先日、野田首相がハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で、TPP交渉に参加方針を表明しました。これから関係諸国と協議することになりますが、もちろん主だった交渉相手はアメリカです。

アメリカの議会は、日本を参加させるかどうかについて、3ヵ月ほどかけて討議するとしています。その前に1~2ヵ月、非公式に日本の本音を聞きだす時間が必要なようです。アメリカ議会にとって「日本が持参した手土産の審査期間」といったところでしょう。

早速、アメリカ議会の4~5人の議員が、いろいろと注文をつけ始めています。そのひとりが、民主党の上院議員、マックス・ボーカス氏です。この議員は20年ほど前、日本に対して柑橘類や牛肉の自由化、構造協議の場でも激しく要求をしてきた人で、「ああ、ボーカスさんがまた出てきた」と思いました。おそらく昔と同じパターンで要求を突きつけてくるでしょう。

しかし日本はというと、国内が交渉参加でまとまっているのでもなく、バスに乗り遅れたくないというような雰囲気も、野田さん以外あまり強くないように感じられるので、ボーカスさん、あまり読み間違えないほうがいいよ、と思っています。

一方のアメリカは、政府は日本をどうしても引っ張り込みたいという焦りがあるのに、議会のほうは日本が入りたくて焦っているのだと思っています。そのへんのすれ違いみたいなものが、双方の首脳会談のブリーフィングの食い違いにも表れて、さっそくごちゃごちゃしています。

米韓FTAを結んだ韓国も、批准の時期を迎えて議会がもめて、乱闘に至りました。日本の国会で、もし自民と民主が殴り合いをしていたら、ただでさえ評判が悪い政党政治が、さらに地に落ちるでしょう。ですから殴り合いはできませんが、日本の国会でも似たようなことが起こるかもしれません。外交交渉をするのは政府の権限です。だから総理大臣がやろうと思えば進められますが、最後は批准が必要で、そのときには国会で賛同を得なければなりません。日本では国際条約は衆議院に優先権があって、現在衆議院は民主党が多数派ですから、そのときに民主党がまとまるのかどうかです。衆議院で抵抗できないとすれば、参議院で野党が問責決議案を出す可能性があります。問責には法的拘束力がないので、内閣は批准することは可能です。しかし、問責が通ったあとの総理大臣は、深手を負った人のようにだんだん力が落ちていくものです。そのうち、アメリカが「TPPの交渉に日本が入りたいなら、遺伝子組み換え大豆はダメだなんて、バカなことを言うのはやめなさい」といわれたらどうするのでしょう? 「はい、わかりましたと」言ったら主婦が怒るでしょうね。体力の落ちた野田首相は、耐えられるでしょうか。日本の交渉力に期待するしかないですが、私は懐疑的です。今ごろ「第三の開国」などと言っていますが、すでに非農業製品の平均関税率は2・5%。農産品を加えても4・9%で、平均関税率ではすでに日本はかなり低い水準にあります。TPPが浮上する以前に、日本は開国を迫られ、開いてきたのではなかったでしょうか。