10月から11月にかけての長期間、胆のう炎を患い入院を余儀なくされていた。その病床でテレビばかり見ていたおかげで、いろいろなことを少し引いた目で見ることができた。

 そのひとつが、民主党政権の内政外交両面での苦境。これは明らかに経験不足からくる、考えられないほど初歩的な間違いの連続だったといわざるを得ない。

 今、菅内閣の大番頭である仙谷官房長官は、やらなくてもいい仕事を次から次へと引き受けて、ボロボロの様相だ。まず第一に、外務大臣である前原氏が、就任時に元気良く打ち上げた外交上のユニークすぎる政策の後始末を、国会答弁から何から、仙谷氏が全部やっている。なぜかといえば、前原・仙谷両氏はどうやら党内政治基盤が同一らしいという背景がうかがえる。だから仙谷氏は前原氏を守らなければならないのではないだろうか。官房長官が、外務大臣までやっているようなものだ。

 それから、仙谷氏は非常に能力があって決断が早い。処理も早い。だから他人がもたもたグズグズしているのを見ていられないのもあるだろう。特に外交については自分も舵取りしてみたいと思っているに違いない。外交問題について、記者会見や予算委員会の答弁で話すのを見ていると、ずいぶんと難しそうな顔をしているが、心の中ではやりがいを感じているらしいのがよく分かる。つまり、好きなのだろう。これは危ない。明らかに手を出しすぎている。

 仙谷氏の様子を見ながら、古いことを思い出した。昭和53年、大平正芳内閣が成立し、私が内閣官房副長官に任命されたときのことだ。まだ当選2回、39歳であった私に、総理就任前に内閣官房長官などを歴任し、首相官邸の権力というものに精通していた大平さんは、こう言われた。
「加藤、決して官邸にいる間は各役所の仕事に手を出すな。どの役所が処理を頼んでくる案件も、即時に各役所・大臣に突き返せ。官邸の力を使えば、解決はたやすい。官邸はそれほど強い権力だ。だからこそ、みんな頼んでくる。それを全部引き受けていては身が持たず、仕事も雑になる。突き返しているうちに、どうしても官邸で調整し決断してくれという案件だけが少数選ばれて上がってくるはずだ。それを処理するくらいが首相官邸の正副官房長官の能力と時間の限界だ。決して自分から手を出しちゃだめだよ」
 今から考えると至言であったように思う。
 仙谷氏が自分の好み、自分の自負心を抑えて、一歩も二歩も下がらない限り、政局は混乱を続けるだろう。大番頭がすべてを店先の客と渡り合っちゃいけない。
 高官自重すべし。

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加藤紘一オフィシャルサイト
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12月3日掲載「仙谷官房長官の仕事ぶりについて」より
http://www.katokoichi.org/videomsg/2010/101203_2.html