音義云、鎔、〈音容、世邇乃波太毛能、〉錢摸也、


銭 唐韻に云はく、鎈〈初牙反、差と同じ〉は銭の異名なりといふ。漢書志に云はく、鏹〈居両反、訓は世邇豆良ぜにづら〉は銭貫なりといふ。音義に云はく、鎔〈音は容、世邇乃波太毛能ぜにのはたもの〉は銭摸なりといふ。



玉石類四十


玉石類四十

珠 白虎通󠄁云、海出明珠、〈日本紀私記云、眞珠、之良太万、〉


珠 白虎通に云はく、海、明珠〈日本紀私記に云ふ真珠、之良太万しらたま〉を出だすといふ。

玉 四聲字苑云、玉、〈語欲反、白玉、和名同上、〉寳石也、兼名苑云、球琳、〈求林二音、〉琅玕、〈郎干二音、〉琨瑤、〈昆遙二音、〉琬琰、〈遠󠄁掩二音、〉皆美玉名也、


玉 四声字苑に云はく、玉〈語欲反、白玉、和名は上に同じ〉は宝石なりといふ。兼名苑に云はく、球琳〈求林の二音〉、琅玕〈郎干の二音〉、琨瑤〈昆遥の二音〉、琬琰〈遠掩の二音〉は皆、美しき玉の名なりといふ。

璞 野王案、璞、〈普角反、阿良太萬、〉玉未理也、


璞 野王案ずるに、璞〈普角反、阿良太万あらたま〉は玉の未だをさめざるなりとす。

水精 兼名苑云、水玉、一名月珠、〈美豆止留太万、〉水精也、


水精 兼名苑に云はく、水玉、一名は月珠〈美豆止留太万みづとるたま〉、水精なりといふ。

火精 兼名苑云、火珠、一名瑒璲、〈陽燧二音、比止留太万、〉火精也、


火精 兼名苑に云はく、火珠、一名は瑒璲〈陽燧の二音、比止留太万ひとるたま〉、火精なりといふ。

瑠璃 野王案、瑠璃、〈流離二音、俗云留利、〉靑色而如玉者也、


瑠璃 野王案ずるに、瑠璃〈流離の二音、俗に云ふ留利るり〉は青色にして玉のごとき者なりとす。

雲母 本草云、雲母、〈歧良々、〉多赤謂之雲珠、五色具󠄁謂之雲華、多靑謂之雲英、多白謂之雲液、多黃謂之雲沙


雲母 本草に云はく、雲母〈岐良々きらら〉の、赤多きは之れを雲珠と謂ひ、五色を具ふるは之れを雲華と謂ひ、青多きは之れを雲英と謂ひ、白多きは之れを雲液と謂ひ、黄多きは之れを雲沙と謂ふといふ。

玫瑰 唐韵云、玫瑰、〈枚廻二音、今案和名與雲母同、見*原本于、文選󠄁讀翡翠火齊處、〉火齊珠也、


玫瑰 唐韻に云はく、玫瑰〈枚廻の二音、今案ふるに和名は雲母と同じならん、干に見ゆ、文選の読みの翡翠火斉の処〉は火斉珠なりといふ。

珊瑚 說文云、珊瑚、〈𦙱胡二音、〉色赤玉、出於海底山中也、


珊瑚 説文に云はく、珊瑚〈𦙱胡の二音〉は色赤き玉、海底の山中より出づるなりといふ。

琥珀 兼名苑云、琥珀、〈虎伯二音、俗音、久波久、〉一名江珠、


琥珀 兼名苑に云はく、琥珀〈虎伯の二音、俗音は久波久くはく〉、一名は江珠といふ。

硨磲 廣雅云、車渠、〈陸詞並從石、作硨磲也、俗音謝古、〉石之次玉也、


硨磲 広雅に云はく、車渠〈陸詞も並びに石に従ひ、硨磲に作るなり、俗音はしや〉は石の玉に次ぐなりといふ。

馬腦 廣雅云、馬腦、〈俗音女奈宇、〉石之次玉也、


馬脳 広雅に云はく、馬脳〈俗音は女奈宇めなう〉は石の玉に次ぐなりといふ。

鍮石 考聲切韵云、鍮〈他侯反、字亦作鋀、鍮石二音、俗云中尺、〉石似金、西域以銅䥫雜藥合爲之、


鍮石 考声切韻に云はく、鍮〈他侯反、字は亦、鋀に作る、鍮石の二音、俗に云ふちうじやく〉石は金に似、西域に銅鉄、雑薬を以て合して之れと為すといふ。



布帛部第九〈部類書有此部、盖綾羅錦綺絹布等惣名也、〉


布帛部第九〈部類書に此の部有り、蓋し綾羅、錦綺、絹布等の惣名なり〉

 錦綺類四十一 絹布類四十二


 錦綺類四十一 絹布類四十二



錦綺類四十一


錦綺類四十一

錦 釋名云、錦、〈居飮反、邇之歧、本朝式有暈𦅘錦高麗錦軟錦兩面錦等之名、𦅘字所󠄁出未詳、〉金也、作之用功重、其價如金、故製其字帛與金也、


錦 釈名に云はく、錦〈居飲反、邇之岐にしき、本朝式に暈繝錦、高麗錦、軟錦、両面錦等の名有り、繝の字、出づる所未だ詳かならず〉は金なり、之れを作るに功を用ゐること重く、其の価は金のごとし、故に其の字を製するに、帛に金をともにするなりといふ。

綺 蔣魴切韻云、綺、〈虛彼反、歧、一云於利毛能、又一訓加无波太、〉似錦而薄者也、釋名云、綺、棊也、謂方丈如棊也、


綺 蒋魴切韻に云はく、綺〈虚彼反、、一に云ふ於利毛能おりもの、又、一訓に加無波太かむはた〉は錦に似て薄き者なりといふ。釈名に云はく、綺は棊なりといふ。謂ふは方丈、棊のごときなればなり。

兎褐 蔣魴切韻云、兎褐、〈戶葛反、此間云、止加千、〉繒衣以兎毛和織也、


兎褐 蒋魴切韻に云はく、兎褐〈戸葛反、此間に云ふ止加千とかち〉は繒の衣、兎毛を以て和し織るなりといふ。

夾纈 東宮切韵云、釋氏曰、纈、〈胡結反、夾纈、此間云、加宇介知、〉結帛爲文綵也、孫愐曰、繒之有夾花


夾纈 東宮切韻に云はく、釈氏曰はく、纈〈胡結反、夾纈は此間に云ふ加宇介知かうけち〉は帛をひて文綵を為すなりといふといふ。孫愐曰はく、繒の夾花有りといふ。

繡 蔣魴切韻云、繡、〈息又反、訓沼无毛乃、〉以五色絲、刺万物形狀也、


繡 蒋魴切韻に云はく、繡〈息又反、訓は沼無毛乃ぬむもの〉は五色の糸を以て万物の形状を刺すなりといふ。

綾〈紋附〉 野王案、綾、〈音陵、阿夜、有熟線綾長連綾二足綾花文綾平󠄁綾等名、〉似綺而細者也、考聲切韻云、紋、〈音文、〉吳越謂小綾也、


綾〈紋付〉 野王案ずるに、綾〈音は陵、阿夜あや、熟線綾、長連綾、二足綾、花文綾、平綾等の名有り〉は綺に似て細かき者なりといふ。考声切韻に云はく、紋〈音は文〉は呉越に小綾を謂ふなりといふ。

羅 唐韵云、羅、〈魯何反、此間云、良、一云蟬翼、〉綺羅亦網羅也、


羅 唐韻に云はく、羅〈魯何反、此間に云ふ、一に云ふ蝉翼せんよく〉は綺羅、亦、網羅なりといふ。

縠〈縬附〉 釋名云、縠、〈胡谷反、古女、〉其形縬々、視之如粟也、唐韻云、縬、〈子六反、與叔同、此間云、之々良歧、〉繒文貌也、


縠〈縬付〉 釈名に云はく、縠〈胡谷反、古女こめ〉は其の形、縬々として之れを視るに粟のごときなりといふ。唐韻に云はく、縬〈子六反、叔と同じ、此間に云ふ之々良岐しじらき〉は繒の文の貌なりといふ。

縑 毛詩注󠄁云、綃、〈所󠄁交反、又音消󠄁、加止利、〉縑也、釋名云、縑、〈音兼、〉其絲細緻、數兼於絹也、漢書云、灌嬰販繒、〈疾陵反、師說上讀同、今案又布帛摠名也、見說文、〉


縑 毛詩注に云はく、綃〈所交反、又、音は消、加止利かとり〉は縑なりといふ。釈名に云はく、縑〈音は兼〉は其の糸の細緻なること、数、絹に兼ぬるなりといふ。漢書に云はく、灌嬰、繒〈疾陵反、師説に上と読み同じ、今案ふるに又、布帛の摠名なり、説文に見ゆ〉をひさぐといふ。



絹布類四十二


絹布類四十二

絹〈幅字附〉 陸詞切韻云、絹、〈吉椽反、歧沼、〉繒帛也、四聲字苑云、幅、〈音福、俗訓能、〉布絹之類闊狹也、


絹〈幅字付〉 陸詞切韻に云はく、絹〈吉椽反、岐沼きぬ〉は繒帛なりといふ。四声字苑に云はく、幅〈音は福、俗訓は〉は布絹の類の闊狭なりといふ。

練 蔣魴切韻云、練、〈郎甸反、禰利歧沼、〉熟絹也、


練 蒋魴切韻に云はく、練〈郎甸反、禰利岐沼ねりぎぬ〉は熟絹なりといふ。

絁〈紕字附〉 唐韻云、絁、〈式支反、與施同、阿之歧沼、〉繒似布也、紕、〈匹毗反、漢語抄云、萬與布、一云與流、〉繒欲壞也、


絁〈紕字付〉 唐韻に云はく、絁〈式支反、施と同じ、阿之岐沼あしぎぬ〉は繒の布に似るなり、紕〈匹毘反、漢語抄に云ふ万与布まよふ、一に云ふ与流よる〉は繒の壊れんと欲するなりといふ。

帛 說文云、帛、〈蒲角反、俗云波久乃歧奴、〉薄繒也、


帛 説文に云はく、帛〈蒲角反、俗に云ふ波久乃岐奴はくのきぬ〉は薄き繒なりといふ。

紗 四聲字苑云、紗、〈所󠄁加反、俗云射、〉似絹太輕薄也、


紗 四声字苑に云はく、紗〈所加反、俗に云ふしや〉は絹に似てはなはだ軽薄なりといふ。

布 四聲字苑云、布、〈博故反、沼能、〉織麻及紵帛也、


布 四声字苑に云はく、布〈博故反、沼能ぬの〉は麻及び紵を織りて帛と為すなりといふ。

白絲布 唐式云、白絲布、〈今案俗用手作布三字、云天豆久利乃沼乃是乎、〉


白糸布 唐式に云はく、白糸布〈今案ふるに、俗に手作布の三字を用ゐる、天豆久利乃沼乃てづくりのぬのと云ふは是れか〉といふ。

紵 唐式云、紵布三端、〈今案紵者麻紵之紵、俗用麻布二字、云阿佐沼乃是乎、〉


紵 唐式に云はく、紵布三端〈今案ふるに、紵は麻紵の紵、俗に麻布の二字を用ゐる、阿佐沼乃あさぬのと云ふは是れか〉といふ。

調布 唐式云、楊州庸調布、〈今案本朝式有庸布調布、讀豆歧乃沼乃、又有信濃望陁等名、望陁者上總國郡名也、其體與他國調布頗別異、故以所󠄁出國郡名名也、〉


調布 唐式に云はく、楊州の庸調布といふ。〈今案ふるに本朝式に庸布、調布有り、読みは豆岐乃沼乃つきのぬの。又、信濃、望陀等の名有り、望陀は上総国の郡名なり、其の体、他国の調布と頗る別異す、故に出づる所の国郡の名を以て名と為すなり〉

貲布 唐韻云、㠿、〈音與貲同、〉布名也、唐式云、貲布、〈楊氏漢語抄云、佐與美乃沼能、今案貲布宜㠿布乎、〉


貲布 唐韻に云はく、㠿〈音は貲と同じ〉は布の名なりといふ。唐式に云はく、貲布〈楊氏漢語抄に云ふ佐与美乃沼能さよみのぬの、今案ふるに貲布は宜しく㠿布に作るべきか〉といふ。

商布 本朝式云、商布、〈多邇、〉


商布 本朝式に云はく、商布〈多邇たに〉といふ。

綿絮〈屯字附〉 唐韵云、綿、〈武連反、和多、〉絮也、四聲字苑云、絮、〈息慮反、〉似綿而麁惡也、唐令云、綿六兩爲屯、〈屯聚也、俗一屯讀、飛止毛遲、〉


綿絮〈屯字付〉 唐韻に云はく、綿〈武連反、和多わた〉は絮なりといふ。四声字苑に云はく、絮〈息慮反〉は綿に似て麁悪なりといふ。唐令に云はく、綿六両を屯〈屯は聚るなり、俗に一屯を読みて飛止毛遅ひともぢ〉と為すといふ。
卷第四

巻第四

 裝束部第十 飮食部第十一 器皿部第十二 燈火部第十三


 装束部第十 飲食部第十一 器皿部第十二 灯火部第十三

裝束部第十


装束部第十

 冠帽類四十三 冠帽具󠄁󠄁四十四 衣服類四十五 衣服具󠄁󠄁四十六 腰帶類四十七 腰帶具󠄁󠄁四十八 履襪類四十九 履襪具󠄁󠄁五十


 冠帽類四十三 冠帽具四十四 衣服類四十五 衣服具四十六 腰帯類四十七 腰帯具四十八 履襪類四十九 履襪具五十



冠帽類四十三


冠帽類四十三

冠〈幞頭附〉 兼名苑注󠄁云、冠、〈音官、〉黃帝造󠄁也、辨色立成云、幞頭、〈賀宇布利、幞音僕、今按楊氏漢語抄說同、唐令等亦用之、〉


冠〈幞頭付〉 兼名苑注に云はく、冠〈音は官〉は黄帝が造るなりといふ。弁色立成に云ふ幞頭〈賀宇布利かうぶり、幞の音は僕、今按ふるに楊氏漢語抄の説同じ、唐令等に亦、之れを用ゐる〉。

冕 續漢書輿服志云、冕、〈音免、玉乃冠、〉冠之前󠄁後垂旒者也、


冕 続漢書輿服志に云はく、冕〈音は免、たまかうぶり〉は冠の前後にりうを垂るる者なりといふ。

雲冠 唐令云、景雲儛八人、五色雲冠、〈俗云万比乃加之良、〉


雲冠 唐令に云はく、景雲儛八人、五色の雲冠〈俗に云ふ万比乃加之良まひのかしら〉つけよといふ。

天冠 內典云、環釧釵鐺天冠臂印、〈𣵀槃經文、天冠、俗訛云天和、〉


天冠 内典に云はく、環釧、釵鐺、天冠、臂印といふ〈涅槃経の文に天冠は俗に訛りて云ふ天和てんくわ〉。

帞頟 方言云、頟巾、或謂之帞頟、〈帞音陌、〉或謂之絡頭、〈絡音落、〉唐令云、高昌伎一部、舞二人紅末頟、


帞頟 方言に云はく、頟巾は或に之れを帞頟〈帞の音は陌〉と謂ひ、或に之れを絡頭〈絡の音は落〉と謂ふといふ。唐令に云はく、高昌伎の一部舞二人、紅末頟つけよといふ。

烏帽〈帽子附〉 兼名苑云、帽一名頭衣、〈帽音耄、烏帽子、俗訛烏作焉、今案烏焉或通󠄁、見文選󠄁注󠄁玉篇等、〉唐式云、庶人帽子、皆寛大露面、不掩蔽


烏帽〈帽子付〉 兼名苑に云はく、帽、一名は頭衣といふ〈帽の音は耄、烏帽子、俗に烏を訛りて焉に作る。今案ふるに烏、焉は或に通ず、文選注、玉篇等に見ゆ〉。唐式に云はく、庶人の帽子は皆、寛大にして面をあらはにし、おほかくすこと有り得ずといふ。

頭巾 唐令云、諸給時服、冬則頭巾一枚、


頭巾 唐令に云はく、およそ時服を給するに、冬のときには頭巾一枚といふ。

幗 釋名云、幗、〈古誨反、去聲、又古獲反、知歧利加宇不利、今老嫗戴之、〉覆髻上者也、唐韵云、幗、婦󠄁人喪冠也、


幗 釈名に云はく、幗〈古誨反、去声、又、古獲反、知岐利加宇不利ちきりかうぶり、今、老嫗、之れをいただく〉は髻の上を覆ふ者なりといふ。唐韻に云はく、幗は婦人の喪冠なりといふ。



冠帽具󠄁󠄁四十四


冠帽具四十四

簪 四聲字苑云、簪、〈作含反、又則岑反、加无左之、〉挿冠釘也、蒼頡篇云、簪筓也、釋名云、筓、〈音鷄、此間云笄子、上音如才、〉係也、所󠄁󠄁以抅__使不墜也、


簪 四声字苑に云はく、簪〈作含反、又、則岑反、加無左之かむざし〉は冠に挿す釘なりといふ。蒼頡篇に云はく、簪は笄なりといふ。釈名に云はく、笄〈音は鶏、此間ここに云ふ笄子、上の音は才のごとし〉は係るなり、冠にかかはりて墜ちざらしむる所以なりといふ。

巾子 辨色立成云、巾子、〈此間巾音如渾、〉幞頭具󠄁󠄁、所󠄁󠄁以挿__髻者也、


巾子 弁色立成に云はく、巾子〈此間に巾の音は渾のごとし〉は幞頭の具、髻をさしはさむ所以の者なりといふ。

纓 唐韵云、纓、〈於盈反、俗云燕尾、〉冠纓、禮記云、玄纓紫緌、自魯桓公始焉、


纓 唐韻に云はく、纓〈於盈反、俗に云ふ燕尾〉は冠纓といふ。礼記に云はく、玄纓、紫緌は魯の桓公より始まりぬといふ。

緌 兼名苑云、緌、〈儒誰反、與蕤同、〉一名繫、〈和名冠乃乎、一云保々須介、又云於以加計、或說云、老人髻落、以此繫冠使墜、故名老繫也、今不老少、武官皆用之、〉


緌 兼名苑に云はく、緌〈儒誰反、蕤と同じ〉、一名は繋といふ。〈和名はかうぶり乃乎のを、一に云ふ保々須介ほほすけ、又云ふ於以加計おいかけ。或説に云はく、老人、髻落ち、此れを以て冠を繋げて墜ちざらしむ、故に老繋と名くるなりといふ。今、老少を論ぜず、武官は皆、之れを用ゐる〉

擽𩯭㕞 文選󠄁云、勁㕞理𩯭、〈李善曰、通󠄁俗文所󠄁󠄁以理__鬢謂之㕞也、音雪󠄁󠄁、〉釋名云、纛、〈音盜、〉導󠄁也、所󠄁󠄁以導󠄁擽𩯭髮也、或曰擽𩯭、〈擽音曆、加美加歧、〉


擽鬢刷 文選に云はく、勁刷理鬢といふ〈李善曰はく、通俗文に鬢ををさむる所以に之れをかきつくろふと謂ふなりといふ、音は雪〉。釈名に云はく、纛〈音は盗〉は導くなり、鬢髪を導擽する所以なりといふ。或は曰ふ擽鬢〈擽の音は暦、加美加岐かみかき〉。



