2DE-CETSAの概要
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2DE-CETSAで探索した標的蛋白質の例
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 理化学研究所(理研)と微生物化学研究所(微化研)は、作用機序が未解明の医薬品や創薬候補物質の結合相手を網羅的にスクリーニングする、新たなツールを開発した。創薬の標的蛋白質を同定しやすくなり、医薬品の研究開発に役立ちそうだ。成果はCell Chemical Biologyのオンライン版に5日(米国時間)、先行掲載された。

 理研・環境資源科学研究センターケミカルバイオロジー研究グループの永澤生久子基礎科学特別研究員らと微化研・第1生物活性研究部の川田学部長らの共同研究チームは、熱安定性の変化を見ることで、化合物と結合する標的蛋白質を探索する「2次元ゲル電気泳動-細胞サーマルシフトアッセイ(2DE-CETSA)」を構築した。グループはこれを使い、抗腫瘍性を持つ化合物の標的蛋白質の候補を同定することに成功している。

 表現型スクリーニングによって生理活性化合物は数多く見つかるが、創薬につなげるためにはその標的分子の特定が重要となる。理研のケミカルバイオロジー研究グループはこれまで、化合物ビーズを用いたプルダウン法(化合物を結合させたビーズで蛋白質を釣り上げる方法)などを独自に開発してきた。

 今回開発した2DE-CETSAは、化合物の作用で蛋白質の熱安定性が変化することを利用して、スクリーニングする方法だ。化合物が結合すると蛋白質のフォールディングなどが変化して活性が変わることがよくある。そうした構造変化を熱安定性で検知して、プロテオーム解析に利用している。

 具体的には、細胞抽出液に化合物を添加して何段階かに分けて熱処理し、Cy5で蛍光標識した上で2次元電気泳動により展開する。コントロールとして、細胞抽出液に溶媒のみを添加したものを同じように熱処理し、Cy3で標識した上で展開して比較すると、熱安定性が上昇したもの、低下したものを赤または緑の蛋白質スポットで検出できるという仕組みだ。化合物を修飾するなどの操作が必要ないため、煩雑な操作なしに候補蛋白質を同定できる。

 最近、細胞サーマルシフトアッセイ(CETSA)が多く用いられているが、標的タンパク質が未知の場合には適用できなかった。永澤研究員は「研究室では二次元電気泳動使ったプロテオーム解析などのシステムが既にあった。最近CETSAが流行っているので、少し応用できないかと考えて、二次元電気泳動によるプロテオーム解析とCETSAを組み合わせた」と話す。

 永澤研究員らは、2DE-CETSAの有用性を確かめるため、モデル化合物として抗生物質の一種ゲルダナマイシンを解析したところ、ゲルダナマイシンの標的物質であるHSP90タンパク質の熱安定性が上昇していることを示すことができた。

 次に、理研の化合物ライブラリーから、大腸癌細胞株に対する細胞増殖阻害作用を持つNPD10084の標的蛋白質の同定を試みた。その結果、NPD10084によって熱安定性が低下するスポットが5つ見つかり、ウエスタンブロットで確認したところ、5つとも解糖系の代謝酵素の1つであるPKM2であることが判明した。

 検証を進めると、NPD10084はPKM2のピルピン酸キナーゼ活性には影響を与えないが、PKM2と細胞間接着と遺伝子の転写制御に関与するβカテニンおよびシグナル伝達を担う転写因子STAT3との蛋白質間相互作用(PPI)を阻害し、下流のシグナル伝達を抑制することがわかった。ヒト大腸癌細胞株を移植した免疫不全マウスにNPD10084を投与したところ、腫瘍の増殖を抑制し、腫瘍内でもPKM2の下流シグナル伝達を阻害することを明らかにした。

 永澤研究員は「NPD10084は抗腫瘍作用があるものの、マウスの実験では5-FUに比べるとその抗腫瘍活性は低い。今後、さらに抗腫瘍活性の高い化合物の探索や、化合物の標的分子探索、作用機序の解明などに取り組みたい」と話している。