衣服類四十五〈野王案、在上曰衣、在下曰裳、惣謂之服也、〉


衣服類四十五〈野王案ずるに、上に在るを衣と曰ひ、下に在るを裳と曰ひ、惣じて之れを服と謂ふなりとす〉

袍 楊氏漢語抄云、袍、〈薄交反、宇倍乃歧沼、一云朝服、〉着襴之袷衣也、


袍 楊氏漢語抄に云はく、袍〈薄交反、宇倍乃岐沼うへのきぬ、一に云ふ朝服〉は襴着きの袷衣なりといふ。

縫󠄁掖 考聲切韵云、䘸、〈盈迹反、縫󠄁掖、万都波之乃宇倍乃歧奴、〉縫䘸、衣名也、


縫掖 考声切韻に云はく、䘸〈盈迹反、縫掖、万都波之乃宇倍乃岐奴まつはしのうへのきぬ〉は縫䘸、衣の名なり。

〓〔𦈢偏に夬〕掖 楊氏漢語抄云、蜀衫、〈和歧阿介乃古路毛、〉本朝式云、〓〔𦈢偏に夬〕掖、〈一云、開掖、〉


缺掖 楊氏漢語抄に云ふ蜀衫〈和岐阿介乃古路毛わきあけのころも〉、本朝式に云ふ缺掖〈一に云ふ開掖〉。

半󠄁臂 蔣魴切韻云、半󠄁臂、〈此間名如字、但下音比、〉衣名也、


半臂 蒋魴切韻に云はく、半臂〈此間に名は字のごとし、但し下の音は比〉は衣の名なりといふ。

汗衫 唐令云、諸給時服、夏則汗衫一領、〈衫音所󠄁󠄁銜反、衣名也、〉


汗衫 唐令に云はく、およそ時服に給するに、夏のときには汗衫一領といふ〈衫の音は所銜反、衣の名なり〉。

襴衫 楊氏漢語抄云、襴衫、〈須曾豆介乃古路毛、一云奈保之能古路毛、〉


襴衫 楊氏漢語抄に云ふ襴衫〈須曽豆介乃古路毛すそづけのころも、一に云ふ奈保之能古路毛なほしのころも〉。

襖子 唐令云、諸給時服、冬則白襖子一領、〈襖、烏老反、襖子、阿乎之、〉


襖子 唐令に云はく、諸そ時服を給するに、冬のときには白襖子一領といふ〈襖は烏老反、襖子は阿乎之あをじ〉。

裲襠 唐韵云、襠、〈音當、〉兩襠、衣名也、釋名云、兩襠、〈今案兩或作裲、宇知加介、〉其一當胸、其一當背也、唐令云、慶善樂舞四人、碧綾𧛾襠、〈上音苦盍反、〉


裲襠 唐韻に云はく、襠〈音は当〉は両襠、衣の名なりといふ。釈名に云はく、両襠〈今案ふるに両は或に裲に作る、宇知加介うちかけ〉、其の一は胸に当り、其の一は背に当るなりといふ。唐令に云はく、慶善楽舞四人、碧綾の𧛾襠〈上の音は苦盍反〉つけよといふ。

背子〈領巾附〉 辨色立成云、背子、〈賀良歧沼、〉形如半󠄁臂、無𦝫襴之袷衣也、楊氏漢語抄云、背子、婦󠄁人表衣、以錦爲之、領巾、〈日本紀私記云、比禮、〉婦󠄁人項上飾󠄁也、


背子〈領巾付〉 弁色立成に云はく、背子〈賀良岐沼からぎぬ〉は形、半臂のごとし、腰襴の袷衣無きなりといふ。楊氏漢語抄に云はく、背子は婦人の表衣、錦を以て之れと為す、領巾〈日本紀私記に云ふ比礼ひれ〉は婦人の項上の飾りなりといふ。

裙裳〈裙帶附〉 釋名云、上曰裙、〈唐韵云、音與群同、字亦作裠、〉下曰裳、〈音常、毛、〉白氏文集云、靑羅裙帶、〈裙帶、此間云如字、〉


裙裳〈裙帯付〉 釈名に云はく、上を裙〈唐韻に云はく、音は群と同じ、字は亦、裠に作るといふ〉と曰ひ、下を裳〈音は常、〉と曰ふといふ。白氏文集に云はく、青羅の裙帯〈裙帯は此間に云ふは字のごとし〉といふ。

衵 唐韵云、衵、〈人質反、又尼質反、漢語抄云、阿古女歧沼、〉女人近󠄁身衣也、


衵 唐韻に云はく、衵〈人質反、又、尼質反、漢語抄に云ふ阿古女岐沼あこめぎぬ〉は女人の身に近き衣なりといふ。

袿 漢書音義云、諸于、〈今案于宜衧、見玉篇、〉大䘸衣、婦󠄁人袿衣也、釋名云、袿、〈音圭、漢語抄作褂、云宇知歧、〉婦󠄁人上衣也、


袿 漢書音義に云はく、諸于〈今案ふるに于は宜しく衧に作るべし、玉篇に見ゆ〉は大䘸衣、婦人の袿衣なりといふ。釈名に云はく、袿〈音は圭、漢語抄に褂に作り、宇知岐うちぎと云ふ〉は婦人の上衣なりといふ。

衾 說文云、衾、〈音金、布須万、〉大被也、四聲字苑云、衾、被、別名也、


衾 説文に云はく、衾〈音は金、布須万ふすま〉は大被なりといふ。四声字苑に云はく、衾、被、名をことにするなりといふ。

裘 說文云、裘、〈音求、加波古路毛、俗云加波歧奴、〉皮衣也、


裘 説文に云はく、裘〈音は求、加波古路毛かはごろも、俗に云ふ加波岐奴かはぎぬ〉は皮衣なりといふ。

單衣 釋名云、衣無裏曰單、〈單衣、比止閇歧奴、謂衣則袴可之、〉


単衣 釈名に云はく、衣の裏無きを単と曰ふといふ〈単衣は比止閉岐奴ひとへぎぬきぬと謂ふときには袴たること之れを知るべし〉。

袷衣 文選󠄁秋興賦云、御袷衣、〈袷音古洽反、袷衣、阿波世乃歧奴、〉李善曰、袷衣無絮也、


袷衣 文選秋興賦に云はく、袷衣〈袷の音は古洽反、袷衣は阿波世乃岐奴あはせのきぬ〉を御すといふ。李善曰はく、袷衣はわた無きなりといふ。

袴 蔣魴切韵云、袴、〈音故、八賀万、〉脛上衣名也、釋名云、褶、〈音邑、宇波美、見本朝令、〉襲也、覆袴上之言也、


袴 蒋魴切韻に云はく、袴〈音は故、八賀万はかま〉は脛上の衣の名なりといふ。釈名に云はく、褶〈音は邑、宇波美うはみ、本朝令に見ゆ〉は襲ふなり、袴の上を覆ふの言なりといふ。

大口袴 唐令云、慶善樂舞四人、白絲布大口袴、〈於保久知乃八賀万、一云表袴、〉


大口袴 唐令に云はく、慶善楽舞四人、白糸布の大口袴〈於保久知乃八賀万おほぐちのはかま、一に云ふ表袴〉にせよといふ。

袴奴 楊氏漢語抄云、袴奴、〈佐師奴歧乃波賀万、或俗語抄云、絹狩袴、或云歧奴乃加利八可万、〉


袴奴 楊氏漢語抄に云ふ袴奴〈佐師奴岐乃波賀万さしぬきのはかま、或は俗語抄に云ふ絹狩袴、或に云ふ岐奴乃加利八可万きぬのかりばかま〉。

布衣袴 文選󠄁云、振布衣、〈此間云、獦衣、加利歧奴、謂衣則袴可之、〉世說云、着靑布袴


布衣袴 文選に云はく、布衣〈此間に云ふ獦衣、加利岐奴かりぎぬきぬと謂ふときには袴たること之れを知るべし〉を振るといふ。世説に云はく、青布袴を着すといふ。

褌 方言注󠄁云、袴而無踦謂之褌、〈音昆、須万之毛乃、一云、知比佐歧毛能、〉史記云、司馬相如、着犢鼻褌、韋昭曰、今三尺布作之、形如牛鼻者也、唐韵云、衳、〈軄容反、與鍾同、楊氏漢語抄云、衳子、毛乃之太乃太不佐歧、一云水子、〉小褌也、


褌 方言注に云はく、袴にしてまた無きは之れを褌〈音は昆、須万之毛乃すましもの、一に云ふ知比佐岐毛能ちひさきもの〉と謂ふといふ。史記に云はく、司馬相如、犢鼻褌を着すといふ。韋昭曰はく、今、三尺の布にて之れを作り、形は牛鼻のごとき者なりといふ。唐韻に云はく、衳〈職容反、鍾と同じ、楊氏漢語抄に云ふ衳子、毛乃之太乃太不佐岐ものしたのたふさぎ、一に云ふ水子〉は小褌なりといふ。

繦褓 孫愐曰、繦褓、〈響保二音、无豆歧、〉小兒被也、


襁褓 孫愐曰はく、襁褓〈響保の二音、無豆岐むつき〉は小児の被なりといふ。



衣服具󠄁四十六


衣服具四十六

袊 釋名云、袊、〈音領、古呂毛乃久比、〉頸也、所󠄁󠄁以擁__頸也、襟、〈音金、〉禁也、交於前󠄁、所󠄁󠄁以禁禦風寒也、


衿 釈名に云はく、衿〈音は領、古呂毛乃久比ころものくび〉は頸なり、頸を擁する所以なり、襟〈音は金〉は禁なり、前に交へて風寒きを禁禦する所以なりといふ。

紐子 說文云、紐、〈女久反、楊氏漢語抄云、紐子、比毛、〉結而可解者也、


紐子 説文に云はく、紐〈女久反、楊氏漢語抄に云ふ紐子、比毛ひも〉は結びては解くべき者なりといふ。

袵 四聲字苑云、袵、〈如甚反、於保久比、〉衣前󠄁襟也、


袵 四声字苑に云はく、袵〈如甚反、於保久比おほくび〉は衣の前襟なりといふ。

袖 釋名云、袖、〈音岫、曾天、下二字同、〉所󠄁以受__手也、袂、〈音弊󠄁〉開張以臂受屈伸也、袪、〈音居、〉其中虛也、


袖 釈名に云はく、袖〈音は岫、曽天そで、下の二字は同じ〉は手を受くる所以なり、袂〈音は弊〉は開き張りて臂を以て屈め伸ぶるを受くるなり、袪〈音は居〉は其の中の虚なりといふ。

䘸 方言注󠄁云、䘸、〈音與掖同、古呂毛乃和歧、〉衣掖也、


䘸 方言注に云はく、䘸〈音は掖と同じ、古呂毛乃和岐ころものわき〉は衣の掖なりといふ。

襴 唐韵云、襴、〈音蘭、俗云如字、〉襴衫也、


襴 唐韻に云はく、襴〈音は蘭、俗に云ふ字のごとし〉は襴衫なりといふ。

裾 陸詞曰、裾、〈音居、古呂毛乃須曾、一云歧沼乃之利、〉衣下也、


裾 陸詞曰はく、裾〈音は居、古呂毛乃須曽ころものすそ、一に云ふ岐沼乃之利きぬのしり〉は衣の下なりといふ。

表裏 說文云、表、〈碑矯反、宇閇、〉衣外也、裏、〈音里、宇良、〉衣內也、


表裏 説文に云はく、表〈碑矯反、宇閉うへ〉は衣の外なり、裏〈音は里、宇良うら〉は衣の内なりといふ。

襲 史記音義云、衣之單複相具󠄁、謂之襲、〈辭立反、加左禰、〉尒雅注󠄁云、襲猶重也、


襲 史記音義に云はく、衣の単複を相具ふるは之れを襲〈辞立反、加左禰かさね〉と謂ふといふ。爾雅注に云はく、襲は猶ほ重ねのごときなりといふ。

襞襀 周󠄀禮注󠄁云、祭服朝服、襞襀無數、〈辟積二音、訓比多米、見文選󠄁、〉


襞襀 周礼注に云はく、祭服、朝服、襞襀無数といふ〈辟積の二音、訓は比多米ひだめ、文選に見ゆ〉。

襷襅 續齊諧記云、織成襷、〈本朝式用此字、云多須歧、今案所󠄁出音義未詳、〉日本紀私記云、手繦、〈訓上同、繦音響、〉本朝式云、襷襅各一條、〈襅讀知波夜、今案未詳、〉


襷襅 続斉諧記に云はく、織りて襷〈本朝式に此の字を用ゐ、多須岐たすきと云ふ、今案ふるに出づる所、音義、未だつばひらかならず〉を成すといふ。日本紀私記に云ふ手繦〈訓は上に同じ、襁の音は響〉。本朝式に云はく、襷、襅、各一条〈襅の読みは知波夜ちはや、今案ふるに未だ詳かならず〉といふ。



腰帶類四十七


腰帯類四十七

紳 論語注󠄁云、紳、〈音申、〉大帶也、唐令私記云、大帶、〈今案一名博󠄁󠄁帶、着禮服之時帶也、〉以繒爲之、


紳 論語注に云はく、紳〈音は申〉は大帯なりといふ。唐令私記に云はく、大帯〈今案ふるに一名は博帯、礼服を着るの時の帯なり〉は繒を以て之れと為すといふ。

革帶 唐衣服令云、革帶玉鈎、〈今案革帶以其所󠄁附金玉石角等名、故有白玉帶隱文帶馬腦帶波斯馬腦帶紀伊石帶出雲石帶越石帶斑犀帶烏犀帶散豆帶等之名、其體有純方丸鞆櫛上等之名、革帶是其惣名也、〉


革帯 唐衣服令に云はく、革帯に玉鈎つけよといふ〈今案ふるに革帯は其の付くる所、金、玉、石、角等を以て名と為す、故に白玉帯、隠文帯、馬脳帯、波斯馬脳帯、紀伊石帯、出雲石帯、越石帯、斑犀帯、烏犀帯、散豆帯等の名有り、其の体に、純方、丸鞆、櫛上等の名有り、革帯は是れ其の惣名なり〉。

金隱起󠄁帶 唐鹵簿令云、左右金吾大將軍各一人、紫裲襠金隱起󠄁帶、


金隠起帯 唐鹵簿令に云はく、左右の金吾大将軍は各一人、紫の裲襠に金の隠起せる帯つけよといふ。

金銅帶 唐樂令云、宴樂伎一部、儛廿人、金銅腰帶烏皮靴、


金銅帯 唐楽令に云はく、宴楽伎一部、儛二十人、金銅の腰帯に烏皮靴つけよといふ。

白犀帶 白氏詩云、通󠄁天白犀帶、照地紫麟袍、


白犀帯 白氏詩に云はく、天に通ずる白犀帯、地を照らす紫麟袍といふ。

䌟帶 唐韵云、䌟、〈〓〔草冠に補〕革反、與欂同、今案加良久美、〉織絲爲帶也、


䌟帯 唐韻に云はく、䌟〈蒲革反、欂と同じ、今案ふるに加良久美からくみ〉は糸を織りて帯と為すなりといふ。

接靿 唐樂令云、承天樂舞四人、紫綾袷袍紫接靿、〈唐韵於敎反、此間云接腰、〉


接靿 唐楽令に云はく、承天楽舞四人、紫の綾の袷袍に紫の接靿〈唐韻に於教反、此間に云ふ接腰〉つけよといふ。

白布帶 本朝式云、白布帶、〈沼能於比、〉


白布帯 本朝式に云ふ白き布帯〈沼能於比ぬのおび〉。

衿帶 陸詞曰、衿、〈音與襟同、比歧於比、〉小帶也、釋名云、衿、禁也、禁不開散也、


衿帯 陸詞曰はく、衿〈音は襟と同じ、比岐於比ひきおび〉は小帯なりといふ。釈名に云はく、衿は禁なり、禁じて開散すること得ざるなりといふ。

勒肚巾 楊氏漢語抄云、勒肚巾、〈波良万歧、一云腹帶、〉


勒肚巾 楊氏漢語抄に云ふ勒肚巾〈波良万岐はらまき、一に云ふ腹帯〉。



腰帶具󠄁四十八


腰帯具四十八

䩠 唐韵云、䩠、〈他丁反、字亦作鞓、於比加波、〉皮帶䩠也、楊氏漢語抄云、腰帶之革、未鉸具󠄁䩠也、


䩠 唐韻に云はく、䩠〈他丁反、字は亦、鞓に作る、於比加波おびかは〉は皮帯䩠なりといふ。楊氏漢語抄に云はく、腰帯の革、未だ鉸具を着けざるを䩠と為すなりといふ。

鉸具󠄁 楊氏漢語抄云、鉸具󠄁、〈上音古巧反、一音敎、此間云賀古、今案唐令所󠄁謂玉鉤是也、已見上文、〉腰帶及鞍具󠄁、以銅屬革也、


鉸具 楊氏漢語抄に云はく、鉸具〈上の音は古巧反、一音は教、此間に云ふ賀古かこ、今案ふるに唐令に所謂いはゆる玉鉤は是れなり、已に上文に見ゆ〉は腰帯、及び鞍具、銅を以て革をつなぐなりといふ。

鉉子 楊氏漢語抄云、鉉子、〈上音胡犬反、上聲之重、〉着鞓錢也、


鉉子 楊氏漢語抄に云はく、鉉子〈上の音は胡犬反、上声の重〉は鞓に着くる銭なりといふ。

瑇瑁 曹憲曰、瑇瑁、〈代昧二音、又毒冒、今案以爲帶具󠄁、故附出、〉如龜、出大海、大者如籧篨、背上有鱗、々大如扇󠄁、有文章、將器則煑其鱗柔皮意用之、


瑇瑁 曹憲曰はく、瑇瑁〈代昧の二音、又、毒冒、今案ふるに以て帯具と為す、故に付出す〉は亀のごとし、大海より出づ、大なる者は籧篨のごとし、背の上に鱗有り、鱗の大きさ扇のごとし、文章あや有り、将に器に作らむとするときには其の鱗を煮、柔皮のごとくして意のままに之れを用ゐるといふ。

魚袋 蔣魴切韵云、袋、〈音代、〉囊名、又金銀魚袋、唐令云、諸百官魚袋、並令中尙預造󠄁進󠄁也、


魚袋 蒋魴切韻に云はく、袋〈音は代〉は囊の名といふ。又、金銀魚袋。唐令に云はく、諸そ百官の袋は、並びに中尚をして予め造りたてまつらしむるなれといふ。



履襪類四十九


履襪類四十九

履 唐韵云、草曰屝、〈音翡、〉麻曰屨、〈音句、〉革曰履、〈音李、久豆、用鞜字、音沓、〉黃帝臣於則造󠄁也、


履 唐韻に云はく、草を屝〈音は翡〉と曰ひ、麻を屨〈音は句〉と曰ひ、革を履〈音は李、久豆くつ、鞜の字を用ゐる、音は沓〉と曰ふといふ。黄帝の臣が則ち造るなり。

襪 說文云、襪、〈音末、字亦作韈、之太久豆、〉足衣也、


襪 説文に云はく、襪〈音は末、字は亦、韈に作る、之太久豆したぐつ〉は足の衣なりといふ。

靴 唐令云、烏皮靴、赤皮靴、〈音戈、字亦作鞾、化󠄁乃久豆、〉胡履也、


靴 唐令に云はく、烏皮靴、赤皮靴〈音は戈、字は亦、鞾に作る、化乃久豆けのくつ〉は胡履なりといふ。

深頭履 釋名云、韋履深頭曰靸、〈先立反、又靸鞋、見下文、今案此間云深履、其頭短者謂之半󠄁靴、〉言其深襲覆足也、


深頭履 釈名に云はく、韋履の深頭を靸〈先立反、又、靸鞋、下文に見ゆ、今案ふるに此間に云ふ深履、其の頭の短き者は之れを半靴と謂ふ〉と曰ふといふ。言ふは其れ深襲して足を覆へばなり。

單皮履 唐令云、諸舄履並烏色、舄重皮底、履單皮底、〈舄音思積反、字亦作𩍆、和名與履同、今案野人以鹿皮半󠄁靴、名曰多鼻、宜此單皮二字乎、〉


単皮履 唐令に云はく、諸そ舄、履は並びに烏色、舄は重皮底、履は単皮底といふ〈舄の音は思積反、字は亦、𩍆に作る、和名は履と同じ。今案ふるに野人は鹿皮を以て半靴と為し、名けて多鼻たびと曰ふ、宜しく此れ単皮の二字を用ゐるべきか〉。

鼻高履 楊氏漢語抄云、突子、〈突音他骨反、已上本注󠄁、〉今僧侶所󠄁着鼻廣履是歟、〈今案鼻高履也、〉


鼻高履 楊氏漢語抄に云ふ突子〈突の音は他骨反、已上は本注〉。今、僧侶の着する所の鼻広履は是れか〈今案ふるに鼻高履なり〉。

線鞋 弁色立成云、線鞋、〈上仙戰反、字亦作綫、下戶佳反、又戶皆反、楊氏漢語抄云、千開乃久都、〉絁綫兼用、男女通󠄁着、


線鞋 弁色立成に云はく、線鞋〈上は仙戦反、字は亦、綫に作る、下は戸佳反、又、戸皆反、楊氏漢語抄に云ふ千開せんかい乃久都のくつ〉は絁綫を兼ねて用ゐ、男女通じて着すといふ。

絲鞋 弁色立成云、絲鞋、〈伊止乃久都、〈已上本注󠄁、〉今案俗云之賀伊、〉


糸鞋 弁色立成に云ふ糸鞋〈伊止乃久都いとのくつ〈已上は本注〉、今案ふるに俗に云ふ之賀伊しかい〉。

麻鞋 顔氏家訓云、麻鞋一屋、〈麻鞋、乎久豆、弁色立成云、麻鞋以麻爲之、〉


麻鞋 顔氏家訓に云はく、麻鞋一屋といふ〈麻鞋は乎久豆をぐつ、弁色立成に云はく、麻鞋は麻を以て之れと為すといふ〉。

錦鞋 弁色立成云、錦鞋、〈此間音今開、〉以綵爲之、形如皮履、〈綵音采󠄁、綾采󠄁也、〉


錦鞋 弁色立成に云はく、錦鞋〈此間に音は今開〉は綵を以て之れと為す、形は皮履のごとしといふ〈綵の音は采、綾采なり〉。

靸鞋 唐韵云、靸、〈蘇合反、字亦作𩎕、靸鞋、俗爲𢮿字、未詳、〉小兒履也、


靸鞋 唐韻に云はく、靸〈蘇合反、字は亦、𩎕に作る、靸鞋は俗に𢮿の字と為す、未だ詳かならず〉は小児の履なりといふ。

木履 續漢書云、袁宏著木履、〈楊氏漢語抄云、木履、紀具󠄁都、〉


木履 続漢書に云はく、袁宏、木履〈楊氏漢語抄に云ふ木履、紀具都きぐつ〉を著すといふ。

屐 兼名苑云、屐、〈音奇逆󠄁反、阿師太、〉一名足下、


屐 兼名苑に云はく、屐〈音は奇逆反、阿師太あしだ〉、一名は足下といふ。

屐屣 史記注󠄁云、屣、〈所󠄁綺反、與徙同、漢語抄云、屐屣、久都々計乃阿之太、一云屐子、〉履之屬也、


屐屣 史記注に云はく、屣〈所綺反、徙と同じ、漢語抄に云ふ屐屣、久都々計乃阿之太くつつけのあしだ、一に云ふ屐子〉は履の属なりといふ。

屩 史記注󠄁云、屩、〈居灼反、與脚同、字亦作𫵩、和良久豆、〉草屝也、


屩 史記注に云はく、屩〈居灼反、脚と同じ、字は亦、𫵩に作る、和良久豆わらぐつ〉は草屝なりといふ。

草履 楊氏漢語抄云、草履、〈和名與屩同、俗云佐宇利、〉


草履 楊氏漢語抄に云ふ草履〈和名は屩と同じ、俗に云ふ佐宇利ざうり〉。



履襪具󠄁五十


履襪具五十

履楦 唐韵云、楥、〈虛願反、一音運、字亦作楦、今案此間云久都加太、是歟、〉靴履楦、又法也、


履楦 唐韻に云はく、楥〈虚願反、一音に運、字は亦、楦に作る、今案ふるに此間に云ふ久都加太くつがたは是れか〉は靴履のきがた、又、のりなりといふ。

履屧 野王曰、屧、〈思協反、久都和良、一云、久都乃之歧、〉履中薦也、楊氏漢語抄云、履屧、一云履苴、〈七余反、又苞苴之苴、見厨膳具󠄁、〉


履屧 野王曰はく、屧〈思協反、久都和良くつわら、一に云ふ久都乃之岐くつのしき〉は履の中の薦なりといふ。楊氏漢語抄に云ふ履屧、一に云ふ履苴〈七余反、又、苞苴の苴、厨膳具に見ゆ〉。

靴氈 唐令云、諸給時服、春秋各給靴一兩幷氈、〈諸延反、楊氏漢語抄云、靴氈、靴裏氈也、〉


靴氈 唐令に云はく、諸そ時服を給するに、春秋には各、靴一両并びに氈〈諸延反、楊氏漢語抄に云ふ靴氈、靴裏氈なり〉を給せよといふ。

靴帶 楊氏漢語抄云、靴絛、〈吐刀反、與韜同、〉所󠄁以繫靴跟也、或以革爲之、喚云靴帶


靴帯 楊氏漢語抄に云はく、靴条〈吐刀反、韜と同じ〉は靴のくびすに繋くる所以なりといふ。或に革を以て之れと為す、喚びて靴帯と云ふ。

屐系〈鼻繩附〉 風俗通󠄁云、延熹年中、京師長者、皆着屐、婦󠄁女始嫁至、漆畫五綵爲系、〈今案唐韵胡計反、緖也、然則屐系阿之太乎、〉本草云、屐鼻繩灰󠄁、


屐系〈鼻縄付〉 風俗通に云はく、延熹年中に京師の長者は皆、屐を着し、婦女の始めて嫁ぐに至り、漆画の五綵を系〈今案ふるに唐韻に胡計反、緒なり、然らば則ち屐系は阿之太乎あしだを〉と為すといふ。本草に云はく、屐の鼻縄の灰といふ。

屩耳 唐令云、靑耳屩、〈今案屩耳者、俗人云屩之乳乎、〉


屩耳 唐令に云はく、青耳屩といふ〈今案ふるに屩耳は俗人の云ふわらぐつの乳か〉。

屩靪 唐韵云、靪、〈音丁、今案下賤人以牛皮着屩下、云大知波女、宜此字乎、〉補履下也、


屩靪 唐韻に云はく、靪〈音は丁、今案ふるに下賤の人、牛皮を以て屩の下に補着す、大知波女たちはめと云ふ。宜しく此の字を用ゐるべきか〉は履の下を補ふなりといふ。



飮食部第十一


飲食部第十一

 藥酒類五十一 水漿類五十二 飯餠類五十三 麴糱類五十四〈粮附出〉 酥蜜類五十五 果菜󠄁類五十六 魚鳥類五十七 𪉩梅類五十八〈薑椒橘皮等附出〉


 薬酒類五十一 水漿類五十二 飯餅類五十三 麴糵類五十四〈粮付出す〉 酥蜜類五十五 果菜類五十六 魚鳥類五十七 塩梅類五十八〈薑、椒、橘皮等付出す〉



藥酒類五十一


薬酒類五十一

藥 食療經云、充飢󠄁則謂之食、療疾則謂之藥、〈以灼反、久須利、〉


薬 食療経に云はく、飢を充すときには之れを食と謂ひ、疾を療すときには之れを薬〈以灼反、久須利くすり〉と謂ふといふ。

煎 考聲切韵云、煎、〈音箭、又如字、〉煑藥汁稠也、


煎 考声切韻に云はく、煎〈音は箭、又、字のごとし〉は薬汁を煮てととのはしむるなりといふ。

酒 食療經云、酒、〈佐介、〉五糓之華、味之至也、故能益人、亦能損


酒 食療経に云はく、酒〈佐介さけ〉は五穀の華にして味の至なり、故に能く人をたすけ、亦、能く人を損ふといふ。

醴 四聲字苑云、醴、〈音禮、古佐計、〉一日一宿酒也、


醴 四声字苑に云はく、醴〈音は礼、古佐計こさけ〉は一日一宿の酒なりといふ。

醪 玉篇云、醪、〈力刀反、漢語抄云、濁醪、毛呂美、〉汁滓酒也、


醪 玉篇に云はく、醪〈力刀反、漢語抄に云ふ濁醪、毛呂美もろみ〉は汁滓の酒なりといふ。

醅〈釃字附〉 說文云、醅、〈音與盃同、漢語抄云、加須古女、俗云糟米、〉醇未釃也、唐韵云、釃、〈所󠄁宜反、又上聲、釃酒、佐介之太无、俗云阿久、〉下酒也、


醅〈釃字付〉 説文に云はく、醅〈音は盃と同じ、漢語抄に云ふ加須古女かすごめ、俗に云ふ糟米〉は醇の未だしたまざるなりといふ。唐韻に云はく、釃〈所宜反、又、上声、釃酒は佐介之太無さけしたむ、俗に云ふ阿久あく〉は酒をしたむなりといふ。

醇酒 唐韵云、醇、〈音淳、日本紀私記云、醇酒、加太佐介、〉厚酒也、


醇酒 唐韻に云はく、醇〈音は淳、日本紀私記に云ふ醇酒、加太佐介かたさけ〉は厚酒なりといふ。

酎酒 說文云、酎、〈直祐反、漢語抄云、豆久利加倍世流佐介、〉三重釀酒也、西京雜記云、正月旦作酒、八月成、名曰酎酒、一名九醖、〈於運反、通󠄁俗文云、醞、酘酒也、蔣魴切韵云、酘於鬪反、酒再下麴也、俗云曾比、〉


酎酒 説文に云はく、酎〈直祐反、漢語抄に云ふ豆久利加倍世流佐介つくりかへせるさけ〉は三重に醸す酒なりといふ。西京雑記に云はく、正月旦に酒を作り八月に成る、名けて酎酒と曰ひ、一名は九醞〈於運反、通俗文に云ふ醞、酘酒なり。蒋魴切韻に云はく、酘は於闘反、酒に再び麹を下むなりといふ。俗語に云ふ曽比そひ〉といふ。

𨣌酒 陸詞曰、𨣌、〈音覃、一音湛、日本紀私記云甜酒、多无佐介、今案可此字、〉酒味長也、


𨣌酒 陸詞曰はく、𨣌〈音は覃、一音に湛、日本紀私記に云ふ甜酒、多無佐介たむさけ、今案ふるに此の字を用ゐるべし〉酒は味、長なりといふ。

酵 楊氏漢語抄云、酵、〈音敎、之良加須、〉白酒甘也、


酵 楊氏漢語抄に云はく、酵〈音は教、之良加須しらかす〉は白酒の甘きなりといふ。

醨 唐韵云、醨、〈音離、之流、一云毛曾呂、〉酒薄也、


醨 唐韻に云はく、醨〈音は離、之流しる、一に云ふ毛曽呂もそろ〉は酒薄きなりといふ。

糟 說文云、糟、〈子勞反、賀須、〉酒滓也、


糟 説文に云はく、糟〈子労反、賀須かす〉は酒滓なりといふ。

酒蟣 文選󠄁注󠄁云、浮󠄁蟣、〈師說云佐加歧佐々、〉酒蟣在上汎々然如萍者也、


酒蟣 文選注に云はく、浮蟣〈師説に云ふ佐加岐佐々さかきささ〉は酒蟣、上に在りて汎々然としてうきくさのごとき者なりといふ。

酒膏 文選󠄁注󠄁云、醪敷、〈佐加阿布良、〉酒膏也、


酒膏 文選注に云はく、醪敷〈佐加阿布良さかあぶら〉は酒膏なりといふ。

肴 野王案、凡非糓而食、謂之肴、〈胡交反、字亦作餚、佐加奈、一云布久之毛乃、見本朝令、〉


肴 野王案ずるに、凡そ穀に非ずして食なるは之れを肴〈胡交反、字は亦、餚に作る、佐加奈さかな、一に云ふ布久之毛乃ふくしもの、本朝令に見ゆ〉と謂ふとす。



水漿類五十二


水漿類五十二

漿 四時食制經云、春宜漿甘水、〈漿音即良反、豆久利美豆、俗云邇於毛比、〉食療經云、凡食𤍠膩物、勿冷酢漿、〈師說冷酢讀比伊須由禮流、〉


漿 四時食制経に云はく、春は宜しく漿甘水を食すべしといふ〈漿の音は即良反、豆久利美豆つくりみづ、俗に云ふ邇於毛比におもひ〉。食療経に云はく、凡そ熱膩物を食ひて冷酢漿を飲む勿れといふ〈師説に冷酢の読みは比伊須由礼流ひいすゆれる〉。

氷漿 四聲字苑云、氷、〈筆綾反、比、〉水寒凍結也、膳夫經云、立秋後不氷漿


氷漿 四声字苑に云はく、氷〈筆綾反、〉は水寒くして凍結するなりといふ。膳夫経に云はく、立秋の後、氷漿を飲むこと得ずといふ。

白飮 四時食制經云、冬宜白飮、〈古美豆、今案濃漿之名也、〉


白飲 四時食制経に云はく、冬は宜しく白飲〈古美豆こみづ、今案ふるに濃漿の名なり〉を食すべしといふ。

糄𥻨 唐韵云、糄𥻨、〈褊索二音、比女、或說云、非米、非粥之義也、〉煑米多水者也、


糄𥻨 唐韻に云はく、糄𥻨〈褊索の二音、比女ひめ、或説に云ふ非米、非粥の義なり〉は米を煮るに水多き者なりといふ。

粥 唐韵云、饘、〈諸延反、加太賀由、〉厚粥也、四聲字苑云、周󠄀人呼粥也、粥、〈之叔反、之留加由、〉薄糜也、


粥 唐韻に云はく、饘〈諸延反、加太賀由かたがゆ〉は厚粥なりといふ。四声字苑に云はく、周人は粥と呼ぶなり、粥〈之叔反、之留加由しるがゆ〉は薄き糜なりといふ。

署預粥 崔禹食經云、千歲虆汁、狀如薄蜜甘美、以署預粉、和汁作粥、食之補五臟、〈署預粥、以毛賀遊󠄁、〉


署預粥 崔禹食経に云はく、千歳虆の汁は状、薄蜜のごとくして甘く美し、署預を以て粉と為し、汁にへて粥に作り、之れを食せば五臓を補ふといふ〈署預粥は以毛賀遊いもがゆ〉。

茶茗 尒雅集注󠄁云、茶、〈宅加反、字亦作𣗪、〉小樹似支子其葉可煑爲__飮、今呼早採󠄁茶、晩採󠄁爲茗、〈音酩、〉茗、一名荈、〈音喘、〉風土記云、荈者茗老葉名也、


茶茗 爾雅集注に云はく、茶〈宅加反、字は亦、𣗪に作る〉は小樹にして支子に似、其の葉は煮て飲と為すべし、今、早採を呼びて茶と為し、晩採を茗〈音は酩〉と為す、茗の一名は荈〈音は喘〉といふ。風土記に云はく、荈は茗の老葉の名なりといふ。



飯餠類五十三


飯餅類五十三

𩝶饙 四聲字苑云、𩝶饙、〈修紛二音、漢語抄云、加太加之歧乃以比、〉半󠄁熟飯也、


𩝶饙 四声字苑に云はく、𩝶饙〈修紛の二音、漢語抄に云ふ加太加之岐乃以比かたかしきのいひ〉は半熟の飯なりといふ。

强飯 史記云、廉頗强飯斗酒、食宍十斤、〈飯音符万反、亦作飰𩚳、强飯、古八伊比、〉


強飯 史記に云はく、れんは強飯、斗酒に宍十斤を食らふといふ〈飯の音は符万反、亦、飰𩚳に作る、強飯は古八伊比こはいひ〉。

𩚖飯 唐韵云、𩚖、〈女救反、字亦作糅、加之歧可天、〉雜飯也、


𩚖飯 唐韻に云はく、𩚖〈女救反、字は亦、糅に作る、加之岐可天かしきかて〉は雑飯なりといふ。

油飯 楊氏漢語抄云、膏味、〈阿不良以比、〉麻油炊飯也、一云玄熟、


油飯 楊氏漢語抄に云はく、膏味〈阿不良以比あぶらいひ〉は麻油の炊飯なりといふ。一に云ふ玄熟。

糒 野王案、糒、〈孚秘反、與備同、保之以比、〉乾飯也、


糒 野王案ずるに、糒〈孚秘反、備と同じ、保之以比ほしいひ〉は乾飯なりとす。

餉 四聲字苑云、餉、〈式亮反、訓加禮比於久留、俗云加禮比、〉以食遺󠄁人也、


餉 四声字苑に云はく、餉〈式亮反、訓は加礼比於久留かれひおくる、俗に云ふ加礼比かれひ〉はいひを以て人に遺すなりといふ。

餠〈殕字附〉 釋名云、餠、〈音屛、毛知比、〉令穤麵合幷也、胡餠、以胡麻之、〈今案麵麥粉也、此間餠粉、阿禮、是也、〉四聲字苑云、殕、〈孚乳反、與撫同、今案訓賀布、〉食上生白者也、


餅〈殕字付〉 釈名に云はく、餅〈音は屏、毛知比もちひ〉は穤麺をして合并せしむるなり、胡餅は胡麻を以て之れに着くといふ〈今案ふるに麺麦粉なり、此間に餅粉の阿礼あれは是れなり〉。四声字苑に云はく、殕〈孚乳反、撫と同じ、今案ふるに訓は賀布かぶ〉は食の上に白くれる者なりといふ。

餠腅 楊氏漢語抄云、裹餠中納󠄁__󠄁煑合鵝鴨等子幷雜菜󠄁而方截、一名餠腅、〈玉篇、腅、達󠄁濫反、肴也、〉


餅腅 楊氏漢語抄に云はく、餅の中に鵝鴨等の子、并びに雑菜を煮合すをれ裹みてけだに截る、一名は餅腅〈玉篇に腅は達濫反、肴なり〉といふ。

糉 風土記云、糉、〈作弄反、字亦作粽、知末歧、〉以菰葉米、以灰汁之、令爛熟也、五月五日啖之、


糉 風土記に云はく、糉〈作弄反、字は亦、粽に作る、知末岐ちまき〉は菰葉を以て米を裹み、灰汁を以て之れを煮、爛熟せしむるなり、五月五日に之れをくらふといふ。

餻 考聲切韵云、餻、〈古勞反、字亦作𩝝、久佐毛知比、〉烝米屑之、文德實錄云、嘉祥三年訛言曰、今玆三日不造󠄁󠄁餻、以母子也、


餻 考声切韻に云はく、餻〈古労反、字は亦、𩝝に作る、久佐毛知比くさもちひ〉は米屑をして之れを為るといふ。文徳実録に云はく、嘉祥三年の訛言に、今玆ことし三日に餻を造るべからず、母子無きを以てなりと曰ふといふ。

餢飳 蔣魴切韵云、餢飳、〈部斗二音、亦作䴺𪌘、布止、俗云伏兎、〉油煎餠名也、


餢飳 蒋魴切韻に云はく、餢飳〈部斗の二音、亦、䴺𪌘に作る、布止ぶと、俗に云ふ伏兎ぶと〉は油煎餅の名なりといふ。

糫餠 文選󠄁云、膏糫粔籹、〈糫音還󠄁、粔籹見下文、〉楊氏漢語抄云、糫餠、〈形如藤葛者也、萬加利、〉


糫餅 文選に云はく、膏糫は粔籹といふ〈糫の音は還、粔籹は下文に見ゆ〉。楊氏漢語抄に云ふ糫餅〈形は藤葛のごとき者なり、万加利まがり〉。

結果 楊氏漢語抄云、結果、〈形如緖、此間亦有之、今案加久乃阿和、〉


結果 楊氏漢語抄に云ふ結果〈形は緒を結ぶがごとし、此間に亦、之れ有り、今案ふるに加久乃阿和かくのあわ〉。

捻頭 楊氏漢語抄云、捻頭、〈无歧加太、捻音奴恊反、一云麥子、〉


捻頭 楊氏漢語抄に云ふ捻頭〈無岐加太むぎかた、捻の音は奴協反、一に云ふ麦子〉。

索餠 釋名云、蝎餠、髓餠、金餠、索餠、〈无歧奈波、大膳式云手束索餠、多都賀、〉皆隨形而名之、


索餅 釈名に云はく、蝎餅、髄餅、金餅、索餅〈無岐奈波むぎなは、大膳式に云ふ手束索餅、多都賀たつか〉は皆、形に随ひて之れを名くといふ。

粉熟 辨色立成云、粉粥、〈以米粥之、今案粉粥即粉熟也、〉


粉熟 弁色立成に云ふ粉粥〈米粥を以て之れと為す、今案ふるに粉粥は即ち粉熟なり〉。

餛飩 四聲字苑云、餛飩、〈渾屯二音、上字亦作餫、見唐韵、〉餠、剉肉麵裹煑之、


餛飩 四声字苑に云はく、餛飩〈渾屯の二音、上の字は亦、餫に作る、唐韻に見ゆ〉は餅、肉をきざみ麺に裹みて之れを煮るといふ。

餺飥〈衦字附〉 楊氏漢語抄云、餺飥、〈博󠄁󠄁託二音、字亦作𪍡𪌂、見玉篇、〉衦麵方切名也、四聲字苑云、衦、〈古旱反、上聲之重、〉摩展衣也、


餺飥〈衦字付〉 楊氏漢語抄に云はく、餺飥〈博託の二音、字は亦、𪍡𪌂に作る、玉篇に見ゆ〉は麺をばし方に切る名なりといふ。四声字苑に云はく、衦〈古旱反、上声の重〉は衣を摩りひろぐるなりといふ。

煎餠 楊氏漢語抄云、煎餠、〈此間云如字、〉以油熬小麥麵之名也、


煎餅 楊氏漢語抄に云はく、煎餅〈此間に云ふは字のごとし〉は油を以て小麦の麺を熬るの名なりといふ。

餲餠 四聲字苑云、餲、〈音與蝎同、俗云餲餬、今案餬、寄食也、爲餠名、未詳、〉餠名、煎麵作蝎虫形也、


餲餅 四声字苑に云はく、餲〈音は蝎と同じ、俗に云ふ餲餬、今案ふるに餬は寄食なり、餅の名と為すこと未だ詳かならず〉は餅の名、麺を煎りて蝎虫の形に作るなりといふ。

黏臍 辨色立成云、黏臍、〈油餠名也、黏作似人膍臍也、上音女廉反、下音齊、〉


黏臍 弁色立成に云はく、黏臍といふ〈油餅の名なり、黏り作り人の膍臍に似るなり、上の音は女廉反、下の音は斉〉。

饆饠 唐韵云、饆饠、〈畢羅二音、字亦作〓〔麥偏に必〕𪎆、俗云比知良、〉餌名也、


饆饠 唐韻に云はく、饆饠〈畢羅の二音、字は亦、〓〔麥偏に必〕𪎆に作る、俗に云ふ比知良ひちら〉は餌の名なりといふ。

䭔子 唐韵云、䭔、〈都回反、又音與堆同、此間音都以之、〉䭔子也、


䭔子 唐韻に云はく、䭔〈都回反、又、音は堆と同じ、此間に音は都以之ついし〉は䭔子なりといふ。

歡喜團 楊氏漢語抄云、歡喜團、〈以品甘物之、或說云、一名團喜、今案俗說梅枝桃枝餲餬桂心黏臍饆饠䭔子團喜、謂之八種唐菓子、其所󠄁見者、已𦦙於上文、〉


歓喜団 楊氏漢語抄に云ふ歓喜団〈しなじなの甘物を以て之れと為す。或説に云はく、一名は団喜といふ。今案ふるに俗説に、梅枝、桃枝、餲餬、桂心、黏臍、饆饠、䭔子、団喜、之れを八種の唐菓子と謂ふ。其の見ゆる所の者は已に上文に挙ぐ〉。



麴糱類五十四


麴糵類五十四

麴 釋名云、麴、〈音菊、加无太知、〉朽也、欝之使衣朽敗也、


麹 釈名に云はく、麹〈音は菊、加無太知かむたち〉は朽つるなりといふ。之れを鬱し衣を生じ朽敗ならしむるなりといふ。

糱 說文云、糱、〈魚列反、與禰乃毛夜之、〉牙米也、本草云、糱米、味苦、無毒、又有麥糱矣、


糵 説文に云はく、糵〈魚列反、与禰乃毛夜之よねのもやし〉は牙米なりといふ。本草に云はく、糵米は味苦く毒無し、又、麦糵有りぬといふ。

粉 唐式云、幷州每󠄁年造󠄁粉五十石、以官驢駄、運送󠄁所󠄁司、〈粉、方吻反、古、〉


粉 唐式に云はく、并州は年毎に粉を造ること五十石、官驢を以て駄し、所司に運び送れといふ〈粉は方吻反、〉。

麵 說文云、麵、〈莫甸反、去聲之輕、无歧乃古、〉麥粉也、粖、〈音末、〉米麥細屑也、


麺 説文に云はく、麺〈莫甸反、去声の軽、無岐乃古むぎのこ〉は麦粉なりといふ。粖〈音は末〉は米麦の細屑なりといふ。

大豆麨 食療經云、大豆麨、〈尺紹反、字亦作𪍑、末女豆歧、〉勿一歲已上十歲已下小兒、食之氣壅而死、


大豆麨 食療経に云はく、大豆麨〈尺紹反、字は亦、𪍑に作る、末女豆岐まめつき〉は一歳已上、十歳已下の小児に与ふること勿れ、之れを食せば気ふさがりて死すといふ。

糄米 唐韵云、糄、〈音篇、夜歧古女、糄𥻨之處上聲、〉燒稻爲米也、


糄米 唐韻に云はく、糄〈音は篇、夜岐古女やきごめ、糄𥻨の処は上声〉は稲を焼きて米と為すなりといふ。

粔籹 文選󠄁注󠄁云、粔籹、〈巨女二音、於古之古女、〉以蜜和米煎作也、


粔籹 文選注に云はく、粔籹〈巨女の二音、於古之古女おこしごめ〉は、蜜を以て米に和へて煎り作るなりといふ。

粮 考聲切韵云、糧、〈音涼、字亦作粮、加天、〉行所󠄁賷米也、又云、儲食也、


粮 考声切韻に云はく、糧〈音は涼、字は亦、粮に作る、賀天かて〉はたびつ所の米なりといふ。又、まうけの食なりといふ。
酥蜜類五十五

酥蜜類五十五

醍醐 蘇敬曰、醍醐、〈啼胡二音、此間音內五、醐字、或又作𩚩餬、見唐韵、〉是酥之精液也、陶隱居曰、一名解酥、言蘇一斛之中得四升也、


醍醐 蘇敬曰はく、醍醐〈啼胡の二音、此間に音は内五、醐の字は或に又、𩚩、餬に作る、唐韻に見ゆ〉は是れ酥の精液なりといふ。陶隠居曰はく、一名は解酥といふ。言ふは蘇一斛の中より四升を得ればなり。

酥 陶隱居曰、酥、〈音與蘇同、俗音曾、〉牛羊乳所󠄁爲也、


酥 陶隠居曰はく、酥〈音は蘇と同じ、俗の音は曽〉は牛羊の乳にてつくる所なりといふ。

酪 通󠄁俗文云、温牛羊乳酪、〈盧各反、乳酪、邇宇能可遊󠄁、〉


酪 通俗文に云はく、牛羊の乳を温むるを酪〈盧各反、乳酪、邇宇能可遊にうのかゆ〉と曰ふといふ。

乳䴵 陶隱居曰、乳成酪、々成酥、々成醍醐、色黃白、作䴵甚甘肥、〈今案䴵、即餠字也、乳䴵、此間乳脯是、〉


乳䴵 陶隠居曰はく、乳を酪と成し、酪を酥と成し、酥を醍醐と成す、色、黄白にして䴵を作る、甚だ甘肥といふ〈今案ふるに䴵は即ち餅の字なり。乳䴵、此間に乳脯は是れ〉。

飴 說文云、飴、〈音怡、阿女、〉米糱爲之、


飴 説文に云はく、飴〈音は怡、阿女あめ〉、米糵を之れと為すといふ。

蜜 說文云、蜜、〈音密、此間云美知、〉甘飴也、野王案、蜂採󠄁百花、醖釀所󠄁成也、


蜜 説文に云はく、蜜〈音は密、此間に云ふ美知みち〉は甘飴なりといふ。野王案ずるに、蜂の、百花を採り醞醸して成す所なりとす。

千歲纍汁 本草云、千歲纍汁、味甘平󠄁無毒、續筋骨、長肌肉、一名虆蕪、〈纍無二音、〉蘇敬曰、即今之蘡薁藤汁是也、〈蘡薁二音嬰育、和名阿末都良、本朝式云甘葛煎、〉


千歳虆汁 本草に云はく、千歳虆汁は味甘し、平にして毒無し、筋骨を続し、肌肉を長ず、一名は虆蕪〈纍無の二音〉といふ。蘇敬曰はく、即ち今の蘡薁藤の汁は是れなりといふ。〈嬰奥の二音は嬰育、和名は阿末都良あまづら、本朝式に云ふ甘葛煎〉



菓菜󠄁類五十六


菓菜類五十六

笋 尒雅注󠄁云、筍、〈音隼、字亦作笋、太加无奈、〉竹初生也、本草云、竹筍、味甘平󠄁無毒、燒而服之、


笋 爾雅注に云はく、筍〈音は隼、字は亦、笋に作る、太加無奈たかむな〉は竹の初生なりといふ。本草に云はく、竹筍は味甘し、平にして毒無し、焼きて之れを服すといふ。

長間笋 兼名苑注󠄁云、長間笋、〈之乃米、〉笋靑最晩生、味大苦、


長間笋 兼名苑注に云はく、長間笋〈之乃米しのめ〉は笋の青く最も晩生、味はなはだ苦しといふ。

生菜󠄁 食療經云、生菜󠄁不食蟹足


生菜 食療経に云はく、生菜は蟹足と合はせ食ふべからずといふ。

烝 禮記注󠄁云、㵩、〈私列反、師說、无之毛乃、〉烝也、野王案、烝、〈之繩反、〉火氣上行也、


烝 礼記注に云はく、㵩〈私列反、師説に無之毛乃むしもの〉は烝なりといふ。野王案ずるに、烝〈之縄反、〉は火気の上り行くなりとす。

茹 文選󠄁傅玄詩云、厨人進󠄁藿茹、有酒不坏、〈茹音人恕反、由天毛乃、藿音霍、葵藿也、〉


茹 文選傅玄詩に云はく、厨人、藿茹をたてまつり、酒有りて坏に盈たずといふ〈茹の音は人恕反、由天毛乃ゆでもの、藿の音は霍、葵藿ふゆあふひなり〉。

葅 說文云、葅、〈側魚反、邇良歧、楊氏漢語抄云、楡末菜也、〉菜󠄁鮓也、


葅 説文に云はく、葅〈側魚反、邇良岐にらき、楊氏漢語抄に云ふ楡末菜なり〉は菜の鮓なりといふ。

黃菜󠄁 崔禹食經云、温菘、味辛、是人作黃菜󠄁、常所󠄁噉者也、〈黃菜󠄁、此間云王佐以、一云佐波夜介、〉


黄菜 崔禹食経に云はく、温菘は味辛し、是れ人の黄菜を作りて常に噉ふ所の者なりといふ〈黄菜は此間に云ふわう佐以ざい、一に云ふ佐波夜介さはやけ〉。

𱾧 唐韵云、𱾧、〈音豐、久々太知、俗用莖立二字、〉蔓菁苗也、


𱾧 唐韻に云はく、𱾧〈音は豊、久々太知くくたち、俗に茎立の二字を用ゐる〉は蔓菁の苗なりといふ。

菌茸 崔禹食經云、菌茸、〈而容反、上渠殞反、上聲之重、爾雅注󠄁云、菌有木菌土菌、皆多介、〉食之、温有小毒、狀如人著__笠者也、


菌茸 崔禹食経に云はく、菌茸〈而容反、上は渠殞反、上声の重。爾雅注に云はく、菌に木菌、土菌有り、皆、多介たけといふ〉は之れを食ふ、温にして小毒有り、状は人の笠を著るがごとき者なりといふ。

羹 楚辭注󠄁云、有菜󠄁曰羹、〈音庚、阿豆毛乃、〉無菜󠄁曰𦞦、〈呼各反、和名上同、今案是以魚鳥肉羹也、〉


羹 楚辞注に云はく、菜有るを羹〈音は庚、阿豆毛乃あつもの〉と曰ひ、菜無きを𦞦〈呼各反、和名は上に同じ、今案ふるに是れは魚鳥の肉を以て羹と為すなり〉と曰ふといふ。



魚鳥類五十七


魚鳥類五十七

鱠 唐韵云、鱠、〈音會、奈万須、〉細切完也、


鱠 唐韻に云はく、鱠〈音は会、奈万須なます〉は細切の宍なりといふ。

鮨 尒雅注󠄁云、鮨、〈渠脂反、與耆同、須之、〉鮓屬也、野王案、大魚曰𩺃、〈側下反、今案即鮓字也、〉小魚曰𩷒、〈音侵󠄁、一音蹔、〉


鮨 爾雅注に云はく、鮨〈渠脂反、耆と同じ、須之すし〉は鮓の属なりといふ。野王案ずるに大魚を𩺃〈側下反、今案ふるに即ち鮓の字なり〉と曰ひ、小魚を𩷒〈音は侵、一音に蹔〉と曰ふといふ。

䐿 四聲字苑云、䐿、〈烏到反、今案俗云加須毛美、〉糟藏肉也、


䐿 四声字苑に云はく、䐿〈烏到反、今案ふるに俗に云ふ加須毛美かすもみ〉は糟に肉ををさむるなりといふ。

䐹 禮記注󠄁云、䐹、〈音周、保之以乎、見本朝令、〉乾魚也、


䐹 礼記注に云はく、䐹〈音は周、保之以乎ほしいを、本朝令に見ゆ〉は乾魚なりといふ。

魚條 遊󠄁仙窟云、東海鯔條、〈魚條讀須波夜利、本朝式云楚割、〉


魚条 遊仙窟に云はく、東海の鯔条〈魚条の読みは須波夜利すはやり、本朝式に云ふ楚割〉といふ。

魥 唐韵云、魥、〈音怯、今案乎佐之、一云與知乎佐之、〉以竹貫魚、出復州界也、


魥 唐韻に云はく、魥〈音は怯、今案ふるに乎佐之をざし、一に云ふ与知乎佐之よちをざし〉は竹を以て魚を貫く、復州の界より出づるなりといふ。

炒𤏛 唐韵云、炒𤏛、〈早備二音、漢語抄云、炒𤏛魚、比保之乃以乎、俗云火干、〉火乾也、


炒㷶 唐韻に云はく、炒㷶〈早備の二音、漢語抄に云ふ炒㷶魚、比保之乃以乎ひぼしのいを、俗に云ふ火干〉は火乾なりといふ。

炙 唐韵云、炙、〈之夜反、又之石反、阿布利毛乃、〉炙完、說文字從月火


炙 唐韻に云はく、炙〈之夜反、又、之石反、阿布利毛乃あぶりもの〉は炙宍といふ。説文に字は月火に従ふ。

炰 禮記注󠄁云、炰、〈薄交反、豆々美夜歧、〉裹燒也、


炰 礼記注に云はく、炰〈薄交反、豆豆美夜岐つつみやき〉は裹焼なりといふ。

𦞦 楚辭云、煎𩺀𦞦雀、〈𦞦音呼各反、訓與羹同、已見上文、〉


𦞦 楚辞に云はく、𩺀ふなを煎り雀を𦞦にすといふ。〈𦞦の音は呼各反、訓は羹と同じ、已に上文に見ゆ〉

臇 玉篇云、臇、〈音雖、一音淺、以利毛乃、〉少汁𦞦也、


臇 玉篇に云はく、臇〈音は雖、一音に浅、以利毛乃いりもの〉は少なき汁の𦞦なりといふ。

寒 文選󠄁云、寒鶬烝麑、〈師說寒讀古與之毛乃、此間云邇古與春、〉


寒 文選に云はく、寒鶬、烝麑といふ〈師説に寒の読みは古与之毛乃こよしもの、此間に云ふ邇古与春にこよす〉。

魚頭 食療經云、婦󠄁人任身不魚頭、損胎、〈今案煑鯉魚頭之魚頭、故別𦦙之、〉


魚頭 食療経に云はく、婦人、任身して魚頭を食ふこと得ず、胎を損ふといふ〈今案ふるに鯉の魚頭を煮るは之れを魚頭と謂ふ、故に別に之れを挙ぐ〉。

氷頭〈背腸附〉 本朝式云、年魚、氷頭、背腸、〈年魚者鮭魚也、氷頭者比豆也、背腸者美奈和太也、或說云、謂、背爲皆訛也、〉


氷頭〈背腸付〉 本朝式に云はく、年魚、氷頭、背腸といふ〈年魚は鮭魚なり、氷頭は比豆ひづなり、背腸は美奈和太みなわたなり。或説に云はく、謂ふは背を皆と為し訛ればなり〉。

雉脯 遊󠄁仙窟云、西山鳳脯、〈音甫、師說保之止利、俗用干鳥二字、〉


雉脯 遊仙窟に云はく、西山の鳳脯〈音は甫、師説に保之止利ほしどり、俗に干鳥の二字を用ゐる〉といふ。

腊 唐韵云、腒腊、〈居昔二音、歧太比、〉乾肉也、方言云、鳥腊曰膴、〈音無、又武、〉


腊 唐韻に云はく、腒腊〈居昔の二音、岐太比きたひ〉は乾肉なりといふ。方言に云はく、鳥腊を膴〈音は無、又、武〉と曰ふといふ。

鹿脯 說文云、脯、〈音甫、保師々之、〉乾肉也、禮記云、牛脩鹿脯、〈脩亦脯也、音秋、〉


鹿脯 説文に云はく、脯〈音は甫、保師々之ほしじし〉は乾肉なりといふ。礼記に云はく、牛脩、鹿脯といふ〈脩は亦、脯なり、音は秋〉。

醢 爾雅注󠄁云、醢、〈乎改反、與海同、之々比之保、〉完醬也、陶隱居曰、肉醬魚醬皆呼爲醢、不藥用


醢 爾雅注に云はく、醢〈乎改反、海と同じ、之々比之保ししびしほ〉は宍醬なりといふ。陶隠居曰はく、肉醬、魚醬は皆、呼びて醢と為す、薬に入れて用ゐずといふ。

〓〔月偏に簫〕 唐韵云、〓〔月偏に簫〕、〈蘇弔反、與嘯同、今案鹿〓〔月偏に簫〕、俗云阿閇豆久利、是也、〉切完合糅也、


〓〔月偏に簫〕 唐韻に云はく、〓〔月偏に簫〕〈蘇弔反、嘯と同じ、今案ふるに鹿〓〔月偏に簫〕、俗に云ふ阿閉豆久利あへづくりは是れなり〉は宍を切りて合せ糅むなりといふ。

頭腦 崔禹食經云、鹿頭腦治內𤍠、〈今案煑鹿頭之名謂之頭腦、故別置之、〉


頭脳 崔禹食経に云はく、鹿頭脳は内熱を治すといふ〈今案ふるに鹿頭を煮るの名は之れを頭脳と謂ふ、故に別に之れを置く〉。

餗 周󠄀易注󠄁云、餗、〈音束、訓古奈加歧、〉鼎實也、


餗 周易注に云はく、餗〈音は束、訓は古奈加岐こなかき〉は鼎の実なりといふ。



鹽梅類五十八〈尙書注󠄁云、鹽、鹹也、梅、酢也、四聲字苑云、韲、〈即黎反、訓安不、[一云阿倍毛乃、]〉擣薑蒜醋和之、〉


塩梅類五十八〈尚書注に云はく、塩は鹹きなり、梅は酢きなりといふ。四声字苑に云はく、韲〈即黎反、訓は安不あふ、[一に云ふ阿倍毛乃あへもの]〉は薑蒜を擣き醋を以て之れに和すといふ。〉

鹽 陶隱居曰、鹽有九種、白鹽、[〈和名阿和之保、〉]人常所󠄁食也、崔禹食經云、石𪉩一名白鹽、又有黑鹽、〈余廉反、之保、日本紀私記云、堅鹽、歧多之、〉


塩 陶隠居曰はく、塩に九種有り、白塩[〈和名は阿和之保あわしほ〉]は人の常に食する所なりといふ。崔禹食経に云はく、石塩、一名は白塩、又、黒塩有りといふ〈余廉反、之保しほ、日本紀私記に云ふ堅塩、岐多之きたし〉。

酢 本草云、酢酒、味酸温無毒、〈酢音倉故反、字亦作醋、須、酸音素官反、〉陶隱居曰、俗呼爲苦酒、〈今案鄙語謂酢爲加良佐介、此類也、〉


酢 本草に云はく、酢酒は味し、温にして毒無しといふ〈酢の音は倉故反、字は亦、醋に作る、、酸の音は素官反〉。陶隠居曰はく、俗に呼びて苦酒と為すといふ〈今案ふるに鄙語に酢を謂ひて加良佐介からさけと為すは此の類なり〉。

醬 四聲字苑云、醬、〈即亮反、比之保、別有唐醬、〉豆醢也、


醤 四声字苑に云はく、醤〈即亮反、比之保ひしほ、別に唐醤有り〉は豆醢なりといふ。

煎汁 本朝式云、堅魚煎汁、〈加豆乎以路利、〉


煎汁 本朝式に云はく、堅魚の煎汁〈加豆乎以路利かつをいろり〉といふ。

末醬 楊氏漢語抄云、高麗醬、〈美蘇、今案弁色立成說同、但本義未詳、俗用味醬二字、味宜末、何則通󠄁俗文有末楡莢醬、末者搗末之義也、而末訛爲未、々轉爲味、又有志賀末醬飛驒末醬、志賀者近󠄁江國郡名、各以其所󠄁出國郡名名也、〉


末醤 楊氏漢語抄に云はく、高麗醤といふ。〈美蘇みそ、今案ふるに弁色立成の説同じ、但し本義は未だ詳かならず。俗に味醤の二字を用ゐる、味は宜しく末に作るべし。何となれば則ち通俗文に末楡莢醬有り、末は搗末の義なり。而して末は訛りて未と為り、未は転じて味と為る。又、志賀末醤、飛騨末醤有り。志賀は近江国郡の名、各、其の出づる所の国郡の名を以て名と為すなり〉

豉 釋名云、豉、〈是義反、久歧、〉五味調和者也、


豉 釈名に云はく、豉〈是義反、久岐くき〉は五味、調和する者なりといふ。

搗蒜 食療經云、搗蒜韲、〈比流都歧、〉


搗蒜 食療経に云ふ搗蒜韲〈比流都岐ひるつき〉。

薑〈乾薑附〉 膳夫經云、空腹勿生薑、〈居良反、久禮乃波之加美、俗云阿奈波之加美、〉養性要集云、乾薑一名定薑、〈保之波之加美、〉


薑〈乾薑付〉 膳夫経に云はく、空腹に生薑〈居良反、久礼乃波之加美くれのはじかみ、俗に云ふ阿奈波之加美あなはじかみ〉を食ふこと勿れといふ。養性要集に云はく、乾薑、一名は定薑といふ〈保之波之加美ほしはじかみ〉。

蜀椒 蘇敬本草注󠄁云、蜀椒、〈音蕭、奈留波之加美、一云不佐波之加美、〉生蜀郡、故以名之、


蜀椒 蘇敬本草注に云はく、蜀椒〈音は蕭、奈留波之加美なるはじかみ、一に云ふ不佐波之加美ふさはじかみ〉は蜀郡に生ず、故に以て之れを名くといふ。

辛夷 崔禹食經云、辛夷、〈夜万阿良々歧、一云古不之波之加美、〉其子可之、


辛夷 崔禹食経に云はく、辛夷〈夜万阿良々岐やまあららぎ、一に云ふ古不之波之加美こぶしはじかみ〉は其のは之れを噉ふべしといふ。

山葵 養生秘要云、山葵、〈和佐比、漢語抄云山薑、〉補益食也、


山葵 養生秘要に云はく、山葵〈和佐比わさび、漢語抄に云ふ山薑〉は食を補益するなりといふ。

蘭蒚 養生秘要云、蘭蒚草、〈蒚音隔、阿良々歧、〉


蘭蒚 養生秘要に云ふ蘭蒚草〈蒚の音は隔、阿良々岐あららぎ〉。

薄𦺞 養生秘要云、薄𦺞、〈波可、今案𦺞字所󠄁出未詳、〉


薄𦺞 養生秘要に云ふ薄𦺞〈波可はか、今案ふるに𦺞の字、出づる所未だ詳かならず〉。

胡荽 崔禹食經云、胡荽、〈息遺󠄁反、古邇之、〉味辛臭、一名香荽、魚鳥膾尤爲要、博󠄁󠄁物志云、張鶱入西域之、故曰胡荽也、


胡荽 崔禹食経に云はく、胡荽〈息遺反、古邇之こにし〉は味辛く臭し、一名に香荽、魚鳥の膾に最も要とといふ。博物志に云はく、張鶱、西域に入りて之れを得、故に胡荽と曰ふなりといふ。

芥 本草云、芥、味辛、歸鼻、〈芥音介、賀良之、〉


芥 本草に云はく、芥は味辛し、鼻に帰すといふ〈芥の音は介、賀良之からし〉。

蓼 崔禹食經云、靑蓼、〈力鳥反、多天、〉人家恒食之、又有紫蓼矣、


蓼 崔禹食経に云はく、青蓼〈力鳥反、多天たで〉は人家恒に之れを食ふといふ。又、紫蓼有るなり。

胡桃 七卷食經云、胡桃、味甘温、食之有油甚美、〈久留美、〉博󠄁物志云、張騫使西域還󠄁時得之、


胡桃 七巻食経に云はく、胡桃は味甘く、温にして、之れを食へば油有りて甚だうましといふ〈久留美くるみ〉。博物志に云はく、張騫、西域に使ひして還る時に之れを得といふ。

橘皮 本草注󠄁云、橘皮、一名甘皮、〈太知波奈乃加波、一云歧賀波、〉


橘皮 本草注に云はく、橘皮、一名は甘皮といふ〈太知波奈乃加波たちばなのかは、一に云ふ岐賀波きがは〉。



器皿部第十二〈四聲字苑云、皿、武永反、器惣名也、柄音筆病反、器物莖柯也、衣、一云賀良、〉


器皿部第十二〈四声字苑に云はく、皿は武永反、器の惣名なり。柄の音は筆病反、器物の茎柯なり、、一に云ふ賀良から

 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三


 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三



金器五十九


金器五十九

鼎 說文云、鼎、〈都梃反、與頂同、阿之加奈倍、〉三足兩耳、和五味寳器也、


鼎 説文に云はく、鼎〈都梃反、頂と同じ、阿之加奈倍あしがなへ〉は三足に両耳あり、五味を和する宝器なりといふ。

釜 古史考云、釜、〈扶雨反、上聲之重、與輔同、賀奈倍、[一云末路賀奈倍、]〉黃帝造󠄁也、


釜 古史考に云はく、釜〈扶雨反、上声の重、輔と同じ、賀奈倍かなへ[、一に云ふ末路賀奈倍まろかなへ]〉は黄帝が造るなりといふ。

鍑 四聲字苑云、鍑、〈音富、漢語抄云、佐加利、俗用懸釜二字、〉釜而大口、一云小釜也、


鍑 四声字苑に云はく、鍑〈音は富、漢語抄に云ふ佐加利さがり、俗に懸釜の二字を用ゐる〉は釜にして大口をいふ。一に云ふ小釜なり。

銚子 四聲字苑云、銚、〈徒弔反、辨色立成云、銚子、佐之奈閇、俗云佐須奈閇、〉燒器、似鎢錥而上有鐶也、唐韵云、鎢錥、〈烏育二音、〉温器也、


銚子 四声字苑に云はく、銚〈徒弔反、弁色立成に云ふ銚子、佐之奈閉さしなべ、俗に云ふ佐須奈閉さすなべ〉は焼器の、鎢錥に似て上に鐶有るなりといふ。唐韻に云はく、鎢錥〈烏育の二音〉は温器なりといふ。

鑊子 周󠄀禮注󠄁云、鑊、〈音獲、[方言要目云、比良賀奈倍、今案無和名、]此間鑊子以爲酒之器、〉煑肉器也、


鑊子 周礼注に云はく、鑊〈音は獲、[方言要目に云ふ比良賀奈倍ひらがなへ、今案ふるに和名無し、]此間に云ふ鑊子は、以て酒を煖むるの器と為す〉は肉を煮る器なりといふ。

鎗 唐韵云、鎗、〈音楚庚反、字亦作鐺、阿之奈倍、或說云、俗云非甑而所󠄁炊之飯、謂之鐺飯者、音訛也、〉小鼎也、鐎、〈即遙反、〉温器、三足有柄也、


鎗 唐韻に云はく、鎗〈音は楚庚反、字は亦、鐺に作る、阿之奈倍あしなべ、或説に云はく、俗に云ふ甑非ずて炊く所の飯、之れを鐺飯と謂ふ者の音の訛りなりといふ〉は小鼎なり、鐎〈即遥反〉は温器の三足にして柄有るなりといふ。

鍋 唐式云、䥫鍋食單各一、〈鍋音古禾反、䥫鍋、加奈々倍、〉


鍋 唐式に云はく、鉄鍋、食単、おのおの一つといふ〈鍋の音は古禾反、鉄鍋は加奈々倍かななべ〉。

鏊 四聲字苑云、鏊、〈五到反、今案此間云煎餠盤是也、〉炒餠䥫盤也、


鏊 四声字苑に云はく、鏊〈五到反、今案ふるに此間に云ふ煎餅盤は是れなり〉は餅をる鉄盤なりといふ。

鈔鑼 唐韵云、鈔鑼、〈沙羅二音、俗云沙不良、今案或說、新羅金椀、出新羅國、後人訛新爲雜、故云雜羅、是說未詳、〉


鈔鑼 唐韻に云はく、鈔鑼〈沙羅の二音、俗に云ふ沙不良さふら。今案ふるに、或説に新羅の金椀、新羅国より出づ、後の人、新をあやまりて雑と為す、故に雑羅と云ふ、是の説、未だ詳かならず〉といふ。

鉢 四聲字苑云、鉢、〈博󠄁󠄁末反、字亦作盋、見唐韵、俗云波知、〉學佛道󠄁󠄁者食器也、胡人謂之盂也、


鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、字は亦、盋に作る、唐韻に見ゆ、俗に云ふ波知はち〉は仏道を学ぶ者の食器なり、胡人は之れを盂と謂ふなりといふ。

鋺 日本靈異記云、其器皆鋺、〈俗云加奈万利、今案鋺字未詳、古語謂椀爲末利、宜金椀二字、〉


鋺 日本霊異記に云はく、其の器は皆、鋺〈俗に云ふ加奈万利かなまり、今案ふるに鋺の字、未だ詳かならず、古語に椀を謂ひて末利まりと為す、宜しく金椀の二字を用ゐるべし〉といふ。



漆器六十


漆器六十

樽〈酒海附〉 辨色立成云、樽、〈音尊󠄁、此間云去聲、字亦作罇、見說文、〉酒樽、有脚酒器也、蔣魴切韵云、樽、酒海也、〈今案此間所󠄁有樽與酒海各異、故以附出、〉


樽〈酒海付〉 弁色立成に云はく、樽〈音は尊、此間に云ふ去声、字は亦、罇に作る、説文に見ゆ〉は酒樽、脚有る酒器なりといふ。蒋魴切韻に云はく、樽は酒海なりといふ〈今案ふるに此間に有る所の樽と酒海と各異なる、故に以て付出す〉。

壺 周󠄀禮注󠄁云、壺、〈音胡、都保、〉所󠄁以盛__飮也、兼名苑云、壺一名𢀿、〈唐韵𢀿音謹、以瓢爲酒器也、〉


壺 周礼注に云はく、壺〈音は胡、都保つぼ〉は飲をるる所以なりといふ。兼名苑に云はく、壺、一名は𢀿〈唐韻に𢀿の音は謹、瓢を以て酒器と為すなり〉といふ。

酒臺〈臺子附〉 東宮舊事云、漆酒臺、辨色立成云、臺子、〈志利佐良、〉


酒台〈台子付〉 東宮旧事に云ふ漆の酒台、弁色立成に云ふ台子〈志利佐良しりざら〉。

大槃 唐式云、大槃、〈本朝式云、朱漆臺盤、黒漆臺盤、〉


大槃 唐式に云ふ大槃〈本朝式に云ふ朱漆の台盤、黒漆の台盤〉。

櫑子 唐韵云、櫑、〈音雷、字亦作罍、本朝式云、櫑子、〉酒器也、


櫑子 唐韻に云はく、櫑〈音は雷、字は亦、罍に作る、本朝式に云ふ櫑子〉は酒器なりといふ。

疊子 唐式云、飯椀、羹疊子、各一、〈楊氏漢語抄云、疊子、宇流之沼利乃佐良、〉[遊󠄁仙窟云、麟脯豹胎、粉綸於玉疊、〈今案以玉爲疊子也〉]


畳子 唐式に云はく、飯椀、羹畳子、各一つといふ〈楊氏漢語抄に云ふ畳子、宇流之沼利乃佐良うるしぬりのさら〉。[遊仙窟に云はく、麟脯豹胎、玉畳に粉綸すといふ〈今案ふるに玉を以て畳子と為すなり〉。]

合子 唐式云、尙食局、漆器三年一換、供每節料朱合等、五年一換、〈今案朱合、此間云朱漆合子也、〉


合子 唐式に云はく、尚食局、漆器は三年に一たび換へ、毎節料に供する朱合等は五年に一たび換へよといふ〈今案ふるに朱合は此間に云ふ朱漆の合子なり〉。

匜 說文云、匜、〈移尒反、一音移、俗用楾字、未詳、〉柄中有道󠄁󠄁、可以注󠄁__水之器也、


匜 説文に云はく、匜〈移爾反、一音は移、俗に楾の字を用ゐる、未だ詳かならず〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべきの器なりといふ。

盥 說文云、盥、〈古滿反、與管同、俗用手洗二字、已上二物具󠄁見下澡浴具󠄁也、〉澡手也、


盥 説文に云はく、盥〈古満反、管と同じ、俗に手洗の二字を用ゐる、已上の二物具は下の澡浴具に見ゆ〉は手をあらふなりといふ。



木器六十一


木器六十一

厨子 辨色立成云、竪櫃、〈竪、立也、臣庾反、上聲之重、〉厨子別名也、


厨子 弁色立成に云はく、竪櫃〈竪は立なり、臣庾反、上声の重〉は厨子の別名なりといふ。

櫃 蔣魴切韵云、櫃、〈音貴、比豆、俗有長櫃韓櫃明櫃折櫃小櫃等名、〉似厨向上開闔器也、


櫃 蒋魴切韻に云はく、櫃〈音は貴、比豆ひつ、俗に長櫃、韓櫃、明櫃、折櫃、小櫃等の名有り〉は厨に似て上を向き開闔する器なりといふ。

檈 四聲字苑云、檈、〈似泉反、與旋同、今案俗云臺、是、〉圓案也、


檈 四声字苑に云はく、檈〈似泉反、旋と同じ、今案ふるに俗に台と云ふは是れ〉は円き案なりといふ。

机〈牙脚附〉 唐韵云、机、〈音几、〉案屬也、史記云、持案進󠄁食、〈案音按、都久惠、〉唐式云、行床牙脚、〈今案牙脚、此間云牙象脚也、〉


机〈牙脚付〉 唐韻に云はく、机〈音は几〉は案の属なりといふ。史記に云はく、案を持して食を進むといふ〈案の音は按、都久恵つくゑ〉。唐式に云はく、行床の牙脚〈今案ふるに牙脚は此間に云ふ牙象脚なり〉といふ。

[食床 方言要目云、食床、〈盛食長床也、〉]


[食床 方言要目に云ふ食床〈食を盛る長床なり〉。]

𣝑 唐韵云、𣝑、〈音豫、今案俗云中取是也、〉舁食器也、


𣝑 唐韻に云はく、𣝑〈音は予、今案ふるに俗に云ふ中取なかどるは是れなり〉は食をになふ器なりといふ。

臼〈杵附〉 四聲字苑云、臼、〈巨久反、上聲之重、宇須、〉舂穀器也、杵、〈昌與反、岐禰、〉舂槌也、


臼〈杵付〉 四声字苑に云はく、臼〈巨久反、上声の重、宇須うす〉は穀をうすづく器なり、杵〈昌与反、岐禰きね〉は舂く槌なりといふ。

碓 祝尙丘曰、碓、〈音對、字亦作磓、賀良宇須、〉踏舂具󠄁也、兼名苑云、碓一名𥕐、〈音的、〉魯般造󠄁也、[孫愐云、桯、〈他丁反、戶經反、今案俗云保呂之歟、〉碓桯也、]


碓 祝尚丘曰はく、碓〈音は対、字は亦、磓に作る、賀良宇須からうす〉は踏み舂く具なりといふ。兼名苑に云はく、碓、一名は𥕐〈音は的〉、魯般が造るなりといふ。[孫愐云はく、桯〈他丁反、戸経反、今案ふるに俗に云ふ保呂之ほろしか〉は碓桯なりといふ。]

磑 兼名苑云、磑、〈五對反、〉一名䃀、〈音砌、〉磨礱也、唐韵云、磨礱、〈麻籠二音、又並去聲、須利宇須、〉磑也、


磑 兼名苑に云はく、磑〈五対反〉、一名は䃀〈音は砌〉、磨礱なりといふ。唐韻に云はく、磨礱〈麻籠の二音、又、並びに去声、須利宇須すりうす〉は磑なりといふ。

甑〈甑帶附〉 蔣魴切韵云、甑、〈音勝󠄁、古之歧、〉炊飯器也、本草云、甑帶灰、〈古之幾和良乃波飛、〉辨色立成云、炊單、[〈和名同上、〉]


甑〈甑帯付〉 蒋魴切韻に云はく、甑〈音は勝、古之岐こしき〉は飯をかしぐ器なりといふ。本草に云ふ甑帯灰〈古之幾和良乃波飛こしきわらのはひ〉、弁色立成に云ふ炊単[〈和名は上に同じ〉]。

酒槽 文選󠄁酒德頌注󠄁云、槽、〈音曹、佐加不禰、〉今之酒槽也、


酒槽 文選酒徳頌注に云はく、槽〈音は曹、佐加不禰さかふね〉は今の酒槽なりといふ。

桶 蔣魴切韵云、桶、〈徒總反、上聲之重、又他孔反、乎計、[俗有火桶水菜桶腰桶等之名、]〉汲水於井之器也、


桶 蒋魴切韻に云はく、桶〈徒総反、上声の重、又、他孔反、乎介をけ、[俗に火桶、水菜桶、腰桶等の名有り]〉は水を井に汲むの器なりといふ。

杓〈瓢附〉 唐韵云、杓、〈音酌、比佐古、〉斟水器也、瓢、〈符霄反、奈利比佐古、〉瓠也、瓠、〈音護、〉匏也、匏、〈薄交反、〉可飮器者也、


杓〈瓢付〉 唐韻に云はく、杓〈音は酌、比佐古ひさご〉は水を斟む器なり、瓢〈符霄反、奈利比佐古なりひさご〉は瓠なり、瓠〈音は護〉は匏なり、匏〈薄交反〉は飲器と為すべき者なりといふ。

棬 陸詞切韵云、棬、〈音拳、漢語抄云、佐須江、〉器似斗、屈木爲之、考聲切韵云、盃類也、


棬 陸詞切韻に云はく、棬〈音は拳、漢語抄に云ふ佐須江さすえ〉は器にして斗に似、木を屈めて之れを為るといふ。考声切韻に云ふ盃の類なり。

笥 禮記注󠄁云、笥、〈思吏反、介、〉盛食器也、


笥 礼記注に云はく、笥〈思吏反、〉は食を盛るる器なりといふ。

衦麵杖 辨色立成云、衦麵杖、〈牟歧於須紀、上音各旱反、〉


衦麺杖 弁色立成に云ふ衦麺杖〈牟岐於須紀むぎおすき、上の音は各旱反〉。

茶硏 章孝標集、有黃楊木茶碾子詩、〈碾音展、訓歧之流、[茶碾子、俗謂之茶研、々音加彥反、]〉


茶研 章孝標集に黄楊木茶碾子詩有り〈碾の音は展、訓は岐之流きしる、[茶碾子、俗に之れを茶研と謂ふ、研の音は加彦反]〉。



瓦器六十二〈瓦器、一云陶器、陶訓須惠毛能、〉


瓦器六十二〈瓦器は一に云ふ陶器、陶の訓は須恵毛能すゑもの

大甕 辨色立色云、大甕、〈美賀、〉本朝式云、𤭖、〈和名同上、音長、一音仗、見唐韵、〉


大甕 弁色立色に云ふ大甕〈美賀みか〉。本朝式に云ふ𤭖〈和名は上に同じ、音は長、一音に仗、唐韻に見ゆ〉。

淺甕 日本紀私記云、淺甕、〈佐良介、〉本朝式云、瓼、〈和名上同、今案所󠄁出未詳、〉


浅甕 日本紀私記に云ふ浅甕〈佐良介さらけ〉。本朝式に云ふ瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉。

甕 方言云、自關而東甖、〈烏莖反、字亦作罌、〉謂之甕、〈烏貢反、字亦作瓮、毛太比、〉


甕 方言に云はく、関よりして東に甖〈烏茎反、字は亦、罌に作る〉は之れを甕〈烏貢反、字は亦、瓮に作る、毛太比もたひ〉と謂ふといふ。

坩 楊氏漢語抄云、坩、〈古甘反、都保、今案木謂之壷、瓦謂之坩、〉壺也、或曰甒甖、〈武鸎二音、〉垂拱留司格云、瓷坩廿口、一斗以下五升以上、故知坩者壺也、


坩 楊氏漢語抄に云はく、坩〈古甘反、都保つぼ。今案ふるに木は之れを壺と謂ひ、瓦は之れを坩と謂ふ〉は壺なりといふ。或の曰ふ甒甖〈武鸎の二音〉。垂拱留司格に云はく、瓷坩二十口、一斗以下五升以上といふ。故に坩は壺と知るなり。

瓶子 楊氏漢語抄云、瓶子、〈賀米、上薄經反、〉


瓶子 楊氏漢語抄に云ふ瓶子〈賀米かめ、上は薄経反〉。

游堈 唐韵云、堈、〈音剛、楊氏抄云游堈、由賀、〉甕也、〈今案俗人呼大桶由賀呼介是、辨色立成云於保美加、〉


游堈 唐韻に云はく、堈〈音は剛、楊氏抄に云ふ游堈、由賀ゆか〉は甕なりといふ〈今案ふるに俗人の大桶を呼びて由賀呼介ゆかをけと為すは是れ、弁色立成に云ふ於保美加おほみか〉。

盆 唐韵云、盆、〈蒲奔反、字亦作瓫、辨色立成云比良加、〉瓦器也、尒雅云、瓫謂之缶、〈音不、訓保度歧、〉兼名苑云、盆一名盂、〈音于、〉


盆 唐韻に云はく、盆〈蒲奔反、字は亦、瓫に作る、弁色立成に云ふ比良加ひらか〉は瓦器なりといふ。爾雅に云はく、瓫は之れを缶〈音は不、訓は保度岐ほとき〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、盆、一名は盂〈音は于〉といふ。

罐 唐韵云、罐、〈音貫、楊氏抄云、都流閇、〉汲水器也、


缶 唐韻に云はく、缶〈音は貫、楊氏抄に云ふ都流閉つるべ〉は水を汲む器なりといふ。

堝 辨色立成云、堝、〈奈閇、古禾反、今案金謂之鍋、瓦謂之堝、字或相通󠄁、〉


堝 弁色立成に云ふ堝〈奈閉なべ、古禾反、今案ふるに金は之れを鍋と謂ひ、瓦は之れを堝と謂ふ、字は或に相通ず〉。

瓷 唐韵云、瓷、〈疾資反、[俗云瓷器、之乃宇豆波毛乃、]〉瓦器也、


瓷 唐韻に云はく、瓷〈疾資反、[俗に云ふ瓷器、之乃宇豆波毛乃しのうつはもの]〉は瓦器なりといふ。

盌 說文云、盌、〈烏管反、字作椀、辨色立成云、末利、俗云毛比、〉小盂也、


盌 説文に云はく、盌〈烏管反、字は椀に作る、弁色立成に云ふ末利まり、俗に云ふ毛比もひ〉は小盂なりといふ。

盤 唐韵云、盤、〈薄官反、佐良、〉器名也、


盤 唐韻に云はく、盤〈薄官反、佐良さら〉は器の名なりといふ。

盃盞 兼名苑云、盃、〈字亦作坏、〉一名巵、〈音支、佐賀都歧、〉方言注󠄁云、盞、〈音產、〉盃之最小者也、


盃盞 兼名苑に云はく、盃〈字は亦、坏に作る〉、一名は巵〈音は支、佐賀都岐さかづき〉といふ。方言注に云はく、盞〈音は産〉は盃の最も小さき者なりといふ。

[𤮜 孫愐切韻云、𤮜、〈時戰反、俗語云都伎乃波太、〉器緣、謂口邊也、]


[𤮜 孫愐切韻に云はく、𤮜〈時戦反、俗語に云ふ都伎乃波太つきのはた〉は器の縁、口辺を謂ふなり。]



竹器六十三


竹器六十三

箱篋 楊氏漢語抄云、箱、〈音相、〉篋、〈苦恊反、〉筥、〈居許反、〉筐、〈音匡、〉篚、〈音匪、已上皆波古、〉唐韵云、竹器、方曰筐、圓曰篚也、


箱篋 楊氏漢語抄に、箱〈音は相〉、篋〈苦協反〉、筥〈居許反〉、筐〈音は匡〉、篚〈音は匪、已上は皆、波古はこ〉と云ふ。唐韻に云はく、竹器の方なるを筐と曰ひ、円なるを篚と曰ふなりといふ。

簏 考聲切韵云、簏、〈音祿、須利、〉箱類也、


簏 考声切韻に云はく、簏〈音は禄、須利すり〉は箱の類なりといふ。

籠 唐韵云、籠、〈盧紅反、一音龍、又力董反、古、〉竹器也、


籠 唐韻に云はく、籠〈盧紅反、一音は龍、又、力董反、〉は竹器なりといふ。

笭箐 四聲字苑云、笭箐、〈零靑二音、漢語抄云、加太美、〉小籠也、


笭箐 四声字苑に云はく、笭箐〈零青の二音、漢語抄に云ふ加太美かたみ〉は小籠なりといふ。

籮 考聲切韵云、江南人謂筐底方上圓者籮、〈音羅、之太美、〉


籮 考声切韻に云はく、江南の人、筐の底、けだなりて上、まろき者を謂ひて籮〈音は羅、之太美したみ〉と為すといふ。

䈪 方言注󠄁云、䈪形小而高、江東呼爲䈪、〈呼擊反、漢語抄云、阿自賀、今案又用簣字、見史記、〉


䈪 方言注に云はく、䈪は形小さくして高し、江東に呼びて䈪〈呼撃反、漢語抄に云ふ阿自賀あじか、今案ふるに又、簣の字を用ゐる、史記に見ゆ〉と為すといふ。

箄 四聲字苑云、箄、〈博󠄁繼反、漢語抄云、飯箄、以比之太美、〉𦽗甑底竹筐也、


箄 四声字苑に云はく、箄〈博継反、漢語抄に云ふ飯箄、以比之太美いひじたみ〉は甑の底を蔽ふ竹筐なりといふ。

篝 說文云、篝、〈古候反、加々利、〉竹器也、


篝 説文に云はく、篝〈古候反、加々利かがり〉は竹器なりといふ。

篩 說文云、篩、〈音師、字亦作簛、布流比、〉除麁去細之竹器也、


篩 説文に云はく、篩〈音は師、字は亦、簛に作る、布流比ふるひ〉は麁きを除き細かきを去るの竹器なりといふ。

笊籬 辨色立成云、笊籬、〈楊氏抄云、无歧須久比、唐韵上側敎反、去聲之輕、下音離、〉麥索煑籠也、以竹編󠄁󠄁爲之、


笊籬 弁色立成に云はく、笊籬〈楊氏抄に云ふ無岐須久比むぎすくひ、唐韻に上は側教反、去声の軽、下の音は離〉は麦索を煮る籠なりといふ。竹を以て編み之れと為す。

箕〈箒附〉 說文云、箕、〈音姬、美、〉除糞簸米之器也、兼名苑云、箒、〈音酒、〉一名篲、〈祥歲反、波々歧、〉


箕〈箒付〉 説文に云はく、箕〈音は姫、〉は糞を除き米をるの器なりといふ。兼名苑に云はく、箒〈音は酒〉、一名は篲〈祥歳反、波々岐ははき〉といふ。



燈火部第十三


灯火部第十三

 燈火類六十四 燈火具󠄁六十五 燈火器六十六


 灯火類六十四 灯火具六十五 灯火器六十六



燈火類六十四


灯火類六十四

燈燭 四聲字苑云、器照曰燈、〈音登、〉竪燒曰燭、〈音屬、和名並度毛師比、〉野王案、燈燭、蘭膏所󠄁燃之火也、


灯燭 四声字苑に云はく、器照を灯〈音は登〉と曰ひ、竪焼を燭〈音は属、和名は並びに度毛師比ともしび〉と曰ふといふ。野王案ずるに灯燭、蘭膏は燃やす所の火なりとす。

䗶燭 唐式云、少府監、每年供䗶燭七十挺


蝋燭 唐式に云はく、少府監、年毎に蝋燭七十挺を供せよといふ。

紙燭 雜題有紙燭詩、〈紙燭、俗音之曾久、〉


紙燭 雑題に紙燭詩有り〈紙燭は俗の音に之曽久〉。

炬火 唐韵云、爝、〈即略反、與雀同、〉炬火也、字書云、炬、〈其呂反、上聲之重、訓與燈同、俗云太天阿加之、〉束薪灼之、


炬火 唐韻に云はく、爝〈即略反、雀と同じ〉は炬火なりといふ。字書に云はく、炬〈其呂反、上声の重、訓は灯と同じ、俗に云ふ太天阿加之たてあかし〉は、薪を束ね之れを灼くといふ。

庭燎 四聲字苑云、燎、〈力照反、和名邇波比、毛詩有庭燎篇、〉庭火也、


庭燎 四声字苑に云はく、燎〈力照反、和名は邇波比にはび、毛詩に庭燎篇有り〉は庭火なりといふ。

烽燧〈火橛附〉 說文云、烽燧、〈峯遂󠄂二音、度布比、〉邊有警則擧之、唐式云、諸置燧之處置火臺、々上挿橛、〈音厥、俗云保久之、〉


烽燧〈火橛付〉 説文に云はく、烽燧〈峯遂の二音、度布比とぶひ〉は辺にいましめ有るときには之れを挙ぐといふ。唐式に云はく、諸そ燧を置くの処に火台を置き、台の上に橛〈音は厥、俗に云ふ保久之ほぐし〉を挿すといふ。

[篝火 漢書陳勝󠄁傳云、夜篝火、〈師說云比乎加々利邇須、今案漁者以䥫作篝盛火照水者名之、此類乎、〉]


[篝火 漢書陳勝伝に云はく、夜に火を篝にすといふ〈師説に云ふ比乎加々利邇須ひをかがりにす、今案ふるに漁者の、鉄を以て篝を作り、火を盛れて水を照らす者、之れを名くは此類か〉。]

[野火 字統云、𤐨〈蘇典反、又作燹、野人說云、保曾介、〉防野火也、孫愐切韻云、燹、〈音與銑同、〉逆󠄁燒也、]


[野火 字統に云はく、𤐨〈蘇典反、又、燹に作る、野人説に云ふ保曽介ほそげ〉は野火を防ぐなりといふ。孫愐切韻に云はく、燹〈音は銑と同じ〉は逆に焼くなりといふ。]

煻煨 唐韵云、熾、〈昌志反、漢語抄云、於歧比、〉猛火也、又盛也、四聲字苑云、煻煨、〈唐隈二音、和名上同、〉𤍠灰兼火也、


煻煨 唐韻に云はく、熾〈昌志反、漢語抄に云ふ於岐比おきび〉は猛火なり、又、盛りなりといふ。四声字苑に云はく、煻煨〈唐隈の二音、和名は上に同じ〉は熱灰、火を兼ぬるなりといふ。

燐火 文字集畧云、燐、〈音隣、一音𠫤、於邇比、〉鬼火也、人及牛馬兵死者血所󠄁化󠄁也、


燐火 文字集略に云はく、燐〈音は隣、一音に吝、於邇比おにび〉は鬼火なり、人及び牛馬兵の死する者の血の化する所なりといふ。

[蚊火 新撰萬葉集歌云、蚊遣󠄁火〈加夜利火、今案一云蚊火、所󠄁出未詳、但俗說蚊遇󠄁煙󠄁即去、仍夏日庭中熏火放煙󠄁、故以名之、蚊見虫豸部、〉]


[蚊火 新撰万葉集歌に云はく、蚊遣󠄁火〈加夜利火かやりび、今案ふるに一に云ふ蚊火、出づる所未だ詳かならず、但し俗説に蚊は煙に遇ひて即ち去る、仍りて夏日、庭中に火をくすべ煙を放つ、故に以て之れを名く、蚊は虫豸部に見ゆ〉]



燈火具󠄁六十五


灯火具六十五

火鑚 內典云、譬如燧因鑚、〈音贊、比歧利、〉而得__、〈𣵀槃經文也、〉


火鑚 内典に云はく、譬へば燧に因り鑚〈音は賛、比岐利ひきり〉に因りて火を生ずることを得るがごとしといふ〈涅槃経の文なり〉。

燧 古史考云、燧人氏造󠄁鑚燧、〈音遂󠄂、比宇知、〉始出火、


燧 古史考に云はく、燧人氏、鑚燧〈音は遂、比宇知ひうち〉を造り、始めて火を出すといふ。

油〈擣押附〉 四聲字苑云、油、〈以周反、阿布良、〉迮麻取脂也、〈迮、側陌反、字與窄通󠄁、迫󠄁也、狹也、〉內典云、胡麻熟已、收子熬之擣押、〈俗語云、之路无、〉然後乃得油、〈𣵀槃經文也、〉


油〈擣押付〉 四声字苑に云はく、油〈以周反、阿布良あぶら〉は麻をめて脂を取るなり、〈迮は側陌反、字は窄と通ず、迫るなり、狭しなり〉といふ。内典に云はく、胡麻熟し已り子を収め之れを熬りて擣き押す〈俗語に云ふ之路無しろむ〉、然る後、乃ち油を出づるを得といふ〈涅槃経の文なり〉。

燈心 考聲切韵云、炷、〈音主󠄁、又去聲、和名度宇之美、燈心音訛也、〉燈心也、


灯心 考声切韻に云はく、炷〈音は主、又、去声、和名は度宇之美とうしみ、灯心の音の訛れるなり〉は灯心なりといふ。

炭〈炭籠附〉 蔣魴切韵云、炭、〈他案反、須美、〉樹木以火燒之、仙人嚴靑造󠄁也、野王案、𤈩、〈乍下反、字亦作𥰭、〉炭籠也、


炭〈炭籠付〉 蒋魴切韻に云はく、炭〈他案反、須美すみ〉は樹木の、火を以て之れを焼く、仙人の厳青が造るなりといふ。野王案ずるに、𤈩〈乍下反、字は亦、𥰭に作る〉は炭籠なりとす。

松明 唐式云、每城油一斗、松明十斤、〈今案松明者今之續松乎、〉


松明 唐式に云はく、城毎に油一斗、松明十斤といふ〈今案ふるに松明は今の続松か〉。

薪 纂要云、火木曰薪、〈音新、多歧々、〉


薪 纂要に云はく、火木を薪〈音は新、多岐々たきぎ〉と曰ふといふ。

燼 左傳注󠄁云、燼、〈音晉、毛江久比、〉火餘木也、


燼 左伝注に云はく、燼〈音は晋、毛江久比もえくひ〉は火の余木なりといふ。

灰 陸詞切韵云、灰、〈呼恢反、波比、〉火燼滅也、


灰 陸詞切韻に云はく、灰〈呼恢反、波比はひ〉は火の燼滅なりといふ。

炲煤 唐韵云、炲煤、〈臺梅二音、須々、〉灰集屋也、


炲煤 唐韻に云はく、炲煤〈台梅の二音、須々すす〉は灰の、屋に集むるなりといふ。

煙〈𤓭附〉 四聲字苑云、煙、〈於賢反、字亦作烟、介不利、〉火燒草木黑氣也、唐韵云、𤓭、〈音欝、俗語云介布太之、〉煙氣也、


煙〈爩付〉 四声字苑に云はく、煙〈於賢反、字は亦、烟に作る、介不利けぶり〉は火の、草木を焼く黒気なりといふ。唐韻に云はく、爩〈音は鬱、俗語に云ふ介布太之けぶたし〉は煙気なりといふ。

㸅 四聲字苑云、㸅、〈子結反、保曾久豆、〉燭餘灰也、


㸅 四声字苑に云はく、㸅〈子結反、保曽久豆ほそくづ〉は燭の余灰なりといふ。



燈火器六十六


灯火器六十六

燈籠 內典云、燈爐、〈見涅槃經、〉唐式云、燈籠、〈見開元式、〉本朝式云、燈樓、〈見主󠄁殿寮式、今案三名皆通󠄁稱也、〉


灯籠 内典に云ふ灯炉〈涅槃経に見ゆ〉、唐式に云ふ灯籠〈開元式に見ゆ〉、本朝式に云ふ灯楼〈主殿寮式に見ゆ。今案ふるに三つの名、皆、通称なり〉。

燈械 楊氏漢語抄云、燈械、〈音戒、〉所󠄁以居燈盞也、


灯械 楊氏漢語抄に云はく、灯械〈音は戒〉は灯盞をく所以なりといふ。

燈臺 本朝式云、主󠄁殿寮燈臺、


灯台 本朝式に云はく、主殿寮に灯台といふ。

燈盞 唐式云、每城、燈盞七枚、〈燈盞、阿布良都歧、〉


灯盞 唐式に云はく、城毎に灯盞七枚〈灯盞は阿布良都岐あぶらつき〉といふ。

油瓶 內典云、尒時復有諸沙門等、手自作食、執持油瓶、〈阿布良賀米、〉


油瓶 内典に云はく、爾の時に、また、諸の沙門等有りて、手自ら食をし、油瓶〈阿布良賀米あぶらがめ〉を執持すといふ。

火爐 聲類云、爐、〈音盧、楊氏漢語抄云、火爐、比多歧、〉火爐、火所󠄁居也、


火炉 声類に云はく、炉〈音は盧、楊氏漢語抄に云ふ火炉、比多岐ひたき〉は火炉、火を居く所なりといふ。

火筯 弁色立成云、火筯、〈比波之、下治據反、〉


火筯 弁色立成に云ふ火筯〈比波之ひばし、下は治拠反〉。

竈〈䆫附〉 四聲字苑云、竈、〈則到反、與躁同、加万、〉炊㸑處也、文字集略云、䆫、〈七紅反、久度、〉竃後穿也、


竃〈窓付〉 四声字苑に云はく、竃〈則到反、躁と同じ、加万かま〉は炊㸑の処なりといふ。文字集略に云はく、窓〈七紅反、久度くど〉は竃の後の穿あななりといふ。
卷第五

巻第五

調度部第十四


調度部第十四

 佛塔具󠄁六十七 伽藍具󠄁六十八 僧房󠄁具󠄁六十九 祭祀具󠄁七十 文書具󠄁七十一 圖繪具󠄁七十二 征戰具󠄁七十三 弓劔具󠄁七十四 刑罸具󠄁七十五 鞍馬具󠄁七十六 鷹犬具󠄁七十七 畋獵具󠄁七十八 漁釣具󠄁七十九 農耕󠄁具󠄁八十 造󠄁作具󠄁八十一 木工具󠄁八十二 細工具󠄁八十三 鍛冶具󠄁八十四


 仏塔具六十七 伽藍具六十八 僧房具六十九 祭祀具七十 文書具七十一 図絵具七十二 征戦具七十三 弓剣具七十四 刑罰具七十五 鞍馬具七十六 鷹犬具七十七 畋猟具七十八 漁釣具七十九 農耕具八十 造作具八十一 木工具八十二 細工具八十三 鍛冶具八十四



佛塔具󠄁六十七


仏塔具六十七

塔 孫愐切韻云、齊楚曰塔、〈吐盍反、內典有多寳佛塔石塔沙塔泥塔等、〉楊越曰𪚕、〈口含反、字亦作龕、〉一云、塔下室也、


塔 孫愐切韻に云はく、斉楚は塔〈吐盍反、内典に多宝仏塔、石塔、沙塔、泥塔等有り〉と曰ひ、楊越は𪚕〈口含反、字は亦、龕に作る〉と曰ふといふ。一に云はく、塔の下の室なりといふ。

舍利 法華經云、以佛舍利起󠄁七寳塔


舎利 法華経に云はく、仏舎利を以て七宝塔を起つといふ。

檫 四聲字苑云、檫、〈初鎋反、俗云、心乃波之良、〉佛塔中心柱也、


檫 四声字苑に云はく、檫〈初鎋反、俗に云ふしん乃波之良のはしら〉は仏塔の中の心柱なりといふ。

層 梁簡文帝大愛敬寺刹下銘序云、普通󠄁三年二月建七層靈塔、〈唐韵、層音昨稜反、一音曾、重屋也、塔乃古之、〉


層 梁簡文帝大愛敬寺刹下銘序に云はく、普通三年二月に七層霊塔を建つといふ〈唐韻に層の音は昨稜反、一音に曽、重屋なり、たふ乃古之のこし〉。

露盤 梁孝元帝、有靈夢寺露盤銘


露盤 梁孝元帝に霊夢寺露盤銘有り。

火珠 楊氏漢語抄云、火珠、〈塔乃比散久賀太、〉


火珠 楊氏漢語抄に云はく、火珠〈たふ乃比散久賀太のひさくがた〉といふ。

寳鐸 四聲字苑云、鐸、〈徒落反、〉大鈴也、李德林幷州西山塔銘云、寳鐸交音、梵聲凝韻、


宝鐸 四声字苑に云はく、鐸〈徒落反〉は大鈴なりといふ。李徳林并州西山塔銘に云はく、宝鐸は音をまじへ、梵声は韻をらすといふ。

箜篌 法華經云、起󠄁七寳塔、懸諸幡盖、又云、簫笛箜篌種々儛戲、以妙音聲、歌唄讚頌、〈箜篌二音、俗云空古、〉


箜篌 法華経に云はく、七宝塔を起て、諸の幡蓋を懸くといふ。又云はく、簫笛、箜篌、種々の儛戯あり、妙音声を以て歌唄讚頌すといふ。〈箜篌の二音、俗に云ふ空古くこ



伽藍具󠄁六十八


伽藍具六十八

金堂 梁元帝入佛日殿禮拜詩云、玳瑁金堂柱、檀欒紺篠䕺、〈楊氏云、佛殿金堂也、禮堂金堂前󠄁名、〉


金堂 梁元帝仏日殿に入り礼拝する詩に云はく、玳瑁の金堂柱、檀欒の紺篠䕺といふ〈楊氏云はく、仏殿は金堂なり、礼堂は金堂の前名なりといふ〉。

講堂 金光明經云、大講堂衆會之中、


講堂 金光明経に云はく、大講堂、衆会の中といふ。

食堂 內典云、舍衞國祗陁園、食堂浴室、無備足、〈楊氏云、食堂僧食處也、寺炊爨處謂之大衆屋、本文未詳、〉


食堂 内典に云はく、舎衛国の祗陀園、食堂、浴室備へ足らずといふこと無し。〈楊氏に云はく、食堂は僧の食する処なり、寺の炊爨する処は之れを大衆屋と謂ふといふ、本文は未だつばひらかならず〉

經藏 後周󠄀王褒、有經藏願文、〈白氏文集云、東林寺經藏、〉


経蔵 後周王褒に経蔵の願文有り〈白氏文集に云ふ東林寺の経蔵〉。

寳藏 內典云、有寳藏者、心无憂慼、〈𣵀槃經文也、〉


宝蔵 内典に云はく、宝蔵有る者は心に憂慼無しといふ〈涅槃経の文なり〉。

鐘樓 褚亮鐘樓銘云、菴園寳地、李苑珠臺、形如涌出、𫝑似飛來


鐘樓 褚亮鐘楼銘に云はく、菴園の宝地、李苑の珠台、形は涌き出づるがごとく、勢ひは飛び来るに似たりといふ。

僧坊 法華經云、起󠄁塔寺、及造󠄁僧坊、〈他經等或云、僧房󠄁、〉供養衆僧、其德最勝󠄁󠄁、無量無邊、


僧坊 法華経に云はく、塔寺を起て、また僧坊〈他経等に或は云ふ僧房〉を造り、衆僧を供養するは、其の徳、最も勝れて無量無辺といふ。

浴室 內典有温室經、〈今案温室即浴室也、俗云由夜、〉


浴室 内典に温室経有り〈今案ふるに温室は即ち浴室なり、俗に云ふ由夜ゆや〉。

寳幢 華嚴經偈云、寳幢諸幡盖、〈訓波多保古、〉


宝幢 華厳経の偈に云はく、宝幢、諸幡蓋といふ〈訓は波多保古はたほこ〉。

窣堵婆 俱舍論云、破壞窣堵婆、是無間同類、〈窣音蘇骨反、〉


窣堵婆 倶舎論に云はく、窣堵婆を破壊するは是れ無間と同類といふ〈窣の音は蘇骨反〉。

幡 涅槃經云、諸香木上懸五色幡、〈波太、又見征戰具󠄁、〉


幡 涅槃経に云はく、諸香木の上に五色の幡を懸くといふ〈波太はた、又、征戦具に見ゆ〉。

盖 涅槃經云、幢幡寳盖、〈歧沼加散、又有白盖、高座上具󠄁也、〉


蓋 涅槃経に云はく、幢幡宝蓋といふ〈岐沼加散きぬがさ、又、白蓋有り、高座の上具なり〉。

花鬘 涅槃經云、種々花鬘、


花鬘 涅槃経に云はく、種々の花鬘といふ。

鐘 虞󠄁世南禪林寺鐘銘序云、乃與淸信有緣道󠄁俗四衆、共造󠄁洪鐘一口、〈洪鐘、俗云、於保加禰、〉


鐘 虞世南禅林寺鐘銘序に云はく、乃ち清信有縁の道俗四衆と共に洪鐘一口を造るといふ〈洪鐘は俗に云ふ於保加禰おほがね〉。

磬 僧淸閑題寺詩云、五色雲中鳴玉磬、千花臺上禮金佛、〈磬苦定反、宇知奈良之、又見音樂門、〉


磬 僧清閑、寺に題する詩に云はく、五色の雲中に玉磬を鳴し、千花の台上に金仏を礼すといふ〈磬は苦定反、宇知奈良之うちならし、又、音楽門に見ゆ〉。

金皷 最勝󠄁󠄁王經云、妙幢菩薩、於夜夢中大金皷、〈比良加禰、〉


金皷 最勝王経に云はく、妙幢菩薩、夜の夢中に於いて大金皷〈比良加禰ひらがね〉を見るといふ。

匳 唐韵云、匳、〈音廉、俗音輪、〉香匳、盛香器也、


匳 唐韻に云はく、匳〈音は廉、俗音は輪〉は香匳、香を盛る器なりといふ。

火舍 內典云、火舍、〈俗音化赭、〉


火舎 内典に云はく、火舎〈俗の音は化赭〉といふ。

閼伽 內典云、閼伽、〈上音遏、〉梵語也、漢言欝勃、烝煑雜香、以其汁養佛也、


閼伽 内典に云はく、閼伽〈上の音は遏〉は梵語なりといふ。漢に鬱勃と言ふは、雑香を烝煮し、其の汁を以て仏に供養すればなり。

燈明 大般若經云、上妙花鬘、乃至燈明、〈於保美阿賀之、〉


灯明 大般若経に云はく、上妙花鬘、乃至灯明〈於保美阿賀之おほみあかし〉といふ。

高座 仁王經云、建百高座


高座 仁王経に云はく、百の高座を建つといふ。



僧坊具󠄁六十九


僧坊具六十九

香炉 小品經云、以白銀香爐、燒黑沈水、供養般若


香炉 小品経に云はく、白銀の香炉を以て黒き沈水じむを焼き、般若に供養すといふ。

錫杖 錫杖經云、錫杖、亦名智杖、彰顯聖智也、亦名德杖、行功德本故也、


錫杖 錫杖経に云はく、鍚杖は亦、智杖と名く、聖智を彰顕するなり、亦、徳杖と名く、功徳を行ふ本故なりといふ。

如意 梁劉孺有如意銘


如意 梁の劉孺に如意銘有り。

三鈷 大日経䟽云、獨鈷三鈷五鈷、〈音古、俗云上聲之輕、〉


三鈷 大日経疏に云はく、独鈷、三鈷、五鈷〈音は古、俗に上声の軽と云ふ〉といふ。

金鎞 大日経䟽云、金鎞、〈邊奚反、〉


金鎞 大日経疏に云はく、金鎞〈辺奚反〉といふ。

念珠 內典有念珠經、〈今案念珠、一云數珠、見千手經、〉


念珠 内典に念珠経有り〈今案ふるに念珠は一に云ふ数珠、千手経に見ゆ〉。

跋折羅 千手經云、若爲伏一切大魔神者、當跋折羅手


跋折羅 千手経に云はく、若し一切の大魔神を降伏せんがためならば、まさに跋折羅の手に於いてすべしといふ。

白拂 千手經云、若爲身上惡障難者、當白拂手、〈白拂、波閇波良飛、〉


白払 千手経に云はく、若し身上の悪障難を除かんが為ならば、当に白払の手に於いてすべしといふ〈白払は波閉波良飛はへはらひ〉。

鉢 四聲字苑云、鉢、〈博󠄁󠄁末反、俗云波智、〉學佛道󠄁者食器也、


鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、俗に云ふ波智はち〉は仏道を学ぶ者の食器なりといふ。

漉水囊 𣵀槃經云、漉水囊、〈美豆布流比、漉音盧谷反、楊氏漢語抄云、漉取、須久比度流、〉


漉水囊 涅槃経に云はく、漉水囊〈美豆布流比みづふるひ、漉の音は盧谷反、楊氏漢語抄に云ふ漉取、須久比度流すくひとる〉といふ。

寳螺 千手經云、若爲呼一切諸天善神者、當寳螺手


宝螺 千手経に云はく、若し一切の諸天、善神を召呼せんが為ならば、当に宝螺の手に於いてすべしといふ。

水瓶 因果經云、善慧仙人、被鹿皮、執水瓶、〈美豆賀米、〉


水瓶 因果経に云はく、善慧仙人は鹿皮を被り、水瓶〈美豆賀米みづかめ〉を執るといふ。

三衣匣 金玉義林云、僧六物、其一曰三衣匣、〈俗云、佐无江乃波古、〉三衣者、一僧伽梨云大衣、二欝多羅層云中衣、三安陁會云下衣


三衣匣 金玉義林に云はく、僧の六物、其の一を三衣匣〈俗に云ふ佐無江乃波古さむえのはこ〉と曰ふといふ。三衣は、一に僧伽そうぎやを大衣と云ひ、二にうつ多羅たらそうを中衣と云ひ、三にあむ陀会だゑを下衣と云ふ。

剃刀 玄奘三藏表云、䥫剃刀一口、〈剃音他計反、去聲之輕、與涕同、剃刀加美曾利、〉


剃刀 玄奘三蔵表に云はく、鉄の剃刀一口〈剃の音は他計反、去声の軽、涕と同じ、剃刀は加美曽利かみそり〉といふ。

頭巾 內典云、世尊新剃頭髮、以衣覆頭、々巾之緣是也、


頭巾 内典に云はく、世尊、新たに頭髪を剃り、衣を以て頭を覆ふといふ。頭巾のことのもとは是れなり。

袈裟 東宮切韻云、釋氏曰、袈裟、〈加沙二音、俗云介佐、〉天竺語也、此云無垢衣、又云功德衣、孫愐曰、傳法衣、即沙門之服也、


袈裟 東宮切韻に云はく、釈氏曰はく、袈裟〈加沙の二音、俗に云ふ介佐けさ〉は天竺の語なりといふ。此に云ふ無垢衣、又云ふ功徳衣。孫愐曰はく、伝法衣は即ち沙門の服なりといふ。

橫被 內典云、昔有婬女、見阿難端正、發欲想、尒時阿難、爲藏其身、始有橫被、又名覆肩衣


横被 内典に云はく、昔、婬女有り、阿難の端正なるを見、欲想を発す、爾の時に、阿難、其の身を覆ひ蔵さんが為に始めて横被有り、又、覆肩衣と名くといふ。

衲 玄弉三藏表云、衲袈裟一領、〈衲音奴答反、字亦作納󠄁、俗云能不、一云太比、〉


衲 玄奘三蔵表に云はく、衲袈裟一領〈衲の音は奴答反、字は亦、納に作る。俗に云ふ能不のふ、一に云ふ太比だひ〉といふ。

裳 內典抄云、慈悲一切衆生慈母、故服裳、又名慈悲衣


裳 内典抄に云はく、一切の衆生を慈悲すること慈母のごとし、故に裳を服すといひ、又、慈悲衣と名く。

座具󠄁 金玉義林云、僧六物、其三曰座具󠄁


座具 金玉義林に云はく、僧の六物の其の三を座具と曰ふといふ。

草座 因果經云、於是菩薩、以草爲座、


草座 因果経に云はく、是に菩薩、草を以て座と為すといふ。

鹿杖 漢語抄云、鹿杖、〈加勢都惠、〉


鹿杖 漢語抄に云はく、鹿杖〈加勢都恵かせづゑ〉といふ。



祭祀具󠄁七十


祭祀具七十

木綿 本草經注󠄁云、木綿、〈由布、〉折之多白絲者也、


木綿 本草経注に云はく、木綿〈由布ゆふ〉は、之れを折れば白糸多き者なりといふ。

龍眼木 楊氏漢語抄云、龍眼木、〈佐賀歧、今案龍眼木者、其子名也、見本草、〉日本紀私記云、坂樹刺立、以爲神之木、〈今案、本朝式用賢木二字、漢語抄用榊字、並未詳、〉


龍眼木 楊氏漢語抄に云はく、龍眼木〈佐賀岐さかき、今案ふるに龍眼木は其のの名なり、本草に見ゆ〉といふ。日本紀私記に云はく、坂樹を刺し立て、以て神を祭るの木と為すといふ〈今案ふるに本朝の式に賢木の二字を用ゐ、漢語抄に榊の字を用ゐる、並びに未だ詳かならず〉。

蘿鬘 日本紀私記云、爲鬘以蘿、〈比加介加都良、〉


蘿鬘 日本紀私記に云はく、鬘を為すに蘿〈比加介加都良ひかげかづら〉を以てすといふ。

幣󠄁帛 禮記注󠄁云、幣󠄁、〈音弊󠄁、美天久良、〉今江東云幣󠄁帛、


幣帛 礼記注に云はく、幣〈音は弊、美天久良みてぐら〉は今、江東に云ふ幣帛といふ。

偶人 史記云、土偶人、木偶人、〈偶音五狗反、俗云比度加太、〉野王案、凡刻削󠄁物、爲人像、皆曰偶人


偶人 史記に云はく、土偶人、木偶人といふ〈偶の音は五狗反、俗に云ふ比度加太ひとがた〉。野王案ずるに、凡そ物を刻み削り人像と為すは皆、偶人と曰ふとす。

蒭靈 日本紀私記云、蒭靈、〈久散比度賀太、〉


蒭霊 日本紀私記に云はく、蒭霊〈久散比度賀太くさひとがた〉といふ。

紙錢 新樂府云、神之來兮風飄々、紙錢動兮錦繖搖、〈紙錢、俗云加美勢邇、一云勢邇賀太、〉


紙銭 新楽府に云はく、神の来たるや風飄々たり、紙銭動くや錦繖も揺るといふ〈紙銭は俗に云ふ加美勢邇かみぜに、一に云ふ勢邇賀太ぜにがた〉。

玉籤 日本紀云、玉籤、〈下音七廉反、多万久之、〉


玉籤 日本紀に云ふ玉籤〈下の音は七廉反、多万久之たまぐし〉。

神籬 日本紀私記云、神籬、〈俗云比保路歧、〉


神籬 日本紀私記に云ふ神籬〈俗に云ふ比保路岐ひぼろき〉。

葦索 蔡邕獨斷云、懸葦索、〈阿之乃奈波、〉於門戶、以禦凶也、


葦索 蔡邕独断に云はく、葦索〈阿之乃奈波あしのなは〉を門戸に懸け、以て凶を禦ぐなりといふ。

注󠄁連 顔氏家訓云、注󠄁連章斷、〈師說、注󠄁連、之梨久倍奈波、章斷、之度太智、〉日本紀私記云、端出之繩、〈讀與注󠄁連同、〉


注連 顔氏家訓に云はく、注連して章断すといふ〈師説に注連は之梨久倍奈波しりくべなは、章断は之度太智しとだち〉といふ。日本紀私記に云ふ端出之縄〈読みて注連と同じ〉。

葉椀 本朝式云、十一月辰日宴會、其飯器、參議以上朱漆椀、五位以上葉椀、〈久保天、〉


葉椀 本朝式に云はく、十一月辰日の宴会に其の飯器、参議以上は朱漆椀、五位以上は葉椀〈久保天くぼて〉にせよといふ。

葉手 漢語抄云、葉手、〈比良天、〉


葉手 漢語抄に云ふ葉手〈比良天ひらで〉。

粢餠 陸詞切韻云、粢、〈音姿、又疾脂反、漢語抄云、粢餠、之度歧、〉祭餠也、


粢餅 陸詞切韻に云はく、粢〈音は姿、又、疾脂反、漢語抄に云ふ粢餅、之度岐しとぎ〉は祭の餅なりといふ。

粿米 唐韵云、粿、〈音果、漢語抄云、粿米、加之與禰、〉淨米也、


粿米 唐韻に云はく、粿〈音は果、漢語抄に云ふ粿米、加之与禰かしよね〉は浄米なりといふ。

神酒 日本紀私記云、神酒、〈美和、〉


神酒 日本紀私記に云ふ神酒〈美和みわ〉。

糈米 離騷經注󠄁云、糈、〈私呂反、久万之禰、〉精米所󠄁以享__神也、


糈米 離騒経注に云はく、糈〈私呂反、久万之禰くましね〉は精米を神に享する所以なりといふ。

犧牲 禮記云、祭禮供犧牲、〈二音羲生、論語注、󠄁牲生曰餼、餼音氣、訓伊介邇倍、〉


犠牲 礼記に云はく、祭礼に犧牲〈二音で羲生、論語注に牲の生けるを餼と曰ひ、餼の音は気、訓は伊介邇倍いけにへ〉を供すといふ。

寳倉 漢語抄云、寳倉、〈保久良、一云神殿、〉


宝倉 漢語抄に云ふ宝倉〈保久良ほくら、一に云ふ神殿〉。

瑞籬 日本紀私記云、瑞籬、〈俗云美豆加歧、一云以賀歧、〉


瑞籬 日本紀私記に云ふ瑞籬〈俗に云ふ美豆加岐みづかき、一に云ふ以賀岐いがき〉。



文書具󠄁七十一


文書具七十一

筆 張華博󠄁󠄁物志云、蒙恬造󠄁筆、〈古文作笔、布美天、〉


筆 張華博物志に云はく、蒙恬、筆〈古文に笔に作る、布美天ふみて〉を造るといふ。

稾筆 郭知玄云、古者以稾爲筆、〈稾筆、和良不美手、〉書訖、以刀刻於板也、


稾筆 郭知玄云はく、古は稾を以て筆〈稾筆、和良不美手わらふみて〉と為し、書し訖りて刀を以て板に刻むなりといふ。

墨〈挺字附〉 蔣魴曰、墨、〈音目、須美、〉以松栢煙膠合成也、唐秘書省式云、寫書料每月大墨一挺、〈今案俗用廷字、未詳、〉


墨〈挺字付〉 蒋魴曰はく、墨〈音は目、須美すみ〉は松栢の煙を以て膠に和し合成するなりといふ。唐秘書省式に云はく、写書料は毎月、大墨一挺とせよといふ〈今案ふるに俗に廷の字を用ゐる、未だ詳かならず〉。

硯 書譜云、用硯之法、石爲第一、瓦爲第二、〈硯音五甸反、須美須利、〉


硯 書譜に云はく、硯を用ゐるの法は、石を第一と為し、瓦を第二と為す〈硯の音は五甸反、須美須利すみすり〉。

水滴器 御覽等目錄云、水滴器、〈今案、須美須理賀米、〉


水滴器 御覧等目録に云ふ水滴器〈今案ふるに須美須理賀米すみすりがめ〉。

筆臺 漢語抄云、筆臺、〈比知太伊、〉


筆台 漢語抄に云ふ筆台〈比知太伊ひちだい〉。

紙 兼名苑注󠄁云、紙、〈古文作帋、賀美、紙有色紙檀紙榖紙紙屋紙松紙河苔紙斐紙薄用紙等名、〉後漢和帝時、蔡倫所󠄁造󠄁也、


紙 兼名苑注に云はく、紙〈古文に帋に作る、賀美かみ。紙に色紙、檀紙、穀紙、紙屋紙、松紙、河苔紙、斐紙、薄用紙等の名有り〉、後漢の和帝の時、蔡倫が造る所なりといふ。

反故 齊春秋云、沈麟士字雲禎、少淸貧無紙、以飜故書寫數千卷、


反故 斉春秋に云はく、沈麟士、あざなは雲禎、をさなきより清貧にして紙無し、飜故を以て書写すること数千巻といふ。

褾帋 唐式云、染麻紙廿五張、穀紙五十張、褾帋廿張、〈褾音方小反、袖端也、見唐韵、〉


褾帋 唐式に云はく、染麻紙二十五張、穀紙五十張、褾帋二十張〈褾の音は方小反、袖の端なり、唐韻に見ゆ〉といふ。

軸 要覽云、二王暮年書勝󠄁於少、其縑素書、以珊瑚軸、紙書以金爲軸、次瑇瑁栴檀爲軸、〈直六反、見車具󠄁、〉


軸 要覧に云はく、二王の暮年の書はわかきより勝れり、其の縑素の書には珊瑚を以て軸と為し、紙書には金を以て軸と為し、次には瑇瑁、栴檀を軸〈直六反、車具に見ゆ〉と為すといふ。

帙 四聲字苑云、帙、〈直質反、字亦作袠、〉所󠄁以裹__書也、兼名苑云、一名書衣、


帙 四声字苑に云はく、帙〈直質反、字は亦、袠に作る〉は書を裹む所以なりといふ。兼名苑に云はく、一名は書衣といふ。

籖 玉篇云、籖、〈曹廉反、俗人云去聲、〉驗也、一曰銳貫也、


籖 玉篇に云はく、籖〈曹廉反、俗人に云ふ去声〉は験すなり、一は曰ふ鋭貫なりといふ。

笈 唐韻云、笈、〈音挿、又其輙反、不美波古、又用凾字、音咸、〉𧴥書箱也、風土記云、學士所󠄁以𧴥__書、狀如冠箱而卑、


笈 唐韻に云はく、笈〈音は挿、又、其輙反、不美波古ふみはこ、又、凾の字を用ゐる、音は咸〉は書を負ふ箱なりといふ。風土記に云はく、学士の書を負ふ所以はかたち、冠箱のごとくしてひきといふ。

書櫃 白氏文集云、破栢作書櫃、〈布美比都、〉


書櫃 白氏文集に云はく、栢を破り書櫃〈布美比都ふみひつ〉を作るといふ。

書案 梁簡文帝有書案銘、〈書案、俗云不美都久惠、〉


書案 梁の簡文帝に書案銘有り〈書案は俗に云ふ不美都久恵ふみづくゑ〉。

簡札 野王案、簡、〈古限反、不美太、〉所󠄁以寫書記__事者也、兼名苑云、牘、〈音讀、〉一名札、〈音察、〉簡也、


簡札 野王案ずるに、簡〈古限反、不美太ふみた〉は書を写し事を記す所以の者なりとす。兼名苑に云はく、牘〈音は読〉、一名は札〈音は察〉、簡なりといふ。

牒〈帖附〉 說文云、牒、〈徒協反、〉札長一尺二寸也、文字集略云、帖、〈音同上、〉請物䟽也、唐韻云、䟽、〈去聲、〉記䟽也、


牒〈帖付〉 説文に云はく、牒〈徒協反〉は札、長さ一尺二寸なりといふ。文字集略に云はく、帖〈音は上に同じ〉は物を請ふ疏なりといふ。唐韻に云はく、疏〈去声〉は記疏なりといふ。

牓示 孫愐切韵云、牓、〈博󠄁󠄁朗反、〉題示也、


牓示 孫愐切韻に云はく、牓〈博朗反〉は題示なりといふ

戶籍 文字集略云、籍、〈音席、和名與簡札同、〉民戶之書、古以版、今黃帋、野王案、凡書於簡札、皆謂之籍也、


戸籍 文字集略に云はく、籍〈音は席、和名は簡札と同じ〉は民戸の書、古は版を以てす、今の黄帋といふ。野王案ずるに、凡そ簡札に書するは皆、之れを籍と謂ふなりとす。

版位 唐儀制令云、諸版位、〈俗云變爲二音、〉百官一品以下、各方七寸厚一寸半󠄁、〈版字、亦作板字也、野王案、以木爲書籍、是也、〉


版位 唐儀制令に云はく、諸の版位〈俗に云ふ変為の二音〉は百官の一品以下、各方七寸、厚さ一寸半といふ〈版の字は亦、板の字に作るなり。野王案ずるに、木を以て書籍と為すは是れなりとす〉。

筭 說文云、筭、〈蘇貫反、俗音殘、〉長六寸、以計曆數也、


筭 説文に云はく、筭〈蘇貫反、俗に音は残〉は長さ六寸、以て暦数を計るなりといふ。

曆 漢書律曆志云、黃帝造󠄁曆、〈音曆、古與美、〉


暦 漢書律暦志に云はく、黄帝、暦〈音は暦、古与美こよみ〉を造るといふ。



圖繪具󠄁七十二〈野王案、圖、〈音徒、〉畫物像也、郭知玄云、畫、〈音卦、〉丹靑所󠄁圖也、釋名云、繪會五采也、〉


図絵具七十二〈野王案ずるに、図〈音は徒〉は物の像を画くなりとす。郭知玄に云はく、画〈音は卦〉は丹青にてえがく所なりといふ。釈名に云はく、絵は五采に会ふなりといふ〉

丹砂 考聲切韻云、丹砂、〈丹音都寒反、邇、〉似朱砂而不鮮明者也、


丹砂 考声切韻に云はく、丹砂〈丹の音は都寒反、〉は朱砂に似て鮮明ならざる者なりといふ。

朱砂 本草云、朱砂㝡上者謂之光明沙


朱砂 本草に云はく、朱砂の最も上なる者は之れを光明沙と謂ふといふ。

燕支 西河舊事云、焉支山出丹、〈今案、以所󠄁出山名名也、焉支煙󠄁支燕支燕脂、皆通󠄁用之、〉


燕支 西河旧事に云はく、焉支山より丹を出だすといふ〈今案ふるに、出づる所の山の名を以て名と為すなり、焉支、煙支、燕支、燕脂、皆、通じて之れを用ゐる〉。

靑黛 漢語抄云、靑黛、


青黛 漢語抄に云ふ青黛。

空靑 丹口决云、空靑、一名曾靑、


空青 丹口决に云はく、空青、一名は曽青といふ。

金靑 本草稽疑云、金靑者、空靑之㝡上也、


金青 本草稽疑に云はく、金青は空青の最上なりといふ。

白靑 蘇敬本草注󠄁云、白靑、一名魚目靑、形似魚目、故以名之、


白青 蘇敬本草注に云はく、白青、一名は魚目青、形、魚の目に似る、故に以て之れを名くといふ。

綠靑 本草云、緣靑、一名碧靑、〈綠靑、俗云祿省、〉


緑青 本草に云はく、縁青、一名は碧青といふ〈緑青は俗に云ふ禄省〉。

雌黃 兼名苑云、雌黃、一名金液、〈雌黃、俗云之王、〉山有金、其精熏則生雌黃耳、


雌黄 兼名苑に云はく、雌黄、一名は金液といふ〈雌黄は俗に云ふ之王〉。山に金有り、其の精を熏するときには雌黄を生ずるのみ。

銅黃 漢語抄云、同黃、


銅黄 漢語抄に云ふ同黄。

胡粉 張華博󠄁󠄁物志云、燒錫成胡粉


胡粉 張華博物志に云はく、錫を焼き胡粉と成すといふ。



征戰具󠄁七十三


征戦具七十三

幡〈旒附〉 考工記云、幡、〈音翻󠄁、波太、〉旌旗、〈精期二音、〉之惣名也、唐韻云、旒、〈音流、波太阿之、〉旌旗之末垂者也、


幡〈旒付〉 考工記に云はく、幡〈音は翻、波太はた〉は旌旗〈精期の二音〉の惣名なりといふ。唐韻に云はく、旒〈音は流、波太阿之はたあし〉は旌旗の末の垂るる者なりといふ。

甲 唐韻云、鎧、〈苦蓋反、與路比、〉甲也、釋名云、甲、似物之有鱗甲也、


甲 唐韻に云はく、鎧〈苦蓋反、与路比よろひ〉は甲なりといふ。釈名に云はく、甲は物の鱗甲有るに似るなりといふ。

胄 說文云、胄、〈音宙、賀布度、〉首鎧也、


胄 説文に云はく、胄〈音は宙、賀布度かぶと〉は首鎧なりといふ。

楯 兼名苑云、楯、〈食尹反、上聲之重、太天、〉一名樐、〈音魯、〉蚩尤造󠄁也、


楯 兼名苑に云はく、楯〈食尹反、上声の重、太天たて〉、一名は樐〈音は魯〉、蚩尤が造るなりといふ。

步楯 釋名云、狹而長曰步楯、〈天太天、〉步兵所󠄁持也、


歩楯 釈名に云はく、狭くして長きを歩楯〈天太天てだて〉と曰ひ、歩兵の持つ所なりといふ。

弓 四聲字苑云、弓、〈音宮、由美、〉所以遣󠄁__箭之器也、釋名云、弓末曰彇、〈音蕭、由美波數、〉中央曰弣、〈音撫、由美都賀、〉


弓 四声字苑に云はく、弓〈音は宮、由美ゆみ〉は箭を遣る所以の器なりといふ。釈名に云はく、弓の末を彇〈音は蕭、由美波数ゆみはず〉と曰ひ、中央を弣〈音は撫、由美都賀ゆみつか〉と曰ふといふ。

弩 兼名苑注󠄁云、弩、〈音怒、於保由美、〉黃帝造󠄁也、


弩 兼名苑注に云はく、弩〈音は怒、於保由美おほゆみ〉は黄帝が造るなりといふ。

角弓 尒雅注󠄁云、弭、〈亡耳反、都能由美、〉今之角弓也、


角弓 爾雅注に云はく、弭〈亡耳反、都能由美つのゆみ〉は今の角弓なりといふ。

彈弓 唐韻云、彈*原本ナシ、〈徒丹反、去聲、俗音暖󠄁宮、〉放丸弓也、文字集略云、竹弦弓、


弾弓 唐韻に云はく、弾弓〈徒丹反、去声、俗の音は暖宮〉は丸を放つ弓なりといふ。文字集略に云ふ竹弦の弓。

靫 釋名云、步人所󠄁帶曰靫、〈初牙反、由歧、〉以箭叉其中也、


靫 釈名に云はく、歩人の帯する所を靫〈初牙反、由岐ゆぎ〉と曰ひ、箭を以て其の中にすなりといふ。

箙 周󠄀禮注󠄁云、箙、〈音服、夜奈久比、唐令用胡籙二字、〉盛矢器也、唐韵云、箶簏、〈胡鹿二音、〉箭室也、


箙 周礼注に云はく、箙〈音は服、夜奈久比やなぐひ、唐令に胡籙の二字を用ゐる〉は矢をるる器なりといふ。唐韻に云はく、箶簏〈胡鹿の二音〉は箭の室なりといふ。

箭 釋名云、笶、〈音矢、夜、〉其體曰簳、〈音幹、夜賀良、〉其旁曰羽、〈去聲、〉其足曰鏑、〈音的、〉或謂之鏃、〈子毒楚角才木三反、訓夜佐岐、俗云夜之利、〉唐韵云、筈、〈古活反、夜波須、〉箭受弦處也、


箭 釈名に云はく、笶〈音は矢、〉は其の体を簳〈音は幹、夜賀良やがら〉と曰ひ、其の旁を羽〈去声〉と曰ひ、其の足を鏑〈音は的〉と曰ひ、或に之れを鏃〈子毒、楚角、才木の三反、訓は夜佐岐やさき、俗に云ふ夜之利やじり〉と謂ふといふ。唐韻に云はく、筈〈古活反、夜波須やはず〉は箭の弦を受くる処なりといふ。

征箭 唐式云、諸府衞士、人別弓一張、征箭卅隻、〈征箭、曾夜、〉


征箭 唐式に云はく、諸府の衛士は人別に弓一張、征箭三十隻といふ〈征箭は曽夜そや〉。

鳴箭 漢書音義云、鳴鏑、〈日本紀私記云、八目鏑、夜豆女加布良、〉如今之鳴箭也、


鳴箭 漢書音義に云はく、鳴鏑〈日本紀私記に云ふ八目鏑、夜豆女加布良やつめかぶら〉は今の鳴箭のごときなりといふ。

平󠄁題箭 楊雄方言云、鏃不鋭者謂之平󠄁題、〈以太都歧、〉郭璞曰、題猶頭也、今之戱射箭也、


平題箭 楊雄方言に云はく、鏃の鋭かざる者は之れを平題〈以太都岐いたづき〉と謂ふといふ。郭璞曰はく、題は猶ほ頭のごときなり、今の戯射の箭なりといふ。

刀 四聲字苑云、似劔而一刃曰刀、〈都窂反、大刀太知、小刀賀太奈、〉


刀 四声字苑に云はく、剣に似て一刃なるを刀〈都窂反、大刀は太知たち、小刀は賀太奈かたな〉と曰ふといふ。

長刀 唐令云、銀裝長刀、又云、細刀、〈之路加禰都久利乃奈加太知、細刀、保曾太知、〉


長刀 唐令に云ふ銀装の長刀、又云ふ細刀〈之路加禰都久利乃奈加太知しろかねづくりのながたち、細刀は保曽太知ほそだち〉。

短刀 兼名苑云、刺刀、〈能太知、〉短刀也、


短刀 兼名苑に云はく、刺刀〈能太知のだち〉は短刀なりといふ。

劔 四聲字苑云、似刀而兩刃曰劔、〈𦦙欠反、今案僧家所󠄁持是也、〉


剣 四声字苑に云はく、刀に似て両刃なるを剣〈挙欠反、今案ふるに僧家の持つ所は是れなり〉と曰ふといふ。

屬鏤 廣雅云、屬鏤、〈力朱反、文選󠄁讀、豆流歧、〉劔也、


属鏤 広雅に云はく、属鏤〈力朱反、文選の読みは豆流岐つるぎ〉は剣なりといふ。

鈇鉞 唐韻云、干鏚、〈音戚、〉鈇鉞、〈府越二音、万佐賀利、鈇、亦作斧、〉


鈇鉞 唐韻に云はく、干鏚〈音は戚〉は鈇鉞〈府越の二音、万佐賀利まさかり、鈇は亦、斧に作る〉といふ。

叉 六韜云、叉、〈初牙反、文選󠄁叉簇讀比之、今案、簇即鏃字也、〉兩歧䥫柄、長六尺、


叉 六韜に云はく、叉〈初牙反、文選に叉簇を比之ひしと読む。今案ふるに簇は即ち鏃の字なり〉は両岐の鉄柄、長さ六尺といふ。

戟 楊雄方言云、戟、〈几劇反、保古、〉或謂之干、或謂之戈、〈古禾反、〉


戟 楊雄方言に云はく、戟〈几劇反、保古ほこ〉は或に之れを干と謂ひ、或に之れを戈〈古禾反〉と謂ふといふ。

矛 釋名云、手戟曰矛、〈音謀、字亦作鉾、天保古、〉人所󠄁持也、


矛 釈名に云はく、手戟を矛〈音は謀、字は亦、鉾に作る、天保古てぼこ〉と曰ひ、人の持つ所なりといふ。

旝 四聲字苑云、旝、〈音膾、以之波之歧、〉建大木、置石其上、發機以投敵也、


旝 四声字苑に云はく、旝〈音は膾、以之波之岐いしはじき〉は、大木を建て、石を其の上に置き、機を発し以て敵に投ぐるなりといふ。

角 兼名苑注󠄁云、角、〈楊氏漢語抄云、大角、波良乃布江、小角、久太乃布江、〉本出胡中、或云、出吳越、以𧰼龍吟也、


角 兼名苑注に云はく、角〈楊氏漢語抄に云ふ大角は波良乃布江はらのふえ、小角は久太乃布江くだのふえ〉はもと、胡中より出づといふ。或に云はく、呉越より出で、以て龍吟に象るなりといふ。



弓劔具󠄁七十四


弓剣具七十四

檠〈揉字附〉 野王案、㯳、〈音敬、又音鯨、由美多女、〉所󠄁以正弓弩也、四聲字苑云、揉、〈人久反、字亦作煣、訓太无、〉以火屈申木也、


檠〈揉字付〉 野王案ずるに、㯳〈音は敬、又の音は鯨、由美多女ゆみだめ〉は弓弩を正す所以なりとす。四声字苑に云はく、揉〈人久反、字は亦、煣に作る、訓は太無たむ〉は火を以て木を屈めぶるなりといふ。

弦 說文云、弦、〈音與絃同、由美都流、〉弓弩弦也、


弦 説文に云はく、弦〈音は絃と同じ、由美都流ゆみづる〉は弓弩の弦なりといふ。

弓袋 說文云、韔、〈音悵、由美布久路、〉弓袋也、唐式云、弓袋、


弓袋 説文に云はく、韔〈音は悵、由美布久路ゆみぶくろ〉は弓袋なりといふ。唐式に云ふ弓袋。

弦袋 唐式云、諸府衞士弦袋、〈由美都流布久路、〉


弦袋 唐式に云はく、諸府の衛士に弦袋〈由美都流布久路ゆみづるぶくろ〉といふ。

欛 唐韻云、欛、〈音覇、太知乃都加、〉劔柄也、考工記云、劔莖、〈今案即欛也、〉人所󠄁握鐔以上也、


欛 唐韻に云はく、欛〈音は覇、太知乃都加たちのつか〉は剣の柄なりといふ。考工記に云はく、剣茎〈今案ふるに即ち欛なり〉は人の握る所、鐔以上なりといふ。

鮫皮 仁𧩑本草音義云、鮫魚皮、〈鮫音交、佐女乃加波、〉裝刀欛者也、


鮫皮 仁諝本草音義に云はく、鮫魚皮〈鮫の音は交、佐女乃加波さめのかは〉は刀欛を装ふ者なりといふ。

鐔 唐韻云、鐔、〈音尋󠄁、一音潭、都美波、〉劔鼻也、


鐔 唐韻に云はく、鐔〈音は尋、一音に潭、都美波つみは〉は剣の鼻なりといふ。

𩏪䪝 唐韻云、𩏪䪝、〈宅護二音、下音又濩、於比度利、〉佩刀把中皮也、


𩏪䪝 唐韻に云はく、𩏪䪝〈宅護の二音、下の音は又、濩、於比度利おびとり〉は佩刀の把の中皮なりといふ。

劔鞘  郭璞方言注󠄁云、鞞、〈音卑、〉劔鞘也、唐韻云、鞘、〈私妙反、佐夜、〉刀室也、


剣鞘  郭璞方言注に云はく、鞞〈音は卑〉は剣の鞘なりといふ。唐韻に云はく、鞘〈私妙反、佐夜さや〉は刀室なりといふ。

劔韜 說文云、韜、〈土刀反、太知不久路、〉劔衣也、


剣韜 説文に云はく、韜〈土刀反、太知不久路たちぶくろ〉は剣衣なりといふ。



刑罰具󠄁七十五


刑罰具七十五

笞 唐令云、笞、〈音知、之毛度、〉大頭二分、小頭一分半󠄁、


笞 唐令に云はく、笞〈音は知、之毛度しもと〉、大頭は二分、小頭は一分半といふ。

杖 唐令云、諸杖、〈音仗、都惠、〉皆削󠄁去節目、長三尺五寸許、


杖 唐令に云はく、諸杖〈音は仗、都恵つゑ〉は皆、節目を削り去り、長さは三尺五寸許といふ。

棒 蔣魴切韻云、棒、〈音蚌、字亦作㭋、俗音方、〉杖名也、


棒 蒋魴切韻に云はく、棒〈音は蚌、字は亦、㭋に作る、俗の音は方〉は杖の名なりといふ。

盤枷 唐令云、若無鉗者著盤枷、〈音加、日本紀私記云、久比加之、〉


盤枷 唐令に云はく、若し鉗無き者は盤枷〈音は加、日本紀私記に云ふ久比加之くびかし〉を著けよといふ。

鉗 漢書注󠄁云、鉗、〈奇炎反、加奈歧、〉以䥫束頸也、野王案、釱、〈徒盖反、和名同上、〉脰沓也、


鉗 漢書注に云はく、鉗〈奇炎反、加奈岐かなき〉は鉄を以て頸を束ぬるなりといふ。野王案ずるに、釱〈徒盖反、和名は上に同じ〉は脰沓なりとす。

杻 玉篇云、杻、〈漢語抄云、天加之、今案、又木名也、以音可分、杻械之杻、勑久反、杻橿之杻、女久反、〉械也、說文云、梏、〈音酷、〉手械也、


杻 玉篇に云はく、杻〈漢語抄に云ふ天加之てかし、今案ふるに、又、木の名なり。音を以て分つべし、杻械の杻は勅久反、杻橿の杻は女久反〉は械なりといふ。説文に云はく、梏〈音は酷〉は手械なりといふ。

械 四聲字苑云、械、〈胡界反、阿之賀之、〉穿木加足也、說文云、桎、〈音質、〉足械也、


械 四声字苑に云はく、械〈胡界反、阿之賀之あしかし〉は木を穿ちて足に加ふるなりといふ。説文に云はく、桎〈音は質〉は足械なりといふ。

鋜 蔣魴切韻云、鋜、〈士角反、加奈保太之、〉鏁足具󠄁也、


鋜 蒋魴切韻に云はく、鋜〈士角反、加奈保太之かなほだし〉は足をつなぐ具なりといふ。

鏁 唐韻云、鏁、〈蘇果反、日本紀私記云、加奈都賀利、〉䥫鏁也、


鏁 唐韻に云はく、鏁〈蘇果反、日本紀私記に云ふ加奈都賀利かなつがり〉は鉄鏁なりといふ。

箯輿 漢書注󠄁云、箯輿、〈上音鞭、阿美以太、〉編󠄁竹木輿也、


箯輿 漢書注に云はく、箯輿〈上の音は鞭、阿美以太あみいた〉は竹木を編み輿と為すなりといふ。

獄 四聲字苑云、獄、〈語欲反、比度夜、〉窂、罪人所󠄁也、唐韻云、囹圄、〈靈語二音、〉獄名也、


獄 四声字苑に云はく、獄〈語欲反、比度夜ひとや〉は窂、人を罪する所なりといふ。唐韻に云はく、囹圄〈霊語の二音〉は獄の名なりといふ。